説明

ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法

【課題】一般式A1-xxMO3+δ(式中、Aは希土類元素、Bはカルシウム、ストロンチウム、バリウム、Mはマンガン、鉄、コバルト、ニッケル等でそれぞれ占められ、0<x≦1.0、-0.5≦δ≦0.5)で表される複合酸化物の製造方法、ならびに一般式A1-xxMO3+δ
のMサイトに貴金属を固溶した結晶性複合酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】Aサイトを占める元素の酸化物等と、Bサイトを占める元素の酸化物等と、Mサイトを占める元素の酸化物等とを成分とする原料を水系溶媒中で湿式混合粉砕処理することにより、上記複合酸化物の前駆体(複合水酸化物または複合酸化水酸化物)を調製し、これを加熱処理することにより、上記複合酸化物が得られる。また、上記複合酸化物の前駆体と貴金属塩とを溶媒中で混合撹拌し、生成物を500〜1300℃で熱処理することにより、上記貴金属固溶結晶性複合酸化物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性材料、触媒材料、固体酸化物形燃料電池の電極材料等として有用なA1-xxMO3+δ型複合酸化物(式中、Aは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素で占められ、Bはカルシウム、ストロンチウム、バリウムのうち少なくとも1種の元素で占められ、Mはマンガン、鉄、コバルト、ニッケルのうち少なくとも1種の元素で占められ、0<x≦1.0、−0.5≦δ≦0.5)の製造方法、およびこのA1-xxMO3+δ型複合酸化物に貴金属を固溶させる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト型構造を有する複合酸化物の製造方法としては、各サイトを占める元素の酸化物、炭酸塩等からなる原料を混合粉砕し、高温加熱により反応させる「固相法」が知られていた。しかし、長時間にわたる高温(1000℃以上)での加熱処理が必要とされる固相法では、ペロブスカイト型複合酸化物の比表面積が低下し、また、得られるペロブスカイト型複合酸化物にペロブスカイト相以外の不純物相や未反応物が多く残存するなどの問題があり、このような固相法により調製された複合酸化物粉末を使用した場合、製品(焼結体)の機械的特性、電気的特性、触媒特性等が劣ったものになるおそれがある。
【0003】
上記の固相法の改良方法としては、金属の酸化物等の原料をボールミルにより乾式混合粉砕し、ボールミルの機械的応力の作用によりペロブスカイト相への結晶化を促進させ、加熱処理なく結晶化したペロブスカイト相を得る固相法(特開2002−284531号公報:特許文献1)などが提案されている。しかし、このような方法で得られるペロブスカイト型複合酸化物はすでに結晶化しており、これに対して他の成分元素をあとから置換固溶させることは困難である。
【0004】
一方、溶液を原料とする「液相法」(共沈法、ゾル・ゲル法、アルコキシド法など)により、ペロブスカイト相に結晶化していないペロブスカイト型複合酸化物(いわゆる「前駆体」)を調製し、この前駆体を固相法よりも低い温度(800℃以下など)で熱処理することにより、結晶化したペロブスカイト型複合酸化物を製造する方法も知られている。しかし、これらの液相法には、副生物(たとえば共沈法では硝酸アンモニウム)を除去する工程が必要であったり、原料(たとえばアルコキシド法に用いられる金属アルコキシド)が高価であったりするなど、製造コストからみて工業的に不利な面がある。
【0005】
このような従来技術に対し、近年では、ペロブスカイト型複合酸化物の原料を湿式で混合粉砕する処理工程を有する、以下のような製造方法が提案されている。
特開2002−246216号公報(特許文献2)には、組成式(1−x)AO・(x/
2)R23・nFe23[式中、AはSr,Ba,PbおよびCaからなる群より選ばれ
た少なくとも1種を構成要素とし、RはLaを必須の構成要素としてさらにその他の希土類元素およびBiからなる群より選ばれた少なくとも1種を含んでいてもよく、0.05≦x≦0.35であり、5.0≦n≦6.7である。]で表される、六方晶のM型マグネトプランバイト構造を有するフェライトを主相とする酸化物磁性材料の製造方法として、Aの構成元素の炭酸塩等(SrCO3等)と、Rの構成元素の酸化物(La23等)と、
酸化第二鉄(Fe23)とを含有する原料混合粉末(湿式ボールミル等により調製)を1100〜1450℃で仮焼し、得られたフェライト仮焼体にMn(およびCo)の酸化物を添加して混合、粉砕し、900〜1450℃で再度焼結するという製造方法が開示されている(特許請求の範囲、実施例等参照)。
【0006】
特開2001−064019号公報(特許文献3)には、組成式La1-x-yEuySrx
MnO3[式中、x<0.15であり、かつy+x>0.15である。]で表されるMn
系ペロブスカイト型酸化物の製造方法として、La23、Eu23、SrCO3およびM
nOからなる原料を湿式ボールミルにより混合粉砕し、得られたスラリーを乾燥させ、一度空気中で1000℃で数時間、仮焼成し、この粉末を再度湿式ボールミルにより混合粉砕し、乾燥させた後に金型で成形し、酸素気流中で1200℃で10〜20時間焼成するという製造方法が開示されている(実施例1参照)。
【0007】
特開平04−342459号公報(特許文献4)には、組成式(Pb1-(3/2)xx)(Ti1-yy)O3[式中、AはLa、Sm、Nd、Sr、Caから選ばれる1種または2種以上、BはMn、Ni、Crからなる選ばれる1種または2種以上、0.02≦x≦0.06、0.001≦y≦0.007。]で表されるチタン酸鉛系圧電セラミックス材料の製造方法として、La23などの酸化物原料をポットミル中で48時間湿式混合し、混合後に脱水乾燥し、700〜950℃で2時間仮焼した後、再びポットミル中で48時間湿式混合し、脱水乾燥したものを造粒、成形して焼成するという製造方法が開示されている([0009]、実施例[0012]参照)。
【0008】
特開平05−249072号公報(特許文献5)には、限界電流型酸素センサーの陰極材料に用いられる組成式La(1-x)xMnO3[式中、M=Sr,Ca;0<x<1]で
表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法として、La23などの酸化物原料を混合し、1500℃で10時間空気中で焼成した後、ボールミルにより湿式粉砕して粒度を0.5〜1μmにし、得られたペロブスカイト型複合酸化物粉体とテレピン油とのペースト状混合物を陰極面に塗布して1100℃で1時間空気中で焼き付けるという製造方法が開示されている([0006]参照)。
【0009】
しかし、上記特許文献2、3および5に記載の製造方法において、1回目の比較的高温での熱処理により目的の単一組成物が作製できているかどうかは明らかではなく、2回目の熱処理により残存している不純物相を消滅させ、同時に焼結体を作製するという工程が必要である。また、上記特許文献4に記載の製造方法も、均一な粉末を合成するために、原料混合物を焼成(仮焼)した後に再度、湿式混合粉砕処理および焼成する必要があり、煩雑である。
【0010】
また、ペロブスカイト型複合酸化物の結晶格子中に、パラジウム(Pd)、ロジウム(R
h)、白金(Pt)などの貴金属を固溶させた「貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物」
は、例えば、排ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び窒素酸化物(N
Ox)を同時に浄化できる三元触媒として用いることができるなど触媒材料として重要で
ある。
【0011】
このような貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法としては、前述した液相法により得られる前駆体を用いる方法、例えば、貴金属以外の元素の金属アルコキシド(アルコキシアルコラート)の有機溶媒溶液と貴金属塩の水溶液とを混合攪拌して前駆体を生成させ、これを500〜800℃程度で焼成する「アルコキシド法」(特開平8−217461号公報:特許文献6)、貴金属以外の元素の鉱酸塩の混合水溶液に沈殿剤を添加し、前駆体の沈殿を生成させ、この沈殿にさらに貴金属塩を添加し、乾燥処理して得られる固形物を400〜700℃で熱処理する「共沈法」(特開2005−179168号公報:特許文献7)、あるいは、貴金属を含む元素の塩化物に水酸化ナトリウムを加え、乾式粉砕処理により前駆体を生成させ、この前駆体を500〜600℃で熱処理後に副生した塩化ナトリウムを水洗除去する方法(特開2005−298251号公報:特許文献8)などが知られている。
【0012】
しかし、上記貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物のアルコキシド法および共沈法に
よる製造においても、貴金属を含有しないペロブスカイト型複合酸化物のアルコキシド法および共沈法による製造の時と同じ副生成物や原料のコストなどに関する問題点が依然として存在し、また、上記乾式粉砕処理を用いる方法においても、塩化ナトリウムなどの副生物を除去する工程が必要とされるなどの問題点が見られる。
【0013】
なお、本出願人らは、一般式ABO3[式中、Aは希土類元素から選ばれる少なくとも
1種の元素で占められ、Bはマンガン、鉄、コバルトからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素で占められる。]で表わされるペロブスカイト型複合酸化物の前駆体の製造方法であって、少なくとも、Aサイトを占める元素の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物および金属単体の少なくとも1種を含有する原料と、Bサイトを占める元素の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物および金属単体の少なくとも1種を含有する原料とを、水系溶媒中で混合粉砕処理することを特徴とするペロブスカイト型複合酸化物の前駆体の製造方法、ならびにこの製造方法により得られた前駆体を熱処理することを特徴とする、結晶性ペロブスカイト相を含むペロブスカイト型複合酸化物の製造方法を、先に提案している(特開2008−007394号公報:特許文献9)。
【特許文献1】特開2002−284531号公報
【特許文献2】特開2002−246216号公報
【特許文献3】特開2001−064019号公報
【特許文献4】特開平04−342459号公報
【特許文献5】特開平05−249072号公報
【特許文献6】特開平8−217461号公報
【特許文献7】特開2005−179168号公報
【特許文献8】特開2005−298251号公報
【特許文献9】特開2008−007394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、結晶性ペロブスカイト相を含むA1-xxMO3+δ型複合酸化物の安価で効率的な製造方法、およびこのペロブスカイト型複合酸化物の貴金属固溶物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、かかる問題点を解決すべく鋭意検討を進めた結果、Aサイトを占める元素の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物のうちの少なくとも1種と、Bサイトを占める元素の酸化物、水酸化物のうちの少なくとも1種と、Mサイトを占める元素の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物、金属単体のうちの少なくとも1種とを成分とする原料を、水系溶媒中で湿式混合粉砕処理することにより、水以外の副生物を生成せずに、しかも安価で効率的に、A1-xxMO3+δ型複合酸化物の前駆体となる複合水酸化物ないし複合酸化水酸化物(以下「水和前駆体」とよぶこともある。)を得られること、そしてこの前駆体を熱処理することにより結晶性ペロブスカイト相を含むA1-xxMO3+δ型複合酸化物を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
本発明で用いる水系溶媒は水のみからなるものであることが好ましい。本発明の製造方法は、Aサイトを占める元素がY、La、Ce、Pr、Sm、Gd、Dy、Ybのうちの少なくとも1種の元素である複合酸化物を対象とする場合、特に、Aサイトを占める元素がLaであり、Bサイトを占める元素がストロンチウムであり、かつMサイトを占める元素がマンガンである複合酸化物を対象とする場合に好適である。水系溶媒中で湿式の混合粉砕処理をするに際し、原料として金属単体や低酸化数の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物を使用する場合には、酸化剤、たとえば過酸化水素水を使用することが好ましい。
【0017】
また、結晶性ペロブスカイト相を含むA1-xxMO3+δ型複合酸化物を製造するために、上記の湿式混合粉砕処理により得られた前駆体を熱処理する際の温度は、500〜1200℃が好ましく、600〜1000℃がより好ましい。
【0018】
さらに、上記前駆体を得るための湿式粉砕処理過程において、あるいは湿式粉砕処理により得られた前駆体、またはこの前駆体を500℃以下の比較的低温で熱処理して得られた、結晶性ペロブスカイト相がまだ形成されていない非晶質相を含む前駆体低温熱処理物に、貴金属塩を添加、混合したのち、酸化雰囲気中500〜1300℃の温度で熱処理することにより、貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物を製造することができる。この貴金属塩としては、貴金属の有機カルボン酸塩および/またはジケトン錯体、例えばパラジウムアセチルアセトナートを用いることが好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法に用いられる湿式混合粉砕処理は、特殊な機材や高価な原料を必要とせずに行うことができ、また水以外の副生物は発生しないため副生物の除去工程も不要である。このような湿式混合粉砕処理により得られる前駆体を、比較的低温で1回熱処理することにより、各種用途における性能の劣化を招く不純物(塩化物原料等の未反応物、副生成物、Cl等の元素など)が混在しない高品質のA1-xxMO3+δ型複合酸化物を、安価で効率的に製造することができる。また、このようなA1-xxMO3+δ型複合酸化物の前駆体の製造方法は、貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法に応用することができる点でも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の製造方法に用いられる原料や、湿式混合粉砕処理および熱処理の方法・条件等について詳細に説明する。
【0021】
1-xxMO3+δ型複合酸化物
本発明の対象となる複合酸化物は、一般式A1-xxMO3+δで表される。式中、Aは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素で占められ、Bはカルシウム、ストロンチウム、バリウムのうちの少なくとも1種の元素で占められ、Mはマンガン、鉄、コバルト、ニッケルのうちの少なくとも1種の元素で占められる。xは0<x≦1.0を満たす数である。また、δは組成(Bサイトの添加量、Mの価数変化等)や熱処理の条件(温度、雰囲気等)により変化する酸素量過剰量ないし酸素欠損量を表し、一般的には−0.5≦δ≦0.5を満たす数である。
【0022】
本発明の製造方法は、Aサイトを占める元素がY、La、Ce、Pr、Sm、Gd、Dy、Ybのうちの少なくとも1種の元素であるもの、特に、Aサイトを占める元素がLaであり、Bサイトを占める元素がストロンチウムであり、かつMサイトを占める元素がマンガンであるものなど、工業的に有用な複合酸化物を対象とする場合に好適である。
【0023】
なお、A1-xxMO3+δ型複合酸化物のAサイト、BサイトおよびMサイトは、前駆体の調製後の置換固溶などにより、上述した元素以外の元素で置換することもできる。すなわち、本発明の製造方法の適用対象は「AサイトおよびBサイトに含まれる上述の元素」と「Mサイトに含まれる上述の元素」のモル比[(A+B)/M]が1であるA1-xxMO3+δ型複合酸化物のみに限定されるものではない。
【0024】
原料
Aサイトを占める希土類元素[Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu]の原料成分としては、これら希土類元素の酸化物[A23、AO2]、水酸化物[A(OH)3、A(OH)4]、酸化水酸化物[AO(
OH)、AOOH]が挙げられる。なお、上記化合物には、結晶水を含有するもの[A23・nH2O、AO2・nH2O、A(OH)3・nH2O、A(OH)4・nH2O、nは正の数]も含まれ、また、希土類水酸化物および希土類酸化水酸化物については、不定比な希土類酸化物の水和物[A23・XH2O、AO2・XH2O、Xは任意の正の数]も含まれる。こ
れらの物質は結晶質、非晶質のどちらであっても構わない。上記のAサイトを占める希土類元素の原料成分は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0025】
Bサイトを占める元素[カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)]の原料成分としては、これらの元素の酸化物[BO]、水酸化物[B(OH)2]が
挙げられる。なお、上記化合物には結晶水を含有したもの[BO・nH2O、B(OH)2・nH2O、nは正の数]も含まれ、また、水酸化物については不定比な酸化物の水和物[
BO・XH2O、Xは任意の正の数]も含まれる。これらの物質は結晶質、非晶質のどち
らであっても構わない。上記のBサイトを占める元素の原料成分は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0026】
Mサイトを占める元素[マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)]の原料成分としては、これらの元素の酸化物[M23、MO、MnO2、M34]、水酸化物[M(OH)2、M(OH)3、M(OH)4]、酸化水酸化物[MO(OH)]、金
属単体が挙げられる。なお、上記化合物には結晶水を含有したもの[M23・nH2O、
MO2・nH2O、M34・nH2O、M(OH)2・nH2O、M(OH)3・nH2O、M(OH)4・nH2O、nは正の数]も含まれ、また、水酸化物、酸化水酸化物については不定比
な酸化物の水和物[MO・XH2O、M23・XH2O、MO2・XH2O、Xは任意の正の数]も含まれる。これらの物質は結晶質、非晶質のどちらであっても構わない。上記のMサイトを占める元素の原料成分は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0027】
M元素が2価または0価(金属単体)の原料は水系溶媒中の水と反応して酸化物、水酸化物または酸化水酸化物を形成する。これらの原料を用いる場合は、反応を促進するために、酸化剤(たとえば30%過酸化水素水(H22)水溶液が好適である。)を、酸化物、水酸化物または酸化水酸化物を形成するために必要な化学量論量の10当量程度以下添加することが好ましい。
【0028】
以上のような原料となる物質の粒径は、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、10μm以下が更に好ましい。金属や酸化物については、混合粉砕をする過程で水和ないし水酸化物化が起こり粒径が小さくなるので、それらの原料の最初の粒径が大きくても問題はない。
また、原料の各成分の配合量は、Aサイト、BサイトおよびMサイトを占める各元素の原料中の量比が、目的とする複合酸化物における量比と同程度となるようにすればよい。
【0029】
湿式混合粉砕処理
本発明における原料の湿式混合粉砕処理は、水系溶媒中で、一般的には混合粉砕機を用いて行われる。
【0030】
本発明における水系溶媒は、混合粉砕処理により水和前駆体(複合水酸化物ないし複合酸化水酸化物)を調製する際に、原料と共に粉砕容器内に入れられる溶媒(粉砕媒体)である。工業的には安価な水のみを用いることが好ましいが、水および水と相溶性のある有機溶媒を含有する混合溶媒であってもよい。
【0031】
この水系溶媒は通常、あらかじめ調製して混合粉砕処理の開始前に粉砕容器内に供給し
ておくようにするが、結晶水を含有する酸化物、水酸化物、酸化水酸化物を原料とする場合には、水と相溶性のある有機溶媒だけを粉砕容器内に供給しておき、混合粉砕の開始後に放出される結晶水と有機溶媒とからなる水系溶媒中で処理が行われるようにしてもよい。
【0032】
水と相溶性のある有機溶媒は、特に限定されるものではないが、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等)、多価アルコール類(エチレングリコール等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)などが挙げられる。これらの有機溶媒は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0033】
上記水と相溶性のある有機溶媒は、原料および湿式混合粉砕の処理条件に応じて、適切な比誘電率および粘性を有するものを採用することが望ましい。有機溶媒の比誘電率が適度な範囲であれば、水系溶媒中の粉砕処理物の分散性が高まりすぎず、粒子会合体(凝集粒子)の形成が充分なものとなり、熱処理により得られるペロブスカイト型複合酸化物の結晶性が向上する。また、有機溶媒の粘性が適度な範囲にあれば、沈降性の粒子会合体が形成され、粉砕応力がこの粒子会合体に効果的に作用するため、上記結晶性がより向上する。
【0034】
なお、水と相溶性のない有機溶剤(ベンゼン、トルエン、キシレン等)を水と混合して粉砕媒液として使用すると、混合粉砕機の内部に原料粉末が付着してしまい、混合・粉砕の処理効率が大幅に低下するおそれがあるが、そのような水と相溶性のない有機溶剤も、水と相溶性のある有機溶媒(および水)と混合して使用することは可能である。
【0035】
水系溶媒中の水の量は特に限定されるものではないが、湿式混合粉砕処理により生成する複合水酸化物もしくは複合酸化水酸化物の水和物が化学量論的組成を満たすような量以上とすることが望ましい。このようにした場合、前駆体の粒子会合体の発達が良好になり、熱処理によるペロブスカイト相への結晶化をより促進することができる。なお、前駆体の原料として用いる物質に結晶水が含まれている場合には、その結晶水の量も勘案して、最初に水系溶媒に添加しておく水の量を調整することができる。
【0036】
また、混合粉砕機は、原料に機械的に粉砕、摩砕の力が働くものであればよく、たとえば、粉砕容器内に原料と粉砕媒体(ロッド、シリンダー、ボール、ビーズ等)とを入れて撹拌することにより原料を粉砕する、転動ボールミル、振動ボールミル、撹拌ボールミル、遊星ボールミル等のボールミルが好適である。このようなボールミルを連続型にした粉砕機(たとえば、三井鉱山(株)製「SCミル」、(株)シンマルエンタープライゼス製「ダイノーミル」)や、直径1mm以下の非常に小さいボール(ビーズ)を使用できるボールミルなども推奨される。
【0037】
代表的な粉砕媒体であるボール(ビーズ)としては、直径0.1〜10mm程度の、Z
rO2(ジルコニア)、Si34(窒化ケイ素)、SiC(炭化ケイ素)、WC(タング
ステンカーバイド)、スチールなどの素材からなるものを用いることができ、たとえば、東ソー(株)製のジルコニアボール「YTZ」(登録商標)が好適である。
【0038】
湿式混合粉砕の処理条件は混合粉砕機の種類に応じて適切に調整すればよい。たとえば、遊星ボールミルを使用する場合には、容器容積100mL当たり、粉砕媒体であるボール(ビーズ)の充填量を15〜60mL、水系溶媒および原料の合計の充填量を10〜30mLとし、かつ水系溶媒と原料の混合物中の原料の濃度を2〜30体積%とすることが好ましい。また、遊星ボールミルの公転回転数は通常1〜10Hz、好ましくは4〜6H
zであり、混合粉砕の処理時間は1〜10時間が好ましい。
【0039】
熱処理
上述の湿式混合粉砕処理による生成物を濾別して乾燥することにより、A1-xxMO3+δ型複合酸化物の粉末状の水和前駆体(複合水酸化物ないし複合酸化水酸化物)が得られる。
【0040】
濾別の方法は、一般的な加圧ろ過、吸引ろ過、遠心分離等の方法から適宜選択すればよい。また乾燥の方法も通常の通風乾燥、真空乾燥等のいずれの方法であってもよい。本発明の湿式混合粉砕処理では水以外の副生物(塩類等)が生成しないため、蒸発乾固、スプレードライ等の乾燥方法も採用できる。乾燥温度は特に限定されないが50〜300℃が好ましい。
【0041】
このようにして得られた水和前駆体を熱処理(仮焼)することにより、結晶化した(全部が結晶性ペロブスカイト相であるか、あるいは一部に非晶質相、他の結晶相またはその両方が混在しているか、いずれの場合も含まれる。)A1-xxMO3+δ型複合酸化物が得られる。
【0042】
熱処理の条件(温度、時間等)は、目的とするA1-xxMO3+δ型複合酸化物の態様(結晶化率等)に応じて適宜調整することができる。たとえば熱処理の温度は、好ましくは500〜1200℃、より好ましくは600〜1000℃である。また、熱処理は大気中で行っても、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0043】
1-xxMO3+δ型複合酸化物の結晶性はX線回折図形により確認することができる。得られたA1-xxMO3+δ型複合酸化物に結晶性ペロブスカイト相が形成されている場合は、X線回折図形にそのシャープなピークが現れる。一方、比較的低温で熱処理した場合に得られる、結晶性ペロブスカイト相がまだ形成されていない(非晶質である)A1-xxMO3+δ型複合酸化物は、結晶性ペロブスカイト相の明確なピークを示さない。
【0044】
貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法
本発明では、前述したようなペロブスカイト型複合酸化物前駆体を得るための湿式粉砕処理過程において、あるいは湿式粉砕処理により得られた前駆体またはこの前駆体を500℃以下の比較的低温熱処理で得られる、結晶性ペロブスカイト相がまだ形成されていない非晶質相を含む前駆体低温熱処理物に、貴金属塩を添加、混合したのち、熱処理することにより貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物を製造することができる。
【0045】
上記前駆体あるいは非晶質相を含む前駆体低温処理物への貴金属塩の添加、混合は、乾式で混合粉砕機などを使用して行うことも可能であるが、湿式で貴金属塩を混合する方法が好ましい。例えば貴金属塩を溶解した溶媒中で撹拌混合することがより好ましい。
【0046】
上記貴金属塩としては、固溶させる貴金属それぞれの、硝酸塩、塩化物、ジニトロジアンミン硝酸塩、ヘキサアンミン塩化物およびヘキサクロロ酸水和物などの無機塩類、あるいはカルボン酸塩およびジケトン錯体などの有機塩類を用いることができる。これらPd、Rh、Ptの貴金属塩は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
前駆体あるいは非晶質相を含む前駆体低温処理物との貴金属塩との混合処理品を500〜1300℃で熱処理する場合、有機塩類の方が無機塩類に比べて温和に分解し、無機塩類使用時のような硝酸等の有害な腐食性ガスの発生もなく、クリーンな条件での製造が可能となることから、本発明では、貴金属塩としてカルボン酸塩類および/またはジケトン錯体を用いることが好ましい。
【0048】
上記カルボン酸塩としては、酢酸塩、プロピオン酸塩などが挙げられる。また、上記ジケトン錯体としては、一般式R1COCH2COR2[式中、R1及びR2は、同一でも異なっていてもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの、炭素数1〜4のアルキル基を示す。]で示されるジケ
トン化合物から形成されるPd、Rh、Ptの金属キレート錯体が挙げられる。具体的には、パラジウムアセチルアセトナート[Pd(CH3COCHCOCH3)2]、ロジウムアセ
チルアセトナート[Rh(CH3COCHCOCH3)3]、白金アセチルアセトナート[Pt(
CH3COCHCOCH3)2]などが挙げられる。
【0049】
本発明の貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、貴金属塩としてパラジウムアセチルアセトナートを使用し、パラジウム固溶ペロブスカイト型複合酸化物を製造する場合に好適に用いることができる。
【0050】
貴金属塩の添加量は、Mサイトにおける置換固溶の割合などに応じて適宜調節することが可能である。
また、貴金属塩を溶解させる溶媒は特に限定されないが、貴金属塩が無機塩類の場合は水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど、有機塩類の場合はアセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの有機溶媒が好適であり、適量を用いればよい。これらの溶媒は、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
以上のような、ペロブスカイト型複合酸化物前駆体を得るための湿式粉砕処理過程において、あるいは湿式粉砕処理により得られた前駆体またはこの前駆体の500℃以下での低温熱処理物に、貴金属塩を添加して得られる湿式混合物は、溶媒を除去し、さらに乾固、乾燥させて混合物粉末を得た後、酸化雰囲気中500〜1300℃の温度で熱処理することにより、貴金属を結晶格子中に固溶した、貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物が生成される。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は何らこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]La0.5Sr0.5MnO3+δ
(株)栗本鐵工製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に、原料粉末La235.65gとSr(OH)2・8H2O 9.22gと電解MnO26.03g、2mmφYTZ(R)ボール(東ソー(株)製)168mL、アセトン67mL、水1.88mLを
充填し、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物をろ過後、85℃で15時間の真空乾燥を行ない、La0.5Sr0.5MnO3+δの複合酸化物の水和前駆体を得た。
【0054】
上記La0.5Sr0.5MnO3+δの複合酸化物の水和前駆体を大気中700℃で1時間の熱処理をすることにより、結晶性La0.5Sr0.5MnO3+δ複合酸化物の単一相が得られた。比表面積値は19m2/gであった。図1にそのX線回折図形を示す。
【0055】
[実施例2]La0.5Sr0.5MnO3+δ
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に原料粉末La2
35.65gとSr(OH)2・8H2O 9.22gとMn235.48g、2mmφYTZ(R)ボール168mL、アセトン67mL、水1.88mLを充填し、公転及び自転回
転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物をろ過後、85℃で15時間の真空乾燥を
行ない、La0.5Sr0.5MnO3+δの複合酸化物の水和前駆体を得た。
【0056】
上記La0.5Sr0.5MnO3+δの複合酸化物の水和前駆体を大気中800℃で1時間の熱処理をすることにより、結晶性La0.5Sr0.5MnO3+δ複合酸化物の単一相が得られた。比表面積値は15m2/gであった。図2にそのX線回折図形を示す。
【0057】
[実施例3]La0.5Sr0.5CoO3+δ
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に原料粉末La2
35.55gとSr(OH)2・8H2O 9.05gとCo(OH)26.33g、2mmφ
YTZ(R)ボール168mL、アセトン67mL、水1.84mLを充填し、を充填し、
公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物をろ過後、85℃で15時間の真空乾燥を行ない、La0.5Sr0.5CoO3+δの複合酸化物の水和前駆体を得た。
【0058】
上記La0.5Sr0.5CoO3+δの複合酸化物の水和前駆体を大気中800℃で1時間の熱処理をすることにより、結晶性La0.5Sr0.5CoO3+δ複合酸化物の単一相が得られた。比表面積値は8m2/gであった。図3にそのX線回折図形を示す。
【0059】
[実施例4]La0.5Sr0.5FeO3+δ
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に原料粉末La2
35.63gとSr(OH)2・8H2O 9.18gとFe235.52g、2mmφYTZ(R)ボール168mL、アセトン67mL、水1.87mLを充填し、公転及び自転回
転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物をろ過後、85℃で15時間の真空乾燥を行ない、La0.5Sr0.5FeO3+δの複合酸化物の水和前駆体を得た。
【0060】
上記La0.5Sr0.5FeO3+δの複合酸化物の水和前駆体を大気中600℃で1時間の熱処理をすることにより、結晶性La0.5Sr0.5FeO3+δ複合酸化物の単一相が得られた。比表面積値は24m2/gであった。図4にそのX線回折図形を示す。
【0061】
[実施例5]La0.8Sr0.2MnO3+δ
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に原料粉末La2
38.44gとSr(OH)2・8H2O 3.44gと電解MnO25.63g、2mmφ
YTZ(R)ボール168mL、アセトン67mL、水4.90mLを充填し、公転及び自
転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物をろ過後、85℃で15時間の真空乾燥を行ない、La0.8Sr0.2MnO3+δの複合酸化物の水和前駆体を得た。
【0062】
上記La0.8Sr0.2MnO3+δの複合酸化物の水和前駆体を大気中700℃で1時間の熱処理をすることにより、結晶性La0.8Sr0.2MnO3+δ複合酸化物の単一相が得られた。比表面積値は14m2/gであった。図5に、La0.8Sr0.2MnO3+δの複合酸化物水和前駆体を大気中で熱処理したときの、温度に伴うX線回折図形の変化の様子を示す。
【0063】
[実施例6]Pr0.2Sr0.8MnO3+δ
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に原料粉末Pr6
112.54gとSr(OH)2・8H2O 15.85gと電解MnO26.48g、2mmφYTZ(R)ボール168mL、アセトン76mLを充填し、公転及び自転回転数6Hz
で3時間の処理を行なった。処理物をろ過後、85℃で15時間の真空乾燥を行ない、Pr0.2Sr0.8MnO3+δの複合酸化物の水和前駆体を得た。
【0064】
上記Pr0.2Sr0.8MnO3+δの複合酸化物の水和前駆体を大気中1000℃で1時間の熱処理をすることにより、結晶性Pr0.2Sr0.8MnO3+δ複合酸化物の単一相が得られた。比表面積値は12m2/gであった。図6にそのX線回折図形を示す。
【0065】
[実施例7]La0.8Ca0.2MnO3+δ
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に原料粉末La2
38.80gとCaO 0.76gと電解MnO25.87g、2mmφYTZ(R)ボール168mL、アセトン77mL、水7.30mLを充填し、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物をろ過後、85℃で15時間の真空乾燥を行ない、La0.8Ca0.2MnO3+δの複合酸化物の水和前駆体を得た。
【0066】
上記La0.8Ca0.2MnO3+δの複合酸化物の水和前駆体を大気中700℃で1時間の熱処理をすることにより、結晶性La0.8Ca0.2MnO3+δ複合酸化物の単一相が得られた。比表面積値は10m2/gであった。図7にそのX線回折図形を示す。
【0067】
[実施例8]SrMO3+δ(M=Fe、Mn、Co)
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に表1に示す割合でそれぞれ原料粉末、2mmφYTZ(R)ボール168mL、アセトン、水を充填し、公
転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物をろ過後、85℃で15時間の真空乾燥を行ない、SrFeO3+δ、SrMnO3+δおよびSrCoO3+δの複合酸化物の水和前駆体を得た。
【0068】
上記SrFeO3+δ、SrMnO3+δおよびSrCoO3+δの複合酸化物の水和前駆体を、SrFeO3+δは600℃で、SrMnO3+δおよびSrCoO3+δは700℃で大気中において1時間の熱処理を行なった。いずれも結晶性のSrFeO3+δ、SrMnO3+δおよびSrCoO3+δの複合酸化物の単一相が得られた。SrFeO3+δの比表面積値は600℃で24m2/g、700℃で13m2/g、800℃で6.1m2/gであった。SrMnO3+δの比表面積値は700℃で13m2/g、800℃で9.0m2/gであった。SrCoO3+δの比表面積値は700℃で6.5m2/g、800℃で3.5m2/gであった。図8に800℃で1時間熱処理したときのX線回折図形を示す。
【0069】
[実施例9]La0.5Sr0.5Mn0.8Ni0.23+δ
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に原料粉末La2
35.63gとSr(OH)2・8H2O9.19gと電解MnO24.81gとNi(OH)21.28g、2mmφYTZ(R)ボール168mL、アセトン67mL、水1.62mLを充填し、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物をろ過後、85℃で15時間の真空乾燥を行ない、La0.5Sr0.5Mn0.8Ni0.23+δの複合酸化物の水和前駆体を得た。
【0070】
上記La0.5Sr0.5Mn0.8Ni0.23+δの複合酸化物の水和前駆体を大気中600℃で1時間の熱処理をすることにより、結晶性La0.5Sr0.5Mn0.8Ni0.23+δ複合酸化物の単一相が得られた。比表面積値は600℃で19m2/g、700℃で19m2/g、800で17m2/gであった。図9に800℃で1時間熱処理したときのX線回折図形を示す。
【0071】
[実施例10]La0.6Sr0.40.95Pd0.053+δ(M=Fe、Mn、Co)
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に表2に示す割合でそれぞれ原料粉末、2mmφYTZ(R)ボール168mL、アセトン、水を充填し、公
転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。その後遊星ボールミル中にパラジウムアセチルアセトナート[Pd(CH3COCHCOCH3)2]を表2に示す割合でそれぞれ
添加し、更に公転及び自転回転数6Hzで20分の処理を行った。処理物は溶媒を留去して粉末を得た。得られた粉末は、85℃で15時間の真空乾燥を行ない、La0.6Sr0.4Fe0.95Pd0.053+δ、La0.6Sr0.4Mn0.95Pd0.053+δ、La0.6Sr0.4Co
0.95Pd0.053+δ、の複合酸化物の水和前駆体を得た。
【0072】
上記La0.6Sr0.40.95Pd0.053+δ(M=Fe、Mn、Co)の複合酸化物の水和前駆体を大気中800℃で1時間の熱処理をすることにより、結晶性La0.6Sr0.40.95Pd0.053+δ(M=Fe、Mn、Co)の複合酸化物の単一相が得られた。比表面積値はLa0.6Sr0.4Fe0.95Pd0.053+δが13m2/g、La0.6Sr0.4Mn0.95Pd0.053+δが17m2/g、La0.6Sr0.4Co0.95Pd0.053+δが14m2/gであった。図10にそのX線回折図形を示す。
【0073】
[実施例11]La0.6Sr0.40.95Pd0.053+δ(M=Fe、Mn、Co)
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に表2に示す割合でそれぞれ原料粉末、2mmφYTZ(R)ボール168mL、アセトン、水を充填し、公
転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物をろ過後、85℃で15時間の真空乾燥を行ない、La0.6Sr0.4Fe0.953+δ、La0.6Sr0.4Mn0.953+δ、La0.6Sr0.4Co0.953+δ、の複合酸化物の水和前駆体を得た。次いで、このLa0.6Sr0.40.953+δ(M=Fe、Mn、Co)の複合酸化物の水和前駆体にパラジウムアセチルアセトナート[Pd(CH3COCHCOCH3)2] を表2に示す割合とトルエン300gとを丸底フラスコに入れ、加熱還流下1時間の撹拌混合を行ない、その後溶媒を留去して粉末を得た。得られた粉末は80℃で12時間通風乾燥後、大気中800℃で1時間の熱処理を行ない、結晶性La0.6Sr0.40.95Pd0.053+δ(M=Fe、Mn、Co)の複合酸化物の単一相が得られた。比表面積値はLa0.6Sr0.4Fe0.95Pd0.053+δが13m2/g、La0.6Sr0.4Mn0.95Pd0.053+δが16m2/g、La0.6Sr0.4Co0.95Pd0.053+δが15m2/gであった。図11にそのX線回折図形を示す。
【0074】
[実施例12]La0.6Sr0.40.95Pd0.053+δ(M=Fe、Mn、Co)
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に表2に示す割合でそれぞれ原料粉末、2mmφYTZ(R)ボール168mL、アセトン、水を充填し、公
転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物をろ過後、85℃で15時間の真空乾燥を行ない、La0.6Sr0.4Fe0.953+δ、La0.6Sr0.4Mn0.953+δ、La0.6Sr0.4Co0.953+δ、の複合酸化物の水和前駆体を得た。このLa0.6Sr0.40.953+δ(M=Fe、Mn、Co)の複合酸化物の水和前駆体を大気中400℃で1時間の熱処理をすることによりLa0.6Sr0.40.953+δ(M=Fe、Mn、Co)の複合酸化物の非晶質相を含む粉末を得た。次いで、この粉末にパラジウムアセチルアセトナート[Pd(CH3COCHCOCH3)2]を表2に示す割合とトルエン300gとを丸底
フラスコに入れ、加熱還流下1時間の撹拌混合を行ない、その後溶媒を留去して粉末を得た。得られた粉末は80℃で12時間通風乾燥後、大気中800℃で1時間の熱処理を行ない、結晶性La0.6Sr0.40.95Pd0.053+δ(M=Fe、Mn、Co)の複合酸化物の単一相が得られた。比表面積値はLa0.6Sr0.4Fe0.95Pd0.053+δが13m2/g、La0.6Sr0.4Mn0.95Pd0.053+δが17m2/g、La0.6Sr0.4Co0.95Pd0.053+δが15m2/gであった。図12にそのX線回折図形を示す。
【0075】
[実施例13]Sr1.0Co0.95Pd0.053+δ
栗本鐵工所製遊星ボールミル(ステンレス製ポット、容積420mL)に原料粉末Sr(
OH)2・8H2O 20.24gとCo(OH)26.73g、2mmφYTZ(R)ボール168mL、アセトン75mLを充填し、を充填し、公転及び自転回転数6Hzで3時間の処理を行なった。処理物をろ過後、85℃で15時間の真空乾燥を行ない、SrCoO3+δの複合酸化物の水和前駆体を得た。次いで、このSrCo0.953+δの複合酸化物の水和前駆体にパラジウムアセチルアセトナート[Pd(CH3COCHCOCH3)2]1.168
gとトルエン300gとを丸底フラスコに入れ、加熱還流下1時間の撹拌混合を行ない、その後溶媒を留去して粉末を得た。得られた粉末は80℃で12時間通風乾燥後、大気中
800℃で1時間の熱処理を行ない、結晶性SrCo0.95Pd0.053+δの複合酸化物のほぼ単一相が得られた。6.8m2/gであった。図13にそのX線回折図形を示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1で得られた結晶性La0.5Sr0.5MnO3+δ複合酸化物のX線回折図形。
【図2】実施例2で得られた結晶性La0.5Sr0.5MnO3+δ複合酸化物のX線回折図形。
【図3】実施例3で得られた結晶性La0.5Sr0.5CoO3+δ複合酸化物のX線回折図形。
【図4】実施例4で得られた結晶性La0.5Sr0.5FeO3+δ複合酸化物のX線回折図形。
【図5】実施例5で得られた結晶性La0.8Sr0.2MnO3+δ複合酸化物のX線回折図形(加熱変化)。
【図6】実施例6で得られた結晶性Pr0.2Sr0.8MnO3+δ複合酸化物のX線回折図形。
【図7】実施例7で得られた結晶性La0.8Ca0.2MnO3+δ複合酸化物のX線回折図形。
【図8】実施例8で得られた結晶性SrMO3+δ(M=Fe、Mn、Co)複合酸化物のX線回折図形。
【図9】実施例9で得られた結晶性La0.5Sr0.5Mn0.8Ni0.23+δ複合酸化物のX線回折図形。
【図10】実施例10で得られた結晶性La0.6Sr0.40.95Pd0.053+δ(M=Fe、Mn、Co)複合酸化物のX線回折図形。
【図11】実施例11で得られた結晶性La0.6Sr0.40.95Pd0.053+δ(M=Fe、Mn、Co)複合酸化物のX線回折図形。
【図12】実施例12で得られた結晶性La0.6Sr0.40.95Pd0.053+δ(M=Fe、Mn、Co)複合酸化物のX線回折図形。
【図13】実施例13で得られた結晶性Sr1.0Co0.95Pd0.053+δ複合酸化物のX線回折図形。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式A1-xxMO3+δ(式中、Aは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素で占められ、Bはカルシウム、ストロンチウム、バリウムのうちの少なくとも1種の元素で占められ、Mはマンガン、鉄、コバルト、ニッケルのうちの少なくとも1種の元素で占められ、0<x≦1.0、−0.5≦δ≦0.5)で表される複合酸化物の前駆体の製造方法であって、
Aサイトを占める元素の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物のうちの少なくとも1種と、Bサイトを占める元素の酸化物、水酸化物のうちの少なくとも1種と、Mサイトを占める元素の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物、金属単体のうちの少なくとも1種とを成分とする原料を、水系溶媒中で湿式混合粉砕処理することにより、上記前駆体となる複合水酸化物または複合酸化水酸化物を得ることを特徴とする、A1-xxMO3+δ型複合酸化物の前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記水系溶媒が水のみであることを特徴とする、請求項1に記載のA1-xxMO3+δ型複合酸化物の前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記Aサイトを占める元素がY、La、Ce、Pr、Sm、Gd、Dy、Ybのうちの少なくとも1種の元素であることを特徴とする、請求項1に記載のA1-xxMO3+δ型複合酸化物の前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記Aサイトを占める元素がLaであり、Bサイトを占める元素がストロンチウムであり、かつMサイトを占める元素がマンガンであることを特徴とする、請求項1に記載のA1-xxMO3+δ型複合酸化物の前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記水系溶媒中で湿式の混合粉砕処理をするに際し、酸化剤を使用することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のA1-xxMO3+δ型複合酸化物の前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記酸化剤が過酸化水素水であることを特徴とする、請求項5に記載のA1-xxMO3+δ型複合酸化物の前駆体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られた前駆体を熱処理することを特徴とする、結晶性ペロブスカイト相を含むA1-xxMO3+δ型複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理の温度が500〜1200℃であることを特徴とする、請求項7に記載の結晶性ペロブスカイト相を含むA1-xxMO3+δ型複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理の温度が600〜1000℃であることを特徴とする、請求項7に記載の結晶性ペロブスカイト相を含むA1-xxMO3+δ型複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により前駆体を得るための湿式混合粉砕処理過程において貴金属塩を添加し、酸化雰囲気中500〜1300℃の温度で熱処理することを特徴とする貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られた前駆体に貴金属塩を添加し、酸化雰囲気中500〜1300℃の温度で熱処理することを特徴とする貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られた前駆体を500℃以下の温度
で熱処理後、貴金属塩を添加し、酸化雰囲気中500〜1300℃の温度で熱処理することを特徴とする貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項13】
上記貴金属塩が、貴金属の有機カルボン酸塩および/またはジケトン錯体であることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項14】
上記貴金属塩がパラジウムアセチルアセトナートであることを特徴とする請求項13に記載の貴金属固溶ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−209029(P2009−209029A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176792(P2008−176792)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】