説明

ペンタン−1,5−ジオールを用いることによる抗生物質耐性細菌の増殖阻害方法

耐性細菌の増殖阻害方法は、15重量%以上のペンタン-1,5-ジオール及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の局所投与を含む。また、対応する医薬の製造方法を開示する。多剤耐性菌で汚染された表面の殺菌方法は、15重量%以上のペンタン-1,5-ジオール及び薬学的に許容される担体を含む殺菌組成物の提供すること;当該組成物を当該表面に適用すること;場合により、当該組成物を室温で5分〜24時間の期間、当該表面に接触し続けること;及び当該表面を水又は水溶性界面活性剤組成物で濯ぐこと、を含む。また、対応する静菌組成物の使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、多剤耐性菌の増殖阻害方法及び対応する組成物の製造方法、かかる組成物及び当該組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
よく「多剤耐性」と称される、細菌の抗生物質耐性株によって起こる感染は、保険医療において主な問題である。「多剤耐性」は、対応する非耐性株に対して効果的であることが知られている少なくとも1つの抗生物質に対する耐性と理解される。この明細書の文脈では、抗生物質は、医薬の形態で人に局所投与される薬剤であり、及び組成物が、それが使用される細菌又は細菌類の代謝と特異的に相互作用する薬剤である。従って、用語「抗生物質」は、皮膚に対しても有害である非特異的抗菌作用を示す単なる殺菌剤、及び皮膚がせいぜい短時間暴露されるか又は全く暴露されないような単なる殺菌剤、例えばそれぞれクロルヘキシジン及び水溶性次亜鉛素酸塩、を排除する。
【0003】
多剤耐性菌株は、よくある抗生物質の過剰使用によって出現することが知られている。多剤耐性菌の繁殖を窮地で維持するためには、厳密な感染制御測定及び抗生物質のより限定的使用が求められる。
【0004】
最も重要な院内耐性問題は、メチシリン-耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、バンコマイシン-耐性腸球菌、及びプラスミドにコードされる広いスペクトル-ラクタマーゼを有する腸内細菌(enterobacteriacea)によって引き起こる。
【発明の開示】
【0005】
発明の目的
本発明の目的は、多剤耐性菌の増殖の阻害方法を提供することである。
【0006】
本発明の更なる目的は、そこでは、多剤耐性菌株の更なる選択の危険性がない方法を提供することである。
【0007】
本発明の追加の目的は、多剤耐性菌の増殖を阻害するための組成物の製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の更なる目的は、以下の本発明の概要、その好ましい実施態様の記載及び添付クレームから明らかであろう。
【0009】
発明の概要
本発明は、ペンタン-1,5-ジオールが多剤耐性菌に対して効果的である、という洞察に基づく。本発明者らは、15重量%以上のペンタン-1,5-ジオール、及び特定の微生物に関して、静菌作用を欠くか又はペンタン-1,5-ジオールの静菌作用の重量基準で5%未満である静菌作用を有する好適な担体を含む組成物が、多剤耐性菌に対して効果的な静菌作用を提供する、ことを見出した。これは、ペンタン-1,5-ジオール及び類似のジオールについて公知の中程度の抗菌作用の点からでさえ、全く予想外である。加えて、本発明の静菌作用が、その他の低分子脂肪族ジオール、例えばプロパン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,2-ジオール、ブタン-1,3-ジオール、ブタン-1,4-ジオール、ブタン-2,3-ジオール、2-メチルプロパン-1,2-ジオール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、2-ヒドロキシメチル-1-プロパノール、ペンタン-1,2-ジオール、ペンタン-2,3-ジオール、2-ヒドロキシメチル-1-ブタノール、2-メチルブタン-1,2-ジオール、3-メチルブタン-1,2-ジオール、2-メチルブタン-1,3-ジオール、3-メチルブタン-1,3-ジオール、2-メチルブタン-1,4-ジオール、ヘキサン-1,2-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、2-メチルペンタン-1,5-ジオール、3-メチルペンタン-1,5-ジオールと共有されると考えられる理由がある。
【0010】
ペンタン-1,5-ジオールの低急性かつ長期間毒性のため、本発明の静菌組成物は、局所投与用組成物だけでなく、他の効果的な殺菌剤と比較して、それを使用する人に全く健康上の危険性がないと見せかける殺菌剤として使用することができる。本発明の組成物の更なる利益は、細菌株に対して耐性を生じない、ことである。
【0011】
本発明の化合物は、液状、半液状もしくは固体の殺菌剤調整物、静菌溶液、ローション、クリーム、石鹸、シャンプー、軟膏、ペースト、ウェットタオル、衛生用皿、パッチ、おむつ又は類似の個人的衛生保護器具の形態をとり得る。
【0012】
好ましい実施態様では、本発明の組成物は、抗生物質、抗菌剤、防腐剤、ニキビの治療剤と併用され、及び皮膚及び粘膜の感染性疾患の治療に用いられるその他の薬剤と併用される。
【0013】
別の好ましい実施態様では、本発明の組成物はアニオン性乳化剤、例えばCetylanumを含む。
【0014】
皮膚又は粘膜への適用を意図する場合、本発明の組成物は、好ましくは1種又は複数の張力調整剤、例えば塩化ナトリウム、湿潤剤、例えばカルバミド及び乳酸、UV-吸収剤、着色剤、例えば炭酸カルシウム及び酸化亜鉛、及び香料、例えばaetheric oilを含む。本発明の組成物は、カチオン性、中性又はアニオン性界面活性剤、特に脂肪酸塩を含んでもよい。
【0015】
更に特には、本発明によれば、15重量%以上のペンタン-1,5-ジオール及び薬学的に許容される担体、例えば水溶性担体、特に水又は生理食塩水を含む医薬組成物の局所投与による、多剤耐性菌の増殖の阻害方法を開示する。医薬組成物は、好ましくはペンタン-1,5-ジオール及び薬学的に許容される担体からなる。組成物を含む織布もしくは不織布又はこれらの材料の組み合わせのパッチによる局所投与は、特に好ましい。
【0016】
本発明によればまた、多剤耐性菌の増殖を阻害するための局所投与用医薬の製造方法であって、薬学的に許容される担体への15重量%以上のペンタン-1,5-ジオールの混合を含む、製造方法を開示する。
【0017】
薬学的に許容される担体は、好ましくは、特定の微生物に関して、静菌作用をそれ自身全く有しないか又はペンタン-1,5-ジオールの静菌作用の重量基準で5%未満である静菌作用を有する。担体はまた、織布もしくは不織布又はこれらの材料の組み合わせのパッチを含むことが好ましい。担体は、好ましくは水溶性担体である。
【0018】
本発明の有利な局面によれば、15重量%以上のペンタン-1,5-ジオール及び好適な担体を含む静菌組成物の多剤耐性菌で汚染された無孔表面(金属、木材、ラッカー、プラスチック等)への適用による、多剤耐性菌の増殖の阻害方法を開示する。
【0019】
好ましくは、この静菌組成物は、ペンタン-1,5-ジオール及び他の静菌剤を基本的に含まない担体から基本的になる。当該担体は、有利には増粘剤を含む水溶性担体であることが好ましい。好ましい増粘剤はセルロース誘導体、特にメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロースから選ばれる薬剤である。本発明の更に有利な局面によれば、担体は、脂肪酸塩を含む。本発明の更なる有利な局面によれば、静菌組成物は、織布もしくは不織布又はそれらの組み合わせのパッチを含む。
【0020】
本発明によればまた、多剤耐性菌の増殖を阻害するための、15重量%以上のペンタン-1,5-ジオール及び好適な担体を含む組成物の使用を開示する。好ましくは、担体は、水溶性担体、場合によりセルロース誘導体、特にメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロースから選ばれる増粘剤を含む。担体は、有利なことに、織布もしくは不織布又はそれらの組み合わせのパッチを含んでもよい。
【0021】
本発明によれば、
−15重量%以上のペンタン-1,5-ジオール及び好適な担体を含む殺菌組成物を提供すること;
−当該組成物を当該表面に適用すること;
−場合により、当該組成物を室温で5分〜24時間の期間、当該表面に接触し続けること;及び
−当該表面を水又は水溶性界面活性剤組成物で濯ぐこと
を含む、多剤耐性菌で汚染された表面の殺菌方法を更に開示する。
【0022】
本発明を、例示に過ぎず、本発明を限定するものではない多数の好ましい実施態様を参考に説明しよう。
【0023】
好ましい実施態様の記載
実施例1 菌に対するペンタン-1,5-ジオールの阻害活性の測定
多数の菌に対するペンタン-1,5-ジオールの最小阻害濃度(MIC)は、標準血液アガー希釈法によって得た(24時間、37℃)。重量で2.5%ずつ増加させたペンタン-1,5-ジオール濃度の試料を、凝固の前に、アガーの凝固温度より高い温度で成分を混合することによって調製した。以下の菌を試験した:メシチリン-耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MSRA);フシジン酸-耐性黄色ブドウ球菌(S. aureus);非-耐性化膿性連鎖球菌(S. pyogenes);凝固-陰性ブドウ球菌(staphylococci)(耐性については、以下の表1を参照されたい);バンコマイシン-耐性腸球菌(enterococci)(Enterococcus CCUG van A及びvan B);非-耐性大腸菌(Escherichia coli);セファドロキシル、ニトロフラントイン、メシリナムに対するアシネトバクター属耐性;ほとんどの抗生物質の種類に対するセラシア属マルトフィリア(Serratia maltophilia)耐性;エンテロバクター属(Enterobacter)(耐性については、以下の表1を参照されたい;セファドロキシル及びニトロフラントインに対する追加の耐性);非-耐性α-連鎖球菌(streptococci);非-耐性連鎖球菌(Streptococcus)群G;緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(耐性については以下の表2を参照されたい)。103及び105細菌の接種材料を用いた。接種材料に大きな差は見られなかった。これは、ペンタン-1,5-ジオールの阻害効果が、一般的な大多数の抗生物質の挙動に比較した接種材料の大きさの基本的に無関係である、ことを示すものである。結果を表1及び2に示す;耐性は選択した抗生物質のみに対して示した。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
実施例2 ペンタン-1,5-ジオールの急性毒性
ペンタン-1,5-ジオールの急性毒性を経口投与及び局所投与及び吸入について試験した。
【0027】
経口投与。ペンタン-1,5-ジオールの様々な用量を、体重90〜120 gの雄性カーワース-ウィスターラットに投与した。用量を対数的に因数2だけ増やした。2週間以上の期間、LD50が5.89 g/kg体重であることが判った。試験条件として、H F Smythら, Range finding toxicity data: List VI. Ind. Hygiene J. 1962: March-April; 59-97を参照されたい。
【0028】
局所投与。ウサギ皮膚の浸透をcuff modelで試験した。4匹の体重2.5〜3.5kgの雄性ウサギの背中の体毛を剃って除き、ジオールをピペットで皮膚に適用し、皮膚を24時間ポリエチレンフィルムで覆った。試験期間中、動物を固定した。暴露後、動物を2週間の期間観察した。最高試験用量20 ml/kgでさえも、動物は生存した。
【0029】
吸入。6匹のラットに、ペンタン-1,5-ジオールで飽和した空気を8時間吸わせた。動物は全く死亡しなかった。
【0030】
実施例3
ペンタン-1,5-ジオール組成物を含む医療パッチで皮膚炎症を試験した。ミシン目のあるポリエチレンフィルムで裏打ちした5 x 5 x 1 cm (非圧縮)の大きさの殺菌医療綿パッチの前面に3 gのペンタン-1,5-ジオールを塗布し、24時間、男性のボランティアの皮膚(左腕上部)に貼布した。パッチを取り除いた時に、皮膚は炎症していないようだった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15重量%以上のペンタン-1,5-ジオール及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物の局所投与による多剤耐性菌の増殖阻害方法。
【請求項2】
前記組成物が、ペンタン-1,5-ジオール及び前記担体からなる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記投与が局所的である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記投与が、前記組成物を含む織布もしくは不織布又はそれらの組み合わせのパッチによるものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
薬学的に許容される担体中に15重量%以上のペンタン-1,5-ジオールの混合を含む、多剤耐性菌の増殖を阻害するための局所投与用医薬の製造方法。
【請求項6】
前記薬学的に許容される担体が、特定の微生物に関して、ペンタン-1,5-ジオールの静菌作用の重量基準で5%未満の静菌効果を有する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記担体が、織布もしくは不織布又はそれらの組み合わせのパッチに含まれる、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
15重量%以上のペンタン-1,5-ジオール及び好適な担体を含む静菌組成物の、多剤耐性菌によって汚染される表面への適用による、多剤耐性菌の増殖の阻害方法。
【請求項9】
前記組成物が、ペンタン-1,5-ジオール、及び他の静菌剤を基本的に含まない担体から基本的になる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記担体が水溶性担体である、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
前記水溶性担体が増粘剤を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記増粘剤が、セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロースから選ばれる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記担体が界面活性剤、特に脂肪酸塩を含む、請求項8記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が、織布もしくは非織布又はその組み合わせのパッチに含まれる、請求項8〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
多剤耐性菌の増殖を阻害するための、15重量%以上のペンタン-1,5-ジオール及び好適な担体を含む組成物の使用。
【請求項16】
前記担体が水溶性担体である、請求項15記載の使用。
【請求項17】
前記担体が、前記組成物を含む織布もしくは不織布又はそれらの組み合わせのパッチに含まれる、請求項15又は16記載の使用。
【請求項18】
多剤耐性菌で汚染された無孔表面の殺菌方法であって、
−15重量%以上のペンタン-1,5-ジオール及び好適な担体を含む殺菌組成物を提供すること;
−当該組成物を当該表面に適用すること;
−場合により、当該組成物を室温で5分〜24時間の期間、当該表面に接触し続けること;及び
−当該表面を水又は水溶性界面活性剤組成物で濯ぐこと
を含む、前記方法。

【公表番号】特表2007−521265(P2007−521265A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517050(P2006−517050)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001001
【国際公開番号】WO2004/112765
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(505454959)アンブリア ダーマトロジー アクティエボラーグ (2)
【Fターム(参考)】