説明

ペントース含有基質からの乳酸の製造

【課題】ペントース含有基質、特にキシロース含有基質からの乳酸及び/又は乳酸塩の製造方法の提供。
【解決手段】ある天然に存在する中等度に好熱性であるバチルス属を用いて、ペントース含有基質、より具体的にはキシロースを嫌気的に発酵させる、乳酸及び/又は乳酸塩の製造方法。また、中等度に好熱性であるバチルス属及び他の乳酸生産微生物の混合物を用いて発酵させる、乳酸及び/又は乳酸塩の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペントース含有基質、特にキシロース含有基質からの乳酸の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸、及びラクテートとして知られるその塩は、種々の分野、例えば医薬、生分解性ポリマー、及び食品加工において有用な工業的に発展しうる製品である。現在、乳酸はグルコース、澱粉、液化された澱粉又は蔗糖から工業的に製造されている。現在、これらの基質は乳酸の製造原価へ大きく寄与する。リグノセルロースバイオマスは、乳酸の生物学的生産のための基質として価格的に魅力的な代替品を提供する、なぜならそれは入手容易であり、競合する栄養価を有さず、澱粉又は蔗糖より安価であるからである。理論的には、微生物はバイオマスに含まれる蔗糖を乳酸へ発酵させることができる。しかし、いくつかの障害が、微生物によるこの原料の乳酸生産への有効利用を妨げる。リグノセルロース基質は、主にセルロース、ヘミセルロース、及びリグニンから構成されている。いくつかの微生物はセルロース中のグルコース成分を効率的に発酵させることはできるが、バイオマスのヘミセルロース画分中に含まれるペントース糖の転化は、より困難であることがわかっている。ヘミセルロース中の最も豊富なペントース糖は、D−キシロース、及びL−アラビノースを含む。キシロース及びアラビノースの発酵は、植物起源のバイオマスの経済的な転化の主な障害である。
【0003】
多くのヘテロ乳酸及び任意の(facultative)へテロ乳酸バクテリアは、ペントースを発酵することができる。これらの糖を発酵させるために、これらの生物により使用される代謝経路は簡単である:ペントース、例えばD−キシロース(アルドース)が細胞に入り、該細胞においてキシルロース(ケトース)に異性化され、次に1ATPを消費してリン酸エステル化されて、キシルロース−5−リン酸を与え、それが次にホスホケトラーゼ(EC4.1.2.9)によりグリセルアルデヒド−3−リン酸及びアセチルリン酸に開裂される。この代謝経路は、ホスホケトラーゼ経路として公知である(Lengeler,J. W.; G. Drews; H. G. Schlegel, 「原核生物の生物学(Biology of prokaryotes)」、1999年、Thieme出版, シュトゥットゥガルト、 ドイツ)。ホスホケトラーゼ反応において生産されるグリセルアルデヒド−3−リン酸は、エムデン−マイヤーホフ経路におけるようにピルビン酸に転化され、2ATP及び1NADHを与える(Lengeler, J. W.; G.Drews; H. G. Schlegel, 「原核生物の生物学」、1999年、 Thieme出版,シュトゥットゥガルト、 ドイツ)。ピルビン酸は最終的にNADHで乳酸に還元される。ホスホケトラーゼ反応において生産されるアセチルリン酸は、アセテートキナーゼ(EC2.7.2.1)により1ATPの生成と共にアセテートに転化される。ペントースの発酵の途中において、1NADHが生成されて、消費される。実質的なATP収率は1モルのペントース当たり2である。
【0004】
ヘテロ発酵の乳酸バクテリアはヘキソースの発酵のための似た経路を使用する。ヘキソース、例えばグルコースは最初にグルコース−6−リン酸にホスホリル化され、酸化されて6−ホスホグルコネートを与え、最終的に酸化的に脱カルボキシル化されてリブロース−5−リン酸及び二酸化炭素を与える。リブロース−5−リン酸のエピマー化は、キシルロース−5−リン酸を与え、それはホスホケトラーゼ経路に入る。ペントースの発酵と対照的に、ヘテロ発酵乳酸バクテリアによるヘキソースの発酵は過剰の還元力(3NADH)を生産し、それはアセチルリン酸をエタノールに、及びピルピン酸を乳酸に還元するために使用される。この体系においてアセチルリン酸から酢酸は生産されない、従ってヘキソースの発酵のATP収率は、ペントース発酵のそれの半分に過ぎず、即ち発酵された1モルのヘキソース当たり1ATPである。
【0005】
ペントース発酵の上の代謝経路において、酵素ホスホケトラーゼは、運命を決定する役割を果たす、なぜならペントースのCの炭素骨格を、最終的に乳酸として回収されるC部分、及び最終的に酢酸になるC部分に分裂させるのはこの酵素だからである。もちろん最高の乳酸収率に向けて調整される乳酸の生産にとって、酢酸の生成は不経済である。しかし少数の報告は、あるラクトバチルス(ラクトバチルス)属例えばラクトバチルス属MONT4はある種のペントースをほとんどもっぱら乳酸に発酵させることを示す(Barre P. , 「高温発酵するブドウワインからの高温細菌及びホモ発酵する好熱性のペントース利用乳酸桿菌の識別」(Identification of thermobacteria and homofermentative,thermophilic pentose utilizing Lactobacilli from hightemperature fermenting grape must, J. Appl. Bacteriol. 1978年,第44巻,125〜129ページ)。ラクトバチルス属MONT4において、ペントースは、トランスアルドラーゼ(EC2.2.1.2)及びトランスケトラーゼ(EC2.2.1.1)を含む代謝経路ではなく、ホスホケトラーゼを含まない経路により異化される(米国5.798.237号)。この経路はトランスアルドラーゼ/トランスケトラーゼ経路として公知である。
【0006】
しかし、この経路のペントースに対するより高い乳酸の収率は、微生物の値段にくる。ホスホケトラーゼ経路のATP収率がペントース1モル当たり2である一方、トランスアルドラーゼ/トランスケトラーゼ経路のそれはペントース3モル当たり5ATPである。この低いATP収率は、ペントース発酵のホモ乳酸パターンを有する乳酸バクテリアがなぜ相対的に稀であるかの理由の1つであり得る。ラクトバチルス属MONT4がキシロースを発酵できないことを本明細書において特筆することは工業的な観点から関連がある。最近ラクトバチルス属MONT4が、キシロースイソメラーゼ及びラクトバチルス ペントサス(Lactobacillus pentosus)からのキシルロキナーゼ遺伝子で遺伝子工学的に操作されて、この微生物にキシロースを発酵させる能力を付与した。これは米国特許第5,798,237号に記載されている。
【0007】
微生物、例えばラクトバチルス属は乳酸を生産するが、ある性質がこれらの微生物を乳酸の工業的生産に適さないものにする:ラクトバチルス属は成長促進物質だけでなく、かなりの量の有機窒素を発酵培地中に必要とし、その結果、単純な発酵培地が使用されることができるときより、ブロスはより高価になり、乳酸は精製することがより困難になる。ラクトバチルス属 MONT4を含む、さらに多くのラクトバチルス属は、低い鏡像体純度を有する乳酸を生産する(Barre P. , 「高温発酵するブドウワインからの高温細菌及びホモ発酵する好熱性のペントース利用ラクトバシリの識別」(Identification of thermobacteria and homofermentative,thermophilic pentose utilizing Lactobacilli from hightemperature fermenting grape must), J. Appl.Bacteriol. 1978年、第44巻、125〜129ページ参照のこと)。これらの欠点のない方法を提供することは、本発明の目的の1つである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
我々は、ある天然に存在する中等度に好熱性であるバチルス属はペントース、より具体的にはキシロースを嫌気的、主として鏡像体的に純粋な乳酸及び/又は乳酸塩に発酵できることを今見出した。該ペントースの転化は実質的にC化合物のみをもたらし、即ち該転化はホモ発酵経路を経て進行し、該C化合物は乳酸及び/又は乳酸塩として回収されることができる。中等度に好熱性のバチルス属は、30〜65℃の温度において成長することができるバクテリア株である。該発酵は嫌気的に行われることがさらに重要である。嫌気的発酵の場合、工程は工業スケールで容易に行われることができる、なぜなら、例えば徹底的な攪拌装置による酸素供給は必要でないからである。この例は、バチルス コアギュランス(Bacillus coagulans)及びバチルススミッチィ(Bacillus smithii)、及びそれらの遺伝子的に変性された乳酸生産属である。これらのタイプの微生物は栄養的にLactobacilliより少なく必要とする。これらのタイプの微生物の追加的な利点は、より高い成長温度(ラクトバチルス属は50℃以下の成長温度を有する)は、工業的スケールの発酵系における感染を避けることをより容易にする。従って、本発明は乳酸の製造方法において、ペントース含有基質が、嫌気的に発酵する中等度に好熱性のバチルス属によりホモ乳酸的に発酵される方法に向けられる。
【0009】
基質の選択はコスト及び乳酸及び/又は乳酸塩に発酵されるべき基質の供給に依存する。ペントースの典型的な低価格の供給はヘミセルロースからである。キシロース、アラビノース、及び他のペントースはヘミセルロース物質からスチーム及び/又は酸又はアルカリでの処理により遊離される。少量の他の糖、例えばグルコースもまたこの処理の間に分離され、中等度に好熱性のバチルス属により乳酸及び/又は乳酸塩に発酵される。
【0010】
リグノセルロース基質は、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニンの両者を含む。これらのタイプの基質は、スチーム及び/又は温和な酸又はアルカリ処理による加水分解により入手可能にされ得る。基質がセルロース物質を含むとき、セルロースは、同時に又は別個に、糖に加水分解されて、乳酸にもまた発酵され得る。ヘミセルロースは一般的にセルロースより糖に加水分解されやすいので、最初にヘミセルロース物質を予備加水分解し、可溶性のペントース糖を分離して、次にセルロースを加水分解することが好ましい。加水分解は、酵素的に(セルロースにはセルラーゼで、ヘミセルロースにはヘミセルラーゼで)、又は酸処理により化学的に行われ得る。ペントース糖及びヘキソース糖の両者は同時に又は別個に中等度に好熱性のバチルス属を用いて乳酸及び/又は乳酸塩に発酵され得る。もし所望されるならば、ヘキソースは異なる微生物により、例えばイースト、菌、又は多の公知の乳酸生産バクテリア、例えばラクトバチルス属及びペントース発酵に使用されたものとは異なるバチルス属を用いる混合培養において、乳酸及び/又は乳酸塩に発酵され得る。
【0011】
乳酸及び/又は乳酸塩を生成するための発酵条件は、自体公知であり、国際公開第01/27064号、国際公開 第99/19290号及び 国際公開第98/15517号に記載されている。従って、温度は0〜80℃の範囲であり得、pH(乳酸が生成されると下がる)は、3〜8の範囲である。5未満のpHが一般的に望ましい、なぜなら生成される乳酸の一部がその塩の形における代わりにその遊離の酸の形において存在するからである。さらに、低いpHにおいては、他の微生物による汚染のリスクがより少ない。多くの公知のタイプの装置のいずれも本発明に従う発酵に使用され得る。
【0012】
本発明に従う微生物は生物学的に純粋な培養物として使用され得るか、あるいは混合培養において他の乳酸生産菌と一緒に使用され得る。生物学的に純粋な培養は混合培養物よりも最適化することが一般的により容易であるが、混合された培養物は追加の基質を利用し得る。基質の分解を補助するために、又は乳酸生産を促進するために発酵容器に酵素を添加することもまた可能である。例えば、微生物によるグルコースの乳酸への発酵と同時に、セルラーゼがセルロースをグルコースに分解するために添加され得る。同様に、ヘミセルラーゼはヘミセルロースを分解するために添加され得る。上述されたように、該加水分解(場合により酵素によってもよい)は、発酵の前にもまた行われ得る。
【0013】
中等度に好熱性のバチルス属を含有する発酵ブロス培養物は、他の微生物による汚染に対して相対的に耐性がある。それにもかかわらず中等度に好熱性のバチルス属に添加された基質において前から存在する有害な微生物を除く又は無能にすることが好ましい。これは慣用の技術、例えば濾過、低温殺菌、及び滅菌により行われ得る。
【0014】
本発明に従う方法において使用される中等度に好熱性のバチルス属は、いわゆる化学的に定義された培地、及び定義されていない化合物、例えばイーストエキス、ペプトン、トリプトン、他の肉エキス、および複雑な窒素源を含む培地の両方において成長され得る。化学的に定義された培地が好ましい、なぜならそれは、より少ない不純物を有する乳酸及び/又は乳酸塩をもたらすからである。
【0015】
発酵後、乳酸及び/又は乳酸塩は、乳酸及び/又は乳酸塩を水性溶液から分離する多くの慣用の公知技術のいずれによっても発酵ブロスから分離される。基質の粒子又は微生物(バイオマス)は分離の効率を上げるために分離前に除去され得る。該分離は、遠心分離、濾過、凝集、浮揚、又は膜濾過により行われ得る。これは例えば国際公開第01/38283号から公知であり、該公報において発酵による乳酸の連続製造法が記載されている。
【0016】
この明細書における発酵の議論は一般的にバッチ法に関係するが、工程全体の一部又はすべてが連続的に行なわれ得る。発酵器において微生物を保持するため、発酵流動体から固体粒子を分離してもよい。又は、微生物は発酵器における保持の為、又はより容易な分離を与えるために固定化され得る。
【0017】
発酵ブロスから乳酸及び/又は乳酸塩の分離の後、生成物は1以上の精製工程、例えば抽出、蒸発、結晶化、濾過、活性炭素による処理などに付され得る。種々の残渣ストリームは、場合により処理後に、発酵容器、あるいは以前に行われた精製工程のいかなる工程にも再循環され得る。
【0018】
本発明は、さらに以下の実施例により説明されるが、該実施例は制限的であると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0019】
実施例1
中等度に好熱性のバチルス属によるペントース糖からの乳酸生成
材料及び方法
培地
ビチルススミッチィ DSM459及び460(ドイツ培養物コレクション(German culture collection)から得られたDSM株)の生育のためのイーストエキス培地は、1リットルあたり、3.5gのDAS(硫酸アンモニウム)、2gのDAP(リン酸アンモニウム)、10gのイーストエキスを含み、10gのBIS−TRIS(ビス[2−ヒドロキシ−メチル]イミノトリス[ヒドロキシメチル]メタン)により緩衝処理された。培地は、使用前にオートクレーブ殺菌された。D−リボース、D−キシロース、D−アラビノース又はグルコースが、3%の最終濃度において炭素源として使用された。炭素源は、フィルター殺菌され、別に添加された。培地のpHは、HClで6.6〜6.7に調節された。バチルスコアギュランス DSM 2314生育のためのイーストエキス培地は、B.スミッチィのために記載されたようであったが、10g/リットルの代わりに1g/リットルのイーストエキスを含んでいた。
【0020】
B.スミッチィDSM 2319及びB.コアギュランス DSM 2314の生育のための最小培地は、1リットルあたり2gのDAP,3.5gのDAS,10gのBIS−TRIS,0.5gのKCl及び15mgのMgClを含んでいた。培地のpHはHClでpH6.8に調節された。培地は、使用前にオートクレーブ殺菌された。D−リボース、D−キシロース、D−アラビノース又はグルコースが、3%の最終濃度において炭素源として使用された。炭素源、成長因子及び微量元素は、フィルター殺菌され、別に添加された。最終濃度は0.024mg/Lのビオチン、0.012mg/Lのチアミン、0.02g/Lのメチオニン、0.05g/Lのイーストエキス、100濃度は、0.024mg/Lのビオチン、0.012mg/Lのチアミン、0.02g/Lメチオニン、0.05g/Lのイーストエキス、100μLの微量元素、1g/LのCaClであった。100ml当たりに含まれる微量元素は、0.36gのFeCl,0.3gのMnCl,0.24gのCoCl,0.12gのZnClであった。
【0021】
乳酸生産のための成長条件
炭素源として10g/Lのゲルライト(ゲランガム、シグマ)を含むグルコース(5%重量/重量)を用いるイーストエキス培地上に、すべてのバクテリアが、−80のグリセロールストックから植えつけられた。プレートは46℃において24〜48時間、嫌気ジャーの中でインキュベートされた。その後、嫌気培養物は、滅菌10mlチューブ中で炭素源としてグルコースを有する(3%w/w)イーストエキス上で製造された。培養物は54℃において24時間インキュベートされた。その後、培養物の2%が、炭素源としてグルコース、キシロース、リボース、又はアラビノースを有する最小培地を含むチューブに移された。チューブは54℃において48時間インキュベートされた。新鮮な培地への2度目の移動(2%)及び54℃における48時間のインキュベーションの後、バイオマス、pH及び有機酸生産の測定のために試料採取された。バイオマス生産量を測定するために、610nmにおける光学密度が、脱ミネラル化水に対して測定された。(乳)酸生産の同定として、細胞ブロス中のpHが測定された。その後、細胞は遠心分離により採取され(10分、8000rpm)、上澄みは0.45μmのフィルターを通して濾過され、さらなる分析の為に4℃に保たれた。
【0022】
有機酸、エタノール及び糖の分析
有機酸(乳酸、酢酸、蟻酸、コハク酸)及びエタノールが誘導体化及びGLCを用いて測定された。乳酸の純度は、GLCにより測定された。
【0023】
D−及びL−乳酸塩は乳酸メチルにメチル化され、キラルカラム上でのヘッドスペース分析により測定された。
【0024】
ペントース糖は、Carbopac PA −1カラムを含むDionexタイプのDX500及び1.0ml/分の流れを用いるPAD(パルス電流検出型ED40)検出器で分析された。
【0025】
結果
B.スミッチィ及びB.コアギュランスは嫌気的に54℃においてイーストエキス及び3%(重量/重量)のアラビノース、リボース、又はキシロールを含む最小培地上で生育された(表1及び表2)。すべての株はペントース糖のホモ発酵を行い、主にL−乳酸を生産した。検出可能なレベルの酢酸は見出されなかった。生産されたL−乳酸の光学純度は96.7〜99.7%であった。他の有機酸(蟻酸、琥珀酸)及びエタノールはすべての場合において0.05%重量/重量の検出レベルより下であった。残った糖の分析は、使用された炭素源に依存する、キシロース、リボース、及びアラビノースの濃度の減少を示した(データは示されていない)
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
実施例2 B.コアギュランスDSM 2314によるキシロースのホモ乳酸発酵
材料及び方法
株、培地、及び発酵条件
使用された微生物はバチルスコアギュランスDSM2314であった。株は−80℃においてグリセロールストック中で保たれていた。反応器(3リットル、アプリコン)以下の組成、2g/LのDAP、3.5g/LのDAS,10g/LのBIS−TRIS及び0.5g/LのKClを有する1.5リットルの培地を含んでいた。
【0029】
培地を含むバイオ反応器は121℃(1.2bar)において20〜30分間オートクレーブ殺菌された。ビタミン及び微量元素の溶液が濾過滅菌され、殺菌後、別々にバイオ反応器に添加された。成長因子の最終的な濃度は、20mg/LのDLメチオニン、24mg/Lのビオチン、12mg/Lのチアミン、15mg/LのMgCl・2HO、0.1g/LのCaCl,及び1.5mlの微量元素であった。微量元素は100ml当たり、0.36gのFeCl,0.3gのMnCl,0.24gのCoCl,及び0.12gのZnClを含んでいた。D−キシロースは殺菌後、50g/Lの最終濃度まで別に添加された。培地のpHは、HClの濃縮された溶液で6.5に調節された。発酵の間、及び発酵の50時間後に達成された低いバイオマスの濃度のために、イーストエキスが10g/Lの最終濃度まで添加された。
【0030】
接種源(〜110ml)が1%のD-キシロースを含む発酵培地中で50℃において一晩成育された。接種減は2度の移動後、キシロース培地上で使用された。
【0031】
pHの維持は、20%(重量/体積(w/v))におけるKOH溶液の自動添加で達成された。発酵は、54℃、pH6.4及び250〜300rpmの攪拌速度において行われた。温度制御は、水浴Lauda E100で行われ、pHの読み取り/制御データはADI1020バイオプロセッサーにより行われた。すべてのデータ(pH及び塩基消費)はオンラインデータ取得FM V5.0により加工された。
【0032】
試料は接種の前及び後に取り出された。発酵の間、5〜30mlの試料がOD測定、細胞乾燥重量(Cell Dry Weight)(CDW)及びL(+)及びD(-)乳酸、キシロース、及び可能な副生成物(アセテート)の分析の為に定期的に取り出された。試料は遠心分離され(4〜6℃、6000〜12000rpm、5〜10分間)、上澄みは回収され、更なる分析まで−21℃において貯蔵された。
【0033】
バイオマス生産の測定
最初に秤量された0.45μmミリポアフィルターを通して乾燥物質が得られた。15〜20mlの試料が濾過され、10mlの脱ミネラル化された水で洗浄され、105℃において1〜2日乾燥された。フィルターの最終的な重さはg/Lにおける乾燥された細胞(CDW)の測定を許した。
【0034】
糖、有機酸及びエタノールの分析
試料の残渣のキシロース濃度は、Chaplin, M. F., Kennedy, J.F. (1987年)、「炭化水素分析:実際的なアプローチ」IRL出版リミテッド(ISBN 0-947946-68-3)により記載された鉄(III)オルシノールを用いて比色分析により測定された。
【0035】
(1)表3に示されたキシロース濃度がCarbopac PA-1カラムを含むDionexタイプのDX500及び1.0ml/分の流れを用いるPAD(パルス電流検出器タイプED40)検出器で分析された。
【0036】
試料のL(+)乳酸塩分析は、酵素法により行われ、該方法は、グルコースオキシダーゼによるグルコースの定量のためのBoehringerのGOD-PAP法の改良版である。L(+)乳酸オキシダーゼはL(+)乳酸をピルビン酸塩及び過酸化水素に転化する。過酸化水素は、ペルオキシダーゼの存在下4−アミノフェナゾン及びフェノールと反応して、540nmにおいて分光学器において測定されることができる水溶性の赤に着色された生成物を生成する。
【0037】
表3に示されたように有機酸(乳酸、酢酸、蟻酸、琥珀酸)及びエタノールが誘導体化及びGLCを用いて測定された。乳酸の光学純度はGLCにより測定された。D−及びL−乳酸塩は乳酸メチルにメチル化され、キラルなカラム上でヘッドスペース分析により測定された。
【0038】
結果
株バチルスコアギュランス DSM 2314が、3リットルの発酵器(図1)で54℃において最小培地において50g/Lのキシロース上で成育された。発酵の間、発酵の50時間後に達成された低いバイオマス濃度のために、イーストエキスが10g/Lの最終濃度まで添加された。
【0039】
およそ105時間後、キシロースが培地から使い果たされ、主に乳酸に転化され(35g/L)、酢酸の濃度は低くかった(1g/L)(表3)。生産された乳酸の光学純度は、99%であった。他の有機酸の生産はすべて検出レベルより下であった。
【0040】
結果は、B.コアギュランスの能力が、ペントース糖上でホモ発酵的な乳酸発酵を行うことができることを示す。キシロース上での最適化されていない発酵におけるB.コアギュランスによる最大乳酸生産速度は、オンラインデータ取得ソフトウェアにより観察されたところ1.7g/L/時であった。
【0041】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸及び/又は乳酸塩の製法方法において、ペントース含有基質が、嫌気的に発酵する、中等度に好熱性のバチルス属によりホモ乳酸的に発酵される方法。
【請求項2】
ペントース含有基質がキシロースを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
中等度に好熱性のバチルス属がバチルスコアギュランス及び/又はバチルススミッチィから選択される、請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
ペントース含有基質がアラビノースを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
基質がグルコースを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
発酵が、中等度に好熱性のバチルス属及び他の乳酸生産微生物の混合物により行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
生成された乳酸及び/又は乳酸塩が発酵ブロスから分離される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
中等度に好熱性のバチルス属が化学的に定義された培地上で成育される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
発酵ブロスからの乳酸及び/又は乳酸塩の分離の前に、バイオマスが発酵ブロスから除去される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
生産された乳酸及び/又は乳酸塩が、発酵ブロスからの分離の後に1以上の精製工程に付される、請求項8〜9のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2011−4764(P2011−4764A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202917(P2010−202917)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【分割の表示】特願2006−500112(P2006−500112)の分割
【原出願日】平成16年1月12日(2004.1.12)
【出願人】(306003419)ピュラック バイオケム ビー.ブイ. (40)
【Fターム(参考)】