説明

ペーストの評価装置及び評価方法

【課題】ペーストの分散状態を精度良く評価することができるペーストの評価方法及び評価装置を提供すること。
【解決手段】ペーストの評価方法において、ペーストに印加する電圧の周波数を第1の周波数に固定してペーストの直流抵抗を計測する直流抵抗計測工程(S2,S3)と、ペーストに印加する電圧の周波数を第1の周波数よりも低い第2の周波数域で変化させながらペーストの交流抵抗を計測していく交流抵抗計測工程(S12,S13)と、直流抵抗と交流抵抗とに基づき、ペーストの電気二重層抵抗を算出する電気二重層抵抗算出工程(S4)と、直流抵抗及び電気二重層抵抗と、基準となるペーストの直流抵抗及び電気二重層抵抗とを比較することにより、ペーストの分散状態の良否判定を行う良否判定工程(S5,S6)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極表面に塗工される電極材料である導電性ペーストの分散状態の良否を評価する評価装置及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハイブリッド自動車などには、二次電池が搭載されている。二次電池の電極は、アルミ箔(正極側)や銅箔(負極側)などの金属箔の表面に、導電性ペーストを塗工して形成されている。この電極材料である導電性ペーストには、リチウムイオンを格納する活物質や、電子の通り道となるカーボン、活物質とカーボンとを結着させるバインダ、材料を溶かして一様に分散させる有機溶剤などが含まれている。
【0003】
こうした二次電池では、電極表面に塗工された導電性ペーストの品質(分散状態)が悪いと、電極表面における反応性が低下して電池性能が低下してしまう。そのため、二次電池の製造工程において、導電性ペーストの状態を評価する必要がある。
【0004】
そして、導電性ペーストの評価方法として、例えば特許文献1には、混練したペースト状の電極材料を、略平行に対向配置された一対の導電性計測用の電極を付けたレオメータにて、粘度と導電性能の計測を行うことが開示されている。なお、粘度計にはパラレルプレート又はコーンプレートを用いている。このような方法により、導電性ペーストを乾燥させて試験片を作製することなく、直接導電性ペーストの導電性能を測定することができ、さらに測定における補正値や分極の影響を排除できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−115747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した測定技術では、電極材料である導電性ペーストの粘度と導電性能を測定しているため、その導電性ペーストが要求されている電池性能を満たすものであるか否かを判断することができないという問題があった。
なぜなら、電池性能の良否は、図12に示すように、導電性(電気を流す道筋の出来具合)と界面(電解液との反応面)の大きさが判れば判定することができる。そのため、電池性能の良否を判定するには、導電性と界面の大きさを評価(つまり、分散状態を評価)することが必要となる。ところが、上記した測定技術では、導電性を評価することはできるが、界面の大きさを評価することができず、導電性ペーストの分散状態の良否を判断することができないからである。
【0007】
ここで、上記した測定技術では、界面の代替値として粘度を測定している。しかしながら、図13に示すように、粘度と電池性能の相関が低く、要求された電池性能を満たす電極材料であるか否かを判断することができない。
【0008】
また、上記した測定技術では、回転式粘度計測装置(レオメータ)を改良して使用している。そして、レオメータは回転平板間の距離が非常に狭く、構造的に連続計測が不可能であるため、オフライン測定で測定対象の一部を抜き取り測定している。その結果、歩留まりが悪くなる、稼働率が悪くなる、異常の発見が遅れるといった問題もあった。
【0009】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、ペーストの分散状態を精度良く評価することができるペーストの評価方法及び評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、電気二重層抵抗成分を持つペーストの分散状態を評価するためのペーストの評価方法において、前記ペーストに印加する電圧の周波数を第1の周波数に固定して前記ペーストの直流抵抗を計測する直流抵抗計測工程と、前記ペーストに印加する電圧の周波数を第1の周波数よりも低い第2の周波数域で変化させながら前記ペーストの交流抵抗を計測していく交流抵抗計測工程と、前記直流抵抗と前記交流抵抗とに基づき、前記ペーストの電気二重層抵抗を算出する電気二重層抵抗算出工程と、前記直流抵抗及び前記電気二重層抵抗と、基準となるペーストの直流抵抗及び電気二重層抵抗とを比較することにより、前記ペーストの分散状態の良否判定を行う良否判定工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
なお、第1の周波数は、数MHz程度の高周波数であり、第2の周波数は、数千Hz〜数Hz程度の低周波数である。また、基準となるペーストとは、要求されている電池性能を満たすことができる(良好な電池性能を得ることができる)ペーストを意味する。
【0012】
このペーストの評価方法では、直流抵抗計測工程にてペーストの直流抵抗が計測される。また、交流抵抗計測工程にてペーストの交流抵抗が計測される。
【0013】
具体的には、前記直流抵抗計測工程では、周波数を1MHzに固定して前記ペーストの直流抵抗を計測し、前記交流抵抗計測工程では、周波数を1000Hzから10Hzにスイープさせて前記ペーストの交流抵抗を計測すれば良い。
【0014】
これにより、ペーストの直流抵抗及び交流抵抗を精度良く計測することができるからである。そして、このような計測により、ペーストの交流インピーダンスを複素平面表示(コールコールプロット)することができる。
【0015】
そして、電気二重層抵抗算出工程にて、計測された直流抵抗と交流抵抗とに基づき、ペーストの電気二重層抵抗が算出される。
具体的に、前記二重層抵抗算出工程では、前記交流抵抗の極値から前記直流抵抗を減算して前記ペーストの電気二重層抵抗を算出すれば良い。
すなわち、交流抵抗の虚数成分(コールコールプロットにおけるZ”)の極限(極値)を求め、その極限における実数成分(コールコールプロットにおけるZ’)から直流抵抗を減算することにより、電気二重層抵抗を算出することができる。
【0016】
その後、良否判定工程にて、計測された直流抵抗及び電気二重層抵抗と、基準となるペーストの直流抵抗及び電気二重層抵抗とが比較されて、ペーストの分散状態の良否判定が行われる。このように良否判定を行うことができるのは、以下の理由による。すなわち、直流抵抗が粒子の繋がり(導電性)、電気二重層抵抗が粒子と液体の界面の大きさを示すことから、分散状態の違いにより、直流抵抗、電気二重層抵抗が変化する。そのため、算出したペーストの直流抵抗及び電気二重層抵抗を、それぞれの基準値と比較することにより、ペーストの分散状態の良否を判定することができるのである。
例えば、良否判定は、直流抵抗が基準値に対して±3%以内、電気二重層抵抗が基準値に対して±10%以内であれば、ペーストの分散状態が良好であると判定するようにすれば良い。
【0017】
このようにして、このペーストの評価方法では、周波数の異なる(高周波と低周波における)ペーストの抵抗を計測し、基準となるペーストの抵抗と比較することにより、ペーストの分散状態を簡易に精度良く評価することができる。
【0018】
そして、上記したペーストの評価方法において、前記直流抵抗計測工程における抵抗計測と前記交流抵抗計測工程における抵抗計測とを並行して行うことが望ましい。
【0019】
このように、直流抵抗計測工程における抵抗計測と交流抵抗計測工程における抵抗計測とを並行して行う、言い換えると同時に行うことにより、ペーストの同じ箇所における直流抵抗と交流抵抗を確実に計測することができる。これにより、ペーストの電気二重層抵抗を精度良く算出することができる。その結果として、短時間でペーストの分散状態を精度良く評価することができ、インライン評価を実施することができる。
【0020】
また、上記課題を解決するためになされた本発明の別態様は、電気二重層抵抗成分を持つペーストの分散状態を評価するためのペーストの評価装置において、前記ペーストに周波数を第1の周波数に固定して電圧を印加するために対向配置された第1印加電極と、前記ペーストに周波数を第1の周波数よりも低い第2の周波数域で変化させながら電圧を印加するために対向配置された第2印加電極と、前記第1印加電極に接続され、前記ペーストの直流抵抗を計測する第1抵抗計測部と、前記第2印加電極に接続され、前記ペーストの交流抵抗を計測する第2抵抗計測部と、前記直流抵抗と前記交流抵抗とに基づき、前記ペーストの電気二重層抵抗を算出する演算部と、を有し、前記演算部は、前記直流抵抗及び前記電気二重層抵抗と、基準となるペーストの直流抵抗及び電気二重層抵抗とを比較することにより、前記ペーストの分散状態の良否判定を行うことを特徴とする。
なお、第1の周波数は、数MHz程度の高周波数であり、第2の周波数は、数千Hz〜数Hz程度の低周波数である。
【0021】
このペーストの評価装置では、第1印加電極により、ペーストに対し周波数を第1の周波数(高周波数)に固定して電圧が印加され、第1抵抗計測部にてペーストの直流抵抗が計測される。また、第2印加電極により、ペーストに対し周波数を第2の周波数域(低周波数域)で変化させながら電圧が印加され、第2抵抗計測部にてペーストの交流抵抗が計測される。
【0022】
このとき、前記第1抵抗計測部は、周波数を1MHzに固定して前記ペーストの直流抵抗を計測し、前記第2抵抗計測部は、周波数を1000Hzから10Hzにスイープさせて前記ペーストの交流抵抗を計測すれば良い。
【0023】
これにより、ペーストの直流抵抗及び交流抵抗を精度良く計測することができるからである。そして、このような計測により、ペーストの交流インピーダンスを複素平面表示(コールコールプロット)することができる。
【0024】
そして、演算部において、計測された直流抵抗と交流抵抗とに基づき、ペーストの電気二重層抵抗が算出される。
具体的には、前記演算部は、前記交流抵抗の極値から前記直流抵抗を減算して前記ペーストの電気二重層抵抗を算出すれば良い。
すなわち、交流抵抗の虚数成分(コールコールプロットにおけるZ”)の極限を求め、その極限における実数成分(コールコールプロットにおけるZ’)から直流抵抗を減算することにより、電気二重層抵抗を算出することができる。
【0025】
その後、演算部において、計測された直流抵抗及び電気二重層抵抗と、基準となるペーストの直流抵抗及び電気二重層抵抗とが比較されて、ペーストの分散状態の良否判定が行われる。例えば、演算部における良否判定は、直流抵抗が基準値に対して±3%以内、電気二重層抵抗が基準値に対して±10%以内であれば、ペーストの分散状態が良好であると判定するようにすれば良い。
【0026】
このようにして、このペーストの評価装置では、周波数の異なる(高周波と低周波における)ペーストの抵抗を計測し、基準となるペーストの抵抗と比較することにより、ペーストの分散状態を簡易に精度良く評価することができる。
【0027】
そして、上記したペーストの評価装置において、前記第1印加電極と前記第2印加電極とが、互いに直交するように配置されていることが望ましい。
なお、電極が互いに直交するとは、対向配置された第1印加電極を結ぶ線分と対向配置された第2印加電極を結ぶ線分とが直交することを意味する。
【0028】
このように、第1印加電極と前記第2印加電極とを配置することにより、互いの印加電圧が影響を及ぼすことなく、ペーストの同じ箇所における直流抵抗と交流抵抗を同時に計測することができる。これにより、ペーストの電気二重層抵抗を精度良く算出することができる。その結果として、短時間でペーストの分散状態を精度良く評価することができ、インライン評価を実施することができる。
【0029】
また、上記したペーストの評価装置において、前記第1印加電極と前記第2印加電極とが、混練装置から排出され電極表面に塗工されるまでにペーストが通過する配管のいずれかに配置されていることが望ましい。
【0030】
このように、第1印加電極と第2印加電極とが、混練装置から排出され電極表面に塗工されるまでにペーストが通過する配管のいずれか、例えば、混練装置と塗工装置を接続する配管や塗工装置の出口付近に配置されている配管などに配置されていることにより、電極の製造工程(ペーストの塗工工程)において、リアルタイムでペーストの分散状態の良否を判定することができる。その結果、歩留まり及び稼働率の向上、異常の早期に発見することができる。
【0031】
あるいは、上記したペーストの評価装置において、前記第1印加電極と前記第2印加電極とが、循環型連続混練装置の循環配管に配置されていることも好ましい。
【0032】
このように、第1印加電極と第2印加電極とが、循環型連続混練装置の循環配管に配置されていることにより、混練装置におけるペーストの分散状態をモニタリングすることができる。従って、分散状態が良好となった時点で混練を終了して塗工装置に送り出すことにより、良好な分散状態のペーストを金属泊の表面に塗工することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係るペーストの評価方法及び評価装置によれば、上記した通り、ペーストの分散状態を精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施の形態に係るペースト評価装置を示す全体構成図である。
【図2】印加電極の配置位置を示す図である。
【図3】ペーストの分散状態の解析アルゴリズムを示すフローチャートである。
【図4】ペーストの交流インピーダンスのコールコールプロットの一例を示す図である。
【図5】循環型連続混練装置が使用される場合に本発明のペースト評価装置を適用した装置の全体構成図である。
【図6】図5に示す装置におけるペースト混練動作の制御内容を示すフローチャートである。
【図7】印加電極を直交配置しない配置パターンを示す図である。
【図8】印加電極を配管長手方向においてずらして配置した配置パターンを示す図である。
【図9】図8に示す印加電極の配置を配管の軸方向から見た図である。
【図10】印加電極に入力する交流電圧の信号の一例を示す図である。
【図11】配管に1組の印加電極を設ける場合における印加電極の配置位置を示す図である。
【図12】ペーストの分散状態と電池性能との関係を示す図である。
【図13】ペーストの粘度と電池性能との関係を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明のペーストの評価方法及び評価装置を具体化した実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。ここでは、ハイブリッド自動車に搭載されるリチウムイオン二次電池の製造工程において、電極表面に塗工される導電性ペーストの分散状態を評価するために本発明を適用した場合を例示する。
【0036】
まず、本実施の形態に係るペースト評価装置の全体構成について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、実施の形態に係るペースト評価装置を示す全体構成図である。図2は、印加電極の配置位置を示す図である。
図1に示すように、ペースト評価装置10は、評価対象とするペーストPが通過する配管11と、配管11内のペーストPの交流インピーダンスZを測定するための測定部(21,22,23,31,32,33,40)とを備えている。
【0037】
ペーストPは、リチウムイオン二次電池の電極表面に塗工されるものである。すなわち、正極側の電極は、アルミ箔の表面にペーストPを塗工して形成されている。一方、負極側の電極は、銅箔の表面にペーストPを塗工して形成されている。そして、ペーストPは、リチウムイオンを格納する活物質、電子の通り道となるカーボン、活物質とカーボンとを結着させるバインダ、材料を溶かして一様に分散させる有機溶剤などを含み構成されている。なお、ペースト成分のうち、活物質は誘導性挙動を示し、カーボンは導電性挙動を示し、バインダは誘導性挙動を示し、有機溶剤は誘導性挙動を示すものである。
【0038】
配管11は、円筒形状をなしており、印加電極21,22,31,32を取り付けるための貫通孔が形成されている。この配管11の材料として、耐食性のある樹脂を使用している。ペーストPには、有機溶剤が含まれているからである。そして、ペーストPの揮発、吸湿を防止するため、配管11の両端は他の部分と密封性が確保された状態で接続される。
【0039】
測定部(21,22,23,31,32,33,40)は、ペーストPの直流抵抗を計測するための第1測定部(21,22,23)と、ペーストPの交流抵抗を計測するための第2測定部(31,32,33)と、第1測定部と第2測定部との各測定値に基づいてペーストPの分散状態の解析を行う解析部(演算部)40とを有している。
第1測定部(21,22,23)には、ペーストPに電圧を印加するために対向配置された一対の第1印加電極21,22と、第1印加電極21,22に周波数を第1の周波数(1MHzの高周波数)に固定した電圧を印加し、そのときのペーストPの抵抗(直流抵抗)を計測する第1抵抗計測部23とが備わっている。同様に、第2測定部(31,32,33)には、ペーストPに電圧を印加するために対向配置された一対の第2印加電極31,32と、第2印加電極31,32に周波数を第2の周波数域(1000Hz〜10Hzの低周波数域)で連続的に変化させながら電圧を印加し、そのときのペーストPの抵抗(交流抵抗)を計測する第2抵抗計測部33とが備わっている。そして、第1抵抗計測部23及び第2抵抗計測部33が、それぞれ解析部40に接続されており、第1抵抗計測部23及び第2抵抗計測部33の各計測値が解析部40へ出力入力されるようになっている。なお、本実施の形態では、解析部40として、パーソナルコンピュータを使用している。
【0040】
ここで、第1印加電極21,22と第2印加電極31,32とは、図2に示すように、配管11の長手方向(ペーストPが流れる方向)において同じ位置(配管11の同一断面)に配置されている。そして、第1印加電極21,22と第2印加電極31,32とが、図1に示すように、互いに直交するように配置されている。つまり、印加電極21,31,22,32が90度間隔で配置されている。このような印加電極の配置により、互いの印加電圧が影響を及ぼすことなく、ペーストPの同じ箇所において、周波数の異なる抵抗(直流抵抗と交流抵抗)を同時に計測することができる。これにより、ペーストPの電気二重層抵抗を精度良く算出することができる。その結果として、短時間でペーストPの分散状態を精度良く評価することができ、インライン評価を実施することができるようになっている。
【0041】
各印加電極21,22,31,32は、ペーストPとの接触抵抗を低減するため、SUS材に金メッキが施されて形成されている。これらの印加電極21,22,31,32は、円柱形状をなしており、配管11に形成された貫通孔内に収容されて配置されている。そして、第1印加電極21,22が第1抵抗計測部23に接続され、第2印加電極31,32が第2抵抗計測部33に接続されている。
【0042】
第1抵抗計測部23及び第2抵抗計測部33は、周波数応答分析器としての機能を備えており、出力可能な周波数領域が0.1Hz〜50MHzとなっている。そして、第1抵抗計測部23は、第1印加電極21,22に対して1MHzの電圧を印加するようになっている。一方、第2抵抗計測部33は、第2印加電極31,32に対して1000Hz〜10Hzに周波数を連続的に変化(スイープ)させながら電圧を印加するようになっている。このとき、第1抵抗計測部23及び第2抵抗計測部33では、それぞれそのときの電流値及び位相遅れが計測される。これらの計測値は、解析部40に入力され、解析部40に備わる解析アルゴリズムによってペーストPの分散状態が解析されるようになっている。
【0043】
続いて、本実施の形態に係るペースト評価方法について、図3及び図4を参照しながら説明する。このペースト評価方法は、上記したペースト評価装置10を用いて以下のように、図3に示す手順に従って行う。図3は、ペーストの分散状態の解析アルゴリズムを示すフローチャートである。図4は、ペーストの交流インピーダンスのコールコールプロットの一例を示す図である。
【0044】
まず、評価対象となるペーストPを配管11内に流す(ステップS1)。具体的には、混練装置と塗工装置を接続するパイプの一部に配管11を配置、あるいは塗工装置内においてペーストが排出される排出口に接続するパイプの一部に配管11を配置して、電極表面にペーストPを塗工することにより、ペーストPを配管11に流すことができる。従って、評価対象となるペーストPは、混練工程後であって塗工工程の直前のものとなる。そのため、ペーストP内の活物質やカーボン等が重力沈降により下方に偏り、部分的にペーストPの成分が異なった状態での評価を回避することができ、実際に電極表面に塗工するペーストPの分散状態をより正確に判定することができる。また、上記のように配管11を配置することにより、電極の製造工程(ペーストの塗工工程)において、リアルタイムでペーストPの分散状態の良否を判定することができる。その結果、歩留まり及び稼働率の向上、異常の早期に発見することができる。
【0045】
次に、配管11内にペーストPが流れている状態で、第1抵抗計測部23により、第1印加電極21,22に高周波(1MHz)の電圧を印加する(ステップS2)。このとき、第1抵抗計測部23による電圧印加では、印加する電圧の周波数が1MHzに固定されている。そして、第1抵抗計測部23は、このときの電流値及び位相遅れを計測してペーストPの直流抵抗を求め、それを解析部40に出力する(ステップS3)。
【0046】
また、上記の処理と並行して、第2抵抗計測部33により、第2印加電極31,32に低周波(1000Hz〜10Hz)の電圧を印加する(ステップS12)。第2抵抗計測部33による電圧印加では、印加する電圧の周波数を、1000Hzから10Hzへと連続的に変化させる。そして、第2抵抗計測部33は、このときの電流値及び位相遅れを計測してペーストPの交流抵抗を求めていき、順次それらを解析部40に出力する(ステップS13)。
【0047】
このときの出力データから、ペーストPの交流インピーダンスZを算出することができ、図4に実線で示すようなコールコールプロットが得られる。そして、ペーストの分散状態の違いにより、図4に破線で示すように、直流抵抗と電気二重層抵抗が変化する。これは、ペーストの直流抵抗がペースト中の粒子の繋がりを示し、電気二重層抵抗が粒子と液体の界面の大きさを示しているからである。従って、評価対象となっているペーストの直流抵抗と電気二重層抵抗から分散状態を評価することができる。なお、図4に実線で示す交流インピーダンスは分散状態が良好なもの(基準となるペースト)の一例であり、図4に破線で示す交流インピーダンスは分散状態が不良なものの一例である。
【0048】
ここで、ペースト評価装置10では、ペーストPの交流インピーダンスZのコールコールプロットを描くことはなく、解析部40において、以下の手順に従ってペーストPの電気二重層抵抗を算出し、その電気二重層抵抗と直流抵抗に基づいてペーストPの分散状態を評価している。すなわち、まず、ステップS13で計測したペーストPの交流抵抗の極限(極値)を求め、二重層抵抗(図4に示すB)を算出する(ステップS14)。そして、その二重層抵抗(極限の実数成分)からステップS3で計測した直流抵抗(図4に示すA)を減算し、ペーストPの電気二重層抵抗を算出する(ステップS4)。次に、計測された直流抵抗及び算出された電気二重層抵抗と、基準となるペーストの直流抵抗及び電気二重層抵抗とをそれぞれ比較する(ステップS5)。なお、基準となるペーストの直流抵抗及び電気二重層抵抗は、要求されている電池性能を満たしているペーストから予め得られたデータが解析部40に記憶されている。
【0049】
そして、上記比較の結果に基づきペーストPの分散状態の良否判定が行われる(ステップS6)。本実施の形態では、この良否判定では、直流抵抗が基準値に対して±3%以内、電気二重層抵抗が基準値に対して±10%以内であれば、ペーストPの分散状態が良好であると判定し、それ以外の場合にはペーストPの分散状態が不良であると判定することとしている。このような簡単な方法により、ペーストPにおける粒子の繋がり(導電性)、及び粒子と液体の界面の大きさが、良好な電池性能を得られる状態(分散状態が良好)であるか否かを精度良く評価することができる。
【0050】
このようして、分散状態が良好であると判定された場合のみ、そのペーストを電極表面に塗工する。これにより、製造された二次電池では、電極表面において安定した反応性が得られ、安定した電池性能を発揮することとなる。また、電極の製造工程(ペーストの塗工工程)において、リアルタイムでペーストの分散状態の良否を判定することができるため、歩留まり及び稼働率の向上、異常の早期に発見することができる。
【0051】
ここで、二次電池の製造工程において、ペーストの混練装置として、循環型連続混練装置が使用される場合には、上記したペースト評価装置10を循環型連続混練装置の循環配管に配置することが好ましい。そこで、循環型連続混練装置に本実施の形態に係る評価装置を適用する場合について、図5及び図6を参照しながら説明する。図5は、循環型連続混練装置が使用される場合に本発明のペースト評価装置を適用した装置の全体構成図である。図6は、図5に示す装置におけるペースト混練動作の制御内容を示すフローチャートである。
【0052】
この装置では、図5に示すように、混練装置50における循環配管51のバルブ52の上流側にペースト評価装置10が設けられている。より詳細には、循環配管51の途中に配管11が接続されている。この混練装置50は、接続配管53を介して塗工装置60に接続されており、接続配管53にバルブ52が配置されている。これにより、バルブ52が閉じている状態ではペーストの混練が行われ、バルブ52が開いた状態では混練が終了したペーストが塗工装置60に供給されるようになっている。これにより、混練装置50で混練されているペーストの分散状態が良好になったときに、バルブ52を開けて、ペーストを塗工装置60に供給することにより、電極表面において安定した反応性が得られて安定した電池性能を発揮する二次電池を製造することができる。
【0053】
そこで、この装置では、ペースト評価装置10の評価結果に基づき、図6に示すようにペーストの混練を行っている。すなわち、まず、混練装置50においてペーストの混練を開始する(ステップS20)。この状態では、バルブ52は閉じた状態となっている。ペーストの混練が開始されると、混練されたペーストの一部が循環配管51を開始して循環し始める。これにより、ペースト評価装置10における配管11内にペーストが流れる(ステップS21)。そうすると、ペースト評価装置10によるペーストの分散状態の評価が実施される。
【0054】
具体的には、第1抵抗計測部23により、第1印加電極21,22に高周波(1MHz)の電圧を印加する(ステップS22)。このとき、第1抵抗計測部23による電圧印加では、印加する電圧の周波数が1MHzに固定されている。そして、第1抵抗計測部23は、このときの電流値及び位相遅れを計測してペーストの直流抵抗を求め、それを解析部40に出力する(ステップS23)。
【0055】
また、上記の処理と並行して、第2抵抗計測部33により、第2印加電極31,32に低周波(1000Hz〜10Hz)の電圧を印加する(ステップS32)。第2抵抗計測部33による電圧印加では、印加する電圧の周波数を、1000Hzから10Hzへと連続的に変化させる。そして、第2抵抗計測部33は、このときの電流値及び位相遅れを計測してペーストの交流抵抗を求めていき、順次それらを解析部40に出力する(ステップS33)。
【0056】
次に、ステップS33で計測したペーストの交流抵抗の極限(極値)を求め、二重層抵抗を算出する(ステップS34)。そして、その二重層抵抗(極限の実数成分)からステップS23で計測した直流抵抗を減算し、ペーストの電気二重層抵抗を算出する(ステップS24)。続いて、計測された直流抵抗及び算出された電気二重層抵抗と、基準となるペーストの直流抵抗及び電気二重層抵抗とをそれぞれ比較する(ステップS25)。なお、基準となるペーストの直流抵抗及び電気二重層抵抗は、要求されている電池性能を満たしているペーストから予め得られたデータが解析部40に記憶されている。
【0057】
そして、上記比較の結果に基づきペーストの分散状態の良否判定が行われ、分散状態が良好である場合には(ステップS26:YES)、バルブ52が開かれる(ステップS27)。これにより、混練装置50におけるペーストの混練が終了し(ステップS28)、混練されたペーストが接続配管53を介して塗工装置60に供給される。その後、塗工装置60において、ペーストが電極表面に塗工される。
一方、ペーストの分散状態が不良である場合には(ステップS26:NO)、バルブ52が閉じられる(ステップS29)。そして、分散状態が良好になるまでステップS21からS26の処理が繰り返される。これにより、塗工装置60において、分散状態が良好なペーストのみを電極表面に塗工することができる。
【0058】
なお、ステップS26における良否判定では、上記と同様に、直流抵抗が基準値に対して±3%以内、電気二重層抵抗が基準値に対して±10%以内であれば、ペーストの分散状態が良好であると判定し、それ以外の場合にはペーストPの分散状態が不良であると判定するようにすれば良い。
また、上記した処理は、バルブ52が開かれており配管11にペーストが流れる状態で、一定時間間隔(例えば、数分間隔)で実行するようにしても良い。これにより、塗工装置に対して常に分散状態が良好なペーストを供給することができるからである。
【0059】
続いて、印加電極の配置パターンの変形例について、図7〜図9を参照しながら説明する。図7は、印加電極を直交配置しない配置パターンを示す図である。図8は、印加電極を配管長手方向においてずらして配置した配置パターンを示す図である。図9は、図8に示す印加電極の配置を配管の軸方向から見た図である。
【0060】
まず、電極配置パターンの第1変形例は、図7に示すように、印加電極21,22と印加電極31,32とを直交させずに配置する場合である。なお、印加電極21,22と印加電極31,32は、上記した実施の形態と同様に、配管11の長手方向(軸方向)において同じ位置に配置されている。このような配置は、印加電極21,22と印加電極31,32との電圧勾配を補正することができる場合に採用することができる。
【0061】
次に、電極配置パターンの第2変形例は、図8に示すように、印加電極21,22と印加電極31,32とを配管長手方向においてずらして配置した場合である。なお、印加電極21,22と印加電極31,32とは、お互いの計測に影響を及ぼさないように離して配置すれば良い。こうすることにより、図9は、印加電極21,22と印加電極31,32とを平行配置することができる。このような配置により、設置スペースの関係で印加電極を直交配置することができない場合などにも対応することができる。ただし、この電極配置の場合には、同じ箇所のペーストの抵抗を計測する必要があるため、ペーストの配管11内における流速に合わせた時間補正を行う必要がある。
【0062】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係るペースト評価装置10及び評価装置10を用いた評価方法によれば、周波数の異なる(高周波と低周波における)ペーストの抵抗を同時に計測することにより、ペーストの同じ箇所における直流抵抗と交流抵抗を確実に得ることができるので、ペーストの電気二重層抵抗を精度良く算出することができる。その結果として、短時間でペーストの分散状態を精度良く評価することができ、インライン評価を実施することができる。
【0063】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、2組の印加電極を使用しているが、図10(a)(b)に示すように、印加電極に入力する交流電圧が複数の周波数を合わせた信号であって、それらを分離することができる場合には、図11に示すように、1組の印加電極71,72を配管11に設ければ良い。
【0064】
また、上記した実施の形態では、配管11として円筒形状のものを使用しているが、配管11は円筒状に限らず、第1印加電極21,22及び第2印加電極31,32のそれぞれを対向配置することができる形状(例えば、矩形状など)であれば良い。
【0065】
さらに、上記した実施の形態では、ペースト評価装置10を1箇所だけ設置しているが、複数個所に設置することもできる。このように複数個所に設置することで、電極表面に塗工するペーストの分散状態を、より高精度に評価することができる。
【符号の説明】
【0066】
10 ペースト評価装置
11 配管
21 第1印加電極
22 第1印加電極
23 第1抵抗計測部
31 第2印加電極
32 第2印加電極
33 第2抵抗計測部
40 解析部(演算部)
50 混練装置
51 循環配管
52 バルブ
53 接続配管
60 塗工装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気二重層抵抗成分を持つペーストの分散状態を評価するためのペーストの評価方法において、
前記ペーストに印加する電圧の周波数を第1の周波数に固定して前記ペーストの直流抵抗を計測する直流抵抗計測工程と、
前記ペーストに印加する電圧の周波数を第1の周波数よりも低い第2の周波数域で変化させながら前記ペーストの交流抵抗を計測していく交流抵抗計測工程と、
前記直流抵抗と前記交流抵抗とに基づき、前記ペーストの電気二重層抵抗を算出する電気二重層抵抗算出工程と、
前記直流抵抗及び前記電気二重層抵抗と、基準となるペーストの直流抵抗及び電気二重層抵抗とを比較することにより、前記ペーストの分散状態の良否判定を行う良否判定工程と、
を含むことを特徴とするペーストの評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載するペーストの評価方法において、
前記直流抵抗計測工程では、周波数を1MHzに固定して前記ペーストの直流抵抗を計測し、
前記交流抵抗計測工程では、周波数を1000Hzから10Hzにスイープさせて前記ペーストの交流抵抗を計測していき、
前記二重層抵抗算出工程では、前記交流抵抗の極値から前記直流抵抗を減算して前記ペーストの電気二重層抵抗を算出する
ことを特徴とするペーストの評価方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するペーストの評価方法において、
前記直流抵抗計測工程における抵抗計測と前記交流抵抗計測工程における抵抗計測とを並行して行う
ことを特徴とするペーストの評価方法。
【請求項4】
電気二重層抵抗成分を持つペーストの分散状態を評価するためのペーストの評価装置において、
前記ペーストに周波数を第1の周波数に固定して電圧を印加するために対向配置された第1印加電極と、
前記ペーストに周波数を第1の周波数よりも低い第2の周波数域で変化させながら電圧を印加するために対向配置された第2印加電極と、
前記第1印加電極に接続され、前記ペーストの直流抵抗を計測する第1抵抗計測部と、
前記第2印加電極に接続され、前記ペーストの交流抵抗を計測する第2抵抗計測部と、
前記直流抵抗と前記交流抵抗とに基づき、前記ペーストの電気二重層抵抗を算出する演算部と、
を有し、
前記演算部は、前記直流抵抗及び前記電気二重層抵抗と、基準となるペーストの直流抵抗及び電気二重層抵抗とを比較することにより、前記ペーストの分散状態の良否判定を行う
ことを特徴とするペーストの評価装置。
【請求項5】
請求項4に記載するペーストの評価装置において、
前記第1抵抗計測部は、周波数を1MHzに固定して前記ペーストの直流抵抗を計測し、
前記第2抵抗計測部は、周波数を1000Hzから10Hzにスイープさせて前記ペーストの交流抵抗を計測していき、
前記演算部は、前記交流抵抗の極値から前記直流抵抗を減算して前記ペーストの電気二重層抵抗を算出する
ことを特徴とするペーストの評価装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載するペーストの評価装置において、
前記第1印加電極と前記第2印加電極とが、互いに直交するように配置されている
ことを特徴とするペーストの評価装置。
【請求項7】
請求項4から請求項6に記載するいずれか1つのペーストの評価装置において、
前記第1印加電極と前記第2印加電極とが、混練装置から排出され電極表面に塗工されるまでにペーストが通過する配管のいずれかに配置されている
ことを特徴とするペーストの評価装置。
【請求項8】
請求項4から請求項6に記載するいずれか1つのペーストの評価装置において、
前記第1印加電極と前記第2印加電極とが、循環型連続混練装置の循環配管に配置されている
ことを特徴とするペーストの評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−96725(P2013−96725A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237063(P2011−237063)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】