説明

ペーパーディスペンサー

【課題】使用者の安全を確保するとともに、紙製シートをスムーズに引き出して切り取ることが可能なペーパーディスペンサーを提供する。
【解決手段】長尺の紙製シートを収容する筐体に設けられた取出口から紙製シートを所望の長さ引き出した後、取出口近傍に取り付けられた切り取り刃により紙製シートを切り取ることが可能なペーパーディスペンサーにおいて、切り取り刃の正面側に、先端部に向かうにつれて厚さが薄くなるように成型した熱可塑性エラストマーを、刃先から所定の長さ突出した状態で取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペーパーディスペンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺の紙製シート(例えば、ロールタオル等)を収容する筐体の取出口から紙製シートを所望の長さ引き出した後、当該紙製シートを取出口近傍に取り付けられた切り取り刃に押し当てて、幅方向に沿って引き裂くことにより、紙製シートを切り取ることが可能なペーパーディスペンサーが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、例えば、使用者が紙製シートを使用する目的で当該紙製シートの切れ端(先端部)に向けて手指を差し出した場合、切り取り刃の存在が死角となって見えにくいこともあり、手指が刃先と接触する虞がある。仮に、使用者の手指が刃先と接触した場合、使用者の手指を傷つける虞があるため、使用者の安全の確保は重要な課題である。
【0004】
刃先から手指を守る技術を開示したものとしては、ラップフィルムの収納箱において、フィルム切断用の刃とこれを取り付けている収納箱の上蓋との間に保護カバーとしての樹脂系シートを挟み込む技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
上記特許文献2に係る技術を、例えば特許文献1に係るペーパーディスペンサーに適用した場合、筐体と切り取り刃との間に、保護カバーとしての樹脂系シートが挟みこまれるため、使用者の安全確保の面で、一定の効果を期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−283280号公報
【特許文献2】特開2008−273596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂系シートは、切り取り刃の刃先よりも突出した状態で取り付けられるため、使用者が紙製シートを引き出す際に、樹脂系シートが厚いと、突出した樹脂系シートに紙製シートが接触して引っ掛かってしまう。そうした場合、紙製シートはラップフィルムに比べて剛性が弱く、切れやすいため、引き出す途中で紙製シートが切れてしまうことや紙製シートをスムーズに引き出せないことがある。また、引き出した紙製シートを切り取る際に、突出した樹脂系シートが障害となって、紙製シートが切り取りにくいことがある。
一方、樹脂系シートが薄いと、使用者の安全を確保する保護カバーとしての機能が損なわれてしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明は、使用者の安全を確保するとともに、紙製シートをスムーズに引き出して切り取ることが可能なペーパーディスペンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、長尺の紙製シートを収容する筐体に設けられた取出口から前記紙製シートを所望の長さ引き出した後、前記取出口近傍に取り付けられた切り取り刃により前記紙製シートを切り取ることが可能なペーパーディスペンサーにおいて、
前記切り取り刃の正面側に、先端部に向かうにつれて厚さが薄くなるように成型した熱
可塑性エラストマーが、刃先から所定の長さ突出した状態で取り付けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のペーパーディスペンサーにおいて、前記熱可塑性エラストマーにおける、前記切り取り刃の刃先から突出した突出部の先端部の厚さは、0.2〜0.8mmであることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のペーパーディスペンサーにおいて、前記熱可塑性エラストマーにおける、前記切り取り刃の刃先から突出した突出部の長さは、0.3〜2mmであることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のペーパーディスペンサーにおいて、前記切り取り刃は、刃元から刃先への方向と水平面とで形成される俯角が0°以上90°未満となるように取り付けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のペーパーディスペンサーにおいて、前記熱可塑性エラストマーは、スチレン系の素材で形成されることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のペーパーディスペンサーにおいて、前記熱可塑性エラストマーの硬度は、30〜40pointであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、熱可塑性エラストマーが、先端部に向かうにつれて厚さが薄くなるように成型されているので、熱可塑性エラストマーの先端部に柔軟性を持たせることができることとなって、手指と刃先の接触を防止することができるとともに、紙製シートが引っ掛かった際も抵抗感なくスムーズに引き出すことができる。なお、本発明で紙製シートを所望の長さ引き出すとは、紙製シートを手指でつかんで引き出すこと、又は、光センサ等を使って使用者の存在を検知して、紙製シートを自動的に引き出すこと、をいう。
また、熱可塑性エラストマーをリサイクルすることができるので、コストの面で優れた効果を発揮することができる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、熱可塑性エラストマーにおける、切り取り刃の刃先から突出した突出部の先端部の厚さは、0.2〜0.8mmとされているので、手指で内側に折り込まれて刃先をカバーした際に穴が開くことがなくなり、手指と刃先の接触を防止することができる。また、熱可塑性エラストマーの突出部に柔軟性を持たせることができるので、紙製シートが引っ掛かった際も抵抗感なくスムーズに引き出すことができる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、熱可塑性エラストマーにおける、切り取り刃の刃先から突出した突出部の長さは、0.3〜2mmとされているので、手指で突出部を内側に折り込んだ際に刃先を完全にカバーすることとなって、手指と刃先の接触を防止することができる。また、熱可塑性エラストマーの突出部の長さが長すぎないため、紙製シートをスムーズに引き出すことができる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、切り取り刃は、刃元から刃先への方向と水平面とで形成される俯角が0°以上90°未満となるように取り付けられているので、使用者の手指が刃先に接触する虞を減少させることとなって、使用者の安全を確保することができる。また、紙製シートを刃先に押し当てにくくなったり、或いは紙製シートの突出部が熱可塑性
エラストマーに引っ掛かり易くなったりすることもないため、紙製シートをスムーズに引き出して切り取ることができる。
【0018】
請求項5記載の発明によれば、熱可塑性エラストマーは、スチレン系の素材で形成されるので、耐水性やゴム弾性に優れた素材で保護カバーが形成されることとなって、紙製シートを切断する際に使用者の安全を確保することができるとともに、使用者の手指に付着した水分等で熱可塑性エラストマーが劣化することを防止することができる。
【0019】
請求項6記載の発明によれば、熱可塑性エラストマーの硬度は、30〜40pointであるので、熱可塑性エラストマーの変形を防止できるとともに、紙製シートを引き出す際に熱可塑性エラストマーが引き出しを阻害することもなくなるため、紙製シートを安全かつスムーズに引き出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係るロールタオルディスペンサー100の外観斜視図である。
【図2】本実施形態に係るロールタオルディスペンサー100の蓋体を開けた状態について示した斜視図である。
【図3】本実施形態に係るロールタオルディスペンサー100の正面図である。
【図4】図3中の破線で囲まれた部分Aを拡大した図(取出口近傍の拡大図)である。
【図5】図3中のV−V線の断面図である。
【図6】切り取り刃5周辺の拡大図である。
【図7】図6に示した切り取り刃5周辺の拡大図を更に拡大した図である。
【図8】切り取り刃5の取り付け位置の変形例について示した図である。
【図9】熱可塑性エラストマー6の取り付け方の変形例について示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、ペーパーディスペンサーとして、ロールタオルを収容したロールタオルディスペンサーを例示して説明を行う。
【0022】
図1〜3に示すように、ロールタオルディスペンサー100は、長尺の紙製シート(ロールタオルP)を支持する収納体11と、収納体11の左右二つの側面11a,11a下部に一つずつ設けられたヒンジ部2,2により開閉可能に連結された蓋体12と、を備える筐体1内に、ロールタオルPを収容可能に構成されている。収納体11の後面11bは、キッチンや洗面所等の壁面に固定される。蓋体12は、ヒンジ部2を軸として回動させることで、正面方向(図中の矢印方向X)に向けて開閉自在となっている(図2参照)。使用者は、蓋体12を正面方向に向けて開けることで、ロールタオルPの収納体11への装填又は収納体11からの取り外しを自由に行うことができる。
また、収納体11の下面11cと蓋体12の下端部12aの合わせ目には取出口3が設けられている(図3参照)。使用者は、この取出口3を通じて、筐体1内に収容されたロールタオルPを引き出せるようになっている。
【0023】
収納体11は、図2に示すように、左右二つの側面11a,11a中央部に一つずつ設けられたペーパー支持部4,4により、ロール状に巻かれた紙製のロールタオルPを回転可能に支持する。
なお、ペーパー支持部4により支持されたロールタオルPの先端部P1は、筐体1下面に設けられた取出口3を通じて、筐体1外に引き出されるようになっている。
蓋体12の下端部12aには、ロールタオルPを切り取るための切り取り刃5が取り付けられている(図4参照、但し、図では後述する熱可塑性エラストマー6が取り付けられ
ていない状態を示す。)。使用者は、蓋体12が閉じた状態(図1参照)で、引き出したロールタオルPの所望の位置を切り取り刃5の刃先51に押し当てた後、上方に引っ張ることで、ロールタオルPを切り取ることができる。
【0024】
ロールタオルPの先端部P1は、図5に示すように、取出口3付近に引き出された状態となっている。通常、使用者によりロールタオルPが切り取られると、ロールタオルPの切れ端(先端部P1)は、取出口3付近に位置することとなる。
また、蓋体12の下端部12aには、切り取り刃5が、鉛直方向よりも筐体1の内部方向(図中の矢印方向Y)に刃先が向かうように取り付けられている。さらに、切り取り刃5の正面側には、熱可塑性エラストマー6が、刃先51から所定の長さ突出した状態で取り付けられている。この熱可塑性エラストマー6は、使用者の手指が刃先51と接触するのを防止する保護カバーとしての役割を果たしている。
【0025】
熱可塑性エラストマー6は、常温時はゴム状の弾性体であり、熱を加えると軟化して流動性を示す性質を有する。この高温時に軟化する性質を利用することで、例えば、プラスチック加工機により、圧縮、押し出し、射出など、容易に成型することが可能である。また、熱可塑性エラストマー6は、成型時に架橋が不必要であり、成型サイクルも短いため、他のエラストマーとは異なり、リサイクルが可能である。
【0026】
この点、ゴムは、成型時に架橋工程を経ており、高温時にも変形しにくい性質を有することから、熱可塑性エラストマー6と比べ、容易に成型することができず、リサイクルが困難である。また、プラスチックや熱硬化性の樹脂は、熱可塑性エラストマー6と比べ、常温時に硬さを有するので、保護カバーとして利用すると、ロールタオルPが引っ掛かり易くなり、ロールタオルPの引き出しを阻害する虞がある。
【0027】
熱可塑性エラストマー6は、常温時に柔軟性を有することからロールタオルPの切り取りを阻害する虞はなく、加熱によるリサイクルも可能であることからコスト面で優れている。従って、熱可塑性エラストマー6は、保護カバーとして十分に効果を発揮することができる。
なお、熱可塑性エラストマー6の種類として、スチレン系(SBC)、オレフィン系(TPO)、塩ビ系(TPVC)、ウレタン系(PU)、エステル系(TPEE)、アミド系(TPAE)等を利用することが可能である。中でも、ロールタオルPの切断の都合上、耐水性やゴム弾性に優れたスチレン系の素材を利用することが最も好ましい。従って、本実施形態では、スチレン系の素材で形成された熱可塑性エラストマー6を使用している。
さらに、熱可塑性エラストマー6は、スチレン系の中でもSEBS系の素材を利用することが最も好ましい。ここで、SEBS系とは、硬質のポリスチレン部分と軟らかい性質を与えるポリエチレン及びポリブチレン部分とをブロック状に共重合させた基本単位構造のことであり、優れた耐熱性・耐候性を有する。
【0028】
また、本実施形態では、スチレン系の素材で形成された熱可塑性エラストマー6のうち、硬度が30〜40pointの熱可塑性エラストマー6を使用している。
ここで、熱可塑性エラストマー6の硬度を30point以上としたのは、硬度が30point未満の熱可塑性エラストマー6を使用した場合、熱可塑性エラストマー6が軟らかすぎて、ロールタオルディスペンサー100の使用頻度が増えるにつれて熱可塑性エラストマー6が変形してしまい、安全に使用することが困難となるからである。
一方、熱可塑性エラストマー6の硬度を40point以下としたのは、硬度が40pointよりも大きな熱可塑性エラストマー6を使用した場合、熱可塑性エラストマー6が硬くて曲がりにくいため、ロールタオルPを切り取る際に切り取り刃5と熱可塑性エラストマー6の間にロールタオルPが挟まったり、ロールタオルPを引き出す際に熱可塑性エラストマ
ー6と引っ掛かったりして、安全に使用することが困難であるからである。
この点、本実施形態では、硬度が30〜40pointの熱可塑性エラストマー6を使用しているため、熱可塑性エラストマー6の変形を防止できるとともに、ロールタオルPを引き出す際にスムーズに引き出すことができる。
【0029】
切り取り刃5は、図6に示すように、刃元52から刃先51への方向と水平面Zとで形成される俯角αが0°以上90°未満(0°≦α<90°)となるように取り付けられている。切り取り刃5を筐体1の内部方向(図中の矢印方向Y)に向けて取り付けたことで、使用者の手指が刃先51に接触する虞が減少するため、使用者の安全を確保することができる。
【0030】
ここで、俯角αを0°以上としたのは、切り取り刃5を俯角αが0°未満(α<0°)で取り付けた場合、ロールタオルPを刃先51に押し当てにくくなるため、ロールタオルPの切り取りが困難となるからである。また、ロールタオルPを引き出す際に、刃先51から突出した熱可塑性エラストマー6が引っ掛かり易くなるため、スムーズに引き出せなくなる虞もあるからである。
【0031】
一方、俯角αを90°未満としたのは、切り取り刃5を俯角αが90°以上(α≧90°)で取り付けた場合、切り取り刃5と熱可塑性エラストマー6との間に使用者の手指が入り易くなったり、刃先51に接触し易くなったりするためである。
【0032】
この点、本実施形態では、切り取り刃5を俯角αが0°以上90°未満(0°≦α<90°)となるように取り付けているため、使用者の安全を確保することができるとともに、ロールタオルPをスムーズに引き出して容易に切り取ることができる。すなわち、従来技術に比べ、好ましい効果が得られるようになっている。
【0033】
切り取り刃5の正面側(図中の矢印方向X)には、図7に示すように、熱可塑性エラストマー6が、所定の長さ突出した状態で取り付けられている。具体的には、切り取り刃5の刃先51と熱可塑性エラストマー6の先端部61との距離、即ち、熱可塑性エラストマー6における、切り取り刃5の刃先51から突出した突出部6aの長さLが0.3〜2mm(0.3mm≦L≦2mm)となるように、熱可塑性エラストマー6を突出させている。熱可塑性エラストマー6を刃先51から所定の長さ突出させたことで、使用者がロールタオルPを引き出そうとして取出口3近傍に手指を差し込んだ際、突出部6aが内側(図中の矢印方向Y)に折り込まれて刃先51をカバーするため、手指と刃先51の接触を防止することができる。
【0034】
ここで、突出部6aの長さLを0.3mm以上としたのは、突出部6aの長さLを0.3mm未満(L<0.3mm)とした場合、手指で突出部6aを内側に折り込んだ場合に、刃先51を完全にはカバーすることができないため、手指を傷つけてしまう虞があるからである。
【0035】
一方、突出部6aの長さLを2mm以下としたのは、突出部6aの長さLを2mmよりも長くした(L>2mm)場合、熱可塑性エラストマー6の突出部6aが長くなるため、ロールタオルPが引っ掛かり易くなり、スムーズに引き出せなくなる虞があるからである。
【0036】
この点、本実施形態では、突出部6aの長さLを0.3〜2mm(0.3mm≦L≦2mm)となるように、熱可塑性エラストマー6を突出させているため、ロールタオルPをスムーズに引き出すことができるとともに、手指と刃先51の接触を防止することができる。
【0037】
また、熱可塑性エラストマー6は、図7に示すように、根元から先端部61に向かう途中から、先端部61に向かうにつれて厚さが薄くなるように成型されている。具体的には、熱可塑性エラストマー6は、突出部6aの先端部61の厚さTが0.2〜0.8mm(0.2mm≦T≦0.8mm)となるように、成型されている。熱可塑性エラストマー6を先端部61に向かうにつれて厚さTが薄くなるように成型したことで、より柔軟性を持たせることができるので、刃先51をカバーし易くなり、手指と刃先51の接触を防止することができる。なお、熱可塑性エラストマー6は、性質上、成型が容易であるため、突出部6aの先端部61の厚さTの調整も容易に行うことができる。
【0038】
ここで、突出部6aの先端部61の厚さTを0.2mm以上としたのは、突出部6aの先端部61の厚さTを0.2mm未満(T<0.2mm)で成型した場合、手指で内側に折り込まれて刃先51をカバーした際に、突出部6aの先端部61の厚さTが薄すぎて場合によっては穴が開くこともあり、手指を傷つけてしまう虞がある。
【0039】
一方、突出部6aの先端部61の厚さTを0.8mm以下としたのは、突出部6aの先端部61の厚さTを0.8mmよりも大きな厚さ(T>0.8mm)で成型した場合、突出部6aの先端部61の厚さTが厚すぎて柔軟性を欠くため、ロールタオルPが引っ掛かり易くなり、スムーズに引き出せなくなる虞がある。
【0040】
この点、本実施形態では、突出部6aの先端部61の厚さTを0.2〜0.8mm(0.2mm≦T≦0.8mm)となるように成型しているため、ロールタオルPをスムーズに引き出すことができるとともに、手指と刃先51の接触を防止することができる。
【0041】
なお、本実施形態に係る紙製シートは、例えば、バージンパルプ、古紙パルプまたはこれらの混合物のみを紙料として製造されたものである。古紙パルプを用いる場合、古紙パルプ100%またはバージンパルプを配合してもよい。また、パルプ繊維の種類は、特に限定されないが、針葉樹パルプを60〜100重量%、特に好適には80〜100重量%
用い、残量を広葉樹パルプとするのが好ましい。繊維の短い広葉樹パルプを高配合とすることで、繊維配向の影響が低減するとともに、より容易且つ緻密な引き裂きが可能になる。
【0042】
紙製シートの坪量は、例えばJIS P 8124(1998)に準じて測定した15〜65g/m2程度とすることができるが、1プライの場合、坪量が30〜60g/m2の厚手のものが好ましく、特に坪量が30〜50g/m2のものが好ましい。また、2プライの場合、1枚あたりの坪量が15〜30g/m2のものが好ましく、特に坪量が15〜25g/m2のものが好ましい。
【0043】
紙製シートは、JIS P 8113(1998)に規定される乾燥引張強度の縦横比が2.0以下であるのが好ましく、1.0〜1.8であるのが特に好ましい。この縦横比は、ワイヤーパートにおけるジェットワイヤー比等、各種抄造条件の変更により調整できる。乾燥引張強度の縦横比(縦方向/横方向)を低く抑えることで、縦裂けの発生が低減し、より直線状に近い引き裂きが可能となる。
【0044】
また、紙製シートは、JIS P 8113(1998)に規定される引張破断伸び(縦方向)が16%以下であるのが好ましく、13%以下であるのが特に好ましい。引張破断伸びは、クレープ加工の程度(所謂クレープ率)により調整することができる。引張破断伸びを低く抑えることにより、紙に加わる引裂力の方向が紙の伸びにより不規則に変化するのを防止し、縦や斜め方向への裂けの発生を低減することができる。
【0045】
より好ましい形態では、紙製シートは、JIS P 8116(2000)に規定される横方向の引裂強度が65gf以下とされる。また、引裂強度の縦横比は0.75以上、特に0.8以上が好ましい。横方向の引裂強度は、パルプの配合、叩解度(フリーネス)、引張破断伸び等を変更することにより調整できる。横方向の引裂強度ならびに引裂強度の縦横比がこの範囲内にあると、引き裂きに要する力が適切となるだけでなく、不要な力が不要な方向に作用し難くなり、より綺麗に引裂くことができるようになる。
【0046】
紙製シートは、紙製シートをロール状にしてなり、横方向に沿って引き裂いて使用するロール状製品、特にロール状のペーパータオルに好適である。このような製品では複数枚の紙シートを重ねて1枚として使用する形態があるが、このような形態では乾燥・湿潤引張強度、引張破断伸び、引裂強度等の試験値は1枚の状態における値を意味するものである。
【0047】
本発明は、ロール状ペーパータオルに限定されるものではないが、例えばJIS P 8124(1998)に準じて測定した30〜40g/m2程度のロール状ペーパータオルとする場合、紙厚の測定方法としては、JIS P 8111(1998)の条件下で、ダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)を用いて測定するものとし、140〜220μmとし、湿潤引張強度(JIS P 8135 1998))は縦方向が500〜1500cN/25mm、横方向が200〜100cN/25mmであるのが好ましく、吸水量は100mm四方に裁断した試験片を網に載せ、この網ごと水の入った容器に浮かせ、試験片に十分に水が浸透した後に引き上げ、30秒間放置した後の試験片の質量を測定した。この測定質量から乾燥時の質量を引き100倍し、1m2当たりの吸水量とした。100〜200g/m2であるのが好ましく、乾燥引張強度(JIS P 8113 1998)は上記縦横比を満たす範囲内で、縦方向が1400〜3000cN/25mm、横方向が600〜1700cN/25mmであるのが好ましい。
【0048】
次に、ロールタオルディスペンサー100に係るロールタオルPの切り取り動作について説明する。
使用者により、取出口3付近に位置するロールタオルPの切れ端(先端部P1)を引き出す動作が行われると、ペーパー支持部4により支持されたロールタオルPの回転動作に伴い、ロールタオルPが引き出される。使用者は、ロールタオルPを所望の長さ引き出した後、ロールタオルPの所望の位置を蓋体12の下端部12aに取り付けられた切り取り刃5の刃先51に押し当てて、上方に引っ張る動作を行う。このとき、ロールタオルPは、刃先51に押し当てられた部分から幅方向に沿って引き裂かれ、切り取られることとなる。
なお、使用者がロールタオルPの先端部P1を引き出す際に、手指が刃先51と接触する虞があるが、熱可塑性エラストマー6が保護カバーとして機能するため、手指と刃先51の接触は防止される。
【0049】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、勿論本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
ロールタオルディスペンサー100において、熱可塑性エラストマー6としてスチレン系(SEBS系)の「エラストマーAR(アロン化成株式会社製)」を使用し、「使用頻度による劣化」、「切り取り易さ」、及び「安全性・連続使用」についての試験を行った。なお、熱可塑性エラストマー6の硬度は、JIS K 6253 Aに準じて測定したものである。
[実施例1]
熱可塑性エラストマー6として、硬度が40pointの「AR−741」を用いた。
また、熱可塑性エラストマー6における、切り取り刃5の刃先51から突出した突出部6aの長さが2mm、突出部6aの先端部61の厚さが0.32mmの条件で、試験を行った。
[実施例2]
熱可塑性エラストマー6として、硬度が30pointの「AR−731」を用いた。
その他の条件及び試験方法は、実施例1と同一である。
[比較例1]
熱可塑性エラストマー6として、硬度が6pointの「AR−710」を用いた。
また、熱可塑性エラストマー6における、切り取り刃5の刃先51から突出した突出部6aの長さが4mmの条件で、試験を行った。
その他の条件及び試験方法は、実施例1と同一である。
[比較例2]
熱可塑性エラストマー6として、比較例1と同一の、硬度が6pointの「AR−710」を用いた。
その他の条件及び試験方法は、実施例1と同一である。
[比較例3]
熱可塑性エラストマー6として、硬度が20pointの「AR−720」を用いた。
その他の条件及び試験方法は、実施例1と同一である。
[比較例4]
熱可塑性エラストマー6として、硬度が50pointの「AR−750」を用いた。
その他の条件及び試験方法は、実施例1と同一である。
【0051】
[試験結果]
実施例1,2及び比較例1〜4の試験結果を表1に示す。
【表1】

【0052】
[使用頻度による劣化についての評価]
○;変形なし
△;若干の変形がみられるが、問題なく使用可能
×;変形が酷く、使用不可能
の三段階で評価した。
表1に示すように、使用回数に係らず、比較例1及び比較例2(ともに硬度が6point)において、熱可塑性エラストマー6の変形(劣化)がみられた。また、比較例3(硬度が20point)においても、使用回数が100回の時点で既に若干の変形が発生し、使用回数が1000回の時点では完全に変形していた。
一方、実施例2(硬度が30point)では、使用回数が10万回の時点で若干の変形が発生したものの、問題なく使用することができた。また、実施例1(硬度が40point)及び比較例4(硬度が50point)では、使用回数が10万回の時点においても、変形がみられることなく使用することができた。
【0053】
[切り取り易さについての評価]
○;容易に切り取ることができる
△;若干切り取りにくいが、切り取り可能
×;切り取ることが困難
の三段階で評価した。
表1に示すように、比較例4(硬度が50point)では、熱可塑性エラストマー6が硬くて曲がりにくいため、ロールタオルPと切り取り刃5の刃先51の接触を阻害してしまい、ロールタオルPの切り取りが困難であった。また、比較例1(突出部6aの長さが4mm)では、熱可塑性エラストマー6の突出部6aが長いため、ロールタオルPと刃先51を接触させにくくなり、若干の切り取りにくさが生じていた。
一方、実施例1、実施例2、比較例2、及び比較例3では、問題なくロールタオルPを切り取ることができた。
【0054】
[安全性・連続使用についての評価]
○;安全に使用可能
△;基本的に安全ではあるが、万全とはいえない
×;安全に使用することが困難
の三段階で評価した。
表1に示すように、比較例1及び比較例2(ともに硬度が6point)では、熱可塑性エラストマー6が軟らかすぎて、ロールタオルPを切り取る際に手指等により熱可塑性エラストマー6が切り取り刃5の刃先51に押し付けられると、刃先51が熱可塑性エラストマー6を貫通することがあり、安全に使用することが困難であった。また、比較例4(硬度が50point)では、熱可塑性エラストマー6が硬くて曲がりにくいため、切り取り刃5と熱可塑性エラストマー6の間にロールタオルPが挟まったり、ロールタオルPを引き出す際に熱可塑性エラストマー6と引っ掛かったりして、安全に使用することが困難であった。
また、実施例2(硬度が30point)及び比較例3(硬度が20point)では、使用回数が増えるにつれて熱可塑性エラストマー6が変形することがあり、基本的に安全ではあるが、万全とはいえなかった。
一方、実施例1(硬度が40point)では、安全性の面で何の問題もなく使用することができた。
【0055】
[総合評価]
表1に示すように、実施例1では、すべての項目において、問題なく使用することができた。また、実施例2では、「使用頻度による劣化」及び「安全性・連続使用」の項目において、実施例1に劣るものの、基本的に問題なく使用することができた。
一方、比較例1〜4では、いずれかの項目で基準を満たしておらず、使用する際に問題
が生じていた。
これにより、熱可塑性エラストマー6の硬度は、30〜40pointであることが好ましく、特に40pointであることが好ましいことがわかった。
【0056】
このように、本実施形態に係るロールタオルディスペンサー100は、切り取り刃5の正面側に、先端部61に向かうにつれて厚さが薄くなるように成型した熱可塑性エラストマー6が、刃先51から所定の長さ突出した状態で取り付けられているので、熱可塑性エラストマー6の先端部61に柔軟性を持たせることができることとなって、手指と刃先51の接触を防止することができるとともに、紙製シート(ロールタオルP)が引っ掛かった際も抵抗感なくスムーズに引き出すことができる。
また、熱可塑性エラストマー6をリサイクルすることができるので、コストの面で優れた効果を発揮することができる。
【0057】
また、本実施形態に係るロールタオルディスペンサー100の熱可塑性エラストマー6における、切り取り刃5の刃先51から突出した突出部6aの先端部61の厚さTは、0.2〜0.8mmであるので、手指で内側に折り込まれて刃先51をカバーした際に穴が開くことがなくなり、手指と刃先51の接触を防止することができる。また、熱可塑性エラストマー6の突出部6aに柔軟性を持たせることができるので、ロールタオルPが引っ掛かった際も抵抗感なくスムーズに引き出すことができる。
【0058】
また、本実施形態に係るロールタオルディスペンサー100の熱可塑性エラストマー6における、切り取り刃5の刃先51から突出した突出部6aの長さLは、0.3〜2mmであるので、手指で突出部6aを内側に折り込んだ際に刃先51を完全にカバーすることとなって、手指と刃先51の接触を防止することができる。また、熱可塑性エラストマー6の突出部6aの長さLが長すぎないため、ロールタオルPをスムーズに引き出すことができる。
【0059】
また、本実施形態に係るロールタオルディスペンサー100の切り取り刃5は、刃元52から刃先51への方向と水平面Zとで形成される俯角αが0°以上90°未満となるように取り付けられているので、使用者の手指が刃先51に接触する虞を減少させることとなって、使用者の安全を確保することができる。また、ロールタオルPを刃先51に押し当てにくくなったり、或いはロールタオルPが熱可塑性エラストマー6の突出部6aに引っ掛かり易くなったりすることもないため、ロールタオルPをスムーズに引き出して切り取ることができる。
【0060】
また、本実施形態に係るロールタオルディスペンサー100の熱可塑性エラストマー6は、スチレン系の素材で形成されるので、耐水性やゴム弾性に優れた素材で保護カバーが形成されることとなって、ロールタオルPを切断する際に使用者の安全を確保することができるとともに、使用者の手指に付着した水分等で熱可塑性エラストマー6が劣化することを防止することができる。
【0061】
また、本実施形態に係るロールタオルディスペンサー100の熱可塑性エラストマー6の硬度は、30〜40pointであるので、熱可塑性エラストマー6の変形を防止できるとともに、ロールタオルPを引き出す際に熱可塑性エラストマー6が引き出しを阻害することもなくなるため、ロールタオルPを安全かつスムーズに引き出すことができる。
特に、熱可塑性エラストマー6の硬度を40pointにすると、柔軟性と硬度をバランスよく備えた保護カバーとすることができるので、非常に使い勝手がよい。
【0062】
以上、本発明に係る実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0063】
例えば、上記実施形態では、図5に示したように、切り取り刃5が蓋体12の下端部12aに取り付けられているが、これに限定されるものではない。
例えば、図8(a)に示すように、蓋体12の下端部12aよりも上方に切り取り刃5を取り付けるようにしてもよい。蓋体12の下端部12aよりも上方に切り取り刃5を取り付けることにより、ロールタオルPを刃先51に押し当てにくくなるため、ロールタオルPの切り取りが困難となるが、使用者の手指が刃先51に接触する虞が減少するため、使用者の安全により配慮することができる。
【0064】
また、図8(b)に示すように、蓋体12の下端部12aに、切り取り刃5の刃元52ではなく、刃の中間部分で取り付けるようにしてもよい。刃の中間部分で取り付けることにより、蓋体12の外部に切り取り刃5の刃元52が露出することになるので、使用者は切り取り刃5の存在を容易に認識することができる。
【0065】
また、上記実施形態では、熱可塑性エラストマー6が、図7に示すように、切り取り刃5の刃先51から所定の長さ突出した状態で取り付けられているが、その所定の長さを、図9に示すように、刃先51と熱可塑性エラストマー6の先端部61とが鉛直線V上にあるように定めてもよい。この場合、先端部61とロールタオルPの引っ掛かりを回避できるため、ロールタオルPをスムーズに引き出せるだけでなく、手指と刃先51の接触を防止することができる。
【0066】
また、上記実施形態では、紙製シートとして、ロール状に巻かれたロールタオルPを例示して説明しているが、これに限定されるものではない。取出口3から引き出し可能であれば、紙製シートが九十九折りされて重ねられたものであってもよい。
【符号の説明】
【0067】
100 ロールタオルディスペンサー
1 筐体
11 収納体
12 蓋体
2 ヒンジ部
3 取出口
4 ペーパー支持部
5 切り取り刃
51 刃先
52 刃元
6 熱可塑性エラストマー
6a 突出部
61 先端部
P ロールタオル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の紙製シートを収容する筐体に設けられた取出口から前記紙製シートを所望の長さ引き出した後、前記取出口近傍に取り付けられた切り取り刃により前記紙製シートを切り取ることが可能なペーパーディスペンサーにおいて、
前記切り取り刃の正面側に、先端部に向かうにつれて厚さが薄くなるように成型した熱可塑性エラストマーが、刃先から所定の長さ突出した状態で取り付けられていることを特徴とするペーパーディスペンサー。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーにおける、前記切り取り刃の刃先から突出した突出部の先端部の厚さは、0.2〜0.8mmであることを特徴とする請求項1に記載のペーパーディスペンサー。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーにおける、前記切り取り刃の刃先から突出した突出部の長さは、0.3〜2mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のペーパーディスペンサー。
【請求項4】
前記切り取り刃は、刃元から刃先への方向と水平面とで形成される俯角が0°以上90°未満となるように取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のペーパーディスペンサー。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマーは、スチレン系の素材で形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のペーパーディスペンサー。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマーの硬度は、30〜40pointであることを特徴とする請求項5に記載のペーパーディスペンサー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−91861(P2012−91861A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4442(P2011−4442)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】