説明

ホイップクリームの製造方法

【課題】ホイップクリームの泡の食感を軽いものとし、かつ泡の安定化を図る。
【解決手段】ホイップクリーム材料を攪拌機に入れ、この攪拌機を圧力槽内に入れ、圧力槽内の圧力を0.3MPa乃至1.0MPaの圧力まで昇圧し、かかる加圧状態で攪拌機を回転させて泡立てたホイップクリームの製造方法である。圧力槽内で昇圧する前に真空引きを行い、その後窒素ガスを充填して昇圧してもよい。ホイップクリーム材料を攪拌する間、氷水等で冷却することが好ましい。ホイップクリーム材料を攪拌する間、攪拌状態を目視できる。泡立て完了後、圧力槽の圧力を徐々に減圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋菓子や料理に使用するホイップクリームの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のホイップクリームの製造方法に関しては、以下の特許文献に記載の発明を挙げることができる。
特許文献1に記載の発明は、大きな容積の高圧ガス容器で亜酸化窒素ガス(笑気ガス)を供給する場合でも、取扱いが容易で且つ安全に当該ガスの添加量を簡単に調節できるホイップクリームの製造方法等に関するものである。
【0003】
その構成は、供給ボンベから供給される亜酸化窒素ガスを減圧弁により減圧し、その減圧された亜酸化窒素ガスの供給量を定量供給手段により定量化し、ホイップクリーム原乳を収容したクリーム容器内に供給し、クリーム容器内でホイップクリーム原乳に亜酸化窒素ガスを溶け込ませ、ホイップクリームを製造するものである。
即ち、油脂に笑気ガスが溶け易い性質を利用して高圧化で当該ガスを溶け込ませ、溶けた油脂を大気下に放出すると溶けた笑気ガスが泡となって出てくるのを利用したホイップクリームの製造方法である。
【0004】
特許文献2に記載の発明は、「起泡性水中油型乳化組成物の製造方法」に関するものであって、濃厚なコク感が持続する水中油型ホイップクリームを効率よく製造する方法に関するものである。
その特徴は、減菌工程のフラッシュポットの圧力を制御して起泡性水中油型乳化組成物を製造する方法であり、低廉な材料を用いてホイップクリームの材料を作る方法の発明であり、加圧蒸気を混入した後、減圧したフラッシュポット内で水分を揮散させるという方法である。即ち、材料の作り方であって、泡立てに関するものではない。
【0005】
特許文献3に記載の発明は、低油分ホイップクリーム用水中油型乳化物とこの製造方法に関するものであって、低油分ホイップクリーム用水中油型乳化物の材料に関するものである。
即ち、特定のSFCを有する油脂を成分とする乳化物を用いて、これを高圧化で乳化処理してホイップクリームの材料を製造する方法で、この低油分のものでも十分なホイップクリームが製作できることを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−28939号公報
【特許文献2】特開2000−116350号公報
【特許文献3】特開平8−256716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明においては、上記従来の製造方法と異なり、ホイップクリームの材料に係るものでなく、泡立て自体の過程における方法に関するものである。
そして、そのホイップクリームの泡が軽い食感を有し、且つその泡が従来よりもより長い時間維持され、液に戻ってしまわないようなホイップクリームの製造方法を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1のものは、ホイップクリーム材料を、外気圧よりも高い圧力下で、攪拌し、泡立てることを特徴とするホイップクリームの製造方法である。
【0009】
本発明の第2のものは、外気圧よりも高い圧力が0.3MPa乃至1.0MPaの圧力の範囲内であることを特徴とするホイップクリームの製造方法である。
【0010】
本発明の第3のものは、ホイップクリーム材料を攪拌機に入れ、この攪拌機を圧力槽内に入れ、圧力槽内の圧力を0.3MPa乃至1.0MPaの圧力まで昇圧し、かかる加圧状態で攪拌機を回転させて泡立てることを特徴とするホイップクリームの製造方法である。
【0011】
本発明の第4のものは、上記第3の発明において、圧力槽内で昇圧する前に真空引きを行い、その後窒素ガスを充填して昇圧することを特徴とするホイップクリームの製造方法である。
【0012】
本発明の第5のものは、上記第1乃至第4の何れかの発明において、ホイップクリーム材料を攪拌する間、氷水等で冷却することを特徴とするホイップクリームの製造方法である。
【0013】
本発明の第6のものは、上記第1乃至第5の何れかの発明において、ホイップクリーム材料を攪拌する間、攪拌状態を目視可能としたことを特徴とするホイップクリームの製造方法である。
【0014】
本発明の第7のものは、上記何れかの発明において、泡立て完了後、圧力槽内の圧力を徐々に減圧することを特徴とするホイップクリームの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1のものにおいては、常圧(通常の外気圧)で攪拌し泡立てるのに比較してより大きい圧力下で攪拌し泡立てるため、完成時にはより大きな泡となり、しかもその泡の安定度が高く、例えば2日程度経過しても未だに液に戻らないホイップクリームを得ることができる。
【0016】
食感は、多少きめが粗い感じであるが、今までにない、軽いホイップクリームが出来上がった。
そして、常圧下で製作したホイップクリームでは、2日を経過すると、下に多少液に戻っているのが認められるが、本発明の製法により製作されたホイップクリームにおいては、2日を経過しても未だ液に戻らないという結果を得た。
【0017】
本発明の第2のものにおいては、外気よりも高い圧力が、0.3MPa乃至1.0MPaの圧力の範囲内に限定して、より好適な昇圧範囲を特定したものである。その効果は、上記第1の発明と同じであって、常圧で攪拌し泡立てるのに比較してより大きな泡となり、しかもその泡の安定度が高く、例えば2日程度経過しても未だに液に戻らないホイップクリームを得ることができる。
より具体的には、生クリーム等のホイップクリーム材料を常圧で攪拌し、泡立てた場合、180ml当たり、73gから80g程度に泡立たせることができるが、本発明によれば、0.4MPa(約4気圧)の圧力下でホイップクリーム材料を攪拌し、泡立てた場合、180ml当たり37gのホイップクリームを得ることが出来た。
【0018】
食感は、多少きめが粗い感じであるが、今までにない、軽いホイップクリームが出来上がった。
そして、常圧下で製作したホイップクリームは、2日を経過すると、下に多少液に戻っているのが認められるが、本発明の製法により製作されたホイップクリームにおいては、2日を経過しても未だ液に戻らないという結果を得た。
【0019】
本発明の第3のものにおいては、その基本的な特徴は同一であるが、その攪拌し泡立てる過程において、攪拌機と圧力槽を用い、前者を後者の内部で昇圧するようにしたことを限定したものである。その効果は、上記第1及び第2の発明と同様である。
【0020】
本発明の第4のものにおいては、上記第3の発明において、昇圧前に圧力槽の内部のエアーを抜いて、その後窒素ガスを充填しつつ昇圧させたものであり、これによって加圧下における攪拌・泡立て過程で酸素ガスの存在を無くし、その代わりに窒素ガスがホイップクリームの泡となって、その後の酸化が防止され、ホイップクリームの泡の安定化と共に劣化の防止に寄与する。
また、この発明においては、窒素ガスを導入して昇圧するために、高価で大きなオイルフリーのコンプレッサー等を使用する必要がないという利点もある。
【0021】
本発明の第5のものにおいては、ホイップクリーム材料の泡立て過程において冷却を行なうことを限定したものであるが、これによりやはり上記同様にホイップクリームの良好な泡立てに寄与し、液化せずに、より長時間安定的に持続するホイップクリームを製作することができる。
【0022】
本発明の第6のものにおいても、上記それぞれの発明において、攪拌・泡立て過程において目視可能としたことを特徴とするものであり、泡立ち状態を目によって確認できるようにしたものである。
泡立て過程においては、その泡立て時間は事前にほぼ判明しているのであるが、その際の外気温や加圧状態により、必ずしも泡立て時間が一定しないこともあり、この泡立て過程において作業者が目視によりその泡立て状態を確認できるようにしたものである。
【0023】
本発明の第7のものにおいては、昇圧して泡立て完了後、当然常圧に戻すのであるが、その外気圧に戻す際に、急激に戻すのではなく、ゆっくりと常圧まで戻すようにしたものである。
このゆっくりと常圧まで減圧して戻すことによって、泡がゆっくりと膨れ上がり、極めて良好な泡立ち状態を得ることができるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るホイップクリームの製造方法の実施形態について説明する。
(1) まず、ホイップクリーム材料として、市販のホイップクリーム用の生クリーム200mlを用意する。
(2) この生クリーム200mlを、例えば「キッチンエイド(登録商標)」ミキサーの攪拌槽に入れる。ミキサーの種類は全く不問である。
(3) 前記ミキサーをそのまま圧力槽内に収納する。
【0025】
(4) 前記圧力槽内を0.4MPaまで加圧する。ミキサーを圧力槽内に入れた時点では、圧力槽内は外気圧と同様である。その後、圧力槽内の圧力を約0.4MPaまで昇圧する。
この昇圧圧力は、約0.3MPaから約1.0MPaまでが好適であるが、例えば0.1MPa程度であっても、外気圧よりも高い圧力を負荷することによって、より大きな泡立て状態を得ることができる。つまり、本発明の特徴は、外気圧よりも高い圧力下で攪拌し、泡立てることによって、その効果が得られるものである。
但し、あまり圧力をかけ過ぎると、常圧に戻す際に、泡が潰れてしまう恐れがあるため、その上限は自ずと決定される。
(5) ミキサーの電源を投入して、攪拌を開始し、泡立てを行なう。この際、圧力槽の窓より内部を観察して泡立ち状態を目視により確認する。
【0026】
攪拌時間は、気温等の外部の諸条件により異なるが、約5分から10分程度である。
攪拌時間が長すぎると、分離してしまうので、注意する。
ここで、ミキサーの攪拌槽を氷水等で冷却することが極めて好ましい。良好な泡立てを実現させるためである。
圧力槽の窓から目視によりホイップの程度が十分となれば、ミキサーの攪拌槽の回転を停止する。
【0027】
(6) 圧力槽から徐々にエアーを抜き、減圧して行き、常圧に戻す。
ミキサーの攪拌槽内のホイップクリーム材料は、見かけ上、約2.5倍程度に泡立ち、膨れ上がり、ホイップクリームの完成である。
【0028】
次に、前記(4) の昇圧過程の前に、真空引きを行なって内部のエアーを排出し、その代わりに窒素ガスを充填する過程を付加した第2実施形態について説明する。
前記の過程(1) から(3) までの過程終了後に、圧力槽内のエアーを真空ポンプを利用して排出する。圧力槽内には水分があるため、三臨界点以下まで圧力は下がることはなく、0.06MPaまで真空引きを行なう。
【0029】
真空引き後に数分間維持する。
真空ポンプを停止し、窒素ガスボンベから窒素ガスを導入する。その後、0.4MPaまで窒素ガスを圧入する。
その後前記(5) から(6) の過程を踏んでホイップクリームを製造する。
この第2実施形態によって製造されたホイップクリームは、その泡の内部には窒素ガスが導入され、酸化防止の機能を発揮し、より安定した泡状態を維持できるものとなる。
【0030】
以上の製造方法によって得られたホイップクリームにおいては以下のような特性を有する。
まず、先に述べたが、従来その180ml当たり、73gから80g程度に泡立たせることができたものが、本発明においては、180ml当たり37gのホイップクリームを得ることができ、その食感も今までにない軽いホイップクリームに仕上げることができた。
また、その泡立ちも、2日経過した状態でも、液化現象が見られず、従来では2日経過するとその液化現象が現れていたことと比較すれば、明らかにその泡立ちの安定化にも寄与するものである。
【0031】
このように、攪拌過程又は泡立て過程における加圧又は昇圧による手順を踏むことにより、本発明においてかかる効果を得ることができたものである。
尚、加圧、昇圧過程における圧力は、約0.3MPaから1.0MPa程度までが好適な範囲であることが実験により確認されているが、その加圧は、常圧(外気圧)よりも高いものであれば、その効果は発揮される。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、以下種々その形態を変更して実施することができる。
ホイップクリーム材料は、適宜選択して自由に構成することができる。
例えばその原材料としては、乳製品の他、植物油脂、乳化剤、メタリン酸ナトリウム、安定剤、香料、色素等々、各種の添加物を加えたものであってもよいが、市販の各種のホイップクリーム用材料を利用することができる。
【0033】
ミキサーも特定のものに限定されることはなく、各種大きさのものを利用でき、同様に圧力槽も自由に選択することができる。
圧力槽には、内部状態を目視できる窓付きのものが最適である。
真空引き及び窒素ガス圧入手段も自由に選択して実施することができる。
ミキサーによる攪拌、泡立て時間も適宜変更することができ、圧力槽の窓から目視によって確認を行うことが望ましい。
【0034】
以上、本発明は、攪拌・泡立て過程における加圧又は昇圧方法により、きわめて良好な泡立ちを得たホイップクリームを製造することができ、従来のものよりも軽い食感で、その泡立ちも極めて良好で、液化することも少ないホイップクリームの製造方法を提案することができたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイップクリーム材料を、外気圧よりも高い圧力下で、攪拌し、泡立てることを特徴とするホイップクリームの製造方法。
【請求項2】
外気圧よりも高い圧力が0.3MPa乃至1.0MPaの圧力の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のホイップクリームの製造方法。
【請求項3】
ホイップクリーム材料を攪拌機に入れ、この攪拌機を圧力槽内に入れ、圧力槽内の圧力を0.3MPa乃至1.0MPaの圧力まで昇圧し、かかる加圧状態で攪拌機を回転させて泡立てることを特徴とするホイップクリームの製造方法。
【請求項4】
圧力槽内で昇圧する前に真空引きを行い、その後窒素ガスを充填して昇圧することを特徴とする請求書3に記載のホイップクリームの製造方法。
【請求項5】
ホイップクリーム材料を攪拌する間、氷水等で冷却することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のホイップクリームの製造方法。
【請求項6】
ホイップクリーム材料を攪拌する間、攪拌状態を目視可能としたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のホイップクリームの製造方法。
【請求項7】
泡立て完了後、圧力槽内の圧力を徐々に減圧することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のホイップクリームの製造方法。

【公開番号】特開2012−165692(P2012−165692A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29349(P2011−29349)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(303055914)
【Fターム(参考)】