ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子及びその製造方法
【課題】本発明は、室温・常圧という穏やかな条件下で特別な雰囲気制御を要せず、高純度な中性子捕捉療法用として用いることのできる炭化ホウ素ナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】溶媒中に分散させたアモルファスのホウ素粒子に、レーザー光を照射して、平均粒径が1〜500nmで結晶性のホウ素ナノ粒子またはホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子を作製するナノ粒子の製造方法。およびこの製造方法で製造されたナノ粒子の表面を有機分子または高分子により修飾するナノ粒子の表面修飾方法
【解決手段】溶媒中に分散させたアモルファスのホウ素粒子に、レーザー光を照射して、平均粒径が1〜500nmで結晶性のホウ素ナノ粒子またはホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子を作製するナノ粒子の製造方法。およびこの製造方法で製造されたナノ粒子の表面を有機分子または高分子により修飾するナノ粒子の表面修飾方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素ナノ粒子、ホウ素含有ナノ粒子、並びに、これらの製造方法および表面修飾方法に関し、詳しくは高濃度にホウ素を含有したナノ粒子の作成技術及びその表面修飾技術に関する。特に頭部、頸部、脾臓、膵臓などの従来の手法では治療が難しい腫瘍の中性子捕捉療法による治療用薬剤として好適なナノ粒子、その製造方法および表面修飾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子捕捉療法とは脳腫瘍の治療法として臨床的に応用されてきた手法である。腫瘍部位に中性子捕捉能が高い元素(主として10B)を集積させ、そこに中性子を照射することにより起こる核反応が腫瘍細胞の大きさ程度しか到達しないことを利用して、腫瘍細胞のみを選択的に破壊させる手法である(非特許文献1参照)。脳腫瘍のように染み込むように大きくなる場合に特に有効とされ、予後がいい手法とされている。最近では脳腫瘍以外にも手術が難しい部位(例えば頭頸部、脾臓、膵臓)の腫瘍へも応用されるようになってきている。また、この他にも予後が悪いと言われる膀胱上皮ガンなどにも適用が検討されている。
この手法で重要な点は、中性子捕捉能が高い元素をどのように患部に導入するかという点である。現在臨床で使われているホウ素系物質は、下記式[化1]で示されるBSHとBPAの2種類の化合物のみである。このようにして用いる薬剤に要求される性能としては、毒性がない、ホウ素原子(中性捕捉能をもつ同位体10B)を多く含有する、腫瘍細胞に対して選択性がある、などがあげられる。
【0003】
【化1】
【0004】
近年中性子捕捉療法用薬剤の性能向上を目指して多くの研究が進められるようになり、また、特許出願も行われるようになってきた。しかし、その多くは新規の有機ホウ素化合物を合成し、これを中性子捕捉療法に応用しようとするものである(非特許文献2〜4参照)。また、ポルフィリンやフラーレン(特許文献1参照)、あるいはヘテロポリ酸(特許文献2参照)などの化合物中にホウ素を導入した例、リポソーム中にBSHやBPAを導入したもの(特許文献3および4参照)、カルボランのような無機系ホウ素化合物(特許文献5参照)の利用、ポリマーにBPA等を含む化合物を反応させたもの(特許文献6参照)などの複合系を利用しようとする試みも行われている。しかし、これらのいずれの手法も、ホウ素原子の量を飛躍的に向上することは不可能である。
【0005】
しかし治療効率の向上のためには腫瘍細胞中の高いホウ素濃度が必要とされており、単体のホウ素や炭化ホウ素のナノ粒子を用いる試みもなされている(非特許文献5〜8参照)。炭化ホウ素の合成法としては炭素熱反応法といった激しい環境下での合成やボラン類を用いたCVD法が一般的である(非特許文献9〜11参照)。また、高い硬度を有する炭化ホウ素のナノ粒子化としてはボールミルによる粉砕が行われている(非特許文献12〜13参照)。
【非特許文献1】L. G. Locher, et al., Am. J. Roentgenol. Radium Ther. 36 (1936) 1-13.
【非特許文献2】F. R. Barth, et al., Neurosurgery, 44 (1999) 433-451.
【非特許文献3】A. J. Coderre, et al., Radiat. Res., 151 (1999) 1-18
【非特許文献4】A. J. Coderre, et al., Radiat. Res., 149 (1998) 163-170
【非特許文献5】F. M. Hawthorne, et al., J. Med. Chem., 15 (1972) 449-452.
【非特許文献6】T. Miyakawa, et al.,日本医学放射線学会雑誌, 29 (1969) 1135-1147.
【非特許文献7】M. W. Mortensen, et al., Appl. Radiat. Isot., 64 (2006) 315-324.
【非特許文献8】M. W. Mortensen, et al., Bioconjugate Chem., 17 (2006) 284-290.
【非特許文献9】A. Alizadeh, et al., J. European Ceram. Soc., 24 (2004) 3227-3234.
【非特許文献10】C.-H. Jung, et al., Mater. Lett., 58 (2004) 609-614.
【非特許文献11】K. E. Lee, et al., Phys. Stat. Sol., 241 (2004) 1637-1640.
【非特許文献12】M. W. Mortensen, et al., Appl. Radiat. Isot., 64 (2006) 315-324.
【非特許文献13】M. W. Mortensen, et al., Bioconjugate Chem., 17 (2006) 284-290.
【特許文献1】特開2005−53904号公報
【特許文献2】特開2004−256370号公報
【特許文献3】特開2006−63008号公報
【特許文献4】特開2006−63009号公報
【特許文献5】特開2002−348381号公報
【特許文献6】特開2006−502993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、中性子捕捉療法用薬剤に要求される10Bの原子数の大幅な増加を図ることで、その効率の大幅な向上を実現する。このために近年盛んに研究が進められてきているナノテクの技術を応用することにより、ホウ素あるいはホウ素含有ナノ粒子の利用を実現する方法を提供することを目的とする。
【0007】
BPAの場合、腫瘍内濃度を30ppmにした場合10−5個/秒の割合で核変換が進行するが、10nmの純ホウ素ナノ粒子を同じ濃度だけ導入できれば、10−1個/秒の割合で核変換が進行することから、治療に要する時間の大幅な短縮による患者への負担の軽減が図れる。
また、10Bの天然同位体存在比は約20%であり、現在使用されているホウ素系薬剤は10Bの存在比を100%に濃縮した物質を用いていることから、コストの大幅な上昇を強いているという問題点がある。ホウ素ナノ粒子を用いることで、天然ホウ素でナノ粒子を作成した場合でも十分有効な核変換数を確保できるようになり、製造コストの大幅な低減を図ることも可能となる。
【0008】
ただし、ホウ素は酸化するとホウ酸となり、毒性を示すようになることから、例えば中性子捕捉療法用として用いる場合には、表面修飾技術と組み合わせることが必要である。また、腫瘍選択性を付与するため表面に有機あるいは高分子の物質を表面修飾することが必要となる。
【0009】
炭化ホウ素ナノ粒子は、その安定性から中性子捕捉療法への応用が期待されるホウ素化合物の一つである。しかし、その一般的な製法は1500℃以上でホウ酸や酸化ホウ素を還元する方法や有毒ガスを使ったCVD法しかなく、より簡便で安価な作成手法の開発が必要である。
また炭化ホウ素を中性子捕捉療法に利用するためには数100nm以下のナノ粒子である必要があるが、高い硬度を有する炭化ホウ素のボールミルなどによる物理的な粉砕には酸化を防ぐ必要など困難な点が多い。
【0010】
すなわち、本発明は、室温・常圧という穏やかな条件下で特別な雰囲気制御を要せず、高純度な中性子捕捉療法用として用いることのできる炭化ホウ素ナノ粒子の作製を可能にすることを目的とする。また、炭化ホウ素ナノ粒子の生成と同時に生体活性物質や薬剤などによるナノ粒子の表面修飾を行う方法を提供することを目的とする。
また、しかしナノ粒子はそのサイズによって生体内での影響が異なるものと考えられるが、その最適なサイズについての知見は全く得られていない。したがってサイズを変化させうる手法を用いたホウ素含有ナノ粒子合成法という視点も重要である。本発明はこれらの課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、室温・常圧下におけるナノ粒子合成法である液相レーザーアブレーション法を用いることで上記課題を解決し得ることを見出した。この手法は、レーザー光を液体中に設置したターゲット(粒子、板状体若しくはブロック)上に集光照射することにより、微小な高温プラズマ状態を短時間発生させ、この中でナノ粒子を生成させる方法である。ホウ素の場合、通常の調製法では1200°Cを越える温度が必要であり、また酸化しやすいことも大きな特徴である。
また、液体としては、水のみならずさまざまな有機溶媒の使用も可能であることも見出した。本発明は、これらの知見に基づき成すにいたったものである。
【0012】
すなわち、本発明は
(1)結晶性のホウ素ナノ粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子からなり、当該ナノ粒子の平均粒径が1〜500nmであり、酸素の含有率が5モル%以下であることを特徴とするホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子、
(2)前記ホウ素含有ナノ粒子が、結晶性炭化ホウ素粒子であることを特徴とする(1)記載のナノ粒子、
(3)ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子の表面に、グラファイトの被覆層を備えることを特徴とする(1)又は(2)記載のナノ粒子、
(4)ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子の表面のグラファイトの被覆層に導入されたカルボキシル基を備えることを特徴とする(3)記載のナノ粒子、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のナノ粒子の表面が、有機分子または高分子により修飾されたナノ粒子であることを特徴とする表面修飾ナノ粒子、
(6)ナノ粒子が液体中に分散された粒子又は乾燥された粒子であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のナノ粒子、
(7)表面修飾されたナノ粒子が液体中に分散された粒子又は乾燥された粒子であることを特徴とする(5)記載の表面修飾ナノ粒子、
(8)ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子に含有される、同位体10Bの全Bに対する割合が、20%乃至100%までの範囲にあることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のホウ素ナノ粒子またはホウ素含有ナノ粒子、
(9)ホウ素を10原子%以上含有するターゲットを溶媒中に浸漬し、このターゲットにレーザー光を照射して、平均粒径が1〜500nmであり、結晶性のホウ素ナノ粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子を作製することを特徴とするナノ粒子の製造方法、
(10)ターゲットがアモルファスのホウ素粒子若しくはホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子又はこれらの板状体若しくはブロックであることを特徴とする(9)記載のナノ粒子の製造方法
(11)前記ホウ素含有ナノ粒子が、結晶性炭化ホウ素粒子であることを特徴とする(10)記載のナノ粒子の製造方法、
(12)ターゲットがアモルファスのホウ素粒子若しくはホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子である場合において、当該粒子を溶媒中に分散させて行うと共に、その分散濃度を0.001〜5質量%として、レーザー光を照射することを特徴とする(10)又は(11)記載のナノ粒子の製造方法、
(13)室温及び常圧でレーザー光を照射することを特徴とする(9)〜(12)のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法
(14)前記ターゲットにレーザー光を照射することにより、ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子に含まれる酸素の含有率を5モル%以下とすることを特徴とする(9)〜(13)のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法、
(15)前記ナノ粒子の製造と前記表面の修飾を一段階プロセス又は多段階プロセスで行うことを特徴とする(9)〜(14)のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は室温・常圧という穏やかな条件下で特別な雰囲気制御を要せず、高純度な中性子捕捉療法用炭化ホウ素ナノ粒子の作製を可能にするものである。これが可能となれば穏やかな条件下での作製という特徴を用いて、炭化ホウ素ナノ粒子の生成と同時に生体活性物質や薬剤などによるナノ粒子の表面修飾も可能である。
また、本発明は、従来、高温を必要とするホウ素の合成と有機あるいは高分子による表面修飾をワンステップあるいは連続的に実現することができる。
本発明の方法により、製造、修飾されたナノ粒子は、高効率中性子捕捉療法用薬剤として有望である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のナノ粒子の原料として、アモルファスのホウ素ターゲット(粒子、板状体若しくはブロック)、又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ターゲット(粒子、板状体若しくはブロック)を、それぞれ使用することができる。ホウ素を10原子%以上含有するホウ素として、代表的には、炭化ホウ素を挙げることができる。しかし、炭化ホウ素に制限される必要はない。なお、本発明において「原子%」とは、全原子数に対する原子数の百分率を意味する。
原料となるアモルファスのホウ素粒子には、例えばAldrich社製、アモルファスホウ素(99.995%)を用いることができる。また、原料のホウ素粒子の粒径は、好ましくは50nm〜10μmである。しかし、このような市販の粒子は不定形であり表面に凹凸が多いことから直接の医療応用には適さないものである。
【0015】
粒子状態の原料は、溶媒中に分散させるが、原料が板状体若しくはブロックの場合は溶媒中に浸漬する。これらの粒子、板状体又はブロックにレーザー光を照射するが、粒子生成は全て溶媒の中で行われる。いずれの場合もレーザー光により、溶媒中で蒸発するか又は溶滴となるが、溶媒中にあるために急冷され、平均粒径が1〜500nmのナノ粒子が形成される。
形成されたナノ粒子は、大気と遮断されているので、大気中の酸素による酸化はなく、溶媒分子との反応が進行する。特に照射レーザーのエネルギーが1レーザーパルス当たり1.5J/cm2を超える場合では、有機溶媒中の酸素と反応して安定な酸化ホウ素あるいはホウ酸が生成するが、1レーザーパルス当たり1.5J/cm2以下の場合は競合する酸化反応を抑えて炭化反応が進行するため、酸素の含有率を5モル%以下とすることができる。
【0016】
これによって、ナノ粒子の平均粒径が1〜500nmであり、酸素の含有率が5モル%以下である結晶性のホウ素ナノ粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子の製造が可能となる。すなわち、通常1500°C以上の高温還元雰囲気が必要な炭化ホウ素生成反応を、室温大気圧環境下で行わせることが可能であることを示している。
ホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子としては、特に炭化ホウ素を挙げることができるが、この炭化ホウ素ナノ粒子の生成は、他の生体活性物質や薬剤などによるナノ粒子の表面修飾も可能であり、極めて有用である。このような性状を備えた粒子は、本願発明の大きな特徴の一つである。
【0017】
溶媒としては水、アルコール、酢酸エチル、その他の有機溶媒を用いることができる。これらの液体にさまざまな物質を溶解させることで、ナノ粒子の大きさの制御や表面状態を変化させて、修飾させることが可能である。すなわち、前記ナノ粒子の製造と前記表面の修飾を一段階プロセス又は多段階のプロセスで製造することができる。
例えば、他の物質系で既に実証されている(例えば、F. Mafune et al., Chem. Phys. Lett., 372 (2003) 199-204, H. Usui et al., J. Phys. Chem. B, 109 (2005) 120-124, F. Mafune, Chem. Phys. Lett. 397 (2004) 133-137)記載の方法を用いることができる。
【0018】
アモルファスのホウ素粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子を、溶媒中に分散させる場合には、分散濃度を0.001〜5質量%として、レーザー光を照射することが望ましい。これは、生産効率を上げるためである。
原料が板状体若しくはブロックの場合は、特に制限はなく、溶媒中でレーザー光が効率よく照射できるような状況下に置くだけで良い。いずれの場合にも、レーザー光の照射により、結晶性のホウ素ナノ粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子を製造することができる。
【0019】
本発明においては、レーザー照射を、高温、高圧下で行っても良いが、室温(例えば15〜40°C)、常圧(例えば990〜1020Pa)という穏やかな条件下で、特別な雰囲気制御を要せず行うことができる。
高温、高圧下で行うことは、周囲の環境の汚染(不必要な反応)を伴うものであるから、これが不要であることは、汚染を避けることができる意味で、大きな効果を有するものである。しかし、上記の通り、高温、高圧下で実施することを制限するものではない。
【0020】
レーザーの種類としては、例えばNd:YAGレーザー(スペクトラ・フィジックス社製 Quanta-Ray)を用いることができる。レーザーの波長は300〜1100nmが好ましい。
レーザーの出力は、好ましくは0.01〜1W、さらに好ましくは0.01〜0.1Wである。これらの値は、1レーザーパルス当たりの液相中でのエネルギー密度にして、それぞれ0.51〜51J/cm2と0.51〜5.1J/cm2に対応する。照射時間は、好ましくは0.1〜5時間、さらに好ましくは3〜5時間である。
【0021】
本発明のホウ素ナノ粒子若しくはホウ素含有ナノ粒子の平均粒径は、上記の通り1〜500nmであり、好ましくは10〜300nm、さらに好ましくは50〜200nmである。これらは、本願発明の方法により達成できる。
さらに、本発明の方法では、レーザー照射の条件等を適宜調整することにより、毒性を示すホウ酸の生成を抑制し、ホウ素含有ナノ粒子の酸素の含有率を5モル%以下、好ましくは1%以下とすることができる。
【0022】
本発明の方法では、例えば、酢酸エチル中で、比較的弱い出力のレーザーを照射することで、グラファイト層が表面を被覆した結晶性炭化ホウ素ナノ粒子を得ることができる。
このようなグラファイト層は、酸などによる通常の化学反応により表面にカルボキシル基を導入することが可能である。したがって、このカルボキシル基に例えばアミノ基を有する有機分子または高分子を反応させることにより上記のナノ粒子の表面を修飾することができる。
【0023】
また、有機分子または高分子として腫瘍選択性を有する分子を用いることで、ナノ粒子表面に腫瘍選択性を付与することができる。本発明において、好ましく用いることができる有機分子としてはアミノ酸、タンパク質、糖タンパク質などが挙げられる。また、好ましく用いることができる高分子としてはアミノ基を有するポリエチレングリコール(PEG)などが挙げられる。
本発明においては、この液体に上記の有機分子または高分子を溶解させることで、ホウ素ナノ粒子またはホウ素含有ナノ粒子の作製と、作製されたナノ粒子の表面の修飾を一段階のプロセスで行うことができる。また、この修飾工程を、多段階で行うことも当然可能である。本願発明はこれらを全て包含する。
【0024】
本発明の方法で製造されたナノ粒子、あるいはこのナノ粒子を、上記の方法で表面修飾したナノ粒子は、溶液中に分散されたまま用いても良いし、乾燥させた粉末として用いても良い。また、粉末とする場合には、例えば硝酸で洗浄することで、未反応のアモルファスのホウ素粒子を除去することができる。このような洗浄して得られた表面修飾ホウ素含有ナノ粒子の粉末は、例えば、中性子捕捉療法用薬剤として好適に用いることができる。
【0025】
さらに、ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子に含有される同位体10Bの全Bに対する割合を20%乃至100%までの範囲とすることが可能である。このように、本発明の方法により、表面修飾されたホウ素含有ナノ粒子は、10Bの濃度が高く、中性子捕捉療法による、脳腫瘍や頭頸部の腫瘍治療用薬剤に好適に用いることができる。また、それ以外のナノ粒子応用医療に用いることが可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例および比較例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
(液相中でのレーザー照射による炭化ボロンナノ粒子の作製)
6mlの酢酸エチル中に分散させた0.04mgの天然アモルファスのホウ素粒子(直径:50〜100nm)に、Nd:YAGの第3高調波(355nm)をレンズで集光させながら0.03〜0.3W(1レーザーパルス当たり1.5〜15J/cm2)のレーザー出力で、大気圧下、室温で、それぞれ5時間照射を行った。照射前の原料であるアモルファスのホウ素粒子および、0.3、0.1、0.05、0.03の各Wの出力(それぞれ1レーザーパルス当たり15,5.1,2.6、1.5J/cm2)でレーザー照射して得られたナノ粒子のX線回折の結果を図1に示す。図1中、■は炭化ホウ素(B4C)、●はホウ酸(H3BO4)のピークをそれぞれ示す。原料のアモルファスホウ素はピークを示さなかったのに対し、0.3W(1レーザーパルス当たり15J/cm2)で照射した場合、ホウ酸のピークが確認された。照射出力を低下させるに従ってボロン炭化物のピークが出現し、0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)ではホウ酸のピークは確認されず、炭化ホウ素のピークのみが検出された。
【0028】
0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)でレーザー照射して得られた炭化ホウ素粒子を透過型電子顕微鏡観察及び制限視野電子線回折により解析した結果、図2の透過型電子顕微鏡写真に示す直径約100nmの粒子から、図3に示す炭化ホウ素の電子線回折写真が得られ、結晶性炭化ホウ素粒子が得られたことが確認できた。
【0029】
(酸処理とレーザー出力の効果)
本実施例ではホウ素粒子を出発原料にして、炭化ホウ素粒子を得ていることから生成物は両者の混合物である可能性がある。そこで、得られた粒子をいったん乾燥後硝酸中に分散することにより、ホウ素粒子を溶解させて炭化ホウ素粒子のみを取り出した。
図4は、0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)、300分のレーザー照射後、さらに硝酸処理した炭化ホウ素ナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。図5は図4で得られた粒子サイズ(粒径)分布を示すグラフである。図4および5から、サイズの比較的揃った炭化ホウ素球形粒子が得られることがわかる。
【0030】
図6はレーザー照射時間を300分に固定したときのレーザー出力と粒子サイズの関係を示すグラフであり、■は平均粒径、その上下のバーは標準偏差の範囲を示す。図6から、レーザー出力の増加とともにサイズが増加することが示された。すなわちサイズ制御がある程度可能であることを示している。
【0031】
(レーザー照射時間の効果)
0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)、10分間のレーザー光照射後、硝酸処理を行って得られた炭化ホウ素粒子の走査型電子顕微鏡写真を図7に、その粒子サイズ分布を図8に示す。
この条件では、平均粒径が177nm、標準偏差が71.8nmであり、図4および5に示す場合に比べ、平均粒子サイズを更に小さくできることがわかる。
図9はレーザー照射時間と粒子サイズとの関係を図6と同様にしてまとめたグラフである。レーザー照射時間の増加とともにサイズが増加することが示され、照射時間の制御によっても、サイズ制御がある程度可能であることを示している。
【0032】
(収率の評価)
硝酸処理の際に溶出するホウ素の量を定量することによりホウ素粒子から炭化ホウ素粒子に変化した収率を評価することができる。これをまとめたのが、図10のグラフである。
図10においては、棒グラフの黒色部分が硝酸中に溶出したホウ素量を、左右が破線で描かれた白抜き部分が、炭化ホウ素粒子の収率を示し、それぞれの収率はグラフ内に数値を合わせて記載した。この場合、レーザー光照射により、最大71%のホウ素粒子が炭化ホウ素粒子に転換されることがわかる。
【0033】
(炭化ホウ素粒子最表面の構造評価)
このようにして得られた結晶性炭化ホウ素ナノ粒子の高分解能透過型電子顕微鏡写真を図11に示す。図11に示すように、図中の「core」で示されるホウ素ナノ粒子の表面を、図中矢印および「graphite」で示される7〜8nmのグラファイト層が表面を被覆していた。このようなグラファイト層は、酸処理により表面にカルボキシル基を導入することが可能であり、表面に腫瘍選択性を粒子作成後に付与するために有効である。図12は酸処理前後の赤外吸収スペクトルであり、カルボキシル基が炭化ホウ素ナノ粒子表面に導入されていることがわかる。これを介して例えばアミノ基を有する他の有機化合物や高分子化合物を導入することは容易である。
【0034】
(カルボキシル基修飾された炭化ホウ素粒子の分散性)
走査型電子顕微鏡を用いた粒子の直接観察での平均粒子サイズは、いずれも約200nmであった。これに対し、酸処理前後の炭化ホウ素粒子を純水に分散させ、動的光散乱法により平均粒子サイズを評価したところ、酸処理前の粒子は473nm、酸処理後は218nmであった。これは酸処理前の粒子は水中で凝集しているために直接観察と比較して大きく評価されたためと考えられる。酸処理により、分散性が向上することがわかる。
【0035】
(液相種の効果)
上記の実施例では全て酢酸エチル中でのレーザー照射によるものであったが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド中においても同様な炭化ホウ素ナノ粒子が得られた。得られる炭化ホウ素ナノ粒子のサイズは、用いる溶媒の誘電率に大きく依存し、誘電率の増加に従い粒子サイズは減少した。この事実が粒子サイズを液相中の選択により140〜240nmの平均粒径の範囲で制御できることを意味している。これらの結果を図13に示す。
【0036】
(炭化ホウ素ナノ粒子が合成可能な原料)
上記の実施例で示した結果は、全て天然アモルファスのホウ素粒子を用いた場合であるが、その他にも10B濃縮ホウ素結晶化粉体や、炭化ホウ素粒子又はこれらの板状体若しくはブロック状固体を、原料に同様な手法を用いても、グラファイト層に覆われた炭化ホウ素ナノ粒子が得られた。すなわち、本手法はホウ素を含有し、かつ使用するレーザー光に対する光学吸収がある場合において、再現性良くナノ粒子の生成が可能であることを示している。
【0037】
上記において、原料となるターゲットについては、主として粒子を用いたもので説明したが、この原料を粒子以外の板状体又はブロックを用いることができる。この場合は、溶媒中に浸漬するだけで良いので、取り扱いが容易であるという利点がある。これらの板状体又はブロックにレーザー光を照射すると、レーザー光により溶媒中で蒸発するか又は溶滴となり、かつ溶媒中で急冷され、平均粒径が1〜500nmのナノ粒子が形成される。
この板状体又はブロックは、焼結体又は溶製品(溶解・鋳造材料、必要に応じて塑性加工又は機械加工した材料)を用いることができる。これらを任意に選択できることは容易に理解されるべきものであり、本発明は、これらを全て包含する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例の原料のアモルファスホウ素とレーザー照射後の粒子のX線回折結果を示すグラフである。
【図2】実施例の0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)の照射により得られた炭化ホウ素ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】図2で観察された粒子から得られた制限視野電子線回折写真である。
【図4】実施例のホウ素粒子へのレーザー照射(0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)、300分)後、更に硝酸処理して得られた炭化ホウ素粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】図4から得られた粒子サイズ分布を示すグラフである。
【図6】実施例の粒子平均サイズのレーザー出力依存性(300分)を示すグラフである。
【図7】実施例のホウ素粒子へのレーザー照射{0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)、10分}後、更に硝酸処理して得られた炭化ホウ素粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】図7から得られた粒子サイズ分布を示す図である。
【図9】実施例のレーザー{0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)}照射時間と粒子サイズとの関係を示す図である。
【図10】実施例のレーザー照射{0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)}による炭化ホウ素粒子の収率とレーザー照射時間との関係を示す図である。
【図11】実施例の結晶性炭化ホウ素ナノ粒子表面近傍の高分解能透過型電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例の結晶性炭化ホウ素ナノ粒子へ酸処理を行った前後の赤外吸収スペクトルである。
【図13】実施例の結晶性炭化ホウ素ナノ粒子の平均粒子サイズの溶媒の誘電率依存性を示す図である。1は酢酸エチル、2はエタノール、3はメタノール、4は1−プロパノール、5はアセトン、6はアセトニトリル、7はN,N-ジメチルホルムアミドである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素ナノ粒子、ホウ素含有ナノ粒子、並びに、これらの製造方法および表面修飾方法に関し、詳しくは高濃度にホウ素を含有したナノ粒子の作成技術及びその表面修飾技術に関する。特に頭部、頸部、脾臓、膵臓などの従来の手法では治療が難しい腫瘍の中性子捕捉療法による治療用薬剤として好適なナノ粒子、その製造方法および表面修飾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中性子捕捉療法とは脳腫瘍の治療法として臨床的に応用されてきた手法である。腫瘍部位に中性子捕捉能が高い元素(主として10B)を集積させ、そこに中性子を照射することにより起こる核反応が腫瘍細胞の大きさ程度しか到達しないことを利用して、腫瘍細胞のみを選択的に破壊させる手法である(非特許文献1参照)。脳腫瘍のように染み込むように大きくなる場合に特に有効とされ、予後がいい手法とされている。最近では脳腫瘍以外にも手術が難しい部位(例えば頭頸部、脾臓、膵臓)の腫瘍へも応用されるようになってきている。また、この他にも予後が悪いと言われる膀胱上皮ガンなどにも適用が検討されている。
この手法で重要な点は、中性子捕捉能が高い元素をどのように患部に導入するかという点である。現在臨床で使われているホウ素系物質は、下記式[化1]で示されるBSHとBPAの2種類の化合物のみである。このようにして用いる薬剤に要求される性能としては、毒性がない、ホウ素原子(中性捕捉能をもつ同位体10B)を多く含有する、腫瘍細胞に対して選択性がある、などがあげられる。
【0003】
【化1】
【0004】
近年中性子捕捉療法用薬剤の性能向上を目指して多くの研究が進められるようになり、また、特許出願も行われるようになってきた。しかし、その多くは新規の有機ホウ素化合物を合成し、これを中性子捕捉療法に応用しようとするものである(非特許文献2〜4参照)。また、ポルフィリンやフラーレン(特許文献1参照)、あるいはヘテロポリ酸(特許文献2参照)などの化合物中にホウ素を導入した例、リポソーム中にBSHやBPAを導入したもの(特許文献3および4参照)、カルボランのような無機系ホウ素化合物(特許文献5参照)の利用、ポリマーにBPA等を含む化合物を反応させたもの(特許文献6参照)などの複合系を利用しようとする試みも行われている。しかし、これらのいずれの手法も、ホウ素原子の量を飛躍的に向上することは不可能である。
【0005】
しかし治療効率の向上のためには腫瘍細胞中の高いホウ素濃度が必要とされており、単体のホウ素や炭化ホウ素のナノ粒子を用いる試みもなされている(非特許文献5〜8参照)。炭化ホウ素の合成法としては炭素熱反応法といった激しい環境下での合成やボラン類を用いたCVD法が一般的である(非特許文献9〜11参照)。また、高い硬度を有する炭化ホウ素のナノ粒子化としてはボールミルによる粉砕が行われている(非特許文献12〜13参照)。
【非特許文献1】L. G. Locher, et al., Am. J. Roentgenol. Radium Ther. 36 (1936) 1-13.
【非特許文献2】F. R. Barth, et al., Neurosurgery, 44 (1999) 433-451.
【非特許文献3】A. J. Coderre, et al., Radiat. Res., 151 (1999) 1-18
【非特許文献4】A. J. Coderre, et al., Radiat. Res., 149 (1998) 163-170
【非特許文献5】F. M. Hawthorne, et al., J. Med. Chem., 15 (1972) 449-452.
【非特許文献6】T. Miyakawa, et al.,日本医学放射線学会雑誌, 29 (1969) 1135-1147.
【非特許文献7】M. W. Mortensen, et al., Appl. Radiat. Isot., 64 (2006) 315-324.
【非特許文献8】M. W. Mortensen, et al., Bioconjugate Chem., 17 (2006) 284-290.
【非特許文献9】A. Alizadeh, et al., J. European Ceram. Soc., 24 (2004) 3227-3234.
【非特許文献10】C.-H. Jung, et al., Mater. Lett., 58 (2004) 609-614.
【非特許文献11】K. E. Lee, et al., Phys. Stat. Sol., 241 (2004) 1637-1640.
【非特許文献12】M. W. Mortensen, et al., Appl. Radiat. Isot., 64 (2006) 315-324.
【非特許文献13】M. W. Mortensen, et al., Bioconjugate Chem., 17 (2006) 284-290.
【特許文献1】特開2005−53904号公報
【特許文献2】特開2004−256370号公報
【特許文献3】特開2006−63008号公報
【特許文献4】特開2006−63009号公報
【特許文献5】特開2002−348381号公報
【特許文献6】特開2006−502993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、中性子捕捉療法用薬剤に要求される10Bの原子数の大幅な増加を図ることで、その効率の大幅な向上を実現する。このために近年盛んに研究が進められてきているナノテクの技術を応用することにより、ホウ素あるいはホウ素含有ナノ粒子の利用を実現する方法を提供することを目的とする。
【0007】
BPAの場合、腫瘍内濃度を30ppmにした場合10−5個/秒の割合で核変換が進行するが、10nmの純ホウ素ナノ粒子を同じ濃度だけ導入できれば、10−1個/秒の割合で核変換が進行することから、治療に要する時間の大幅な短縮による患者への負担の軽減が図れる。
また、10Bの天然同位体存在比は約20%であり、現在使用されているホウ素系薬剤は10Bの存在比を100%に濃縮した物質を用いていることから、コストの大幅な上昇を強いているという問題点がある。ホウ素ナノ粒子を用いることで、天然ホウ素でナノ粒子を作成した場合でも十分有効な核変換数を確保できるようになり、製造コストの大幅な低減を図ることも可能となる。
【0008】
ただし、ホウ素は酸化するとホウ酸となり、毒性を示すようになることから、例えば中性子捕捉療法用として用いる場合には、表面修飾技術と組み合わせることが必要である。また、腫瘍選択性を付与するため表面に有機あるいは高分子の物質を表面修飾することが必要となる。
【0009】
炭化ホウ素ナノ粒子は、その安定性から中性子捕捉療法への応用が期待されるホウ素化合物の一つである。しかし、その一般的な製法は1500℃以上でホウ酸や酸化ホウ素を還元する方法や有毒ガスを使ったCVD法しかなく、より簡便で安価な作成手法の開発が必要である。
また炭化ホウ素を中性子捕捉療法に利用するためには数100nm以下のナノ粒子である必要があるが、高い硬度を有する炭化ホウ素のボールミルなどによる物理的な粉砕には酸化を防ぐ必要など困難な点が多い。
【0010】
すなわち、本発明は、室温・常圧という穏やかな条件下で特別な雰囲気制御を要せず、高純度な中性子捕捉療法用として用いることのできる炭化ホウ素ナノ粒子の作製を可能にすることを目的とする。また、炭化ホウ素ナノ粒子の生成と同時に生体活性物質や薬剤などによるナノ粒子の表面修飾を行う方法を提供することを目的とする。
また、しかしナノ粒子はそのサイズによって生体内での影響が異なるものと考えられるが、その最適なサイズについての知見は全く得られていない。したがってサイズを変化させうる手法を用いたホウ素含有ナノ粒子合成法という視点も重要である。本発明はこれらの課題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、室温・常圧下におけるナノ粒子合成法である液相レーザーアブレーション法を用いることで上記課題を解決し得ることを見出した。この手法は、レーザー光を液体中に設置したターゲット(粒子、板状体若しくはブロック)上に集光照射することにより、微小な高温プラズマ状態を短時間発生させ、この中でナノ粒子を生成させる方法である。ホウ素の場合、通常の調製法では1200°Cを越える温度が必要であり、また酸化しやすいことも大きな特徴である。
また、液体としては、水のみならずさまざまな有機溶媒の使用も可能であることも見出した。本発明は、これらの知見に基づき成すにいたったものである。
【0012】
すなわち、本発明は
(1)結晶性のホウ素ナノ粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子からなり、当該ナノ粒子の平均粒径が1〜500nmであり、酸素の含有率が5モル%以下であることを特徴とするホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子、
(2)前記ホウ素含有ナノ粒子が、結晶性炭化ホウ素粒子であることを特徴とする(1)記載のナノ粒子、
(3)ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子の表面に、グラファイトの被覆層を備えることを特徴とする(1)又は(2)記載のナノ粒子、
(4)ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子の表面のグラファイトの被覆層に導入されたカルボキシル基を備えることを特徴とする(3)記載のナノ粒子、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のナノ粒子の表面が、有機分子または高分子により修飾されたナノ粒子であることを特徴とする表面修飾ナノ粒子、
(6)ナノ粒子が液体中に分散された粒子又は乾燥された粒子であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のナノ粒子、
(7)表面修飾されたナノ粒子が液体中に分散された粒子又は乾燥された粒子であることを特徴とする(5)記載の表面修飾ナノ粒子、
(8)ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子に含有される、同位体10Bの全Bに対する割合が、20%乃至100%までの範囲にあることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のホウ素ナノ粒子またはホウ素含有ナノ粒子、
(9)ホウ素を10原子%以上含有するターゲットを溶媒中に浸漬し、このターゲットにレーザー光を照射して、平均粒径が1〜500nmであり、結晶性のホウ素ナノ粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子を作製することを特徴とするナノ粒子の製造方法、
(10)ターゲットがアモルファスのホウ素粒子若しくはホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子又はこれらの板状体若しくはブロックであることを特徴とする(9)記載のナノ粒子の製造方法
(11)前記ホウ素含有ナノ粒子が、結晶性炭化ホウ素粒子であることを特徴とする(10)記載のナノ粒子の製造方法、
(12)ターゲットがアモルファスのホウ素粒子若しくはホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子である場合において、当該粒子を溶媒中に分散させて行うと共に、その分散濃度を0.001〜5質量%として、レーザー光を照射することを特徴とする(10)又は(11)記載のナノ粒子の製造方法、
(13)室温及び常圧でレーザー光を照射することを特徴とする(9)〜(12)のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法
(14)前記ターゲットにレーザー光を照射することにより、ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子に含まれる酸素の含有率を5モル%以下とすることを特徴とする(9)〜(13)のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法、
(15)前記ナノ粒子の製造と前記表面の修飾を一段階プロセス又は多段階プロセスで行うことを特徴とする(9)〜(14)のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は室温・常圧という穏やかな条件下で特別な雰囲気制御を要せず、高純度な中性子捕捉療法用炭化ホウ素ナノ粒子の作製を可能にするものである。これが可能となれば穏やかな条件下での作製という特徴を用いて、炭化ホウ素ナノ粒子の生成と同時に生体活性物質や薬剤などによるナノ粒子の表面修飾も可能である。
また、本発明は、従来、高温を必要とするホウ素の合成と有機あるいは高分子による表面修飾をワンステップあるいは連続的に実現することができる。
本発明の方法により、製造、修飾されたナノ粒子は、高効率中性子捕捉療法用薬剤として有望である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のナノ粒子の原料として、アモルファスのホウ素ターゲット(粒子、板状体若しくはブロック)、又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ターゲット(粒子、板状体若しくはブロック)を、それぞれ使用することができる。ホウ素を10原子%以上含有するホウ素として、代表的には、炭化ホウ素を挙げることができる。しかし、炭化ホウ素に制限される必要はない。なお、本発明において「原子%」とは、全原子数に対する原子数の百分率を意味する。
原料となるアモルファスのホウ素粒子には、例えばAldrich社製、アモルファスホウ素(99.995%)を用いることができる。また、原料のホウ素粒子の粒径は、好ましくは50nm〜10μmである。しかし、このような市販の粒子は不定形であり表面に凹凸が多いことから直接の医療応用には適さないものである。
【0015】
粒子状態の原料は、溶媒中に分散させるが、原料が板状体若しくはブロックの場合は溶媒中に浸漬する。これらの粒子、板状体又はブロックにレーザー光を照射するが、粒子生成は全て溶媒の中で行われる。いずれの場合もレーザー光により、溶媒中で蒸発するか又は溶滴となるが、溶媒中にあるために急冷され、平均粒径が1〜500nmのナノ粒子が形成される。
形成されたナノ粒子は、大気と遮断されているので、大気中の酸素による酸化はなく、溶媒分子との反応が進行する。特に照射レーザーのエネルギーが1レーザーパルス当たり1.5J/cm2を超える場合では、有機溶媒中の酸素と反応して安定な酸化ホウ素あるいはホウ酸が生成するが、1レーザーパルス当たり1.5J/cm2以下の場合は競合する酸化反応を抑えて炭化反応が進行するため、酸素の含有率を5モル%以下とすることができる。
【0016】
これによって、ナノ粒子の平均粒径が1〜500nmであり、酸素の含有率が5モル%以下である結晶性のホウ素ナノ粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子の製造が可能となる。すなわち、通常1500°C以上の高温還元雰囲気が必要な炭化ホウ素生成反応を、室温大気圧環境下で行わせることが可能であることを示している。
ホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子としては、特に炭化ホウ素を挙げることができるが、この炭化ホウ素ナノ粒子の生成は、他の生体活性物質や薬剤などによるナノ粒子の表面修飾も可能であり、極めて有用である。このような性状を備えた粒子は、本願発明の大きな特徴の一つである。
【0017】
溶媒としては水、アルコール、酢酸エチル、その他の有機溶媒を用いることができる。これらの液体にさまざまな物質を溶解させることで、ナノ粒子の大きさの制御や表面状態を変化させて、修飾させることが可能である。すなわち、前記ナノ粒子の製造と前記表面の修飾を一段階プロセス又は多段階のプロセスで製造することができる。
例えば、他の物質系で既に実証されている(例えば、F. Mafune et al., Chem. Phys. Lett., 372 (2003) 199-204, H. Usui et al., J. Phys. Chem. B, 109 (2005) 120-124, F. Mafune, Chem. Phys. Lett. 397 (2004) 133-137)記載の方法を用いることができる。
【0018】
アモルファスのホウ素粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子を、溶媒中に分散させる場合には、分散濃度を0.001〜5質量%として、レーザー光を照射することが望ましい。これは、生産効率を上げるためである。
原料が板状体若しくはブロックの場合は、特に制限はなく、溶媒中でレーザー光が効率よく照射できるような状況下に置くだけで良い。いずれの場合にも、レーザー光の照射により、結晶性のホウ素ナノ粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子を製造することができる。
【0019】
本発明においては、レーザー照射を、高温、高圧下で行っても良いが、室温(例えば15〜40°C)、常圧(例えば990〜1020Pa)という穏やかな条件下で、特別な雰囲気制御を要せず行うことができる。
高温、高圧下で行うことは、周囲の環境の汚染(不必要な反応)を伴うものであるから、これが不要であることは、汚染を避けることができる意味で、大きな効果を有するものである。しかし、上記の通り、高温、高圧下で実施することを制限するものではない。
【0020】
レーザーの種類としては、例えばNd:YAGレーザー(スペクトラ・フィジックス社製 Quanta-Ray)を用いることができる。レーザーの波長は300〜1100nmが好ましい。
レーザーの出力は、好ましくは0.01〜1W、さらに好ましくは0.01〜0.1Wである。これらの値は、1レーザーパルス当たりの液相中でのエネルギー密度にして、それぞれ0.51〜51J/cm2と0.51〜5.1J/cm2に対応する。照射時間は、好ましくは0.1〜5時間、さらに好ましくは3〜5時間である。
【0021】
本発明のホウ素ナノ粒子若しくはホウ素含有ナノ粒子の平均粒径は、上記の通り1〜500nmであり、好ましくは10〜300nm、さらに好ましくは50〜200nmである。これらは、本願発明の方法により達成できる。
さらに、本発明の方法では、レーザー照射の条件等を適宜調整することにより、毒性を示すホウ酸の生成を抑制し、ホウ素含有ナノ粒子の酸素の含有率を5モル%以下、好ましくは1%以下とすることができる。
【0022】
本発明の方法では、例えば、酢酸エチル中で、比較的弱い出力のレーザーを照射することで、グラファイト層が表面を被覆した結晶性炭化ホウ素ナノ粒子を得ることができる。
このようなグラファイト層は、酸などによる通常の化学反応により表面にカルボキシル基を導入することが可能である。したがって、このカルボキシル基に例えばアミノ基を有する有機分子または高分子を反応させることにより上記のナノ粒子の表面を修飾することができる。
【0023】
また、有機分子または高分子として腫瘍選択性を有する分子を用いることで、ナノ粒子表面に腫瘍選択性を付与することができる。本発明において、好ましく用いることができる有機分子としてはアミノ酸、タンパク質、糖タンパク質などが挙げられる。また、好ましく用いることができる高分子としてはアミノ基を有するポリエチレングリコール(PEG)などが挙げられる。
本発明においては、この液体に上記の有機分子または高分子を溶解させることで、ホウ素ナノ粒子またはホウ素含有ナノ粒子の作製と、作製されたナノ粒子の表面の修飾を一段階のプロセスで行うことができる。また、この修飾工程を、多段階で行うことも当然可能である。本願発明はこれらを全て包含する。
【0024】
本発明の方法で製造されたナノ粒子、あるいはこのナノ粒子を、上記の方法で表面修飾したナノ粒子は、溶液中に分散されたまま用いても良いし、乾燥させた粉末として用いても良い。また、粉末とする場合には、例えば硝酸で洗浄することで、未反応のアモルファスのホウ素粒子を除去することができる。このような洗浄して得られた表面修飾ホウ素含有ナノ粒子の粉末は、例えば、中性子捕捉療法用薬剤として好適に用いることができる。
【0025】
さらに、ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子に含有される同位体10Bの全Bに対する割合を20%乃至100%までの範囲とすることが可能である。このように、本発明の方法により、表面修飾されたホウ素含有ナノ粒子は、10Bの濃度が高く、中性子捕捉療法による、脳腫瘍や頭頸部の腫瘍治療用薬剤に好適に用いることができる。また、それ以外のナノ粒子応用医療に用いることが可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例および比較例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
(液相中でのレーザー照射による炭化ボロンナノ粒子の作製)
6mlの酢酸エチル中に分散させた0.04mgの天然アモルファスのホウ素粒子(直径:50〜100nm)に、Nd:YAGの第3高調波(355nm)をレンズで集光させながら0.03〜0.3W(1レーザーパルス当たり1.5〜15J/cm2)のレーザー出力で、大気圧下、室温で、それぞれ5時間照射を行った。照射前の原料であるアモルファスのホウ素粒子および、0.3、0.1、0.05、0.03の各Wの出力(それぞれ1レーザーパルス当たり15,5.1,2.6、1.5J/cm2)でレーザー照射して得られたナノ粒子のX線回折の結果を図1に示す。図1中、■は炭化ホウ素(B4C)、●はホウ酸(H3BO4)のピークをそれぞれ示す。原料のアモルファスホウ素はピークを示さなかったのに対し、0.3W(1レーザーパルス当たり15J/cm2)で照射した場合、ホウ酸のピークが確認された。照射出力を低下させるに従ってボロン炭化物のピークが出現し、0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)ではホウ酸のピークは確認されず、炭化ホウ素のピークのみが検出された。
【0028】
0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)でレーザー照射して得られた炭化ホウ素粒子を透過型電子顕微鏡観察及び制限視野電子線回折により解析した結果、図2の透過型電子顕微鏡写真に示す直径約100nmの粒子から、図3に示す炭化ホウ素の電子線回折写真が得られ、結晶性炭化ホウ素粒子が得られたことが確認できた。
【0029】
(酸処理とレーザー出力の効果)
本実施例ではホウ素粒子を出発原料にして、炭化ホウ素粒子を得ていることから生成物は両者の混合物である可能性がある。そこで、得られた粒子をいったん乾燥後硝酸中に分散することにより、ホウ素粒子を溶解させて炭化ホウ素粒子のみを取り出した。
図4は、0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)、300分のレーザー照射後、さらに硝酸処理した炭化ホウ素ナノ粒子の走査型電子顕微鏡写真である。図5は図4で得られた粒子サイズ(粒径)分布を示すグラフである。図4および5から、サイズの比較的揃った炭化ホウ素球形粒子が得られることがわかる。
【0030】
図6はレーザー照射時間を300分に固定したときのレーザー出力と粒子サイズの関係を示すグラフであり、■は平均粒径、その上下のバーは標準偏差の範囲を示す。図6から、レーザー出力の増加とともにサイズが増加することが示された。すなわちサイズ制御がある程度可能であることを示している。
【0031】
(レーザー照射時間の効果)
0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)、10分間のレーザー光照射後、硝酸処理を行って得られた炭化ホウ素粒子の走査型電子顕微鏡写真を図7に、その粒子サイズ分布を図8に示す。
この条件では、平均粒径が177nm、標準偏差が71.8nmであり、図4および5に示す場合に比べ、平均粒子サイズを更に小さくできることがわかる。
図9はレーザー照射時間と粒子サイズとの関係を図6と同様にしてまとめたグラフである。レーザー照射時間の増加とともにサイズが増加することが示され、照射時間の制御によっても、サイズ制御がある程度可能であることを示している。
【0032】
(収率の評価)
硝酸処理の際に溶出するホウ素の量を定量することによりホウ素粒子から炭化ホウ素粒子に変化した収率を評価することができる。これをまとめたのが、図10のグラフである。
図10においては、棒グラフの黒色部分が硝酸中に溶出したホウ素量を、左右が破線で描かれた白抜き部分が、炭化ホウ素粒子の収率を示し、それぞれの収率はグラフ内に数値を合わせて記載した。この場合、レーザー光照射により、最大71%のホウ素粒子が炭化ホウ素粒子に転換されることがわかる。
【0033】
(炭化ホウ素粒子最表面の構造評価)
このようにして得られた結晶性炭化ホウ素ナノ粒子の高分解能透過型電子顕微鏡写真を図11に示す。図11に示すように、図中の「core」で示されるホウ素ナノ粒子の表面を、図中矢印および「graphite」で示される7〜8nmのグラファイト層が表面を被覆していた。このようなグラファイト層は、酸処理により表面にカルボキシル基を導入することが可能であり、表面に腫瘍選択性を粒子作成後に付与するために有効である。図12は酸処理前後の赤外吸収スペクトルであり、カルボキシル基が炭化ホウ素ナノ粒子表面に導入されていることがわかる。これを介して例えばアミノ基を有する他の有機化合物や高分子化合物を導入することは容易である。
【0034】
(カルボキシル基修飾された炭化ホウ素粒子の分散性)
走査型電子顕微鏡を用いた粒子の直接観察での平均粒子サイズは、いずれも約200nmであった。これに対し、酸処理前後の炭化ホウ素粒子を純水に分散させ、動的光散乱法により平均粒子サイズを評価したところ、酸処理前の粒子は473nm、酸処理後は218nmであった。これは酸処理前の粒子は水中で凝集しているために直接観察と比較して大きく評価されたためと考えられる。酸処理により、分散性が向上することがわかる。
【0035】
(液相種の効果)
上記の実施例では全て酢酸エチル中でのレーザー照射によるものであったが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド中においても同様な炭化ホウ素ナノ粒子が得られた。得られる炭化ホウ素ナノ粒子のサイズは、用いる溶媒の誘電率に大きく依存し、誘電率の増加に従い粒子サイズは減少した。この事実が粒子サイズを液相中の選択により140〜240nmの平均粒径の範囲で制御できることを意味している。これらの結果を図13に示す。
【0036】
(炭化ホウ素ナノ粒子が合成可能な原料)
上記の実施例で示した結果は、全て天然アモルファスのホウ素粒子を用いた場合であるが、その他にも10B濃縮ホウ素結晶化粉体や、炭化ホウ素粒子又はこれらの板状体若しくはブロック状固体を、原料に同様な手法を用いても、グラファイト層に覆われた炭化ホウ素ナノ粒子が得られた。すなわち、本手法はホウ素を含有し、かつ使用するレーザー光に対する光学吸収がある場合において、再現性良くナノ粒子の生成が可能であることを示している。
【0037】
上記において、原料となるターゲットについては、主として粒子を用いたもので説明したが、この原料を粒子以外の板状体又はブロックを用いることができる。この場合は、溶媒中に浸漬するだけで良いので、取り扱いが容易であるという利点がある。これらの板状体又はブロックにレーザー光を照射すると、レーザー光により溶媒中で蒸発するか又は溶滴となり、かつ溶媒中で急冷され、平均粒径が1〜500nmのナノ粒子が形成される。
この板状体又はブロックは、焼結体又は溶製品(溶解・鋳造材料、必要に応じて塑性加工又は機械加工した材料)を用いることができる。これらを任意に選択できることは容易に理解されるべきものであり、本発明は、これらを全て包含する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例の原料のアモルファスホウ素とレーザー照射後の粒子のX線回折結果を示すグラフである。
【図2】実施例の0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)の照射により得られた炭化ホウ素ナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】図2で観察された粒子から得られた制限視野電子線回折写真である。
【図4】実施例のホウ素粒子へのレーザー照射(0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)、300分)後、更に硝酸処理して得られた炭化ホウ素粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】図4から得られた粒子サイズ分布を示すグラフである。
【図6】実施例の粒子平均サイズのレーザー出力依存性(300分)を示すグラフである。
【図7】実施例のホウ素粒子へのレーザー照射{0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)、10分}後、更に硝酸処理して得られた炭化ホウ素粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】図7から得られた粒子サイズ分布を示す図である。
【図9】実施例のレーザー{0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)}照射時間と粒子サイズとの関係を示す図である。
【図10】実施例のレーザー照射{0.03W(1レーザーパルス当たり1.5J/cm2)}による炭化ホウ素粒子の収率とレーザー照射時間との関係を示す図である。
【図11】実施例の結晶性炭化ホウ素ナノ粒子表面近傍の高分解能透過型電子顕微鏡写真である。
【図12】実施例の結晶性炭化ホウ素ナノ粒子へ酸処理を行った前後の赤外吸収スペクトルである。
【図13】実施例の結晶性炭化ホウ素ナノ粒子の平均粒子サイズの溶媒の誘電率依存性を示す図である。1は酢酸エチル、2はエタノール、3はメタノール、4は1−プロパノール、5はアセトン、6はアセトニトリル、7はN,N-ジメチルホルムアミドである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性のホウ素ナノ粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子からなり、当該ナノ粒子の平均粒径が1〜500nmであり、酸素の含有率が5モル%以下であることを特徴とするホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子。
【請求項2】
前記ホウ素含有ナノ粒子が、結晶性炭化ホウ素粒子であることを特徴とする請求項1記載のナノ粒子。
【請求項3】
ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子の表面に、グラファイトの被覆層を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のナノ粒子。
【請求項4】
ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子の表面のグラファイトの被覆層に導入されたカルボキシル基を備えることを特徴とする請求項3記載のナノ粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のナノ粒子の表面が、有機分子または高分子により修飾されたナノ粒子であることを特徴とする表面修飾ナノ粒子。
【請求項6】
ナノ粒子が液体中に分散された粒子又は乾燥された粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項7】
表面修飾されたナノ粒子が液体中に分散された粒子又は乾燥された粒子であることを特徴とする請求項5記載の表面修飾ナノ粒子。
【請求項8】
ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子に含有される、同位体10Bの全Bに対する割合が、20%乃至100%までの範囲にあることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のホウ素ナノ粒子またはホウ素含有ナノ粒子。
【請求項9】
ホウ素を10原子%以上含有するターゲットを溶媒中に浸漬し、このターゲットにレーザー光を照射して、平均粒径が1〜500nmであり、結晶性のホウ素ナノ粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子を作製することを特徴とするナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
ターゲットがアモルファスのホウ素粒子若しくはホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子又はこれらの板状体若しくはブロックであることを特徴とする請求項9記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記ホウ素含有ナノ粒子が、結晶性炭化ホウ素粒子であることを特徴とする請求項10記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
ターゲットがアモルファスのホウ素粒子若しくはホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子である場合において、当該粒子を溶媒中に分散させて行うと共に、その分散濃度を0.001〜5質量%として、レーザー光を照射することを特徴とする請求項10又は11記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
室温及び常圧でレーザー光を照射することを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項14】
前記ターゲットにレーザー光を照射することにより、ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子に含まれる酸素の含有率を5モル%以下とすることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子の製造と前記表面の修飾を一段階プロセス又は多段階プロセスで行うことを特徴とする請求項9〜14のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項1】
結晶性のホウ素ナノ粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子からなり、当該ナノ粒子の平均粒径が1〜500nmであり、酸素の含有率が5モル%以下であることを特徴とするホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子。
【請求項2】
前記ホウ素含有ナノ粒子が、結晶性炭化ホウ素粒子であることを特徴とする請求項1記載のナノ粒子。
【請求項3】
ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子の表面に、グラファイトの被覆層を備えることを特徴とする請求項1又は2記載のナノ粒子。
【請求項4】
ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子の表面のグラファイトの被覆層に導入されたカルボキシル基を備えることを特徴とする請求項3記載のナノ粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のナノ粒子の表面が、有機分子または高分子により修飾されたナノ粒子であることを特徴とする表面修飾ナノ粒子。
【請求項6】
ナノ粒子が液体中に分散された粒子又は乾燥された粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項7】
表面修飾されたナノ粒子が液体中に分散された粒子又は乾燥された粒子であることを特徴とする請求項5記載の表面修飾ナノ粒子。
【請求項8】
ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子に含有される、同位体10Bの全Bに対する割合が、20%乃至100%までの範囲にあることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のホウ素ナノ粒子またはホウ素含有ナノ粒子。
【請求項9】
ホウ素を10原子%以上含有するターゲットを溶媒中に浸漬し、このターゲットにレーザー光を照射して、平均粒径が1〜500nmであり、結晶性のホウ素ナノ粒子又はホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子を作製することを特徴とするナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
ターゲットがアモルファスのホウ素粒子若しくはホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子又はこれらの板状体若しくはブロックであることを特徴とする請求項9記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記ホウ素含有ナノ粒子が、結晶性炭化ホウ素粒子であることを特徴とする請求項10記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
ターゲットがアモルファスのホウ素粒子若しくはホウ素を10原子%以上含有するホウ素含有ナノ粒子である場合において、当該粒子を溶媒中に分散させて行うと共に、その分散濃度を0.001〜5質量%として、レーザー光を照射することを特徴とする請求項10又は11記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
室温及び常圧でレーザー光を照射することを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項14】
前記ターゲットにレーザー光を照射することにより、ホウ素ナノ粒子又はホウ素含有ナノ粒子に含まれる酸素の含有率を5モル%以下とすることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子の製造と前記表面の修飾を一段階プロセス又は多段階プロセスで行うことを特徴とする請求項9〜14のいずれかに記載のナノ粒子の製造方法。
【図1】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−266126(P2008−266126A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74297(P2008−74297)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省原子力試験研究委託費、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省原子力試験研究委託費、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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