説明

ホウ酸エステル化合物の製造方法

【課題】 カールフィッシャー滴定による水分測定値が小さく、モノオール化合物やホウ酸トリメチルなどの未反応物や反応時に生成するメタノールなどの不純物が少ない高純度ホウ酸エステル化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】 式(1)で示されるモノオール化合物1モルに対し、ホウ酸トリメチルを0.4〜2.0モル用いて、メタノールを吸着するモレキュラシーブの存在下に反応させる工程と、続いて未反応のホウ酸トリメチル、及びホウ酸エステル交換反応に伴って生成するメタノールを除去することにより、ホウ酸エステル化合物を高純度化する工程とを含むことを特徴とするホウ酸エステル化合物の製造方法である。
X−(AO)n−H (1)
(Xは1個の水酸基を持つ化合物の脱水素残基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはAOの平均付加モル数であり、n=1〜600である)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カールフィッシャー滴定による水分測定値が小さく、かつ原料であるホウ酸トリメチルと、反応生成物であるメタノールの含有量が少ない、高純度ホウ酸エステル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ酸エステル化合物は、ポリカーボネートやエポキシ樹脂などの樹脂に、難燃性を付与するための添加剤、リチウムイオン二次電池やコンデンサ等の電気化学デバイス用の材料など、様々な用途に使用されている。
このようなホウ酸エステル化合物は、分子内に一つの水酸基を持つモノオール化合物[ROH]とホウ酸トリメチル[B(OCH33]とを反応させることにより得られることが知られている。すなわち、式(2)に示される2種類の中間体[ROB(OCH32及び(RO)2BOCH3]を経た平衡反応であり、この平衡反応を式(2)において右に片寄らせることにより、ホウ酸エステル化合物[(RO)3B]を製造している。

つまり、(RO)3Bの構造を有するホウ酸エステル化合物の製造を目標とした場合に、式(2)における反応が右方に行きづらく、中間体である[ROB(OCH32]や[(RO)2BOCH3]が混在するために、高純度なホウ酸エステル化合物を得ることは難しかった。
また、ホウ酸トリメチルは加水分解性が極めて高く、水と接触するとホウ酸とメタノールとに容易に分解する。つまり、原料であるモノオール化合物のカールフィッシャー滴定による水分測定値が大きいと、ホウ酸トリメチルが加水分解されてしまうために得られるホウ酸エステル化合物中にホウ酸が混在してしまう。ホウ酸は、カールフィッシャー滴定による水分測定の際に、カールフィッシャー試薬と反応することで、カールフィッシャー水分測定値として検出されることから、得られるホウ酸エステル化合物のカールフィッシャー滴定による水分測定値を大きくする。従って、カールフィッシャー滴定による水分測定値が小さい高純度なホウ酸エステル化合物を製造することは容易でないという問題もあった。
このようなホウ酸エステル化合物の製造方法として、特許文献1には、ホウ酸トリメチルと炭素数3以上の一価のアルコール又は一価のフェノールを、メタノールを吸着し、かつ上記アルコール又はフェノールの有効分子半径より小さい細孔径を有するモレキュラシーブの存在下に液層で反応させる工程、及び生成されたホウ酸エステルを回収する工程からなる、一価のアルコール又は一価のフェノールのホウ酸エステルの製法が示されている。しかし、この方法ではモノオール化合物に対して使用するホウ酸トリメチルの使用量が規定されておらず、ホウ酸トリメチルの量が不足して未反応のモノオール化合物が残存して純度を低下させる可能性があった。その一方で、多量にホウ酸トリメチルを使用しても、未反応のホウ酸トリメチルの除去が不十分となり、高純度なホウ酸エステルが得られない。このようなホウ酸エステル化合物をリチウムイオン二次電池などの電気化学デバイス用の材料として用いた場合には、リチウム金属を腐食することで界面抵抗を増大させたり、モノオール化合物の導入量が少ないために目的とするイオン伝導度が得られないことから、電気化学デバイス用材料として使用できなかった。
【0003】
また、特許文献2には、反応によって生成するメタノールと、ホウ酸トリメチルとを蒸留して系内から取り除くことにより、平衡を右に片寄らせて反応する方法が示されている。しかし、このような方法にて製造したホウ酸エステル化合物では、カールフィッシャー滴定による水分測定値は小さいが、反応系内からホウ酸トリメチルとメタノールを同時に取り除いているために、上述した式(2)の平衡反応において、中間体である[ROB(OCH32]や[(RO)2BOCH3]が混在し易く、高純度なホウ酸エステル化合物を得ることは難しかった。特許文献2の製造方法を用いて、さらに高純度なホウ酸エステル化合物を得るためには、製造開始時より蒸留条件を精密に制御する必要があり、反応装置も大がかりになることから生産性の良い製造方法とは言い難かった。つまり、より高純度なホウ酸エステル化合物を効率良く得られる製造方法は知られていなかった。
【0004】
【特許文献1】特開昭47−29323号公報
【特許文献2】国際公開第03/31453号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、カールフィッシャー滴定による水分測定値が小さく、モノオール化合物やホウ酸トリメチルなどの未反応物や反応時に生成するメタノールなどの不純物が少ない高純度ホウ酸エステル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、不純物を高度に除去しうる新規な製造方法により、その目的を達成し得ることを見出した。
すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
(A) 式(1)で示されるモノオール化合物1モルに対し、ホウ酸トリメチルを0.4〜2.0モル用いて、メタノールを吸着するモレキュラシーブの存在下に反応させる工程と、続いて未反応のホウ酸トリメチル、及びホウ酸エステル交換反応に伴って生成するメタノールを除去することにより、ホウ酸エステル化合物を高純度化する工程(以下、高純度化工程という)とを含むことを特徴とするホウ酸エステル化合物の製造方法。
X−(AO)n−H (1)
(Xは1個の水酸基を持つ化合物の脱水素残基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはAOの平均付加モル数であり、n=1〜600である)
(B) 式(1)で示されるモノオール化合物のカールフィッシャー滴定による水分測定値が50ppm以下であり、かつホウ酸トリメチルのカールフィッシャー滴定による水分測定値が200ppm以下であることを特徴とする前記(A)記載のホウ酸エステル化合物の製造方法。
(C)ホウ酸エステル化合物を高純度化する工程において、前記ホウ酸トリメチル及び前記メタノールの蒸留を行い、蒸留温度が50〜130℃であり、かつ蒸留時間が5〜30時間であることを特徴とする前記(A)又は(B)記載のホウ酸エステル化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、カールフィッシャー滴定による水分測定値が小さく、モノオール化合物やホウ酸トリメチルなどの未反応物や反応時に生成するメタノールなどの不純物が少ない高純度ホウ酸エステル化合物の製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のホウ酸エステル化合物の製造方法において、式(1)で示されるモノオール化合物と、ホウ酸トリメチルとを、メタノールを吸着するモレキュラシーブの存在下に反応させる工程とは、式(1)で示されるモノオール化合物と、ホウ酸トリメチルとを反応させる場合に、モレキュラシーブを用いてメタノールを除去することにより、前述した式(2)の平衡反応を右に片寄らせることによりホウ酸エステル化合物を製造する工程である。
この工程は、反応系内からホウ酸トリメチルとメタノールを同時に取り除くのではなく、専ら、メタノールを効率よく除去するものである。これにより、上述の式(2)の平衡反応における2種類の中間体「ROB(OCH32 及び (RO)2BOCH3」の残存量を大幅に減少することが可能になったのである。
【0009】
式(1)で示されるモノオール化合物において、Xで示される1個の水酸基を持つ化合物の脱水素残基としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、デシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、オクタデシルアルコール、オクタデセニルアルコール、イコシルアルコール、テトライコシルアルコール、アリルアルコール、メタリルアルコール、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、5−メチル−1,2,4−ヘプタントリオールジ(メタ)アクリレート、1,2,6−ヘキサントリオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、フェノール、4 −エチルフェノール、p−オキシ安息香酸メチル、p−t−オクチルフェノール、ドデシルフェノール、α−ナフトール、β−ナフトール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、4 −フェノキシフェノール、p−t−ブチルフェノール、p−(メトキシエチル)フェノール、4−メトキシフェノール、グアヤコール、グエトール、p−(α−クミル)フェノール、クレゾール、4−シアノ−4’−ヒドロキシビフェニル、キシレノール、n−ヘプチルパラベンフェノール、4−エチルフェノール、p−オキシ安息香酸メチル、p−t−オクチルフェノール、ドデシルフェノール等の脱水素残基が挙げられる。
【0010】
式(1)において、AOで示される炭素数2〜4のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基などが挙げられ、好ましくはオキシエチレン基又はオキシプロピレン基であり、さらに好ましくはオキシエチレン基である。またこれらの1種又は2種以上の混合物でもよく、2種以上の時の重合形式はブロック状、ランダム状いずれでもよい。
【0011】
nは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜600であり、生産性が良好である点から好ましくは1〜300であり、さらに好ましくは1〜100である。600を超えると式(1)で示されるモノオール化合物の粘性が大きく、モレキュラシーブがメタノールを吸着する効率が悪くなり、高純度なホウ酸エステル化合物が得られない。
【0012】
本発明に用いられる式(1)で示されるモノオール化合物は、従来から知られている開環重合により得ることができる。例えば、1個の水酸基を持つ化合物に、従来から知られている水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属化合物、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素フェノール錯体、三フッ化ホウ素酢酸錯体、四塩化錫、三塩化アルミニウム等の開環重合触媒を用いて、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの炭素数2〜4のアルキレンオキシドを所定のモル比で重合させることで合成することができる。
【0013】
本発明に用いられる式(1)で示されるモノオール化合物のカールフィッシャー滴定による水分測定値は50ppm以下であることが好ましく、特に好ましくは30ppm以下である。50ppmより大きいと、式(1)で示されるモノオール化合物中の水とホウ酸トリメチルとが加水分解してホウ酸となり、得られるホウ酸エステル化合物中に混在してカールフィッシャー滴定による水分測定値が大きくなり、ホウ酸エステル化合物の純度を低下させる。
カールフィッシャー滴定による水分測定値が50ppm以下である式(1)で示されるモノオール化合物は、従来から知られている脱水方法により得ることができる。例えば、式(1)で示されるモノオール化合物を、温度60〜120℃、0.013〜6.67kPa(1〜50mmHg)の真空下において、窒素ガス又は乾燥空気を適当量通気しつつ、撹拌しながら2〜20時間脱水する方法が挙げられる。又は、式(1)で示されるモノオール化合物と、モレキュラシーブ、シリカゲルなどの脱水剤を適量混合し、温度10〜60℃、攪拌時間1〜30時間、大気圧下において攪拌した後に、モレキュラシーブ、シリカゲルなどの脱水剤を、濾別して脱水する方法が挙げられる。
【0014】
本発明に用いられるホウ酸トリメチルのカールフィッシャー滴定による水分測定値は、200ppm以下であることが好ましく、特に好ましくは100ppm以下である。200ppmより大きいと得られるホウ酸エステル化合物のカールフィッシャー滴定による水分測定値が大きくなり、ホウ酸エステル化合物の純度が低下する。
【0015】
本発明のホウ酸エステル化合物の製造方法において、ホウ酸トリメチルの使用量は、ホウ酸トリメチルの供給量を満足し、かつ式(2)の平衡反応における2種類の中間体「ROB(OCH32 及び (RO)2BOCH3」を減らすことが可能である点から、式(1)で示されるモノオール化合物1モルに対して0.4〜2.0モルが好ましい。上記の観点より、0.4〜1.0モルがより好ましい。特に、0.4モル未満であると反応系内に式(1)で示されるモノオール化合物が残存しやすくなり、このモノオール化合物が残存すると、電気化学デバイスの用途によっては性能を著しく悪化させることがある。
【0016】
本発明のホウ酸エステル化合物の製造方法では、メタノールを吸着可能であるモレキュラシーブを用いる。モレキュラシーブとは、非常に多数の小さい空洞があり、小さい開口、即ち極めて均一な大きさの細孔によって相互に連結されているものである。モレキュラシーブの種類としては、4A型、5A型、13X型などが挙げられる。4A型とは約4Åの細孔径を有し、5Aは約5Åの細孔径を有し、13Xは約10Åの細孔径を有し、それぞれ細孔径より小さい分子を吸着する。形状としては、球状、円柱状などに成形されたもの、あるいはペレット状、パウダー状、ビーズ状などがある。市販品としては、例えばユニオン昭和(株)性のモレキュラシーブ 5A、巴工業(株)製のモレキュラーシーブ 4A、水澤化学工業(株)製のMizuka Sieves 4A、東ソー(株)製のゼオラム A−5などが挙げられる。
【0017】
本発明のホウ酸エステル化合物の製造方法で用いるモレキュラシーブの使用量は、反応によって生成するメタノールを全て吸着可能な量であることが適当である。具体的なモレキュラシーブの使用量は、生成するメタノール1重量部に対して、モレキュラシーブ6〜12重量部であり、好ましくは7〜10重量部である。6重量部より少ないと生成するメタノールの除去が不十分であり、前述した式(2)の平衡反応を右に片寄らせることが困難となり、高純度なホウ酸エステル化合物が得られない。12重量部より多い場合には反応後のモレキュラシーブを反応系から取り除くことが困難であり、かつホウ酸エステル化合物の収量が低下するため好ましくない。
【0018】
本発明のホウ酸エステル化合物の製造方法では、反応に関わらない不活性溶剤を適宜用いることができる。使用する時期は特に制限するものでは無いが、モレキュラシーブと不活性溶剤とを混合した後に、モノオール化合物とホウ酸トリメチルとを混合して反応を開始する順序が好ましい。不活性溶剤を使用することにより、モレキュラシーブがメタノールと良好に接触できるように希釈することが可能である。不活性溶剤としては、脂肪族炭化水素、脂肪族不飽和炭化水素、脂環式炭化水素、有機ハロゲン化物、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素などが挙げられる。具体的には、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、2,3−ジメチルブタン、2,5−ジメチルヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどが挙げられ、好ましくはn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、2,3−ジメチルブタン、2,5−ジメチルヘキサン、2,2,4−トリメチルペンタン、シクロヘキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、トルエン、キシレンなどであり、より好ましくはn−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ジメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、トルエンなどが挙げられる。
【0019】
式(1)で示されるモノオール化合物とホウ酸トリメチルとを、メタノールを吸着するモレキュラシーブの存在下に反応させる工程において、反応時間は、生成するメタノールの除去を簡便に行い、かつ生産効率を良好にする点から、5〜30時間が好ましく、5〜20時間がさらに好ましい。
【0020】
式(1)で示されるモノオール化合物とホウ酸トリメチルとを、メタノールを吸着するモレキュラシーブの存在下に反応させる工程において、反応温度は、生成するメタノールの除去を簡便に行い、かつ反応中にホウ酸トリメチルが揮発して、式(1)で示されるモノオール化合物の残存量を低減可能であることから、10〜60℃が好ましく、20〜50℃がさらに好ましい。
【0021】
本発明のホウ酸エステル化合物の製造方法において、式(1)で示されるモノオール化合物と、ホウ酸トリメチルとを、メタノールを吸着するモレキュラシーブの存在下に反応させる工程を終了した後に、モレキュラシーブを系内から除去する。その後に、続いて高純度化工程を設けることが好ましい。モレキュラシーブを除去せずに高純度化工程を行うと、反応混合物中のモレキュラシーブから前記工程で吸着されたメタノールが放出され、得られるホウ酸エステル化合物中に混在して純度を低下させる。モレキュラシーブの除去方法としては、濾過、遠心分離など公知の方法が挙げられる。
【0022】
本発明のホウ酸エステル化合物の製造方法において、高純度化工程とは、未反応のホウ酸トリメチル、及びモレキュラシーブでは吸着しきれなかった残存メタノールを取り除くことで、前述した式(2)の平衡反応において生成する2種類の中間体の平衡を右に移動させることにより、得られるホウ酸エステル化合物を高純度化する工程である。具体的には、50〜130℃にて窒素ガス又は乾燥空気を適当量通気しつつ、撹拌しながら2〜20時間蒸留することでホウ酸エステル化合物を製造する工程である。例えば、反応温度50〜90℃、0.133〜6.67kPa(1〜50mmHg)の真空下において、窒素ガス又は乾燥空気を適当量通気しつつ、撹拌しながら2〜30時間蒸留することでホウ酸エステル化合物を製造する。
【0023】
高純度化工程における蒸留温度は、式(1)で示されるモノオール化合物が(メタ)アクリロイル基、アルケニル基などの重合性基を持たない場合には、好ましくは50℃〜130℃であり、さらに好ましくは60〜120℃であり、窒素ガスを適当量通気するのが好ましい。50℃より低いと未反応のホウ酸トリメチルやメタノールを取り除くことが困難であることから、式(2)の平衡反応において生成する2種類の中間体の平衡を右に移動させることが不十分となり、高純度ホウ酸エステル化合物が得られない。130℃より高いと式(1)で示されるモノオール化合物の熱劣化が避けがたい。式(1)で示されるモノオール化合物が(メタ)アクリロイル基、アルケニル基などの重合性基を有する場合には、好ましくは50〜90℃であり、乾燥空気を適当量通気するのが好ましい。50℃より低いと未反応のホウ酸トリメチルやメタノールを取り除くことが困難であることから、上述した式(2)の平衡反応において生成する2種類の中間体の平衡を右に移動させることが不十分となり、高純度ホウ酸エステル化合物が得られない。90℃より高いと重合性基の保持が困難である。
反応の進行に伴って、窒素ガス又は乾燥空気雰囲気の大気圧〜加圧下から、徐々に減圧していき、最終的には0.013〜6.67kPaの減圧下で行うのが好ましく、0.013〜4.00kPaで行うのがより好ましい。0.013kPaより低いと未反応のホウ酸トリメチルやメタノールによって突沸する可能性があり、6.67kPaより高いと未反応のホウ酸トリメチルやメタノールを取り除くことが困難であることから、式(2)の平衡反応において生成する2種類の中間体の平衡を右に移動させることが不十分となり、高純度ホウ酸エステル化合物が得られない。
反応中に系内に通じる窒素ガス又は乾燥空気は、特に制限はないものの、好ましくは大気圧における露点が−40℃以下に乾燥されたものである。
【0024】
高純度化工程における蒸留時間は、未反応のホウ酸トリメチルやメタノールなどの不純物を効率良く取り除き、かつポリアルキレングリコール鎖の劣化防止や、式(1)で示されるモノオール化合物が重合性基を有する場合に重合性基の保持するために、5〜30時間が好ましく、5〜20時間がより好ましい。
【0025】
本発明のホウ酸エステル化合物の製造方法において、式(1)で示されるモノオール化合物のうち(メタ)アクリロイル基、アルケニル基等の重合性基を有する化合物を用いる場合には、重合性基の保護のために、従来から知られているハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジ−t−ブチル−ヒドロキシトルエン、フェノチアジン等の重合禁止剤を、従来から知られているように20〜1000ppmの添加量で用いることができる。添加時期の制限は特にないが、式(1)で示されるモノオール化合物とホウ酸トリメチルとを、メタノールを吸着するモレキュラシーブの存在下に反応させる工程又は高純度化工程のどちらの工程時に添加してもよい。
本発明の製造方法によって得られるホウ酸エステル化合物は、カールフィッシャー滴定による水分測定値が小さく、未反応のホウ酸トリメチルかつ前述した式(2)の平衡反応において、中間体である[ROB(OCH32]や[(RO)2BOCH3]の含有量が少ないことからメトキシ基残存量が少なく、Li金属に対して安定な高純度ホウ酸エステル化合物である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明にかかる実施例及び比較例について説明するが、本発明は該実施例により何ら制限されるものではない。得られたホウ酸エステル化合物の分析方法を下記に示した。
(A)ホウ素含有量
グリセリン/イオン交換水(50/50vol)100mlの混合溶液中に、得られたホウ酸エステル化合物を、予想されるホウ素濃度に応じて1〜50g秤量し、加える。混合液を室温で5分間攪拌した後、フェノールフタレイン1%溶液2〜3滴を該混合液に加え、フェノールフタレインの変色(無色→微紅色)が見られるまで1/10規定水酸化ナトリウム水溶液で滴定する。ホウ素含有量は式(3)より求める。
ホウ素含有量(ホウ酸換算、重量%)=(a−b)×f×0.62/w (3)
a:1/10規定水酸化ナトリウム水溶液の滴定量(ml)
b:空測定における1/10規定水酸化ナトリウム水溶液の滴定量(ml)
w:試料採取量(g)
f:1/10規定水酸化ナトリウム水溶液のファクター
(B)相対ホウ素濃度の測定
分子量Mwのホウ酸エステル化合物に含まれているホウ素元素の量を、ホウ酸の重量に換算して重量%で表したものを理論ホウ素含有量W0として、式(4)より算出する。(A)にて測定したホウ素含有量をW1として、相対ホウ素濃度は式(5)より求める。
理論ホウ素含有量W0(ホウ酸換算、重量%)=61.8/Mw*100 (4)
相対ホウ素濃度(%)=W1/W0×100(5)
(C)カールフィッシャー滴定による水分測定方法
日本工業規格 JIS K 0068に記載の水分の測定方法に準じて測定した。具体的には、微量水分測定装置を用いて、露点が−40℃以下に調整された部屋にてカールフィッシャー滴定による水分測定を行った。
(D)メトキシ基残存量の測定方法
得られたホウ酸エステル化合物の1H核磁気共鳴スペクトルを測定することにより測定する。式(1)で示されるモノオール化合物において、Xで示される1個の水酸基を持つ化合物の脱水素残基来由来のピークを基準として、ホウ酸トリメチルや式(2)で示される平衡反応中の2種類の中間体由来の[−B−OCH3]のメトキシ基の積分値で示す。
以下に、Xがメタノールの脱水素残基、AOが炭素数2のオキシアルキレン基、nが3である場合を例示する。
得られたホウ酸エステル化合物20mgを重クロロホルムに溶解し、1H核磁気共鳴スペクトルを測定する。重クロロホルムに含まれているクロロホルム由来のピークを7.24ppmとしたとき、3.33ppmに検出されるメタノールの脱水素残基であるメチル基のピーク積分値を3と規定した場合の、3.47ppmに検出される[−B−OCH3]由来のメトキシ基のピーク積分値がメトキシ基残存量である。
(E)対Li安定性の評価方法
アルゴン雰囲気下ホウ酸エステル化合物15gの中に、表面を研磨した厚さ500μmの金属リチウム箔を1.5cmの正方形に切り出したものを1枚投入し、アルゴン雰囲気下25℃の恒温槽に入れ、投入直後、1日後、7日後の金属リチウム箔の表面状態を観察した。
◎:7日後に腐食無し
△:1日後に腐食し始める
×:投入直後に腐食し始める
【0027】
実施例1
攪拌羽根、ガス導入管、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内にモレキュラシーブ5A707.3g(生成するメタノールの重量に対して7.0倍量)とn−ペンタン679.0g(モレキュラシーブの重量に対して96重量%、カールフィッシャー滴定による水分測定値:8ppm)を添加して10分静置した。次に、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(オキシエチレン基3.0モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値7ppm)517.0g(3.2モル)とホウ酸トリメチル174.2g(1.7モル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル1モルに対して0.53倍モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値79ppm)を加え、3時間攪拌を行った。続いて濾過によって、モレキュラシーブ5Aを除去した後に、攪拌羽根、ガス導入管、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内に反応混合物を投入した。窒素ガスを通気しつつ、110℃まで除々に昇温した後に、系内を大気圧から徐々に3.99kPaまで減圧し、3.99kPa以下に10時間保ちながら、蒸留反応を行うことによりホウ酸エステル化合物393.6gを得た。
【0028】
実施例2
攪拌羽根、ガス導入管、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内にモレキュラシーブ5A171.3g(生成するメタノールの重量に対して7.1倍量)とn−ペンタン129.1g(モレキュラシーブの重量に対して75重量%、カールフィッシャー滴定による水分測定値:1ppm)を添加して10分静置した。次に、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(オキシエチレン基8.9モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値28ppm)319.0g(0.8モル)とホウ酸トリメチル57.17g(0.6モル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル1モルに対して0.73倍モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値58ppm)を加え、17時間攪拌を行った。続いて濾過によって、モレキュラシーブ5Aを除去した後に、攪拌羽根、ガス導入管、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内に反応混合物を投入した。窒素ガスを通気しつつ、110℃まで除々に昇温した後に、系内を大気圧から徐々に3.99kPaまで減圧し、3.99kPa以下に7時間保ちながら、蒸留反応を行うことによりホウ酸エステル化合物250.3を得た。
【0029】
実施例3
攪拌羽根、ガス導入管、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内にモレキュラシーブ5A208.8g(生成するメタノールの重量に対して8.0倍量)とn−ペンタン125.3g(モレキュラシーブの重量に対して60重量%、カールフィッシャー滴定による水分測定値:1ppm)を添加して10分静置した。次に、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレン基9.4モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値3ppm)407.2g(0.8モル)とホウ酸トリメチル56.50g(0.5モル、ポリエチレングリコールモノメタクリレート1モルに対して0.67倍モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値82ppm)を加え、4時間攪拌を行った。続いて濾過によって、モレキュラシーブ5Aを除去した後に、攪拌羽根、ガス導入管、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内に反応混合物を投入した。窒素ガスを通気しつつ、70℃まで除々に昇温した後に、系内を大気圧から徐々に3.99kPaまで減圧し、3.99kPa以下に18時間保ちながら、蒸留反応を行うことによりホウ酸エステル化合物311.4gを得た。
【0030】
実施例4
攪拌羽根、ガス導入管、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内にモレキュラシーブ5A550.9g(生成するメタノールの重量に対して7.1倍量)とn−ペンタン440.7g(モレキュラシーブの重量に対して80重量%、カールフィッシャー滴定による水分測定値:1ppm)を添加して10分静置した。次に、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレン基1.9モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値7ppm)400.0g(2.4モル)とホウ酸トリメチル108.5g(1.0モル、ポリエチレングリコールモノメタクリレート1モルに対して0.43倍モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値81ppm)を加え、18時間攪拌を行った。続いて濾過によって、モレキュラシーブ5Aを除去した後に、攪拌羽根、ガス導入管、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内に反応混合物を投入した。窒素ガスを通気しつつ、70℃まで除々に昇温した後に、系内を大気圧から徐々に3.99kPaまで減圧し、3.99kPa以下に14時間保ちながら、蒸留反応を行うことによりホウ酸エステル化合物360.0gを得た。
【0031】
実施例5
攪拌羽根、ガス導入管、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内にモレキュラシーブ13X709.1g(生成するメタノールの重量に対して9.8倍量)とn−ペンタン295.4g(モレキュラシーブの重量に対して42重量%、カールフィッシャー滴定による水分測定値:5ppm)を添加して10分静置した。次に、ポリエチレングリコールモノアクリレート(オキシエチレン基4.5モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値15ppm)610.1g(2.3モル)とホウ酸トリメチル219.4g(2.1モル、ポリエチレングリコールモノアクリレート1モルに対して0.93倍モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値98ppm)を加え、10時間攪拌を行った。続いて濾過によって、モレキュラシーブ5Aを除去した後に、攪拌羽根、ガス導入管、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内に反応混合物を投入した。窒素ガスを通気しつつ、60℃まで除々に昇温した後に、系内を大気圧から徐々に3.99kPaまで減圧し、3.99kPa以下に10時間保ちながら、蒸留反応を行うことによりホウ酸エステル化合物537.4gを得た。
【0032】
比較例1
攪拌羽根、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内にモレキュラシーブ4A164.8g(生成するメタノールの重量に対して6.6倍量)とn−ペンタン82.5g(モレキュラシーブの重量に対して50重量%、カールフィッシャー滴定による水分測定値:24ppm)を添加して10分静置した。次に、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(オキシエチレン基3.0モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値136ppm)127.3g(0.8モル)とホウ酸トリメチル26.9g(0.3モル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル1モルに対して0.33倍モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値176ppm)を加え、2時間攪拌を行った。続いて濾過によって、モレキュラシーブ5Aを除去した後に、攪拌羽根、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内に反応混合物を投入した。30℃まで除々に昇温した後に、系内を大気圧から徐々に3.99kPaまで減圧し、3.99kPa以下に3時間保つことにより、ホウ酸エステル化合物97.4gを得た。
【0033】
比較例2
攪拌羽根、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内にモレキュラシーブ5A124.6g(生成するメタノールの重量に対して6.5倍量)とn−ペンタン100.0g(モレキュラシーブの重量に対して80重量%、カールフィッシャー滴定による水分測定値:39ppm)を添加して10分静置した。次に、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(オキシエチレン基3.0モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値150ppm)98.4g(0.6モル)とホウ酸トリメチル187.4g(1.8モル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル1モルに対して3.01倍モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値124ppm)を加え、0.5時間攪拌を行った。続いて濾過によって、モレキュラシーブ5Aを除去した後に、攪拌羽根、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内に反応混合物を投入した。150℃まで除々に昇温した後に、系内を大気圧から徐々に3.99kPaまで減圧し、3.99kPa以下に1時間保つことにより、ホウ酸エステル化合物66.4gを得た。
【0034】
比較例3
攪拌羽根、ガス導入管、温度センサーを備えた2リットル4ツ口フラスコ内に、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(オキシエチレン基3.0モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値5ppm)902.3g(5.5モル)とホウ酸トリメチル188.3g(1.8モル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル1モルに対して0.33倍モル、カールフィッシャー滴定による水分測定値215ppm)を加え、攪拌しながら窒素雰囲気下60℃まで除々に昇温した。60℃にて1時間保持した後に120℃まで1時間かけて昇温した。120℃になった後に、系内を徐々に減圧し、3.99kPa以下の状態を3時間保持して、蒸留反応を行うことによりホウ酸エステル化合物777.4gを得た。
【0035】
以上の実施例1〜5及び比較例1〜3の製造条件を表1に、得られたホウ酸エステル化合物の性状及び対Li安定性を表2に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1及び表2から明らかなように、本発明の製造方法によって得られた実施例1〜5のホウ酸エステル化合物は、いずれもカールフィッシャー滴定による水分測定値が100ppm未満であり低い。さらに、いずれもメトキシ基残存量値が小さく、原料であるホウ酸トリメチル及び中間体[ROB(OCH32及び(RO)2BOCH3]の残存量が非常に少ない。これらにより、実施例1〜5のホウ酸エステル化合物はいずれも高純度であることが確認できた。これら実施例1〜5のホウ酸エステル化合物の対Li安定性を評価した所、いずれも1週間以上腐食せず、非常に良好であった。
これに対し、比較例1のホウ酸エステル化合物はカールフィッシャー滴定による水分測定値が149ppmと大きいばかりでなく、メトキシ基残存量も多く、原料であるホウ酸トリメチル及び中間体[ROB(OCH32や(RO)2BOCH3]の残存量が多い。特に、メトキシ基残存量が非常に多いにもかかわらず相対ホウ素濃度が低いので、原料であるモノオール化合物、及びホウ酸トリメチルが残存しており、ホウ酸エステル化が不十分であることを示す。比較例1のホウ酸エステル化合物の対Li安定性を評価した所、投入直後から腐食し、非常に劣ることがわかった。
また、比較例2のホウ酸エステル化合物はカールフィッシャー滴定による水分測定値が335ppmと非常に大きいばかりでなく、メトキシ基残存量も非常に多く、原料であるホウ酸トリメチル及び中間体[ROB(OCH32や(RO)2BOCH3]の残存量が多いことがわかった。この比較例2のホウ酸エステル化合物の対Li安定性を評価した所、1日後に腐食し、性能が不十分であった。
また、比較例3のホウ酸エステル化合物はカールフィッシャー滴定による水分測定値が100ppm未満であったが、メトキシ基残存量が多く、原料であるホウ酸トリメチル及び中間体[ROB(OCH32や(RO)2BOCH3]の残存量が多い。特に、メトキシ基残存量が非常に多いにもかかわらず相対ホウ素濃度が低いので、原料であるモノオール化合物、及びホウ酸トリメチルが残存しており、ホウ酸エステル化が不十分であることを示す。比較例3のホウ酸エステル化合物の対Li安定性を評価した所、投入直後から腐食し、非常に劣ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の製造方法で得られた高純度ホウ酸エステル化合物は、リチウムイオン二次電池用電解質として使用した場合に、内部抵抗の増加が非常に少なく、高性能な電解質およびその電解質を使用した良好な電池を得ることができる。
さらに、本発明の製造方法では、任意の構造を有するホウ酸エステル化合物を得ることができ、分子設計が容易であることから様々な特性を発揮することのできる電気化学デバイスへの応用を容易に達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるモノオール化合物1モルに対し、ホウ酸トリメチルを0.4〜2.0モル用いて、メタノールを吸着するモレキュラシーブの存在下に反応させる工程と、続いて未反応のホウ酸トリメチル、及びホウ酸エステル交換反応に伴って生成するメタノールを除去することにより、ホウ酸エステル化合物を高純度化する工程とを含むことを特徴とするホウ酸エステル化合物の製造方法。
X−(AO)n−H (1)
(Xは1個の水酸基を持つ化合物の脱水素残基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはAOの平均付加モル数であり、n=1〜600である)
【請求項2】
式(1)で示されるモノオール化合物のカールフィッシャー滴定による水分測定値が50ppm以下であり、かつホウ酸トリメチルのカールフィッシャー滴定による水分測定値が200ppm以下であることを特徴とする請求項1記載のホウ酸エステル化合物の製造方法。
【請求項3】
ホウ酸エステル化合物を高純度化する工程において、前記ホウ酸トリメチル及び前記メタノールの蒸留を行い、蒸留温度が50〜130℃であり、かつ蒸留時間が5〜30時間であることを特徴とする請求項1又は2記載のホウ酸エステル化合物の製造方法。


【公開番号】特開2006−282567(P2006−282567A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103885(P2005−103885)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】