説明

ホエイ−イヌリンクリーム状組成物及びホエイ−イヌリンスプレッドの製造方法

【課題】室温のような温かい所でも型くずれがしにくい保形成に優れたスプレッドの製造方法を提供する。
【解決手段】加熱下で、ホエイ液とイヌリン粉末を混合し、攪拌する工程を含む、ホエイ−イヌリンクリーム状組成物の製造方法、および更に、食用油を混合し撹拌する工程を含む、ホエイ−イヌリンスプレッドとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホエイとイヌリンからなるクリーム状組成物(ホエイ−イヌリンクリーム状組成物)の製造方法、及び、さらに油を混合して調製されるスプレッド(ホエイ−イヌリンスプレッド)の製造方法に関する。さらに、これらを用いた飲食品及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
イヌリンは、植物によって作られる果糖の重合体である多糖類の一群である。イヌリンは、砂糖や他の炭水化物や脂肪と比べてエネルギーが低く、人体において消化されないことから、近年食物製品として使用されてきている。
【0003】
特許文献1は、水、イヌリンおよび液状油脂からショートニング様組成物を調製すること、およびそれを用いた菓子やパン類の製造を開示している。
【0004】
特許文献2は、水およびイヌリンからクリーム状組成物を調整すること、およびそれを用いた肥満や成人病防止のための飲食品および飼料の製造を開示している。
【0005】
特許文献3は、水、牛乳、卵白、卵黄または砂糖シロップの液体とイヌリンからクリーム構造を有する組成物を調製すること、およびそれを用いた食品および飼料の製造を開示している。また、これら組成物が、食品の感覚刺激性を低下させないこと、口の中での乾燥した感覚を起こさないこと、腸内フローラを増殖させること、コロステロールを低下させること、食物繊維作用のような栄養補給特性を改良すること、食品のカロリーを低減することを開示している。
【0006】
ホエイは、現在、チーズを作る際に固形物と分離された副産物として大量に作られ、大半が廃棄されているが、高蛋白、低脂肪、高栄養価、高消化性などから注目されている。
【0007】
ホエイは、現在粉状(ホエイパウダー)に加工し、プロテインサプリメント等の原材料として用いられたり、生クリームなどの代替としてカロリーを抑えるために料理などに用いられてたりしている。また、豚が健康になり、肉の旨味も増すといわれ、豚の飼料として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−259339号
【特許文献2】特開2008−173115号
【特許文献3】特表平6−510906号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ホエイ−イヌリンクリーム状組成物およびさらに食用油を混合して調製するスプレッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明を具体的に示すと以下の通りである。
[1] 加熱下で、ホエイ液とイヌリン粉末を混合し、攪拌する工程;
加熱下で、ホエイ固形物とイヌリン粉末を水に混合し、攪拌する工程;または
加熱下で、ホエイ固形物とイヌリン水溶液を混合し、攪拌する工程;
を含む、ホエイ−イヌリンクリーム状組成物の製造方法。
[2] クリーム状組成物重量を100%としたとき、ホエイ固形分が2.0〜5.0重量%、イヌリンが30.0〜50.0重量%である、上記[1]記載のクリーム状組成物の製造方法。
[3] 上記[1]または[2]記載のクリーム状組成物の製造方法において、更に、食用油を混合し撹拌する工程を含む、ホエイ−イヌリンスプレッドの製造方法。
[4] 食用油の混合割合が、スプレッド重量を100%としたとき、1.0〜15.0重量%である、上記[3]記載のスプレッドの製造方法。
[5] 上記[1]または[2]記載の製造方法で製造されたホエイ−イヌリンクリーム状組成物。
[6] 上記[3]または[4]記載の製造方法で製造されたホエイ−イヌリンスプレッド。
[7] マーガリン様、ラード様、ショートニング様、又は、バター様のホエイ−イヌリンスプレッドである、上記[6]記載のスプレッド。
[8] 上記[5]記載のホエイ−イヌリンクリーム状組成物または上記[6]または[7]記載のホエイ−イヌリンスプレッドを含む飲食物。
[9] 上記[5]記載のホエイ−イヌリンクリーム状組成物または上記[6]または[7]記載のホエイ−イヌリンスプレッドを含む飼料。
[10] 上記[1]または[2]記載のクリーム状組成物の製造方法または上記[3]または[4]記載のスプレッドの製造方法を含む、上記[8]記載の飲食物の製造法。
[11] 上記[1]または[2]記載のクリーム状組成物の製造方法または上記[3]または[4]記載のスプレッドの製造方法を含む、上記[9]記載の飼料の製造法。
【発明の効果】
【0011】
ホエイを使用することにより、水とイヌリンから調製したクリーム状組成物より、風味が良くなり、保形成に優れたクリーム状組成物の形成が可能となった。
【0012】
ホエイを使用することにより、水を用いた場合より、食用油との親和性(油との分離が少ない)がよくなり、保形成に優れたスプレッドの形成が可能となった。そして、室温のような温かい所でも型くずれがしにくくなった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1はテクスチャー分析チャートである。「35%水」は、水−イヌリン(35重量%)のクリーム状組成物を表す。「40%水」は、水−イヌリン(40重量%)のクリーム状組成物を表す。「35%ホエイ」は、ホエイ−イヌリン(35重量%)のクリーム状組成物を表す。「40%ホエイ」は、ホエイ−イヌリン(40重量%)のクリーム状組成物を表す。「市販マーガリン」は、市販マーガリンを表す。「市販ラード」は、市販ラードを表す。
【図2】図2はホエイ−イヌリンクリーム状組成物の調整フロー図である。(1)チーズホエイ液をパステライザー中で68℃に加温している写真;(2)イヌリン粉末をパステライザー中の68℃のチーズホエイ液に添加している写真;(3)パステライザー中で攪拌しながらイヌリン粉末をチーズホエイ液に溶解し、攪拌している写真;(4)クリーム状になったホエイ−イヌリン組成物を、パステライザーから容器に充填後冷却している写真。
【図3】図3は水およびチーズホエイを用いた場合のイヌリンスプレッドの比較写真である。 水を用いて作成した場合には、作製直後からスプレッドの表面に油の層が発生し、油の分離が見られたが、ホエイを用いた場合には殆ど分離は見られなかった。「5%サラダ油添加」における「水」は、水−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度5%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドの写真である。「5%サラダ油添加」における「ホエイ」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度5%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドの写真である。「10%サラダ油添加」における「水」は、水−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度10%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドの写真である。「10%サラダ油添加」における「ホエイ」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度10%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドの写真である。
【図4】図4は各イヌリンスプレッドの硬さの比較である。「5%油配合」における「水」は、水−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度5%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドを表す。「5%油配合」における「ホエイ」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度5%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドを表す。「10%油配合」における「水」は、水−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度10%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドを表す。「10%油配合」における「ホエイ」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度10%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドを表す。「市販品との比較」における「5%油配合」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度5%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドを表す。「市販品との比較」における「10%油配合」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度10%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドを表す。「市販品との比較」における「市販マーガリン」は、市販マーガリンを表す。「市販品との比較」における「市販ラード」は、市販ラードを表す。
【図5】図5はサラダ油およびなたね油を使用したイヌリンスプレッドの写真である。なたね油を用いた場合、なたね油の黄色味が付加され、マーガリン様の色調となったことが見て取れる。「サラダ油添加」における「5%」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度5%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドの写真である。「サラダ油添加」における「10%」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度10%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドの写真である。「なたね油添加」における「5%」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度5%になるようになたね油を添加して調製されたスプレッドの写真である。「なたね油添加」における「10%」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度10%になるようになたね油を添加して調製されたスプレッドの写真である。
【図6】図6はサラダ油およびなたね油を使用したイヌリンスプレッドの色調比較である。L*値は、明るさ(白さ)の度合いを表す。b*値は、黄色の度合いを表す。「市販マーガリン」は、市販マーガリンを表す。「5%サラダ油」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度5%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドを表す。「10%サラダ油」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度10%になるようにサラダ油を添加して調製されたスプレッドを表す。「5%なたね油」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度5%になるようになたね油を添加して調製されたスプレッドを表す。「10%なたね油」は、ホエイ−イヌリン(40%)のクリーム状組成物に終濃度10%になるようになたね油を添加して調製されたスプレッドを表す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ホエイとは、家畜乳(牛乳、ヤギ乳、ラクダ乳等)から乳脂肪分やカゼインなどを除いた水溶液および/またはその溶解成分(固形分)を意味する。ホエイの主成分は乳糖(ラクトース)であり、乳酸、α-ヒドロキシ酸、各種のアミノ酸、ペプチド、ビタミン、ミネラル、多糖類などを含む。
【0015】
本発明で用いる、ホエイ液は、特に液体形態のホエイを指し、ホエイ固形物は、特に乾燥させた固形分を指す。
【0016】
ホエイ液は、好ましくは、チーズを作る際に、固形物(チーズ)から分離される水溶液(チーズホエイ液)、ヨーグルトを静置した場合の上清(ヨーグルトホエイ液)などである。ホエイ液には、原液そのまま、濃縮物、希釈物、およびホエイ固形物を水に溶解したものが含まれる。
【0017】
より好ましくは、チーズホエイ液である。チーズ生産過程で作られたホエイ液は大半が廃棄されるので、チーズ製造会社より入手できる。
【0018】
ホエイ液は、その固形分濃度が3.0〜10.0重量%、好ましくは4.0〜6.0重量%である。
【0019】
ホエイ液の固形分濃度の測定は、常圧加熱乾燥法で測定できる。常圧加熱乾燥法とは、試料を、あらかじめ加熱して恒量となった容器にいれ、大気圧下で100℃付近で恒量になるまで加熱し、加熱前後の重量差から水分量を求める方法である。固形分濃度は、水分量と反対に加熱後重量から求められる。
【0020】
本発明で用いる「イヌリン」とは、以下の式:
【化1】


で示される、通常末端にブドウ糖が結合している主に果糖の重合体(多糖類)である。イヌリンは、自然界においてさまざまな植物から得られ、由来は限定されない。合成品であっても良い。
【0021】
イヌリン中の果糖の重合度は、2〜60の範囲であればよい。平均重合度は、10〜25、好ましくは12〜17であればよい。
【0022】
イヌリン粉末は、限定されないが、イヌリンを90.0重量%以上、好ましくは95.0重量%以上、より好ましくは98.0重量%以上含む組成物である。
【0023】
このようなイヌリン粉末は、ベネオ・オラフティ社、フジ日本製糖株式会社等より入手できる。
【0024】
イヌリン水溶液は、限定されないが、イヌリンを30.0〜50.0重量%、好ましくは35.0〜40.0重量%含む組成物である。
【0025】
「加熱下で、ホエイ液とイヌリン粉末を混合し、攪拌する」は、加熱、混合、攪拌の順番は限定されないが、加熱したホエイ液にイヌリン粉末を添加(またはその逆)し、攪拌すること;ホエイ液にイヌリン粉末を添加(またはその逆)し、加熱しながら攪拌することを含む。
【0026】
「加熱下で、ホエイ固形物とイヌリン粉末を水に混合し、攪拌する」は、加熱、混合、攪拌の順番は限定されないが、ホエイ固形物とイヌリン粉末に加熱した水を添加(またはその逆)し、攪拌すること;ホエイ固形物とイヌリン粉末に水を添加(またはその逆)し、加熱しながら攪拌することを含む。
【0027】
「加熱下で、ホエイ固形物とイヌリン水溶液を混合し、攪拌する」は、加熱、混合、攪拌の順番は限定されないが、加熱したイヌリン水溶液にホエイ固形物を添加(またはその逆)し、攪拌すること;イヌリン水溶液にホエイ固形物を添加(またはその逆)し、加熱しながら攪拌することを含む。
【0028】
加熱温度は、水に溶解している成分が析出しない温度であれば限定されないが、50〜80℃、好ましくは60〜70℃である。
【0029】
ホエイ−イヌリンクリーム状組成物中のイヌリン量は、組成物重量を100%としたとき、30.0〜50.0重量%、好ましくは35.0〜40.0重量%である。
【0030】
ホエイ−イヌリンクリーム状組成物中のホエイ固形分量は、組成物重量を100%としたとき、2.0〜5.0重量%、好ましくは2.5〜4.0重量%である。
【0031】
ホエイとイヌリンを混合する際の攪拌速度は、400〜1000回転/分、好ましくは 500〜700回転/分である。
【0032】
攪拌時間は、クリーム状態が形成されるまでであり、限定されないが1〜10分、好ましくは2〜5分である。
【0033】
攪拌中の温度は、50〜80℃、好ましくは60〜70℃である。
【0034】
クリーム状組成物とは、フォームやゾルなどの液体と固体の中間の粘性状態を意味する。
【0035】
ホエイ−イヌリンクリーム状組成物の硬さは、20〜300g、好ましくは90〜200gである。硬さは、市販のテクスチャーアナライザーを用いて測定することができる。
【0036】
本発明は、上記ホエイとイヌリンの組成物に、更に食用油を混合し攪拌して調製した、ホエイ、イヌリンと食用油からなるホエイ−イヌリンスプレッドを含む。スプレッドとは、パンやクラッカーなどに塗る塗り物の総称を意味する。
【0037】
食用油は、攪拌の際に液状であることが好ましい。食用油は、限定されないが、オリーブ油、ココア油、ヒマワリ種油、大豆油、コーン油、ゴマ油、ピーナッツ油、なたね油、魚油から選ばれる1種以上の油が好ましい。
【0038】
ホエイ、イヌリン、食用油を混合する順番は限定されないが、好ましくは、ホエイ−イヌリン組成物またはクリーム状組成物に、食用油を添加して調製する。
【0039】
スプレッド中の食用油量は、スプレッド重量を100%としたとき、1.0〜15.0重量%、好ましくは5.0〜10.0重量%である。
【0040】
ホエイ、イヌリン、食用油を攪拌する場合の攪拌速度は400〜1000回転/分、好ましくは500〜700回転/分である。
【0041】
攪拌時間は、スプレッド状態が形成されるまでであり、限定されないが1〜10分、好ましくは2〜5分である。
【0042】
攪拌中の温度は50〜80℃、好ましくは60〜70℃である。
【0043】
ホエイ−イヌリンスプレッドの硬さは、20〜300g、好ましくは90〜200である。硬さは、市販のテクスチャーアナライザーを用いて測定することができる。
【0044】
スプレッドは、限定されないが、マーガリン様、ラード様、ショートニング様、又は、バター様である。
【0045】
マーガリン様スプレッドとは、例えば食用油としてなたね油を使用し、黄色味が付加されたスプレッドである。市販の色差計を用いて測定されたb*値(黄色の度合い)が15〜25のものを指す。
【0046】
バター様スプレッドとは、例えば食用油としてなたね油をマーガリン様スプレッドの場合よりも多く使用し、黄色味が増加されたスプレッドである。b*値(黄色の度合い)が26以上のものを指す。
【0047】
ラード様およびショートニング様スプレッドとは、例えば食用油として着色が少ないサラダ油、だいず油を使用したスプレッドである。b*値(黄色の度合い)が14以下のものを指す。
【0048】
本発明は、上記のホエイ−イヌリンクリーム状組成物またはホエイ−イヌリンスプレッドを含む、飲食物および飼料を含む。
【0049】
飲食物とは、限定されないが、人が食する飲み物および食べ物を意味する。例えば、健康補助食品、低カロリー食品、ダイエット食品、パン、乳製品(例えば、無脂肪乳、ヨーグルト、プリン、豆乳など)、麺(例えば、うどん、中華麺、ワンタン、餃子の皮、蕎麦など)、菓子(例えば、クッキー、和菓子、蒸しパン、ポテトチップス、チョコレート、カスタードクリームなど)、飲料(例えば、スープ、野菜飲料、ダイエットドリンク、紅茶、コーヒーなど)、デザート(例えば、ケーキ、ムースなど)、冷菓子(例えば、ゼリー、アイスクリームなど)、惣菜(例えば、つみれ、伊達巻、から揚げなど)、シリアル、フィリング、ドレッシング、焼き食物、肉製品(例えば、ソーセージなど)が挙げられる。
【0050】
飼料とは、限定されないが、人を除く動物、好ましくは、家畜、愛玩動物などの飲み物および食べ物を意味する。また、魚のえさなども含む。より好ましくは、牛、豚、羊、鶏、馬、イヌ、ネコなどの飲み物および食べ物である。
【0051】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
1.ホエイ−イヌリンクリーム状組成物の試作
チーズホエイまたは水を用い、表1の配合で35重量%および40重量%のホエイーイヌリンクリーム状組成物を作成した。
【0053】
チーズホエイ(固形分分量5.2重量%)は、十勝野フロマージュ(株)のチーズ製造時に生じた副産物を使用した。
イヌリン粉末は、ベネオ・オラフティ社のオラフティTMGR(イヌリン含有量約92%、イヌリンの平均重合度10以上)を用いた。
【0054】
68℃に加熱したチーズホエイまたは水に、イヌリン粉末を加え溶解し、68℃で、攪拌速度550回転/分で、約5分攪拌することによってクリーム状組成物を得た。
【0055】
チーズホエイを用いた場合は水を用いた場合よりも風味が良く、イヌリンの甘味が付加されてホエイの風味をより良好に印象づける効果が見られた。
【0056】
【表1】


表中の水、ホエイ、イヌリン粉末の単位はgであり、%は重量%である。
クリーム状組成物中のホエイ固形分濃度は、3.38重量%(イヌリン35%)、3.12重量%(イヌリン40%)である。
【0057】
2.ホエイ−イヌリンクリーム状組成物の硬さ測定
試作したクリーム状組成物の硬さについて、テクスチャーアナライザー(Stable Micro System社、TA-XTplus)を用いてシリンダープローブを2mm/秒のスピードで1cm突き刺した時の抵抗を測定し、市販のラードおよびマーガリンと比較した(表2、図1)。
【0058】
【表2】


ホエイを用いた場合は水よりも硬めであった。また、イヌリン量を増加(35%から40%へ)させることにより硬さを増加させることができるが、増加の程度は、水を用いた場合よりホエイを用いた場合の方が顕著であった。これらのことから、ホエイを用いることにより、同じ硬さを得るために使用するイヌリン量を、水を用いた場合より減らすことが可能である。
市販品との比較では、40重量%濃度では市販のラードおよびマーガリンに近い硬さであることが判った。
【0059】
3.ホエイ−イヌリンクリーム状組成物の保存試験
試作したホエイ−イヌリンクリーム状組成物について保存試験を行った(表3)。
ホエイ−イヌリンクリームを10℃で14日間保存し、0、7、14日後にサンプリングし、標準寒天平板法で一般生菌数を、デスオキシコレート寒天平板法で大腸菌群を、ポテトデキストロース寒天平板法で真菌数を調べた。
イヌリン濃度35重量%では保存期間2週間目にカビの発生(14日目で1.4×10/g)がみられたが、40重量%では少なくとも2週間目までは菌の増殖は見られなかった。充填方法や包装形態によっては消費期限を3週間程度に延長出来る可能性も考えられた。
【0060】
【表3】

【実施例2】
【0061】
スケールアップ試作(40重量%イヌリン)
チーズ製造時に生じたチーズホエイ液を使用したホエイ−イヌリンクリーム状組成物について試作した(図2)。
【0062】
チーズホエイ(固形分分量5.2重量%)液12kgをパステライザーで68℃に加温し、イヌリン粉末8kg(オラフティTMGR)を加えて溶解し、68℃、5分間、550回転/分で攪拌してクリーム状態を形成した後、容器に充填して4℃に冷却して、ホエイ−イヌリンクリーム状組成物を製造した。本製造方法でホエイ−イヌリンクリーム状組成物は容易に製造出来ることから、量産も見込めた。
【実施例3】
【0063】
1.ホエイ−イヌリンスプレッドの試作
ホエイ−イヌリン組成物からスプレッドを試作し、水で作成した場合とエネルギー量および油の分離について比較した。
【0064】
チーズホエイ液(固形分分量5.2重量%)または水を70℃付近まで加温し、イヌリンを40重量%の終濃度になるように添加して溶解した後、550回転/分で約2分攪拌しながらサラダ油を5重量%又は10重量%の終濃度になるように混合してスプレッドを作製した(表5)。
【0065】
水を用いて作成した場合には、作製直後からスプレッドの表面に油層が発生し、油の分離が見られたが、ホエイを用いた場合には殆ど分離は見られなかった(図3)。
【0066】
2.スプレッド上部表面の油分含量の測定
作製したスプレッドの上部表面2〜3gを取り、油の重量を酸分解法で測定して比較した。数値を表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
水を用いて作成した場合は上部に分離した油が溜まっているために添加した油の量を超える数値となったが、ホエイを用いた場合は添加した油の量とほぼ一致した数値となったことから油が均一に分散していると考えられた。これは、油に対する乳化作用が、水−イヌリンを用いた場合より、ホエイ−イヌリンを用いた場合の方が高いことを示すので、同じ乳化作用を得るのに、イヌリン量を減らすことが可能となる。
【0069】
3.スプレッドの硬さ測定
作製したスプレッドの硬さについて、実施例1と同様にテクスチャーアナライザーを用いて測定し、市販のラードおよびマーガリンと比較した(図4)。
【0070】
ホエイを用いた場合は水よりも硬めであったが、市販品との比較では、市販のラードおよびマーガリンよりも柔らかい傾向だった。
【0071】
また、ホエイを用いた場合は、水を用いた場合より、室温(25℃)の温かい所でも型くずれがしずらかった。
【0072】
各スプレッドのエネルギー量について配合量からAtwaterの換算係数から計算し、市販マーガリンのエネルギー量を100として比較した(表5)。その結果、5重量%油配合の場合は80%以上、10重量%油配合の場合は75%以上のエネルギー低減率であった。
【0073】
【表5】


スプレッド(イヌリン40重量%)中のホエイ固形分濃度は、2.86重量%(油濃度5%)、2.6重量%(油濃度10%)である。
【実施例4】
【0074】
1.サラダ油以外の液状油を用いたスプレッドの試作
サラダ油の代わりになたね油を用いて実施例3と同様に試作した。
【0075】
2.液状油を用いたスプレッドの色調の測定
色差計(日本電色工業株式会社、SE6000)を使用して光の反射率を測定し、L*値(白さの度合い)およびb*値(黄色の度合い)を求めた。
【0076】
市販マーガリンは、L*値87、b*値19.5であった。
5重量%サラダ油を用いた場合、L*値84、b*値4であった。10重量%サラダ油を用いた場合、L*値86、b*値2であった。
5重量%なたね油を用いた場合、L*値88、b*値16であった。10重量%なたね油を用いた場合、L*値85、b*値22であった。
【0077】
なたね油を用いた場合、なたね油の黄色味が付加され、マーガリン様の色調となった(図5および6)。
【0078】
ホエイ−イヌリンクリーム状組成物と植物油脂の混合により、それぞれの特徴を生かしたマーガリン様スプレッドを製造することが可能であると考えられた。
【0079】
現在マーガリン業界では製造時に発生するトランス脂肪酸が問題視されており、イヌリンを配合したマーガリン様の製品が開発されれば、マーガリンの代替として多大な普及が見込まれると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の方法によれば、ホエイ−イヌリンクリーム状組成物およびさらに油を含むホエイ−イヌリンスプレッドを提供することができる。本発明は、例えば、食品の分野で利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱下で、ホエイ液とイヌリン粉末を混合し、攪拌する工程;
加熱下で、ホエイ固形物とイヌリン粉末を水に混合し、攪拌する工程;または
加熱下で、ホエイ固形物とイヌリン水溶液を混合し、攪拌する工程;
を含む、ホエイ−イヌリンクリーム状組成物の製造方法。
【請求項2】
クリーム状組成物重量を100%としたとき、ホエイ固形分が2.0〜5.0重量%、イヌリンが30.0〜50.0重量%である、請求項1記載のクリーム状組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のクリーム状組成物の製造方法において、更に、食用油を混合し撹拌する工程を含む、ホエイ−イヌリンスプレッドの製造方法。
【請求項4】
食用油の混合割合が、スプレッド重量を100%としたとき、1.0〜15.0重量%である、請求項3記載のスプレッドの製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2記載の製造法で製造されたホエイ−イヌリンクリーム状組成物。
【請求項6】
請求項3または請求項4記載の製造法で製造されたホエイ−イヌリンスプレッド。
【請求項7】
マーガリン様、ラード様、ショートニング様、又は、バター様のホエイ−イヌリンスプレッドである、請求項6記載のスプレッド。
【請求項8】
請求項5記載のホエイ−イヌリンクリーム状組成物または請求項6または7記載のホエイ−イヌリンスプレッドを含む飲食物。
【請求項9】
請求項5記載のホエイ−イヌリンクリーム状組成物または請求項6または7記載のホエイ−イヌリンスプレッドを含む飼料。
【請求項10】
請求項1または2記載のクリーム状組成物の製造方法または請求項3または4記載のスプレッドの製造方法を含む、請求項8記載の飲食物の製造法。
【請求項11】
請求項1または2記載のクリーム状組成物の製造方法または請求項3または4記載のスプレッドの製造方法を含む、請求項9記載の飼料の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−102746(P2013−102746A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250432(P2011−250432)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(596075417)財団法人十勝圏振興機構 (20)
【Fターム(参考)】