説明

ホスホン酸の製造方法

【課題】汎用化学反応設備で製造可能なホスホン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(II)


(一般式(II)中、Rは、置換基を有していてよい炭素数1〜15のアルキル基、または炭素数1〜10のアルキル基の水素原子の一部が、置換基を有していてよい1〜4個のベンゼン環を備えるアリール基で置換されたアラルキル基を表す。)で表わされるホスホン酸の製造方法であって、不揮発性の酸の存在下、水蒸気ガス吹き込みにて水分を与えながら、対応するホスホン酸エステル化合物を100℃以上で加水分解反応させて上記一般式(II)で表わされるホスホン酸を生成させる工程を含むホスホン酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスホン酸の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、汎用化学反応設備で製造可能なアルキルホスホン酸及びアラルキルホスホン酸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルキルホスホン酸及びアラルキルホスホン酸は下記一般式で表される化合物であり、難燃剤、金属抽出剤等に用いられる工業的に有用な化合物として広く知られている。
【0003】
【化1】

【0004】
上記一般式中、Rはアルキル基またはアラルキル基を表す。
前記ホスホン酸の具体例の一つとしてベンジルホスホン酸が挙げられる。
ベンジルホスホン酸の製造方法としては、トリアルキルホスファイトとベンジルハライドのアルブゾフ反応にてベンジルホスホン酸ジアルキルを合成後、加水分解を行い、ベンジルホスホン酸を得るという方法が一般的である。特許文献1では、ベンジルホスホン酸ジエチルを塩酸で加水分解してベンジルホスホン酸を製造する方法が開示されている。しかし、この方法では濃塩酸を用いることから、高濃度の塩酸水に耐えうる特殊な反応設備が必要になる。さらに、副生物として低沸点のエチルクロライドが発生する為、反応中に温度の低下を招く、また、その回収のために特別な冷却設備を要するという問題点があり、実用的な製造方法とは言えない。
【0005】
ところで、ホスホン酸ジアルキルエステルの加水分解反応は、アルキル基の炭素数が少ないものほど容易である。しかし、アルキル基から生成するアルキルハライドの冷却や回収を考えると、炭素数が少ないものほど容易ではない。例えば、アルキル基が炭素数1から3のものから生成するアルキルハライドは沸点が低く、冷却及び回収が容易ではないために汎用の設備では対応が難しい。一方、アルキル基の炭素数が4以上のものであれば沸点が高く冷却及び回収は汎用の設備でも容易である。しかしながらホスホン酸ジアルキルエステルにおいてアルキル基の炭素数が4以上であると、ジアシッドまで分解することが困難である。
【0006】
特許文献2及び特許文献3には、フェニルホスホン酸ジアルキルエステル(C1〜C10のアルキル基)を種々の酸及びアルカリ水溶液により加水分解し、フェニルホスホン酸を製造する方法が開示されている。しかしながら、アルカリ水溶液で分解した場合にはホスホン酸の塩が生成するため、ホスホン酸を得るためには、該塩をさらに酸で処理する必要がある。よって酸で加水分解する場合と比較して工程数が増える分経済的に不利となる。また、これらの先行文献で示されている方法のいくつかについて、炭素数4のベンジルホスホン酸ジブチルを用いて同様の反応を行い確認したところ、ベンジルホスホン酸まで完全に分解できたのは臭化水素酸を用いた場合のみであった。しかし、これらの先行文献に記載の方法では大量かつ高濃度の臭化水素酸を使用しなければならないため、生産性の面で非効率的である。さらに、臭化水素酸を用いると反応設備の腐食も大きく汎用のものでは使用に耐えうるものではない。従って、特許文献2及び特許文献3は、炭素数4以上のホスホン酸ジアルキルからアルキルホスホン酸またはアラルキルホスホン酸を製造する方法として工業的に適しているとは言い難く、現実的ではないと言える。
【特許文献1】US2007/004937
【特許文献2】特開平11−193292号公報
【特許文献3】特開平11−279185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、汎用化学反応設備でアルキルホスホン酸及びアラルキルホスホン酸を工業的に効率よく製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を克服するため鋭意努力検討した結果、アルキルホスホン酸アルキルエステルまたはアラルキルホスホン酸アルキルエステルを不揮発性の酸の存在下で、水蒸気ガスの吹き込みにより水分供給しながら100℃以上で加水分解を行うことで、炭素数4以上のアルキルエステルの場合においてもホスホン酸(ジアシッド)を高収率で得ることが可能となることから、このような方法によれば汎用化学反応設備を使用して、ホスホン酸を工業的に効率よく製造することができることを見出した。
【0009】
また、このような方法では、加水分解反応に必要な水分を水蒸気ガスとして供給することから反応系内に余分な水分が存在せず、常圧においても反応温度として必要な高温を確保できることや、反応温度が100℃以上であることから反応の進行がスムーズとなり、炭素数4以上のホスホン酸ジアルキルを短時間でホスホン酸(ジアシッド)まで加水分解することができることを見出した。
【0010】
さらに、このような方法では加水分解反応と同時に水蒸気蒸留を行えることから、加水分解により生成したアルコール類を、反応を行ないながら同時に回収することができ、目的物であるホスホン酸の精製が容易であることを見出した。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の各項のホスホン酸の製造方法を提供する。
【0011】
項1. 下記一般式(II)
【0012】
【化2】

【0013】
(一般式(II)中、Rは、置換基を有していてよい炭素数1〜15のアルキル基、または炭素数1〜10のアルキル基の水素原子の一部が、置換基を有していてよい1〜4個のベンゼン環を備えるアリール基で置換されたアラルキル基を表す。)で表わされるホスホン酸の製造方法であって、不揮発性の酸の存在下、水蒸気ガス吹き込みにて水分を与えながら、下記一般式(I)
【0014】
【化3】

【0015】
(一般式(I)中、Rの定義は、上記一般式(II)と同じである。R及びRは互いに独立して、炭素数1〜15のアルキル基または水素原子を表す。但し、R及びRの少なくとも一つは炭素数4〜15のアルキル基である。)で表されるリン化合物を100℃以上で加水分解反応させて上記一般式(II)で表わされるホスホン酸を生成させる工程を含むホスホン酸の製造方法。
項2. 120〜200℃で加水分解反応を行う項1に記載のホスホン酸の製造方法。
項3. 水蒸気ガス吹き込みにて与える水分を、反応系内の液相中の水分の溶解平衡を保つ様に吹き込む項1または2に記載のホスホン酸の製造方法。
【0016】
項4. 水蒸気ガス吹き込みにて、生成したアルコール類を系外に水蒸気蒸留しながら加水分解する項1〜3のいずれかに記載のホスホン酸の製造方法。
項5. 不揮発性の酸が硫酸である項1〜4のいずれかに記載のホスホン酸の製造方法。
項6. さらに、イオン交換樹脂を用いて精製する工程を含む項1〜5のいずれかに記載のホスホン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、アルキルまたはアラルキルホスホン酸アルキルエステルの加水分解を水蒸気吹き込みにより行うため、臭化水素酸のような腐食性の酸を用いることなく汎用化学設備を用いてアルキルまたはアラルキルホスホン酸を工業的に製造することができる。
また、触媒として酸を用いることから、塩基を用いて加水分解する場合と比較して少ない工程でアルキルまたはアラルキルホスホン酸を製造でき、さらに、酸として不揮発性の酸を用いることにより、反応中に触媒を補充する必要がなく経済的に反応を行なうことができる。
また、反応系内の液相中の水分の溶解平衡を保つ様に水蒸気ガスを吹き込む場合は、液相に含有される水分が常に飽和状態となるように保たれ、且つ飽和状態とするのに必要最小限の水分しか存在しない為に、常圧においても、高温の反応温度条件を確保することが出来る。さらに、十分な反応温度を保ちながら飽和状態の水分と反応させることで反応速度が増大する。
さらに、水蒸気ガス吹き込みにて、生成したアルコール類を系外に水蒸気蒸留しながら加水分解する場合は、目的物であるホスホン酸の精製を容易に行うことができる。
このため本発明によれば、簡便に効率よく、しかも高収率でアルキルまたはアラルキルホスホン酸を工業的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明について、さらに詳しく以下に記述する。
なお、本明細書中「反応系内の液相中の水分の溶解平衡を保つ」とは、反応系内の液相に含有される水分が反応温度において常に飽和状態を保つように水蒸気ガスの出入りがなされている状態を意味する。
【0019】
本発明の上記一般式(II)で表されるホスホン酸の製造方法は、不揮発性の酸の存在下、水蒸気ガス吹き込みにて水分を与えながら、上記一般式(I)で表されるリン化合物を100℃以上で加水分解反応させて上記一般式(II)で表わされるホスホン酸を生成させる工程を含む方法である。
【0020】
一般式(I)で表されるリン化合物
本発明のホスホン酸の製造方法において加水分解反応を受けるリン化合物は、上記一般式(I)で表される化合物である。
上記一般式(I)中、Rはアルキル基、またはアラルキル基を表す。
ここでいうアルキル基としては、分岐または直鎖アルキル基の制限はなく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基などの炭素数1〜15のアルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、1〜10がより好ましく、1〜8が特に好ましい。さらにこれらアルキル基中の水素原子の一部が後述する硫酸(HSO)等の不揮発性の酸と反応不活性な官能基で置換されていても良い。後述する不揮発性の酸と反応不活性な官能基としては、アルコキシ基、ハロゲン原子、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、スルホン基などが挙げられる。
【0021】
ここでいうアラルキル基とは、炭素数1〜10のアルキル基、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基の水素原子の一部が、置換基を有していてよい1〜4個のベンゼン環を備えるアリール基で置換された構造を指す。アリール基としては、例えば、1または2以上の置換基を有しいてよいフェニル基、ビフェニル基、テルフェニル(ターフェニル)基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、ワソセニル基、フルオレニル基などが挙げられる。中でも、フェニル基、ビフェニル基またはナフチル基が好ましい。置換基としては、例えば、炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜21のフェニルアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、スルホン基などが挙げられる。
【0022】
本発明におけるアラルキル基の具体例としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基、ナフチルプロピル基、ナフチルブチル基、ナフチルペンチル基、アンスリルメチル基、アンスリルエチル基、アンスリルプロピル基、アンスリルブチル基、アンスリルペンチル基、ビフェニルメチル基、ビフェニルエチル基、ビフェニルプロピル基、ビフェニルブチル基、ビフェニルペンチル基などが挙げられる。さらにこれらアラルキル基中の水素原子の一部が、後述する硫酸(HSO)等の不揮発性の酸と反応不活性な官能基で置換されていても良い。
【0023】
及びRは互いに独立して、炭素数1〜15の分岐状もしくは鎖状のアルキル基または水素原子を表す。但し、R及びRの少なくとも一つは炭素数4〜15の分岐状もしくは鎖状のアルキル基である。炭素数4〜15の分岐状もしくは鎖状のアルキル基の炭素数は好ましくは4〜10であり、より好ましくは4〜8である。炭素数1〜15の分岐状もしくは鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、2−メチルブチル基、sec−ペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、n−ヘプチル基、iso−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、1−プロピルブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,2−ジメチルペンチル基、1,3−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1−エチル−1−メチルブチル基、1−エチル−2−メチルブチル基、1−エチル−3−メチルブチル基、2−エチル−1−メチルブチル基、2−エチル−1−メチルブチル基、2−エチル−2−メチルブチル基、2−エチル−3−メチルブチル基、1,1−ジエチルプロピル基、n−オクチル基、iso−オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、4−エチルヘキシル基、1−プロピルヘプチル基、2−プロピルヘプチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基などが挙げられる。
【0024】
酸触媒
本発明では不揮発性の酸を用いて加水分解を行う。
本発明における不揮発性の酸とは、本発明における加水分解反応において揮発しない酸であればよく、例えば、揮発点が200℃/760mmHg以上の酸が好ましく、揮発点が200℃/760mmHg〜400℃/760mmHgの酸がより好ましい。このような不揮発性の酸としては、硫酸、パラトルエンスルホン酸、リン酸等が挙げられるが、特に好ましい酸は硫酸である。このような不揮発性の酸を用いると、加水分解中に触媒が反応系外に流出せず反応系内に留まるため、反応中に触媒を補充する必要がなく、経済的に有利である。
【0025】
不揮発性の酸の使用量は、加水分解反応を受けるリン化合物に対して約0.2〜5質量%が好ましく(すなわち、質量比でリン化合物100に対して約0.2〜5)、さらに好ましくは約0.4〜2質量%であり、特に好ましくは約0.5〜1質量%である。不揮発性の酸の使用量が上記範囲であれば、十分な触媒効果が得られる。また、これ以上に酸の量を多くしても、これ以上の触媒効果は得られずコスト高になるだけである。
【0026】
反応温度
本発明においては、加水分解反応を100℃以上の反応温度で行う。すなわち上記一般式(I)で表されるリン化合物の温度を100℃以上とし、該化合物に水蒸気ガス吹き込みにて水分を与えて加水分解反応を行う。反応温度は、好ましくは約120〜200℃であり、さらに好ましくは約140〜180℃である。上記の温度範囲であれば加水分解反応が速やかに進行するため、適当な時間で反応を完結できる。
【0027】
反応圧力
本発明における反応は、常圧又は加圧下で行うことができるが、汎用設備で反応を行なうことができることから、常圧で行うことが好ましい。
【0028】
水蒸気ガス吹き込み
本発明において、加水分解に要する水分は、反応系内に水蒸気ガスを吹き込むことで供給される。水蒸気ガス吹き込みにて与える水分は、反応系内の液相中の水分の溶解平衡が保たれるように与えられる、すなわち常に液相中の水分が飽和状態であるように水分の出入りの均衡が保たれることが好ましい。本発明においては、水蒸気ガス吹込みで水分を供給することにより液相中には飽和状態とするのに必要最小限な量の水分しか存在しないことから、常圧においても加水分解反応に必要な高い反応温度を維持できる。
【0029】
液相中の水分の溶解平衡を保つように水蒸気ガスを吹き込むには、水蒸気ガスが凝集して水(液体)となり水分が液相に蓄積していかないために液相を100℃以上の高温に保つ必要がある。そのためには液相の熱収支の均衡が保たれる様に反応に使用する装置の能力等により水蒸気ガスの吹き込み量を適宜調節すれば良く、水蒸気ガスの吹き込みは液相の温度が100℃以上になったときに始めれば良い。
【0030】
反応時間
本発明の製造方法における加水分解の反応時間は、反応温度、基質の種類や量により適宜設定すればよいが、通常約5〜100時間、好ましくは約10〜80時間、特に好ましくは約10〜50時間とすればよい。
【0031】
本発明においては、加水分解反応で生成したアルコール類を水蒸気ガスの吹き込みによる水蒸気蒸留で絶えず系外に排出し回収設備で回収しながら反応を行なうことができる。すなわち、水蒸気ガス吹き込みにて、生成したアルコール類を系外に水蒸気蒸留しながら加水分解することができる。よって加水分解工程と生成したアルコールの回収工程とを分けて行う必要はなく、工程数が少なくなるので工業的に有利である。
【0032】
精製
加水分解反応後の処理方法は、目的化合物の性状に適した方法を選択して行えばよい。例えば、目的化合物が固体の場合は反応終了液を冷却して固体を析出させる。析出した固体を乾燥させることにより目的とするホスホン酸が得られる。
さらに、必要に応じて、ホスホン酸を精製する工程を行うことができる。精製方法は特に限定されず、例えば、水やアルコール系の溶媒を用いて、再結晶法により生成したホスホン酸の純度を向上させることが出来る。また、生成したホスホン酸中に残留している硫黄分を除去するためにイオン交換樹脂で吸着処理することも可能である。高融点のホスホン酸の場合は、該ホスホン酸をメタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、tert−ブチルアルコール、ベンジルアルコール等の一価のアルコール類またはエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール等の多価アルコール類の極性溶媒(これらは同時に二種以上使用しても良い)に溶解させた状態でイオン交換樹脂による吸着処理を行っても良い。
【実施例】
【0033】
本発明を以下の実施例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0034】
1.加水分解反応における反応完結の確認
分析機器としてガスクロマトグラフィー(GC)を用いて、反応の完結を確認した。すなわち、100mLの三角フラスコにサンプル(反応溶液)を約1g及びアセトンを約10g加えた。さらに、これに適量の水を加えて分液漏斗に注ぎ込み、水相を除去した。次いで、有機相にジアゾメタンを徐々に加えてメチル化反応させ、窒素ガスの発生が認められなくなった時点をメチル化の反応の終点とした。反応後の有機相の約0.2μLをGCの注入口に注入し、下記の条件でGC分析を行った。
【0035】
GC分析条件
GC分析装置:島津製作所社製 GC−17A
検出器:FID
カラム:J&W SCIENTIFIC製 DB−1
カラム温度:35℃→280℃(昇温速度10℃/分)+10分間保持
注入口温度:200℃
検出器温度:280℃
キャリアガス:ヘリウム(流量1.8mL/分)
【0036】
分析結果から原料のピークが消失かつ原料由来の反応中間体(モノメチルエステル)のピークが0.5面積%以下となった時点を反応の完結とした。
【0037】
2.ホスホン酸の製造
実施例1(ベンジルホスホン酸の製造1)
内容量500mLの撹拌機付きガラス製反応フラスコにベンジルホスホン酸ジブチル142.2g(0.5モル)及び98%硫酸1.0g(0.01モル)を入れ、加熱により温度160℃まで上昇させた。そして水蒸気ガスを吹き込みながら(吹き込み速度:60g/時間)、160〜165℃で常圧下、15時間反応させた。蒸気とともに反応系外に出てくる分解反応で生成したブタノールなどは、冷却器付ガラス製フラスコで回収しながら反応を行った。GC分析により反応の完結を確認後、反応液を冷却して固化させた。次に、固体を水から再結晶し、減圧乾燥させ、ベンジルホスホン酸を70.0g得た(収率81%)。また、この反応系中にSUS316Lのテストピースを存在させ、反応缶の材質テストを行ったところ腐食の程度は軽微なものであった。
【0038】
実施例2(ベンジルホスホン酸の製造2)
内容量500mLの撹拌機付きガラス製反応フラスコにベンジルホスホン酸ジブチル142.2g(0.5モル)及び98%硫酸1.0g(0.01モル)を入れ、加熱により温度140℃まで上昇させた。そして水蒸気ガスを吹き込みながら(吹き込み速度:12g/時間)、140〜145℃で常圧下、45時間反応させた。蒸気とともに反応系外に出てくる分解反応で生成したブタノールなどは、冷却器付ガラス製フラスコで回収しながら反応を行った。GC分析により反応の完結を確認後、反応液を冷却して固化させた。次に、固体を水から再結晶し、減圧乾燥させベンジルホスホン酸を70.0g得た(収率81%)。
【0039】
実施例3(2−エチルヘキシルホスホン酸の製造)
内容量500mLの撹拌機付きガラス製反応フラスコに2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシル306.4g(1.0モル)及び98%硫酸2.0g(0.02モル)を入れ温度170℃まで上昇させた。そして水蒸気ガスを吹き込みながら(吹き込み速度:47g/時間)、170〜175℃で常圧下、50時間反応させた。蒸気とともに反応系外に出てくる分解反応で生成した2−エチルヘキサノールなどは、冷却器付ガラス製フラスコで回収しながら反応を行った。GC分析で反応の完結を確認後、水洗いを行い、減圧乾燥することで2−エチルヘキシルホスホン酸を170.9g得た(収率88%)。
【0040】
比較例1
内容量300mLの冷却管及び撹拌機付きガラス製反応フラスコにベンジルホスホン酸ジブチル30.3g(0.1モル)及び40%臭化水素酸129.3g(0.6モル)を入れ反応温度90℃で60時間還流後、GC分析により反応の完結を確認した。
【0041】
比較例2
内容量500mLの冷却管及び撹拌機付きガラス製反応フラスコにベンジルホスホン酸ジブチル30g(0.1モル)及び20%塩酸226g(1.2モル)を入れ反応温度82℃で常圧下、60時間還流させたが反応完結にはいたらなかった(GC分析)。
【0042】
比較例3
内容量1Lの冷却管及び撹拌機付きガラス製反応フラスコにベンジルホスホン酸ジブチル142.2g(0.5モル)、50%硫酸785g(4.0モル)を入れ、反応温度110℃で常圧下、60時間還流させたが反応完結にはいたらなかった(GC分析)。
【0043】
比較例4
内容量1Lの冷却管及び撹拌機付きガラス製反応フラスコに2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシル306.4g(1.0モル)及び10%硫酸976g(1.0モル)を入れ、反応温度110℃で常圧下、60時間還流させたが反応完結にはいたらなかった(GC分析)。
【0044】
実施例1〜3及び比較例1〜4の反応液をジアゾメタンによりメチル化し、ガスクロマトグラフィーで測定した結果を以下の表1に示す。
表1中、実施例1、2及び比較例1〜3のGC相対面積比は、反応液をメチル化した後のホスホン酸アルキルエステル(ジメチルエステル、ブチルメチルエステル、及びジブチルエステル)のトータルのピーク面積100に対するベンジルホスホン酸ジメチルの相対面積比を、実施例3及び比較例4のGC相対面積比は反応液をメチル化した後のホスホン酸アルキルエステル〔ジメチルエステル、2−エチルヘキシルメチルエステル、及びビス(2−エチルヘキシル)エステル〕のトータルのピーク面積100に対する2−エチルヘキシルホスホン酸ジメチルの相対面積比をそれぞれ示している。前記ベンジルホスホン酸ジメチルはベンジルホスホン酸がメチル化された化合物であり、前記2−エチルヘキシルホスホン酸ジメチルは2−エチルヘキシルホスホン酸がメチル化された化合物である。
【0045】
【表1】

【0046】
表1より、実施例1〜3及び比較例1はホスホン酸アルキルエステルからホスホン酸へ加水分解反応が殆ど進行したのに対して、比較例2〜4ではホスホン酸までの分解が完全に進行していないことが分かる。また、実施例1〜3では、比較例1に比べて短時間で加水分解反応が完了したことがわかる。
【0047】
(イオン交換樹脂によるホスホン酸の精製)
実施例4(ベンジルホスホン酸の精製)
実施例1において反応終了後、冷却し反応液を固化させた。それをエチレングリコールに溶解させ30%の溶液にした。この溶液に、陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA−96SB ローム・アンド・ハース社製)を反応に使用した硫酸イオンの価数の3倍等量加えた後、室温で3時間撹拌した。溶液を濾別後、濾液中の硫黄分(S分)を、硝酸及び過塩素酸を用いて分解した。それをICP発光分析装置(島津製作所社製、シーケンシャル形プラズマ発光分析装置ICPS−7500)を用いてS分を定量した。S分は、イオン交換樹脂処理前は3694ppmであったのが183ppmまで下がった。
【0048】
3.化合物の同定
反応生成物の同定は、以下の分析をすることにより行った。
(1)融点(目的物がベンジルホスホン酸の場合)
ベンジルホスホン酸の融点(文献値)と比較した。
文献値
173〜175℃(Kagan et al., J.Amer.Chem.Soc., 81, 1959, 3026-3029)
164〜166℃(Albouy, Dominique; Etemad-Moghadam, Guita; Koenig, Max, Eur.J.Org.Chem., 1999, 861-868)
測定方法はJIS−K0064に従った。
【0049】
(2)酸価
目的とする物質の酸価(理論値)と比較した。
測定サンプル約0.1gを精秤し、50mLのエタノールに溶解させて、0.1Nの水酸化ナトリウムで中和滴定をすることで測定した。測定装置には、平沼産業社製、自動滴定装置COM−1500を使用した。
【0050】
(3)ガスクロマトグラフ質量分析
ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS)により質量分析を行った。
GC−MS条件
GC分析装置(島津製作所社製 GC−17A)
検出器:FID
カラム:J&W SCIENTIFIC社製 DB−1
カラム温度:35℃→280℃(昇温速度10℃/分)+10分間保持
注入口温度:200℃
検出器温度:280℃
キャリアガス:ヘリウム(流量1.8mL/分)
質量分析装置(島津製作所社製 GCMS−QP5050A)
イオン化方法:EI
【0051】
分析結果は、以下の通りである。
ベンジルホスホン酸(実施例1及び実施例2)
融点:167〜170℃
酸価:650.0KOHmg/g(理論値652KOHmg/gに対して99.7%)
MASS(EI法)m/e(%)(ジアゾメタン法によるメチル化物):200(M、44:ジメチルエステル体)、118(13)、109(24)、105(39)、104(66)、92(23)、91(100)、89(12)、79(26)、65(43)、63(12)
【0052】
2−エチルヘキシルホスホン酸(実施例3)
酸価:552.8KOHmg/g(理論値578KOHmg/gに対して95.7%)
MASS(EI法)m/e(%)(ジアゾメタン法によるメチル化物):
193(M−29、46)、179(24)、165(54)、161(6)、151(9)、125(16)、124(100)、111(22)、110(56)、109(36)、95(14)、94(79)、93(17)、83(13)、80(21)、79(69)、70(9)、69(22)、57(10)、56(9)、55(67)、53(10)、47(11)、43(19)、42(8)、41(65)
*M(分子量)−29で同定
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のアルキルホスホン酸及びアラルキルホスホン酸の製造方法を用いることにより耐食性等の特殊な設備を用いずに汎用反応設備でもアルキルホスホン酸及びアラルキルホスホン酸の効率的な製造が可能となる。このため、本発明の製造方法は、アルキルホスホン酸及びアラルキルホスホン酸を工業的に製造する際に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(II)
【化1】

(一般式(II)中、Rは、置換基を有していてよい炭素数1〜15のアルキル基、または炭素数1〜10のアルキル基の水素原子の一部が、置換基を有していてよい1〜4個のベンゼン環を備えるアリール基で置換されたアラルキル基を表す。)で表わされるホスホン酸の製造方法であって、不揮発性の酸の存在下、水蒸気ガス吹き込みにて水分を与えながら、下記一般式(I)
【化2】

(一般式(I)中、Rの定義は、上記一般式(II)と同じである。R及びRは互いに独立して、炭素数1〜15のアルキル基または水素原子を表す。但し、R及びRの少なくとも一つは炭素数4〜15のアルキル基である。)で表されるリン化合物を100℃以上で加水分解反応させて上記一般式(II)で表わされるホスホン酸を生成させる工程を含むホスホン酸の製造方法。
【請求項2】
120〜200℃で加水分解反応を行う請求項1に記載のホスホン酸の製造方法。
【請求項3】
水蒸気ガス吹き込みにて与える水分を、反応系内の液相中の水分の溶解平衡を保つ様に吹き込む請求項1または2に記載のホスホン酸の製造方法。
【請求項4】
水蒸気ガス吹き込みにて、生成したアルコール類を系外に水蒸気蒸留しながら加水分解する請求項1〜3のいずれかに記載のホスホン酸の製造方法。
【請求項5】
不揮発性の酸が硫酸である請求項1〜4のいずれかに記載のホスホン酸の製造方法。
【請求項6】
さらに、イオン交換樹脂を用いて精製する工程を含む請求項1〜5のいずれかに記載のホスホン酸の製造方法。


【公開番号】特開2010−24214(P2010−24214A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191045(P2008−191045)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000149561)大八化学工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】