説明

ホスホール化合物、その製造方法および環状ホスホール化合物

【課題】 新規なホスホール化合物および環状ホスホール化合物を提供すること。
【解決手段】 本発明のホスホール化合物は下記の一般式(1)で表される。


〔Arはアリール基またはヘテロアリール基を示す。Xは酸素原子または硫黄原子を示す。Yはアリール基、ヘテロアリール基、-COOR4(R4はアルキル基)を示す。R1,R2は酸素原子、-S(O)m-(mは0〜2)、アルキレン基を示す。R3はアルキル基を示す〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光集積回路などに利用可能な非線形光学材料に化学変換容易であり、金属配位子などとしても利用できる環状ホスホール化合物などの出発原料として有用なホスホール化合物、その簡便な製造方法およびこのホスホール化合物を出発原料として製造される環状ホスホール化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスホールはピロールの窒素がリンに置き換わった複素環化合物であるが、その電子状態はピロールのそれとは大きく異なっている。即ち、ピロールが代表的な芳香族化合物であるのに対し、ホスホールはほとんど芳香族性を持たず、むしろ共役ジエンとして振舞う。また、ピロールの窒素上非共有電子対の塩基性は極めて小さいのに対し、ホスホールのリン上非共有電子対は比較的高い塩基性を有している。このようなホスホールの性質は、その構造、物性、反応性に色濃く反映される。例えば、ホスホールのHOMO-LUMOギャップはピロールのそれに比べて遥かに小さく、その吸収スペクトルや発光スペクトルは可視領域に現れるものが多い。また、ホスホールは中性のリン配位子として遷移金属錯体を形成することができる他、リン上の化学修飾も簡単に行うことができる。
【0003】
近年、材料化学や合成化学の領域において、ホスホールの特性を活かした機能性材料の開発や触媒の開発に多くの関心が寄せられている。例えば、非線形光学材料としての利用や均一金属触媒を構築するためのリン配位子としての利用が検討されており、ピロールやチオフェンとは異なる特性を発揮することが知られている。ホスホールの物性を制御し、その機能を最大限に活かすためには、ホスホール骨格へのエステル基などの官能基の導入が重要な合成課題となる。この課題を解決するための方法はこれまでにもいくつか報告されているが(例えば非特許文献1〜非特許文献3を参照)、いずれの方法も(1)目的物を得るために多段階の反応を行う必要がある、(2)中間に生成する化学種が極めて不安定である、(3)導入できる官能基の種類と数が限定されるといった制約を伴っている。
【0004】
また、特許文献1にはジイン化合物と有機遷移金属化合物とから調製したメタラシクロペンタジエン化合物にホスフィンを反応させてホスホール化合物を製造する方法が記載されている。しかしながら、特許文献1ではホスホール骨格のα位にアリール基を導入する方法しか述べられておらず、ホスホール骨格への官能基の導入は検討されていない。
【特許文献1】特開2003-261585号公報
【非特許文献1】Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 1997, 36, 98.
【非特許文献2】Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 1994, 33, 1158.
【非特許文献3】Tetrahedron Lett. 1981, 22, 3533.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、光集積回路などに利用可能な非線形光学材料に化学変換容易であり、金属配位子などとしても利用できる環状ホスホール化合物などの出発原料として有用なホスホール化合物、その簡便な製造方法およびこのホスホール化合物を出発原料として製造される環状ホスホール化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、エステル基を有するジイン化合物に有機チタン化合物を反応させることでホスホール骨格のα位にエステル基が導入されたホスホール化合物を簡易に製造する方法を見出し、この方法により製造されたホスホール化合物を用いれば、既知の環状ホスホール化合物に比較して特異な配位空間およびπ共役を有しており、非線形光学材料の中間体や金属配位子などとして有用な環状ホスホール化合物を合成することができることを知見した。
【0007】
即ち、本発明は請求項1記載の通り、下記の一般式(1)で表されるホスホール化合物である。
【0008】
【化14】

【0009】
〔式中、Arは置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。Xは酸素原子または硫黄原子を示す。[]は存在しなくてもよいことを示す。Yは置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、-COOR4(R4はアルキル基を示す)のいずれかを示す。R1,R2は一緒になって任意に酸素原子、-S(O)m-(mは0〜2の整数を示す)、-NR5-(R5は水素原子またはアルキル基を示す)によって中断されていてもよいアルキレン基を示す。R3はアルキル基を示す〕
【0010】
また、請求項2記載の通り、Yが-COOR4であってR3とR4が同じアルキル基である請求項1記載のホスホール化合物である。
【0011】
また、請求項3記載の通り、下記の一般式(1)で表されるホスホール化合物の製造方法であって、下記の一般式(2)で表されるジイン化合物に有機遷移金属化合物を反応させて下記の一般式(3)で表されるメタラシクロペンタジエン化合物を得、得られたメタラシクロペンタジエン化合物にArPX1X2(X1,X2は同一または異なってハロゲン原子を示す。Arは前記と同義)を反応させ、所望によりさらにP-スルフィド化またはP-オキシド化することによる製造方法である。
【0012】
【化15】

【0013】
〔式中、Ar,X,[],Y,R1,R2,R3は前記と同義〕
【0014】
【化16】

【0015】
〔式中、QはR1とR2によって形成されるアルキレン基を示す。Y,R3は前記と同義〕
【0016】
【化17】

【0017】
〔式中、Mは遷移金属原子を示す。L1,L2は同一または異なってアニオン性配位子または中性配位子を示す。Y,R1,R2,R3は前記と同義〕
【0018】
また、請求項4記載の通り、遷移金属原子がチタン原子である請求項3記載の製造方法である。
【0019】
また、請求項5記載の通り、チタンテトライソプロポキシドをイソプロピルマグネシウムハライドの存在下で上記の一般式(2)で表されるジイン化合物と反応させる請求項3または4記載の製造方法である。
【0020】
また、請求項6記載の通り、下記の一般式(4)で表されるホスホール化合物である。
【0021】
【化18】

【0022】
〔式中、Tは置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、-CR13R14OH(R13,R14は同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基のいずれかを示す)のいずれかを示す。R11,R12は同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基のいずれかを示す。Ar,X,[],R1,R2は前記と同義〕
【0023】
また、請求項7記載の通り、下記の一般式(4)で表されるホスホール化合物の製造方法であって、下記の一般式(1)で表されるホスホール化合物のホスホール骨格のα位に結合したエステル基を還元またはアルキル化することによる製造方法である。
【0024】
【化19】

【0025】
〔式中、Ar,X,[],T,R1,R2,R11,R12は前記と同義〕
【0026】
【化20】

【0027】
〔式中、Ar,X,[],Y,R1,R2,R3は前記と同義〕
【0028】
また、請求項8記載の通り、下記の一般式(5)で表される環状ホスホール化合物である。
【0029】
【化21】

【0030】
〔式中、環Aは表記したホスホールに加えてさらに3つ以上の置換基を有していてもよいアリーレン基および/または置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基によって構成され、その一部または全部がπ電子共役系を形成してもよい環構造を示す。Ar,X,[],R1,R2は前記と同義〕
【0031】
また、請求項9記載の通り、下記の一般式(6)で表される請求項8記載の環状ホスホール化合物である。
【0032】
【化22】

【0033】
〔式中、U,V,Wは同一または異なって置換基を有していてもよいアリーレン基または置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基を示す。R21,R22,R23,R24,R25,R26,R27,R28は同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基のいずれかを示す。R21,R22,R23,R24,R25,R26,R27,R28のいずれかは隣接するU,V,Wとの間で二重結合を形成してもよい。Ar,X,[],R1,R2は前記と同義〕
【0034】
また、請求項10記載の通り、下記の一般式(6)で表される環状ホスホール化合物の製造方法であって、下記の一般式(7)で表されるホスホール化合物を置換基を有していてもよいアリール化合物および/または置換基を有していてもよいヘテロアリール化合物と脱水縮合反応させて下記の一般式(8)で表されるホスホール化合物を得、得られたホスホール化合物をHOR33R34C-V-CR35R36OH(R33,R34,R35,R36はそれぞれR23,R24,R25,R26と同義かR23,R24,R25,R26に変換されうる基を示す。Vは前記と同義)と脱水縮合反応させることによる製造方法である。
【0035】
【化23】

【0036】
〔式中、Ar,X,[],U,V,W,R1,R2,R21,R22,R23,R24,R25,R26,R27,R28は前記と同義〕
【0037】
【化24】

【0038】
〔式中、R31,R32,R37,R38はそれぞれR21,R22,R27,R28と同義かR21,R22,R27,R28に変換されうる基を示す。Ar,X,[],R1,R2は前記と同義〕
【0039】
【化25】

【0040】
〔式中、U’,W’は各々U,Wに対応する置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。Ar,X,[],R1,R2,R31,R32,R37,R38は前記と同義〕
【0041】
また、請求項11記載の通り、下記の一般式(5)で表される環状ホスホール化合物と遷移金属との錯体化合物である。
【0042】
【化26】

【0043】
〔式中、環A,Ar,X,[],R1,R2は前記と同義〕
【発明の効果】
【0044】
本発明のホスホール骨格のα位にエステル基が導入されたホスホール化合物を用いれば、このエステル基を、置換基を有していてもよいアルキル基や置換基を有していてもよいアリール基や置換基を有していてもよいヘテロアリール基で置換されていてもよいヒドロキシメチル基に変換した後、ピロール、チオフェン、フランなどと脱水縮合反応させ、さらに2,5-ビス(1-ヒドロキシアルキル)チオフェンや2,5-ビス(1-ヒドロキシアルキル)フランなどと脱水縮合反応させることにより、非線形光学材料などに化学変換容易であり、金属配位子などとしても利用できる環状ホスホール化合物を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明によって提供されるホスホール化合物は下記の一般式(1)で表される。
【0046】
【化27】

【0047】
〔式中、Ar,X,[],Y,R1,R2,R3は前記と同義〕
【0048】
なお、上記の一般式(1)で表されるホスホール化合物において、ArやYにおける置換基を有していてもよいアリール基におけるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、オルト融合した二環式の基で8〜10個の環原子を有し少なくとも一つの環が芳香環である基(例えばインデニル基など)などが挙げられる。また、置換基を有していてもよいヘテロアリール基におけるヘテロアリール基としては、例えば、炭素および1〜4個のヘテロ原子(酸素、硫黄、窒素)を有する5〜6員環基、これらから誘導される8〜10個の環原子を有するオルト融合した二環式ヘテロアリール基、特にベンズ誘導体、もしくはプロペニレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基をそれに融合して導かれるもの、ならびにその安定なN-オキシド体などが挙げられ、具体的には、ピロリル基、フリル基、チエニル基、オキサゾリル基、イソキサゾリル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、1,3,5-オキザジアゾリル基、1,2,4-オキサジアゾリル基、1,2,4-チアジアゾリル基、ピリジル基、ピラニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、1,2,4-トリアジニル基、1,2,3-トリアジニル基、1,3,5-トリアジニル基、ベンゾキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、チアナフテニル基、イソチアナフテニル基、ベンゾフラニル基、イソベンゾフラニル基、クロメニル基、イソインドリル基、インドリル基、インダゾリル基、イソキノリル基、キノリル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、ベンゾキサジニル基などが挙げられる。
【0049】
置換基を有していてもよいアリール基および置換基を有していてもよいヘテロアリール基における置換基としては、アルキル基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、アルキルチオ基、ホルミル基、アシルオキシ基、アリール基、アリールアルキル基、-COORa、-CH2COORb、-OCH2COORc、-CONRdRe、- CH2CONRfRg、-OCH2CONRhRi、-NRjRkなどが挙げられる。アルキル基としては、好ましくは、炭素数が1〜6の直鎖状または分岐鎖状の低級アルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert−ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基などが挙げられる。アルコキシ基としては、好ましくは、炭素数が1〜6の直鎖状または分岐鎖状の低級アルコキシ基が挙げられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などが挙げられる。ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。アルキルチオ基としては、好ましくは、炭素数が1〜6の直鎖状または分岐鎖状の低級アルキルチオ基が挙げられ、具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、イソペンチルチオ基、n-ヘキシルチオ基などが挙げられる。アシルオキシ基としては、好ましくは、炭素数が1〜6の直鎖状または分岐鎖状の低級アシルオキシ基が挙げられ、具体的には、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、n-プロピオニルオキシ基、n-ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基などが挙げられる。アリール基は前記と同義である。アリールアルキル基としては、そのアリール部は前記と同義であり、そのアルキル部は好ましくは炭素数が1〜3の直鎖状または分岐鎖状であり、ベンジル基、フェネチル基、3-フェニルプロピル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、2-(1-ナフチル)エチル基、2-(2-ナフチル)エチル基、3-(1-ナフチル)プロピル基、3-(2-ナフチル)プロピル基などが具体的に挙げられる。Ra〜Rkとしては、同一または異なって水素原子、アルキル基(前記と同義)、アリールアルキル基(前記と同義)などが挙げられる。
【0050】
Xにおけるハロゲン原子は前記と同義である。
【0051】
R1とR2が一緒になって形成するアルキレン基としては、炭素数が3〜6の低級アルキレン基が好ましく、いずれかの炭素原子が任意に酸素原子、-S(O)m-(mは前記と同義)、-NR5-(R5は前記と同義)に置き換わることで炭素鎖が中断されていてもよい。
【0052】
R3,R4,R5におけるアルキル基は前記と同義である。
【0053】
上記の一般式(1)で表されるホスホール化合物は、例えば、下記の一般式(2)で表されるジイン化合物に有機遷移金属化合物、例えば、有機チタン化合物を反応させて下記の一般式(3)で表されるメタラシクロペンタジエン化合物を得、得られたメタラシクロペンタジエン化合物にArPX1X2(Ar,X1,X2は前記と同義)を反応させ、所望によりさらにP-スルフィド化またはP-オキシド化することによって製造することができる。なお、X1,X2におけるハロゲン原子は前記と同義である。
【0054】
【化28】

【0055】
〔式中、Q,Y,R3は前記と同義〕
【0056】
【化29】

【0057】
〔式中、M,L1,L2,Y,R1,R2,R3は前記と同義〕
【0058】
なお、上記の一般式(3)で表されるメタラシクロペンタジエン化合物において、L1,L2におけるアニオン性配位子としては、イソプロポキシ基に例示される炭素数が1〜20のアルコキシ基の他、シクロペンタジエニル基に例示される非局在化環状η5-配位系配位子などが挙げられる。また、L1,L2における中性配位子としては、カルボニル配位子やカルベン配位子などが挙げられる。
【0059】
上記の一般式(2)で表されるジイン化合物と反応させる有機チタン化合物としては、例えば、還元剤であるイソプロピルマグネシウムクロリドの存在下におけるチタンテトライソプロポキシドなどが挙げられる。なお、製造工程中、保護が必要な官能基は自体公知の保護基により保護し、その後に脱保護してもよいことは言うまでもない。
【0060】
上記の一般式(1)で表されるホスホール化合物は、そのホスホール骨格のα位に結合したエステル基を還元またはアルキル化することで下記の一般式(4)で表されるホスホール化合物に変換することができる。
【0061】
【化30】

【0062】
〔式中、Ar,X,[],T,R1,R2,R11,R12は前記と同義〕
【0063】
なお、上記の一般式(4)で表されるホスホール化合物において、T,R11,R12,R13,R14における置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基は前記と同義である。また、R11,R12,R13,R14における置換基を有していてもよいアルキル基におけるアルキル基は前記と同義であり、置換基を有していてもよいアルキル基における置換基も前記と同義である。
【0064】
上記の一般式(1)で表されるホスホール化合物のホスホール骨格のα位のエステル基の還元は、例えば、過剰量のジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの還元剤を用いて行うことができる。また、エステル基のアルキル化は、例えば、一般式(1)で表されるホスホール化合物1当量に対して4当量以上のグルニヤール試薬を用いて行うことができる。なお、製造工程中、保護が必要な官能基は自体公知の保護基により保護し、その後に脱保護してもよいことは言うまでもない。
【0065】
上記の一般式(4)で表されるホスホール化合物は、下記の一般式(5)で表される環状ホスホール化合物を製造するための出発原料として有用である。
【0066】
【化31】

【0067】
〔式中、環A,Ar,X,[],R1,R2は前記と同義〕
【0068】
なお、上記の一般式(5)で表される環状ホスホール化合物において、環Aを構成する置換基を有していてもよいアリーレン基におけるアレーレン基としては、例えば、炭素数が6〜10のアリーレン基が挙げられ、具体的には、1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、ナフタレン-1,3-ジイル、ナフタレン-1,4-ジイルなどが挙げられる。また、置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基におけるヘテロアリーレン基としては、例えば、炭素および1〜4個のヘテロ原子(酸素、硫黄、窒素)を有する5〜6員環のヘテロアリーレン基や8〜10個の環原子を有するオルト融合した二環式ヘテロアリーレン基が挙げられ、具体的には、ピリジン-ジイル基、ピリミジン-ジイル基、ピラジン-ジイル基、ピリダジン-ジイル基、トリアジン-ジイル基、チオフェン-ジイル基、フラン-ジイル基、ピロール-ジイル基、イミダゾール-ジイル基、ピラゾール-ジイル基、チアゾール-ジイル基、オキサゾール-ジイル基、イソチアゾール-ジイル基、イソオキサゾール-ジイル基、インドール-ジイル基、イソインドール-ジイル基、インドリジン-ジイル基、インダゾール-ジイル基、プリン-ジイル基、4-H-キノリジン-ジイル基、キノリン-ジイル基、イソキノリン-ジイル基、フタラジン-ジイル基、ナフチリジン-ジイル基、キノキサリン-ジイル基、キナゾリン-ジイル基、ベンズチアゾール-ジイル基、ベンズオキサゾール-ジイル基、ベンゾフラン-ジイル基、ベンゾチオフェン-ジイル基などが挙げられる。置換基を有していてもよいアリーレン基および置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基における置換基は前記と同義である。
【0069】
例えば、上記の一般式(5)で表される環状ホスホール化合物が下記の一般式(6)で表される環状ホスホール化合物である場合、下記の一般式(7)で表されるホスホール化合物を置換基を有していてもよいアリール化合物および/または置換基を有していてもよいヘテロアリール化合物と脱水縮合反応させて下記の一般式(8)で表されるホスホール化合物を得、得られたホスホール化合物をHOR33R34C-V-CR35R36OH(R33,R34,R35,R36はそれぞれR23,R24,R25,R26と同義かR23,R24,R25,R26に変換されうる基を示す。Vは前記と同義)と脱水縮合反応させることによって製造することができる。
【0070】
【化32】

【0071】
〔式中、Ar,X,[],U,V,W,R1,R2,R21,R22,R23,R24,R25,R26,R27,R28は前記と同義〕
【0072】
なお、上記の一般式(6)で表される環状ホスホール化合物において、U,V,W,R21,R22,R23,R24,R25,R26,R27,R28における置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基は前記と同義である。また、R21,R22,R23,R24,R25,R26,R27,R28におけるアルキル基は前記と同義である。
【0073】
【化33】

【0074】
〔式中、Ar,X,[],R1,R2,R31,R32,R37,R38は前記と同義〕
【0075】
【化34】

【0076】
〔式中、Ar,X,[],U’,W’,R1,R2,R31,R32,R37,R38は前記と同義〕
【0077】
なお、上記の一般式(7)で表されるホスホール化合物は、上記の一般式(4)で表されるホスホール化合物に含まれる化合物であり、上記の一般式(1)で表されるホスホール化合物から製造することができる。上記の一般式(8)で表されるホスホール化合物を製造するための脱水縮合反応は、例えば、トリフルオロボランのエテール錯化合物などのルイス酸を用いて行うことができる。HOR33R34C-V-CR35R36OHは、例えば、J. Chem. Soc., Pekin Trans. 1 1977, 877やTetrahedron Lett. 2000, 41, 2919に記載の方法で製造することができる。上記の一般式(6)で表される環状ホスホール化合物を製造するための脱水縮合反応は、上記と同様、例えば、トリフルオロボランのエテール錯化合物などのルイス酸を用いて行うことができる。なお、脱水縮合反応はP-スルフィド化を行ってから(X=S)行うことがその後のリン上の化学修飾を容易に行うために好ましい。また、製造工程中、保護が必要な官能基は自体公知の保護基により保護し、その後に脱保護してもよいことは言うまでもない。
【0078】
上記の一般式(5)で表される環状ホスホール化合物はカリックスアレーンであり、様々な機能性官能基による化学修飾に対して活性である。従って、当該化合物は非線形光学材料に化学変換容易な中間体として有用である。また、そのP-スルフィド体は重金属を取り込む作用を有するので、重金属認知センサー材料として有用である。また、この環状ホスホール化合物がリン原子を1つのみ有する場合、当該化合物は単座配位子として遷移金属などに配位でき、遷移金属による触媒活性の向上に資することができる。また、上記の一般式(1)で表されるホスホール化合物のYが置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基である化合物の中には顕著な吸収特性や発光特性を示すものが存在し(とりわけYが置換基を有していてもよいチオフェンである化合物)、当該化合物はそれ自体が機能性光学材料としての利用可能性を有する他、さらに優れた機能性材料となるホスホール化合物の出発原料としての利用可能性も有する。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0080】
実施例1:
以下の表1に示す本発明のホスホール骨格のα位にエステル基を有するホスホール化合物を製造した。製造方法の詳細は以下の通りである。
【0081】
【表1】

【0082】
(原料となるジイン化合物の製造方法)
ジイン化合物(1a-1h)は、1aについては1,7-オクタジインから、1b,c,e-hについては1,6-ヘプタジインから、1dについてはジプロパギルエーテルから以下に示すスキームに従って製造した。
【0083】
【化35】

【0084】
デカ-2,8-ジインジエチルエステル(1a)の物理化学データ
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.31 (t, 6H, J = 7.1 Hz, OCH2CH3), 1.86 (quin, 2H, J = 7.1 Hz, CH2CH2CH2), 2.49 (t, 4H, J = 7.1 Hz, CH2CH2CH2), 4.22 (q, 4H, J= 7.1 Hz, OCH2CH3).
【0085】
ノナ-2,7-ジインジエチルエステル(1b)の物理化学データ
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.31 (t, 6H, J = 7.2 Hz, OCH2CH3), 1.72 (m, 4H, CH2CH2CH2), 2.39 (m, 4H, CH2CH2CH2), 4.22 (q, 4H, J = 7.2 Hz, OCH2CH3).
【0086】
ノナ-2,7-ジインジメチルエステル(1c)の物理化学データ
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.86 (quin, 2H, J = 7.0 Hz, CH2CH2CH2), 2.50 (t, 4H, J = 7.0 Hz, CH2CH2CH2), 3.77 (s, 4H, OCH3).
【0087】
ビス[3-(エトキシカルボニル)プロパギル]エーテル(1d)の物理化学データ
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.32 (t, 6H, J = 7.2 Hz, OCH2CH3), 4.25 (q, 4H, J = 7.2 Hz, OCH2CH3), 4.41 (s, 4H, CH2OCH2).
【0088】
1-エトキシカルボニル-7-フェニル-1,6-ヘプタジイン(1e)の物理化学データ
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.31 (t, 3H, J = 7.1 Hz, OCH2CH3), 1.89 (tt, 2H, J = 7.1,7.1 Hz, CH2CH2CH2), 2.54 (t, 2H, J = 7.1 Hz, EtOCO-CC-CH2CH2), 2.56 (t, 2H, J = 7.1 Hz, Ph-CC-CH2CH2), 4.22 (q, 4H, J= 7.1 Hz, OCH2CH3), 7.28 (m, 3H, m, p-H Ph), 7.39 (m, 2H, o-H Ph); 13C{1H} NMR (CDCl3, 75 MHz) δ 14.0 (OCH2CH3), 17.8 (CH2CH2CH2), 18.6 (Ph-CC-CH2), 26.7 (EtOCO-CC-CH2), 61.9 (OCH2CH3), 73.7 (EtOCO-CC), 81.7 (PhCC), 88.2 and 88.3 (EtOCO-CC and Ph-CC), 123.6 (ipso-C Ph), 127.8 (p-C Ph), 128.2 (m-C Ph), 131.6 (o-C Ph), 153.7 (C=O); IR (KBr) νmax1712 (C=O) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 241 (M+). Anal. Calcd for C16H16O2: C, 79.97; H, 6.71. Found: C, 79.72; H, 6.68.
【0089】
1-エトキシカルボニル-7-(2-ピリジル)-1,6-ヘプタジイン(1f)の物理化学データ
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.31 (t, 3H, J = 7.2 Hz, OCH2CH3), 1.92 (tt, 2H, J = 7.0,7.0 Hz, CH2CH2CH2), 2.55 (t, 2H, J = 7.0 Hz, Py-CC-CH2CH2), 2.60 (t, 2H, J = 7.0 Hz, Py-CC-CH2CH2), 4.22 (q, 4H, J = 7.2 Hz, OCH2CH3), 7.20 (ddd, 1H, J = 7.6, 4.9, 1.6 Hz H5 Py), 7.38 (dd, 1H, J = 7.6, 1.6 Hz, H3 Py), 7.63 (ddd, 1H, J = 7.6, 7.6, 1.8 Hz H4 Py), 8.55 (dd, 1H, J = 4.9, 1.8 Hz, H6 Py); 13C{1H} NMR (CDCl3, 68 MHz) δ 14.1 (s, OCH2CH3), 18.0 (s, CH2CH2CH2), 18.6 (s, Py-CC-CH2), 26.4 (s, EtOCO-CC-CH2), 61.9 (s, OCH2CH3), 73.8 (s, EtOCO-CC), 81.4 (s, Py-CC), 87.9 (s, EtOCO-CC), 88.8 (s, Py-CC), 122.4 (s, C5 Py), 126.8 (s, C3 Py), 136.0 (s, C4 Py), 143.4 (s, C2 Py), 149.8 (s, C6 Py), 153.6 (s, C=O); IR (KBr) νmax 1709 (C=O) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 242 (M+). Anal. Calcd for C15H15NO2: C, 74.67; H, 6.27; N, 5.81. Found: C, 74.68; H, 6.22; N,5.63.
【0090】
1-エトキシカルボニル-7-(2-チエニル)-1,6-ヘプタジイン(1g)の物理化学データ
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.31 (t, 3H, J = 7.1 Hz, OCH2CH3), 1.88 (tt, 2H, J = 7.1,7.1 Hz, CH2CH2CH2), 2.52 (t, 2H, J = 7.1 Hz, EtOCO-CC-CH2CH2), 2.55 (t, 2H, J = 7.1 Hz, Th-CC-CH2CH2), 4.22 (q, 4H, J = 7.1 Hz, OCH2CH3), 6.94 (dd, 1H, J = 5.2, 3.7 Hz, H4 Th), 7.13 (dd, 1H, J= 3.7, 1.1 Hz, H3 Th), 7.19 (dd, 1H, J= 5.2, 1.1 Hz, H5 Th); 13C{1H} NMR (CDCl3, 75 MHz) δ 14.2 (OCH2CH3), 17.9 (CH2CH2CH2), 18.9 (Th-CC-CH2), 26.6 (EtOCO-CC-CH2), 61.8 (OCH2CH3), 73.7 (EtOCO-CC), 74.8 (Th-CC), 87.9 (EtOCO-CC), 92.2 (Th-CC), 123.5 (C2 Th), 126.1 (C4 Th), 126.7 (C5 Th), 131.2 (C3 Th), 153.5 (C=O); IR (KBr) νmax1710 (C=O) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 246 (M+). Anal. Calcd for C14H19O2PS: C, 68.26; H, 5.73. Found: C, 68.23; H, 5.52.
【0091】
1-(9-アントリル)-7-(2-チエニル)-1,6-ヘプタジイン(1h)の物理化学データ
Mp 42-43 ℃; 1H NMR (CDCl3, 300 MHz) δ 1.31 (t, 3H, J = 7.1 Hz, OCH2CH3), 2.10 (tt, 2H, J = 7.0, 7.0 Hz, CH2CH2CH2), 2.70 and 2.91 (each t, 2H, J = 7.0 Hz, CH2CH2CH2), 4.23 (q, 4H, J = 7.1 Hz, OCH2CH3), 7.46-7.58 (m, 4H, H2,3 An), 7.99 (d, 2H, J = 8.4 Hz, H4 An), 8.39 (s, 1H, H10 An), 8.51 (d, 2H, J = 8.4 Hz, H1 An); 13C{1H} NMR (CDCl3, 75 MHz) δ 14.0 (OCH2CH3), 18.1 (CH2CH2CH2), 19.4 (An-CC-CH2), 27.0 (EtOCO-CC-CH2), 61.8 (OCH2CH3), 73.8 (EtOCO-CC-CH2), 78.2 (An-CC-CH2), 87.9 (EtOCO-CC-CH2), 99.6 (An-CC-CH2), 117.6, 125.4, 126.2, 126.5, 126.9, 128.5, 131.0, 132.5 (each An) 153.5 (C=O); IR (neat) νmax 1708 (C=O) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 340 (M+)
【0092】
(本発明のホスホール化合物の製造)
ホスホール化合物(4a)は以下のようにして製造した。ジイン化合物(1a)(1.25 g, 5.0 mmol)とチタンテトライソプロポキシド(1.5 mL, 5.0 mmol)とジエチルエーテル(75 mL)の混合物をイソプロピルマグネシウムクロリドのジエチルエーテル溶液(2.0 M X 5.0 mL, 10 mmol)に-78℃でゆっくりと添加し、-50℃で2時間攪拌した。その後、ジクロロフェニルホスフィン(0.68 mL, 5.0 mmol)を-50℃で添加し、得られた懸濁液の温度を室温まで上昇させ、さらに室温で2時間攪拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液(30 mL)を反応液に注ぎ、セライトを通して不溶物を濾取して除去した後、濾液を油水分離し、水層に対してジエチルエーテルで抽出操作を行ってから(15 mL X 2)、有機層を合わせ、これを食塩水で洗浄し(50 mL)、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、真空下で濃縮することで油状物質を得た。この油状物質を-78℃で冷メタノールを用いて結晶化することで、目的とするホスホール化合物(4a)を薄黄色の固体として得た(560 mg, 31%)。ホスホール化合物(4b-4h)も基本的に上記と同様の方法で製造した(ただしホスホール化合物(4h)はこの方法では製造できなかった)。
【0093】
ホスホール化合物(4a)の物理化学データ
Mp 71-72 ℃; 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.10 (t, 6H, J = 6.8 Hz, OCH2CH3), 1.76 (br, 4H, CH2CH2CH2CH2), 3.03 and 3.21 (each br, 2H, CH2CH2CH2CH2), 4.11 (br, 4H, OCH2CH3), 7.25-7.35 (m, 5H, Ph); 13C{1H} NMR (CDCl3, 75 MHz) δ 14.1 (s, OCH2CH3), 22.2 (s, CH2CH2CH2CH2), 29.0 (s, CH2CH2CH2CH2), 60.3 (s, OCH2CH3), 128.3 (d, 3JP-C= 8.7 Hz, m-C Ph), 129.8 (d, 4JP-C = 1.9 Hz, p-C Ph), 134.0 (d, 2JP-C = 19.9 Hz, o-C Ph), 136.9 (s, PC=C), 158.8 (d, 2JP-C = 10.6 Hz, PC=C), 164.8 (d, 2JP-C= 18.8 Hz, C=O); 31P{1H} NMR (CDCl3, 162 MHz) δ + 8.7; IR (KBr) νmax 1701, 1696 (C=O) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 358 (M+). Anal. Calcd for C12H23O4P: C, 67.03; H, 6.47; P, 8.64. Found: C, 67.21; H, 6.51; P, 8.44.
フェニル基のイプソ炭素は13C NMRで明確に検出不可
【0094】
ホスホール化合物(4b)の物理化学データ
Mp 75-76 ℃; 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.17 (t, 6H, 1J= 6.4 Hz, OCH2CH3 ), 2.33 (br, 2H, CH2CH2CH2), 2,80 and 3.13 (each br, 4H, CH2CH2CH2), 4.15 (br, 4H, OCH2CH3), 7.27-7.42 (m, 5H, Ph); 13C{1H} NMR (CDCl3, 75 MHz) δ 14.1 (s, OCH2CH3), 28.3 (s, CH2CH2CH2), 30.1 (s, CH2CH2CH2), 60.5 (s, OCH2CH3), 128.4 (d, 3JP-C = 8.7 Hz, m-C Ph), 129.8 (d, 4JP-C = 1.9 Hz, p-C Ph), 132.9 (s, PC=C), 133.7 (d, 2JP-C = 19.9 Hz, o-C Ph), 164.7 (d, 2JP-C = 20.4 Hz, C=O), 167.3 (d, 2JP-C = 10.6 Hz, PC=C); 31P NMR (162 MHz) δ + 32.7; IR (KBr) νmax 1703, 1689 (C=O) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 345 ([M+H]+). Anal. Calcd for C11H21O4P: C, 66.27; H, 6.15; P, 9.00. Found: C, 66.13; H, 6.36; P, 8.75.
フェニル基のイプソ炭素は13C NMRで明確に検出不可
X線結晶解析結果(ORTEPダイヤグラム)を図1に示す
【0095】
ホスホール化合物(4c)の物理化学データ
Mp 107-108 ℃; 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 2.33 (br, 2H, CH2CH2CH2), 2,81 and 3.13 (each br, 2H, CH2CH2CH2), 3.69 (s, 4H,OCH3), 7.28-7.40 (m, 5H, Ph); 13C{1H} NMR (CDCl3, 75 MHz) δ 28.3 (s, CH2CH2CH2), 30.1 (s, CH2CH2CH2), 51.7 (s, OCH3), 128.6 (d, 3JP-C = 8.7 Hz, m-C Ph), 129.8 (s, p-C Ph), 129.9 (d, 1JP-C = 8.7 Hz, ipso-C Ph), 132.5 (d, 1JP-C= 3.1 Hz, PC=C), 133.6 (d, 2JP-C = 19.9 Hz, o-C Ph), 165.1 (d, 2JP-C = 20.5 Hz, C=O), 167.6 (d, 2JP-C= 9.9 Hz, PC=C); 31P{1H} NMR (CDCl3, 162 MHz) δ + 32.6; IR (KBr) νmax 1699 (C=O) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 317 (M+). Anal. Calcd for C9H17O4P: C, 64.56; H, 5.42; P, 9.79. Found: C, 64.44; H, 5.57; P, 9.65.
【0096】
ホスホール化合物(4d)の物理化学データ
Mp 89-90 ℃; 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.19 (t, 6H, J = 7.1 Hz, OCH2CH3 ), 4.17 (q, 4H, J = 7.1 Hz, OCH2CH3 ), 4.97 (m, 4H, CH2OCH2), 7.31-7.45 (m, 5H, Ph); 13C{1H} NMR (CDCl3, 75 MHz) δ 14.1 (s, OCH2CH3), 61.0 (s, OCH2CH3), 69.6 (s, CH2OCH2), 128.7 (d, 3JP-C= 9.3 Hz, m-C Ph), 130.3 (s, p-C Ph), 132.1 (s, PC=C), 133.9 (d, 2JP-C= 20.5 Hz, o-C Ph), 161.6 (d, 1JP-C = 10.6 Hz, PC=C), 163.8 (d, 2JP-C = 15.6 Hz, C=O); 31P{1H} NMR (CDCl3, 162 MHz) δ + 40.5; IR (KBr) νmax 1690 (C=O) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 347 ([M+H]+). Anal. Calcd for C10H19O5P: C, 62.43; H, 5.53; P, 8.94. Found: C, 62.16; H, 5.73; P, 8.66.
フェニル基のイプソ炭素は13C NMRで明確に検出不可
【0097】
ホスホール化合物(4e)の物理化学データ
Mp 135-136 ℃; 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.20 (t, 3H, J = 7.3 Hz, OCH2CH3), 2.35 (m, 2H, CH2CH2CH2), 2,65- 3.15 (m, 4H, CH2CH2CH2), 4.14 (m, 2H, OCH2CH3), 7.17-7.24 (m, 4H, m,p-H 1-Ph , p-H 5-Ph ), 7.27-7.31 (m, 2H, m-H 5-Ph), 7.39 (m, 2H, o-H 1-Ph), 7.49 (m, 2H, o-H 5-Ph); 13C{1H} NMR (CDCl3, 75 MHz) δ 14.3 (s, OCH2CH3), 29.1 (s, CH2CH2CH2), 29.2 (s, PC(CO2Et)=CCH2), 30.0 (s, C(Ph)=CCH2), 60.0 (s, OCH2CH3), 126.1 (s, PC(CO2Et)=CCH2), 127.4 (s, p-C 5-Ph), 128.0 (d, 3JP-C = 10.6 Hz, o-C 5-Ph), 128.5 (d, 3JP-C = 8.8 Hz, m-C 1-Ph), 128.6 (s, m-C 5-Ph), 129.3 (s, p-C 1-Ph), 131.7 (d, 1JP-C = 12.3 Hz, ipso-C 1-Ph), 133.6 (d, 2JP-C = 19.3 Hz, o-C 1-Ph), 136.2 (d, 2JP-C = 17.4 Hz, ipso-C 5-Ph), 144.6 (s, PC(Ph)=CCH2), 153.1 (d, 2JP-C = 8.1 Hz, PC(Ph)=CCH2), 165.1 (d, 2JP-C = 21.7 Hz, C=O), 170.1 (d, 2JP-C= 11.8 Hz, PC(CO2Et)=CCH2); 31P{1H} NMR (CDCl3, 162 MHz) δ + 32.0; IR (KBr) νmax 1690 (C=O) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 348 (M+). Anal. Calcd for C22H21O2P: C, 75.85; H, 6.08; P, 8.89. Found: C, 75.55; H, 6.25; P, 8.86.
【0098】
ホスホール化合物(4f)の物理化学データ
Mp 135-136 ℃; 1H NMR (CDCl3, 300 MHz) δ 1.19 (t, 3H, J= 7.2 Hz, OCH2CH3), 2.37 (m, 2H, CH2CH2CH2), 2.75- 3.25 (m, 4H, CH2CH2CH2), 4.15 (m, 2H, OCH2CH3), 7.06 (m, 1H, H5 Py), 7.19-7.28 (m, 3H, m,p-Ph), 7.41-7.46 (m, 2H, o-Ph), 7.47 (m, 1H, H3 Py), 7.56 (m, 1H, H4 Py), 8.53 (m, 1H, H6 Py); 13C NMR (CDCl3, 68 MHz) δ 14.3 (s, OCH2CH3), 28.9 (s, CH2CH2CH2), 29.8 (s, PC(CO2Et)=CCH2), 30.0 (s, PC(Py)=CCH2), 60.1 (s, OCH2CH3), 121.4 (s, C5 Py), 122.1 (d, 3JP-C= 7.2 Hz, C3 Py), 128.2 (d, 3JP-C = 8.4Hz, m-C Ph), 129.2 (d, 4JP-C = 1.7 Hz, p-C Ph), 131.8 (d, 1JP-C= 12.8 Hz, ipso-C Ph), 133.6 (d, 2JP-C = 19.5 Hz, o-C Ph), 136.2 (d, 4JP-C = 1.1 Hz, C4 Py), 143.7 (s, PC(Py)=CCH2), 149.6 (s, C6 Py), 154.5 (d, 2JP-C= 17.8 Hz, C2 Py), 156.3 (d, 2JP-C = 8.4 Hz, PC(Py)=CCH2), 165.0 (d, 2JP-C = 21.2 Hz, C=O), 169.2 (d, 2JP-C= 11.7 Hz, PC(CO2Et)=CCH2); 31P NMR (CDCl3, 162 MHz) δ + 32.6; IR (KBr) νmax 1695 (C=O) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 350 (M+). Anal. Calcd for C21H20NO2P: C, 72.20; H, 5.77; N, 4.01; P, 8.89. Found: C, 72.10; H, 5.79; N, 3.97; P, 8.76.
α炭素は13C NMRで明確に検出不可
【0099】
ホスホール化合物(4g)の物理化学データ
Mp 131-132 ℃; 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.18 (t, 3H, J = 7.1 Hz, OCH2CH3), 2.39 (m, 2H, CH2CH2CH2), 2.65-3.20 (m, 4H, CH2CH2CH2), 4.12 (m, 2H, OCH2CH3), 6.93 (m, 1H, H4 Th), 7.04 (m, 1H, H3 Th), 7.27 (m, 1H, H5 Th), 7.29 (m, 3H, m,p-Ph), 7.45 (m, 2H, o-Ph); 13C{1H} NMR (CDCl3, 75 MHz) δ 14.2 (s, OCH2CH3), 28.7 (s, CH2CH2CH2), 29.1 (s, PC(CO2Et)=CCH2), 30.2 (s, PC(Th)=CCH2), 60.0 (s, OCH2CH3), 125.1 (s, PC(CO2Et)=CCH2), 126.2 (d, 5JP-C = 1.9 Hz, C5 Th), 126.4 (d, 3JP-C = 8.0 Hz, C3 Th), 127.7 (s, C4 Th), 128.6 (d, 3JP-C = 8.8 Hz, m-C Ph), 129.7 (s, p-C Ph), 132.0 (d, 1JP-C = 13.7 Hz, ipso-C Ph), 133.8 (d, 2JP-C = 19.9 Hz, o-C Ph), 137.9 (d, 1JP-C = 3.7 Hz, PC(Th)=CCH2), 139.5 (d, 2JP-C = 21.2 Hz, C2 Th), 152.1 (d, 2JP-C= 8.1 Hz, PC(Th)=CCH2), 165.0 (d, 2JP-C = 21.7 Hz, C=O), 170.3 (d, 2JP-C = 10.6 Hz, PC(CO2Et)=CCH2); 31P{1H} NMR (CDCl3, 162 MHz) δ + 33.4; IR νmax1690 (C=O) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 354 (M+). Anal. Calcd for C22H19O2PS: C, 67.78; H, 5.40; P, 8.74. Found: C, 67.63; H, 5.46; P, 8.45.
【0100】
実施例2:
以下に示すスキームに従って、本発明のホスホール骨格のα位にエステル基を有するホスホール化合物のエステル基の還元およびアルキル化、P-スルフィド化を行った。製造方法の詳細は以下の通りである。
【0101】
【化36】

【0102】
(ホスホール化合物(6)およびホスホール化合物(7)の製造)
10 mLのヘキサンに溶解した実施例1で製造したホスホール化合物(4b)(300 mg, 0.87 mmol)をジイソブチルアルミニウムハイドライドのヘキサン溶液(1.0 M, 3.5 mL, 3.5 mmol)に-78℃で添加した。-50℃で1時間攪拌した後、元素硫黄(40 mg, 1.3 mmol)を添加し、得られた混合物の温度を室温までゆっくりと上昇させた。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液(5 mL)を添加し、混合物をセライトを通して濾過し、濾液から有機層を分離した。水層に対してジエチルエーテルで抽出操作を行い(5 mL X 3)、有機層を合わせ、これを食塩水で洗浄し(20 mL)、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、濃縮することで粗生成物を得た。この粗生成物を酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒を用いて結晶化することで、目的とするホスホール化合物(7)を薄黄色の固体として得た(160 mg, 0.55 mmol, 63%)。上記の工程において硫黄元素を添加することなく反応を停止させた場合、σ3-ホスフィン化合物であるホスホール化合物(6)がかなり空気に不安定な物質として得られた。ホスホール化合物(6)の化学構造は1H NMRとMSによって確認した。
【0103】
ホスホール化合物(6)の物理化学データ
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.77 (br, 2H, OH), 2.14 (m, 1H, CH2CH2CH2), 2.28 (m, 1H, CH2CH2H2), 2.45 (m, 2H, PC=CCH2), 2.64 (m, 2H, PC=CCH2), 4.38 (m, 2H, CH2OH), 4.52 (m, 2H, CH2OH), 7.28-7.40 (m, 5H, Ph); MS (MALDI-TOF) m/z 503 ([2M-OH]+).
【0104】
ホスホール化合物(7)の物理化学データ
Mp 131-132 ℃; 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 2.03 (t, 2H, J = 6.0 Hz, OH), 2.10-2.27 (m, 2H, CH2CH2CH2), 2.58-2.73 (m, 4H, PC=CCH2), 4.38-4.52 (m, 4H, CH2OH), 7.43-7.55 (m, 3H, m,p-Ph), 7.82-7.88 (m, 2H, o-Ph); 13C{1H} NMR (CDCl3, 75 MHz) δ 27.0 (d, 4JP-C = 1.8 Hz, CH2CH2CH2), 27.4 (d, 3JP-C= 11.2 Hz, PC=CCH2), 57.6 (d, 2JP-C = 15.6 Hz, CH2OH), 127.6 (d, 1JP-C = 70.3 Hz, PC=C), 128.9 (d, 2JP-C = 12.4 Hz, o-C Ph), 130.0 (s, ipso-C Ph), 130.3 (d, 3JP-C = 11.9 Hz, m-C Ph), 132.2 (d, 4JP-C= 2.4 Hz, p-C Ph), 157.3 (d, 2JP-C = 23.0 Hz, PC=CCH2); 31P{1H} NMR (CDCl3, 162 MHz) δ + 67.5; IR (KBr) νmax 3390 (OH) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 292 (M+).
【0105】
(ホスホール化合物(8)の製造)
7 mLのTHFに溶解した実施例1で製造したホスホール化合物(4b)(1.17 g, 3.40 mmol)をメチルマグネシウムブロマイドのTHF溶液(0.96 M, 15 mL, 14 mmol)に-78℃で添加した。混合物の温度を30分かけて室温までゆっくりと上昇させ、さらに30分間50℃で攪拌した。その後、得られた混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液(3 mL)を0℃で添加して酸性化し、続いてこの温度条件下で元素硫黄(160 mg, 5.0 mmol)を添加した。30分間攪拌した後、水層に対してジエチルエーテルで抽出操作を行い、有機層を合わせ、これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、濃縮することで油状物質を得た。この油状物質をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane/EtOAc = 2/1: Rf = 0.2)にかけることで、目的とするホスホール化合物(8)を薄黄色の固体として得た(475 mg, 1.36 mmol, 40%)。
【0106】
ホスホール化合物(8)の物理化学データ
Mp 133-134 ℃; 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.28 (s, 6H, Me), 1.43 (s, 6H, Me), 2.12-2.18 (m, 2H, CH2CH2CH2), 2.64-2.69 (m, 4H, CH2CH2CH2), 3.03 (s, 2H, OH), 7.26-7.49 (m, 3H, m,p-Ph), 7.85-7.91 (m, 2H, o-Ph); 13C NMR (CDCl3, 75MHz) δ 27.1 (d, 4JP-C = 1.7 Hz, CH2CH2CH2), 28.5 (d, 3JP-C = 12.3 Hz, PC=CCH2), 29.8 (d, 3JP-C= 1.6 Hz, Me), 31.3 (d, 3JP-C = 2.5 Hz, Me), 72.9 (d, 2JP-C= 11.5 Hz, COH), 128.6 (d, 1JP-C = 71.8 Hz, ipso-C Ph), 128.6 (d, 2JP-C = 12.3 Hz, o-C Ph), 130.0 (d, 3JP-C= 11.5 Hz, m-C Ph), 131.5 (d, 4JP-C = 3.3 Hz, p-C Ph), 136.8 (d, 1JP-C = 75.9 Hz, PC=C), 157.3 (d, 2JP-C= 23.0 Hz, PC=CCH2); 31P{1H} NMR (CDCl3, 162MHz) δ + 68.9; IR (KBr) νmax 3390 (OH) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 314 ([M-2(OH)]+).
【0107】
(ホスホール化合物(9)の製造)
実施例1で製造したホスホール化合物(4g)(53 mg, 0.15 mmol)と元素硫黄(24 mg, 0.75 mmol)とジクロロメタン(2 mL)の混合物を室温で5日間攪拌し、溶媒を除去した後、得られた粗生成物を溶出液としてジクロロメタンを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけることで(Rf = 0.2)、目的とするホスホール化合物(9)を黄色の固体として得た(20 mg, 35%)。
【0108】
ホスホール化合物(9)の物理化学データ
Mp 111-112 ℃; 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.16 (t, 3H, J= 7.1 Hz, OCH2CH3), 2.35 (m, 2H, CH2CH2CH2), 2.91 and 3.10 (each m, 2H, CH2CH2CH2), 4.14 (m, 2H, OCH2CH3 ), 7.00 (m, 1H, H4 Th), 7.38 (m, 1H, H3 Th), 7.42 (m, 1H, H5 Th), 7.42 (m, 3H, m-Ph), 7.50 (m, 1H, p-Ph), 7.86 (m, 2H, o-Ph); 13C{1H} NMR (CDCl3, 100 MHz) δ 14.0 (s, OCH2CH3), 27.0 (d, 4JP-C= 1.7 Hz, CH2CH2CH2), 29.4 (d, 3JP-C= 9.9 Hz, PC(CO2Et)=CCH2), 30.9 (d, 3JP-C= 9.1 Hz, PC(Th)=CCH2), 60.5 (s, OCH2CH3), 120.4 (d, 1JP-C = 81.3 Hz, PC=C), 128.0 (s, C5 Th), 128.4 (s, C4 Th), 128.6 (d, 2JP-C = 13.2 Hz, o-C Ph), 129.1 (d, 3JP-C = 4.1 Hz, C3 Th), 129.2 (d, 1JP-C= 82.5 Hz, PC=C), 130.5 (s, ipso-C Ph), 130.5 (d, 3JP-C = 12.4 Hz, m-C Ph), 132.1 (d, 4JP-C = 2.8 Hz, p-C Ph), 135.1 (d, 2JP-C = 18.2 Hz, C2 Th), 149.7 (d, 2JP-C= 19.8 Hz, PC(Th)=CCH2), 162.0 (d, 2JP-C = 17.4 Hz, C=O), 173.6 (d, 2JP-C = 19.8 Hz, PC(CO2Et)=CCH2); 31P NMR (CDCl3, 162 MHz) δ + 66.2; IR νmax 1692 (C=O) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 387 (M+).
【0109】
(ホスホール化合物(10)の製造)
10 mLのヘキサンに溶解した実施例1で製造したホスホール化合物(4g)(200 mg, 0.56 mmol)をジイソブチルアルミニウムハイドライドのヘキサン溶液(1.0 M, 1.12 mL, 1.12 mmol)に-78℃で添加した。-50℃で1時間攪拌した後、元素硫黄(27 mg, 0.85 mmol)を添加し、得られた混合物の温度を室温までゆっくりと上昇させた。その後、飽和塩化アンモニウム水溶液(5 mL)を添加し、混合物をセライトを通して濾過し、濾液から有機層を分離した。水層に対してジエチルエーテルで抽出操作を行い(10 mL X 2)、有機層を合わせ、これを食塩水で洗浄し(20 mL)、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、濃縮することで粗生成物を得た。この粗生成物を溶出液として酢酸エチルとヘキサン(2:1)の混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけることで(Rf = 0.3)、目的とするホスホール化合物(10)を黄色の固体として得た(160 mg, 83%)。
【0110】
ホスホール化合物(10)の物理化学データ
Mp 170-171 ℃; 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 2.09 (br, 1H, CH2OH), 2.31 (m, 2H, CH2CH2CH2), 2.72 and 2.87 (each m, 2H, CH2CH2CH2), 4.48 (m, 2H, CH2OH), 6.95 (m, 1H, H4 Th), 7.25 (m, 1H, H3 Th), 7.29 (m, 1H, H5 Th), 7.43 (m, 2H, m-H Ph), 7.50 (m, 1H, p-H Ph), 7.88 (m, 2H, o-H Ph); 13C{1H} NMR (CDCl3, 68 MHz) δ 27.2 (d, 4JP-C = 1.7 Hz, CH2CH2CH2), 27.5 (d, 3JP-C= 11.7 Hz, PC(CH2OH)=CCH2), 29.7(d, 3JP-C= 11.1 Hz, PC(Th)=CCH2), 57.7 (d, 2JP-C = 15.0 Hz, CH2OH), 125.0 (d, 1JP-C = 81.3 Hz, PC=C), 126.4 (s, C5 Th), 126.7 (d, 3JP-C = 4.5 Hz, C3 Th), 127.6 (s, ipso-C Ph), 127.8 (s, C4 Th), 128.4 (d, 1JP-C = 71.4 Hz, PC=C), 128.9 (d, 2JP-C = 12.8 Hz, o-C Ph), 130.4 (d, 3JP-C= 11.7 Hz, m-C Ph), 132.1 (d, 4JP-C = 2.8 Hz, p-C Ph), 135.2 (d, 2JP-C = 19.5 Hz, C2 Th), 151.9 (d, 2JP-C= 22.8 Hz, PC(Th)=CCH2), 158.2 (d, 2JP-C = 21.7 Hz, PC(CH2OH)=CCH2); 31P{1H} NMR (CDCl3, 162 MHz) δ + 68.0; IR (KBr) νmax 3475 (OH) cm-1; MS (MALDI-TOF) m/z 344 (M+). Anal. Calcd for C18H17OPS2: C, 62.77; H, 4.97; P, 8.99. Found: C, 62.58; H, 5.02; P, 8.73.
【0111】
(ホスホール化合物の光学特性)
ホスホール化合物の紫外線吸収特性と蛍光特性(励起波長:365nm)をTHF中で測定した。その結果、ホスホール化合物(4g)の紫外線吸収極大(λmax)は382nm(logε4.17)でありホスホール化合物(4e)の紫外線吸収極大(λmax)である355nm(logε4.12)よりも長波長側にあることがわかった。また、ホスホール化合物(4e)とホスホール化合物(4g)は黄緑色の蛍光を発し、ホスホール化合物(4g)の発光バンドはλmaxが475nmであり、ホスホール化合物(4e)のλmaxである453nmよりも長波長側にあることがわかった。一方、ホスホール化合物(4b)、ホスホール化合物(9)、ホスホール化合物(10)はほとんど蛍光を発しなかった。以上の結果から、高い発光特性を発揮させるためには、ホスホール化合物のホスホール骨格の2位と5位の置換基はπ電子供与型-π電子吸引型の組み合わせであることが好ましく、ホスホール化合物の光学特性には分子内におけるCT相互作用が大きく寄与していることがわかった。
【0112】
実施例3:
以下に示すスキームに従って、本発明の環状ホスホール化合物を製造した。製造方法の詳細は以下の通りである。
【0113】
【化37】

【0114】
(ホスホール化合物(12)の製造)
60 cm3 (870 mmol)のピロールに溶解した実施例2で製造したホスホール化合物(8)(2.1 g, 6.0 mmol)の溶液に30分間窒素をバブリングさせた後、トリフルオロボランのジエチルエーテル錯体(0.77 cm3, 6.0 mmol)を添加した。室温にて4時間攪拌した後、ジクロロメタン(100 cm3)と飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50 cm3)を添加した。水層に対してジクロロメタンで抽出操作を行い、有機層を合わせ、これを食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、濃縮した。得られた生成物を溶出液としてジクロロメタンと酢酸エチル(50:1)の混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、Rf = 0.6の溶出液を濃縮してメタノールで洗浄し、目的とするホスホール化合物(12)を無色の固体として得た(650 mg, 24%)。
【0115】
ホスホール化合物(12)の物理化学データ
Mp 154-155 ℃ (Found: C, 72.60; H, 6.99; N, 6.27; P, 6.89. Calc. for C27H31N2PS: C, 72.61; H, 7.00; N, 6.27; P, 6.94%); 1H NMR (400 MHz; CDCl3) 1.38 (6H, s), 1.41 (6H, s), 1.54-1.62 (1H, m), 1.90-1.94 (1H, m), 2.09-2.25 (4H, m), 5.88-5.90 (2H, m), 5.99-6.01 (2H, m), 6.70-6.71 (2H, m), 7.48-7.59 (3H, m), 7.97 (2H, m) and 9.12 (2H, br s); 13C{1H} NMR (68 MHz; CDCl3) 26.6, 27.6, 27.7, 27.9, 28.0, 28.7, 28.8, 37.7, 37.9, 102.5, 106.4, 117.2, 128.8, 129.8, 131.7, 131.8, 134.6, 135.0, 136.1, 138.3, 158.0 and 158.4; 31P{1H} NMR (162 MHz; CDCl3) 69.3; m/z (MALDI-TOF) 447 (M+).
【0116】
(環状ホスホール化合物(15)および環状ホスホール化合物(16)の製造)
ホスホール化合物(12)と例えばJ. Chem. Soc., Pekin Trans. 1 1977, 877やTetrahedron Lett. 2000, 41, 2919を参考に調製した2,5-ビス(1-ヒドロキシ-1-メチルエチル)チオフェン(13)(22 mg, 0.11 mmol)をジクロロメタン(80 cm3)に溶解し、得られた溶液に40分間窒素をバブリングさせた後、トリフルオロボランのジエチルエーテル錯体(0.014 cm3, 0.11 mmol)を添加した。室温にて3.5時間攪拌した後、蒸留水で洗浄し(3 X 80 cm3)、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、濃縮した。得られた薄黄色の固体を溶出液としてヘキサンとジクロロメタン(2:1)の混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、目的とするσ4-P,S,N2-hybrid体である環状ホスホール化合物(15)を黄色の固体として得た(Rf= 0.4; 41 mg, 61%)。また、同様の方法で、ホスホール化合物(12)と2,5-ビス(1-ヒドロキシ-1-メチルエチル)チオフェン(14)から目的とするσ4-P,O,N2-hybrid体である環状ホスホール化合物(16)を黄色の固体として得た(Rf = 0.4; 39%)。
【0117】
環状ホスホール化合物(15)の物理化学データ
Mp 241-242 ℃ (Found: C, 72.85; H, 7.10; N, 4.47; P, 5.12. Calc. for C37H43N2PS2: C, 72.75; H, 7.10; N, 4.59; P, 5.07%); 1H NMR (400 MHz; CDCl3) 1.27 (1H, m), 1.32 (6H, s), 1.36 (6H, s), 1.65 (6H, s), 1.72 (6H, s), 1.86 (1H, m), 2.10 (4H, m), 5.79 (4H, s), 6.78 (2H, s), 7.50 (3H, m), 7.90 (2H, m) and 9.09 (2H, s); 13C{1H} NMR (75 MHz; CDCl3) 26.7, 27.2, 28.0, 28.2, 31.4, 31.7, 37.4, 37.6, 38.1, 99.8, 101.7, 101.8, 123.6, 128.6, 129.1, 129.5, 131.8, 135.5, 136.5, 137.0, 141.3, 152.0, 158.4 and 158.7; 31P{1H} NMR (162 MHz; [D8]toluene) 69.6; m/z (FAB) 610 (M+).
X線結晶解析結果(ORTEPダイヤグラム)を図2に示す
【0118】
環状ホスホール化合物(16)の物理化学データ
Mp 177-178 ℃; 1H NMR (400 MHz; CDCl3) 1.27 (1H, m), 1.39 (6H, s), 1.40 (6H, s), 1.60 (6H, s), 1.67 (6H, s), 1.82 (1H, m), 2.11 (4H, m), 5.76 (2H, m), 5.78 (2H, m), 6.05 (2H, s), 7.51 (3H, m), 7.96 (2H, m) and 9.57 (2H, s); 13C{1H} NMR (75 MHz; CDCl3) 22.6, 22.8, 23.3, 23.6, 23.7, 24.4, 24.6, 25.4, 25.7, 25.8, 25.9, 29.0, 29.2, 29.7, 29.8, 34.1, 36.0, 36.1, 37.6, 37.7, 60.2, 60.5, 100.2, 100.3, 100.9, 103.6, 103.8, 104.2, 130.1, 131.1, 131.2, 131.3, 133.5, 133.7, 134.4, 134.9, 137.9, 138.9, 139.2, 146.8, 147.0, 159.6, 159.7, 168.8 and 169.0; 31P{1H} NMR (162 MHz; CDCl3) 69.4; m/z (MALDI-TOF) 594 (M+).
【0119】
実施例4:
以下に示すスキームに従って、本発明の環状ホスホール化合物と白金(II)との錯体化合物を製造した。製造方法の詳細は以下の通りである。
【0120】
【化38】

【0121】
(環状ホスホール化合物(17)の製造)
実施例3で製造した環状ホスホール化合物(15)(47 mg, 0.077 mmol)のトルエン溶液(5 cm3)にトリス(ジメチルアミノ)ホスフィン(0.040 cm3, 0.22 mmol)を添加し、還流しながら33時間攪拌した。得られた混合物を減圧下で濃縮し、溶出液としてヘキサンとジクロロメタン(2:1)の混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、目的とするσ3-P,S,N2-hybrid体である環状ホスホール化合物(17)を無色の固体として得た(Rf= 0.5; 41 mg, 92%)。この環状ホスホール化合物(17)の1H NMRスペクトルは、当該化合物が2つの配座異性体が4:1の比率で存在することを示した。
【0122】
環状ホスホール化合物(17)の物理化学データ
主たる配座異性体: 1H NMR (400 MHz; CDCl3) 1.23 (6H, s), 1.38 (6H, s), 1.66 (6H, s), 1.71 (6H, s), 1.5-2.4 (6H, m), 5.76 (2H, m), 5.83 (2H, m), 6.79 (2H, s) and 7.1-7.4 (7H, m); 31P{1H} (162 MHz; [D8]toluene) 32.1.
従たる配座異性体: 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) 1.16 (6H, s), 1.52 (6H, s), 1.66 (12H, s), 1.5-2.4 (6H, m), 5.65 (2H, m), 5.79 (2H, m), 6.84 (2H, s) and 7.1-7.4 (7H, m); 31P{1H} (162 MHz; [D8]toluene) 31.4; m/z (MALDI-TOF) 578 (M+).
【0123】
(環状ホスホール化合物(17)と白金(II)との錯体化合物の製造)
環状ホスホール化合物(17)(42 mg, 0.073 mmol)とPtCl2(COD)(18)(27 mg, 0.073 mmol)を入れたフラスコにトルエン(2 cm3)を添加し、6時間還流加熱した。得られた溶液を減圧下で濃縮することで油状物質を得、この油状物質を溶出液としてヘキサンとジクロロメタン(2:1)の混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、さらに溶出液としてクロロホルムを用いたGPC分離を行い、目的とする白金-ホスフィン錯体化合物(19) を薄黄色の結晶として得た(41 mg, 62%)。また、白金-ホスフィン錯体化合物(20)(2 mg, 4%)、白金-ホスフィン錯体化合物(21)(3 mg, 5%)を得た。以上の結果から、リン含有ハイブリッドカリックスピロールである環状ホスホール化合物(17)は、遷移金属などに対する単座配位子として機能することがわかった。
【0124】
白金-ホスフィン錯体化合物(19)の物理化学データ
Mp ca. 160 ℃ (decomp) (Found: C, 53.95; H, 5.57; N, 2.70; P, 2.72. Calc. for C46H55Cl4N2PPtS (19・CHCl3): C, 53.34; H, 5.35; N, 2.70; P, 2.99%); 1H NMR (400 MHz; CDCl3) 0.81 (1H, m), 0.91 (3H, s), 1.15 (1H, m), 1.51-1.88 (7H, m), 1.61 (3H, s), 1.68 (3H, s), 1.70 (3H, s), 1.77 (3H, s), 1.82 (3H, s), 1.85 (3H, s), 1.93 (3H, s), 2.06-2.21 (3H, m), 2.89 (1H, m), 5.50-6.01 (3H, m), 5.66 (1H, m), 5.73 (1H, m), 5.85 (1H, m), 5.88 (1H, m), 6.30-6.56 (1H, m), 6.56 (1H, s), 7.36-7.44 (3H, m), 7.70-7.74 (2H, m) and 9.21 (2H, s); 13C{1H} (75 MHz; CDCl3) 23.9, 25.5, 25.8, 25.9, 27.0, 27.1, 28.1, 29.8, 30.6, 31.1, 31.4, 31.7, 34.1, 36.1, 36.2, 37.2, 37.4, 37.5, 37.7, 37.8, 40.5, 99.1, 99.8, 101.8, 102.3, 105.3, 105.5, 109.2, 109.3, 124.2, 124.4, 128.4, 128.6, 129.2, 129.5, 130.5, 131.6, 131.7, 134.1, 134.2, 134.8, 141.6, 141.7, 142.3, 142.5, 142.6, 143.2, 150.0, 151.0, 160.1, 160.3, 166.9 and 167.1; 31P{1H} (162 MHz; CDCl3) 51.1 (JPt-P 4281); m/z (FAB) 916 (M+).
白金-ホスフィン錯体化合物(19)・(CHCl3)2のX線結晶解析結果(ORTEPダイヤグラム)を図3に示す
【0125】
白金-ホスフィン錯体化合物(20)の物理化学データ
1H NMR (300 MHz; CDCl3) 0.92-1.04 (4H, m), 1.23 (12H, s), 1.60-1.72 (28H, m), 1.88-2.05 (4H, m), 2.09 (12H, s), 5.76-5.79 (8H, m), 6.41 (4H, s), 7.34-7.38 (4H, m), 7.45-7.49 (2H, m), 7.86-7.90 (4H, m) and 8.85 (4H, s); 31P{1H} (162 MHz; CDCl3) 46.7 (JPt-P 2476); m/z (MALDI-TOF) 1388 (M+-Cl).
【0126】
白金-ホスフィン錯体化合物(21)の物理化学データ
1H NMR (400 MHz; CDCl3) 1.28 (6H, s), 1.45 (6H, s), 1.62 (6H, s), 1.65 (6H, s), 1.67 (18H, s), 1.77-2.10 (8H, m), 2.25 (6H, s), 2.43-2.48 (2H, m), 5.66-5.68 (2H, m), 5.80-5.82 (6H, m), 6.55 (2H, s), 6.84 (2H, s), 7.19-7.26 (2H, m), 7.35-7.46 (6H, m), 7.53 (2H, m), 7.92 (2H, s) and 8.91 (2H, s); 31P{1H} (162 MHz; CDCl3) 45.5 (JPt-P 2400), 46.5 (JPt-P 2560); m/z (MALDI-TOF) 1424 (M+).
【0127】
実施例5:
以下に示すスキームに従って、本発明の環状ホスホール化合物とパラジウム(0)との錯体化合物を製造した。製造方法の詳細は以下の通りである。
【0128】
【化39】

【0129】
【化40】

【0130】
【化41】

【0131】
(環状ホスホール化合物(24)および環状ホスホール化合物(25)の製造)
実施例3と同様にして実施例2で製造したホスホール化合物(8)からホスホール化合物(12)を得た。次に、このホスホール化合物(12)(530 mg, 1.2 mmol)とチオフェンジオール化合物(23)(360 mg, 1.2 mmol)のジクロロメタン溶液(600 mL)に30分間窒素をバブリングさせた後、トリフルオロボランのジエチルエーテル錯体(0.17 mL, 1.2 mmol)を添加した。室温にて2時間攪拌した後、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノベンゾキノン(600 mg, 2.6 mmol)を添加し、さらに1時間攪拌した。得られた反応混合物に飽和炭酸ナトリウム水溶液(200 mL)を注ぎ、有機層を飽和炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し(200 mL X 3)、さらに食塩水で洗浄し(200 mL)、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、濃縮した。生成物を溶出液としてヘキサンとジクロロメタンと酢酸エチル(10:3:1)の混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、オレンジ色のバンドを示すRf= 0.5のフラクション(一部酸化)とブドウ酒色のバンドを示すRf = 0.3のフラクション(完全酸化)を集め、両フラクションを濃縮した後、メタノールで洗浄し、前者のフラクションから環状ホスホール化合物(25)を赤味がかったオレンジ色の固体として得た(40 mg, 5%)。また、後者のフラクションから環状ホスホール化合物(24)を赤色の固体として得た(200 mg, 24%)。
【0132】
環状ホスホール化合物(24)の物理化学データ
Mp 190 ℃ (dec); 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.45 (s, 6H, CH3), 1.56 (s, 6H, CH3), 1.90-2.15 (m, 2H, CH2CH2CH2), 2.35-2.60 (m, 4H, CH2CH2CH2), 6.55 and 6.66 (each d, 2H, J = 4.4 Hz, β-pyrrole), 6.64 (s, 2H, β-thiophene), 7.35-7.50 (m, 10H, meso-Ph), 7.40-7.55 (m, 3H, m,p-H P-Ph), 8.14 (m, 2H, o-H P-Ph); 13C{1H} NMR (CDCl3, 68 MHz) δ 24.8, 24.9, 26.0, 28.4, 30.7, 30.9, 41.7, 41.8, 125.6, 127.5, 128.2, 128.3, 128.5, 130.4, 130.6, 130.8, 133.3, 133.8, 134.4, 136.0, 138.3, 141.8, 152.5, 152.6, 180.4; 31P{1H} NMR (CDCl3, 162 MHz) δ + 67.9;UV/Vis (CH2Cl2) λmax(ε): 330 (34200), 496 (18400), 524 (15700); MS (FAB) m/z 703 ([M+H]+).
【0133】
環状ホスホール化合物(25)の物理化学データ
Mp 218-220 ℃; 1H NMR ([D8]toluene, 343 K, 400 MHz) δ 1.30-1.50 (br, 2H, CH2CH2CH2), 1.45 (s, 6H, CH3), 1.61 (s, 6H, CH3), 1.82-2.00 (m, 4H, CH2CH2CH2), 5.97 and 6.02 (each m, 2H, β-pyrrole), 6.51 (s, 2H, β-thiophene), 7.08-7.14 (m, 10H, meso-Ph), 7.28-7.34 (m, 3H, m,p-H P-Ph), 7.97 (m, 2H, o-H P-Ph), 10.06 (m, 2H, NH); 31P{1H} NMR (d8 toluene, 343 K, 162 MHz) δ + 70.0; IR (KBr) νmax3297 (NH) cm-1; UV/Vis (CH2Cl2) λmax(ε): 306 (19900), 480 (sh, 25000), 508 (28000); MS (FAB) m/z 704 (M+).
【0134】
(環状ホスホール化合物(26)および環状ホスホール化合物(27)の製造)
σ4-P,S,N2-ハイブリッドカリックスフィリンである環状ホスホール化合物(24)(200 mg, 0.28 mmol)のトルエン溶液(20 mL) に30分間窒素をバブリングさせた後、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン(0.13 mL, 0.71 mmol)を添加し、還流しながら20時間攪拌した。得られた混合物を減圧下で濃縮し、溶出液としてヘキサンとジクロロメタンと酢酸エチル(15:5:1)の混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、紫色のバンドを示すRf= 0.3のフラクションを集め、濃縮した後、メタノールで洗浄し、σ3-P,S,N2-hybrid体である環状ホスホール化合物(26)をブドウ酒色の固体として得た(125 mg, 66%)。また、少量のトリピランユニット還元生成物である環状ホスホール化合物(27)をオレンジ色の固体として得た(Rf = 0.5, 9 mg, 5%)。
【0135】
環状ホスホール化合物(26)の物理化学データ
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.33 (s, 6H, CH3), 1.52 (s, 6H, CH3), 2.00-2.10 and 2.24 (each m, 1H, CH2CH2CH2), 2.20-2.32 and 2.45-2.55 (each m, 2H, CH2CH2CH2), 6.60 (s, 2H, β-thiophene), 6.60 and 6.64 (each d, 2H, J = 4.5 Hz, β-pyrrole), 7.26-7.30 (m, 3H, m,p-H P-Ph), 7.32-7.50 (m, 10H, meso-Ph), 7.57 (m, 2H, o-H P-Ph); 13C{1H} NMR (CDCl3, 100 MHz) δ 26.5, 26.6, 28.7, 28.8, 29.5, 41.6, 41.8, 126.0, 127.4, 127.8, 127.9, 128.0, 128.4, 130.4, 130.5, 130.6, 133.5, 134.1, 134.4, 135.3, 135.5, 138.1, 140.9, 141.3, 152.2, 152.7, 155.5, 155.6, 182.4; 31P{1H} NMR (CDCl3, 162 MHz) δ + 26.7; MS (FAB) m/z 671 ([M+H]+).
【0136】
環状ホスホール化合物(27)の物理化学データ
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.35 (s, 6H, CH3), 1.72-1.83, 2.02-2.13 and 2.40-2.50 (each m, 2H, CH2CH2CH2), 5.76 (br, 2H, β-thiophene), 5.98 and 6.41 (each m, 2H, β-pyrrole), 7.27-7.48 (m, 13H, m,p-H P-Ph and meso-Ph), 7.53 (m, 2H, o-H P-Ph), 8.68 (m, 2H, NH); 31P{1H} NMR (CDCl3, 162 MHz) δ + 31.0; IR (KBr) νmax 3414 (NH) cm-1; MS (FAB) m/z 672 (M+).
【0137】
(環状ホスホール化合物(26)とパラジウム(0)との錯体化合物の製造)
環状ホスホール化合物(26)(6.7 mg)とPd(dba)2(5.8 mg)とジクロロメタンの混合物を室温にて3時間攪拌した後、減圧下で濃縮し、溶出液としてヘキサンとジクロロメタンと酢酸エチル(10:3:1)の混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけ、紫色のバンドを示すRf= 0.5のフラクションを集め、濃縮した後、メタノールで洗浄し、目的とするパラジウム-ホスフィン錯体化合物(28)を赤味がかった紫色の固体として得た(80%)。
【0138】
パラジウム-ホスフィン錯体化合物(28)の物理化学データ
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 1.22 (s, 6H, CH3), 1.67 (s, 6H, CH3), 2.12-2.27 and 2.30 -2.44 (each m, 1H, CH2CH2CH2), 2.48-2.64 and 2.77-2.90 (each m, 2H, CH2CH2CH2), 6.10 and 6.34 (each br, 2H, J = 3.2 Hz, β-pyrrole), 6.22 (br, 2H, β-thiophene), 7.26-7.29 (m, 3H, m,p-H, P-Ph), 7.29-7.32 (m, 4H, o-H meso-Ph), 7.32-7.38 (m, 6H, m,p-H meso-Ph), 7.39-7.44 (m, 2H, o-H P-Ph); MS (MALDI-TOF) m/z 777 (M+).
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、光集積回路などに利用可能な非線形光学材料に化学変換容易であり、金属配位子などとしても利用できる環状ホスホール化合物などの出発原料として有用なホスホール化合物、その簡便な製造方法およびこのホスホール化合物を出発原料として製造される環状ホスホール化合物を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】ホスホール化合物(4b)のX線結晶解析結果(ORTEPダイヤグラム)
【図2】環状ホスホール化合物(15)のX線結晶解析結果(ORTEPダイヤグラム)
【図3】白金-ホスフィン錯体化合物(19)・(CHCl3)2のX線結晶解析結果(ORTEPダイヤグラム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されるホスホール化合物。
【化1】


〔式中、Arは置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。Xは酸素原子または硫黄原子を示す。[]は存在しなくてもよいことを示す。Yは置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、-COOR4(R4はアルキル基を示す)のいずれかを示す。R1,R2は一緒になって任意に酸素原子、-S(O)m-(mは0〜2の整数を示す)、-NR5-(R5は水素原子またはアルキル基を示す)によって中断されていてもよいアルキレン基を示す。R3はアルキル基を示す〕
【請求項2】
Yが-COOR4であってR3とR4が同じアルキル基である請求項1記載のホスホール化合物。
【請求項3】
下記の一般式(1)で表されるホスホール化合物の製造方法であって、下記の一般式(2)で表されるジイン化合物に有機遷移金属化合物を反応させて下記の一般式(3)で表されるメタラシクロペンタジエン化合物を得、得られたメタラシクロペンタジエン化合物にArPX1X2(X1,X2は同一または異なってハロゲン原子を示す。Arは前記と同義)を反応させ、所望によりさらにP-スルフィド化またはP-オキシド化することによる製造方法。
【化2】


〔式中、Ar,X,[],Y,R1,R2,R3は前記と同義〕
【化3】


〔式中、QはR1とR2によって形成されるアルキレン基を示す。Y,R3は前記と同義〕
【化4】


〔式中、Mは遷移金属原子を示す。L1,L2は同一または異なってアニオン性配位子または中性配位子を示す。Y,R1,R2,R3は前記と同義〕
【請求項4】
遷移金属原子がチタン原子である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
チタンテトライソプロポキシドをイソプロピルマグネシウムハライドの存在下で上記の一般式(2)で表されるジイン化合物と反応させる請求項3または4記載の製造方法。
【請求項6】
下記の一般式(4)で表されるホスホール化合物。
【化5】


〔式中、Tは置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、-CR13R14OH(R13,R14は同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基のいずれかを示す)のいずれかを示す。R11,R12は同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基のいずれかを示す。Ar,X,[],R1,R2は前記と同義〕
【請求項7】
下記の一般式(4)で表されるホスホール化合物の製造方法であって、下記の一般式(1)で表されるホスホール化合物のホスホール骨格のα位に結合したエステル基を還元またはアルキル化することによる製造方法。
【化6】


〔式中、Ar,X,[],T,R1,R2,R11,R12は前記と同義〕
【化7】


〔式中、Ar,X,[],Y,R1,R2,R3は前記と同義〕
【請求項8】
下記の一般式(5)で表される環状ホスホール化合物。
【化8】


〔式中、環Aは表記したホスホールに加えてさらに3つ以上の置換基を有していてもよいアリーレン基および/または置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基によって構成され、その一部または全部がπ電子共役系を形成してもよい環構造を示す。Ar,X,[],R1,R2は前記と同義〕
【請求項9】
下記の一般式(6)で表される請求項8記載の環状ホスホール化合物。
【化9】


〔式中、U,V,Wは同一または異なって置換基を有していてもよいアリーレン基または置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基を示す。R21,R22,R23,R24,R25,R26,R27,R28は同一または異なって水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基のいずれかを示す。R21,R22,R23,R24,R25,R26,R27,R28のいずれかは隣接するU,V,Wとの間で二重結合を形成してもよい。Ar,X,[],R1,R2は前記と同義〕
【請求項10】
下記の一般式(6)で表される環状ホスホール化合物の製造方法であって、下記の一般式(7)で表されるホスホール化合物を置換基を有していてもよいアリール化合物および/または置換基を有していてもよいヘテロアリール化合物と脱水縮合反応させて下記の一般式(8)で表されるホスホール化合物を得、得られたホスホール化合物をHOR33R34C-V-CR35R36OH(R33,R34,R35,R36はそれぞれR23,R24,R25,R26と同義かR23,R24,R25,R26に変換されうる基を示す。Vは前記と同義)と脱水縮合反応させることによる製造方法。
【化10】


〔式中、Ar,X,[],U,V,W,R1,R2,R21,R22,R23,R24,R25,R26,R27,R28は前記と同義〕
【化11】


〔式中、R31,R32,R37,R38はそれぞれR21,R22,R27,R28と同義かR21,R22,R27,R28に変換されうる基を示す。Ar,X,[],R1,R2は前記と同義〕
【化12】


〔式中、U’,W’は各々U,Wに対応する置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。Ar,X,[],R1,R2,R31,R32,R37,R38は前記と同義〕
【請求項11】
下記の一般式(5)で表される環状ホスホール化合物と遷移金属との錯体化合物。
【化13】


〔式中、環A,Ar,X,[],R1,R2は前記と同義〕

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−238570(P2007−238570A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66791(P2006−66791)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】