説明

ホルムアルデヒド捕捉剤

【課題】界面活性剤を含まない均一で安定した懸濁液であって、接着層への水分の浸透と接触を防ぎ、接着剤の加水分解によるホルムアルデヒドの発生と耐水接着性能の低下を抑えることができるホルムアルデヒド捕捉剤を提供する。
【解決手段】動植物性油及び/又はその誘導体と、尿素と、水又は水系液状物とを混合して調製された水系懸濁液からなるホルムアルデヒド捕捉剤であって、
前記動植物性油及び/又はその誘導体を100質量部とするときに、前記尿素を30〜500質量部、前記水又は水系液状物を30〜1000質量部含み、かつ前記水又は水系液状物が前記尿素100質量部に対して70質量部以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境保全を考慮して改良されたホルムアルデヒド捕捉剤に関する。更に詳しくは、持続可能な動植物由来の油脂を資源にして、ホルムアルデヒド系樹脂接着剤の遊離ホルムアルデヒドや木材接着製品から放散するホルムアルデヒドを削減するホルムアルデヒド捕捉剤であって、特にその資源に食品調理の際に排出する廃食用油をリサイクル利用するホルムアルデヒド捕捉剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユリア樹脂やメラミン樹脂、フェノール樹脂等のホルムアルデヒド系樹脂は、パーティクルボードや木質繊維板などの接着剤として広く使用されている水系液状接着剤である。これらの接着剤は、原料としてホルマリンを使用する関係上、樹脂液中に少量の未反応のホルムアルデヒドが残存する。またこれらの接着剤を使用して接着した木材製品からは、僅かなホルムアルデヒドガスが放散する。
【0003】
ホルムアルデヒドは大気中に0.3〜0.5ppm程度の僅かな量が存在しても、人の目や鼻を刺激し、特に化学品に対して敏感なアレルギー体質の人には目を充血させたり、皮膚に発疹を生じさせる。またネズミを用いた試験では、ホルムアルデヒドが大気中に2ppm以上の濃厚な濃度で存在すると、高濃度のホルムアルデヒドは、鼻腔等にガンを生じさせる発ガン物質になることが判明している。
【0004】
そのため、居住空間の大気中におけるホルムアルデヒドの濃度には、厳しい規制が設けられている。近年、建築基準法の改正により、住宅建築などに使用されている建築材料からの、大気中へ放散するホルムアルデヒド濃度が厳しく制限され、例えば、ホルムアルデヒド放散量を測定するデシケータ法による試験において、その測定平均値が0.5mg/lを越える木材接着製品の使用が禁止されることとなった。
【0005】
従来から、ホルムアルデヒド放散量を抑えるために、ホルムアルデヒド系樹脂接着剤の製造時に尿素や各種アンモニウム塩、アミノ化合物、アミン等、ホルムアルデヒドと容易に反応する化合物を添加したり、或いはホルムアルデヒド系樹脂接着剤を使用して接着した木材接着製品に、これらの化合物を添加又は塗布する方法が一般的に実施されている。
【0006】
しかし、これらの化合物を使用する方法では、経日的に、ホルムアルデヒド放散を抑える効果が減少したり、木材接着製品の表面に変色を生じさせ、更に木材接着製品の製造時に接着剤に添加すると、接着剤の耐水接着性能を低下させる問題が生じていた。そのため、最近では、アルデヒド類の抑制能力が高いことで知られているヒドラジド化合物(例えば、特許文献1)を、接着剤のホルムアルデヒド類捕捉能として使用している(例えば、特許文献2)。しかし、この化合物は、その安全性や捕捉効果の持続性などは明確でなく、しかも高価であり、また接着剤に添加すると、接着剤の耐水接着性能を低下させる点で、尿素、各種アンモニウム塩、アミノ化合物又はアミン等を使用した従来のホルムアルデヒド捕捉能と同様であった。
【0007】
耐水接着性低下の原因は、従来からのホルムアルデヒド捕捉剤の場合、この捕捉剤をホルムアルデヒド系樹脂接着剤に直接添加又は間接的に添加すると、これらの化合物が、樹脂の硬化反応に必要なホルムアルデヒドまでをも捕捉してしまうことであり、これにより、樹脂の硬化が遅れたり、耐水接着性を付与するのに必要な架橋を阻害して、木材接着製品に必要な耐水接着性が十分に付与されない。
【0008】
そのため、耐水性を増強させるために、例えば、高価な接着剤に含まれる水酸基と容易に反応して耐水性能を付与する、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)のプレポリマーを添加したり、ユリア樹脂の一部にメラミン樹脂などを併用する増強方法が行われているが(例えば、特許文献3)、これらの高価な接着補強剤の使用は、接着剤のコストを上昇させる結果にもなっている。
【0009】
また木材接着製品の耐水接着性の低下は、上記理由の他、木材を通じて接着層に浸透した水分による接着剤の加水分解や膨潤軟化によっても起こるため、接着剤の耐水性能を増強する上記方法以外に、接着層に防水性を付与し、木材を通じて浸透した水分の影響を抑えることによっても、木材接着製品の耐水接着性低下を軽減することができる。
【0010】
その対策として液状の油脂成分を予め木材に浸透させたり、接着剤に油脂成分を添加する方法が試みられている。
【特許文献1】特開平10−036681(段落[0013]、[0017]及び[0024])
【特許文献2】特開2004−189873(請求項1及び請求項2)
【特許文献3】特開2005−125737(請求項8、請求項9、段落[0021]及び段落[0024])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、油脂は水と分離しやすいため、それを水系液状物である接着剤と均一に混合させるためには界面活性剤を添加して懸濁液とする必要があるが、界面活性剤の添加は接着剤の親水性を向上させるため、防水性及び耐水接着性を一層低下させる原因となる。
【0012】
本発明の目的は、界面活性剤を含まない均一で安定した懸濁液であって、接着層への水分の浸透と接触を防ぎ、遊離又は接着剤の加水分解によるホルムアルデヒドの発生と耐水接着性能の低下を抑えることができるホルムアルデヒド捕捉剤を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、噴霧の際の引火に対する安全性を確保したホルムアルデヒド捕捉剤を提供することにある。
【0014】
本発明の更に別の目的は、廃食用油をその一成分としてリサイクル利用した、低コストで製造可能なホルムアルデヒド捕捉剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、動植物性油及び/又はその誘導体と、尿素と、水又は水系液状物とを混合して調製された水系懸濁液からなるホルムアルデヒド捕捉剤であって、動植物性油及び/又はその誘導体を100質量部とするときに、尿素を30〜500質量部と、水又は水系液状物を30〜1000質量部含み、かつ水又は水系液状物が尿素100質量部に対して70質量部以上であることを特徴とするホルムアルデヒド捕捉剤である。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、動植物性油が廃食用油であるホルムアルデヒド捕捉剤である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤によれば、動植物性油及び/又はその誘導体を100質量部としたとき、尿素を30〜500質量部、水又は水系液状物を30〜1000質量部含み、かつ水又は水系液状物が尿素100質量部に対して70質量部以上である水系懸濁液であるため、界面活性剤による耐水性低下の影響がなく、接着層への水分の浸透と接触を防ぐことができる。これにより、接着剤の加水分解によるホルムアルデヒドの発生と耐水接着性能の低下を抑えつつ、木材接着製品中に遊離して存在するホルムアルデヒドを捕捉することができる。また均一な水系懸濁液であるため、噴霧の際の引火に対する安全性を確保できる。更に木材に浸透した油脂成分の防水効果により、木材に防腐性が付与され、また水分による木材の膨潤が抑制されるため、木材接着製品の接合部における機械的強度の低下を抑制できる。なお動植物性油に、廃食用油をリサイクル利用すれば、製造コストを大幅に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、動植物性油及び/又はその誘導体を100質量部としたとき、尿素30〜500質量部、好ましくは50〜300質量部と、水又は水系液状物30〜1000質量部とを含み、かつ水又は水系液状物が尿素100質量部に対して70質量部以上、好ましくは100〜300質量部である。これにより、接着剤の耐水性を低下させる原因となる界面活性剤を使用せずに、均一な安定した懸濁液とすることができる。この懸濁液は、油脂成分である動植物性油及び/又はその誘導体と尿素とが結合した尿素アダクトが、ホルムアルデヒド捕捉剤中に均一に分布することにより、均一な安定した懸濁液となる。各成分が分離して、このような懸濁液が得られないと、分離した油脂成分を単独で噴霧することになり、噴霧の際に引火を招く危険性が生じる。本発明のホルムアルデヒド捕捉剤はこれらの成分が分離せずに、均一に混合した懸濁液であるため、従来技術の油脂成分を予め木材に浸透させたり、接着剤に油脂成分を単に添加する方法に比べ、噴霧の際の引火に対する安全性が極めて高い。本発明のホルムアルデヒド捕捉剤では、木材接着製品等に噴霧或いは塗布した後、この尿素アダクトが50℃以上の加熱によって再び油脂成分と尿素とに解離し、尿素は木材接着製品中に遊離して存在するホルムアルデヒドと反応して、ホルムアルデヒドを固定する。また油脂成分は、木材内部に浸透して木材を疎水性化し、接着層の水分による影響を防止して、接着剤の加水分解によるホルムアルデヒドの発生と耐水接着性能の低下を抑える。そのため、ホルムアルデヒドの添加量が少ない接着剤であっても、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を使用すれば、上記油脂成分の防水効果により、高い耐水接着性能を維持できる。更には木材へ防腐性を付与し、また水分による木材の膨潤が抑制されるため、木材接着製品の接合部における機械的強度の低下を抑制できる。
【0020】
それぞれの成分の含有量を、上記範囲としたのは、動植物性油及び/又はその誘導体を100質量部とするときに、尿素の含有量が30質量部未満であると、攪拌しても、各成分が分離して安定した懸濁液が得られず、500質量部を越えると耐水接着性を低下させるからである。また水又は水系液状物の含有量が、動植物性油及び/又はその誘導体を100質量部とするときに、下限値未満の30質量部未満であると、攪拌しても尿素が溶解せず、高粘度の懸濁液となり、噴霧或いは塗布の際に支障が生じ、上限値の1000質量部を越えると、水分が多すぎるため希薄液となり、例えば、噴霧する木質チップに過剰な水分を与えてしまうといった不具合が生じるからである。またこのときの水又は水系液状物の含有量が尿素100質量部に対して70質量部未満であると、不溶解の尿素の沈殿物が生じるからである。なお、水又は水系液状物として水のみを使用する場合は、上記範囲のうち30〜500質量部が好ましい。また水系液状物として水系接着剤であるユリア樹脂、メラミン樹脂又はフェノール樹脂等のホルマリン系樹脂水溶液を使用する場合は、50〜1000質量部が好ましい。
【0021】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤の成分として使用される動植物性油脂は常温で液状であるものが好ましい。この油脂としては、豚、牛などの獣類、鯨などの海獣類、魚類といった動物、また大豆、トウモロコシ、ナタネ、パームなどのヤシ類、ヒマワリ、米、綿実、ピーナッツ、オリーブなどの植物種子などの油脂が挙げられる。本発明では捕捉剤の成分として、これらの油脂の1種又は2種以上を混合した油脂類を使用する。このほか、アマニ油やヒマワリ油などの使用も可能である。
【0022】
また使用する動植物性油脂には、上記油脂類を部分ケン化、水素添加又はエポキシ化などの化学処理を施した誘導体も使用でき、或いは加水分解して単離した脂肪酸及びその誘導体も使用することできる。
【0023】
更に食品加工工場やレストランなどで天ぷら、揚げ物の調理に使用する食用油は、調理場によりその組成はそれぞれ異なるものの、通常、大豆油、ナタネ油、ヤシ油、トウモロコシ油の植物性油や、牛脂、豚脂などの動物性油などを混合したものである。そのため、これらの使用済み廃食用油を、揚げ粕などの粗大な異物を除去してそのまま原料としてリサイクル使用することができ、大幅な製造コストの削減が可能になる。
【0024】
使用する尿素は、特に形状は限定されないが、平均粒径が好ましくは1〜3mmの粒状の尿素を使用する。この尿素が、油脂成分である動植物性油及び/又はその誘導体と結合して、ホルムアルデヒド捕捉剤中に尿素アダクトとして存在することにより、均一で安定した懸濁液となる。
【0025】
水以外の水系液状物は水を含んでいれば、特に制限はないが、例えば、鉱酸又は有機酸の水溶液、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム又はギ酸アンモニウム等のアンモニウム塩の水溶液、有機アミン、イミン又はイミドの水溶液、ニカワ又はデンプン及びその誘導体、ポリビニルアルコール及びその誘導体、カルボキシメチルセルロース又はメチルセルロース等のセルロース誘導体、アラビアガム、アルギン酸ソーダ又はポリアクリル酸ソーダ等の水溶性ポリマーの水溶液、ユリア樹脂、メラミン樹脂又はフェノール樹脂等のホルマリン系樹脂水溶液、ポリ酢酸ビニル樹脂又はポリアクリル酸樹脂等の熱可塑性樹脂エマルジョン、或いはスチレン・ブタジエンゴム又はアクリロニトリル・ブタジエンゴム等のゴムラテックス等の1種又は2種以上の混合液が挙げられる。また耐水接着性能を向上させるために、石油系パラフィン、ポリエチレンワックス又は植物系ワックス等のエマルジョンを使用することもできる。
【0026】
また動植物性油脂及び/又はその誘導体により付与される防水性及び耐水接着性を補うために、必要に応じて従来使用されていたワックスエマルジョンを動植物性油脂及び/又はその誘導体と併用したり、尿素のホルムアルデヒド捕捉効果を補うために、必要に応じて従来使用されていたアンモニウム塩、アミン化合物又はイミド化合物等を尿素と併用してもよい。
【0027】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤の使用方法は、水系接着剤に添加又は配合する方法、又は接着面に接着剤とは別々に噴霧又は塗布する方法、或いは木材接着製品の表面に直接噴霧又は塗布する方法がある。水系接着剤に添加又は配合して使用する場合は、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を接着剤に1〜20質量%の割合で添加又は配合するのが好ましい。添加又は配合量が1質量%未満では、接着剤に含まれる少量又は微量の遊離ホルムアルデヒドを捕捉する効果が得られず、20質量%を越えると、ホルムアルデヒド捕捉剤に含まれる油脂又は尿素が接着剤の造膜性又は硬化性を阻害して接着性能の低下をきたす。また木材接着製品の表面に直接噴霧又は塗布して使用する場合は、木材接着製品の表面1m2当たりに1〜200g、好ましくは2〜100gを直接噴霧又は塗布する。木材接着製品の表面1m2当たりの噴霧又は塗布量が1g未満では木材接着製品から放散するホルムアルデヒド量を軽減する効果は得られず、200gを越えると木材接着製品の外観を損ねる可能性がある。
【実施例】
【0028】
次に本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0029】
<実施例1>
動物性油脂と植物性油脂が混合した廃食用油100質量部と、尿素100質量部と、水100質量部とを攪拌機を用いて30分間混合してホルムアルデヒド捕捉剤を調製した。
【0030】
<実施例2>
尿素30質量部、水30質量部としたこと以外は、実施例1と同様にホルムアルデヒド捕捉剤を調製した。
【0031】
<実施例3>
尿素200質量部、水200質量部としたこと以外は、実施例1と同様にホルムアルデヒド捕捉剤を調製した。
【0032】
<実施例4>
尿素300質量部、水300質量部としたこと以外は、実施例1と同様にホルムアルデヒド捕捉剤を調製した。
【0033】
<実施例5>
水又は水系液状物としてメラミン・ユリア樹脂液(東京ボード工業株式会社製:メラミン樹脂30質量%、ユリア樹脂20質量%及びその他の成分50質量%)を使用したこと以外は、実施例1と同様にホルムアルデヒド捕捉剤を調製した。
【0034】
<実施例6>
水又は水系液状物として濃度10質量%のポリビニルアルコール水溶液(クラレ株式会社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様にホルムアルデヒド捕捉剤を調製した。
【0035】
<実施例7>
水又は水系液状物として酢酸ビニル樹脂エマルジョン(商品名:ボンドCH、コニシ株式会社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様にホルムアルデヒド捕捉剤を調製した。
【0036】
<比較例1>
尿素20質量部、水20質量部としたこと以外は、実施例1と同様にホルムアルデヒド捕捉剤を調製した。
【0037】
<比較例2>
尿素600質量部としたこと以外は、実施例1と同様にホルムアルデヒド捕捉剤を調製した。
【0038】
<比較例3>
水25質量部としたこと以外は、実施例1と同様にホルムアルデヒド捕捉剤を調製した。
【0039】
<比較例4>
水1050質量部としたこと以外は、実施例1と同様にホルムアルデヒド捕捉剤を調製した。
【0040】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1〜7と比較例1〜4を比較すると、実施例1〜7では分離せずに均一な懸濁液が得られた。なお、実施例2では、放置してから3時間で分離したものの、3時間未満の使用には差し支えがなかった。
【0041】
これに対して、廃食用油100質量部に対し、尿素が30質量部未満の比較例1では、攪拌終了後すぐに分離してしまい、均一な懸濁液が得られなかった。また廃食用油100質量部に対し、尿素が500質量部を越える比較例2では、不溶解の尿素の沈殿が生じた。このことから、動植物性油及び/又はその誘導体を100質量部とするときに、尿素を30〜500質量部とすることが効果的であることが確認された。
【0042】
廃食用油100質量部に対し、水が30質量部未満であり、また尿素100質量部に対して水が70質量部未満である比較例3では、不溶解の尿素の沈殿が生じた。また廃食用油100質量部に対し、水が1000質量部を越える比較例4では、分離はしなかったものの、後述するように、得られた液が希薄すぎて本発明のホルムアルデヒド捕捉剤としての効能が得られなかった。このことから、動植物性油及び/又はその誘導体を100質量部とするときに、水又は水系液状物を30〜1000質量部、かつ水又は水系液状物が尿素100質量部に対して70質量部以上とすることが効果的であることが確認された。
【0043】
<実施例8>
建築木質廃材を粉砕して得た木質チップを、表層用と芯層用と裏層用とに重量比で1:3:1に分けた。各木質チップそれぞれに、接着剤として、実施例5で使用したメラミン・ユリア樹脂水溶液に硬化剤として1質量%の硫酸アンモニウム粉末を添加混合したものを、表層用及び裏層用にはそれぞれ全乾チップの15質量%に相当する量を、芯層用には全乾チップの7質量%を噴霧した。また本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を、表層用と芯層用と裏層用それぞれに、全乾チップの6質量%に相当する量を接着剤と分別してスプレーで噴霧した。ここで、全乾チップとは、各層用のそれぞれの木質チップを指す。なおここで使用したホルムアルデヒド捕捉剤は、水系液状物として、実施例5で使用したメラミン・ユリア樹脂水溶液に硬化剤として1質量%の硫酸アンモニウム粉末を添加混合したものである。またホルムアルデヒド捕捉剤中の各成分の含有量は、廃食用油100質量部、尿素100質量部、上記水系液状物100質量部とした。
【0044】
接着剤及びホルムアルデヒド捕捉剤を噴霧した各木質チップを、表層用、芯層用、裏層用の順で30cm平方で厚さ1.2mmの鉄製コールプレート(caul plate)上に載せ、220℃の温度に保持したホットプレスに挿入し、最高圧力3MPaで5分間熱圧形成した。成形後ホットプレスからコールプレートを取り出して、パーティクルボードを得た。
【0045】
<実施例9>
芯層用の木質チップに、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤の代わりに、耐水化剤としてポリエチレンワックスを、全乾チップの1質量%に相当する量を噴霧したこと以外は、実施例8と同様にパーティクルボードを得た。
【0046】
<比較例5>
表層用、芯層用、裏層用の木質チップに、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤の代わりに、耐水化剤としてポリエチレンワックスを、それぞれ全乾チップの1質量%に相当する量を噴霧したこと以外は、実施例8と同様にパーティクルボードを得た。
【0047】
<比較例6>
ホルムアルデヒド捕捉剤中の各成分を上記比較例4と同一組成、即ち廃食用油100質量部、尿素100質量部、水1050質量部としたこと以外は、実施例8と同様にパーティクルボードを得た。
【0048】
<比較試験と評価>
実施例8,9及び比較例5,6で得られたパーティクルボードについて、JIS A 5908に規定する試験方法により試験した。その結果を以下の表2に示す。
【0049】
【表2】

表2から明らかなように、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を使用した実施例8,9では、本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を全く使用していない比較例5に比べ、湿潤A曲げ強さが高く、耐水接着性能が向上していることが確認された。比較例6に関しては芯層にフクレが生じてしまい、測定不可能であった。また本発明のホルムアルデヒド捕捉剤を使用して作製した実施例8,9のパーティクルボードは、ホルムアルデヒド捕捉効果も高いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のホルムアルデヒド捕捉剤は、ホルムアルデヒド捕捉効果が高く、また接着層の耐水接着性低下も抑制させるため、廃棄物をリサイクルする環境対策を考えた木材接着製品のホルムアルデヒド捕捉剤として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物性油及び/又はその誘導体と、尿素と、水又は水系液状物とを混合して調製された水系懸濁液からなるホルムアルデヒド捕捉剤であって、
前記動植物性油及び/又はその誘導体を100質量部とするときに、前記尿素を30〜500質量部、前記水又は水系液状物を30〜1000質量部含み、かつ前記水又は水系液状物が前記尿素100質量部に対して70質量部以上であることを特徴とするホルムアルデヒド捕捉剤。
【請求項2】
動植物性油が廃食用油である請求項1記載のホルムアルデヒド捕捉剤。

【公開番号】特開2009−149709(P2009−149709A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326731(P2007−326731)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(599042245)東京ボード工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】