説明

ホログラム再生装置および再生時参照光入射角度の最適値探索方法

【課題】ページデータ情報が多重記録されたホログラム記録媒体の収縮や膨張、あるいは可換型の記録媒体を設置したとき等に生じるホログラムの位置ずれを補償する、あるいは補償に要する時間の短縮化を図り得るホログラム再生装置および再生時参照光入射角度の最適値探索方法を提供する。
【解決手段】ページデータ情報が角度多重記録されたホログラム記録媒体11に再生時参照光を照射してページデータ情報を再生する情報再生部を有し、この情報再生部により、ページデータ情報を担持した光波が得られるように調整するホログラム再生装置であって、各ページデータ情報の再生時に、信号光入射角度Θs、記録時参照光入射角度Θr、光の波長λ、記録媒体の屈折率nおよび記録媒体の収縮率αを要素とする演算式に基づいて所望の再生時参照光入射角度Φreadを求める演算手段40を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラムを利用して媒体に多重記録された情報の再生を行うホログラム再生装置および再生時参照光入射角度の最適値探索方法に関し、特に、ホログラム記録媒体の収縮/膨張に伴うホログラム記録情報歪を補償するホログラム再生装置および再生時参照光入射角度の最適値探索方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速で大容量の情報記録再生を行う次世代光情報記録再生方式として、ホログラム記録再生方式の研究・開発が活発に行われている。
【0003】
ここで、従来のホログラム記録再生装置の概略を説明する。すなわち、レーザ光源から出射されたコヒーレントなレーザ光束は、ビームスプリッタにより2系の光束に分岐され、一方の光束は、該ビームスプリッタを通過して空間光変調素子に照射され、該空間光変調素子により空間的に変調されて、ページデータと称される、白、黒2値の画素を2次元配列したデジタル画像情報を担持した信号光とされる。空間光変調素子から出射された信号光は、レンズによって光学的にフーリエ変換されてホログラム記録媒体(以下、単に「記録媒体」と称することがある)へ照射される。一方、上記ビームスプリッタからの他方の光束は、参照光(記録時参照光)とされ、記録媒体中の上記信号光が通過する場所へ、この信号光とは別角度で照射される。
【0004】
信号光および参照光が同時に照射されると記録媒体内部の体積中に干渉縞が生じ、この縞分布を屈折率分布などの形態で記録媒体の記録領域に転写することによりホログラム記録が行われる。なお、角度多重記録方式の場合には、異なるページデータ情報を空間光変調素子に表示させつつ、参照光の記録媒体への入射角度(回転角度)を少しずつ変化させることにより、互いに異なるページデータ情報を記録媒体中の同一領域へ多重記録することが可能となり、さらに高密度な情報格納が可能となる。
【0005】
ホログラム記録媒体に記録されたページデータ情報を再生する場合には、信号光を遮蔽し、参照光(再生時参照光)のみを記録時と同一角度で記録媒体に照射せしめることにより、同一の記録領域に複数のページデータ情報が多重記録されていても、所望するページデータ情報のみを選択的に取り出し、レンズを介してCCD(撮像素子)にて撮像し再生することができる。
【0006】
ところで、ホログラム記録装置に可換型の記録媒体を設置したとき、参照光に対して記録時と同じ角度で設置することが望まれるが、完全に一致させることは困難なことから、記録媒体のチルト角に応じた参照光の入射角度の調整が必要となる。そのため、従来、下記特許文献1に示すように、撮像された再生光に基づき記録媒体の位置ずれ(チルト角)を検出し、この位置ずれ(チルト角)が解消されるように駆動機構を制御して記録媒体を移動させる技術が知られている。また、下記特許文献2に示すように、基準となるチルト角を記録媒体に記録しておき、基準となる再生参照光の記録媒体への入射角度を検出してチルト角を制御する技術が知られている。
【0007】
また、位相共役型のホログラム記録装置においては、記録時と再生時で参照光が入射する記録媒体面が異なることから、記録媒体表面が、極めて平坦(水平)に近ければあまり問題は生じないが、平坦(水平)からある程度以上、外れている場合には、参照光の入射角度の調整が必要となる。そのため、従来、特許文献3、4に示すように、参照光の角度を、想定される入射角度の前後付近で連続的に変化させ、光検出器からの強度が所定レベルあるいは最大になったときに目的とする角度となっていると仮定し、この角度をもって再生する技術が知られている。
【0008】
さらに、ライトワンスの記録媒体として光感光性樹脂材料(以下、フォトポリマーと称する)が用いられている。フォトポリマーによる媒体は多重度指標が高く、長期間安定してデータを保持できるなどの利点がある。しかし、フォトポリマーの場合、記録媒体内部に屈折率差を生じさせてホログラム(干渉縞)を記録する。このとき光重合により媒体収縮が生じる。また、信号記録時と信号再生時との間で温度差が生じた場合には、温度差の影響により記録媒体が収縮したり膨張したりすることがある。記録媒体が収縮あるいは膨張すると、媒体中に記録された干渉縞が歪んだ状態となる、いわゆる干渉縞歪み(ホログラム記録情報歪:以下、ホログラム歪みと称する)が生じる。歪んだ干渉縞に記録時と同様の参照光を入射しても、記録されたビットデータを誤りなく再生することが難しくなるため、再生データのSNR(Signal to Noise Ratio)が低下してしまう。
【0009】
そのため、従来技術においては、再生時の参照光の入射角度を調整して再生データを得るようにしたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4513543号(特開2006−171589)
【特許文献2】特開2007−256949号公報
【特許文献3】特開2006−277873号公報
【特許文献4】特開2007−240581号公報
【特許文献5】特開2008−152009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献3、4に示す手法に比して、記録媒体の歪みをさらに良好に補正し得る手法として、上記特許文献5に示すように、再生時の参照光入射角度を変えて探索する範囲を歪み量に合わせ拡大、縮小する手法が知られている。しかし、記録媒体への参照光の入射角度を逐一探索するのでは多くの時間を要する。特に、多重されたホログラムにおいて、全てのページデータ情報に対してホログラム歪みを補償するための参照光入射角度を求めることは膨大な時間を要する。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、ページデータ情報が多重記録されたホログラム記録媒体の収縮や膨張、あるいは可換型の記録媒体を設置したときに生じる記録媒体の位置ずれ等の補償、あるいは補償に要する時間の短縮化を図り得るホログラム再生装置および再生時参照光入射角度の最適値探索方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のホログラム再生装置は、
ページデータ情報が角度多重記録されたホログラム記録媒体に再生時参照光を照射して該ページデータ情報を再生する情報再生部により、該情報再生部が、前記ページデータ情報を担持した光波が得られるように調整するホログラム再生装置において、
前記角度多重記録されたホログラムの各ページデータ情報の再生時に、信号光入射角度Θs、記録時参照光入射角度Θr、光の波長λ、記録媒体の屈折率nおよび記録媒体の収縮率αを要素とする演算式に基づいて所望の再生時参照光入射角度Φreadを求める演算手段を備えていることを特徴とするものである。
【0014】
また、上記ホログラム再生装置において、前記演算式が、下記条件式であることが好ましい。
【0015】
【数1】

【0016】
また、前記演算式は、前記信号光の入射角度Θsとして、前記信号光の軸に沿って前記再生時参照光入射角度Φreadを求めるように構成することが好ましい。
【0017】
また、前記演算式は、対物レンズのNAに依存した前記信号光の各光線の入射角度のうち、最小値と最大値に基づき、前記再生時参照光入射角度Φreadを求めるように構成することが可能である。
【0018】
また、前記演算式は、対物レンズのNAに依存した前記信号光の各光線の入射角度のうち、最小値から最大値に至るまでの複数の角度に基づき、前記再生時参照光入射角度Φreadを求めるように構成することも可能である。
【0019】
また、前記ホログラム記録媒体にあらかじめ記録された当該記録媒体の屈折率nおよび収縮率αに係る情報を読み取る手段を備え、該手段により読み取られた屈折率nおよび収縮率αに係る情報に基づいて、前記再生時参照光の入射角度Φreadを求めるように構成されていることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明の再生時参照光入射角度の最適値探索方法は、
ページデータ情報が角度多重記録されたホログラム記録媒体に再生時参照光を照射して該ページデータ情報を再生する際に、該再生された前記ページデータ情報を担持した光波が得られるように調整する際の、再生時参照光入射角度の最適値探索方法において、
前記角度多重記録されたホログラムの各ページデータ情報を再生する際に、信号光入射角度Θs、記録時参照光入射角度Θr、光の波長λ、記録媒体の屈折率nおよび記録媒体の収縮率αを要素とする演算式に基づいて所望の再生時参照光入射角度Φreadを求めることが好ましい。
【0021】
また、上記再生時参照光入射角度の最適値探索方法において、
前記記録時参照光入射角度Θrに対する、前記記録時と前記再生時の参照光入射角度差ΔΘrを表わすグラフにおいて、互いに異なる2つの収縮率α,αについての曲線を描き、その2つの曲線の間に位置する領域の中から、最適な前記再生時参照光入射角度Φreadを求めることが好ましい。
【0022】
また前記情報再生部が、前記ページデータ情報を担持した光波が所望の波面形状となるように調整する波面制御器を含むことが好ましい。
【0023】
なお、本発明のホログラム再生装置および再生時参照光入射角度の最適値探索方法における「再生」とは、ホログラムの再生機能を有することを示すものであり、ホログラムの記録機能は備えていないということを意味するものではない。すなわち、ホログラムの記録機能と再生機能の両方を備えている装置も本発明のホログラム再生装置の概念に含まれる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のホログラム再生装置および再生時参照光入射角度の最適値探索方法において、ページデータ情報が多重記録されたホログラム記録媒体の収縮や膨張、あるいは可換型の記録媒体を設置したときに生じる記録媒体の位置ずれ等、を補償し得る所望の再生時参照光入射角度Φreadの補正値を算出するようにしている。これにより従来よりも短い時間で再生時参照光入射角度Φreadを決定することができ、記録媒体からのデータ読み出し速度を向上させることができる。これにより各ページデータ情報を担持した光波を得るのに要する時間を短縮化しつつ再生データのSNRを向上させることができる。
【0025】
また、装置のハード的な改変は不要であるから、従来装置のハード的な構成を略そのまま用いることができ、装置操作の円滑化および製造コストの低廉化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係るホログラム記録装置の構成を示す概略図である。
【図2】信号光、記録時参照光およびホログラム記録媒体の相対位置関係と、記録される干渉縞の記録装置との関係を示す概念図(信号光が平行光の場合)である((a)は収縮前、(b)は収縮後)。
【図3】信号光の定義を表した概略図である。
【図4】本発明の実施例1に係る入射光の角度関係を示すものであって、記録時参照光入射角度Θと、記録時および再生時の参照光入射角度差ΔΘの関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2に係る入射光の角度関係を示すものであって、記録時参照光入射角度Θと、記録時および再生時の参照光入射角度差ΔΘの関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例3に係る角度関係を示すものであって、信号光入射角度Θと、再生時参照光入射角度Θreadの関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例3に係る入射光の角度関係を示すものであって、記録時参照光入射角度Θと、記録時および再生時の参照光入射角度差ΔΘの関係を示すグラフである。
【図8】本発明の他の実施形態において、記録時参照光入射角度Θに対する、記録時と再生時の参照光入射角度差ΔΘを表わすグラフ中の、探索時間の短縮化を図り得る範囲を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るホログラム再生装置および再生時参照光入射角度の最適値探索方法の実施形態について、上記図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
まず、図1を用いて本発明の一実施形態に係るホログラム再生装置について説明する。このホログラム再生装置は、ホログラムの記録機能および再生機能を備えた記録再生装置として構成されており、また、ホログラム記録媒体11はフォトポリマーで構成され、角度多重記録方式が採用されている。以下、その仕組み(記録再生操作の流れ)について説明する。
【0029】
レーザ光源1から出射されたコヒーレントなレーザ光束は、発散レンズ2およびコリメートレンズ3からなるビームエキスパンダにより光束径を拡大され、半波長板4を透過し、ミラー5で偏向された後、偏光ビームスプリッタ6により2系の光束に分岐される。
【0030】
偏光ビームスプリッタ(PBS)6から図中左方に向かう光束は、偏光ビームスプリッタ(PBS)7を通過して空間光変調素子(SLM)8に照射され、該空間光変調素子8により空間的に変調されて、白、黒2値の画素が2次元配列されたデジタル画像からなるページデータ情報を担持した信号光とされる。空間光変調素子8から出射(反射)された信号光は、入射した状態とは偏光方向が変化しており、偏光ビームスプリッタ(PBS)7において図中下方に反射され、レンズ10によって光学的にフーリエ変換されてホログラム記録媒体11へ照射される。
【0031】
一方、偏光ビームスプリッタ(PBS)6から図中下方に向かう光束は、参照光(記録時参照光)とされ、半波長板14およびミラー15を通過し、偏光ビームスプリッタ(PBS)16により図中下方に反射され、ガルバノメータミラー17により角度制御され、リレーレンズ18a、bを介して記録媒体11中の信号光が通過する場所へ、信号光とは別角度で照射され、これにより、記録媒体11中に干渉縞が記録される。半波長板14は偏光方向(縦偏光)を変えないように設定してある。なお、本実施形態装置においては、角度多重記録が可能とされているので、異なるページデータを空間光変調素子8に表示させつつ、参照光の記録媒体への入射角度(回転角度)を少しずつ変化させることにより、互いに異なるページデータを記録媒体中の同一領域へ多重記録することが可能となり、さらに高密度な情報格納が可能となる。
【0032】
他方、ホログラム記録媒体11に記録されたページデータ情報を再成する場合には、半波長板14により参照光の偏光方向を(縦偏光から横偏光に)変え、ミラー15で反射された再生用参照光は、偏光ビームスプリッタ(PBS)16を透過し、ガルバノメータミラー17、レンズ18a、bを通過して、記録用参照光の照射側とは反対側のホログラム記録媒体面に照射される。このように本実施形態装置は、位相共役型とされている。
【0033】
また、角度多重記録に対応するため、再生時参照光の記録媒体11への入射角度を所定のタイミングで変化せしめることにより、同一の記録領域に多重記録された複数のページデータ情報から、所望するページデータ情報が順次読み出され、この読み出された再生光の情報はレンズ12を介してCCD(撮像素子)13にて順次撮像される。
【0034】
なお、上述したように、角度多重の記録および再生においては、上記ガルバノメータミラー22の角度を少しずつ変化させることになるが、具体的には、例えば、入射角を60〜80°の範囲内で0.2度ずつ変化させる度に該領域にページデータ情報の記録または再生を行なう。
【0035】
以下、本発明の実施形態における再生時参照光入射角度の最適値探索方法、具体的には、ホログラム記録媒体11の記録後の収縮に応じた再生時参照光入射角度の補正方法について説明する。
【0036】
図2は、記録媒体11の収縮前の状態(a)および収縮後の状態(b)における、記録媒体11に対する、信号光の入射角および記録時参照光の入射角等を説明するものである。
【0037】
すなわち、図2(a)に示すように、記録媒体中の信号光入射角度θs、記録媒体中の記録時参照光入射角度θrは、記録時において、記録媒体11に入射する際のそれぞれの入射角度を示すものである。なお、θは記録媒体11に対する干渉縞の角度であり、θは干渉縞に対する記録媒体中の記録時参照光の入射角度である。
【0038】
また、図2(b)において、φは収縮後の記録媒体11に対する干渉縞の角度、Mは収縮後の干渉縞間隔、αは収縮率である。
【0039】
また、平面波の信号光と平面波の参照光を用いて記録された干渉縞を再生する際に、ブラッグの条件を満たす再生時参照光の入射角度Θread(記録媒体11に対して外から入射する際の入射角度)は、下式(1)で表される。
【0040】
【数2】

【0041】
上式(1)のΘreadは記録時参照光の入射角度と一致する。しかし、記録媒体11が収縮し、記録された干渉縞が歪んだとき、ブラッグの条件を満たすための再生時参照光の入射角度(記録媒体11に対して外から入射する際の入射角度)は、下式(2)で表わされる。
【0042】
【数3】

【0043】
なお、上式(2)において、θは前記記録媒体に対する干渉縞の角度((記録媒体中の信号光入射角度θs+記録媒体中の記録時参照光入射角度θr)/2)であり、信号光入射角度Θsと記録時参照光入射角度Θrにより置き換えることが可能であるので、本実施形態の記載は請求項1の記載と矛盾するものではない。また、Λは干渉縞間隔であり、これについても波長/2sin(干渉縞角度に対する記録時参照光入射角度θ)で置き換えることが可能である。
【0044】
したがって、記録媒体11が収縮したときに再生波面を良好なものとするためには、記録時と再生時の参照光に入射角度差ΔΘr (=Φreadread)を設ける必要がある。
【0045】
なお、ホログラム記録では信号光は集光されるようにして記録媒体11に到達することから、集光された光は、図3に示すように、記録媒体11に様々な角度で入射する平面波の集合とみなすことができる。信号光の入射角度はレンズのNAに依存し、その角度範囲は-arcsin(NA)からarcsin(NA)の範囲となる。信号光の入射角度が-arcsin(NA)からarcsin(NA)までの全範囲に亘る再生時参照光入射角度Θreadを求め、これに基づいて補正を行うようにすればよい。
【0046】
なお、本実施形態は、フォトポリマー等により形成される記録媒体が収縮したときだけではなく、膨張したときにも適用でき、同様の作用効果を奏することができる。
【0047】
以下、具体的な数値を用いた実施例について説明する。
【0048】
<実施例1>
実施例1として、信号光の軸上光線の平面波要素と参照光とにより生成される干渉縞を用いて再生時参照光入射角度Θreadを補正する場合を以下に述べる。
【0049】
信号光の軸上光線の角度は0°、記録時参照光入射角度は70°とする。光の波長は532nm、記録媒体の屈折率nは1.4、収縮率αは0.2%とし、収縮は記録媒体11の表面に対する法線方向にのみ生じるものとすると、再生時参照光入射角度Θreadは70.135°となり、記録時の角度から0.135°だけ増加させるようにずらすことにより補正することができる。
【0050】
なお、角度多重を行う際には、記録時参照光入射角度Θrを所定角度ずつずらしていくとともに異なるページデータを順次記録する。記録時参照光入射角度Θrは60°から80°の範囲で変化させる。この記録時参照光入射角度Θrは、記録されるページデータ間の角度間隔を0.2°とすると、100ページに亘る角度多重を行うことができる。
【0051】
図4に記録時参照光入射角度Θrと、記録時および再生時の参照光入射角度差ΔΘrの関係を示す。
【0052】
記録時参照光入射角度Θrが大きくなるにつれ、再生時に必要な補正角度(記録時および再生時の参照光入射角度差ΔΘr)が大きくなる。また、この曲線は下式(3)に示す双曲線関数により近似することができる。
【0053】
【数4】

【0054】
図4では、係数a、b、cの値はそれぞれ-2.5、89、0となる。
【0055】
上式(3)で表わされる双曲線関数を用いて、記録時参照光入射角度Θから再生時参照光入射角度の補正値(Φreadread)を求めることができる。このような補正値により補正した参照光入射角度で記録情報を再生することにより再生データが得られる。
【0056】
本実施例では、近似式を双曲線関数としているが、一次関数(必要なページデータ数は2)、二次関数、三次関数、あるいはさらに高次の関数や、指数関数、対数関数など他の関数を近似式(フィッティング関数)としてもよい(以下の実施例2、3においても同じ)。
【0057】
<実施例2>
実施例2は、信号光入射角の最小値(-arcsin(NA))と最大値(arcsin(NA))において入射光線平面波要素と参照光とにより生成される干渉縞を用いて再生時参照光入射角度Θrを補正するものである。以下、この実施例2について詳述する。
【0058】
なお、信号光は、レンズで集光されるため、様々な角度から入射する平面波の集合とみなすことができる。このときの入射角度の最大値および最小値はレンズのNAに依存する。例えば、集光レンズのNAを0.65とすると、信号光の入射角度の最小値は-40.54°、最大値は40.54°の平面波となる。
【0059】
なお、記録時参照光入射角度Θrを70°、光の波長λを532nm、記録媒体の屈折率nを1.4、収縮率αを0.2%とし、収縮は記録媒体11の表面に対する法線方向にのみ生じるとすると、再生時参照光入射角度Θrは70.048°および70.179°となる。これら2つの角度の中間値は70.113°となり、記録時の角度から0.113°だけ増加させるようにずらすことにより補正することができる。
【0060】
図5に、実施例2について、NAが0.4、0.65、0.85における記録時参照光入射角度Θrと、記録時と再生時の参照光入射角度差ΔΘrとの関係を表わすグラフを示す。
【0061】
記録時参照光入射角度Θrは60°から80°の範囲で変化させる。各NAにおいて記録時参照光入射角度Θrが大きくなるのに従い、再生時に必要な補正の角度(記録時および再生時の参照光入射角度差ΔΘr)が大きくなる。また、この曲線は上式(3)に示す双曲線関数で近似でき、記録時参照光入射角度Θから再生時参照光入射角度の補正値(Φreadread)を求めることができる。このような補正値により補正した参照光入射角度で記録情報を再生することにより再生データが得られる。
【0062】
<実施例3>
実施例3は、信号光入射角の最小値(-arcsin(NA))から最大値(arcsin(NA))までの範囲における複数の角度についての各入射光線平面波要素と、参照光とにより生成される干渉縞を用いて再生時参照光入射角度Θreadを補正するものである。以下、この実施例3について詳述する。
【0063】
なお、上記実施例1、2でも述べたように、信号光は、レンズで集光されるため、様々な角度から入射する平面波の集合とみなすことができる。このときの入射角度の最大値および最小値はレンズのNAに依存する。例えば、レンズのNAを0.85とすると、信号光は、入射角度の最小値が-58.21°から最大値が58.21°の平面波の集合となる。
【0064】
図6に信号光入射角度Θsと、再生時参照光入射角度Θreadの関係を表わすグラフを示す。記録時参照光入射角度Θrを70°、光の波長λを532nm、記録媒体の屈折率nを1.4、収縮率αを0.2%とし、収縮は記録媒体11の表面に対する法線方向にのみ生じるものとすると、再生時参照光入射角度Θreadの最小値は70.015°、最大値は70.179°となる。これら2つの角度の中間値は70.097°となり、記録時の角度から0.097°だけ増加させるようにずらすことにより補正することができる。
【0065】
また、図7に、実施例3について、記録時参照光入射角度Θrと、記録時と再生時の参照光入射角度差ΔΘrとの関係を表わすグラフを示す。
【0066】
記録時参照光入射角度Θrは60°から80°の範囲で変化させる。各NAにおいて記録時参照光入射角度Θrが大きくなるのに従い、再生時に必要な補正の角度(記録時および再生時の参照光入射角度差ΔΘr)が大きくなる。また、この曲線は上式(3)に示す双曲線関数で近似でき、記録時参照光入射角度から再生時参照光入射角度の補正値(Φreadread)を求めることができる。このような補正値により補正した参照光入射角度で記録情報を再生することにより再生データが得られる。
【0067】
上述した実施例1〜3においては、ホログラム歪みが生じた場合における再生時参照光角度の補正方法について説明しているが、これに替えて、またはこれに加えて、例えば、前述したように、可換型記録媒体を設置する場合や、位相共役型のホログラム記録装置において記録媒体の設置に傾き(チルト)が生じている場合、等の他の要因により、角度補正が必要な場合についても、上記いずれかの実施例により得られた参照光入射角度を考慮して、例えば、前述した特許文献3〜5に示すいずれかの手法で参照光入射角度を探索すれば、探索時間を大幅に短縮することができる。
【0068】
また、収縮率αが例えば、0.1〜0.2%の間の範囲に含まれていることが既知ならば、図8の斜線で示すように記録時と再生時の参照光入射角度差ΔΘrの範囲が求められる。この範囲において参照光入射角度を探索すれば、探索時間を大幅に短縮することができる。
【0069】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に態様が限定されるものではない。
【0070】
また、再生時の参照光光路中において、例えば、図1中に記載されたミラー21の配設位置において、このミラー21に替えて波面制御器を設け、例えば、本願と同日付けで出願された特許出願(発明の名称:多重記録ホログラム再生措置およびホログラム歪補償方法)に詳しく説明されているような手法にて波面を制御してもよい。これによりホログラムの歪みをより詳細に制御することができる。
【0071】
また、上記波面制御器21は、ホログラム記録媒体の収縮(膨張を含む)により生じるホログラム歪み(干渉縞歪み)を補償するために配設されたものであり、反射鏡面としての薄膜ミラーが、ミラーの表裏方向に進退可能な複数のピン部材により裏面側から支持されてなるデフォーマブルミラーであり、ピン部材毎の基板からの突出量が調整されることにより、各々のピン部材により支持された薄膜ミラーの各領域がそれぞれ上記表裏方向に動作せしめられ、薄膜ミラー全体の形状が変化するように構成されている。
【0072】
この薄膜ミラーの動作量(各ピン部材の突出量)は、計測制御装置40において、遺伝的アルゴリズムを用いた制御方式により制御される。すなわち、計測制御装置40においては、CCD13にて撮像された再生データを評価し、その評価結果に応じた制御信号を波面制御器21に出力して薄膜ミラーの動作量を変更する処理を、遺伝的アルゴリズムにより繰り返し行い、再生時参照光の波面を最適化する。
【0073】
遺伝的アルゴリズムでは、複数の個体からなる集団(個体群)が想定されるとともに、各個体の形質を規定する要素としての遺伝子が定義され、遺伝子の複製、交叉、突然変異等が繰り返し実行される。そして、適応度に基づいて環境に最も適合する個体が次世代を形成していく。具体的には、薄膜ミラーの状態が個体、各ピン部材の突出量(基板に対する突出位置)が遺伝子とされる。適応度としては、再生データの輝度やSNR等が用いられる。
【0074】
また、上記波面制御器としてはデフォーマブルミラーに限られるものではなく、液晶パネル(例えば、浜松ホトニクス製 LCOS-SLM X10468シリーズ)や、特定のゼルニケ係数を補正する液晶レンズ、あるいは音響光学変調素子、電気光学変調素子など複数の素子を組み合わせた光学系などによって構成することも可能である。
【0075】
また、ホログラム記録装置において、そのホログラム記録媒体11の屈折率nや収縮率αなどの媒体情報は、あらかじめ当該記録媒体11に記録しておき、再生時に、その媒体情報を読み出して媒体情報を取得し、実施例1から3に示す補正手法に用いられる情報とすることが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 レーザ光源
2 発散レンズ
3 コリメートレンズ
4、14 半波長板
5、15、21 ミラー
6、7、16 偏光ビームスプリッタ(PBS)
8 空間光変調素子(SLM)
17、22 ガルバノメータミラー
10、18a、18b、23a、23b レンズ
11 ホログラム記録媒体
13 CCD
40 計測制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ページデータ情報が角度多重記録されたホログラム記録媒体に再生時参照光を照射して該ページデータ情報を再生する情報再生部を有し、該情報再生部において、前記ページデータ情報を担持した光波が得られるように調整するホログラム再生装置において、
前記角度多重記録されたホログラムの各ページデータ情報の再生において、信号光入射角度Θs、記録時参照光入射角度Θr、光の波長λ、記録媒体の屈折率nおよび記録媒体の収縮率αを要素とする演算式に基づいて所望の再生時参照光入射角度Φreadを求める演算手段を備えていることを特徴とするホログラム再生装置。
【請求項2】
前記演算式が、下記条件式であることを特徴とする請求項1記載のホログラム再生装置。
【数1】

【請求項3】
前記演算式は、前記信号光の入射角度Θsとして、前記信号光の軸に沿って前記再生時参照光入射角度Φreadを求めるように構成することを特徴とする請求項1または2に記載のホログラム再生装置。
【請求項4】
前記演算式は、対物レンズのNAに依存した前記信号光の各光線の入射角度のうち、最小値と最大値に基づき、前記再生時参照光の入射角度Φreadを求めるように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載のホログラム再生装置。
【請求項5】
前記演算式は、対物レンズのNAに依存した前記信号光の各光線の入射角度のうち、最小値から最大値に至るまでの複数の角度に基づき、前記再生時参照光入射角度Φreadを求めるように構成されていることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載のホログラム再生装置。
【請求項6】
前記ホログラム記録媒体にあらかじめ記録された当該記録媒体の屈折率nおよび収縮率αに係る情報を読み取る手段を備え、該手段により読み取られた屈折率nおよび収縮率αに係る情報に基づいて、前記再生時参照光入射角度Φreadを求めるように構成されていることを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項記載のホログラム再生装置。
【請求項7】
ページデータ情報が角度多重記録されたホログラム記録媒体に再生時参照光を照射して該ページデータ情報を再生する際に、該再生された前記ページデータ情報を担持した光波を所望の波面形状に調整する、再生時参照光入射角度の最適値探索方法において、
前記角度多重記録されたホログラムの各ページデータ情報を再生する際に、信号光入射角度Θs、記録時参照光入射角度Θr、光の波長λ、記録媒体の屈折率nおよび記録媒体の収縮率αを要素とする演算式に基づいて所望の再生時参照光入射角度Φreadを求めることを特徴とする再生時参照光入射角度の最適値探索方法。
【請求項8】
前記記録時参照光入射角度Θrに対する、前記記録時と前記再生時の参照光入射角度差ΔΘrを表わすグラフにおいて、互いに異なる2つの収縮率α,αについての曲線を描き、その2つの曲線の間に位置する領域の中から、最適な前記再生時参照光入射角度Φreadを求めることを特徴とする請求項7記載の再生時参照光入射角度の最適値探索方法。
【請求項9】
前記情報再生部が、前記ページデータ情報を担持した光波を所望の波面形状に調整する波面制御器を含むことを特徴とする請求項1〜8のうちいずれか1項記載のホログラム再生装置。


【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−97837(P2013−97837A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240688(P2011−240688)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】