説明

ホログラム記録媒体の製造方法および製造装置

【課題】 異なる位置から観察したときに異なる原画像の再生が行われ、かつ、高い解像度をもった再生像が得られるようにする。
【解決手段】 2つの原画像を記録する場合、XYZグローバル座標系上に、2つの原画像Ia,Ibをそれぞれ点光源の集合として定義するとともに、αβγローカル座標系上の原点Qから射出した光の伝播が可能な2通りの伝播空間Sa,Sbを定義する。XYZ座標系上に、所定の記録面および参照光を設定し、各原画像を構成する点光源からの物体光と参照光とによって記録面上に形成される干渉縞パターンを演算によって求める。このとき、原画像Iaに所属する点光源からの光は、当該点光源位置にαβγ座標系の原点Qを重ねたときの伝播空間Sa内にのみ広がり、原画像Ibに所属する点光源からの光は、当該点光源位置にαβγ座標系の原点Qを重ねたときの伝播空間Sb内にのみ広がるものとして演算を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム記録媒体の製造方法および製造装置に関し、特に、異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金券やクレジットカードについての偽造防止の用途として、ホログラムが広く利用されるに至っている。通常は、偽造防止対策を施す対象となる媒体上の一部に、ホログラムを記録する領域を設け、この領域内に立体像などをホログラムの形で記録することが行われている。
【0003】
現在、商業的に利用されているホログラムの多くは、光学的な手法により、原画像を媒体上に干渉縞として記録したものである。すなわち、原画像を構成する物体を用意し、この物体からの光と参照光とを、レンズなどの光学系を用いて感光剤が塗布された記録面上に導き、この記録面上に干渉縞を形成させるという手法を採っている。この光学的な手法は、鮮明な画像を得るためにかなり精度の高い光学系を必要とするが、ホログラムを得るための最も直接的な手法であり、産業上では最も広く普及している手法である。
【0004】
これに対して、最近では、計算機を用いた演算により記録面上に干渉縞を形成させ、ホログラムを製造する手法も知られており、このような手法で製造されたホログラムは、一般に「計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram )」、あるいは単に「計算機ホログラム」と呼ばれている。この計算機ホログラムは、いわば光学的な干渉縞の生成プロセスをコンピュータ上でシミュレーションすることにより得られるものであり、干渉縞パターンを生成する過程は、すべてコンピュータ上の演算として行われる。このような演算によって干渉縞パターンの画像データが得られたら、この画像データに基いて、実際の媒体上に物理的な干渉縞が形成される。具体的には、たとえば、コンピュータによって作成された干渉縞パターンの画像データを電子線描画装置に与え、媒体上で電子線を走査することにより物理的な干渉縞を形成する方法が実用化されている。
【0005】
ホログラム記録媒体では、原画像を立体的に記録することが可能であり、視点位置を変えることにより、原画像を異なった角度から観察することができる。このように、平面上に立体画像を記録することができる点が、ホログラム記録媒体の大きな特徴である。また、最近では、異なった角度から観察すると、全く別の原画像が再生されるという、更なる特徴をもったホログラム記録媒体も商業的に利用されている。たとえば、下記の特許文献1には、計算機ホログラムの手法を用いて、視点位置を変えることにより異なる原画像を再生させることができるホログラム記録媒体の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2001−109362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したとおり、異なる位置から観察したときに異なる原画像の再生が可能なホログラム記録媒体を製造する方法は、既に従来技術として知られている。しかしながら、この従来の方法の基本原理は、ホログラムの記録面上に複数の領域を設定し、個々の領域ごとにそれぞれ異なる原画像を記録する、というものであるため、再生像の解像度が低下するという問題がある。
【0007】
たとえば、上述した特許文献1には、ホログラム記録面を複数の帯状領域に分割し、各帯状領域にそれぞれ複数の原画像のうちのいずれか1つを対応づけ、1つの帯状領域には、当該帯状領域に対応づけられた1つの原画像のみを記録する、という方法が開示されている。具体的には、3つの原画像を記録する場合であれば、第1の原画像を、第1,4,7,10,......番目の帯状領域に記録し、第2の原画像を、第2,5,8,11,......番目の帯状領域に記録し、第3の原画像を、第3,6,9,12,......番目の帯状領域に記録する、というような記録方法を採るようにすればよい。このとき、3つの原画像は、それぞれ干渉縞として記録されることになるが、この時に用いる参照光の向きを原画像ごとに異ならせるようにすれば、それぞれ特定の位置から観察したときに特定の原画像が再生されることになる。
【0008】
しかしながら、上述の例の場合、たとえば、第1の原画像は、第1,4,7,10,......番目の帯状領域にしか記録されておらず、第2,3,5,6,8,9,11,12,......番目の帯状領域には、第1の原画像に関する情報が脱落してしまうため、結局、再生像の解像度は本来の1/3に低下してしまうことになる。このように、個々の領域ごとにそれぞれ異なる原画像を記録する、という原理を採る以上、再生像の解像度が低下するという問題が生じることになる。
【0009】
そこで本発明は、異なる位置から観察したときに異なる原画像の再生が行われ、しかも高い解像度をもった再生像が得られるホログラム記録媒体の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 本発明の第1の態様は、異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造するホログラム記録媒体の製造方法において、
複数N個の原画像を、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合として用意する原画像準備段階と、
基準単位光源から射出した光の伝播が可能な伝播空間を、基準単位光源の位置を基準として複数N通り定義する伝播空間定義段階と、
三次元座標系上に所定の記録面を設定する記録面設定段階と、
三次元座標系上に所定の参照光を設定する参照光設定段階と、
各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光と参照光とに基づいて、記録面上に形成される干渉縞パターンを演算するパターン演算段階と、
干渉縞パターンを物理的な媒体上に形成するパターン形成段階と、
を行うようにし、
パターン演算段階において、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する単位光源からの物体光が、当該単位光源の位置を基準単位光源の位置としたときの第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内にのみ伝播するものとして演算を行うようにしたものである。
【0011】
(2) 本発明の第2の態様は、上述した第1の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
パターン演算段階で、各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光を合成することにより合成物体光を求め、この合成物体光と参照光との干渉によって記録面上に得られる干渉縞パターンを演算するようにしたものである。
【0012】
(3) 本発明の第3の態様は、上述した第1または第2の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
パターン形成段階で、パターン演算段階によって得られた干渉縞パターンを二値画像パターンに変換し、物理的な媒体上に二値画像パターンを形成するようにしたものである。
【0013】
(4) 本発明の第4の態様は、異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造するホログラム記録媒体の製造方法において、
複数N個の原画像を、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合として用意する原画像準備段階と、
基準単位光源から射出した光の伝播が可能な伝播空間を、基準単位光源の位置を基準として複数N通り定義する伝播空間定義段階と、
三次元座標系上に所定の記録面を設定する記録面設定段階と、
各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光を合成することにより記録面上に形成される複素振幅パターンを演算するパターン演算段階と、
複素振幅パターンを物理的な媒体上に形成するパターン形成段階と、
を行うようにし、
パターン演算段階において、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する単位光源からの物体光が、当該単位光源の位置を基準単位光源の位置としたときの第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内にのみ伝播するものとして演算を行うようにしたものである。
【0014】
(5) 本発明の第5の態様は、上述した第4の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
パターン演算段階で、記録面上に多数の演算点を離散的に定義し、各演算点位置における所定サンプル時点での合成物体光の振幅および位相を求め、振幅および位相の離散的な分布として複素振幅パターンを求めるようにしたものである。
【0015】
(6) 本発明の第6の態様は、上述した第5の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
パターン形成段階で、個々の演算点位置のそれぞれに三次元構造体からなるセルを配置し、かつ、個々のセルの三次元構造に、当該セルに対応する演算点位置についての振幅および位相の情報が記録されるようにしたものである。
【0016】
(7) 本発明の第7の態様は、上述した第1〜第6の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
原画像準備段階で、空間的に一部重複する配置をもった複数の原画像を用意するようにしたものである。
【0017】
(8) 本発明の第8の態様は、上述した第1〜第7の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
伝播空間定義段階で、複数N通りの伝播空間を、互いに、空間的に排他的領域となるように定義するようにしたものである。
【0018】
(9) 本発明の第9の態様は、上述した第1〜第7の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
伝播空間定義段階で、複数N通りの伝播空間の一部もしくは全部を、他の伝播空間と空間的に一部重複する領域となるように定義するようにしたものである。
【0019】
(10) 本発明の第10の態様は、上述した第1〜第7の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
伝播空間定義段階で、複数N通りの伝播空間の一部もしくは全部を、他の伝播空間と空間的に完全に一致する領域となるように定義したものである。
【0020】
(11) 本発明の第11の態様は、上述した第1〜第10の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
単位光源として点光源を用い、伝播空間定義段階で、基準単位光源の位置を頂点とした錐形の伝播空間を定義するようにしたものである。
【0021】
(12) 本発明の第12の態様は、上述した第1〜第11の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
原画像準備段階で、XYZ三次元座標系上に定義された点光源の集合として原画像を準備し、
伝播空間定義段階で、αβγ三次元座標系上の原点を頂点とした錐形の伝播空間を定義し、
パターン演算段階で、XYZ三次元座標系上に定義された点光源の位置に、αβγ三次元座標系の原点を置き、対応する各座標軸が平行になるように両座標系を重ね、点光源からの物体光が、錐形の伝播空間内にのみ広がるものとして演算を行うようにしたものである。
【0022】
(13) 本発明の第13の態様は、上述した第1〜第10の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
単位光源として、多数の点光源を所定長の線分上に並べることにより構成された線分光源を用い、伝播空間定義段階で、線分光源を構成する個々の点光源の位置を頂点とした個々の錐形の幾何学的論理和からなる伝播空間を定義するようにしたものである。
【0023】
(14) 本発明の第14の態様は、上述した第1〜第10の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
単位光源として線分光源を用い、各線分光源を中心軸とした円柱側面からなる波面を有し、中心軸に対して垂直方向に進行する物体光を定義するようにしたものである。
【0024】
(15) 本発明の第15の態様は、上述した第1〜第14の態様に係るホログラム記録媒体の製造方法において、
パターン演算段階で、互いに平行な複数の平面でスライスすることにより、三次元空間を複数M個の板状空間に分割し、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する第j番目(j=1,2,…,M)の板状空間内の単位光源からの物体光が、第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内、かつ、第j番目(j=1,2,…,M)の板状空間内にのみ伝播するものとして演算を行うようにしたものである。
【0025】
(16) 本発明の第16の態様は、異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造するホログラム記録媒体の製造方法において、
複数の原画像を、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合として用意する原画像準備段階と、
三次元座標系上に所定の記録面を設定する記録面設定段階と、
三次元座標系上に所定の参照光を設定する参照光設定段階と、
各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光と参照光とに基づいて記録面上に形成される干渉縞パターンを演算するパターン演算段階と、
干渉縞パターンを物理的な媒体上に形成するパターン形成段階と、
を行うようにし、
パターン演算段階において、各単位光源からの物体光の広がりに対して、当該単位光源が所属する原画像に応じた制限を加えた演算を行うようにしたものである。
【0026】
(17) 本発明の第17の態様は、異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造するホログラム記録媒体の製造方法において、
複数の原画像を、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合として用意する原画像準備段階と、
三次元座標系上に所定の記録面を設定する記録面設定段階と、
各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光を合成することにより記録面上に形成される複素振幅パターンを演算するパターン演算段階と、
複素振幅パターンを物理的な媒体上に形成するパターン形成段階と、
を行うようにし、
パターン演算段階において、各単位光源からの物体光の広がりに対して、当該単位光源が所属する原画像に応じた制限を加えた演算を行うようにしたものである。
【0027】
(18) 本発明の第18の態様は、上述した第1〜第17の態様に係る製造方法によって、ホログラム記録媒体を製造するようにしたものである。
【0028】
(19) 本発明の第19の態様は、異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造するホログラム記録媒体の製造装置において、
複数N個の原画像を、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合を示すデータとして格納する原画像格納部と、
基準単位光源から射出した光の伝播が可能な伝播空間を、基準単位光源の位置を基準として示したデータとして、複数N通り格納する伝播空間格納部と、
三次元座標系上に所定の記録面を設定する記録面設定部と、
三次元座標系上に所定の参照光を設定する参照光設定部と、
各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光と参照光とに基づいて、記録面上に形成される干渉縞パターンを演算するパターン演算部と、
干渉縞パターンを物理的な媒体上に形成するパターン形成部と、
を設け、
パターン演算部が、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する単位光源からの物体光が、当該単位光源の位置を基準単位光源の位置としたときの第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内にのみ伝播するものとして演算を行うようにしたものである。
【0029】
(20) 本発明の第20の態様は、異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造するホログラム記録媒体の製造装置において、
複数N個の原画像を、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合を示すデータとして格納する原画像格納部と、
基準単位光源から射出した光の伝播が可能な伝播空間を、基準単位光源の位置を基準として示したデータとして、複数N通り格納する伝播空間格納部と、
三次元座標系上に所定の記録面を設定する記録面設定部と、
各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光を合成することにより記録面上に形成される複素振幅パターンを演算するパターン演算部と、
複素振幅パターンを物理的な媒体上に形成するパターン形成部と、
を設け、
パターン演算部が、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する単位光源からの物体光が、当該単位光源の位置を基準単位光源の位置としたときの第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内にのみ伝播するものとして演算を行うようにしたものである。
【0030】
(21) 本発明の第21の態様は、上述した第19の態様に係るホログラム記録媒体の製造装置における原画像格納部、伝播空間格納部、記録面設定部、参照光設定部およびパターン演算部を、コンピュータプログラムにより実現し、上述した第20の態様に係るホログラム記録媒体の製造装置における原画像格納部、伝播空間格納部、記録面設定部およびパターン演算部を、コンピュータプログラムにより実現したものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るホログラム記録媒体の製造方法および製造装置によれば、異なる位置から観察したときに異なる原画像の再生が行われ、しかも高い解像度をもった再生像が得られるホログラム記録媒体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
【0033】
<<< §1. 本発明の基本的実施形態 >>>
はじめに、本発明に係るホログラム記録媒体の製造方法を基本的実施形態に基づいて説明する。図1は、本発明に係る方法で製造されたホログラム記録媒体10の観察態様を示す斜視図である。ここに例示するホログラム記録媒体10は、反射型の記録媒体であり、図示のとおり、手前側から再生用照明光Lrを照射した状態で手前側から観察すると再生像が得られる。このとき、視点E1から観察した場合と、視点E2から観察した場合とでは、それぞれ異なる再生像が観察されるという特徴をもっている。もちろん、本発明に係る方法は、反射型の記録媒体の製造に限定されるものではなく、向こう側から再生用照明光Lrを照射した状態で手前側から観察する透過型の記録媒体を作成することも可能である。
【0034】
ここに例示する具体例では、視点E1から観察すると、図2(a) に示されているとおり、第1の再生像A(この例では、円柱の像)が得られるが、視点E2から観察すると、図2(b) に示されているとおり、第2の再生像B(この例では、星型柱の像)が得られる。すなわち、この記録媒体10には、2つの異なる原画像が重ねて記録されており、観察位置に応じて、それぞれ異なる原画像が再生されることになる。もちろん、視点E1および視点E2以外の位置から記録媒体10を観察することも可能であり、その場合は、第1の再生像Aのみが観察されたり、第2の再生像Bのみが観察されたり、両再生像が所定の割合でブレンドされた状態で観察されたりと、位置に応じてその観察態様は様々である。
【0035】
このように、異なる位置から観察したときに異なる原画像が再生されるという特徴を有するホログラム記録媒体を作成する手法は、たとえば、前述した特許文献1に開示されているとおり公知である。しかしながら、上述したとおり、従来の方法の基本原理は、ホログラムの記録面上に複数の領域を設定し、個々の領域ごとにそれぞれ異なる原画像を記録する、というものであるため、再生像の解像度が低下するという問題があり、本発明は、このような問題を解決する新たな手法を提案するものである。
【0036】
図3は、本発明に係るホログラム記録媒体の製造方法の基本手順を示す流れ図である。以下、この基本手順に従って、本発明の基本的実施形態を説明する。なお、この図3に示す流れ図は、「計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram )」の手法によりホログラム記録媒体を製造するプロセスを示しており、ステップS1〜S5までの手順は、いずれもコンピュータによって実行される手順である。物理的なホログラム記録媒体は、最終的に、ステップS6のパターン形成段階において形成される。
【0037】
まず、ステップS1の原画像準備段階では、複数N個の原画像が、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合として用意される。図2に示す例のように、2つの再生像AおよびBの再生が可能な記録媒体を作成するには、ステップS1において、2個の原画像を用意すればよい。そこで、以下の説明では、便宜上、N=2の場合、すなわち、2個の原画像を用意して、図2に示すようなホログラム記録媒体10を製造するプロセスを例として述べることにするが、もちろん、本発明は、N=3以上の場合にも適用可能である。
【0038】
一般的な計算機合成ホログラムの手法では、光学的な干渉縞の生成プロセスをコンピュータ上でシミュレートすることになる。そこで、ここでは、この光学シミュレーションを行う三次元座標系として、XYZ直交座標系を定義する。図4は、このXYZ座標系上に定義された2組の原画像の一例を示す斜視図である。図4(a) は、第1の原画像Iaを示しており、図4(b) は、第2の原画像Ibを示している。ここで、図4(a) に示す円柱状の第1の原画像Iaは、図2(a) に示す第1の再生像Aのもとになる画像であり、図4(b) に示す星型柱状の第2の原画像Ibは、図2(b) に示す第2の再生像Bのもとになる画像である。
【0039】
図4に示すとおり、各原画像Ia,Ibは、XYZ座標系上に配置された多数の単位光源の集合によって構成されている。ここでは、各単位光源が点光源によって構成されているものとする。これらの各点光源は、図4において黒いドット(たとえば、P11,P12,P13,P21,P22,P23)で示されている。なお、図では、説明の便宜上、点光源がまばらに配置されている例が示されているが、実際には、より高い解像度をもった原画像を用意するために、各点光源は、より高い密度で定義される。
【0040】
図では、第1の原画像Iaを図4(a) に示し、第2の原画像Ibを図4(b) に示し、両者を別々に描いているが、2つの原画像Ia,Ibは、同じXYZ座標系上に定義された三次元画像であり、この例の場合、両者は空間的に一部重複するように配置されている。図2の観察態様に示されているとおり、ホログラム記録媒体10からは、観察する視点位置に応じて、それぞれ異なる原画像が再生されることになるので、原画像準備段階S1において用意する複数の原画像は、空間的に一部重複する配置をとっていても何ら支障はない。
【0041】
もちろん、各原画像Ia,Ibは、コンピュータ上で定義される画像であり、その実体は、デジタル画像データになる。したがって、ステップS1の原画像準備段階は、実際には、コンピュータの記憶装置内に、デジタル画像データからなる原画像Ia,Ibを用意するプロセスになる。なお、図示の例では、各原画像Ia,Ibはいずれも立体的な形状をもった画像であるが、本発明において用意する原画像は、必ずしも立体画像である必要はなく、平面画像(たとえば、二次元平面上に配置された文字列など)を原画像として用いてもかまわない。
【0042】
続いて、ステップS2の伝播空間定義段階では、基準単位光源から射出した光の伝播が可能な伝播空間を、この基準単位光源の位置を基準として複数N通り定義する処理が行われる。ここで、基準単位光源とは、ステップS1で用意した原画像を構成する単位光源と同等の光源であり、ここで述べる実施形態の場合、基準単位光源は「点光源」ということになる。ステップS2で定義される「伝播空間」とは、「基準単位光源から射出した光が本来伝播してゆくべき空間よりもより狭い制限された空間」を意味するものであり、ホログラム記録媒体の作成者が恣意的に設定する空間である。
【0043】
図5は、基準単位光源Q(点光源)について定義された2組の伝播空間Sa,Sbを示す斜視図である。伝播空間Saは、図に斜線によるハッチングを施して示した円錐状の空間であり、伝播空間Sbは、図にドットによるハッチングを施して示した円錐状の空間である。いずれの伝播空間も、基準単位光源Qを頂点とする円錐形をしているが、伝播空間Saが図の左方向に広がる空間であるのに対して、伝播空間Sbは図の右方向に広がる空間となっている。
【0044】
この実施形態では、基準単位光源Qの位置にαβγ直交座標系の原点を定め、2組の伝播空間Sa,Sbを、αβγ座標系上で定義している。なお、図では便宜上、有限長の高さをもった円錐として各伝播空間Sa,Sbを描いてあるが、実際には、各伝播空間Sa,Sbは、無限長の高さを有する円錐として定義される。別言すれば、円錐状の伝播空間は、頂点Qを基準とした方向性をもった立体角として定義することができ、原点Qに位置する点光源から射出した光が広がってゆく空間を示すことになる。
【0045】
本来、点光源とは、ある1点から球面波として広がる光を射出する光源であり、図5に示すαβγ座標系の原点Qの位置に点光源が置かれていた場合、当該点光源から射出した光は、原点Qの周囲のすべての方向へと伝播してゆき、αβγ座標系内のすべての空間に広がってゆくべきものである。実際、銀河系というマクロ的な視野で考えれば、太陽はほぼ点光源として把握することが可能であり、太陽から射出した光は銀河系全体へと伝播してゆくことになる。ステップS2で定義される「伝播空間」とは、このような光源からの光の本来の射出方向を制限することにより設定される空間であり、本来の物理法則とは別個に人為的に光の射出方向に関する法則を定義することにより設定される空間である。
【0046】
図5に示す例の場合、第1の伝播空間Saを選択すると、原点Qに位置する点光源からの光は、斜線によるハッチングが施された空間内だけに伝播し、それ以外の空間には伝播しないことになる。同様に、第2の伝播空間Sbを選択すると、原点Qに位置する点光源からの光は、ドットによるハッチングが施された空間内だけに伝播し、それ以外の空間には伝播しないことになる。このように特定の伝播空間を選択することは、原点Qから射出される光を、方向性をもった特定の立体角内に制限することと同等である。これは、物理的には、特定の伝播空間以外の空間を、吸光性をもった不透明な物質で満たした状態と考えることができる。
【0047】
ここで述べる実施形態の基本原理は、次のようなものである。まず、図4(a) ,(b) に示すように、XYZ座標系上に、2つの原画像Ia,Ibをそれぞれ点光源の集合として定義する(ステップS1)。続いて、図5に示すように、αβγ座標系上の原点Qから射出した光の伝播が可能な2通りの伝播空間Sa,Sbを定義する(ステップS2)。そして、原画像Iaに所属する点光源(たとえば、P11,P12,P13)からの光は、当該点光源位置にαβγ座標系の原点Qを重ねたときの伝播空間Sa内にのみ広がり、原画像Ibに所属する点光源(たとえば、P21,P22,P23)からの光は、当該点光源位置にαβγ座標系の原点Qを重ねたときの伝播空間Sb内にのみ広がるものとして、光学的な干渉縞の生成プロセスをコンピュータ上でシミュレートするのである(後述するステップS3〜S5)。
【0048】
このような方法で干渉縞の生成シミュレーションを行うと、図4(a) に示す点光源P11,P12,P13などの第1の原画像Iaからの光は、図5に示す伝播空間Saに示されるとおり、図の左方向へのみ射出されることになる。一方、図4(b) に示す点光源P21,P22,P23などの第2の原画像Ibからの光は、図5に示す伝播空間Sbに示されるとおり、図の右方向へのみ射出されることになる。結局、ホログラム記録媒体10上には、第1の原画像Iaについては、図の左方向へと向かう光のみが記録され、第2の原画像Ibについては、図の右方向へと向かう光のみが記録されることになる。その結果、図2に示す観察態様のように、ホログラム記録媒体10を、左側の視点E1から観察すると第1の再生像Aが観察され、右側の視点E2から観察すると第2の再生像Bが観察されることになる。この場合、正面から観察すると、右半分は第1の再生像A(円柱)、左半分は第2の再生像B(星型柱)という合成像が観察されることになる。
【0049】
ステップS3〜S6の手順は、上述した基本原理に基づいて、ホログラム記録媒体10を実際に製造するプロセスである。まず、ステップS3の記録面設定段階では、XYZ三次元座標系上に所定の記録面20が設定され、続くステップS4の参照光設定段階では、XYZ三次元座標系上に所定の参照光Rが設定される。記録面20は、最終製品となるホログラム記録媒体10の記録面に対応する面であり、通常、矩形からなる平面として設定される。一方、参照光Rは、原画像からの物体光と干渉させることにより、記録面20上に干渉縞を生成させるために用いられる光であり、通常、記録面20に対して所定の入射角をもって入射する所定波長の平面波として設定される。こうして、ステップS5のパターン演算段階では、各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光と、ステップS4で設定された参照光Rとに基づいて、ステップS3で設定された記録面20上に形成される干渉縞パターンの演算(干渉縞の生成シミュレーション演算)が行われる。
【0050】
図6は、ステップS5のパターン演算段階で行われる演算処理の概念を示す斜視図である。図示されているXYZ三次元座標系において、第1の原画像Iaおよび第2の原画像Ibは、ステップS1において準備された原画像であり(前述したとおり、両原画像は部分的に重なり合っている)、記録面20は、ステップS3において設定された面であり、参照光Rは、ステップS4において設定された光である。ステップS5のパターン演算段階では、第1の原画像Iaを構成する個々の点光源からの物体光(図6では、点光源P11からの物体光Laの一光路のみが一点鎖線で例示されている)および第2の原画像Ibを構成する個々の点光源からの物体光(図6では、点光源P21からの物体光Lbの一光路のみが一点鎖線で例示されている)と、参照光Rと、に基づいて、記録面20上に形成される干渉縞パターンが演算により求められる。
【0051】
実際には、記録面20上に所定ピッチで縦横に配列された多数の演算点を定義し、個々の演算点の位置において、光の振幅強度を求める演算が行われる。たとえば、図示の演算点Cの位置に関する演算は、次のようにして行われる。まず、当該演算点Cに到達する第1の原画像Iaを構成する個々の点光源からの物体光および第2の原画像Ibを構成する個々の点光源からの物体光を合成して、合成物体光を求める。そして、この合成物体光と参照光Rとの干渉によって演算点Cに得られる干渉波の振幅強度を、当該演算点Cにおける干渉縞パターンの濃度値とすればよい。記録面20上に定義された多数の演算点のそれぞれについて、このような濃度値が得られれば、当該濃度値の分布が、ステップS5で求めるべき干渉縞パターンということになる。
【0052】
このステップS5の演算処理を、一般論として定義すれば、各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光を合成することにより合成物体光を求め、この合成物体光と参照光との干渉によって記録面20上に得られる干渉縞パターンを演算によって求める処理ということができる。より具体的には、原画像を構成する個々の点光源から射出された物体光を、A・exp(−iωt+iφ)なる複素数を用いた式(Aは振幅、ωは振動数、tは時間、φは位相、iは虚数単位)で表現した場合、特定の演算点Cの位置について、当該位置に到達するすべての物体光について上記式の総和を求めれば合成物体光が得られるので、この合成物体光と参照光Rとの演算点Cの位置における干渉波強度を求める演算を行えばよい。このような演算処理自体は、「計算機合成ホログラム」の一般的な手法として公知であるので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0053】
本発明の特徴は、このステップS5のパターン演算段階において、ステップS2で定義した伝播空間を用いて物体光の伝播に制限を加える点にある。すなわち、一般論として説明すれば、ステップS1においてN個の原画像を用意し、ステップS2においてN通りの伝播空間を定義した場合、ステップS5のパターン演算段階では、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する単位光源からの物体光が、当該単位光源の位置を基準単位光源の位置としたときの第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内にのみ伝播するものとして演算を行うようにすればよい。
【0054】
これまで述べてきた実施形態は、N=2の場合であり、ステップS1では、図4(a) ,(b) に示すように2組の原画像Ia,Ibが用意され、ステップS2では、図5に示すように2通りの伝播空間Sa,Sbが定義されている。したがって、ステップS5の演算処理は、次のような制限を加えた状態で行われることになる。すなわち、第1の原画像Iaに所属する点光源(単位光源)からの物体光は、当該点光源の位置を基準単位光源Qの位置としたときの第1の伝播空間Sa内にのみ伝播するものとし、第2の原画像Ibに所属する点光源(単位光源)からの物体光は、当該点光源の位置を基準単位光源Qの位置としたときの第2の伝播空間Sb内にのみ伝播するものとする制限が加えられる。
【0055】
これをもう少し具体的に説明してみよう。たとえば、図6に示す例において、記録面20上に定義された特定の演算点Cについての干渉縞パターンの濃度値を求める場合を考える。この場合、本来であれば(つまり、従来の方法であれば)、第1の原画像Iaを構成するすべての点光源からの物体光と、第2の原画像Ibを構成するすべての点光源からの物体光とが、演算点Cまで到達するものとして、干渉縞強度を求める演算を行うことになる。これは、「点光源から射出された光は、その周囲の全空間に伝播する」という基本的な物理法則に基づく演算手法である。
【0056】
これに対して、本発明では、まず、個々の点光源について、ステップS2で定義した伝播空間を参照することにより、当該点光源から射出した光が演算点Cに到達するか否かの判定作業を行う。たとえば、図6に示す点光源P11から射出した物体光が演算点Cに到達するか否かは、次のようにして判定することができる。はじめに、図5に示すαβγ座標系(ローカル座標系)の原点Q(基準単位光源Q)を、図6に示すXYZ座標系(グローバル座標系)上に定義された点光源P11の位置に置き、対応する各座標軸(たとえば、X軸とα軸、Y軸とβ軸、Z軸とγ軸)が平行になるように両座標系を重ねる。そして、点光源P11からの物体光が、円錐形をした第1の伝播空間Sa内にのみ広がるものとして、当該物体光が演算点Cに到達するか否かを判定すればよい。別言すれば、上述したように両座標系を重ねたときに、演算点Cが、伝播空間Sa内に含まれる場合には、点光源P11から射出した光が演算点Cに到達すると判断することができる。
【0057】
同様の判定処理を、第1の原画像Iaを構成するすべての点光源のそれぞれについて行うようにする。たとえば、図4(a) の点光源P12についての判定を行う場合には、点光源P12の位置にαβγ座標系の原点Qを重ねたときに、演算点Cが第1の伝播空間Sa内に含まれるか否かが判定され、点光源P13についての判定を行う場合には、点光源P13の位置にαβγ座標系の原点Qを重ねたときに、演算点Cが伝播空間Sa内に含まれるか否かが判定されることになる。一方、図4(b) の点光源P21についての判定を行う場合には、点光源P21の位置にαβγ座標系の原点Qを重ねたときに、演算点Cが第2の伝播空間Sb内に含まれるか否かが判定される。同様に、図4(b) の点光源P22,P23についての判定を行う場合も、各点光源の位置にαβγ座標系の原点Qを重ねたときに、演算点Cが第2の伝播空間Sb内に含まれるか否かが判定されることになる。
【0058】
こうして、各伝播空間を考慮することより、ある特定の演算点Cに関して、ある特定の点光源から射出した光が到達するか否かの判断を行うことができる。そこで、ある特定の演算点Cの位置における干渉縞強度を演算する際には、当該演算点Cの位置に光が到達すると判断された点光源からの光のみを物体光として取り扱うようにし、それ以外の点光源は無視する取り扱いを行えばよい。以上のような演算により、個々の演算点Cについての干渉縞の強度値を演算すれば、記録面20上における干渉縞強度値の分布が干渉縞パターンとして得られることになる。
【0059】
図3に示す流れ図におけるステップS6のパターン形成段階は、ステップS5において求められた干渉縞パターンを物理的な媒体上に形成する段階である。この段階は、干渉縞の濃淡パターンを何らかの方法で物理的な媒体上に形成することができれば、どのような方法を用いてもかまわない。このような方法としては、既に種々の方法が公知であるので、ここでは詳しい説明は省略するが、一般的には、ステップS5のパターン演算段階によって得られた干渉縞パターンを二値画像パターンに変換し、物理的な媒体上に二値画像パターンを形成する方法が広く用いられている。たとえば、白と黒の2色からなる平面状媒体や、凹部と凸部の2つの部分からなる立体構造媒体などが一般的に利用されている。なお、干渉縞パターンは、光学的な干渉が生じる非常に微細なパターンであるため、実用上は、形成すべき微細パターンを電子線描画装置に与え、媒体上で電子線を走査することにより物理的な干渉縞を形成する方法が採られることが多い。
【0060】
<<< §2. 伝播空間に関する別な実施形態 >>>
以上、§1において、本発明の基本的な実施形態を述べた。結局、本発明の基本思想は、パターン演算段階において、各単位光源からの物体光の広がりに対して、当該単位光源が所属する原画像に応じた制限を加えた演算を行うことにある。たとえば、図5に示す例の場合、第1の原画像に所属する単位光源からの物体光については、その広がりを伝播領域Sa内に制限した上で干渉縞パターンの演算が行われることになり、第2の原画像に所属する単位光源からの物体光については、その広がりを伝播領域Sb内に制限した上で干渉縞パターンの演算が行われることになる。本発明で定義する伝播空間とは、このように、単位光源からの物体光の広がりを制限する機能をもった空間であり、このような機能を果たすことができれば、どのような空間を伝播空間として定義してもかまわない。ここでは、この伝播空間の定義に関して、いくつかの別な実施形態を述べておく。
【0061】
(1) 伝播空間の形状および配置
図5では、円錐状の伝播空間Sa,Sbを定義した例が示されているが、ステップS2で定義する伝播空間の形状は必ずしも円錐状に限定されるものではなく、作成者の意図に応じて、任意形状の伝播空間を設定することが可能である。「計算機合成ホログラム」の手法では、ホログラム記録面上に形成される干渉縞は、あくまでもコンピュータ上で行われる光学現象のシミュレーション演算によって求められるので、どのような伝播空間を定義したとしても、何らかの干渉縞を求めることが可能である。ただ、点光源の場合は、本来、光源位置から光が放射状に広がるべきものであるので、原画像を構成する単位光源として点光源を用いた場合は、当該点光源の位置を頂点とした錐形(円錐や角錐)の伝播空間を定義するのが好ましい。
【0062】
また、図5では、第1の伝播空間Saを左向きの円錐空間とし、第2の伝播空間Sbを右向きの円錐空間としているが、個々の伝播空間の配置(向き)も、作成者の意図に応じて任意に設定すればよい。ただ、上述したとおり、個々の伝播空間の配置(向き)は、再生像の観察方向に関連したファクターになるので、最終的に製造されるべきホログラム記録媒体の観察態様を考慮して、個々の伝播空間の配置(向き)を設定する必要がある。たとえば、第1の伝播空間Saを上向きの円錐空間とし、第2の伝播空間Sbを下向きの円錐空間とした場合、最終的に製造されるホログラム記録媒体は、上方から観察すると第1の再生像Aが再生され、下方から観察すると第2の再生像Bが再生される、という観察態様を有するものになる。
【0063】
図7は、2通りの伝播空間を定義する場合のより実用的な実施形態の一例を示す上面図である。この図は、αβγ座標系をγ軸方向から見下ろした図であり、γ軸は、原点Qの位置に紙面に対して垂直に立った軸になる。図示のとおり、ここには、2通りの伝播空間SSa(斜線によるハッチング部分)およびSSb(ドットによるハッチング部分)が定義されている。これらの伝播空間SSa,SSbは、原点Qに位置する基準単位光源(点光源)からのαβ二次元平面に関する制限を示すものである。図示のとおり、伝播空間SSaは、αγ平面(紙面に垂直な平面)に対して角度θaをなす境界面Fa(紙面に垂直な平面)を定義したときに、両平面によって挟まれたくさび型の空間であり、伝播空間SSbは、αγ平面(紙面に垂直な平面)に対して角度θbをなす境界面Fb(紙面に垂直な平面)を定義したときに、両平面によって挟まれたくさび型の空間である。
【0064】
もっとも、基準単位光源Qが点光源である場合、この点光源から射出される光は、放射状に広がることになるので、くさび型の伝播空間SSa,SSbを定義したとしても、実質的には、角錐型の伝播空間を定義したのと等価になる。別言すれば、ステップS5のパターン演算段階では、有限の面積をもった所定の記録面20上に到達する物体光しか考慮する必要はないので、記録面20に到達しないような光は、そもそも演算の考慮外ということになる。たとえば、伝播空間SSaを、αγ平面と境界面Faとの間に挟まれたくさび型の空間と定義した場合、γ軸自身も当該空間内に含まれることになるが、基準単位光源Qが点光源である場合、γ軸方向に伝播する光は、図6のような設定では、記録面20には到達することはない。
【0065】
このように、本発明にいう「伝播空間」とは、「ステップS5のパターン演算段階において、当該空間内に伝播する物体光が必ず考慮されるべき空間」を意味するわけではなく、「ステップS5のパターン演算段階において、当該空間外に伝播する物体光は演算時に考慮しない空間」というべきものであり、演算時において、光源からの光の伝播を制限するために定義される空間ということになる。したがって、ステップS5のパターン演算段階では、伝播領域外の空間に伝播する物体光は無視されることになるが、たとえ伝播領域内を伝播する物体光であっても、記録面に到達しない物体光は、演算には何ら寄与しないことになる。このような理由から、演算処理上の観点からは、くさび型の伝播空間SSa,SSbを定義したとしても、実質的には、角錐型の伝播空間を定義したのと等価になり、実務上は、くさび型伝播空間でも角錐型伝播空間でも、いずれを用いてもかまわない。
【0066】
図8は、原画像Iaを構成する各点光源から射出する光が、図7に示す伝播空間SSaに応じて広がる様子を示す上面図であり、図9は、原画像Ibを構成する各点光源から射出する光が、図7に示す伝播空間SSbに応じて広がる様子を示す上面図である。これらの上面図は、いずれもXYZ座標系をZ軸方向から見下ろした図であり、Z軸は、紙面に対して垂直に立った軸になる。図8に示すように、記録面20上に形成される干渉縞の演算を行う上では、たとえば、第1の原画像Iaを構成する点光源P14,P15,P16からの光は、それぞれ図に斜線によるハッチングを施した伝播空間S14,S15,S16(XYZグローバル座標系上での伝播空間)内のみを伝播するものとする取り扱いがなされる。
【0067】
ここで、たとえば、伝播空間S14は、点光源P14の位置に、図7に示すαβγローカル座標系の原点Qを重ねたときの伝播空間SSa(ローカル座標系上での伝播空間)に対応し、点光源P14から射出された物体光は、伝播空間S14内のみを球面波として伝播するものとして取り扱われることになる。別言すれば、点光源P14から射出した物体光を考慮した演算は、記録面20上における伝播空間S14と重なり合った領域内の演算点においてのみ実行されることになる。
【0068】
これに対して、図9に示すように、第2の原画像Ibを構成する点光源P24,P25,P26からの光は、それぞれ図にドットによるハッチングを施した伝播空間S24,S25,S26内のみを伝播するものとする取り扱いがなされる。ここで、たとえば、伝播空間S24は、点光源P24の位置に、図7に示すαβγローカル座標系の原点Qを重ねたときの伝播空間SSbに対応し、点光源P24から射出された物体光は、伝播空間S24内のみを球面波として伝播するものとして取り扱われることになる。
【0069】
(2) 複数の伝播空間の相互関係
図5に示されている2通りの伝播空間Sa,Sbは、互いに、空間的に排他的領域となっており、両者間に空間的な重なりは生じていない。同様に、図7に示されている2通りの伝播空間SSa,SSbは、αγ平面を境界面として相互に接触しているものの、やはり空間的に排他的領域となっており、両者間に空間的な重なりは生じていない。本発明に係るホログラム記録媒体の基本機能は、異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される、という機能であり、このような機能を実現する上では、伝播空間定義段階で複数N通りの伝播空間を定義する際に、互いに、空間的に排他的領域となるように定義することが好ましい。
【0070】
しかしながら、複数N通りの伝播空間を定義する際に、必ずしも、互いに、空間的に排他的領域となるような定義を行う必要はない。実際には、複数N通りの伝播空間の一部もしくは全部を、他の伝播空間と空間的に一部重複する領域となるように定義することも可能である。このような一部重複する領域定義を行って作成されたホログラム記録媒体では、ある特定の位置から観察すると、複数の原画像が同時に観察される現象が起こり得る。
【0071】
たとえば、図5に示す例において、第1の伝播空間Saの右側部分と第2の伝播空間Sbの左側部分とが空間的に重複していたような場合、図2(a) に示す視点E1と図2(b) に示す視点E2との中間位置には、再生像AとBとの双方が重なって観察される地点が現れることになる。このため、視点を左側から徐々に右側へと移動させてゆくと、観察される再生像は、第1の再生像Aから徐々に第2の再生像Bへと変わってゆくことになる。このような観察態様を実現したい場合には、2つの伝播空間が一部重畳するような定義を行えばよい。
【0072】
もっとも、実用上は、互いに排他的な伝播空間を定義したとしても、必ずしも排他的な観察態様が実現されるとは限らない。たとえば、§1では、図5に示すような排他的な伝播空間Sa,Sbを定義すると、図2に示すように、視点E1から観察すると第1の再生像Aが観察され、視点E2から観察すると第2の再生像Bが観察される、と説明した。しかしながら、このような観察態様が得られるのは、記録時に用いた参照光と同一波長(単色光)の再生照明光を参照光と同一方向から照射した理想的な照明環境を前提とした場合である。実際には、このような理想的な照明環境下での観察はむしろ希であり、また、両眼で観察した場合、視点は1点ではなくなるため、たとえ排他的伝播空間を定義したとしても、複数の原画像が同時観察される現象は起こりうる。もちろん、観察位置を変えることにより、各再生像の明るさはそれぞれ変化し、部分的に像が欠けたりすることになる。
【0073】
(3) 同一伝播空間の定義
本発明の基本原理では、原画像準備段階(ステップS1)で複数N通りの原画像を用意したら、伝播空間定義段階(ステップS2)で同じく複数N通りの伝播空間の定義を行い、パターン演算段階(ステップS5)では、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する単位光源からの物体光が、当該単位光源の位置を基準単位光源の位置としたときの第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内にのみ伝播するものとして演算を行うことになる。たとえば、N=3の場合、3通りの原画像と3通りの伝播空間が用意され、第1の原画像からの物体光は第1の伝播空間内のみに伝播し、第2の原画像からの物体光は第2の伝播空間内のみに伝播し、第3の原画像からの物体光は第3の伝播空間内のみに伝播する、という取り扱いがなされることになる。
【0074】
このとき、N通りの伝播空間の一部もしくは全部を、他の伝播空間と空間的に一部重複する領域となるように定義することが可能である点は、既に上記(2) で述べたとおりであるが、複数N通りの伝播空間の一部もしくは全部を、他の伝播空間と空間的に完全に一致する領域となるように定義することも可能である。たとえば、上述したように、3通りの原画像と3通りの伝播空間を用意する場合、図5に示す空間Saを第1の伝播空間および第2の伝播空間とし、空間Sbを第3の伝播空間と定義してもよい。この場合、第1の伝播空間と第2の伝播空間とは、完全に同一の領域として定義されることになる(もちろん伝播空間Saの一部と伝播空間Sbの一部とが空間的に重複していてもかまわない)。
【0075】
このような定義を行うと、第1の視点E1から観察すると、第1の再生像および第2の再生像が観察でき、第2の視点E2から観察すると、第3の再生像が観察できるホログラム記録媒体を作成することができる。このようなホログラム記録媒体では、第1の伝播空間と第2の伝播空間とを同一の空間に設定したため、第1の原画像と第2の原画像は同一の条件で記録されることになり、その結果、第1の再生像と第2の再生像の観察態様は同一になる。すなわち、ある視点から観察したときに、第1の再生像が観察できれば、第2の再生像も同時に観察できることになる。しかしながら、第3の伝播空間は別個の空間として設定されているため、第3の原画像は別な条件で記録されることになり、第3の再生像の観察態様は別個のものになる。
【0076】
このように、本発明において「異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される」という意味は、「複数N通りの原画像について、ある特定の位置から観察すると、いずれか1つの原画像のみが観察できる」という意味ではなく、「観察位置を変えると、複数N通りの原画像のうちの観察可能な原画像の組合わせが変わる」ということを意味するものである。
【0077】
<<< §3. 板状空間による制限を行う実施形態 >>>
計算機合成ホログラムを作成する際に、原画像を構成する単位光源からの物体光の広がりに対して、何らかの制限を加えて演算を行う手法自体は既に知られている。たとえば、特開平11−24539号公報や特開平11−202741号公報には、点光源からの物体光の広がりを、所定の広がり角で規定される空間内に制限した上で、干渉縞強度の演算を行う手法が開示されている。もっとも、これらの公報に開示されている手法における「物体光の広がり角制限」の目的は、輝度むらを抑制したり、演算負担を軽減したりするためであり、本発明のように、異なる位置から観察したときに異なる原画像の再生が行われるようにするためではない。もちろん、個々の原画像ごとに、それぞれ伝播空間を定義する(物体光の広がり角を定義する)という本発明の重要な特徴は、これらの公報には何ら開示はない。
【0078】
このように、本発明における「物体光の広がり角制限」の作用効果と、上述した公知例における「物体光の広がり角制限」の作用効果とは、原理的に全く異なるものであるが、干渉縞強度の演算を行う際に、物体光の広がり角を何らかの形で制限する、という点においては共通しているので、両者を組み合わせて用いることは可能である。別言すれば、本発明を実施する際に、上述した公知例における「物体光の広がり角制限」を重複して適用することも可能である。以下、このような実施形態の一例を述べる。
【0079】
図10は、XYZグローバル座標系からなる三次元空間を複数の板状空間に分割し、各点光源から射出する光の広がりを1つの板状空間内のみに制限して干渉縞パターンの演算を行う概念を示す断面図(XZ平面で切断した図)である。図示の例では、破線で示す7つのスライス平面H1〜H7によって、三次元空間が複数の板状空間G1〜G7に分割されている。ここで、各スライス平面H1〜H7は、いずれもXY平面に平行な平面である。そして、たとえば、板状空間G1は、スライス平面H1とH2との間に挟まれた空間であり、板状空間G2は、スライス平面H2とH3との間に挟まれた空間であり、板状空間G7は、スライス平面H7とXY平面との間に挟まれた空間である。
【0080】
図においてIaは、円柱状の第1の原画像であり、P17,P18,P19は、この第1の原画像Iaを構成する点光源の一例である。また、図の右方の20は、XYZ座標系上に定義された記録面であり、この記録面20上に配置された多数の演算点について、それぞれ干渉縞強度が演算されることになる(参照光Rの図示は省略されている)。
【0081】
既に述べたとおり、本発明では、この第1の原画像Iaを構成する点光源から射出された物体光は、当該点光源を基準として、所定の伝播空間内にのみ伝播するものとして取り扱われる。このとき、ここで述べる実施形態の場合、更に加重条件として、ある特定の点光源から射出される物体光は、当該点光源が所属する板状空間内にのみ伝播するものとして取り扱うようにする。たとえば、図示されている点光源P17,P18,P19は、第1番目の板状空間G1内に位置する点光源であるから、これら点光源P17,P18,P19からの物体光は、所定の伝播空間(第1の原画像Iaに対応して定義された伝播空間)内、かつ、第1番目の板状空間G1内にのみ伝播するものとして取り扱われることになる。
【0082】
ここで、記録面20のうち、スライス平面H1とH2との間に挟まれた領域を、図示のとおり、単位記録領域U1と呼ぶことにすれば、結局、板状空間G1内に位置する点光源P17,P18,P19からの物体光のうち、記録面20上に生じる干渉縞パターンの演算に考慮される物体光は、「予め定義された所定の伝播空間内」かつ「板状空間G1内」を伝播する光のみに限定されることになる。すなわち、点光源P17,P18,P19からの物体光は、本来であれば、XYZ座標系内の全空間に伝播してゆくことになるが、ここに示す実施形態の場合、この全空間に伝播してゆく物体光のうち、板状空間G1外へ伝播してゆく物体光は、干渉縞パターンの演算には全く考慮されないことになる。
【0083】
別言すれば、点光源P17,P18,P19からの物体光は、図示の単位記録領域U1(紙面垂直方向に伸びた短冊状の領域)内に配置された演算点についての干渉縞強度演算のみに利用され、それ以外の位置に配置された演算点についての演算には、何ら関与しないことになる。もちろん、点光源P17,P18,P19からの物体光は、単位記録領域U1内のすべての演算点についての干渉縞強度演算に必ずしも利用されるわけではなく、「単位記録領域U1内の演算点」であり、かつ「各点光源を基準とした所定の伝播空間内の演算点」についてのみ、干渉縞強度演算の利用対象になる。
【0084】
結局、一般論として述べれば、ここで述べた実施形態の特徴は、パターン演算段階で、互いに平行な複数の平面でスライスすることにより、三次元空間を複数M個の板状空間に分割し、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する第j番目(j=1,2,…,M)の板状空間内の単位光源からの物体光が、第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内、かつ、第j番目(j=1,2,…,M)の板状空間内にのみ伝播するものとして演算を行うことにある。
【0085】
このように、本発明の特徴となる物体光の広がり角の制限と、従来から公知の手法に基づく広がり角の制限とを、AND条件として適用し、干渉縞強度演算を行うようにすれば、本発明に固有の作用効果(異なる位置から観察したときに異なる原画像の再生が行われるようにする)と、従来の公知手法に固有の作用効果(輝度むらを抑制したり、演算負担を軽減したりする)との相乗効果を得ることが可能になる。
【0086】
<<< §4. 線分光源を用いた実施形態 >>>
これまでの実施形態では、原画像を構成する単位光源として、点光源を用いた例を述べた。しかしながら、本発明を実施する上で、原画像を構成する個々の単位光源は、必ずしも点光源にする必要はない。たとえば、図11(a) に示す点光源Pを、Z軸に沿って上下にそれぞれd/2だけ移動させた軌跡として、線分光源なるものを定義すれば、図11(b) に示すように、長さdをもった線分光源PPを定義することができる。本発明のステップS1で用意する原画像は、このような線分光源PPの集合体によって構成してもかまわない。
【0087】
たとえば、図4(a) に示す原画像Iaや図4(b) に示す原画像Ibは、いずれも点光源の集合体から構成されているが、これら個々の点光源を、それぞれZ軸に沿って上下にそれぞれd/2だけ移動させた軌跡として、線分光源なるものを定義すれば、各原画像Ia,Ibを長さdの線分光源の集合体として取り扱うことが可能である。
【0088】
一般に、点光源は、球面波からなる物体光を射出する光源であり、点光源からの物体光は当該点光源の位置を中心として放射状に広がることになる。したがって、点光源について、広がり角を制限することにより定義した伝播空間の典型例は、たとえば、図12に示す円錐形の伝播空間Scのようなものになる(原点Qに点光源が位置する場合の伝播空間の例)。一方、線分光源からの光は、球面波にはならないため、点光源の場合と比べて、若干、取り扱い方を変える必要がある。
【0089】
線分光源の取り扱い方のひとつは、多数の点光源を所定長の線分上に並べることにより構成された光源、別言すれば、点光源の集合からなる光源として取り扱うようにする方法である。たとえば、図12に示すように、原点Qから距離dだけ離れたγ軸上の位置に変位点Q′を定義し、長さdをもった線分(原点Qと変位点Q′とを結ぶ線分)からなる線分光源QQなるものを考えてみる。この線分光源QQを、点光源の集合体として捉えるのであれば、そこから射出される物体光の波面は、原点Qを中心とした図示のような球体を、γ軸に沿って上方に距離dだけ移動させたときの各球体の集合体の表面のようになるであろう。
【0090】
したがって、このような線分光源QQについて、広がり角を制限することにより定義した伝播空間の典型例は、たとえば、図12に示す円錐形の伝播空間Scを、γ軸に沿って上方に距離dだけ移動させたときの占有空間として定義することができる。別言すれば、単位光源として、多数の点光源を所定長の線分上に並べることにより構成された線分光源QQを用いた場合、伝播空間定義段階では、この線分光源QQを構成する個々の点光源の位置を頂点とした個々の錐形の幾何学的論理和からなる伝播空間を定義するようにすればよい。
【0091】
線分光源のもう一つの取り扱い方は、線光源に準じた取り扱いである。理論的な線光源(長さが無限大の線状光源)から射出された物体光の波面は、当該線光源の位置を中心軸とした円柱の側面になる。たとえば、γ軸に沿った線光源の場合、その波面はγ軸を中心軸とした円柱の側面になり、すべての物体光はγ軸に直交する方向に進み、γ軸に沿った方向に進む物体光は存在しない。線分光源は、実際には有限長の光源ではあるが、線光源に準じた取り扱いを行うことも可能である。その場合、線分光源から射出された物体光の波面は、当該線分光源の位置を中心軸とした円柱の側面になり、当該線分光源に沿った方向に進む物体光は存在しないことになる。
【0092】
たとえば、図13に示すような線分光源QQについて、線光源に準じた取り扱いを行うと、線分光源QQ上の任意の位置から射出される物体光は、当該任意の位置を通り、αβ平面に平行な平面に沿って、γ軸を中心として放射状に広がる光になる。具体例で説明すれば、図の変位点Q′から射出された物体光は、γ=dなる方程式で示される平面に沿って、変位点Q′から遠ざかるように放射状に進む光ということになり、すべての物体光の進行方向は、γ軸に対して直交することになる。線分光源についてのこのような取り扱いを行う例は、たとえば、特開2001−013858号公報に開示されている。
【0093】
線分光源QQについて、このような線光源に準じた取り扱いを行う場合には、図13にドットによるハッチングを施して示した空間Sd(厚みdをもった円盤状のピザパイを一人前分だけ切り分けたような形状)として、伝播空間の定義を行うことが可能である。このような伝播空間Sdは、高さdと切り分け角θdとその配置(向き)によって定義することができる(ピザパイの半径は無限大に設定すればよい)。線分光源QQについて、線光源に準じた取り扱いを行う場合、本来であれば、線分光源QQから射出された物体光は、図13に示す円盤状のピザパイ内のすべての空間に伝播してゆくことになるが、ドットによるハッチングを施して示した伝播空間Sdを定義することにより、物体光の広がる範囲を特定の範囲内に制限することができる。
【0094】
このように、線分光源QQについて、線光源に準じた取り扱いを行うと、結果的には、§3.で述べた「板状空間による制限を行う実施形態」に近似した効果が得られる。たとえば、図10には、XYZ座標系からなる三次元空間をスライス平面H1〜H7によって分割し、複数の板状空間G1〜G7を形成した例が示されているが、このとき、各スライス平面H1〜H7の間隔をdに設定し、個々の点光源を、それぞれ所属する板状空間内に収まる長さdの線分光源に置き換えてみる。
【0095】
たとえば、図14は、図10に示す点光源P17,P18,P19を、それぞれ線分光源PP17,PP18,PP19に置き換えた例を示す。線分光源PP17,PP18,PP19は、いずれも長さdを有し、板状空間G1内にぴったり収まっている。各線分光源を、線光源に準じて取り扱えば、物体光は、図14における水平方向(XY平面に平行な方向)にのみ伝播することになるので、線分光源PP17,PP18,PP19からの物体光は、単位記録領域U1内にのみ到達することになる。もちろん、線分光源PP17,PP18,PP19からの物体光は、単位記録領域U1内のすべての演算点に必ずしも到達するわけではない。たとえば、図13に示すような伝播空間Sdが定義されていた場合、線分光源PP17からの物体光は、図13に示す線分光源QQ(αβγローカル座標系上の基準単位光源)を、図14に示す線分光源PP17(XYZグローバル座標系上の原画像を構成する1つの単位光源)の上に重ねたときの伝播空間Sdの内部のみに伝播するものとして、記録面20上での干渉縞強度演算が行われることになる。
【0096】
以上、原画像を構成する単位光源として、点光源の代わりに線分光源を用いた例を述べたが、単位光源としては、この他、面光源を用いることも可能である。たとえば、ポリゴンの集合体として定義された原画像を用いる場合、個々のポリゴンを面光源として取り扱うことが可能である。もちろん、この場合、伝播空間の定義も、面光源を基準として、射出される物体光の伝播が可能な空間の定義を行う必要がある。
【0097】
<<< §5. 参照光を設定しない実施形態 >>>
これまで述べた実施形態の場合、パターン演算段階において、原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光と参照光とに基づいて、記録面20上に形成される干渉縞パターンの演算を行っていた。しかしながら、「計算機合成ホログラム」の手法を利用して、記録面20上に原画像の情報をホログラムとして記録する場合、必ずしも干渉縞パターンとして記録する必要はない。別言すれば、参照光の設定は、必ずしも必要ではない。
【0098】
一般に、銀塩フィルムを用いた光学的なホログラム記録方法では、記録面となる銀塩フィルム上に干渉縞パターンとして原画像の記録を行う必要があるため、物体光の他に参照光を用意し、両者を干渉させる必要がある。しかしながら、理論的には、記録面上には、原画像から到達したすべての物体光を合成して得られる合成波の振幅と位相(複素振幅)の情報が記録されていれば、当該原画像を再生することが可能である。「計算機合成ホログラム」の手法を利用すれば、参照光の設定を行わずに、物体光から到達する光の振幅と位相に基づく演算を行うことにより、記録面20上に形成される複素振幅パターンを求めることができるので、この複素振幅パターンを、何らかの形で物理的な媒体上に形成することにより、ホログラム記録媒体を作成することが可能になる。
【0099】
すなわち、この§5で述べる実施形態では、図3の流れ図におけるステップS1「原画像準備段階」、ステップS2「伝播空間定義段階」、ステップS3「記録面設定段階」までは、これまで述べた実施形態と同じ手順を行うことになるが、ステップS4「参照光設定段階」は不要になる。
【0100】
また、ステップS5「パターン演算段階」では、干渉縞パターンを演算するのではなく、各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光を合成することにより記録面20上に形成される複素振幅パターンを演算することになる。もちろん、各単位光源からの物体光の取り扱いを行う際に、所定の伝播空間内にのみ伝播するものとして演算を行う点は、これまで述べてきた実施形態と全く同様である。
【0101】
複素振幅パターンの演算は、具体的には、次のようにして行えばよい。すなわち、原画像を構成する個々の点光源から射出された物体光を、A・exp(−iωt+iφ)なる複素数を用いた式(Aは振幅、ωは振動数、tは時間、φは位相、iは虚数単位)で表現し、特定の演算点Cの位置について、当該位置に到達するすべての物体光について上記式の総和を求めるようにすればよい。この総和を示す式も、やはり「A・exp(−iωt+iφ)」なる複素数を用いた式で表現され、複素振幅情報(振幅の情報と位相の情報)を示すものになる。したがって、記録面20上に、複素振幅パターン(振幅の値と位相の値の分布パターン)を得ることができる。
【0102】
もっとも、「A・exp(−iωt+iφ)」なる式は、時間tをパラメータとして含んでおり、振幅や位相は、時間によって変化する量である。したがって、実際には、ある特定のサンプリング時点を設定し(tに任意の値(たとえば0)を入れればよい)、当該サンプリング時点における記録面20上での複素振幅パターンを求めればよい。具体的には、記録面20上に多数の演算点を離散的に定義し、各演算点位置における所定サンプル時点での合成物体光の振幅および位相を求め、振幅および位相の離散的な分布として複素振幅パターンを求める処理を行えばよい。
【0103】
一方、ステップS6「パターン形成段階」では、干渉縞パターン(濃淡パターン)の代わりに、複素振幅パターンを物理的な媒体上に形成する必要がある。上述したように、複素振幅パターンは、振幅と位相との双方の情報をもったパターンであるので、物理的な媒体上の所定位置には、振幅のみならず位相も併せて記録する必要がある。しかも、この媒体に再生照明光を照射したときに、正しいホログラム再生像が得られるようにするためには、媒体に入射した再生照明光に対して、個々の位置に記録されていた振幅と位相に応じた光学的変調が行われるようにする必要がある。
【0104】
このように、複素振幅パターンを物理的な媒体上に形成する一方法として、本願発明者は、三次元構造をもった多数のセルを用いる方法を提案している。この方法では、要するに、記録面20上の個々の演算点位置のそれぞれに三次元構造体からなるセルを配置し、かつ、個々のセルの三次元構造に、当該セルに対応する演算点位置についての振幅および位相の情報が記録されるようにすればよい。個々のセルの具体的な三次元構造に関しては、たとえば、特開平2002−72837号公報(米国特許第6618190号・同第6934074号)などに開示されているので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0105】
<<< §6. 本発明に係る製造装置 >>>
最後に、本発明に係るホログラム記録媒体の製造装置の基本構成を図15および図16のブロック図を参照しながら説明する。図15に示す製造装置は、図3の流れ図に示すステップS1〜S6を実行するための装置であり、異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造する機能を有している。
【0106】
図15において、原画像格納部110は、ステップS1「原画像準備段階」で用意された原画像の情報を格納するための構成要素であり、複数N個の原画像を、それぞれXYZ三次元グローバル座標系上に配置された単位光源の集合を示すデータとして格納する機能を有している。また、伝播空間格納部120は、ステップS2「伝播空間定義段階」で定義された伝播空間の情報を格納するための構成要素であり、基準単位光源から射出した光の伝播が可能な伝播空間を、基準単位光源の位置を基準として示したデータ(αβγ三次元ローカル座標系上での立体を示すデータ)として、複数N通り格納する機能を有している。原画像格納部110も伝播空間格納部120も、実際には、コンピュータ用のデータ格納装置(各種メモリやハードディスク装置など)によって構成される。
【0107】
一方、記録面設定部130は、ステップS3「記録面設定段階」を実行するための構成要素であり、XYZ三次元座標系上に所定の記録面20を設定する処理を行う機能を有している。また、参照光設定部140は、ステップS4「参照光設定段階」を実行するための構成要素であり、XYZ三次元座標系上に所定の参照光Rを設定する処理を行う機能を有している。記録面設定部130も参照光設定部140も、実際には、コンピュータ用の入力機器と、設定処理用の専用プログラムによって実現することができる。
【0108】
パターン演算部150は、ステップS5「パターン演算段階」を実行するための構成要素であり、各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光と参照光Rとに基づいて、記録面20上に形成される干渉縞パターンを演算する処理を行う。このとき、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する単位光源からの物体光が、当該単位光源の位置を基準単位光源の位置としたときの第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内にのみ伝播するものとして演算を行うようにする点は、既に述べたとおりである。このパターン演算部150は、実際には、コンピュータに組み込まれた専用プログラムによって実現することができる。
【0109】
更に、パターン形成部160は、パターン演算部150によって求められた干渉縞パターンを、物理的な媒体上に形成する機能をもった構成要素である。具体的には、たとえば、電子線描画装置およびこれを制御するコンピュータによって、パターン形成部160を形成することができる。
【0110】
これに対して、図16に示す製造装置は、§5で述べた参照光を設定しない実施形態を行うための製造装置である。原画像格納部110,伝播空間格納部120,記録面設定部130は、図15に示す各構成要素と全く同じものである。ただ、この図16に示す装置には、参照光設定部140は存在しない。パターン演算部155は、§5で述べたとおり、各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光を合成することにより記録面20上に形成される複素振幅パターン(振幅と位相の分布パターン)を演算する処理を行う。また、パターン形成部165は、§5で述べたとおり、パターン演算部155によって求められた複素振幅パターンを物理的な媒体上に形成する処理を行う。
【0111】
実用上は、図15に一点鎖線で囲った構成要素(原画像格納部110,伝播空間格納部120,記録面設定部130,参照光設定部140,パターン演算部150)は、1台もしくは複数台の汎用コンピュータ170に専用の処理プログラムを組み込むことによって実現することができる。同様に、図16に一点鎖線で囲った構成要素(原画像格納部110,伝播空間格納部120,記録面設定部130,パターン演算部155)も、1台もしくは複数台の汎用コンピュータ175に専用の処理プログラムを組み込むことによって実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明に係る方法で製造されたホログラム記録媒体の観察態様を示す斜視図である。
【図2】図1に示すホログラム記録媒体の2通りの観察態様を示す平面図である。
【図3】本発明に係るホログラム記録媒体の製造方法の基本手順を示す流れ図である。
【図4】図3の流れ図における「S1:原画像準備段階」で準備された2組の原画像の一例を示す斜視図である。
【図5】図3の流れ図における「S2:伝播空間定義段階」で定義された2組の伝播空間の一例を示す斜視図である。
【図6】図3の流れ図における「S5:パターン演算段階」で行われる演算処理の概念を示す斜視図である。
【図7】図3の流れ図における「S2:伝播空間定義段階」で定義された2組の伝播空間の別な一例を示す上面図である。
【図8】原画像Iaを構成する各点光源から射出する光が、図7に示す伝播空間SSaに応じて広がる様子を示す上面図である。
【図9】原画像Ibを構成する各点光源から射出する光が、図7に示す伝播空間SSbに応じて広がる様子を示す上面図である。
【図10】三次元空間を複数の板状空間に分割し、各点光源から射出する光の広がりを1つの板状空間内のみに制限して干渉縞パターンの演算を行う概念を示す断面図である。
【図11】点光源Pに基づいて線分光源PPを作成する概念を示す図である。
【図12】点光源Qについて定義した伝播空間の一例を示す斜視図である。
【図13】線分光源QQについて定義した伝播空間の一例を示す斜視図である。
【図14】線分光源から構成される原画像についての干渉縞パターンの演算を行う概念を示す側面図である。
【図15】本発明に係るホログラム記録媒体の製造装置の基本構成を示すブロック図である。
【図16】本発明に係るホログラム記録媒体の製造装置の別な基本構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0113】
10:ホログラム記録媒体
20:記録面
110:原画像格納部
120:伝播空間格納部
130:記録面設定部
140:参照光設定部
150,155:パターン演算部
160,165:パターン形成部
170,175:コンピュータ
A:第1の再生像
B:第2の再生像
C:演算点
d:線分長
E1,E2:視点
Fa:第1の伝播空間の境界面
Fb:第2の伝播空間の境界面
G1〜G7:板状空間
H1〜H7:スライス平面
Ia:第1の原画像
Ib:第2の原画像
La:第1の原画像Iaからの物体光
Lb:第2の原画像Ibからの物体光
Lr:再生用照明光
O:XYZ座標系の原点
P:点光源
P11〜P19:第1の原画像Iaを構成する点光源
P21〜P26:第2の原画像Ibを構成する点光源
PP:線分光源
PP17〜PP19:線分光源
Q:基準単位光源/αβγ座標系の原点
Q′:変位点
QQ:基準単位光源(線分光源)
R:参照光
S1〜S6:流れ図の各ステップ
S14〜S16:グローバル座標系上の伝播空間
S24〜S26:グローバル座標系上の伝播空間
Sa,Sb,Sc,Sd:ローカル座標系上の伝播空間
SSa,SSb:ローカル座標系上の伝播空間
U1:単位記録領域
X,Y,Z:グローバル座標系の各座標軸
α,β,γ:ローカル座標系の各座標軸
θa,θb,θd:伝播空間を規定する角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造する方法であって、
複数N個の原画像を、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合として用意する原画像準備段階と、
基準単位光源から射出した光の伝播が可能な伝播空間を、前記基準単位光源の位置を基準として複数N通り定義する伝播空間定義段階と、
前記三次元座標系上に所定の記録面を設定する記録面設定段階と、
前記三次元座標系上に所定の参照光を設定する参照光設定段階と、
前記各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光と前記参照光とに基づいて、前記記録面上に形成される干渉縞パターンを演算するパターン演算段階と、
前記干渉縞パターンを物理的な媒体上に形成するパターン形成段階と、
を有し、
前記パターン演算段階において、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する単位光源からの物体光が、当該単位光源の位置を前記基準単位光源の位置としたときの第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内にのみ伝播するものとして演算を行うことを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、
パターン演算段階で、各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光を合成することにより合成物体光を求め、この合成物体光と参照光との干渉によって記録面上に得られる干渉縞パターンを演算することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法において、
パターン形成段階で、パターン演算段階によって得られた干渉縞パターンを二値画像パターンに変換し、物理的な媒体上に二値画像パターンを形成することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項4】
異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造する方法であって、
複数N個の原画像を、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合として用意する原画像準備段階と、
基準単位光源から射出した光の伝播が可能な伝播空間を、前記基準単位光源の位置を基準として複数N通り定義する伝播空間定義段階と、
前記三次元座標系上に所定の記録面を設定する記録面設定段階と、
前記各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光を合成することにより前記記録面上に形成される複素振幅パターンを演算するパターン演算段階と、
前記複素振幅パターンを物理的な媒体上に形成するパターン形成段階と、
を有し、
前記パターン演算段階において、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する単位光源からの物体光が、当該単位光源の位置を前記基準単位光源の位置としたときの第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内にのみ伝播するものとして演算を行うことを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法において、
パターン演算段階で、記録面上に多数の演算点を離散的に定義し、前記各演算点位置における所定サンプル時点での合成物体光の振幅および位相を求め、振幅および位相の離散的な分布として複素振幅パターンを求めることを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法において、
パターン形成段階で、個々の演算点位置のそれぞれに三次元構造体からなるセルを配置し、かつ、個々のセルの三次元構造に、当該セルに対応する演算点位置についての振幅および位相の情報が記録されるようにすることを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法において、
原画像準備段階で、空間的に一部重複する配置をもった複数の原画像を用意することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法において、
伝播空間定義段階で、複数N通りの伝播空間を、互いに、空間的に排他的領域となるように定義することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法において、
伝播空間定義段階で、複数N通りの伝播空間の一部もしくは全部を、他の伝播空間と空間的に一部重複する領域となるように定義することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法において、
伝播空間定義段階で、複数N通りの伝播空間の一部もしくは全部を、他の伝播空間と空間的に完全に一致する領域となるように定義することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法において、
単位光源として点光源を用い、伝播空間定義段階で、基準単位光源の位置を頂点とした錐形の伝播空間を定義することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法において、
原画像準備段階で、XYZ三次元座標系上に定義された点光源の集合として原画像を準備し、
伝播空間定義段階で、αβγ三次元座標系上の原点を頂点とした錐形の伝播空間を定義し、
パターン演算段階で、前記XYZ三次元座標系上に定義された点光源の位置に、前記αβγ三次元座標系の原点を置き、対応する各座標軸が平行になるように両座標系を重ね、前記点光源からの物体光が、前記錐形の伝播空間内にのみ広がるものとして演算を行うことを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法において、
単位光源として、多数の点光源を所定長の線分上に並べることにより構成された線分光源を用い、伝播空間定義段階で、前記線分光源を構成する個々の点光源の位置を頂点とした個々の錐形の幾何学的論理和からなる伝播空間を定義することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法において、
単位光源として線分光源を用い、各線分光源を中心軸とした円柱側面からなる波面を有し、前記中心軸に対して垂直方向に進行する物体光を定義することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の製造方法において、
パターン演算段階で、互いに平行な複数の平面でスライスすることにより、三次元空間を複数M個の板状空間に分割し、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する第j番目(j=1,2,…,M)の板状空間内の単位光源からの物体光が、第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内、かつ、第j番目(j=1,2,…,M)の板状空間内にのみ伝播するものとして演算を行うことを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項16】
異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造する方法であって、
複数の原画像を、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合として用意する原画像準備段階と、
前記三次元座標系上に所定の記録面を設定する記録面設定段階と、
前記三次元座標系上に所定の参照光を設定する参照光設定段階と、
前記各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光と前記参照光とに基づいて前記記録面上に形成される干渉縞パターンを演算するパターン演算段階と、
前記干渉縞パターンを物理的な媒体上に形成するパターン形成段階と、
を有し、
前記パターン演算段階において、各単位光源からの物体光の広がりに対して、当該単位光源が所属する原画像に応じた制限を加えた演算を行うことを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項17】
異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造する方法であって、
複数の原画像を、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合として用意する原画像準備段階と、
前記三次元座標系上に所定の記録面を設定する記録面設定段階と、
前記各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光を合成することにより前記記録面上に形成される複素振幅パターンを演算するパターン演算段階と、
前記複素振幅パターンを物理的な媒体上に形成するパターン形成段階と、
を有し、
前記パターン演算段階において、各単位光源からの物体光の広がりに対して、当該単位光源が所属する原画像に応じた制限を加えた演算を行うことを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載の製造方法により製造されたホログラム記録媒体。
【請求項19】
異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造する装置であって、
複数N個の原画像を、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合を示すデータとして格納する原画像格納部と、
基準単位光源から射出した光の伝播が可能な伝播空間を、前記基準単位光源の位置を基準として示したデータとして、複数N通り格納する伝播空間格納部と、
前記三次元座標系上に所定の記録面を設定する記録面設定部と、
前記三次元座標系上に所定の参照光を設定する参照光設定部と、
前記各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光と前記参照光とに基づいて、前記記録面上に形成される干渉縞パターンを演算するパターン演算部と、
前記干渉縞パターンを物理的な媒体上に形成するパターン形成部と、
を備え、
前記パターン演算部が、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する単位光源からの物体光が、当該単位光源の位置を前記基準単位光源の位置としたときの第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内にのみ伝播するものとして演算を行うことを特徴とするホログラム記録媒体の製造装置。
【請求項20】
異なる位置から観察したときに、異なる原画像が再生される構成をもったホログラム記録媒体を製造する装置であって、
複数N個の原画像を、それぞれ三次元座標系上に配置された単位光源の集合を示すデータとして格納する原画像格納部と、
基準単位光源から射出した光の伝播が可能な伝播空間を、前記基準単位光源の位置を基準として示したデータとして、複数N通り格納する伝播空間格納部と、
前記三次元座標系上に所定の記録面を設定する記録面設定部と、
前記各原画像を構成する個々の単位光源から射出された物体光を合成することにより前記記録面上に形成される複素振幅パターンを演算するパターン演算部と、
前記複素振幅パターンを物理的な媒体上に形成するパターン形成部と、
を備え、
前記パターン演算部が、第i番目(i=1,2,…,N)の原画像に所属する単位光源からの物体光が、当該単位光源の位置を前記基準単位光源の位置としたときの第i番目(i=1,2,…,N)の伝播空間内にのみ伝播するものとして演算を行うことを特徴とするホログラム記録媒体の製造装置。
【請求項21】
請求項19に記載されたホログラム記録媒体の製造装置における原画像格納部、伝播空間格納部、記録面設定部、参照光設定部およびパターン演算部としてコンピュータを機能させるプログラム、または、請求項20に記載されたホログラム記録媒体の製造装置における原画像格納部、伝播空間格納部、記録面設定部およびパターン演算部としてコンピュータを機能させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−333924(P2007−333924A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164331(P2006−164331)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】