説明

ホログラム記録層形成用組成物及びそれを用いたホログラム光記録媒体

【課題】青紫色半導体レーザーに対して感度に優れたホログラム記録層形成用組成物と回折効率に優れたホログラム光記録媒体を提供すること。
【解決手段】一般式(A)〜(D)で表されるスクアリリウム化合物イオンと、水素イオン又は遷移金属イオンとからなるスクアリリウム化合物を含有する増感剤とそれを用いて作製したホログラム光記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクアリリウム化合物を含有することを特徴とするホログラム記録層形成用組成物及びホログラム光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光記録媒体のさらなる大容量化、高密度化に向けて、光の干渉による光強度分布に応じて記録層の屈折率を変化させ、ホログラムとして情報を記録するホログラム方式の光記録媒体が開発されている。
【0003】
ホログラムは、物体を三次元で記録でき、高い回折効率、波長選択性を有すること、高度な製造技術が必要である。ホログラム記録は、コヒーレンス性が高く、波長が等しい物体光と参照光とを干渉させて、ホログラム光記録媒体に入射し、物体に関する三次元情報を材料内部に干渉縞として記録することができる。この干渉縞は、干渉光の明暗部分に対応した屈折率変調として記録される。
【0004】
ホログラム光記録媒体は、一般的に樹脂マトリックス、増感剤、光重合開始剤の基本組成からなり、高回折効率と乾式処理を両立できうる実用的で有望な方式であるが、記録に際しての高い感度、十分な回折効率、高S/N比を有し、高い多重度を達成するものが求められており、さらに記録信号の安定性や信頼性に優れるものが望まれている(特許文献1〜3)。
【0005】
ホログラム光記録媒体への記録時には、干渉露光を行うための増感剤が必須である。ホログラム記録に青紫色半導体レーザーを使用する場合、増感剤として該波長領域即ち340〜450nmの範囲に吸収を持つものを用いることが好ましい。このような増感剤としては、ベンゾフェノン系化合物、クマリン系化合物等が挙げられるが、感度が低い問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−43862号公報
【特許文献2】特表2005−502918号公報
【特許文献3】特開2004−158117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、青紫色半導体レーザーに対して感度に優れたホログラム記録層形成用組成物と回折効率に優れたホログラム光記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討をした結果、一般式(A)〜(D)で表されるスクアリリウム化合物イオンと、水素イオン又は遷移金属イオンとからなるスクアリリウム化合物を含有する増感剤とそれを用いて作製したホログラム光記録媒体が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0010】
第一の発明は、増感剤として下記一般式(A)〜(D)で表されるスクアリリウム化合物イオンと、水素イオン又は遷移金属イオンとからなるスクアリリウム化合物を含有することを特徴とするホログラム記録層形成用組成物である。
【0011】
【化1】

(式(A)中、R〜Rは、同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示し、RとR、RとR、RとR、RとRは連結して炭化水素環を形成してもよい。)
【0012】
【化2】

(式(B)中、Rは、水素又は置換基を有してもよいアルキル基であり、R〜R11は、同一又は異なっても良い水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示し、RとR、R10とR11は連結して炭化水素環を形成してもよい。)
【0013】
【化3】

(式(C)中、R12〜R14は、同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示す。)
【0014】
【化4】

(式(D)中、R15〜R19は、同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示し、XはO、S、N−R20、C−R2122(R20〜R22は同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示す。)を示す。)
【0015】
第二の発明は、光重合開始剤を含有することを特徴とする第一の発明に記載のホログラム記録層形成用組成物である。
【0016】
第三の発明は、樹脂マトリックスを含有することを特徴とする第一又は第二の発明に記載のホログラム記録層形成用組成物である。
【0017】
第四の発明は、第一から第三の発明のいずれかに記載のホログラム記録層形成用組成物を含有する層を備えることを特徴とするホログラム光記録用媒体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、一般式(A)〜(D)で表されるスクアリリウム化合物イオンと、水素イオン又は遷移金属イオンとからなるスクアリリウム化合物を増感剤に用いることで、回折効率に優れたホログラム光記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のホログラム記録層形成用組成物について説明する。
【0020】
(スクアリリウム化合物)
本発明の増感剤は、一般式(A)〜(D)で表されるスクアリリウム化合物イオンと、水素イオン又は遷移金属イオンとからなるスクアリリウム化合物である。
【0021】
【化5】

【0022】
一般式(A)中、R〜Rは、同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示し、RとR、RとR、RとR、RとRは連結して炭化水素環を形成してもよい。
【0023】
【化6】

【0024】
一般式(B)中、Rは、水素又は置換基を有してもよいアルキル基であり、R〜R11は、同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示し、RとR、R10とR11は連結して炭化水素環を形成してもよい。
【0025】
【化7】

【0026】
一般式(C)中、R12〜R14は、同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示す。
【0027】
【化8】

【0028】
一般式(D)中、R15〜R19は、同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示し、XはO、S、N−R20、C−R2122(R20〜R22は同一又は異なっても良い水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示す。)を示す。
【0029】
遷移金属イオンとしては、ニッケルイオン、鉄イオン、銅イオン、コバルトイオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン等が挙げられ、特にニッケルイオンが好ましく挙げられる。
【0030】
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくはフッ素原子が挙げられる。
【0031】
上記置換基を有してもよいアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基等の炭素数1〜20の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられ、炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基が好ましく挙げられる。
【0032】
上記ハロゲン化アルキル基において、炭素数は1〜12の直鎖又は分岐のハロゲン化アルキル基である。ハロゲン化アルキル基のハロゲン原子としては、スクアリリウム化合物の感度や樹脂との相溶性を向上させる効果に優れる点から、特にフッ素原子、すなわちフッ化アルキル基が好ましい。
【0033】
上記フッ化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、4,4,4−トリフルオロブチル基、5,5,5−トリフルオロペンチル基、6,6,6−トリフルオロヘキシル基、8,8,8−トリフルオロオクチル基、2−メチル−3,3,3−トリフルオロプロピル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、ペルフルオロブチル基、ペルフルオロヘキシル基、ペルフルオロオクチル基、2−トリフルオロメチル−ペルフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0034】
上記シアノアルキル基としては、炭素数1〜10の直鎖又は分岐のシアノアルキル基であることが好ましく、置換されているシアノ基の数は、1〜3個が好ましい。特に好ましくは、プロピオニトリル基、ブチロニトリル基、ペンチルニトリル基、1−メチルプロピオニトリル基、1−メチルブチロニトリル基等が挙げられる。
【0035】
上記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、2ーメトキシエトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシブチル基、メトキシヘキシル基、メトキシオクチル基、エトキシエチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、エトキシブチル基、エトキシヘキシル基、エトキシオクチル基、プロポキシメチル基、プロポキシプロピル基、プロポキシヘキシル基、ブトキシエチル基等の炭素数1〜18の直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられる。
【0036】
上記フェニルアルキル基としては、アルキル基の炭素数が1〜8のものが好ましく、フェニル基は置換基を有してもよく、アルキル基、水酸基、スルホン酸基、アルキルスルホン酸基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基及びハロゲンからなる群から少なくとも1種の置換基を有してもよい。また、フェニルアルキル基として、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニル−α−メチルプロピル基、フェニル−β−メチルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基等が挙げられる。
【0037】
上記アルキルスルホン酸基としては、炭素数1〜6個のアルキルスルホン酸基が好ましい。具体例としては、メチルスルホン酸基、エチルスルホン酸基、プロピルスルホン酸基等が挙げられる。
【0038】
スクアリリウム化合物イオンの具体例(化学式(1)〜(24))を以下に示す。
【0039】
【化9】

【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
スクアリリウム化合物は、ホログラム記録時における感光性性能を増幅するために必要である。本発明の増感剤としてスクアリリウム化合物を用いたホログラム記録層形成用組成物は、有機溶媒に対する溶解性が良好であり、該組成物を用いたホログラム用光記録媒体は回折効率に優れる特徴を有している。
【0043】
遷移金属イオンを用いる場合は、スクアリリウム化合物イオンからなる群より選ばれる2種を選択し、遷移金属錯体塩として用いることが出来る。2種類は同一でも異なっても良い。異なるスクアリリウム化合物イオンを選択した場合は溶解度が向上する特徴を有する。
【0044】
<樹脂マトリックス>
本発明のホログラム記録層形成用組成物には、樹脂マトリックスを含むことができる。この樹脂マトリックスとしては、溶剤に溶解可能な樹脂又は三次元架橋させた樹脂が挙げられる。
【0045】
溶剤に溶解可能な樹脂としては、塩化ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、アセチルセルロース等が挙げられ、特にポリメチルメタクリレートが好ましく挙げられる。
【0046】
三次元架橋させた樹脂は、物理的な障害となるため、記録時における体積変化を抑制する。記録層では、明部は膨張し、暗部は収縮しホログラム光記録媒体表面に凹凸が生じてしまう問題がある。この体積変化を抑制するために、記録層には三次元架橋させた樹脂を用いるのが好ましい。
【0047】
<光重合開始剤>
本発明に用いる光重合開始剤としては、光照射によって重合又は二量化反応が進行し、ホログラム記録用組成物中で拡散移動できる化合物であれば使用可能であり、例えば、光ラジカル重合、光カチオン重合、光アニオン重合のような重合反応及び光二量化を経て進行する重合などの反応形式により反応が進行するものが挙げられる。
【0048】
重合反応による干渉縞記録に用いる光重合開始剤としては、ケトン系、有機過酸化物系、トリハロメチル置換トリアジン系、ジアゾニウム塩系、ジアリールヨードニウム塩系、スルホニウム塩系、ホウ酸塩系、ジアリールヨードニウム有機ヨウ素錯体系、スルホニウム有機ホウ素錯体系、金属アレーン錯体系、スルホン酸エステル系、ビスイミダゾール系、メルカプトベンゾチアゾール系のいずれかのラジカル発生機能を有するものが挙げられる。特に、3,3’,4,4’,−テトラ−t−ブチルパーオキシカルボニルベンゾフェノン(BTTB)が感度の向上の点で優れている。
【0049】
本発明のホログラム記録層形成用組成物は、更にバインダー樹脂又は熱硬化性化合物を含有していてもよい。該組成物にバインダー樹脂を配合することによって、乾式型のホログラム記録層形成用組成物として利用しやすくなる。また、熱硬化性化合物を配合したホログラム記録層形成用組成物からなるホログラム記録部は、干渉露光後の加熱処理によって定着が行われ、かつ、干渉露光時に生じる強酸により光重合性化合物が架橋し、屈折率が高くなり、屈折率変調が増強される。
【0050】
バインダー樹脂としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−エトキシスチレン、p−クロロスチレン、p−ブロモスチレンなどの重合可能なスチレン誘導体、ビニルピロリドン、アクリルアミド、アクリロニトリル、ビニル−n−ブチルエーテルなどのビニルアルコールのエステル類、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルエステル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、α−ブロモ(メタ)アクリル酸、α−クロル(メタ)アクリル酸、β−フリル(メタ)アクリル酸、β−スチリル(メタ)アクリル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノイソプロピルなどのマレイン酸モノエステル、フマール酸、ケイ皮酸、α−シアノケイ皮酸、イタコン酸、クロトン酸、プロピオール酸等の重合体が挙げられる。
【0051】
<添加剤>
ホログラム記録層形成用組成物には、添加剤を含有させてもよい。
【0052】
添加剤としては、分散剤、消泡剤、可塑剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を任意の組み合わせで使用してもよい。
これらの添加剤の使用量は、ホログラム記録層形成用組成物中に、0.001〜30質量%が好ましく、0.01〜10質量%が特に好ましく挙げられる。
【0053】
<ホログラム光記録媒体>
本発明のホログラム光記録媒体は、ホログラム記録層形成用組成物を溶剤に溶解させて塗工液として、基材フィルム上に塗布し、乾燥させることによって得ることができる。
【0054】
上記溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、酢酸エチル、1,4−ジオキサン、1,2−ジクロロエタン、ジクロルメタン、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。
【0055】
塗工液を塗布する基材フィルムとしては、ポリエチレンフイルム、ポリプロピレンフイルム、ポリフッ化エチレン系フィルム、ポリフッ化ビニリデンフイルム、ポリ塩化ビニルフイルム、ポリ塩化ビニリデンフイルム、エチレン−ビニルアルコールフイルム、ポリビニルアルコールフイルム、ポリメチルメタクリレートフイルム、ポリエーテルスルホンフイルム、ポリエーテルエーテルケトンフイルム、ポリアミドフイルム、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合フィルム、ポリエチレンテレフタレートフイルム等のポリエステルフイルム、ポリイミドフイルム等の樹脂が挙げられる。
【0056】
ホログラム光記録媒体において、塗工液を乾燥させることにより得られるホログラム記録層の厚みは1〜100μmの範囲にあることが望ましく、より望ましくは5〜40μmの範囲である。
また、基材フィルムの厚さは、透明性を確保する観点から膜厚が2〜200μmの範囲にあることが望ましく、より望ましくは10〜50μmの範囲である。
【0057】
塗工液を基材上に塗布する方法としては、スピンコーター、グラビアコーター、コンマコーター、バーコーター等の方法を用いることができる。また、塗工液の粘度が低い場合は、例えば一対の基板(例えばガラス板等)の間に塗工液を挟み込み、この一対の基板の周囲を封止してホログラム光記録媒体を作製することができる。
【0058】
乾燥後のホログラム記録層に粘着性がある場合、一対の基板の間に塗工液を挟みこむ方法以外に、保護フィルムにより基材フィルム及びホログラム記録層をラミネートすることも可能である。
【0059】
ホログラム光記録媒体にホログラムを記録する方法としては、従来から知られている様々な方法を用いることができ、例えば、ホログラム光記録媒体のホログラム記録層に原版を密着させ、透明基材フィルム側から可視光又は紫外光や電子線のような電離放射線を用いて干渉露光を行うことによりホログラムを記録する方法を好適に用いることができる。また、媒体がガラスやフィルムに挟まれている場合においては、原版とガラス又はフィルムの間にインデックスマッチング液を介して密着させ、原版とは反対の側からホログラム記録層にレーザー光を入射し、この入射レーザー光と原版から反射するレーザー光との干渉を用いて記録する方法、レーザー光を二方向に分割し、一方を直接ホログラム記録層に入射し、他方を記録したい物体に入射し、物体からの反射光と直接入射光との干渉により記録する方法、一般的にコリニア方式と呼ばれているデータ光と参照光を同一方向から照射し、干渉光として体積方向に記録する方法を用いることができる。
【0060】
本発明におけるホログラムの記録に用いられる光としては、青紫色半導体レーザー(405nm))を好適に用いることができる。また、屈折率変調の促進、重合反応完結のために、干渉露光後、紫外線による全面露光や加熱等の処理を適宜行うことも好適である。
【0061】
<ホログラムの記録メカニズム>
ホログラム光記録媒体を用いたホログラムの記録メカニズムを説明する。フィルム状に形成されたホログラム光記録媒体をレーザーにより干渉露光すると、光が強い部分にて光カチオン重合が開始され、それに伴い、光カチオン重合性化合物の濃度勾配ができ、光が弱い部分から光が強い部分に当該光カチオン重合性化合物の拡散移動が起こる。その結果、干渉光の強弱に応じて、光カチオン重合性化合物の疎密ができ、屈折率差として現れるため、ホログラムを記録することができるようになるのである。
【0062】
また、ホログラム光記録媒体中にバインダー樹脂が含まれる場合、光カチオン重合性化合物とバインダー樹脂との屈折率差により、ホログラムを記録することができる。バインダー樹脂の含有の有無にかかわらず、レーザーによる干渉露光後の加熱により屈折率変調を促進することができるが、特に、バインダー樹脂を含有する場合には、加熱温度をバインダー樹脂のガラス転移温度付近にすることにより、よりモノマー移動を促進し、屈折率変調量を増加させることができる。
【0063】
本発明のホログラム光記録媒体は感度及び光退色性等に優れる。光退色性はホログラムの多重記録を行うのに有用な特性である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。なお、本発明は本実施例によりなんら限定されない。実施例中の「%」は「質量%」を表す。
【0065】
<スクアリリウム化合物の合成>
本実施例で用いたスクアリリウム化合物(化合物(a)〜(j))を表1にまとめた。
【0066】
【表1】

【0067】
(スクアリリウム化合物(a)の製造)
冷却管を付けた三ッ口フラスコに3,4−ジクロロ−3−シクロブテン−1,2−ジオン5.0部と、N,N−ジブチルアニリン4.6部を入れ、そこに脱水トルエン80部を加え、24時間室温にて撹拌した。反応終了後、NaHCO水溶液で洗浄、トルエンにより抽出し溶媒を減圧留去した。得られた固体を減圧ろ過にて濾取し、ヘキサン洗浄後、減圧乾燥して3−クロロ−4−〔4−(N,N−ジブチルアミノ)フェニル〕3−シクロブテン−1,2−ジオン5.5部を得た。
【0068】
冷却管を付けた三ッ口フラスコに、3−クロロ−4−〔4−(N,N−ジブチルアミノ)フェニル〕3−シクロブテン−1,2−ジオン5.5部と酢酸:水=4:1混合溶液50部を入れ、100℃にて5時間加熱撹拌した。反応後、室温まで冷却し、析出した固体を減圧ろ過にて濾取した。水で洗浄後、減圧乾燥してスクアリリウム化合物(a)4.1部を得た。
【0069】
(スクアリリウム化合物(b)の製造)
スクアリリウム化合物(a)の製造方法において、N,N−ジブチルアニリンをN、N−ジメチル−1−ナフチルアミンに代えた以外は、スクアリリウム化合物(a)の製造方法と同様にしてスクアリリウム化合物(b)を得た。
【0070】
(スクアリリウム化合物(c)の製造)
冷却管を付けた三ッ口フラスコに3,4−ジクロロ−3−シクロブテン−1,2−ジオン12.3部と、無水塩化アルミニウム10.9部を入れ、そこに無水クロロホルム100mlを入れ、窒素雰囲気下で室温攪拌した。そこに、無水クロロホルム20mlに溶解したアニソール10.0部を室温滴下した。滴下終了後、10時間加熱攪拌した。反応終了後、10℃以下に冷却した状態で水を100ml加えたのち、有機層を水で洗浄し、溶媒を減圧留去した。得られた固体を減圧ろ過にて濾取し、トルエン洗浄後、減圧乾燥して3−クロロ−4−(p−メトキシ−フェニル)−シクロブタ−3−エン−1,2−ジオン11.6部を得た。
冷却管を付けた三ッ口フラスコに、3−クロロ−4−(p−メトキシ−フェニル)−シクロブタ−3−エン−1,2−ジオン11.6部と酢酸:水=1:1混合溶液200部を入れ、100℃にて8時間加熱撹拌した。反応後、室温まで冷却し、溶媒を減圧除去し、析出した固体を減圧ろ過にて濾取した。水で洗浄後、減圧乾燥してスクアリリウム化合物(c)8.6部得た。
【0071】
(スクアリリウム化合物(d)の製造)
三ッ口フラスコに3,4−ジメトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン6.2部と、3−メチル−1−(3−プロピル)−5−ピラゾロン(ランカスター社製)7.6部を入れ、そこにメタノール500mlを入れて室温攪拌した。そこに、無水炭酸カリウム5.9部を加えて5時間室温攪拌した。反応終了後、固体をろ過し、メタノールで洗浄した。得られた固体に水200mlと炭酸カリウム2.7部を加えて、50℃にて2時間加熱攪拌した。反応終了後、塩酸500ml中に注ぎ入れ析出した固体をろ過した。水で洗浄した後、減圧乾燥してスクアリリウム化合物(d)4.3部を得た。
【0072】
(スクアリリウム化合物(e)の製造)
スクアリリウム化合物(d)の製造方法において、N−エチル−2−メチルチアゾリウムアイオダイドに代えた以外は、スクアリリウム化合物(d)の製造方法と同様にしてスクアリリウム化合物(e)を得た。
【0073】
(スクアリリウム化合物(f)の製造)
スクアリリウム化合物(a)4.1部と酸ニッケル・4水和物4.0部を、冷却管を付けた三ッ口フラスコに入れ、そこにTHF100部を加え、60℃にて4時間加熱撹拌した。反応後、室温まで冷却し、析出した固体を減圧ろ過にて濾取した。水で洗浄後、減圧乾燥して3−ヒドロキシ−4−〔4−(N-メチル−N-ブチルアミノ)フェニル〕3−シクロブテン−1,2−ジオン−ニッケル錯体(スクアリリウム化合物(f))8.3部を得た。
【0074】
(スクアリリウム化合物(g)の製造)
スクアリリウム化合物(a)を(b)に代えた以外は、スクアリリウム化合物(f)と同様の方法によってスクアリリウム化合物(g)を得た。
【0075】
(スクアリリウム化合物(h)の製造)
スクアリリウム化合物(a)を(c)に代えた以外は、スクアリリウム化合物(f)と同様の方法によってスクアリリウム化合物(h)を得た。
【0076】
(スクアリリウム化合物(i)の製造)
スクアリリウム化合物(a)を(d)に代えた以外は、スクアリリウム化合物(f)と同様の方法によってスクアリリウム化合物(i)を得た。
【0077】
(スクアリリウム化合物(j)の製造)
スクアリリウム化合物(a)を(e)に代えた以外は、スクアリリウム化合物(f)と同様の方法によってスクアリリウム化合物(j)を得た。
【0078】
実施例1〜10はスクアリリウム(a)〜(j)を用い、比較例1、2はベンゾフェノン化合物、クマリン化合物を用いた。比較例に用いた化合物を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
(実施例1)
(ホログラム光記録媒体の作製と評価)
ペンタエリスリトリアクリレート70部、ネオペンチルグリコールジアクリレート30部、セバシン酸ジエチル50部、3,3’、4,4’−テトラキス(t−ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン5部、スクアリリウム化合物(a)0.15部混合させ、ホログラム記録層形成用組成物を得た。
2枚のガラス板に厚さ25μmのPETフィルムからなるスペンサーと共に、得られたホログラム記録層形成用組成物を挟みこんだ。空気が入らないように周囲をテープで止め、ホログラム光記録媒体を得た。
【0081】
得られたホログラム光記録媒体を、ホログラム評価装置(「SHOT−500B」、パルステック社製)を用い、青紫色レーザー(405nm)を用いて、二光束干渉法によるホログラム記録を実施した。光強度5mW、露光量10mJ/cmの条件で記録して評価した。
【0082】
(実施例2〜10、比較例1、2)
実施例2〜10、比較例1、2は、実施例1のスクアリリウム化合物(a)を、表に対応するスクアリリウム(b)〜(j)、ベンゾフェノン化合物、クマリン化合物に代えた以外は、実施例1と同様にして作製し、評価した。
【0083】
ホログラム記録層形成用組成物のトルエンにおける溶解度とホログラム光記録媒体の評価結果を表3に示す。
【0084】
【表3】

【0085】
表3より、実施例1〜10の方が、回折効率が高く、良好なホログラム記録ができることがわかった。トルエンにおける溶解度にも優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のホログラム記録層形成用組成物及びホログラム光記録媒体は、各種用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増感剤として下記一般式(A)〜(D)で表されるスクアリリウム化合物イオンと、水素イオン又は遷移金属イオンとからなるスクアリリウム化合物を含有することを特徴とするホログラム記録層形成用組成物。
【化1】

(式(A)中、R〜Rは、同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示し、RとR、RとR、RとR、RとRは連結して炭化水素環を形成してもよい。)
【化2】

(式(B)中、Rは、水素又は置換基を有してもよいアルキル基であり、R〜R11は、同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示し、RとR、R10とR11は連結して炭化水素環を形成してもよい。)
【化3】

(式(C)中、R12〜R14は、同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示す。)
【化4】

(式(D)中、R15〜R19は、同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示し、XはO、S、N−R20、C−R2122(R20〜R22は同一又は異なってもよい水素、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン化アルキル基、シアノアルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、アルキルスルホン酸基を示す。)を示す。)
【請求項2】
光重合開始剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のホログラム記録層形成用組成物。
【請求項3】
樹脂マトリックスを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のホログラム記録層形成用組成物。
【請求項4】
請求項1から3に記載のホログラム記録層形成用組成物を含有する層を備えることを特徴とするホログラム光記録用媒体。

【公開番号】特開2011−186011(P2011−186011A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48497(P2010−48497)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】