説明

ホース補強用ポリエステル繊維コード

【課題】EPDM系ゴムとの接着性が良好であり、かつ、ホース製造時の工程通過性を改善し、かつ柔軟なホース補強用ポリエステル繊維コードを提供する。
【解決手段】ポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維に、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む処理剤を付与してなるホース補強用ポリエステル繊維コードであって、該RFL処理剤が下記要件を満たすことを特徴とするホース補強用ポリエステル繊維コード。
(A)R/F=1/0.5〜1/3 (モル比)(B)RF/L=1/3〜1/15 (重量比)(C)P/RFL=1/1〜1/5 (重量比) (D)RFの熟成時間:4〜8時間

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホース補強用ポリエステル繊維コードに関する。詳しくは、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴム配合物(以下、「EPDM系ゴム」という)との接着性が良好であり、かつ、ホース製造時の工程通過性、すなわち、ポリエステル繊維コード表面のRFLの脱落を改善したホース補強用ポリエステル繊維コードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレンテレフタレート繊維で代表されるポリエステル繊維は、強度、モジュラスが大きく、伸度、クリープが小さく、かつ耐疲労性に優れている等の物理的特性を有しており、ゴムホース用の補強用繊維として従来から使用されている。ところが、ポリエステル繊維自身の表面が不活性なことから、ゴムとの接着性に乏しいという問題を有している。また、近年、自動車ブレーキホースに使用されるホース分野においては、高温特性に優れたEPDM系ゴムが主に使用されているが、該ゴムは、化学構造に二重結合が少なく、反応性に乏しいという問題を有している。このため、ポリエステル繊維コードとEPDM系ゴムとの接着性を改良する手法が種々検討されている。
【0003】
一方で、接着剤処理が施された繊維コードを複数本引き揃えてホース形状にブレードする際、接着剤処理されたコードがガイド類と摩擦する際に、接着剤の脱落、ガイド類への付着、飛散が生じ、生産性や作業環境を損なうという問題も提起されている。
【0004】
さらには、繊維コードをブレーキホースなどの補強用として用いる場合は、耐疲労性、ホース装着時の作業性、振動吸収性等の観点から、柔軟な繊維コードであることが要求される。
【0005】
上記問題を解決する試みとして、特許文献1にはレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスおよびフェノール系化合物を一定の範囲で混合させた接着剤で処理する手法が開示されている。また、特許文献2にはポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維をレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスおよびクロロフェノール化合物を含む第2処理剤で処理する手法が開示されている。さらに、特許文献3にはポリエステル繊維をポリエポキシド化合物を含む第1処理剤で処理した後、特定の組成のレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスおよびクロロフェノール化合物を含む第2処理剤で処理する手法が開示されている。また、特許文献4には予めポリエポキシド化合物を含む処理剤で処理したポリエステル繊維を、ポリブタジエンゴムラテックスを必須成分とするレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスを含む処理剤で処理する手法が開示されている。しかし、これら手法によっても、EPDM系ゴムとの接着性、製造工程での良好な工程通過性、柔軟性を同時に満足するホース補強用ポリエステル繊維コードは得られないのが現状であった。
【特許文献1】特開昭58−19375号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平7−331583号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平11−286875号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平11−286876号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴム配合物(EPDM系ゴム)との接着性が良好であり、かつ、ホース製造時の工程通過性(ポリエステル繊維コード表面のRFLの脱落)を改善し、かつ柔軟なホース補強用ポリエステル繊維コードを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明は、ポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維に、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変性レゾルシン(P)を含む処理剤を付与してなるホース補強用ポリエステル繊維コードであって、該処理剤が下記要件をすべて満たすことを特徴とするホース補強用ポリエステル繊維コードである。
(A)R/F=1/0.5〜1/3 (モル比)
(B)RF/L=1/3〜1/15 (重量比)
(C)P/RFL=1/1〜1/5 (重量比)。
(D)RFの熟成時間:4〜8時間
(式中、Rはレゾルシン量、Fはホルマリン量、Lはゴムラテックス量、Pはクロロ変性レゾルシン量、RFはレゾルシン・ホルマリン量、RFLはレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス量を表す。)
【0008】
なお、本発明のホース補強用ポリエステル繊維コードにおいて、以下の(1)〜(3)が好ましい条件であり、これらの条件の適応により、さらに優れた効果を期待することができる。
(1)前記処理剤に含まれるゴムラテックスが、エチレン系不飽和酸変性ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス(変性VP)と、ポリブタジエンゴムラテックス(PB)を含むものであり、かつ変性VP/PB=90/10〜50/50(乾燥重量比)であること。
(2)ガーレー曲げ剛軟度が500〜2000mgであること。
(3)前記ホース補強用ポリエステル繊維コードが、自動車ブレーキホース用であること。
【0009】
すなわち、本発明は、接着剤成分を一定の範囲に制御すること、およびRFLの熟成時間を比較的長時間に設定することによって、従来ホース補強用ポリエステル繊維コードにおいてどうしても達成できなかった、EPDM系ゴムとの接着性、製造工程での良好な工程通過性、柔軟性の全ての特性を同時に満足することを可能にしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴム配合物(EPDM系ゴム)との接着性が良好であり、かつ、ホース製造時の工程通過性(ポリエステル繊維コード表面のRFLの脱落)を改善し、かつ柔軟なホース補強用ポリエステル繊維コードを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のホース補強用ポリエステル繊維コード(以下コードと称す)は、自動車用ホース、特に自動車ブレーキホース用途として、産業上実用的なコードを創出すべく、鋭意検討した結果、EPDM系ゴムとの良好な接着性、ホース製造時のコードからのRFL接着剤の脱落の少ない良好な工程通過性、ホース成型に有利となる柔軟性を兼ね備えたホース補強用ポリエステル繊維コードを得るに至ったものである。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明で使用されるポリエステル繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするジカルボン酸とグリコールからなるポリエステルをいう。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。また、グリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。上記ジカルボン酸成分の一部を、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、スルホン酸金属置換イソフタル酸などで置き換えてもよく、また、上記のグリコール成分の一部を、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、およびポリアルキレングリコールなどに置き換えても良い。これらの中でも、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、グリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールからなる、ポリエチレンテレフタレートが好適である。このポリエステルには、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸などの各種無機粒子や架橋高分子粒子、各種金属粒子などの粒子類のほか、従来からある抗酸化剤、金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、ワックス類、シリコーンオイル、各種界面活性剤などが添加されていてもよい。
【0014】
また、ブレーキホースとして使用される場合には、繊維の固有粘度が0.85以上のものが好ましい。繊維の固有粘度が0.85以上である場合には、ホース補強用途として十分な強度が得られ、実用的なレベルのホース破裂圧を発現することができる。また動的粘弾性測定装置を用い周波数11Hzで測定したときの損失正接(tanδ)の温度分散に現れる主分散の極大値温度が130℃以上、より好ましくは140℃以上であるポリエステル繊維であることが好ましい。損失正接(tanδ)の主分散が前記範囲にある場合には、ブレーキフルードが繊維に触れるような場合においても、ポリエステル中へのブレーキフルードの防錆剤等が拡散することが抑制され、劣化の少ないホースを得ることができる。
【0015】
本発明において使用するポリエポキシド化合物は、一分子中に少なくとも2個以上のエポキシ基を、ポリエポキシド化合物100gあたり0.1g当量以上含有する化合物を挙げることができる。具体的には、ペンタエリスリトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ソルビトールなどの多価アルコール類とエピクロルヒドリンの如きハロゲン含有エポキシド類との反応生成物、過酸化または過酸化水素などで不飽和化合物を酸化して得られるポリエポキシド化合物、すなわち、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキセンカルボキリレート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチル−シクロヘキシルメチル)アジペート、フェノールノボラック型、ハイドロキノン型、ビフェニル型、ビスフェノールS型、臭素化ノボラック型、キシレン変性ノボラック型、フェノールグリオキザール型、トリスオキシフェニルメタン型、トリスフェノールPA型、ビスフェノール型のポリエポキシド等の芳香族ポリエポキシド等が挙げられる。特に好ましいのは、ソルビトールグリシジルエーテル型やクレゾールノボラック型のポリエポキシドである。
【0016】
これらの化合物は、通常は乳化液として使用されるが、乳化液、又は溶液にするには、ポリエポキシド化合物をそのままか、もしくは必要に応じて少量の溶媒に溶解したものを公知の乳化剤、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物等を用いて乳化、又は溶解して用いることもできる。
【0017】
本発明において使用するポリエポキシド化合物は、通常、ポリエステル繊維の製糸工程において紡糸油剤と共に付与される。この際のポリエポキシド化合物の付着量は、通常、ポリエステル繊維100重量部に対して0.1〜5重量部の範囲であることが好ましい。ポリエポキシド化合物の付着量が0.1重量部未満では、ポリエポキシド化合物の効果が十分に発揮されず、ポリエステル繊維とエチレンプロピレン系ゴムとの間で満足できる接着性が得られないおそれがある。一方、ポリエポキシド化合物の付着量が5重量部を超えると繊維が非常に硬くなり、製糸工程において付与することが困難である場合があるだけでなく、次工程以降で処理する処理剤の浸透性が低下する結果、接着性能が低下する場合があるので好ましくない。
【0018】
本発明のコードは、ポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維に、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスおよびクロロ変性レゾルシンを含む処理剤を付与してなるものである。
【0019】
ここで、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスとは、レゾルシンとホルムアルデヒドの初期縮合物とゴムラテックスの混合物である。レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物とは、アルカリ触媒または酸触媒の存在下で、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合させたものであって、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)のモル比が1/0.5〜1/3であることが必要である。好ましくは、1/1〜1/3の範囲であるのが良い。R/Fのモル比が1/0.5〜1/3の範囲を外れると、接着性が低下したり、工程通過性が悪化する。
【0020】
さらには、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物として、あらかじめジヒドロキシベンゼンとホルムアルデヒドとを無触媒または酸性触媒の下で反応させて得られるノボラック型の樹脂を用いることもできる。具体的には、例えば、レゾルシン1モルに対してホルムアルデヒド0.7モル以下とで縮合した化合物(例えば、商品名“スミカノール700”登録商標、住友化学(株)製)である。レゾルシンとホルムアルデヒドのノボラック型縮合物を使用するに際しては、アルカリ触媒水分散液に溶解後、ホルムアルデヒドを添加し、レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比を1/1〜1/3に調整することが好ましい。ここで使用するアルカリ触媒としては、アルカリ金属水酸化物であり、好ましくは、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ触媒水分散液の濃度は1〜10モル濃度程度でよい。
【0021】
レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスで使用されるゴムラテックスとしては、天然ゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、スチレン・ブタジエンゴムラテックス、エチレン系不飽和酸変性スチレン・ブタジエンゴムラテックス、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス、エチレン系不飽和酸変性ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス、アクリロニトリル・ブタジエンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレン、およびエチレン・プロピレン・非共役ジエン系三元共重合体ゴムラテックスなどが挙げられ、これらを単独または混合して使用することができる。耐熱性および接着性の点から、ゴムラテックス100重量%のうち、エチレン系不飽和酸変性ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン三元共重合体ゴムラテックスが50重量%以上を占めるゴムラテックスが特に好ましい。
【0022】
ここで用いられるエチレン系不飽和酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸、イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステルなどの不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステル、アクリル酸スルホエチルナトリウム塩、メタクリル酸スルホプロピルナトリウム塩、アクリルアミドプロパンスルホン酸などの不飽和スルホン酸またはそのアルカリ塩などが挙げられ、これらは一種もしくは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
なお、カルボキシル基はエチレン性不飽和エステル単量体またはエチレン系不飽和酸無水物単量体を共重合した後に加水分解することによってゴムラテックスに導入してもよい。この場合のエチレン系不飽和酸エステル単量体やエチレン系不飽和酸無水物単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和カルボン酸のモノ、ジ、およびトリエステル、マレイン酸無水物などが例示され、これらの一種または二種以上が使用される。
【0024】
また、被着ゴムが、ブレーキホースに好ましく使用されるエチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体ゴム(EPDM系ゴム)の場合には、エチレン系不飽和酸変性ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス(変性VP)と、ポリブタジエンゴムラテックス(PB)を含む混合ゴムラテックスを用いることが好ましく、ゴムラテックスの混合比は、固形分乾燥重量比で変性VP/PB=90/10〜50/50、より好ましくは80/20〜60/40であるのが良い。変性VP/PB比が90/10より大きいと、工程通過性が悪化することがあり、変性VP/PB比が50/50より小さいと、接着性が低下することがある。
【0025】
さらに、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスのレゾルシン・ホルマリンと、ゴムラテックスの配合比は、固形分重量でRF/L=1/3〜1/15であることが必要であり、好ましくは1/5〜1/12、より好ましくは1/7〜1/10であるのが良い。RF/L比がこの範囲を外れると、接着性が低下したり、工程通過性が悪化することがある。
【0026】
本発明で用いるクロロ変性レゾルシンとは、パラクロロフェノールとホルマリンおよびレゾルシンを縮合した化合物であり、下記一般式で表される化合物である。
【0027】
【化1】

【0028】
ただし、式中のWはCH、S、またはS−Sを表し、X、Yの少なくとも一つはClを、残りはBr、I、H、OHおよびC〜Cのアルキル基から選ばれた基を表し、mは1〜15の整数である。上記式で示されるクロロ変性レゾルシンは、ハロゲン化フェノール化合物とホルムアルデヒドとの初期縮合物、硫黄変性レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合粒またはハロゲン化硫黄変性レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物である。
【0029】
これらクロロ変性レゾルシンの調整方法は特に限定されないが、例えば、パラクロロフェノール、オルソクロロフェノール、パラブロモフェノール、パラヨウドフェノール、オルソクレゾール、パラクレゾール、パラターシャルブチルフェノールおよび2,5−ジメチルフェノールなどが出発原料として挙げられ、なかでもパラクロロフェノール、パラブロモフェノール、パラクレゾール、およびパラターシャルブチルフェノールが、とくにパラクロロフェノールが好ましく用いられる。
【0030】
このような出発原料をアルカリ触媒存在下にホルムアルデヒドと縮合させることによって、または、出発原料を予め酸触媒の存在下で反応させ得られた縮合物をアルカリ触媒の存在下でホルムアルデヒドと反応させることによって、クロロ変性レゾルシンを得ることができる。
【0031】
クロロ変性レゾルシンの具体例としては、2,6−ビス(2’,4’−ジヒドロキシ−フェニルメチル)−4−クロロフェノール(トーマスワン(株)製“カサボンド”、ナガセ化成工業(株)製“デナボンド”など)が挙げられるが、なかでも特にベンゼン核を3以上有するクロロフェノール化合物を主成分とするものが接着性および工程通過性の点から好ましく用いられる。
【0032】
上記式で表されるクロロ変性レゾルシン(P)とレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)との配合比は、固形分重量比でP/RFL=1/1〜1/5であることが必要であり、好ましくはP/RFL=1/2〜1/4であるのが良い。P/RFLが1/1より大きい場合は、コードが硬くなり、P/RFLが1/5より小さい場合は接着性が低下する。
【0033】
本発明で使用する処理剤において、レゾルシン(R)とホルマリン(F)の熟成条件は、4〜8時間熟成させることが必要であり、5〜7時間であることが好ましい。熟成時間が4時間未満であると、工程通過性が悪化することがあり、8時間を越えるとRF液の粘度が向上し、ポリエステル繊維にRFL接着剤を均一に塗布することが困難になることがある。また、熟成温度は、20〜25℃の条件下であることが好ましい。
【0034】
また、RFLの熟成条件は、20〜25℃の条件下、14〜30時間であることが好ましく、より好ましくは16〜24時間であるのが良い。この範囲外であると接着性が低下することがある。
【0035】
本発明で使用する処理剤の総固形分濃度は、5〜20重量%が好ましく、より好ましくは7〜15重量%である。かかる範囲とすると、処理剤が安定性に優れ、ポリエステル繊維にRFL処理剤を均一に塗布することができる。
【0036】
本発明で使用する処理剤をポリエステル繊維に付着させるには、浸漬、ノズル噴霧、ローラーによる塗布などの任意の方法を採用することができる。
【0037】
ポリエステル繊維に対する処理剤の付着量は、ポリエステル繊維100重量部に対して乾燥重量で0.5〜4.0重量部、特に1.5〜3.0重量部の範囲が好ましく、この範囲とすることで、ゴムとの接着性および工程通過性が良好になる。
【0038】
ポリエステル繊維に処理剤を付与した後の熱処理は、80〜180℃で0.5〜5分間、より好ましくは1〜3分間乾燥し、次いで150〜260℃、より好ましくは220℃〜250℃の温度で0.5〜5.0分間、より好ましくは1〜3分間熱処理するのが良い。該熱処理温度が低すぎると、被着ゴムとの接着が不十分となり、一方、熱処理温度が高すぎるとポリエステル繊維が溶融、融着したり、硬くなったり、さらに強力劣化を起こすなど実用に供しなくなる。
【0039】
また、該コードの撚り数は、下記式により定義される撚係数が、200〜800の範囲となるようにすることが好ましい。
撚係数={撚数(t/10cm)×(デニール)1/2}。
【0040】
このように処理されたコードは、JISL1017(2002)に従ったガーレー曲げ剛軟度が500〜2000mgであることが好ましい。500mg未満であると、ブレーキホースなどの繰り返しの曲げ応力を加わる用途で使用される場合、耐疲労性が悪くなることがある。2000mgを超えると、ブレーキホース等で発生する固有の振動を吸収する程度に柔軟とならず、自動車部品等に使用するホースとしての制振性が得られないことがある。
【0041】
本発明のホース補強用ポリエステル繊維コードは、各種ホース、例えばブレーキホース、エアコンホース、燃料ホース等の自動車ホースの補強用コードとして用いることができる。特にブレーキホース用として好適であり、上糸あるいは下糸として用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0043】
また、本発明においてゴム補強用コードのコード形状・特性要件および物性の測定方法、評価方法は、以下に示すとおりである。
【0044】
<ゴム補強用コードの評価方法>
(1)剥離接着力
コードを隙間が無いようにアルミ板に巻き付け、アルミ板の両側に表1に示した配合組成のEPDM系ゴムを張り付け、150℃で30分間プレス加硫を行った。このとき、ゴムの厚さは3mmとし、ゴムと繊維コードの面圧が30kgf/cmとなるように、プレス圧力を調整した。アルミ板の大きさ、繊維コードを巻き付ける面積は任意で構わなく、巻き付け時の張力は巻き付け時にコードが弛まなければよい。放冷後、20℃の環境下で50mm/分の速度で、ゴムと繊維コードが90°の角度になるように保ちながら、ゴムから繊維コードを剥離したときの剥離力をN/inchで表示した。ゴム被覆率(%)は、上記剥離テストの際にゴムから剥離されたコードを肉眼で観察し、ゴムと接触していた部分のコード表面に、ゴムが残存している面積を百分率で表した。
【0045】
【表1】

【0046】
(2)処理剤付着量
JIS L1017(2002)8.15ディップピックアップb)質量法によって求めた。
【0047】
(3)工程通過性
コードを図1に示す東レ・エンジニアリング(株)製摩擦試験機に走行させ、ガイド類へのRFLカスの付着状況を指標とした。測定用の繊維コードサンプル1から繊維コードを取り出し、糸送り用のニップローラー2を経て、糸荷重3を付与し、梨地クロムメッキ加工管4の表面に一部巻き付け走行させ、糸送り用のニップローラー5を経て巻き取り、その際のニップローラー2および5へのRFL付着量を測定した。カスの発生の極端に少ないものは◎、少ないものは○、多量のカスが発生するものは×と表示し、いずれも判定し難いものは△と表示した。
【0048】
(4)ガーレー曲げ剛軟度
1インチ長さのコード試料を安田精機(株)製の「ガーレー式柔軟度試験機」を用い、JIS L1096(1990)6.20.1A法(ガーレー法)に記載の方法に従って測定し、以下の数式を用いてガーレー曲げ硬さを計算した。曲げ回数は1往復とした。
S(ガーレー曲げ硬さ(mg))=R×(W×1+W×2+W×4)×L/W×3.96
、W、W=荷重(g)および取りつけ位置、R=目盛り読み、L=コード長さ−0.5(インチ)、W=糸巾(インチ)。
【0049】
(5)ホース耐疲労性
100℃において、100kgf/cmの圧力で加圧しつつ、繰り返し曲げる試験を行い、ホースが破裂した時の繰り返し曲げ回数を測定した。
【0050】
(実施例1)
苛性ソーダ水溶液に、レゾルシン・ホルマリン初期縮合物:“スミカノールS700”(住友化学(株)製、65%水溶液)を添加して十分に攪拌し分散させる。これにホルマリンをR/F比が1/2(モル比)になるように添加して均一に混合し、温度25℃で6時間熟成させた。次に、”PYRATEX−LB”(日本エイアンドエル(株)製、エチレン系不飽和酸変性ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス)及び”ニッポールLX−111A”(日本ゼオン(株)製、ポリブタジエンゴムラテックス)を混合したもの(エチレン系不飽和酸変性ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス/ポリブタジエンゴムラテックス=75/25(乾燥重量比))を、前記レゾルシン・ホルマリン初期縮合物分散液と固形分比率(RF/L比)で1/9の割合で混合し、温度25℃で24時間熟成した。さらに、”デナボンドE”(ナガセ化成工業(株)製、クロロ変性レゾルシン化合物20%溶液)をRFLと固形分比率(”デナボンド”/RFL)で1/3となるように添加し、十分攪拌して、25℃で20時間熟成した。最終処理液濃度は13%であった。
【0051】
一方、製糸工程において、ポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維(東レ(株)製、”T707C”(1670T))のマルチフィラメント1本を10t/10cmの片撚りを施して撚糸コードを得た。
【0052】
該コードをコンピュートリーター処理機(CAリッツラー(株)製、タイヤコード処理機)を用いて前記の処理剤に浸漬したのち、温度120℃で2分間乾燥し、続いて240℃で1分間熱処理した。コードには処理剤の固形分がポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維100重量部に対して3.1重量部付着していた。このようにして得られたコードを上記のように、コード剥離力試験およびガーレー曲げ硬さ試験、工程通過性試験を行った。結果を表2に示す。
【0053】
また、このようにして得られた処理コードを交差角108度でブレードし、表1に示す組成を有するエチレンプロピレン系未加硫ゴムを用いてホースに成形し、150℃の温度で40分間蒸気加硫を行った。このホースで耐疲労性試験を行った結果を表2に併せて示す。
【0054】
(実施例2〜6および比較例1〜6)
実施例1において、調整条件を表2に示す条件に変更した以外は実施例1と同様の条件で処理し、同様に評価した。評価結果を表2に併せて示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2に示す評価結果から判るように、本発明によるホース補強用ポリエステル繊維コードは、EPDM系ゴムとの接着性に優れ、かつ工程通過性が良好であり、柔軟なコードが得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】繊維コードの工程通過性を評価する摩擦試験機を示す模式図
【符号の説明】
【0058】
1:測定用の繊維コードサンプル
2:糸送り用のニップローラー
3:荷重
4:梨地クロムメッキ加工管
5:糸送り用のニップローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエポキシド化合物を予め付与したポリエステル繊維に、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)、およびクロロ変成レゾルシン(P)を含む処理剤を付与してなるホース補強用ポリエステル繊維コードであって、該処理剤が下記要件を満たすことを特徴とするホース補強用ポリエステル繊維コード。
(A)R/F=1/0.5〜1/3 (モル比)
(B)RF/L=1/3〜1/15 (重量比)
(C)P/RFL=1/1〜1/5 (重量比)
(D)RFの熟成時間:4〜8時間
(式中、Rはレゾルシン量、Fはホルマリン量、Lはゴムラテックス量、Pはクロロ変性レゾルシン量、RFはレゾルシン・ホルマリン量、RFLはレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス量を表す。)
【請求項2】
前記処理剤に含まれるゴムラテックスが、エチレン系不飽和酸変性ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス(変性VP)と、ポリブタジエンゴムラテックス(PB)を含むものであり、かつ、変性VP/PB=90/10〜50/50(乾燥重量比)であることを特徴とする請求項1に記載のホース補強用ポリエステル繊維コード。
(式中、変性VPはエチレン系不飽和酸変性ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックスの量、PBはポリブタジエンゴムラテックスの量を表す。)
【請求項3】
ホース補強用ポリエステル繊維コードのガーレー剛柔度が500〜2000mgであることを特徴とする請求項1または2に記載のホース補強用ポリエステル繊維コード。
【請求項4】
ホース補強用ポリエステル繊維コードが、自動車ブレーキホース用であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のホース補強用ポリエステル繊維コード。

【図1】
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【公開番号】特開2008−202182(P2008−202182A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41566(P2007−41566)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】