説明

ホース

【課題】補強用ワイヤの改良により、耐セパレーション性等の耐久性を向上しつつ軽量化を図ったホースを提供する。
【解決手段】内管ゴム層1と、その外面に形成された補強層2と、その外側に形成された外面層3とを備え、補強層3がスチールワイヤからなるホースである。スチールワイヤが、1対の平行な直線と、外側に凸となって対向する1対の円弧と、からなるトラック形状の扁平断面を有し、厚みをT(mm)、円弧の曲率半径をR(mm)としたとき、下記式(1)および(2)、
0.30≦T≦0.60 (1)
0.6354×T≦R≦0.77×T+0.019(2)
で表される関係を満足し、かつ、補強層2におけるスチールワイヤの充填率が86%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホースに関し、詳しくは、補強材として用いられるスチールワイヤの改良に係る高圧ゴムホースに関する。
【背景技術】
【0002】
高圧ホースは、油圧や液圧、空気圧等に対する耐久性が要求される用途に用いられ、内管チューブの表面に金属製ワイヤを巻き付けてなる構造を有するものが一般的である。このようなホースの補強に用いられる金属製ワイヤとしては、従来、円形断面を有する丸線ワイヤが使用されている。図5に、かかる丸線ワイヤ30を用いたホースの補強層31の断面図を示す。図中のHは、補強層の厚みを示している。
【0003】
これに対し、例えば、特許文献1〜3には、耐圧性を向上する等の目的で、ゴムホースの補強用ワイヤとして、断面が扁平形状である扁平ワイヤを用いる技術が開示されている。また、特許文献4,5には、扁平ワイヤの断面形状を、扁平断面の厚みおよび曲率半径について規定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6‐201077号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開平8‐187796号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2006‐336154号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開2009‐41170号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開2009‐249763号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された扁平ワイヤは、ワイヤ円弧部の曲率半径が不明確で、ホースに適用した際に耐セパレーション性等の耐久性の点で問題を有するものであり、耐セパレーション性を向上しようとすると重量が増加してしまうという難点があった。
【0006】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、補強用ワイヤの改良により、耐セパレーション性等の耐久性を向上しつつ軽量化を図ったホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、ホースの補強用ワイヤとして、断面形状を特定した扁平ワイヤを高充填率で適用することで、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、内管ゴム層と、該内管ゴム層の外面に形成された補強層と、該補強層の外側に形成された外面層とを備え、該補強層がスチールワイヤからなるホースにおいて、
前記スチールワイヤが、1対の平行な直線と、外側に凸となって対向する1対の円弧と、からなるトラック形状の扁平断面を有し、厚みをT(mm)、円弧の曲率半径をR(mm)としたとき、下記式(1)および(2)、
0.30≦T≦0.60 (1)
0.6354×T≦R≦0.77×T+0.019(2)
で表される関係を満足し、かつ、前記補強層における該スチールワイヤの充填率が86%以上であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明においては、前記スチールワイヤが、その幅方向がホースの面内方向となるように並列に引き揃えられて前記補強層を構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記構成としたことにより、耐セパレーション性等の耐久性を向上しつつ軽量化を図ったホースを実現することが可能となった。したがって、本発明のホースによれば、従来と比較して、軽量性を維持しつつ、繰り返し加圧時における耐久性を改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のホースの一例を示す一部切欠斜視図である。
【図2】本発明に係るスチールワイヤの一例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る補強層の一例を示す断面図である。
【図4】実施例および比較例におけるワイヤの厚みTと円弧の曲率半径Rとの関係を示すグラフである。
【図5】従来の丸線ワイヤを用いた補強層の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1に、本発明のホースの一例を示す一部切欠斜視図を示す。図示するように、本発明のホース10は、内管ゴム層1と、その外面に形成された補強層2と、その外側に形成された外面層3とを備えている。図示する例では、補強層2が複数層にて設けられ、補強層2の層間に、層間ゴム4が配設されている。
【0013】
本発明のホースにおいては、補強層2がスチールワイヤからなり、かかるスチールワイヤが、図2の断面図に示すように、1対の平行な直線11と、外側に凸となって対向する1対の円弧12と、からなるトラック形状の扁平断面を有している。図3に、かかる扁平断面形状を有するスチールワイヤ20を適用した、本発明に係る補強層2の断面図を示す。なお、図中のHは、補強層2の厚みを示している。
【0014】
本発明においては、上記スチールワイヤの厚みT(mm)が、下記式(1)、
0.30≦T≦0.60 (1)
で示される関係を満足することが必要である。スチールワイヤの厚みTが0.30mm未満では、ホースの切断強度が不足して、破壊圧力が低下してしまう。一方、厚みTが0.60mmを超えると、補強層2の厚みが増加して、軽量化の点で不利となる。
【0015】
また、本発明においては、上記スチールワイヤの扁平断面を構成する円弧12の曲率半径R(mm)が、下記式(2)、
0.6354×T≦R≦0.77×T+0.019(2)
で表される関係を満足する。円弧の曲率半径R(mm)が0.6354×T(mm)未満では、曲率半径が小さ過ぎるためにワイヤとゴムとの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、セパレーションが生じ易くなる。一方、曲率半径R(mm)が0.77×T+0.019(mm)を超えると、ワイヤの直線部と円弧部との境界領域においてワイヤとゴムとの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、セパレーションが生じ易くなる。
【0016】
本発明においては、厚みTおよび曲率半径Rについて上記条件を満足する扁平断面形状を有するスチールワイヤを、補強層2に、充填率が86%以上、例えば、87〜97%となるよう適用する。補強用ワイヤとして、上記特定断面形状を有する厚みの薄い扁平ワイヤを用いることで、丸線ワイヤおよび従来の扁平ワイヤ対比で補強層におけるワイヤ充填率を向上することができ、上記高充填率を実現することができる。その結果、耐久性を向上しつつ、ホースの軽量化を図ることが可能となる。上記充填率が86%未満であると、軽量化において不利となる。ここで、補強層2におけるスチールワイヤ充填率は、下記式により定義される。
充填率(%)=(スチールワイヤの総断面積/補強層全体の断面積)×100
【0017】
本発明においては、上記スチールワイヤを、その幅方向がホースの面内方向となるよう並列に引き揃えて、補強層2を構成することが好ましい。これにより、補強層2の厚みを薄くすることができ、ホースの軽量化効果が確実に得られるものとなる。具体的には例えば、内管ゴム層1の表面に、上記スチールワイヤをスパイラル状に巻き込み埋設して、ホースの面内方向にスチールワイヤの幅方向が揃うように配列させることで、補強層2を形成すればよい。なお、本発明において、補強層2の層数は、使用時の流体の圧力、すなわち、ホースにかかる内圧等に応じて、適宜決定することができる。
【0018】
本発明に用いるスチールワイヤは、通常の円形断面のワイヤを製造するための従来の設備および工程をそのまま利用して、その伸線加工の後半部においてローラ間で圧延するか、または、扁平孔のダイスを通す等により扁平化することで、経済的かつ簡便に製造することができる。
【0019】
本発明においては、厚みTおよび曲率半径Rが上記式(1)および(2)をともに満足するトラック形状の扁平断面を有するスチールワイヤを、上記充填率にて補強層に適用することで、本発明の所期の効果が得られることを見出したものであり、それ以外の具体的なホース構造やワイヤ材質等については特に制限されるものではない。
【0020】
例えば、内管ゴム層1の材質は、ホース内を輸送される物質の物理的および化学的性状等に基づき、適宜選択することができる。具体的には例えば、エチレン−プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)、アクリルゴム(ACM)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ヒドリンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、イソブチレン−イソプレン共重合体ゴム(ブチルゴム,IIR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ウレタン系ゴム、シリコーン系ゴム、フッ素系ゴム等が挙げられる。これらのゴム成分は、1種を単独で用いても、2種以上の任意のブレンド物として用いてもよい。
【0021】
上記ゴム成分の中でも、気密性の観点からはブチルゴム(IIR)が好ましく、耐油性の観点からはアクリルゴム(ACM)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ヒドリンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、シリコーン系ゴム、フッ素系ゴムが好ましく、耐熱性の観点からはエチレン−プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム(EPDM)が好ましく、低温可撓性の観点からはシリコーン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)が好ましい。
【0022】
また、内管ゴム層1用のゴム組成物には、材料強度や耐久性、押出し成形性等を考慮して、ゴム工業界で一般に用いられている公知のゴム配合薬品やゴム用充填材を、本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。このような配合薬品および充填材としては、例えば、カーボンブラックやシリカ、炭酸カルシウム等の無機充填材;プロセスオイル、可塑剤、軟化剤;硫黄等の加硫剤;酸化亜鉛、ステアリン酸等の加硫助剤;ジベンゾチアジルジスルフィド等の加硫促進剤;N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド、N−オキシジエチレン−ベンゾチアジル−スルフェンアミド等の老化防止剤;酸化防止剤、オゾン劣化防止剤等の添加剤が挙げられる。これらの配合薬品および充填材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
内管ゴム層1の厚みは、内管ゴム層1を構成する材料の種類によっても異なるが、0.1〜3mmの範囲、好ましくは0.5〜2.0mmの範囲である。また、ホースの内径は目的に応じて選択されるが、一般的には、3mm〜25mmの範囲であることが好ましい。
【0024】
また、外面層3は、従来の高圧ホースと同様に、例えば、熱可塑性樹脂等からなるものとすることができ、内管ゴム層1と同様の各種ゴムにより構成してもよい。外面層3を設けることで、補強層2を構成するスチールワイヤを保護して、補強層2の外傷を防止することができるとともに、外観上も好ましいものとなる。なお、外面層3の一般的な肉厚は、0.3mm〜2.0mmの範囲である。
【0025】
さらに、層間ゴム4は、補強層2を複数層で設ける場合に補強層2間を接着する目的で配置され、ゴム層1と同様の各種ゴムにより形成することができる。
【0026】
本発明のホースは、常法に従い製造することができるものであり、特に、各種高圧流体の輸送に用いられる高圧ホースとして有用である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
図1に示すホース構造に従い、厚み1.5mmの内管ゴム層1(材質:耐油性合成ゴム)の外表面に、層間ゴム4(材質:耐油性合成ゴム)を挟みながら、補強層2としてのスチールワイヤをスパイラル状に4層巻き付けた後、厚み1.2mmの外面層3(材質:耐候性合成ゴム)を形成して、ホースを作製した。スチールワイヤとしては、下記表中に示す条件を満足するスチールワイヤを用いた。下記表中、トラック形状とは、1対の平行な直線11と、外側に凸となって対向する1対の円弧12と、からなる扁平断面形状をいう(図2参照)。なお、かかるトラック形状のスチールワイヤについては、その幅方向がスパイラル状に巻き込み埋設した補強層の面内方向となるよう、並列に引き揃えて用いた。
【0028】
得られた各供試ホースにつき、下記に示す性能試験を実施した。その結果を、比較例1の円形断面ワイヤを用いたタイヤの性能を100とした場合の相対評価である指数にて、下記の表中に併せて示す。また、各例のスチールワイヤの厚みTと円弧の曲率半径Rとの関係を、図4のグラフに示す。
【0029】
<重量>
各供試ホースの単位長さあたりの重量を測定し、比較例1の供試ホースの重量を100として指数表示した。この指数値が小さいほど、軽量であることを示す。
【0030】
<繰り返し加圧テスト>
各供試ホースにつき、0MPa〜245MPaにおける加圧サイクル約20cpmの圧力繰り返しテストを行い、破壊までの寿命を調査して、比較例1の供試ホースの寿命を100として指数表示した。この指数値が大きいほど、加圧時の耐久性に優れていることを示す。
【0031】
<破壊圧力>
各供試ホースの破壊圧力を測定し、比較例1の供試ホースの破壊圧力を100として指数表示した。この指数値が大きいほど、破壊圧力が高いことを示す。
【0032】
【表1】

*1)補強層におけるスチールワイヤの充填率(%)(充填率(%)=(スチールワイヤの総断面積/補強層全体の断面積)×100)を示す。
【0033】
【表2】

【0034】
上記表中に示すように、比較例2の供試ホースでは、ワイヤの厚みTが薄すぎるためにホースの切断強度が不足し、破壊圧力が低下している。また、比較例3の供試ホースは、ワイヤの厚みに対してワイヤの円弧部の曲率半径が大き過ぎるために、ワイヤの直線部と円弧部との境界領域においてワイヤとゴムとの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなって、繰り返し加圧寿命が低下している。さらに、比較例4の供試ホースは、ワイヤの厚みに対してワイヤの円弧部の曲率半径が小さ過ぎるために、ワイヤとゴムとの接着界面に発生する剪断応力が局所的に大きくなり、やはり繰り返し加圧寿命が低下する結果となっている。さらにまた、比較例5の供試ホースは、ワイヤの厚みが厚すぎるために補強層の厚みが増加して、軽量化の点で不利となっている。
【0035】
これに対し、本発明に係る実施例1〜5の供試ホースでは、扁平ワイヤの厚みTおよび円弧部の曲率半径Rをそれぞれ適正化したことで、耐セパレーション性の向上により繰り返し加圧寿命が向上し、重量、繰り返し加圧寿命および破壊圧力のいずれについても、円形断面の丸線ワイヤを用いた比較例1対比、向上していることが確かめられた。
【符号の説明】
【0036】
1 内管ゴム層
2 補強層
3 外面層
4 層間ゴム
10 ホース
11 直線部
12 円弧部
20 スチールワイヤ
30 丸線ワイヤ
31 補強層
T ワイヤの厚み
W ワイヤの幅
R ワイヤの円弧部曲率半径
H 補強層の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内管ゴム層と、該内管ゴム層の外面に形成された補強層と、該補強層の外側に形成された外面層とを備え、該補強層がスチールワイヤからなるホースにおいて、
前記スチールワイヤが、1対の平行な直線と、外側に凸となって対向する1対の円弧と、からなるトラック形状の扁平断面を有し、厚みをT(mm)、円弧の曲率半径をR(mm)としたとき、下記式(1)および(2)、
0.30≦T≦0.60 (1)
0.6354×T≦R≦0.77×T+0.019(2)
で表される関係を満足し、かつ、前記補強層における該スチールワイヤの充填率が86%以上であることを特徴とするホース。
【請求項2】
前記スチールワイヤが、その幅方向がホースの面内方向となるように並列に引き揃えられて前記補強層を構成する請求項1記載のホース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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