説明

ホーニング加工装置及びそれに用いるホーニングツール

【課題】ホーニングツールBにおいて砥石12を押し出して拡径させるロッド2の構造に工夫を凝らして、装置コストの上昇を抑えながら、砥石12の定速拡径制御だけでなく、精度の良い定圧拡径制御も行えるようにする。
【解決手段】ロッド2を先端側のロッド本体21と基端部材20との2つに分割し、中間にコイルばね23介在させて両者一体に回転するとともに、軸方向には所定量、移動可能に連結する。昇降装置3により基端部材20を移動させて、それがコイルばね23を介してロッド本体21に軸方向の力を伝える間接状態と、コイルばね23を介さず直接、ロッド本体21に接続される直接状態(図2に示す状態)とに切換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの内周面をホーニング加工するための装置に関し、特に、回転軸に取り付けられるホーニングツールの構造に係る。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種のホーニング加工装置に使用されるホーニングツールは、一般的に、複数の砥石が周方向に並んだ円筒状の砥石ホルダを備えている。本発明の実施形態である図1を利用して具体的に説明すると、砥石ホルダには、径方向の貫通穴(1a,1a,…)が周方向に亘って略等間隔に設けられ、その各々に砥石(12)を固定した砥石装着部材(11,11,…)が径方向に進退可能に保持されている。
【0003】
また、砥石ホルダの内部には、ロッド(2)の先端側に形成されたテーパ状の押出部(21a)が軸方向に変位可能に挿入される一方、これを囲む前記砥石装着部材(11,11,…)の内側面が対応するテーパ状に形成されており、そのロッド(2)を先端側に相対移動させることで、砥石装着部材(11,11,…)がそれぞれ径方向外方に押し出されて、砥石径が拡大するようになっている。
【0004】
そして、ホーニング加工においては、前記のように砥石ホルダに保持した砥石の外周をワークの被加工穴の内周面に接触させて回転させるとともに、その回転軸心の方向に往復移動させるようにしており、その際に、砥石を予め設定した速度で拡径させる方法(以下、定速拡径という)と、ワーク内周面との接触圧が予め接触した値となるようにして拡径させる方法(以下、定圧拡径という)とがある。
【0005】
前記定速拡径の場合は、砥石とワークの接触状態に依らず無理矢理拡径する場合があって、ワークの弾性変形が大きくなったり、表面の荒れが大きくなるという不具合があり、一方で定圧拡径の場合は、砥石の自生発刃が十分に行われない条件下では加工が進まない、という問題があるから、両者の得失を考慮し、加工状況に応じて使い分けることが望ましい。
【0006】
この点つき、例えば特許文献1に記載のホーニング加工方法では、前記定速拡径を行うためのホーニング加工装置をベースにしながら、これにロードセルを付加して、砥石と被加工穴の内周面との接触圧に相当する値を検出し、この検出値をフィードバックしてロッドの押し出し速度、即ち砥石の拡径速度を制御することにより、接触圧を略一定に維持するようにしている。
【0007】
一例として、加工の初期には略一定の速度で砥石径を拡大させ、その後、接触圧相当値に応じて段階的に速度を落とした上で、加工を終了する直前には暫くの間、前記のように砥石と被加工穴の内周面との接触圧が略一定となるようにすることで、被加工面の仕上がり品質の安定化を図っている。
【特許文献1】特開2004−130404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来例のように接触圧相当の値を検出し、これをフィードバックして砥石の拡径速度を制御するためには、ロードセルのようなセンサが不可欠である上に、そのような拡径速度の制御の精度を高めようとすれば、モータの作動遅れは勿論、コントローラにおける制御の応答遅れもできるだけ小さくすることが望ましく、システム全体としてかなりコスト高にならざるを得ない。
【0009】
しかも、そうして制御精度を高めたとしても、砥石と被加工穴の内周面との接触圧は、微視的には目標とする値の付近で微小な変動を繰り返す(ふらつく)ことになるから、それにより実現できるのは擬似的な定圧拡径に過ぎない。よって、加工終了時における砥石接触圧のバラツキをさらに軽減して、仕上がり品質を高める余地が残されている。
【0010】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ホーニングツールにおいて砥石を押し出して拡径させるロッドの構造に工夫を凝らし、装置コストの上昇を抑えながら、定速拡径制御だけでなく、精度の良い定圧拡径制御も行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、この発明では、ホーニングツールのロッドを先端側及び基端側の2つの部材に分割し、その中間に介在させたばね要素を介して軸方向の力を伝える間接状態と、ばね要素を介さない直接状態とに切換えるようにした。
【0012】
具体的に、請求項1の発明は、複数の砥石が周方向に並んだホーニングツールの外周をワークの被加工穴の内周面に接触させて回転させるとともに、その回転軸心の方向に往復移動させるようにしたホーニング加工装置が対象である。
【0013】
そして、前記ホーニングツールには、前記複数の砥石を各々径方向に進退可能に保持する筒状のホルダと、このホルダ内に挿入したテーパ状の先端部が軸方向に相対移動することで、前記複数の砥石を各々径方向に進退させるロッドと、を備えるとともに、このロッドを、中間にばね要素を挟んで先端側及び基端側の2つの部材に分割し、これら両部材同士が前記ばね要素を介して軸方向の力を伝え合うように接続される間接状態と、当該両部材同士が前記ばね要素を介さず一体的に軸方向に移動するように接続される直接状態と、に切換え可能に構成したものである。
【0014】
前記構成のホーニング加工装置では、ホーニングツールのロッドを直接状態とし、その先端側及び基端側の両部材が一体的に軸方向に移動するようにすれば、その移動速度を略一定に制御することで、砥石を押し出し略略一定の速度で拡径させることができる。
【0015】
一方、前記ロッドを間接状態とし、先端側及び基端側の両部材同士がばね要素を介して軸方向の力を伝え合うようにすれば、基端側部材の移動量を制御することによってばね要素の変形量、即ちそのばね力を調整し、先端側部材を介して砥石に加わる拡径力を略一定に維持することができる。
【0016】
斯くして砥石の定速拡径制御と定圧拡径制御とを状況に応じて使い分けることができるとともに、非常に簡単な構造であって、センサや高速アクチュエータ等が不要なことから、コストの大幅な上昇を招くことはない。
【0017】
尚、前記ロッドの先端側及び基端側部材を繋ぐばね要素としては、例えばコイルスプリングが好適であるが、これに限らず気体ばねを用いてもよいし、さらに液圧シリンダを利用することも可能である。
【0018】
より具体的に、前記ホーニング加工装置には、ロッドの基端側部材を軸方向に移動させる移動機構を備えればよく、その移動機構の制御手段は、ロッドを間接状態から直接状態に切り換えるときには、基端側部材が先端側に移動して先端側部材に当接するように前記移動機構を作動させる一方、ロッドを直接状態から間接状態に切り換えるときには、前記基端側部材が基端側に移動して先端側部材から離れるように前記移動機構を作動させるものとすればよい(請求項2)。こうすれば、従来一般的な定速拡径制御のみを行うためのNC加工装置を利用することができる。
【0019】
見方を変えれば、本発明は、周方向に並んだ複数の砥石を各々径方向に進退可能に保持する筒状のホルダと、このホルダ内に挿入されたテーパ状の先端部が軸方向に相対移動することで、前記複数の砥石を各々径方向に進退させるロッドと、を備えたホーニングツールであって、前記ロッドを、中間にばね要素を挟んで先端側及び基端側の2つの部材に分割し、この両部材同士が前記ばね要素を介して軸方向の力を伝え合うように接続される間接状態と、当該両部材同士が前記ばね要素を介さず一体的に軸方向に移動するように接続される直接状態と、に切換え可能に構成したものである(請求項3)。
【0020】
このホーニングツールを従来一般的なホーニング加工装置に取り付けるだけで、前記請求項1の発明に係るホーニング加工装置を構成できる。
【発明の効果】
【0021】
以上、説明したように本発明に係るホーニング加工装置によると、ホーニングツールにおいて砥石径を拡縮させるためのロッドを先端側及び基端側の2つの部材に分割し、その中間に介在させたばね要素を介して軸方向の力を伝え合う間接状態と、ばね要素を介さない直接状態とに切換えるようにしたから、非常に簡単な構造でコストの大幅な上昇を招くことなく、従来一般的なNC加工装置を用いて、それ本来の定速拡径制御及び精度の良い定圧拡径制御を使い分けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
図1には本発明に係るホーニング加工装置Aの一実施形態を示し、この装置Aは、本体軸1及びその内部に格納されたロッド2からなるホーニングツールBと、そのロッド2を本体軸1に対して軸方向に相対移動(昇降)させる昇降装置3(移動機構)と、この昇降装置3によりロッド2を昇降させて、砥石径を拡縮させる制御装置4と、を備えている。
【0024】
前記ホーニングツールBにおいて本体軸1は、図2にも示すように、昇降装置3のハウジング30に囲まれる部位の付近を境に上側の部分が中実に形成され、そのハウジング30の上端付近に近接して設けられた鍔部10の直上方の部分が、軸受5を介して支持フレーム6側に回転自在に支持されている。また、本体軸1の上端部は、図示は省略するが、それを高速回転駆動するための回転駆動モータに連結されており、この回転駆動モータ及び前記支持フレーム6は、ホーニング加工の間、本体軸1と一体に上下方向、即ち本体軸1の軸方向に往復動されるようになっている。
【0025】
一方、前記本体軸1の下側の部分は下方に開口する円筒状とされていて、その内部の中空部において軸方向(上下方向)に移動可能に前記ロッド2が格納されている。本体軸1の下端には複数の貫通穴1a,1a,…が周方向に並ぶように形成され、その各々に砥石装着部材11,11,…が径方向に進退可能に保持されている(つまり、本体軸1の下端には筒状の砥石ホルダが一体に形成されている)。各砥石装着部材11の外側には一体的に砥石12が固着されており、一方、内側には、下方ほど本体軸1の中心に近付くように傾斜するテーパー面が形成されている。
【0026】
それらの砥石装着部材11,11,…に囲まれるようにして、前記ロッド2の下端部(先端部)には、各砥石装着部材11のテーパー面に対応するテーパー状の外周面を有する(即ち先窄まりの)押出部21aが形成されている。この押出部21aが本体軸1に対して相対的に先端側へ移動する(図では降下する)ことにより、砥石装着部材11,11,…が径方向外方に押し出されて、砥石径(周方向に並ぶ砥石12,12,…の外接円の直径)が拡大する。
【0027】
一方、ロッド2の上端部(基端部)は、前記昇降装置3に連結されて昇降駆動されるようになっている。すなわち、図2に示すように、ロッド2の上端部にはこれを径方向に貫通した状態でピン7が固定されており、このピン7の両端が、本体軸1の中空部の上端付近において周壁を貫通するように形成された軸方向の長孔1bに挿通されて、該本体軸1の外周面から径方向外方に突出している。これらの突出端部は各々、本体軸1の外周を取り巻くように配設された円筒状の保持部材8に固定されている。
【0028】
この保持部材8は、本体軸1を囲んでその軸方向に移動可能に配設された昇降装置3の円筒状ハウジング30に収容され、その内部に組み込まれた上下一対のスラスト軸受31,31によってハウジング30に対し相対回転するように保持されている。こうしてロッド2の上端部は、昇降装置3のハウジング30に対し回転自在に連結されてこのハウジング30と一体に、本体軸1に対して前記長孔1bの長さ分だけ相対的に昇降(軸方向に移動)可能になっている。
【0029】
前記昇降装置3のハウジング30には側方に延びるアーム32が一体形成され、図1に示すように、そのアーム32に固定されたナット33には、上下方向に延びる送りねじ軸34が螺合されている。詳細は図示しないが、送りねじ軸34の上端は、前記支持フレーム6側に固定された砥石径操作モータ35に連結されており、同モータ35によって送りねじ軸34が回転駆動されることで、アーム32と一体にハウジング30さらにはロッド2が昇降駆動されるようになっている。
【0030】
ここで、本発明の特徴部分として前記図2の他、図3にも示すように、この実施形態のロッド2はその上端側の部位において、前記のようにピン7を介して昇降装置3側に連結される基端部材20(基端側部材)と、これに対し軸方向に相対移動可能に組み合わされるロッド本体21(先端側部材)と、に分割されている。
【0031】
前記基端部材20は、その上半部が中実に形成され、上述したように昇降装置3側に連結されるピン7が固定されている一方、下半部は下方に開口する円筒状とされていて、その内部(中空部)に前記ロッド本体21の上端部がスライド可能に嵌挿されている。このロッド本体21の上端部には、上下方向に長い長孔21bが径方向に貫通して形成され、ここに挿入されるピン22によって前記基端部材20に連結されるようになっている。
【0032】
すなわち、前記基端部材20の下半の円筒状部には、中空部を囲む側壁に互いに径方向に向かい合うように一対の貫通穴20a,20aが形成されており、それらの貫通穴20a,20aに長孔21bが重なるように、ロッド本体21の上端部を基端部材20の下半の中空部内に下方から挿入して、側方からピン22を嵌め入れる。こうするとロッド本体21の上端部は、ピン22によって基端部材20と一体に回転するように連結されるとともに、軸方向については長孔21bの長さ分だけ相対移動可能になる。
【0033】
そうして基端部材20の中空部内に嵌挿される部位から下方に所定長さ離れて、ロッド本体21の上側の部分には拡径部21cが形成されており、その直上方に圧縮コイルばね23が巻回されている。このコイルばね23の上端は、基端部材20の下端である円環状端面に当接する一方、コイルばね23の下端は前記拡径部21cの上面に当接しており、ロッド本体21と基端部材20との間にそれらを離遠させる向きのばね力を発生するようになっている。
【0034】
そのコイルばね23のばね力によってロッド本体21及び基端部材20が互いに離遠する向きに付勢されることから、図2に示すように、基端部材20の中空部の天井面20bと、そこに嵌挿されているロッド本体21の上端面21dとの間には、隙間が形成されることになる。この隙間は、ロッド本体21及び基端部材20の相対移動可能な距離、即ち長孔21bの長さよりも小さく、ロッド本体21及び基端部材20が互いに近接するように相対移動すると、図4に示すように隙間がなくなって、ロッド本体21の上端面21dが基端部材20の中空部の天井面20bに当接するようになる。
【0035】
そして、前記図2のようにロッド本体21の上端面21dと基端部材20の中空部の天井面20bとの間に隙間が形成されているときには、両者は直接ではなく、コイルばね23を介して間接的に軸方向の力を伝え合うようになる。一方、図4のようにロッド本体21の上端面21dと基端部材20の中空部の天井面20bとが当接すれば、両者はコイルばね23を介さず、直接に軸方向の力を伝え合うようになり、一体となって先端側に移動するようになる。
【0036】
つまり、この実施形態のロッド2は、中間にコイルばね23を挟んで先端側のロッド本体21と基端部材20とに分割され、それらがコイルばね23を挟んで間接的に接続される間接状態と、コイルばね23を介さず直接に接続される直接状態と、に切換えられるようになっている。尚、いずれの状態においても両者は一体に回転する。
【0037】
そのようなロッド2を昇降させる昇降装置3は、図示省略の加工径検出手段により検出されるワークの被加工穴の加工径等に基づいて、制御装置4により作動される。ここで、加工径検出手段としては、前記本体軸1の下端部に組み込まれたもの(例えば本体軸1の下端部からワーク内周面にエアを噴射してその圧力を検出するもの)でもよいし、当該本体軸1とは別に設置されるものでもよく、従来からホーニング加工等において使用されている周知のものをそのまま使用することができる。
【0038】
前記制御装置4による昇降装置3の制御について、より具体的には、ロッド2を昇降させて砥石径を拡縮させる際に、それを前記の間接状態及び直接状態のいずれかに切換えることで、例えば間接状態ではコイルばね23の圧縮変形量を適切に調整して、これに対応する略一定のばね力でもってロッド本体21により砥石を押し出させることが、つまり、砥石と被加工穴の内周面との接触圧が略一定となるようにして、砥石径を拡大させることができる。
【0039】
また、前記の定圧拡径の状態からさらにロッド2の基端部材20を押し込んで、それがコイルばね23を介さずにロッド本体21に当接して、一体に下降する直接状態とすれば、それらの下降速度に対応する略一定の速度でもって砥石径を拡大させることができる。よって、前記制御装置4は、昇降装置3によってロッド2の基端部材20を軸方向に移動させて、該ロッド2を間接状態及び直接状態のいずれかに切り換える制御手段を構成している。
【0040】
以下に、前記のように切換わるロッド2の状態も含めて、制御装置4による制御動作、即ちホーニング加工装置の作動の一例を具体的に説明する。まず、昇降装置3の砥石径操作モータ35の作動により本体軸1に対しロッド2を引き上げて、砥石径を十分に小さくした状態で、ホーニングツールBの下端部、即ちその本体軸1の下端部をワークの被加工穴の内側に挿入する。この際、ロッド2においては基端部材20がロッド本体21に対して引き上げられることになるから、それらがコイルばね23を介して軸方向の力を伝え合う間接状態になる(図2を参照)。
【0041】
それから回転駆動モータの作動によりホーニングツールB(本体軸1及びロッド2)を高速で回転させるとともに、予め設定された初期拡径速度にて砥石径が拡大するように、前記昇降装置3の作動により本体軸1に対してロッド2を下降させる。すなわち、制御装置4からの信号に応じて砥石径操作モータ35が作動し、送りねじ軸34を回転駆動することで、アーム32、ハウジング30及びロッド2が一体に下降し、そのロッド2の下端の押出部21aが砥石装着部材11,11,…を径方向外方に押し出して、砥石径を拡大させる。
【0042】
そうして拡径された砥石12,12,…の各々がワークの被加工穴の内周面に接触し始めると、それらの接触圧が上昇して、砥石装着部材11,11,…を押し出すロッド本体21には下端の押出部21aから上方への反力が作用する。これによりコイルばね23が圧縮されて、そのばね力によりロッド本体21を下方に押し返すようになるが、さらに基端部材20が下降すると、それは、図4のようにコイルばね23を介さずに、ロッド本体21に接続された直接状態になる。
【0043】
この直接状態では、基端部材20がロッド本体21と一体になって下降するようになるから、従来一般的なロッドを用いた場合と同じく、昇降装置3によるロッド2の下降速度に応じて砥石径が拡大するようになる。そこで、予め加工を進めるために設定した略一定の速度で昇降装置3を作動させて、これによりロッド2を略一定の速度で下降させ、これに対応する略一定の速度で砥石径を拡大させる(定速拡径)。
【0044】
そうして砥石の定速拡径制御によって加工、即ちワークの被加工穴の内周面の除去が進むことになるが、制御装置4は加工径検出手段により検出される加工径(加工されているワーク内周面の直径)を監視しており、この加工径が予め設定された径に到達した時点で一旦、昇降装置3を停止させて、砥石径の拡大を中断する。続いて、昇降装置3の作動によりロッド2の基端部材20を本体軸1に対して所定量、上昇させると、図2のように、基端部材20の中空部の天井面20bとロッド本体21の上端面21dとが離間して、両者がコイルばね23を介して軸方向の力を伝え合う間接状態になる。
【0045】
この間接状態では、コイルばね23の圧縮量に対応するばね力がロッド本体21に下向きに作用し、これに対応する押圧力がロッド本体21の下端の押出部21aから砥石12,12,…に径方向外方に作用することになるから、それら砥石12,12,…とワークの被加工穴の内周面との接触圧を略一定に維持することができ、当該被加工穴の内周面の仕上がり品質を十分に高めることができる。
【0046】
したがって、この実施形態に係るホーニング加工装置Aによると、前記したようにロッド2を直接状態として、その基端部材20及びロッド本体21を一体に下降させるようにすれば、それらの下降速度を昇降装置3により略一定に制御することで、砥石の定速拡径制御を行って、条件によらずホーニング加工を進めることができる。
【0047】
一方、ロッド2を間接状態とすれば、基端部材20の下降位置によってコイルばね23の圧縮変形量、即ちそのばね力を適切に調整して、ロッド本体21を介して砥石に加わる拡径力を略一定に維持することができ、砥石との接触状態に応じてワークの被加工穴の内周面が研磨されるようになるから、その仕上がり品質が従来よりも高くなる。
【0048】
しかも、砥石と被加工穴の内周面との接触圧相当値を検出するためのセンサや高速アクチュエータ等は不要であり、ロッド2の本体21と基端部材20との間にコイルばね23を介在させるという非常に簡単な構造であるから、装置コストの大幅な上昇を招くこともない。
【0049】
尚、本発明に係るホーニング加工装置の構成は、前記実施形態のものに限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。すなわち、前記実施形態のホーニングツールBでは、ロッド2をその基端側の部位にてロッド本体21と基端部20とに分割しているが、これに限らずロッド2をその軸方向の略中央部或いは先端側の部位にて分割してもよい。
【0050】
また、そうして分割した2つの部材の連結方法は前記実施形態のものに限定されず、例えばロッド本体21の基端側に中空部を設けて、そこに基端部材20の先端側を嵌装する等、種々の構造が可能である。また、両部材間に介在させるのはコイルばね23でなくてもよく、例えば気体ばねでもよいし、液圧シリンダを利用することも可能である。
【0051】
さらに、前記の実施形態では、一例としてホーニング加工の初期には砥石を定速拡径させて加工を進め、加工の終了直前に定圧拡径に切換えて仕上げを行うようにしているが、これに限らず、例えば基本的には定圧拡径によって加工し、それが進まない場合に定速拡径に切換える等、種々の加工方法を実行可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上説明したように、本発明のホーニング加工装置は、簡単な構造でありながら、砥石の定速拡径と定圧拡径とを加工状況に応じて使い分けることができ、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係るホーニング加工装置及びホーニングツールの部分断面図である。
【図2】ホーニングツールの要部を示す部分断面図である。
【図3】ロッドの分解斜視図である。
【図4】ロッドが直接状態にあるのときの図2相当図である。
【符号の説明】
【0054】
A ホーニング加工装置
B ホーニングツール
1 本体軸(ホルダ)
2 ロッド
20 基端部材(基端側部材)
21 ロッド本体(先端側部材)
21a 押出部(テーパ状先端部)
23 コイルばね(ばね要素)
3 昇降装置(移動機構)
4 制御装置(制御手段)
11 砥石装着部材
12 砥石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の砥石が周方向に並んだホーニングツールの外周を、ワークの被加工穴の内周面に接触させて回転させるとともに、その回転軸心の方向に往復移動させるようにしたホーニング加工装置であって、
前記ホーニングツールは、前記複数の砥石を各々径方向に進退可能に保持する筒状のホルダと、このホルダ内に挿入したテーパ状の先端部が軸方向に相対移動することで、前記複数の砥石を各々径方向に進退させるロッドと、を備えており、
前記ロッドは、中間にばね要素を挟んで先端側及び基端側の2つの部材に分割され、この両部材同士が前記ばね要素を介して軸方向の力を伝え合うように接続される間接状態と、当該両部材同士が前記ばね要素を介さず一体的に軸方向に移動するように接続される直接状態と、に切換え可能に構成されている
ことを特徴とするホーニング加工装置。
【請求項2】
ロッドの基端側部材を軸方向に移動させる移動機構と、
前記ロッドを間接状態から直接状態に切り換えるときには、前記基端側部材が先端側に移動して先端側部材に当接するように前記移動機構を作動させる一方、ロッドを直接状態から間接状態に切り換えるときには、前記基端側部材が基端側に移動して先端側部材から離れるように前記移動機構を作動させる制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のホーニング加工装置。
【請求項3】
周方向に並んだ複数の砥石を各々径方向に進退可能に保持する筒状のホルダと、このホルダ内に挿入されたテーパ状の先端部が軸方向に相対移動することで、前記複数の砥石を各々径方向に進退させるロッドと、を備えたホーニングツールであって、
前記ロッドが、中間にばね要素を挟んで先端側及び基端側の2つの部材に分割され、この両部材同士が前記ばね要素を介して軸方向の力を伝え合うように接続される間接状態と、当該両部材同士が前記ばね要素を介さず一体的に軸方向に移動するように接続される直接状態と、に切換え可能に構成されている
ことを特徴とするホーニングツール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−194776(P2008−194776A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32042(P2007−32042)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】