説明

ボイラシステムの運転方法

【課題】 台数制御により多缶設置されたボイラの運転が行われる場合に、蒸気を供給する負荷側にキャリオーバに起因して質の低下した蒸気を供給することのないボイラシステムの運転方法を提供する。
【解決手段】 ボイラ水管をバーナの燃焼熱から保護するために、ボイラ1をコールドな状態から運転する場合に、缶水の水位が上げられる多缶設置のボイラ1に対して、これらのボイラ1の運転が台数制御によりなされるボイラシステムAの運転方法であって、台数制御によるボイラ1の運転を開始する前に、全てのボイラ1を一定時間だけ低負荷で強制運転することである。強制運転によってボイラ1をホットな状態とすることにより、ボイラ水管がバーナの燃焼熱から容易に保護できるようになり、ボイラ1の運転開始に当たって、缶水の水位が上げる必要がなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多缶設置されたボイラに対して、これらのボイラの運転が台数制御によってなされるボイラシステムの運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大型のボイラを設置する代わりに、バーナの燃焼量が段階的に制御される小型貫流ボイラを多缶(複数缶)設置して、蒸気負荷に応じて、必要台数のボイラを運転させるボイラシステムは知られている。このようなボイラシステムでは、運転の優先順位が予め定められた複数のボイラからの蒸気をスチームヘッダに集合させ、このスチームヘッダにおける蒸気圧力を台数制御装置に伝えて、この台数制御装置が、蒸気圧力の高低と運転するボイラの優先順位に従って、運転するボイラと、このボイラのバーナ燃焼量とを決定する台数制御が行われる。
【0003】
このようなボイラシステムでは、夜間に、工場の操業停止に伴いボイラの運転を停止しすると、朝方の操業開始時には、全てのボイラが、圧力が大気圧まで低下して、缶水の温度も例えば100℃より下がったコールドな状態になっている場合も多い。また、かかる場合に、朝方、台数制御によるボイラの運転を開始しても、蒸気負荷が小さければ、優先順位の高い1台目のボイラのみが一定時間運転後、バーナが燃焼停止した待機状態になるため、全てのボイラがコールドな状態からホットな状態(缶水の温度が例えば100℃以上の状態)に移行することは難しく、一部の優先順位が低いボイラはコールドの状態に保持されたままとなる。
【0004】
また、このようなボイラシステムでは、台数制御によるボイラの運転中、全てのボイラの主蒸気弁は開けられたままとなるため、主蒸気弁近くの逆止弁に作動不良があると、停止中のボイラの逆止弁から侵入した、運転中のボイラの蒸気が、停止中のボイラ内で凝縮し、このボイラの缶水の水位を上昇させてしまうことも多い。特に蒸気負荷が小さい場合、優先順位の低いボイラは、長時間の間、一度も運転されず、このため、かかるボイラの缶水の水位が、異常な高水位まで上昇してしまうことも多い。
【0005】
一方、例えば、多管式の小型貫流ボイラでは、ボイラの運転中は、水管内が蒸気や缶水で満たされているが、運転開始前には、水管の一部(特に上部)は蒸気や缶水で満たされておらず、この状態でボイラの運転を開始すると、水管の一部がバーナの燃焼熱によって損傷を受けるという問題がある。このため、特許文献1で示されるように、かかる小型貫流ボイラでは、ボイラがコールドな状態にある場合には、缶水の水位を所定量だけ上昇させた後、バーナの燃焼を開始させたり、ボイラの状態にかかわらず、一定高さまで缶水の水位を上昇させた後、ボイラの運転を開始することがなされている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−135906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ボイラの運転開始に当たって、ボイラがコールドな状態にある場合には、缶水の水位を所定量だけ上昇させた後、バーナの燃焼を開始させる小型貫流ボイラでは、ボイラをコールドな状態から運転、すなわち、コールドスタートする場合に、缶水の水位を通常運転時に比べて上昇させているので、運転当初において、湧き上がりに伴う缶水の蒸気への移行量、すなわち、キャリオーバの量が増え、蒸気の質が低下してしまうという問題がある。
【0008】
特に、台数制御によりボイラの運転が行なわれるボイラシステムの場合、運転開始時にほとんどのボイラがコールドな状態になっているので、優先順位の高いボイラの運転開始時のみならず、その後の優先順位の低いボイラの運転開始時にも、質の低下した蒸気を負荷側に供給してしまうという問題があった。
【0009】
また、台数制御により複数のボイラの運転が行なわれるボイラシステムでは、各ボイラの主蒸気弁近くの逆止弁に作動不良があると、缶水の水位が異常高となるボイラが生じ易い。このような場合に、ボイラの運転を開始すると、缶水の水位が異常高のままで、ボイラの運転がなされて、キャリオーバによって質の低下した蒸気を負荷側に供給してしまうという問題があった。
【0010】
この発明は、以上の点に鑑み、台数制御により多缶設置されたボイラの運転が行われる場合に、蒸気を供給する負荷側にキャリオーバに起因して質の低下した蒸気が供給されるのを防止できるボイラシステムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の請求項1記載の発明は、ボイラ水管をバーナの燃焼熱から保護するために、ボイラをコールドな状態から運転する場合に、缶水の水位が上げられる多缶設置の前記ボイラに対して、これらのボイラの運転が台数制御によりなされるボイラシステムの運転方法であって、前記台数制御による前記ボイラの運転を開始する前に、全ての前記ボイラを一定時間だけ低負荷で強制運転することを特徴とする。
【0012】
例えば、蒸気の需要が無くなる夕方に、台数制御によるボイラの運転を停止し、蒸気の需要が生じる朝方に、台数制御によるボイラの運転を開始する場合、全てのボイラは、外面からの放熱によって、朝方には缶水の温度が下がったコールドな状態となっている。したがって、この状態でボイラを運転すると、バーナの燃焼熱により水管の一部を損傷することとなる。このため、ボイラがコールドな状態にある場合には、給水ポンプを用いて缶水の水位を所定量だけ上昇させた後、バーナが燃焼される。したがって、かかる場合、缶水の水位上昇によるキャリオーバが生じ易くなり、蒸気中に缶水を含み易くなって、蒸気の質が低下する。なお、コールドの状態とは、バーナを燃焼させてもボイラが直ちに蒸気を発生させない状態を言い、例えば、缶水の温度が100℃より低い状態を言う。
【0013】
この発明では、台数制御によるボイラの運転を開始する前に、全てのボイラを一定時間だけ低負荷で強制運転して、ホットな状態に変え、その後、台数制御によるボイラの運転を開始するようにしている。したがって、その後、台数制御によりどのボイラの運転が開始されても、全てのボイラの缶水の温度は蒸気の飽和温度に近く、バーナの燃焼により直ちに蒸気が発生するため、缶水の水位を上げなくても、バーナの燃焼熱によって水管が損傷することはない。
【0014】
この発明の請求項2記載の発明は、複数のボイラの運転が台数制御によりなされる多缶設置のボイラシステムの運転方法であって、前記台数制御によるボイラの運転中に、停止中のボイラにつき缶水の水位を検出し、この水位が通常水位より高い場合には、このボイラを一定時間だけ低負荷で強制運転することを特徴とする。
【0015】
台数制御によるボイラの運転中、全てのボイラの主蒸気弁は開けられたままとなるため、主蒸気弁近くの逆止弁に作動不良があると、停止中のボイラの逆止弁から侵入した、運転中のボイラの蒸気が、停止中のボイラ内で凝縮し、このボイラの缶水の水位を上昇させてしまう。この場合、優先順位が低くて長時間運転がなされなかったボイラがあると、このボイラの缶水の水位は、通常水位を充分に超えた状態となる。このような缶水の水位が通常の水位を充分に超えたボイラの運転を行うと、キャリオーバによって蒸気の質の低下を生じさせる。
【0016】
この発明では、台数制御によるボイラの運転中に、運転制御されていない停止中のボイラにつき缶水の水位を検出し、この水位が通常水位より高いボイラがある場合には、かかるボイラを一定時間だけ低負荷で強制運転して、この缶水の水位を通常の状態に戻し、その後、台数制御によりボイラの運転を行うようにしている。
【0017】
この発明の請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明の場合において、前記強制運転時に前記ボイラから発生した蒸気は、このボイラの主蒸気弁上流側に設けられた分岐配管を用いて、ボイラ外に排出されることを特徴とする。
【0018】
この発明の請求項4記載の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の発明の場合において、前記強制運転時に前記ボイラから発生した蒸気は、給水タンク内のボイラ給水の加温に使用されることを特徴とする。
【0019】
この発明の請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の場合において、前記ボイラ給水の加温に使用される蒸気は、このボイラ給水の温度が所定値に達すると、大気に放出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
この発明の請求項1記載の発明によれば、台数制御によるボイラの運転を開始する前に、全てのボイラを一定時間だけ低負荷で強制運転してホットな状態に変えているので、その後、台数制御によるボイラの運転を開始しても、缶水の水位を上昇させる必要はなく、蒸気供給先である負荷側に、キャリオーバに起因して質の低下した蒸気が供給されるのを防止することができる。
【0021】
この発明の請求項2記載の発明によれば、台数制御によるボイラの運転中に、停止しているボイラの缶水の水位を検出し、この水位が通常水位より高いボイラがある場合には、かかるボイラを一定時間だけ低負荷で強制運転して、この缶水の水位を通常の状態に戻している。したがって、台数制御によるボイラの運転中に、缶水の水位が通常の状態を超えて異常に高いボイラの運転がなされることはなく、キャリオーバに起因して質の低下した蒸気が負荷側に供給されるのを防止することができる。
【0022】
この発明の請求項3記載の発明によれば、強制運転時にボイラから発生した蒸気を、ボイラの主蒸気弁上流側に設けられた分岐配管を用いて、ボイラ外に排出しているので、強制運転時の質の低下した蒸気が、蒸気の負荷側に流れるのを防止することができる。
【0023】
この発明の請求項4記載の発明によれば、ボイラの強制運転時に発生させた蒸気を、蒸気の質を余り問題としない給水タンクの加温に用いているので、エネルギーの無駄使いを抑えることができる。
【0024】
この発明の請求項5記載の発明によれば、給水タンク内のボイラ給水の温め過ぎを防止することにより、給水ポンプがキャビテーションを引き起こして損傷するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
実施形態1.
図1は、この発明を実施するためのボイラシステムを示している
【0026】
ボイラシステムAは、図1で示されるように、例えば、多缶設置された3缶のボイラ1と、給水タンク2と、蒸気ヘッダ3と、蒸気使用装置4と、台数制御部5と、強制運転制御部6とを有している。なお、3缶のボイラ1と蒸気ヘッダ3とは、連絡蒸気配管P0により連結されている。
【0027】
ボイラ1は、多管式の小型貫流ボイラであり、図2で示されるように、リング状の上部管寄せ10aと下部管寄せ10b間を、上下に長い多数の水管10cで連結したボイラ本体10と、上部管寄せ10a側に下向きに設けられ、燃焼量が、高燃焼、低燃焼、燃焼停止の3段階でコントロールされるバーナ11と、下部管寄せ10bにボイラ給水W1を供給する給水ラインR中の給水ポンプ12と、連絡管P1,P2を介して、上部管寄せ10aと給水ラインRとに連通され、ボイラ本体10からの蒸気Sを缶水W2と分離する気液分離器13と、連絡管P3,P4を介して、上部管寄せ10aと下部管寄せ10bとに連通された缶水W2の水位検出筒14と、水位検出筒14内に設けられ、缶水W2の異常低レベル、低レベル、高レベルをそれぞれ検知する3本の電極棒15A,15B,15Cと、気液分離器13からの主蒸気配管P5中に設けられた電磁弁からなる主蒸気弁16及び逆止弁17と、ボイラ1をコントロールするための運転制御部18とを有している。
【0028】
運転制御部18は、給水ポンプ12をON/OFF作動させて、ボイラ本体10内の缶水W2の水位調整を行う。すなわち、運転制御部18は、電極棒15Aのみが缶水W2を検出しているときは、水位異常低でバーナ11の燃焼停止を行い、電極棒15A,15Bのみが缶水W2を検出しているときは、水位低で給水ポンプ12を作動させ、3つの電極棒15A,15B,15Cが缶水W2を検出しているときは、水位高で給水ポンプ12を停止させる。
【0029】
また、缶水W2の水位調整に関して、運転制御部18は、バーナ11の燃焼熱による水管10cの損傷を防止すべく、バーナ11の燃焼開始に当たって、温度検出器10dにより缶水W2の温度を検出し、ボイラ1がコールド(缶水W2の温度が100℃未満)の状態にある場合には、この温度に反比例させるように缶水W2の水位を上昇させ、その後、バーナ11を燃焼させるようにしている。すなわち、缶水W2の温度が低く(例えば20℃)て蒸気発生まで時間を要する場合には、3つの電極棒15A,15B,15Cが缶水W2を検出した後も、例えば、6秒間給水ポンプ12を作動させて、缶水W2の水位を上げた後、バーナ11を燃焼させ、缶水W2の温度が比較的高く(例えば60℃)て、蒸気発生まで比較的時間を要しない場合には、3つの電極棒15A,15B,15Cが缶水W2を検出した後も、例えば、3秒間給水ポンプ12を作動させて、缶水W2の水位を上げた後、バーナ11を燃焼させる。なお、上記時間は、ボイラ1がホット、すなわち、缶水W2の温度が100℃以上の場合には設定されない。
【0030】
さらに、運転制御部18は、台数制御部5によるコントロールがなくボイラ1が単独運転される場合には、気液分離器13に設けられた圧力検出器13aからの信号に基づき、バーナ11の燃焼量を、高燃焼、低燃焼、燃焼停止の3段階でコントロールして、気液分離器13内の蒸気圧を所定範囲内に調整する。
【0031】
蒸気使用装置4は、ボイラシステムAが強制運転モード(後述)にある場合に、各ボイラ1から発生した蒸気Sを利用又は大気放出するためのものである。この蒸気使用装置4は、図1で示されるように、各ボイラ1の主蒸気弁16上流側の主蒸気配管P5からの分岐配管40aを含むとともに、これらを合流させて給水タンク2まで延びる蒸気配管40と、蒸気配管40に連結されて、給水タンク2内のボイラ給水W1を加温する蒸気ヒータ41と、給水タンク2内のボイラ給水W1の温度を検出する温度検出器42と、各分岐配管40a中に設けられたバイパス電磁弁43と、蒸気配管40から分岐した大気放出配管44と、大気放出配管44の分岐後の蒸気配管40中に設けられたタンク加温電磁弁45と、大気放出配管44中に設けられた大気放出電磁弁46とから構成される。
【0032】
台数制御部5は、多缶設置されたボイラの運転を台数制御よってなすものである。台数制御とは、負荷変動に伴う蒸気集合部(蒸気ヘッダ3)の蒸気圧の変化に基づいて、複数のボイラの運転を行う場合に、ボイラの運転に優先順位を定め、優先順位の高いボイラの順にボイラの運転を行わせるものである。バーナの燃焼量が段階的に制御される複数のボイラを台数制御により運転する場合には、バーナの段階的な燃焼量とボイラの運転の優先順位とが組み合わされる。図1で示される3缶のボイラ1のうち、左のボイラ1Aの優先順位を最も高くし、中のボイラ1B、右のボイラ1Cの順に優先順位を下げた場合に、台数制御によるボイラの運転を行うと、例えば、最初は、ボイラ1Aのみをバーナ11が低燃焼となるように運転させ、蒸気負荷が増して蒸気ヘッダ3内の蒸気圧が減少すると、ボイラ1Aのバーナ11を高燃焼させ、更に蒸気負荷が増して蒸気ヘッダ3内の蒸気圧が減少すると、ボイラ1Aのバーナ11を高燃焼させるとともに、ボイラ1Bのバーナ11を低燃焼させるというように、ボイラ1の運転は制御される。
【0033】
台数制御部5は、蒸気ヘッダ3に設けられた圧力検出器30及び各ボイラ1の運転制御部18と信号配線Gで接続されており、圧力検出器30からの蒸気圧信号に基づいて、各ボイラ1の運転制御部18に運転信号を送って、各ボイラ1の運転を制御する。
【0034】
強制運転制御部6は、台数制御によるボイラ1の運転を開始する前に、全てのボイラ1を一定時間だけ低負荷で強制運転させる機能と、このボイラ1の強制運転時に発生した蒸気Sを給水タンク2の加温に使用させるとともに、必要により(給水ポンプ12に対するキャビテーション防止のため)、この蒸気Sを大気放出させる機能を有するものである。
【0035】
強制運転制御部6は、図1で示されるように、各ボイラ1の運転制御部18、台数制御部5、各ボイラ1の主蒸気弁(電磁弁)16、及び、蒸気使用装置4の、バイパス電磁弁43、タンク加温電磁弁45、大気放出電磁弁46と信号配線Gで接続されている。なお、強制運転制御部6には、図1で示されるように、運転を開始する運転ボタン60と、全てのボイラ1の運転を停止する運転停止ボタン61と、強制運転を行わないバイパスボタン62とが設けられている。
【0036】
強制運転制御部6の動作を図3のフローチャートを参照しつつ説明する。
運転ボタン60が押される(S10)と、バイパスボタン62が押されたか否かが判断され(S11)、バイパスボタン62が押されていないと、強制運転モードとなる(S12)。強制運転モードになると、タイマーがリセットされ(S13)、例えば、最初のボイラ1Aの運転制御部18に運転開始の信号が伝達されて、このボイラ1Aの低負荷による強制運転が開始される(S14)。また、タイマーのリセットと同時に、ボイラ1Aの主蒸気弁16が閉じられる(閉じられている場合はその確認がなされる)とともに、蒸気使用装置4のボイラ1A側のバイパス電磁弁43とタンク加熱電磁弁45とが開けられ、かつ、大気解放電磁弁46が閉じられて、ボイラ1Aからの蒸気Sが給水タンク2の加温に使用できるようになる。つづいて、ボイラ1Aの運転開始後、所定時間(例えば15分間)が経過したか否かが判断される(S15)。この間、ボイラ1Aから所定圧の蒸気Sが発生しても、給水タンク2側の蒸気Sの使用量は僅かであるため、ボイラ1Aのバーナ11は、必要により低燃焼と燃焼停止とを繰り返すと考えられる。
【0037】
ステップS15において、所定時間経過と判断されると、運転制御部18にボイラ1Aの運転停止が指示される(S16)。つづいて、全てのボイラ1への強制運転指令が終了したか否かが判断され(S17)、終了していなければ、ステップS13に戻り同様の操作が繰り返される。すなわち、タイマーがリセットされて(S13)、つぎのボイラ1Bの運転が開始される(S14)とともに、ボイラ1A近傍のバイパス電磁弁43が閉じられる。同時に、ボイラ1Bの主蒸気弁16が閉じられるとともに、ボイラ1B近傍のバイパス電磁弁43が開けられて、ボイラ1Bからの蒸気Sが給水タンク2の加温に使用できるようになる。その後、ボイラ1Cの強制運転も終了し、ステップS17において全ボイラへの強制運転指令が終了したと判断されると、タンク加温電磁弁45が閉じられるとともに、ボイラ1Cの運転終了確認(S18)の後、台数制御部5に台数制御によるボイラ1の運転指令が伝達される(S19)。また、ステップS11において、バイパスボタン62が押されている場合も、台数制御部5に台数制御によるボイラ1の運転指令が伝達される(S19)。
【0038】
ここで、ボイラ1の強制運転中に、運転停止ボタン61が押されると、強制運転モードが解除されて、全てのボイラ1の運転が停止されるが、台数制御方式によりボイラ1の運転がなされている場合も同様に、全てのボイラ1の運転が停止される。また、給水タンク2内のボイラ給水W1の温度が、給水ポンプ12にキャビテーションを生じさせる虞のある温度に達すると、タンク加温電磁弁45が閉じられ、大気放出電磁弁46が開けられて、ボイラ1の強制運転時に発生した蒸気Sは大気放出される。なお、台数制御によるボイラ1の運転の開始に当たって、運転の優先順位の低いボイラ1B,1Cの主蒸気弁16は、強制運転時におけるボイラ1内の蒸気圧が低下しないタイミングで開かれるものとする。
【0039】
つぎに、ボイラシステムAの作用効果について説明する。
例えば、蒸気Sの需要が生じる朝方に、ボイラ1の運転を開始し、蒸気Sの需要が無くなる一日の内の夕方に、ボイラ1の運転を停止する場合、ボイラ1の停止後、主蒸気弁16を閉じてボイラ1を密閉しても、大気への放熱によって、朝方、ボイラ1は、その蒸気圧が大気圧まで減少し、缶水W1の温度も100℃より下がったコールドな状態となっている場合が多い。このようなコールドな状態にあるボイラ1を運転すると、水管10c保護の観点から、バーナ11の燃焼前に、缶水W2の水位が通常より上げられて、キャリオーバが生じやすくなり、発生した蒸気Sの質が問題となる。
【0040】
また、朝方、台数制御によるボイラ1を運転を開始すると、まず、優先順位の高いボイラ1Aが運転されるが、蒸気負荷が小さい場合、他のボイラ1B,1Cは運転されず、夕方、台数制御によるボイラ1の運転を終了したときには、ボイラ1B,1Cはコールドに近い状態になっている。かかる場合に、ボイラ1B,1Cは、翌朝には、ほぼ確実にコールドな状態になっており、場合によっては、ボイラ1Aもコールドな状態になっている。したがって、このようなボイラ1を、再び台数制御により運転すると、まず、優先順位の高いボイラ1Aから発生した蒸気Sの質が問題になるとともに、その後の負荷の増加に伴って運転されるボイラ1B,1Cからの蒸気の質も問題となる。
【0041】
一方、このボイラシステムAでは、蒸気負荷が本格的に発生する前、すなわち、台数制御によるボイラ1の運転を開始する前に、全てのボイラ1を順次一定時間だけ低負荷で強制運転している。したがって、このボイラシステムAでは、台数制御によるボイラ1の運転を開始するとき、すなわち、蒸気負荷が本格的に発生するときには、全てのボイラ1は強制運転によってホットな状態になっており、これらのボイラ1を運転しても、缶水W2の水位を上げる必要がないので、キャリオーバが生じにくく、これらのボイラ1から発生した蒸気Sの質が低下することはない。したがって、ボイラ1から発生した蒸気Sを、直接食品等に吹き込むような作業も可能となる。
【0042】
また、このボイラシステムAでは、ボイラ1の強制運転で発生した蒸気Sを給水タンク2の加温に使用しているので、この蒸気Sが無駄になってしまうことはない。この場合、ボイラ1の強制運転時に発生した蒸気Sの質は低いが、給水タンク2中のボイラ給水W1の加温には蒸気Sの質は問題とならない。なお、このボイラシステムAでは、給水タンク2中のボイラ給水W1の温度が所定値を超えると、ボイラ1の強制運転時に発生した蒸気Sを大気に放出することとしているので、ボイラ給水W1の温度に起因して、給水ポンプ12にキャビテーションが生じてしまうことはない。
【0043】
さらに、このボイラシステムAでは、ボイラ1の強制運転時に発生した蒸気Sを、各ボイラ1の主蒸気弁16の上流側に設けられた蒸気配管40を用いて、各ボイラ1からそれぞれ排出して(取り出して)いるので、強制運転時の質の低下した蒸気Sが、蒸気ヘッダ3下流側の蒸気Sの負荷側に流れるのを防止することができる。したがって、質の低下した蒸気Sが、その後、質の良い蒸気Sと混ざり合うことはない。
【0044】
なお、強制運転モードにおいて、各ボイラ1は、常用圧力の蒸気Sを発生させた直後にボイラ1の運転を停止し、ボイラ1の強制運転の時間を短縮してもよい。
【0045】
また、ボイラ1の強制運転時に発生した蒸気Sは、給水タンク2の加温には用いず、全て大気放出としてもよい。
【0046】
さらに、強制運転モードにおいて、2缶又は3缶のボイラ1を同時に、低負荷で強制運転し、ボイラ1の強制運転の時間を短縮してもよい。この場合、発生した蒸気の一部を給水タンク2内のボイラ給水W1の加温に用い、残りを大気放出してもよい。
【0047】
また、ボイラ1のバイパス電磁弁43を開くタイミングは、ボイラ1内の蒸気圧を常用圧近くまで上昇させた後であってもよい。
【0048】
さらに、蒸気使用装置4の蒸気配管40を、図4で示されるように、ボイラ1の主蒸気配管P5側から設けず、蒸気ヘッダ3側から設けるようにしてもよい。この場合、ボイラ1の主蒸気弁16は手動弁とし、ボイラ1の強制運転時には、3つの主蒸気弁16は、全て開けておくものとするが、強制運転時のボイラ1切替に際して、強制運転後のボイラ1内の蒸気圧を低下させないように、タンク加熱電磁弁45はタイミング良く開閉されるものとする。
【0049】
実施形態2.
図5は、この発明の他の運転方法を実施するためのボイラシステムAを示している。このボイラシステムAでは、ボイラ1’による、バーナ11の燃焼熱に対する水管10c保護の動作が、ボイラ1による水管10c保護の動作と異なっているとともに、台数制御部5’の動作が、台数制御部5の動作と異なっている。なお、この実施形態2のボイラシステムAでは、独立した強制運転制御部6は設けられておらず、温度検出器42からの温度信号を受ける台数制御部5’が、主蒸気弁16、バイパス電磁弁43、タンク加温電磁弁45、大気放出電磁弁46の開閉を制御する。
【0050】
図6は、水位検出筒14内に、運転開始レベルを検知する4つめの電極棒15Dを有するボイラ1’を示している。このボイラ1’では、バーナ11の燃焼熱による水管10cの損傷を防止すべく、ボイラ1’の運転開始に当たって、4つの電極棒15A,15B,15C,15Dが缶水W2を最初に検出する水位H1まで、缶水W2の水位を上昇させ、その後、バーナ11を燃焼させるようにしている。ボイラ1’とボイラ1とは、缶水W2の水位の上昇のさせ方が異なるのみである。なお、ボイラ1’は、缶水水位が水位H1に達すると、缶水W2の水位上昇を停止する。
【0051】
また、このボイラシステムAの台数制御部5’は、台数制御によるボイラ1の運転中に、運転制御されていない停止中のボイラ1’の缶水W2の水位を常時検出し、この水位が通常水位より高い水位、すなわち、電極棒15Dが缶水W2を検出する異常高の水位(水位H1)に達している場合には、この水位の高いボイラ1を一定時間だけ低負荷で強制運転させる機能と、このボイラ1の強制運転時に発生した蒸気Sを給水タンク2の加温に使用させるとともに、必要により(給水ポンプ12に対するキャビテーション防止のため)、この蒸気Sを大気放出させる機能とを有するものである。もちろん、この台数制御部5’は、実施形態1で説明した台数制御部5の機能も有している。
【0052】
この台数制御部5’の動作を図7のフローチャートを参照しつつ説明する。
台数制御によるボイラ1’運転中に、運転制御されず停止しているボイラ1’の缶水W2の水位がチェックされた(S20)後、このボイラ1’の缶水水位が異常高であるか(水位H1に達しているか)否かが判断される(S21)。そして、例えばボイラ1’Bの缶水水位が異常高と判断される場合には、強制運転モード(S22)となり、タイマーがリセットされ(S23)、ボイラ1’Bの運転制御部18に運転開始の信号が伝達されて、このボイラ1’Bの低負荷による強制運転が開始される(S24)。また、タイマーのリセットと同時に、ボイラ1’Bの主蒸気弁16が閉じられるとともに、蒸気使用装置4のボイラ1’B側のバイパス電磁弁43とタンク加熱電磁弁45とが開けられ、かつ、大気解放電磁弁46が閉じられて、ボイラ1Aからの蒸気Sが給水タンク2の加温に使用できるようになる。
【0053】
つづいて、ボイラ1’Bの運転開始後、所定時間(例えば15分間)が経過したか否かが判断される(S25)。そして、所定時間経過と判断されると、運転制御部18にボイラ1’Bの運転終了が指示される(S26)とともに、ボイラ1’B近傍のバイパス電磁弁43が閉じられ、かつ、ボイラ1’Bの主蒸気弁16が開けられ、更に、タンク加温電磁弁45が閉じられる。そして、ボイラ1’Bの運転終了確認(S27)の後、ステップS20に戻され、同様な動作が繰り返される。
【0054】
つぎに、このボイラシステムAの作用効果について説明する。
台数制御によるボイラ1’の運転中においては、まず、優先順位の高いボイラ1’Aが運転されるが、その後の蒸気負荷が小さい場合には、他のボイラ1’B,1’Cが全く運転されない場合もある。この場合に、ボイラ1’B,1’Cの逆止弁17に作動不良があると、停止中のボイラ1’B,1’Cの逆止弁17から侵入した、運転中のボイラ1’Aの蒸気Sが、停止中のボイラ1’B,1’C内で凝縮し、これらのボイラ1’B,1’Cの缶水W2の水位を上昇させる。そして、缶水W2の水位が所定値、すなわち、ボイラ1’の運転を開始する場合の缶水W2の水位H1を超えると、これらのボイラ1’B,1’Cを運転した場合に、キャリオーバによって、蒸気Sの質は大きく低下する。
【0055】
一方、このボイラシステムAでは、台数制御によるボイラ1’の運転中に、運転制御されていない停止中のボイラ1’につき缶水W2の水位を常時検出し、この水位が通常水位より高くなった(異常高である水位H1に達した)時点で、このボイラ1’を一定時間だけ低負荷で強制運転し、このボイラ1’の缶水水位を下げるようにしている。このため、このボイラシステムAでは、逆止弁17の作動不良等により缶水W2の水位が上昇しても、この水位が、ボイラ1’の運転開始に当たって必要とされる、水管10c保護用の缶水水位H1を超えることはない。したがって、このボイラシステムAでは、その後、台数制御により、どのボイラ1’を運転しても、キャリオーバは生じにくく、蒸気Sの負荷側において、ボイラ1’から発生した蒸気Sの質が大きく低下してしまうことはない。
【0056】
また、このボイラシステムAでは、ボイラ1の強制運転で発生した蒸気Sを給水タンク2の加温に使用しているので、この蒸気Sが無駄になってしまうことはない。
【0057】
なお、ボイラ1’の缶水W2の水位が通常レベルまで下がっておれば、強制運転モードにおいて、ボイラ1’は、常用圧力の蒸気Sを発生させた直後にボイラ1’の運転を停止し、ボイラ1’の強制運転の時間を短縮してもよい。
【0058】
また、ボイラ1’の強制運転時に発生した蒸気Sは、給水タンク2の加温には用いず、全て大気放出としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施形態1のボイラシステムを示す図である。
【図2】図1のボイラシステム中のボイラの説明図である。
【図3】図1のボイラシステムの強制運転制御部の動作を示すフローチャートである。
【図4】図1のボイラシステムの一部を変えた別のボイラシステムを示す図である。
【図5】実施形態2のボイラシステムを示す図である。
【図6】図5のボイラシステム中のボイラの説明図である。
【図7】図5のボイラシステムの台数制御部の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
1,1’ ボイラ
2 給水タンク
10c 水管(ボイラ水管)
11 バーナ
16 主蒸気弁
40a 分岐配管
A ボイラシステム
S 蒸気
W1 ボイラ給水
W2 缶水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ水管をバーナの燃焼熱から保護するために、ボイラをコールドな状態から運転する場合に、缶水の水位が上げられる多缶設置の前記ボイラに対して、これらのボイラの運転が台数制御によりなされるボイラシステムの運転方法であって、
前記台数制御による前記ボイラの運転を開始する前に、全ての前記ボイラを一定時間だけ低負荷で強制運転することを特徴とするボイラシステムの運転方法。
【請求項2】
複数のボイラの運転が台数制御によりなされる多缶設置のボイラシステムの運転方法であって、
前記台数制御によるボイラの運転中に、停止中のボイラにつき缶水の水位を検出し、この水位が通常水位より高い場合には、このボイラを一定時間だけ低負荷で強制運転することを特徴とするボイラシステムの運転方法。
【請求項3】
前記強制運転時に前記ボイラから発生した蒸気は、このボイラの主蒸気弁上流側に設けられた分岐配管を用いて、ボイラ外に排出されることを特徴とする請求項1又は2記載のボイラシステムの運転方法。
【請求項4】
前記強制運転時に前記ボイラから発生した蒸気は、給水タンク内のボイラ給水の加温に使用されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のボイラシステムの運転方法。
【請求項5】
前記ボイラ給水の加温に使用される蒸気は、このボイラ給水の温度が所定値に達すると、大気に放出されることを特徴とする請求項4記載のボイラシステムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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