説明

ボイラブロー水の熱回収システム

【課題】ブロー水を多量の冷却水によって冷却する必要がなく、ブロー水が有する熱エネルギを回収してボイラへの給気を加熱することによってボイラの運転コストを下げることができるボイラブロー水の熱回収システムを提供すること。
【解決手段】ボイラ1から排出されるブロー水の熱をヒートポンプ2によって汲み上げ、その熱によってボイラ1への給気(燃焼用空気)を加熱する。即ち、ボイラ1から排出されるブロー水を前記ヒートポンプ2のエバポレータ16における冷媒との熱交換によって冷却するとともに、ヒートポンプ2のコンデンサ14における冷媒の凝縮熱によってボイラ1への給気を加熱する。又、前記ヒートポンプ2のエバポレータ16における冷媒との熱交換によって冷却されたブロー水を中和する中和装置12を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラから排出されるブロー水の熱を回収してボイラの給気(燃焼用空気)を加熱(予熱)するようにしたボイラブロー水の熱回収システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボイラにおいては、腐食を防止するためにカルシウムイオンやマグネシウムイオンをナトリウムイオンに交換したイオン交換水等の軟水が用いられるとともに、アルカリ性剤が添加剤としてボイラ水に加えられ、ボイラ水のpHが11前後(アルカリ性)に調整されて運転管理されている。
【0003】
而して、ボイラでは、蒸気の発生によってボイラ水中のミネラル分等の不純物やアルカリ性剤が濃縮されるが、ボイラ水中の不純物やアルカリ性剤の濃度が高くなるとスケール等が発生したり、蒸気の乾き度の維持が困難となるという問題が発生する。このため、ボイラでは、不純物やアルカリ性剤の濃度が高いボイラ水の一部をブロー水として排出(ブローダウン)し、残ったボイラ水を補給水で希釈することが行われている。この場合、排出されるブロー水のpHは11前後とアルカリ性が強いため、中和装置において酸を用いてブロー水のpHが5〜9程度の中性領域の値となるよう中和してから放流するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
中和装置には、炭酸ガスをブロー水に混合させることによって、ブロー水中に含まれる強アルカリ成分由来のNa やK 等の陽イオンに炭酸塩を形成させ、ブロー水のpHを緩やかに中性領域の値に導くようにしたものが知られている。この場合、炭酸ガスは高温のブロー水に吸収されにくいため、中和装置においてブロー水を多量の冷却水によって希釈して温度を40℃以下まで下げた後、このブロー水に炭酸ガスを吹き込んで吸収させるようにしている。
【0005】
ところで、ボイラから排出されるブロー水はかなりの熱エネルギを有しているため、この熱エネルギを回収して再利用することが望まれる。例えば、特許文献2には、ボイラから排出されるブロー水をフラッシュタンクに導入して減圧することによって低圧蒸気と温水とに分離し、分離された低圧蒸気を圧縮機によって圧縮して高圧の蒸気にして吐出するようにしたエネルギ回収システムが提案されている。
【0006】
又、特許文献3には、ボイラへの給水をヒートポンプによって加熱(予熱)したり、ボイラに供給される給気(燃焼用空気)をボイラからの排出ガスによって加熱(予熱)するようにした蒸気供給システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−000755号公報
【特許文献2】特開2009−250582号公報
【特許文献3】特開2006−308164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のようにボイラから排出されるブロー水を中和装置において多量の冷却水で希釈して温度を40℃以下まで下げ、pHを中性付近にするためには、多量の冷却水を必要とするという問題がある。又、かなりの熱エネルギを有するブロー水をそのまま排出することはエネルギの利用効率が悪く、ボイラの運転コストを下げることができないという問題もある。
【0009】
特許文献2において提案されたエネルギ回収システムにはフラッシュタンクと圧縮機を要する他、フラッシュタンクにおいて分離された温水をそのまま排出するため、この温水が有する熱エネルギを回収することができないという問題がある。又、特許文献3において提案された蒸気供給システムはブロー水の熱エネルギを回収する方式を採用していない。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とする処は、ブロー水を多量の冷却水によって冷却する必要がなく、ブロー水が有する熱エネルギを回収してボイラへの給気を加熱することによってボイラの運転コストを下げることができるボイラブロー水の熱回収システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、ボイラから排出されるブロー水の熱をヒートポンプによって汲み上げ、その熱によってボイラへの給気を加熱することを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、ボイラから排出されるブロー水を前記ヒートポンプのエバポレータにおける冷媒との熱交換によって冷却するとともに、ヒートポンプのコンデンサにおける冷媒の凝縮熱によってボイラへの給気を加熱することを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記ヒートポンプのエバポレータにおける冷媒との熱交換によって冷却されたブロー水を中和する中和装置を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ボイラから排出されるブロー水をヒートポンプのエバポレータにおける冷媒との熱交換によって冷却するようにしたため、ブロー水を多量の冷却水によって冷却する必要がなく、冷却設備が不要となって設備費を削減することができる。又、ヒートポンプのコンデンサにおける冷媒の凝縮熱によってボイラへの給気(燃焼用空気)を加熱(予熱)するようにしたため、所定温度及び所定量の蒸気を発生させるために必要な燃料が少なくて済み、その分だけ燃料コストを削減しボイラの運転コストを下げることこができる。
【0015】
更に、中和装置においては、ヒートポンプのエバポレータにおける冷媒との熱交換によって冷却されたブロー水に例えば炭酸ガスを吹き込むことによって、炭酸ガスがブロー水に混合されて該ブロー水が効率良く中和される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るボイラブロー水の熱回収システムの構成図である。
【図2】本発明に係るボイラブロー水の熱回収システムに用いられるヒートポンプにおける冷媒の状態変化を示すモリエル線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明に係るボイラブロー水の熱回収システムの構成図、図2は同熱回収システムに用いられるヒートポンプにおける冷媒の状態変化を示すモリエル線図である。
【0019】
図1に示す熱回収システムは、ボイラ1から排出されるブロー水の熱をヒートポンプ2によって汲み上げ、その熱によってボイラ1への給気(燃焼用空気)を加熱(予熱)するものであって、ボイラ1からはブロー水導入管3が延びており、このブロー水導入管3は、ブロー水を貯留するブロー槽4の上部に開口している。尚、本実施の形態に係るボイラ1では、ファン5によって給気(燃焼用空気)が供給され、この給気に燃料(油又はガス)が噴射されて所定空燃比(A/F)の混合気が形成され、この混合気がボイラ1の燃焼部において燃焼することによってボイラ1において所定温度及び所定量の蒸気が発生する。
【0020】
上記ブロー槽4からはブロー水排出管6が延びており、このブロー水排出管6には排水ポンプ7と炭酸ガス吸込部8及び反応筒9が設けられている。又、ブロー水排出管6の前記排水ポンプ7と前記炭酸ガス吸込部8の間には炭酸ガスボンベ10から延びるガス吹込管11が接続されている。ここで、炭酸ガス吸込部8と反応筒9及び炭酸ガスボンベ10は中和装置12を構成している。
【0021】
前記ヒートポンプ2は、基本的にコンプレッサ13、コンデンサ14、減圧手段としての膨張弁15及びエバポレータ16を冷媒配管L1,L2,L3,L4によって接続して構成されている。そして、エバポレータ16と前記ブロー槽4とはブロー水管17,18によって接続されており、一方のブロー水管17には循環ポンプ19が設けられている。又、前記コンデンサ14は、ボイラ1の燃焼部に給気が供給される給気通路に設置されている。尚、本実施の形態では、ヒートポンプ2を循環する冷媒としてはフロン系のHCFC(R−22)を用いた。
【0022】
而して、ボイラ1が運転されて蒸気が発生すると、ボイラ水中のミネラル分等の不純物やアルカリ性剤が濃縮されるため、濃縮された濃度の高いボイラ水の一部がブロー水としてブロー水導入管3からブロー槽4へと導入されて貯留される。尚、ボイラ1に残ったボイラ水は補給水によって希釈されて所定の水質が保持される。
【0023】
ブロー槽4に貯留された高温のブロー水は、循環ポンプ19によってブロー水管17からヒートポンプ2のエバポレータ16へと導入され、ここでの冷媒との熱交換によって冷却される。即ち、後述のようにブロー水が保有する熱はエバポレータ16において冷媒の蒸発潜熱として奪われるために該ブロー水が冷却され、冷却されたブロー水はブロー水管18を通ってブロー槽4へと戻され、以下、同様の作用が繰り返されてブロー槽4内のブロー水が順次冷却される。
【0024】
上述のようにして冷却されたブロー槽4内のブロー水は、排水ポンプ7によって汲み上げられてブロー水排出管6を流れるが、その過程で炭酸ガスボンベ10からガス吹込管11を経て供給される炭酸ガスが炭酸ガス吸込部8に吸い込まれ、吸い込まれた炭酸ガスは反応筒9においてブロー水と接触してブロー水に混合され、pH11程度のアルカリ性の強いブロー水が中和されてそのpHが5〜9程度に中和される。この場合、ブロー水は冷却されてその温度が下げられているため、炭酸ガスのブロー水への吸収が効率良くなされる。尚、本実施の形態では、温度80℃のブロー水が冷却されて温度40℃まで下げられる。
【0025】
そして、中和装置12において炭酸ガスによって中和されたブロー水は、反応筒9からブロー水排出管6を通って放流される。
【0026】
他方、ヒートポンプ2のコンデンサ14においては、ここを通過する給気が冷媒の凝縮熱によって加熱(予熱)され、この加熱された給気がボイラ1へと供給されて混合気の形成に供される。尚、本実施の形態では、温度20℃の給気が温度36.5℃まで加熱される。
【0027】
ここで、ヒートポンプ2における冷媒の状態変化を図2に示すモリエル線図(P−i線図)に基づいて説明する。
【0028】
コンプレッサ13が不図示の電動モータによって駆動されると、図2のaにて示す状態(圧力P 、エンタルピi )にあるガス冷媒(温度20℃)がコンプレッサ13によって圧縮されて図2にbにて示す状態(圧力P 、エンタルピi )の高温(70℃)・高圧のガス冷媒となり(圧縮行程)、このガス冷媒は冷媒配管L1を通ってコンデンサ14へと導入される。尚、このときのコンプレッサ13の圧縮動力W(熱量換算)は(i −i )で表され、本実施の形態ではW=30kJ/kgである。
【0029】
コンデンサ14では高温(70℃)・高圧のガス冷媒が給気に凝縮潜熱Q を放出して該給気を加熱(予熱)し、図2のb→cへと状態変化(相変化)して液化し(凝縮行程)、図2にcにて示す過冷却状態(圧力P 、エンタルピi )の高圧液冷媒(温度20℃)となる。尚、このときの冷媒の凝縮潜熱Q は(i −i )で表され、本実施の形態ではQ =190kJ/kgであって、この凝縮潜熱Q によって温度20℃の給気が温度36.5℃まで加熱(予熱)される。
【0030】
上述のようにコンデンサ14において液化及び過冷却された高圧液冷媒は、コンデンサ14から冷媒配管L2を通って膨張弁15に向かい、この膨張弁15を通過することによって減圧されて断熱膨張(等エンタルピ膨張)し(膨張行程)、図2のc→dの状態(圧力P 、エンタルピi )へと状態変化し、その一部がガス化する。そして、一部がガス化した冷媒(温度20℃)は冷媒配管L3を通ってエバポレータ16に導入され、該エバポレータ16を通過する過程でブロー水から蒸発潜熱Q を奪って蒸発及び過熱され(蒸発行程)、図2のd→aの状態(圧力P 、エンタルピi )のガス冷媒となる。このときの冷媒の蒸発潜熱Q は(i −i )で表され、本実施の形態ではQ =160kJ/kgであって、この蒸発潜熱Q によって温度80℃のブロー水は冷却されてその温度が40℃まで下がる。
【0031】
而して、エバポレータ16において蒸発したガス冷媒(温度20℃)は、冷媒ラインL4を通ってコンプレッサ13へと導かれ、前述のようにコンプレッサ13によって再び圧縮され、以後は前述と同様の作用を繰り返してブロー水を冷却するとともに、給気を加熱(予熱)する。尚、本実施の形態に係るヒートポンプ2の成績係数(COP)はQ /W=190(kJ/h)/30(kJ/h)=6.3である。
【0032】
以上のように、本実施の形態では、ボイラ1から排出される温度80℃のブロー水をヒートポンプ2のエバポレータ16における冷媒との熱交換(冷媒の蒸発潜熱Q )によって温度40℃まで冷却するようにしたため、従来のようにブロー水を多量の冷却水によって冷却する必要がなく、冷却設備が不要となって設備費を削減することができる。このときのブロー水からの熱回収量Qは、ブロー水の流量G(=250kg/h)、比熱c(=1kJ/kg℃)、温度差ΔT(=40℃)を用いて次式にて表される。
【0033】
Q=G×c×ΔT=250(kg/h)×1(kJ/kg℃)×40(℃)
=10000kJ/h=11.6kW … (1)
又、ヒートポンプ2のコンデンサ14における冷媒の凝縮熱Q によってボイラ1への給気(燃焼用空気)を加熱(予熱)するようにしたため、所定温度及び所定量の蒸気を発生させるために必要な燃焼エネルギが下がり、その分だけ燃料コストが削減されてボイラ1の運転コストが下げられる。
【0034】
ここで、ブロー水から回収した熱量Q(=10000kJ/h)、温度20℃の給気の温度上昇ΔT、給気の流量G(=2515kg/h)、空気の比熱c(=0.241kJ/kg℃)とすると次式が成り立つ。
【0035】
Q=G×c×ΔT … (2)
従って、(2)式より給気の温度上昇ΔTは次式によって求められる。
【0036】
ΔT=Q/(G×c)
=10000(kJ/h)/(2515(kg/h)×0.241kJ/kg℃))
=16.5℃ … (3)
従って、温度20℃の給気はコンデンサ14における冷媒との熱交換によって温度36.5℃まで加熱(予熱)される。
【0037】
次に、本発明に係るボイラブロー水の熱回収システムを用いたときのボイラ1の運転コストの増減を試算すると以下のようになる。
【0038】
燃料の発熱量は9700kcal/m Nであるため、ブロー水から回収した熱量10000kJ/h((1)式参照)によって燃料が次式によって求められる量だけ節約される。
【0039】
10000(kcal/h)/9700lcal(kcal/m N) =1.03m N/h
燃料の単価を60円/m Nとすると、燃費は、
60円/m N×1.03m N/h=61.8円/h … (4)
だけ節約される。
【0040】
他方、ヒートポンプ2のコンプレッサ13を駆動するために必要に電力は、ブロー水からの熱回収量Q(=11.6kW(電力換算))と成績係数(COP)=6.3から次式のように求められる。
【0041】
11.6kW/6.3=1.84kW
電気料の単価を15円/kWhとすると、電気料は、
15円/kWh×1.84kW=27.6円/h … (5)
だけ増加する。
【0042】
従って、(4)式と(5)式より、ボイラ1の運転コストは、
61.8円/h−27.6円/h=34.2円/h … (6)
だけ下がることとなる。
【0043】
又、本実施の形態では、中和装置12において、ヒートポンプ2のエバポレータ16における冷媒との熱交換によって40℃まで温度が下げられたブロー水に炭酸ガスを吹き込むようにしたため、炭酸ガスがブロー水に混合されてブロー水が効率良く中和されるという効果も得られる。
【0044】
尚、本実施の形態では、ブロー水の中和に炭酸ガスボンベ10に充填された炭酸ガスを用いたが、ボイラ1から排出される排気ガスをブロー水に吹き込み、この排気ガス中に含まれる炭酸ガスによってブロー水を中和するようにしても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 ボイラ
2 ヒートポンプ
3 ブロー水排出管
4 ブロー槽
5 ファン
6 ブロー水排出管
7 排水ポンプ
8 炭酸ガス吸込部
9 反応筒
10 炭酸ガスボンベ
11 ガス吹込管
12 中和装置
13 コンプレッサ
14 コンデンサ
15 膨張弁
16 エバポレータ
17,18 ブロー水管
19 循環ポンプ
L1〜L4 冷媒配管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラから排出されるブロー水の熱をヒートポンプによって汲み上げ、その熱によってボイラへの給気を加熱することを特徴とするボイラブロー水の熱回収システム。
【請求項2】
ボイラから排出されるブロー水を前記ヒートポンプのエバポレータにおける冷媒との熱交換によって冷却するとともに、ヒートポンプのコンデンサにおける冷媒の凝縮熱によってボイラへの給気を加熱することを特徴とする請求項1記載のボイラブロー水の熱回収システム。
【請求項3】
前記ヒートポンプのエバポレータにおける冷媒との熱交換によって冷却されたブロー水を中和する中和装置を設けたことを特徴とする請求項2記載のボイラブロー水の熱回収システム。


【図1】
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【図2】
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