説明

ボイラ用薬剤

【構成】(A)メタ重亜硫酸やその塩(B)一般式M1OOC−(CH2)n−COOM2(M1及びM2は水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子又はアンモニウム基、nは1〜10の整数である)で表される脂肪族ジカルボン酸やその塩、及び場合により用いられる(C)水溶性高分子スケール防止剤を有効成分として含有して成るボイラ用薬剤。
【効果】人体に対して安全であり、かつ経時安定性に優れる上、一液品で防食作用、あるいは防食作用とスケール防止作用を有し、特に脱酸素剤である亜硫酸イオンの配合量を増加させ防食効果を高めたボイラ用薬剤である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は新規なボイラ用薬剤、さらに詳しくは、人体に対して安全であり、かつ経時安定性に優れるとともに一液品で防食作用(脱酸素作用)、あるいは防食作用とスケール防止作用を有し、特に脱酸素剤である亜硫酸イオンの配合量を増加させ防食効果を高めたボイラ用薬剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、ボイラの腐食を防止するために、種々の脱酸素剤、例えばヒドラジンや亜硫酸ナトリウムなどが広く用いられている。しかしながら、前者のヒドラジンは人体に対する安全性に問題があるし、一方、亜硫酸ナトリウムは、人体に対する安全性には問題がないものの、酸素との反応速度が速すぎるため、溶解タンク内で溶存酸素と反応して濃度低下を起こし、注入量不足になり腐食を助長させるおそれがある上、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤やポリマーなどと一液に溶解した場合には、少量しか溶解混合できないために、多量の添加量を必要とし、逆にアルカリ剤などが多量に添加され、アルカリ腐食やキャリーオーバーの原因となるなどの問題がある。最近、これらに代わる有機系の脱酸素剤を配合したボイラ用薬剤が使用されている。しかしながら、このものは脱酸素剤の残留濃度を測定するのが困難であって、添加量を過不足なく調整するのは難しいという欠点を有している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、人体に対して安全であり、かつ経時安定性に優れるとともに、一液品で防食作用(脱酸素作用)、あるいは防食作用とスケール防止剤用を有し、特に脱酸素剤である亜硫酸イオンの配合量を増加させ防食効果を高めたボイラ用薬剤を提供することを目的としてなされたものである
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記の好ましい性質を有するボイラ用薬剤を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、メタ重亜硫酸やその塩及び特定の脂肪族ジカルボン酸やその塩が人体に対して安全である上、これらを組み合わせて用いることにより、その相乗効果により優れた防食作用を発揮すること、そしてメタ重亜硫酸やその塩を用いることにより、脱酸素成分である亜硫酸イオンの含有量を大幅に増加させうること、さらに、前記の組合せとともに水溶性高分子スケール防止剤を併用することにより、防食作用と同時にスケール防止作用を効果的に発揮しうることを見い出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、(A)メタ重亜硫酸及びその塩の中から選ばれた少なくとも1種と、(B)一般式 M1OOC−(CH2)n−COOM2 …[1]
(式中のM1及びM2はそれぞれ水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子又はアンモニウム基であり、それらはたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、nは1〜10の整数である)で表される脂肪族ジカルボン酸及びその塩の中から選ばれた少なくとも1種とを有効成分として含有して成るボイラ用薬剤、及び前記(A)成分と、(B)成分と、さらに(C)水溶性高分子スケール防止剤とを有効成分として含有して成るボイラ用薬剤を提供するものである。
【0005】以下、本発明を詳細に説明する。本発明のボイラ用薬剤において、(A)成分としてメタ重亜硫酸やその塩が用いられる。メタ重亜硫酸塩については水溶性の高いものであればよく、特に制限されず、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが好ましく用いられる。該メタ重亜硫酸やその塩は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明のボイラ用薬剤において、(B)成分として用いられる脂肪族ジカルボン酸やその塩は、一般式M1OOC−(CH2)n−COOM2 …[1]
(式中のM1、M2及びnは前記と同じ意味をもつ)で表される化合物であって、このようなものとしては、例えばマロン酸(n=1)、コハク酸(n=2)、グルタル酸(n=3)、アジピン酸(n=4)、ピメリン酸(n=5)、スベリン酸(n=6)、セバシン酸(n=8)、デカンジカルボン酸(n=10)などが挙げられるが、これらの中で特にnが1〜6の範囲にあるものが好適である。また、その塩としてはナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩が挙げられ、これらはモノ塩であってもよいし、ジ塩であってもよい。さらに、これらの脂肪族ジカルボン酸やその塩は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0006】本発明のボイラ用薬剤においては、特にスケール防止が要求される場合には、所望に応じ、(C)成分として水溶性高分子スケール防止剤を配合することができる。該水溶性高分子スケール防止剤としては、例えばポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸とアクリルアミドとの共重合体、アクリル酸とヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸との共重合体及びこれらの塩などを挙げることができる。該塩については水溶性の高いものであればよく、特に制限されず、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などを挙げることができる。この(C)成分の水溶性高分子スケール防止剤は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明のボイラ用薬剤には、通常アルカリ剤が配合される。該アルカリ剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。これらのアルカリ剤は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明のボイラ用薬剤においては、前記各成分の配合順序については特に制限はなく、任意の順序で配合することができる。また各成分の配合割合については、(A)成分のメタ重亜硫酸やその塩に対して、(B)成分の脂肪族ジカルボン酸やその塩は1〜50000重量%、好ましくは10〜150重量%の割合で、(C)成分の水溶性高分子スケール防止剤は0〜200重量%、好ましくは5〜30重量%の割合で配合するのが望ましい。また、アルカリ剤は、通常該(A)成分に対して、10〜100000重量%、好ましくは30〜300重量%の割合で配合される。(A)成分と(B)成分との割合が前記範囲を逸脱すると相乗効果が十分に発揮されない。本発明組成物は、pHを12.0以上に調整すると、組成物中の亜硫酸イオンの安定性が極めて向上するので好ましい。本発明のボイラ用薬剤は、ボイラ給水に対して0.01〜1000mg/リットル、好ましくは10〜500mg/リットルの割合で用いるのが望ましい。この量が0.01mg/リットル未満では本発明の目的が十分に達せられないし、1000mg/リットルを超えるとその量の割には防食効果の向上が認められない。
【0007】次に、本発明のボイラ用薬剤における防食作用の機構について説明する。(A)成分としてメタ重亜硫酸カリウム(K225)を用いた場合、該K2251モルは加水分解して亜硫酸水素カリウム(KHSO3)2モルを生成する。
225+H2O→2KHSO3 …[2]
KHSO3はアルカリ剤(例えば水酸化カリウム)と反応して亜硫酸カリウム(K2SO3)を生成する。
KOH+KHSO3→K2SO3+H2O …[3]
すなわち、K2251モルは2モルのKOHと反応して2モルのK2SO3を生成する。
225+2KOH→2K2SO3 …[4]
つまり、K2251mgはKOH0.5mgを消費して、SO32-イオン0.72mgを生成し、酸素0.144mgと反応する。脂肪族ジカルボン酸やその塩は、溶出してくる鉄と難溶性の化合物を生成し、鉄表面に不動態皮膜を形成し、防食する。酸素共存下での鉄の腐食反応は 鉄のアノード溶解反応 Fe→Fe2++2e- …[5]
カソード反応 1/2O2+H2O+2e-→2OH- …[6]
すなわち、 Fe+1/2O2+H2O→Fe(OH)2 …[7]
さらに、 2Fe(OH)2+1/2O2→Fe23+2H2O …[8]
のように進行する。一方、メタ重亜硫酸塩の脱酸素反応は、前記反応式[4]で生成したK2SO3により K2SO3+1/2O2→K2SO4 …[9]
で表される。酸素に対して十分量の亜硫酸イオン(SO32-)が存在すれば、酸素が除去され、前記[6]式のカソード反応を抑制し、防食効果を示す。ところが、亜硫酸イオン(SO32-)の添加量が酸素に対して不足すると、前記[9]式の作用は低下し、カソード反応の抑制が不十分となり、腐食は激しくなる。このような場合にも、脂肪族ジカルボン酸と鉄との難溶性の化合物の生成による鉄表面の不動態皮膜の形成によって、前記[5]式のアノード反応が抑制される。
【0008】
【実施例】次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
調製例11リットルビーカーに、室温にて純水、K225、KOH、脂肪族ジカルボン酸の順で投入し、混合溶解して第1表に示すボイラ用薬剤溶液を調製した。なお、配合は、SO32-イオンと正味(K225の分解反応で使われる量を除いた量)のKOH量を決めて行った。該ボイラ用薬剤溶液を−5℃の恒温室に1週間静置し、その後肉眼観察し、次の判定基準で評価した。その結果を第1表に示す。
○:液は透明で析出物なし△:液が白濁している×:析出物が多くみられ、液が凍結した。
【0009】
【表1】


【0010】比較調製例1亜硫酸化合物としてK2SO3を用い、第2表に示すボイラ用薬剤溶液を調製し、調製例1と同様にして評価した。その結果を第2表に示す。
【0011】
【表2】


【0012】第1表及び第2表から分かるように、K225では、SO32-イオンとして15wt%まで混合溶解できるが、K2SO3では、SO32-イオンとして10wt%しか混合溶解できない。したがって、酸素1mgを除去するのにサンプル5(本発明品)は34mgでよいのに対し、サンプル13(従来品)は50mg必要となる。
実施例1 薬剤溶液の経時変化調製例1で得られたサンプル5と比較調製例1で得られたサンプル13をとり上げ、それらのSO32-イオン濃度の経時変化を調べたところ、第3表に示す結果が得られた。
【0013】
【表3】


【0014】なお、SO32-イオンの測定は、検水100ミリリットルに6規定HClを5ミリリットル、5wt%KI水溶液5ミリリットルを加え、デンプン水溶液を少量添加してKIO3標準溶液で滴定することにより行った。終点は無色透明から薄青色に変わる点である。第3表から分かるように、サンプル5(本発明品)は100日経過後でも濃度低下がほとんど認められないが、サンプル13(従来品)では30日経過後で50%の濃度低下が認められた。
実施例2 防食テスト容量5リットルのテストボイラに、軟化水(pH8.5、185μS/cm、Mアルカリ度50mgCaCO3/リットル、Clイオン10mg/リットル、SiO227mg/リットル、SO4イオン22mg/リットル、Naイオン33mg/リットル、全硬度1mgCaCO3/リットル以下)を5リットル/hrで供給し、加熱して215℃(圧力20kg/cm2)の蒸気を発生させた。薬剤は軟化水で溶解した液を定量ポンプを用いて所定量を給水に添加した。腐食量は、ボイラ水中にテストチューブ(軟鋼、176×20mmφ、表面積114cm2)を浸漬し、テスト前後の重量差から求めた。なお、ブロー率は10%、給水の溶存酸素濃度は6mg/リットルである。結果を第4表に示す。
【0015】
【表4】


【0016】第4表から分かるように、サンプル13(従来品)は、添加量不足になり、ボイラ水中のSO32-イオンも検出されず、腐食量はブランク以上になる。これに対してサンプル5(本発明品)は、SO32-イオンも検出され良好な結果であった。亜硫酸イオンによる脱酸素では、添加量が不足するとブランクよりも腐食の程度がひどくなるという致命的な欠点があり、また多量添加は他の含有成分との兼ね合いや加温エネルギーの増加などにより、不可能又は経済的に不利な場合が多い。
実施例3 スケール防止テスト実施例2と同様のテストボイラに、試験水(pH8.5、165μS/cm、Mアルカリ度45mgCaCO3/リットル、Clイオン10mg/リットル、SiO226mg/リットル、SO4イオン20mg/リットル、Naイオン30mg/リットル、全硬度10mgCaCO3/リットル)を5リットル/hrで供給し、加熱して215℃(圧力20kg/cm2)の蒸気を発生させた。0.5リットル/hrで連続的にボイラ水をブローして(ブロー率10%)、試験水に対して10倍に濃縮される。薬剤(サンプル5)は純水で溶解した液を定量ポンプを用いて給水に添加した。スケールは加熱部であるチューブ表面に付着し、その量は、チューブ表面からスケールをかき落として求めた。結果を第5表に示す。
【0017】
【表5】


【0018】第5表から分かるようにサンプル5(本発明品)は、スケールの付着防止効果も十分に発揮する。
【0019】
【発明の効果】本発明のボイラ用薬剤は、人体に対して安全であり、かつ経時安定性に優れる上、一液品で防食作用(脱酸素作用)、あるいは防食作用とスケール防止作用を有し、特に脱酸素剤である亜硫酸イオンの配合量を増加させ、防食効果を高めたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)メタ重亜硫酸及びその塩の中から選ばれた少なくとも1種と、(B)一般式M1OOC−(CH2)n−COOM2(式中のM1及びM2はそれぞれ水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子又はアンモニウム基であり、それらはたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、nは1〜10の整数である)で表される脂肪族ジカルボン酸及びその塩の中から選ばれた少なくとも1種とを有効成分として含有して成るボイラ用薬剤。
【請求項2】(A)メタ重亜硫酸及びその塩の中から選ばれた少なくとも1種と、(B)一般式M1OOC−(CH2)n−COOM2(式中のM1及びM2はそれぞれ水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子又はアンモニウム基であり、それらはたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、nは1〜10の整数である)で表される脂肪族ジカルボン酸及びその塩の中から選ばれた少なくとも1種と、(C)水溶性高分子スケール防止剤とを有効成分として含有して成るボイラ用薬剤。

【公開番号】特開平6−240476
【公開日】平成6年(1994)8月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−139068
【出願日】平成5年(1993)5月17日
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)