説明

ボツリヌス毒素の検出方法

【課題】ボツリヌス毒素の検出方法、並びに検出用キットを提供する。
【解決手段】ボツリヌス毒素複合体のうち、ボツリヌス菌の血清型に影響を及ぼさない部位を認識する工程を含み、ボツリヌス毒素の軽鎖(L鎖)を除く部分を捕捉し、該捕捉したボツリヌス毒素のL鎖部分を基質に反応させるボツリヌス毒素検出方法による。さらには、各型のボツリヌス毒素遺伝子に共通するプライマーセットを用いた核酸増幅方法を利用する検査方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明の遺伝子組換え技術により産生されるボツリヌス毒素の重鎖由来のポリペプチドに関し、さらには該ポリペプチドを広用したワクチン(予防剤)、抗体(治療剤)並びにボツリヌス毒素の検査方法及び検査用キットに関する。さらには、核酸を増幅させることによるボツリヌス毒素遺伝子の検査方法及び検査用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ボツリヌス毒素はボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生するタンパク質性毒素であり、A、B、C1、D、E、F及びGの7種類の血清型がある(非特許文献1)。該ボツリヌス毒素は微量でヒトや動物に致死性の中毒を生じさせる。ボツリヌス症の診断、食品及び医薬品の安全性確保のために、微量(例えばピコグラムオーダー)のボツリヌス毒素を検出する必要がある。ボツリヌス菌、ボツリヌス毒素、ボツリヌス症、ボツリヌス毒検出方法及びボツリヌス毒検出方法における今後の課題について記述した報告がある。
【0003】
7種類の血清学的に異なるボツリヌス毒素は、型特異的抗体による中和により分類される。ボツリヌス毒素の血清型により、動物種及びそれらが惹起する麻痺の重篤度及び継続時間が異なる。ボツリヌス毒素は、コリン作動性の運動ニューロンに大きな親和性で結合して、ニューロンに移動し、シナプス前のアセチルコリン放出を阻止する(特許文献1)。
【0004】
ボツリヌス毒素複合体のうち、ボツリヌス神経毒素(BoNT)の分子量は、全ての毒素の型について約150kDaであり、軽鎖(50kDa;L鎖)及び重鎖(100kDa;H鎖)により構成される。L鎖は酵素活性(エンドペプチダーゼ活性)を有する部分であり、重鎖のC側末端(Hc)はニューロンの表面を認識し、N側末端(Hn)は、ニューロン細胞へのボツリヌス毒素のエンドサイトーシスに関係する部分である(非特許文献2)。
【0005】
ボツリヌス毒素の活性化は、一本鎖ポリペプチドとして産生された神経毒素が、トリプシン等の酵素によってある特定の位置で切断され、2つの断片がS-S結合で結ばれた2本鎖ポリペプチドへと構造が変化することにより起こる。経口摂取又は腸管内で産生されたボツリヌス毒素複合体は、腸管から吸収され、体循環に入り、神経毒素部分と、非毒素成分に解離する。毒素部分は血行性に末梢の神経接合部へ運ばれ、L鎖の亜鉛依存性エンドペプチダーゼ活性により、シナプス前膜に特異的なタンパク質(SNAP受容体;SNARE)を切断し、神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を阻害する。その結果、神経伝達が遮断されてボツリヌス症に特有の筋肉麻痺を生じる。
【0006】
ボツリヌス毒素は、結合する非毒素タンパク質とともに毒素複合体として産生される。例えば、A型ボツリヌス毒素複合体は、900kDaの19S毒素、500kDaの16S毒素及び300kDaの12S毒素の形態としてクロストリジウム属細菌によって産生され得る。B型及びC1型、D型のボツリヌス毒素複合体は、500kDa及び300kDaの形態として産生される。最後に、E型及びF型のボツリヌス毒素複合体は、約300kDaの形態として産生されうる。これらの複合体(すなわち、約150kDaよりも大きな分子量からなる複合体)は、非毒素の赤血球凝集タンパク質と、非毒素及び非毒性の非赤血球凝集タンパク質とを含むと考えられる。ボツリヌス菌において、非毒性の赤血球凝集タンパク質部分は、アジュバント活性を有すると考えられる。12S毒素は、神経毒素に赤血球凝集活性を示さない分子量約140kDaの無毒成分(non-toxic non-HA;NTNH)が結合して形成される。16S毒素、19S毒素はこの12S毒素にさらに複数の無毒成分であるヘマグルチニン(HA)が結合して形成される。HAにはHA1、HA2、HA3a、HA3bなどの成分が存在する(非特許文献3)。
【0007】
ボツリヌス毒素の各種検出方法が検討されており、具体的には、マウス試験、酵素抗体法(ELISA法)、イムノPCR法及び改良エンドペプチダーゼ法などが挙げられる。ボツリヌス毒素検出法として世界的に認められている方法は、マウス試験のみであるが、経験を要することや多数のマウス実験施設が必要であることから、一般の検査室で実施することは困難である。また、ELISA法は、マウス試験より感度が低い点で問題があった。
【0008】
ELISA法の応用として、エンドペプチダーゼ活性測定法について報告がある。まず、神経毒素の標的部分であるSNAP受容体(SNARE)を固相に固定する。次に、SNAP受容体を神経毒素と反応させて得られたSNARE断片とこれを認識する抗体(標識抗体)とを抗原抗体反応させて標識を検出することにより、エンドペプチターゼ活性を測定する方法である。しかしながら、本方法ではSNARE断片を認識する感度の高い抗体の取得が必須であり、SNARE断片を認識する抗体は、検査対象の由来菌の血清型別に異なるものを準備する必要があるが、B型ボツリヌス毒素のみが検出可能であった。
【0009】
クロストリジウム菌毒素のアッセイのための陽性コントロール及びクロストリジウム菌毒素の所望の特性を組み込む治療剤の開発に関し、クロストリジウム菌神経毒素を含まず、クロストリジウム菌毒素軽鎖に等価なドメイン及びクロストリジウム菌毒素の重鎖Hnの機能的局面を提供するドメインを含み、クロストリジウム菌毒素Hcドメインの機能的局面を欠く一本鎖ポリペプチド、即ちワクチンについて報告がある(特許文献2)。
【0010】
ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)のC型及びD型毒素について、重鎖のC末端側断片(Hc部分, 50kDa)が効果的にワクチン活性を示すことが報告されている(非特許文献2)。非特許文献2で報告されるまでは、ヒト及び動物に用いられるボツリヌス菌のワクチンは、ホルマリンで非毒化したワクチンが用いられていた。この方法で得られたワクチンは有効的であるが、非常に高価であり、調製するのに手間がかかり、さらに非毒化する工程において危険を伴うものであった。非特許文献2の報告において、C型及びD型毒素のHc部分について遺伝子組換えの手法により初めてポリペプチドを得ることができた。しかしながら、ボツリヌス菌のC型及びD型毒素に対しては、特にトリ、ウシ、ウマが感受性を示すが、ヒトでは中毒例がほとんど無い。
【0011】
一方、A型、B型、E型及びF型由来のボツリヌス毒素はヒトに毒性を示すが、これらの型由来の毒素には、旧来の方法で得たワクチンが取得できるのみであった。
【0012】
ボツリヌス毒素に対し、さらに優れたワクチンや検査方法及び検査のための陽性コントロールの開発等が求められている。また、ボツリヌス毒素に起因する疾患に対する予防剤、治療剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J. TOXICOL.-TOXIN REVIEWS, 18(1), 17-34 (1999)
【非特許文献2】Microbiol. Immunol., 51(4), 445-455 (2007)
【非特許文献3】Microbiology, 150, 1529-1538 (2004)
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−336201号公開公報
【特許文献2】特表2005−537809号公表公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、ボツリヌス毒素に起因する疾患に対する予防剤、治療剤及びボツリヌス毒素の検出方法、ならびに検出用キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、A型、B型、E型及びF型のいずれか型のボツリヌス菌(Clostridium botulinum)由来のボツリヌス神経毒素(BoNT)の重鎖部分のポリペプチドを遺伝子組換え法により得た。得られたポリペプチドから、ワクチン(予防剤)及び抗体(治療剤)を得ることができる。また、ボツリヌス毒素複合体の部分を認識して捕捉し、該捕捉したボツリヌス毒素複合体の毒素部分を基質に反応させることによるボツリヌス毒素の検査方法を見出し、該検査を遂行するための抗体や基質等の試薬を含むことを特徴とするボツリヌス毒素の検査用キットを得、本発明を完成した。さらには、各型のボツリヌス毒素遺伝子に共通するプライマーセットを用いた核酸増幅方法によるボツリヌス毒素遺伝子の検査方法を見出し、該検査を遂行するためのプライマーセット等を含むボツリヌス毒素の検査用キットを得、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は以下による。
1.遺伝子組換え技術により産生される一本鎖ポリペプチドであり、該一本鎖ポリペプチドが、A型、B型、E型及びF型のいずれか型のボツリヌス菌(Clostridium botulinum)由来のボツリヌス毒素タンパク質を構成するアミノ酸配列から選択され、該選択されるアミノ酸配列が、該ボツリヌス毒素タンパク質のC末端重鎖(Hc)部分の配列を含むことを特徴とするポリペプチド。
2.遺伝子組換え技術により産生される一本鎖ポリペプチドが、A型、B型、E型及びF型のいずれか型のボツリヌス菌(Clostridium botulinum)由来のボツリヌス毒素タンパク質を構成するアミノ酸配列から選択され、前記A型由来のポリペプチドは、配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドから、前記B型由来のポリペプチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドから、前記E型由来のポリペプチドは、配列表の配列番号3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドから、及び前記F型由来のポリペプチドは、配列表の配列番号4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドから産生される前項1に記載のポリペプチド。
3.前項1又は2に記載のポリペプチドを一種又は複数種含む事を特徴とするボツリヌス菌に対するワクチン。
4.A型、B型、C型、D型、E型及びF型のいずれか型のボツリヌス菌(Clostridium botulinum)由来のボツリヌス毒素複合体から選択され、以下の1)及び2)を含むボツリヌス菌に対するワクチン:
1)遺伝子組換え技術により産生されるボツリヌス毒素タンパク質のC末端重鎖(Hc)部分の一本鎖ポリペプチド;
2)無毒成分の一部であるHA1及び/若しくはHA3b部分の一本鎖ポリペプチド。
5.前項4に記載のC末端重鎖(Hc)部分の一本鎖ポリペプチドが、前記A型由来のポリペプチドは、配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドから、前記B型由来のポリペプチドは、配列表の配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドから、前記E型由来のポリペプチドは、配列表の配列番号3に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドから、及び前記F型由来のポリペプチドは、配列表の配列番号4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドから、前記C型由来のポリペプチドは、配列表の配列番号5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドから、前記D型由来のポリペプチドは、配列表の配列番号6に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドから産生されるポリペプチドである、前項4に記載のボツリヌス菌に対するワクチン。
6.前項1又は2に記載のポリペプチドを免疫原として産生される抗ボツリヌス毒素抗体。
7.前項1若しくは2に記載のポリペプチド、前項3〜5のいずれか1に記載のワクチン、又は前項6に記載の抗体、を有効成分として含むボツリヌス毒素に起因する疾患治療剤。
8.以下の工程を含むボツリヌス毒素の検査方法:
1)ボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉する工程;
2)上記捕捉されたボツリヌス毒素複合体を基質と反応させる工程;
3)反応産物の測定により、ボツリヌス毒素を検出する工程。
9.上記1)において、ボツリヌス毒素複合体に含まれるボツリヌス毒素部分のうち、少なくとも軽鎖(L鎖)部分を除く部位を固相に固定することを特徴とする前項8に記載の検査方法。
10.上記1)において、ボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉する工程が、糖鎖により前記ボツリヌス毒素複合体を捕捉することによる前項8又は9に記載の検査方法。
11.上記1)において、ボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉する工程が、ボツリヌス毒素複合体の一部を認識する抗体により前記ボツリヌス毒素複合体を捕捉することによるものであり、該抗体が抗軽鎖(L鎖)抗体ではないことを特徴とする前項8又は9に記載の検査方法。
12.上記2)において、ボツリヌス毒素複合体のうち、ボツリヌス毒素の軽鎖(L鎖)部分と基質とを反応させる事を特徴とする前項8〜11のいずれか1に記載の検査方法。
13.前項8〜12のいずれか1に記載の検査方法に使用する検査用キットであり、少なくともボツリヌス毒素複合体捕捉用固相及びボツリヌス毒素と反応しうる合成基質を含むことを特徴とする検査用キット。
14.配列表の配列番号11及び12に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、核酸を増幅させることによるボツリヌス毒素遺伝子の検査方法:
1)TGGGTAGCGCCAGAAAGATATTATGG(配列番号11);
2)CCATATAATCCATGTAAAGCATGTATAAGTTCATG(配列番号12)。
15.前項14に記載の検査方法に使用する検査用キットであり、少なくとも配列表の配列番号11及び12に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーのセットを含むことを特徴とする検査用キット。
【発明の効果】
【0018】
本発明の遺伝子組換え技術により産生されるA型、B型、E型及びF型から選択されるいずれか型のボツリヌス菌由来の一本鎖ポリペプチドを含むボツリヌス毒素ワクチンは、安全性が高く、高度に免疫反応させることができる。また、得られた一本鎖ポリペプチドを免疫源として、ボツリヌス毒素に対して効果的な抗体を得ることができる。例えば、抗原を家禽類に投与して得られるIgY抗ボツリヌス毒素抗体は大量に産生することができ、IgG抗体とはタイプが異なることから、安全性に優れた治療薬となりうる。さらに、本発明のボツリヌス毒素の検査方法は、ボツリヌス菌の血清型にかかわらず検出することができ、感度が優れており、早期に判定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ボツリヌス毒素複合体の構造を示す図である。
【図2】ボツリヌス毒素の検査方法を示す図である。
【図3】PCR法による検査結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ボツリヌス菌は、A型、B型、C1型、D型、E型、F型及びG型の血清型を有する菌に分類される。ボツリヌス菌の分類と産生する毒素及び感受性動物を表1に示す。本発明においてボツリヌス毒素複合体とは、分子量約150kDaのボツリヌス神経毒素(BoNT)と、非毒素タンパク質を含む複合体をいう。ボツリヌス毒素複合体の大きさは、ボツリヌス菌の各血清型により異なる。本明細書において、ボツリヌス毒素とは、包括的に表現する用語として用いられ、ボツリヌス神経毒素のうち少なくともL鎖部分を含むものであれば良く、ボツリヌス神経毒素(BoNT)そのもの、少なくともL鎖部分を含むボツリヌス神経毒素(BoNT)の部分、ボツリヌス毒素複合体、あるいはボツリヌス毒素複合体の部分等を示す意味で使用される。
【0021】
【表1】

【0022】
ボツリヌス神経毒素(BoNT)は、分子量約100kDaの重鎖(H鎖)ドメイン及び分子量約50kDaの軽鎖(L鎖)ドメインから構成される。H鎖ドメインは、C末端重鎖(Hc)及びN末端重鎖(Hn)からなる。また、非毒素タンパク質部分は、非毒素の赤血球凝集タンパク質(HA)と、非毒素及び非毒性の非赤血球凝集タンパク質とを含み、図1に示すように、HAはHA1、HA3b、HA2及びHA3aなどの部分により構成される。HAはHA1を介して赤血球や小腸上皮細胞のガラクトースに結合し、HA3bを介してシアル酸に結合する。
【0023】
本発明のポリペプチドは、A型、B型、E型及びF型のいずれか型のボツリヌス菌由来のボツリヌス毒素タンパク質を構成するアミノ酸配列から選択され、該選択されるアミノ酸配列が、該ボツリヌス毒素タンパク質のHc部分の配列を含むことを特徴とするポリペプチドである。特にヒトはA型、B型、E型及びF型のボツリヌス菌から産生される毒素に感受性があるため、ヒトに対しても有効なワクチンなどの予防薬の開発が望まれている。
【0024】
本発明のポリペプチド鎖は、例えばA型ではGenBankのAccession No.X92973に示される塩基配列から選択されるポリヌクレオチド、又はB型ではGenBankのAccession No.AB232927に示される塩基配列から選択されるポリヌクレオチドからcDNAを作製し、遺伝子組換えの手法により産生することができる。ポリヌクレオチドは、例えばA型ではGenBankのAccession No.X92973に示されるbont(ボツリヌス神経毒素(BoNT)をコードする遺伝子)の塩基配列のうち、2617−3891位の部分からなるbontの塩基配列(配列番号1)、B型ではGenBankのAccession No.AB232927に示される塩基配列のうち、2599−3876位の部分からなるbontの塩基配列(配列番号2)、E型では配列表の配列番号3で示される塩基配列及びF型では配列表の配列番号4で示される塩基配列からなる。さらに、本発明のポリペプチド鎖は、上記配列番号1〜4のいずれかで示される各塩基配列のポリヌクレオチドから得られる他、本発明のポリペプチド鎖を産生可能であれば、上記配列番号1〜4で示される各塩基配列から、1〜複数個の塩基が置換、欠失、付加された塩基配列のポリヌクレオチドからcDNAを作製し、産生することもできる。
【0025】
さらに、産生されるポリペプチド鎖も、上記ポリヌクレオチドから産生されるポリペプチドの他、あるいは1〜複数個のアミノ酸が、置換、欠失、付加されたものや、アミノ酸誘導体のように改変されたものであっても良い。
【0026】
さらに、本発明のポリペプチド鎖には、非毒素タンパク質のHA1やHA3bの部分配列を含んでいてもよい。例えばHA1及び/又はHA3bとHcの部分配列を含むワクチンを、鼻腔内に投与することで、HA1やHA3bのアジュバント活性により、抗Hc抗体がよく産生される。例えば経口で取得したボツリヌス毒素は小腸から吸収され血中に移行するが、例えばHA1及び/又はHA3bとHcの部分配列を含むワクチンにより、抗HA1抗体、抗HA3b抗体ができ、小腸からの毒素の吸収が阻害され、次いで、血中に移行した場合には毒素は抗Hc抗体で中和される。従って、より強力にボツリヌス毒素の小腸からの吸収が阻害される。これは、特にC型、D型による家畜やトリの中毒予防に応用することができる。
【0027】
また本発明は、上述のポリペプチドを含むワクチンにも及ぶ。本発明のワクチンは、前述のポリペプチドを1種含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。また、本発明のワクチンには、遺伝子組換え技術により産生される、C型又はD型由来のボツリヌス菌由来の一本鎖ポリペプチドと、各型由来のHA1及び/又はHA3bとHcの部分配列を含むものであってもよい。C型又はD型由来のボツリヌス菌由来のボツリヌス毒素のうち、C末端重鎖(Hc)部分の一本鎖ポリペプチドは、非特許文献2に記載の方法で作製することができる。例えばC型ではGenBankのAccession No.NC_007581に示されるbontの塩基配列のうち、2599−3876位の部分からなるbontの塩基配列(配列番号5)、D型ではGenBankのAccession No.AB012112に示される塩基配列のうち、2581−3875位の部分からなるbontの塩基配列(配列番号6)からなるポリヌクレオチドから作製することができる。
【0028】
本発明のワクチンは、前述の本発明のポリペプチドを、薬学的に許容できる担体に含めることができる。本発明のポリペプチドに、非毒素タンパク質の部分配列、例えばHA1及び/又はHA3bの部分配列を含む場合は、アジュバント活性を有する部分も含まれるため、安全性に優れたワクチンであり、さらに免疫原性としても効果を発揮する。本発明のワクチンは、対象者に対して適切な免疫応答の観察を行うことで投与量を適宜決定することができる。最初のワクチン投与に続き、対象者は適当な間隔をおいて1回〜複数回の補助免疫投与を受けることができる。
【0029】
本発明は、本発明の遺伝子組換え技術により産生されるポリペプチドを免疫原とし、免疫反応により得られる抗ボツリヌス毒素抗体にも及ぶ。免疫原として、本発明のポリペプチドを1種、又は複数種用いることができる。本発明の抗体は、自体公知の方法により、哺乳類又は鳥類に抗原を投与することにより産生される。哺乳類では、ポリクローナル抗体を得るために、例えばウサギなどに免疫投与することができる。また鳥類では、例えばニワトリなどの家禽類に免疫投与することができる。例えば、鶏卵の卵黄から抽出されるIgY抗ボツリヌス毒素抗体は、IgGに相応する免疫グロブリンであり、構造的にとりわけFcフラグメントにおける定常ドメインの数が多いことによる該免疫グロブリンのより高い分子量であることが、哺乳類のIgGと異なる。該IgY抗体は、卵黄中に産生されるため、哺乳類から得られるIgGの産生量に比べて、はるかに大量の抗体を取得できる点でも優れている。例えば、120mg/卵1個×300個/年=36,000mg (36g)のIgYを獲得することができる。
【0030】
本発明は、さらに上記抗ボツリヌス毒素抗体を有効成分として含む、ボツリヌス毒素に起因する疾患の治療剤にも及ぶ。抗ボツリヌス毒素抗体がIgY抗体の場合は、その利点は医学的な見地から、特異抗原による複数の抗原決定基の認識にあり、このことにより標的抗原の改善されたターゲッティングが保証される。また、その免疫システムが抗原認識に関して哺乳動物やヒトの免疫システムと異なる家禽に由来する。鳥類の免疫システムがヒト免疫システムと異なる抗原決定基を認識する。さらに、鳥類の抗体はヒトの補体システムや、Fc受容体、プロテインAもしくはプロテインGとも多くの場合に反応しないという、一般に欠点と思われていることがむしろ利点である。
【0031】
本発明の抗体を含む薬剤は、前述の抗ボツリヌス毒素抗体を、薬学的に許容できる担体に含めることができ、ボツリヌス毒素に起因する疾患治療剤とすることができる。ボツリヌス毒素に起因する疾患治療剤としては、ボツリヌス毒素に起因する神経症、食中毒等の治療薬として使用することができる。本発明の薬剤は、対象者に対して適切な免疫応答の観察を行うことで投与量を適宜決定することができる。最初の薬剤投与に続き、対象者は適当な間隔をおいて1回〜複数回の補助免疫投与を受けることができる。
【0032】
本発明のボツリヌス毒素ワクチン又は治療剤は、薬学的に許容できる担体とともに経口製剤又は非経口製剤として製造することができる。経口製剤としては、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができ、非経口製剤としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、軟膏剤、クリーム剤、及び貼付剤等を挙げることができる。上記の製剤の製造に用いられる薬理学的及び製剤学的に許容しうる担体としては、賦形剤、崩壊剤若しくは崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤若しくは溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができる。
【0033】
本発明は、さらにボツリヌス毒素の検査方法にも及ぶ。ボツリヌス毒素の検査方法としては、以下の2種の方法が挙げられる:
A.固相に捕捉したボツリヌス複合体を基質又は抗体と反応させて、反応産物の測定によりボツリヌス毒素を検出する方法;
B.ボツリヌス毒素遺伝子(ボツリヌス毒素をコードする塩基配列)のうち、各型に共通な部分を核酸増幅方法により検出する方法。
【0034】
上記、A.の方法として、以下の工程を含むボツリヌス毒素の検査方法が挙げられる。
1)ボツリヌス毒素部分を含むボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉する工程;
2)上記捕捉されたボツリヌス毒素複合体を基質と反応させる工程;
3)反応産物の測定により、ボツリヌス毒素を検出する工程。
【0035】
ここにおいて、検出されるボツリヌス毒素は、A、B、C1、D、E、F及びGのいずれの血清型ボツリヌス菌が産生するものであっても良い。また、被検試料は、上記毒素を含有する可能性があるものであればよく、特に限定されない。例えば、食品や患者、動物等から得られる検体を試料とすることができる。
【0036】
また、1)の固相は、ボツリヌス毒素複合体を固定可能な材質であれば良く特に限定されないが、その他、例えばELISAの測定系に一般的に用いられるポリスチレン等の素材を挙げることもできる。その形状は、測定方法により適宜選択できるが、例えばビーズ状のものやプレート状のものが挙げられる。固相に固定する抗体の量は、適宜決定することができる。
【0037】
本発明の検査方法では、上記1)において、ボツリヌス毒素部分のうち、少なくともL鎖部分を除く部位を固相に固定して捕捉することを特徴とする。ボツリヌス毒素は、L鎖部分の亜鉛依存性エンドペプチダーゼ活性により、その毒性が発揮される。従って、本発明の検査方法では、工程2)において、エンドペプチダーゼ活性を発揮しうるL鎖部分と基質とを反応させるために、L鎖部分を固相に固定しないでボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉することが重要である。
【0038】
ボツリヌス毒素複合体を固相へ捕捉する方法は、固相に糖鎖を固定し、糖鎖を含む固相とボツリヌス毒素複合体含有可能性のある試料を接触させて反応させる方法が挙げられる。反応によりボツリヌス毒素複合体のHA部分と糖が特異的に結合し、ボツリヌス毒素部分のL鎖部分を固相に固定しないでボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉することができる。この場合において、糖鎖はHA部分に結合しうる糖であれば良く、特に限定されないが、好適にはガラクトース、ラクトース又はシアル酸を挙げることができ、特に好適にはラクトースが挙げられる。また、固相そのものをラクトースゲルにしても良い。ラクトースを用いると、特にA型及びB型の毒素を捕捉することができる。
【0039】
ボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉する他の方法は、例えば抗ボツリヌス毒素複合体抗体を固相に固定し、該抗体とボツリヌス毒素複合体含有可能性のある試料を接触させて反応させる方法が挙げられる。抗原抗体反応によりボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉することができる。捕捉に用いる抗体として、抗L鎖抗体でない抗体が好適である。例えば、抗Hc抗体、抗HA抗体、抗HA1抗体などが挙げられる。
【0040】
本発明において、ボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉するために用いられる抗体は、より好適には、ボツリヌス菌の血清型に影響を及ぼさない部位を認識する抗体である。ボツリヌス菌の血清型に影響を及ぼさない部位を認識する抗体を用いる場合は、血清型に関係なくボツリヌス毒素を検出することができ、便利である。一方、各血清型の毒素を検出したい場合には、各型の抗Hc抗体を用いることができる。また、各型の抗Hc抗体を混合して用いることで、血清型に関係なくボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉することもできる。
【0041】
本発明の検査方法では、上記2)において、ボツリヌス毒素複合体のうち、ボツリヌス毒素のL鎖部分と基質とを反応させる事を特徴とする。従って、固相に捕捉されたボツリヌス毒素複合体のうち、エンドペプチダーゼ活性を有する部位、即ちL鎖部分を固相からフリーの状態にすることで、L鎖部分のエンドペプチダーゼを基質と反応させて、反応産物を測定することにより検出することができる。上記3)において、例えば基質がエンドペプチダーゼと反応して、反応産物が発色する場合には、発色の有無を検出することでボツリヌス毒素を検出することができ、また発色の程度を測定することで、ボツリヌス毒素を定量することができる。
【0042】
ここにおいて、基質とは、ボツリヌス毒素活性としてのエンドペプチダーゼに反応しうる基質をいい、例えば合成基質であっても良い。例えばA型、B型、D型及びF型のボツリヌス毒素活性の検査に使用可能な合成基質の例として、配列表の配列番号7〜10に示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドが挙げられる(Analytical Biochemistry; 296, 130-137 (2001))。これらの合成ペプチドのうち、各型のボツリヌス毒素により切断される部位に下線を示す。
【0043】
A型用:GGGSNRTRIDEANQRATRMLGGGC(配列番号7)
B型用:GGGLSELDDRADALQAGASQFETSAAKLKRKYWWKNLKGGC(配列番号8)
D型用:GGAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASGGC(配列番号9)
F型用:GGAQVDEVVDIMRVNVDKVLERDQKLSELDDRADALQAGASGGC(配列番号10)
【0044】
上記において、ボツリヌス毒素検出用の基質又は抗体が、ボツリヌス毒素のA〜G型のいずれかの型に特異的な場合には、型特異的に検出することができる。
【0045】
上記、B.のボツリヌス毒素遺伝子のうち、各型に共通な部分を核酸増幅方法により検出する方法として、以下の方法を行うことができる。また、被検試料は、上記毒素遺伝子を含有する可能性があるものであればよく、特に限定されない。例えば、食品や患者、動物等から得られる検体から核酸を抽出したものを被検試料とすることができる。核酸の抽出方法は、自体公知の方法によることができる。ここにおいて、核酸増幅方法は、特に限定されないが、例えばポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction, PCR)を利用するのが最も簡便である。
【0046】
ボツリヌス毒素複合体のうち、NTNH (non-toxic non-HA)は、12S毒素に含まれる神経毒素に赤血球凝集活性を示さない分子量約140kDaの無毒成分であり、A〜G型のボツリヌス毒素複合体に共通して存在する。ntnh遺伝子は、ボツリヌス神経毒素(bont)遺伝子の上流に位置し、二つの遺伝子はポリシストロニックに転写される。そこで、A〜G型間で比較的相同性の高い領域として、ntnh遺伝子にフォワードプライマーを、bont遺伝子にリバースプライマーを設計し、核酸を増幅することにより、ボツリヌス毒素複合体由来遺伝子の検出を行うことができる。具体的には、以下の配列番号11に記載のオリゴヌクレオチドプライマー及び配列番号12に記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、核酸を増幅することができる。
【0047】
1)TGGGTAGCGCCAGAAAGATATTATGG(配列番号11);
2)CCATATAATCCATGTAAAGCATGTATAAGTTCATG(配列番号12)。
【0048】
本発明は、ボツリヌス毒素の検査方法に用いる試薬や検査用キットも含まれる。例えば、A.固相に捕捉したボツリヌス複合体を基質又は抗体と反応させて、反応産物の測定によりボツリヌス毒素を検出する方法に使用する場合は、試薬としてツリヌス毒素のL鎖部分に存在するエンドペプチダーゼと反応しうる合成基質やボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉するために用いられる抗体等が挙げられる。検査用キットとしては、ボツリヌス毒素複合体捕捉用固相及びボツリヌス毒素と反応しうる合成基質を少なくとも含み、さらには上記試薬等を含めても良い。また、B.ボツリヌス毒素遺伝子のうち、各型に共通な部分を核酸増幅方法により検出する方法に使用する場合は、試薬として各種プライマーが挙げられる。また、検査用キットには、少なくともプライマーセットを含めることができ、核酸増幅反応に必要な緩衝液、dNTP混合液等を含めることができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を示して説明するが、本実施例は発明の内容をより理解するためのものであって、本発明は本実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0050】
(実施例1)A型ボツリヌス菌由来ポリペプチドの発現
A型ボツリヌス菌62A菌株由来のボツリヌス毒素から得られるHc部分の配列を、大腸菌を宿主とし、遺伝子組換えの手法にて作製した。具体的には、GenBankのAccession No.X92973に示されるbontの塩基配列のうち、2617−3891位の部分の塩基配列(配列番号1)からなる核酸をPCRにより増幅し、大腸菌タグ融合タンパク質発現ベクターpGEX-6P-3(GEヘルスケア製)又はpET-32 Ek/LIC(Novagen製)に組み込み、大腸菌を形質転換させて調製した。発現ベクターがpGEX-6P-3の場合は、GST(glutathione-S-transferase)タグが、pET-32 Ek/LICの場合は、HisタグがN末端に付加される。25℃の培養下でIPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を0.1mM添加して、ポリペプチド(Hc)の発現を誘導させた。
【0051】
(実施例2)B型ボツリヌス菌由来ポリペプチドの発現
B型ボツリヌス菌B-okra菌株由来のボツリヌス毒素から得られるHc部分を、大腸菌を宿主とし、遺伝子組換えの手法にて作製した。具体的には、GenBankのAccession No.AB232927に示されるbontの塩基配列のうち、2599−3876位の部分の塩基配列(配列番号2)からなる核酸をPCRにより増幅し、大腸菌タグ融合タンパク質発現ベクターpET-32 Ek/LIC(Novagen製)に組み込み、大腸菌を形質転換させた他は、実施例1と同様の手法によりポリペプチド(Hc)の発現を誘導させた。
【0052】
(実施例3)E型ボツリヌス菌由来ポリペプチドの発現
E型ボツリヌス菌E-iwanai菌株由来のボツリヌス毒素から得られるHc部分を、大腸菌を宿主とし、遺伝子組換えの手法にて作製した。具体的には、配列表の配列番号3で示される塩基配列からなる核酸をPCRにより増幅し、大腸菌タグ融合タンパク質発現ベクターpGEX-6P-3(GEヘルスケア製)に組み込み、大腸菌を形質転換させた他は、実施例1と同様の手法によりポリペプチド(Hc)の発現を誘導させた。
【0053】
(実施例4)F型ボツリヌス菌由来ポリペプチドの発現
E型ボツリヌス菌E-demmark菌株由来のボツリヌス毒素から得られるHc部分を、大腸菌を宿主とし、遺伝子組換えの手法にて作製した。具体的には、配列表の配列番号4で示される塩基配列からなる核酸をPCRにより増幅し、大腸菌タグ融合タンパク質発現ベクターpGEX-6P-3(GEヘルスケア製)に組み込み、大腸菌を形質転換させた他は、実施例1と同様の手法によりポリペプチド(Hc)の発現を誘導させた。
【0054】
(実施例5)A型、E型及びF型ボツリヌス菌由来ポリペプチドの精製
A型、E型及びF型については、タグ融合Hcを可溶化画分に回収した。各可溶化画分について、glutathione-Sepharose 4B(GEヘルスケア製)アフィニティーカラムクロマトグラフィーを用いて、遺伝子組換えGSTタグ融合Hcを、Ni-NTA(キアゲン製)Ni-キレートアフィニティクロマトグラフィーを用いて、遺伝子組換えHisタグ融合Hcを精製した。各タグは、プロテアーゼにより切断した。
【0055】
(実施例6)抗体
実施例5により得た各型のポリペプチド(Hc)を免疫原とし、アジュバント(1回目:完全アジュバント(DIFCO製)、2回目:不完全アジュバント(DIFCO製)、3回目:なし)とともにウサギに投与し、ポリクローナル抗体を得た。
【0056】
(実施例7)PCRによるボツリヌス毒素の検出
以下の配列番号11に記載のオリゴヌクレオチ及び配列番号12に記載のオリゴヌクレオチドからなる各プライマーを用いて、培養液から抽出したDNAについてPCR法にて核酸を増幅した。
1)フォワードプライマー:TGGGTAGCGCCAGAAAGATATTATGG(配列番号11);
2)リバースプライマー:CCATATAATCCATGTAAAGCATGTATAAGTTCATG(配列番号12)。
【0057】
フォワードプライマーは、各型のボツリヌス毒素複合体のうち、ntnh遺伝子を比較し、以下の表2に示す領域から選択して設計した。また、同様にリバースプライマーは、各型のボツリヌス毒素複合体のうち、神経毒素(bont)遺伝子を比較し、以下の表3に示す領域から選択して設計した。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
PCR反応溶液及び反応条件は、表4及び表5に従った。
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
PCR反応産物を電気泳動により確認したところ、各試料について、D型を除く各型のボツリヌス毒素遺伝子について、約4.2kbpの断片が増幅したことが確認された(図3)。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明のボツリヌス毒素のHc部分の配列を含むことを特徴とする一本鎖ポリペプチドは、ボツリヌス毒素ワクチンや、抗ボツリヌス毒素抗体産生のための抗原として利用することができる。前記ポリペプチドを用いたボツリヌス毒素ワクチンは、安全性が高く、ボツリヌス毒素に起因する疾患に対して効果的な予防薬となりうる。また抗ボツリヌス毒素抗体がIgYの場合は、抗体を大量に産生することができ、IgG抗体とはタイプが異なることから、安全性に優れた治療薬となりうる。さらに、本発明のボツリヌス毒素の検査方法は、ボツリヌス菌の血清型にかかわらず検出することができ、感度が優れており、早期に判定可能である。また、例えば各血清型に共通なプライマーを用いて、ボツリヌス毒素遺伝子を検出し、型特異的な基質を用いて検査することで、ボツリヌス菌の血清型を判定することができ、より確実な検査を行うことができる。これらの検査方法は、例えば空港などの検疫業務において有効に利用しうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボツリヌス毒素遺伝子又はボツリヌス毒素複合体含有可能性のある検体を被検試料とし、ボツリヌス菌の血清型に影響を及ぼさない部位を認識する工程を含む、ボツリヌス毒素の検査方法。
【請求項2】
以下の工程を含む、請求項1に記載のボツリヌス毒素の検査方法:
1)被検試料に含有するボツリヌス毒素複合体のうち、ボツリヌス菌の血清型に影響を及ぼさない部位を固相に捕捉する工程;
2)上記捕捉されたボツリヌス毒素複合体を基質又は抗体と反応させる工程;
3)反応産物の測定により、ボツリヌス毒素を検出する工程。
【請求項3】
上記1)において、ボツリヌス毒素複合体に含まれるボツリヌス毒素部分のうち、少なくとも軽鎖(L鎖)部分を除く部位を固相に固定することを特徴とする請求項に記載の検査方法。
【請求項4】
上記1)において、ボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉する工程が、糖鎖により前記ボツリヌス毒素複合体を捕捉することによる請求項2又は3に記載の検査方法。
【請求項5】
上記1)において、ボツリヌス毒素複合体を固相に捕捉する工程が、ボツリヌス毒素複合体のうち、ボツリヌス菌の血清型に影響を及ぼさない部位を認識する抗体により前記ボツリヌス毒素複合体を捕捉することによるものであり、該抗体が抗軽鎖(L鎖)抗体ではないことを特徴とする請求項2又は3に記載の検査方法。
【請求項6】
上記2)の工程において、捕捉されたボツリヌス毒素複合体を反応する工程が、基質と反応させる工程である請求項2〜5のいずれか1に記載のボツリヌス毒素の検査方法。
【請求項7】
上記2)において、ボツリヌス毒素複合体のうち、ボツリヌス毒素の軽鎖(L鎖)部分と基質とを反応させる事を特徴とする請求項に記載の検査方法。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれか1に記載の検査方法に使用する検査用キットであり、少なくともボツリヌス毒素複合体捕捉用固相及びボツリヌス毒素と反応しうる合成基質及び/又は抗体を含むことを特徴とする検査用キット。
【請求項9】
ボツリヌス菌の血清型に影響を及ぼさない部位が、ボツリヌス毒素複合体のうち、NTNH (non-toxic non-HA)部位である請求項1に記載の検査方法。
【請求項10】
ボツリヌス菌の血清型に影響を及ぼさない部位の認識が、配列表の配列番号11及び12に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、核酸を増幅させボツリヌス毒素遺伝子を検出することによる請求項1又は2に記載の検査方法:
1)TGGGTAGCGCCAGAAAGATATTATGG(配列番号11);
2)CCATATAATCCATGTAAAGCATGTATAAGTTCATG(配列番号12)。
【請求項11】
請求項10に記載の検査方法に使用する検査用キットであり、少なくとも配列表の配列番号11及び12に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドプライマーのセットを含むことを特徴とする検査用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−249840(P2010−249840A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156482(P2010−156482)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【分割の表示】特願2008−272678(P2008−272678)の分割
【原出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】