説明

ボラジン・ジアミン系重合体及びそのための重合性組成物、並びにその製造方法

【課題】耐熱性材料、セラミックス前駆体として有望なボラジン・ジアミン系重合体を、触媒を用いることなく効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】(a)特定の構造を有するボラジン類と、(b)下記の一般式(2)


(式中、R2は置換基を有していても良いアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基の中から選ばれる2価の基を示す)で表されるジアミン類とを脱水素縮重合させることによりボラジン・ジアミン系重合体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性材料、セラミックス前駆体として有用な新規なボラジン・ジアミン系重合体及びそのための重合性組成物、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボラジン・ジアミン系重合体は有機ボラジン系重合体の一種である。従来、有機ボラジン系重合体としては、窒化ホウ素系セラミックスを製造するための前駆体として開発されたボラジン・アミン系重合体や、窒化ホウ素・炭化ケイ素系セラミックスを製造するための前駆体として開発されたボラジン・シラザン系重合体が多く知られる。これらのボラジン・アミン系重合体やボラジン・シラザン系重合体は、ボラジン環をイミノ基で結合したアミノボラジニル構造を有する(非特許文献1〜3参照)。また、ビニルボラジンをモノマーにしたポリビニルボラジンも窒化ホウ素系セラミックス前駆体として開発されている(非特許文献1〜2参照)。これらの重合体を前駆体として焼成して製造される窒化ホウ素系セラミックスや窒化ホウ素・炭化ケイ素系セラミックスに、過剰の炭素成分を不純物として残さないために、前駆体重合体は、有機基を極力減らすように分子設計がなされてきた。これらの重合体は加水分解性および酸化性の構造を有しているが、水分や酸素との反応性を低下させることに効果のある有機基を置換基としてほとんど持たないので、空気中での安定性は低い。また有機基を極力減らしているために、重合体の溶解度など加工性が低い。これらの重合体は通常、セラミックス前駆体として脱酸素、脱水されたガス中で焼結され、その成形には粉体焼結法や溶融紡糸法が用いられるので、空気中での安定性や加工性などの改良がなされず、取り扱いにくいために、重合体自体を耐燃焼性材料や耐熱性材料として用いるような用途開発はほとんど行われてこなかった(非特許文献1〜3参照)。
【0003】
これに対して、発明者らは、有機基を置換基として有するボラジンモノマーと、ヒドロカルボシランやヒドロポリシロキサンを共重合させることにより、空気中での取り扱い性や溶媒への溶解度などの加工性に優れたボラジン・ケイ素系重合体を開発し、耐熱材料、高強度コーティング膜、絶縁膜、光透過膜などの用途開発を行ってきた(特許文献1〜5参照)。しかし、ボラジン・ケイ素系重合体の製造には白金触媒の存在が必須であり、製造される重合体から触媒は一部しか除去できないため、触媒成分が不純物として残るという問題がある。そこで、金属触媒を用いずに製造可能な新規な有機ボラジン系重合体およびその製造方法の開発が求められてきた。
【非特許文献1】ChemicalReviews、Vol. 90, 73〜91 (1990)
【非特許文献2】Chemtech、29〜37 (1994)
【非特許文献3】「無機高分子2」、1993年産業図書発行、第4章第81〜94頁
【特許文献1】特許第3041424号公報
【特許文献2】特許第3459985号公報
【特許文献3】特許第3458157号公報
【特許文献4】特許第3840127号公報
【特許文献5】特許第3713536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、ボラジン・ジアミン系の骨格を有し、空気中での安定性や加工性に優れるとともに、金属触媒を用いずに製造可能な重合体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ボラジン類とジアミン類とを無触媒で脱水素縮重合させることにより、ボラジン・ジアミン系の骨格を有し、耐熱性に優れる重合体が得られるという新規な事実を発見し、これらの発見に基づいて本発明を完成させるにいたった。本発明で用いるジアミン類は分子内に有機基と2つ以上のアミノ基を有し、重合体の空気中での安定性や加工性の向上に有利な構造である。
【0006】
すなわち本発明によれば、
(a)一般式(1)
【化1】

(式中、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基または水素原子を示す)で表されるボラジン類と、(b)一般式(2)
【化2】

(式中、R2は置換基を有していても良いアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基の中から選ばれる2価の基を示す)で表されるジアミン類とを脱水素縮重合させることによる得られる新規なボラジン・ジアミン系重合体が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、
一般式(3)
【化3】

で表されるボラジン骨格(但し、式中、Rはアルキル基、アリール基、アラルキル基または水素原子を示し、Rは置換基を有していても良いアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基の中から選ばれる2価の基を示し、mは正の整数、nは0または正の整数を示す。)を有することを特徴とするボラジン・ジアミン系重合体が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、
(a)下記の一般式(1)
【化1】

(式中、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基または水素原子を示す)で表されるボラジン類と、(b)下記の一般式(2)
【化2】

(式中、R2は置換基を有していても良いアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基の中から選ばれる2価の基を示す)で表されるジアミン類とを含有することを特徴とするボラジン・ジアミン系重合体製造用重合性組成物が提供される。
【0009】
さらに、本発明によれば、(a)一般式(1)
【化1】

(式中、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基または水素原子を示す)で表されるボラジン類と、(b)一般式(2)
【化2】

(式中、R2は置換基を有していても良いアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基の中から選ばれる2価の基を示す)で表されるジアミン類とを脱水素縮重合させることを特徴とする新規なボラジン・ジアミン系重合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ボラジン類とジアミン類とから、空気中での安定性及び加工性に優れたボラジン・ジアミン系重合体を、触媒を用いることなく容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明においては、ボラジン類とジアミン類とを脱水素縮重合させることにより得られる、ボラジン・ジアミン系重合体が提供される。
本発明で用いるボラジン類は一般式(1)
【化1】

で表される。式中、Rはアルキル基、アリール基、アラルキル基または水素原子を示す。アルキル基の炭素数は1〜12,好ましくは1〜6である。アリール基の炭素数は6〜20,好ましくは6〜10である。アラルキル基の炭素数は7〜24,好ましくは7〜12である。
前記Rを例示すると、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、水素原子等が挙げられる。
【0012】
これらの置換基を有し、一般式(1)で表されるボラジン類の具体例としては、ボラジン、N,N’,N”−トリメチルボラジン、N,N’,N”−トリエチルボラジン、N,N’,N”−トリプロピルボラジン、N,N’,N”−トリフェニルボラジン、N,N’,N”−トリベンジルボラジン、N,N’,N”−トリフェネチルボラジン、等が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、1種類のボラジン類を単独で用いることもできるが、2種類以上のボラジン類を合わせて用いることも、本発明の有利な態様に含まれる。
【0013】
本発明で用いるジアミン類は一般式(2)
【化2】

で表される。式中、R2は置換基を有していても良いアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基の中から選ばれる2価の基を示す。アルキレン基およびアラルキレン基は環状を形成していてもよい。アルキレン基の炭素数は1〜24,好ましくは1〜12である。アリーレン基の炭素数は6〜20,好ましくは6〜10である。アラルキレン基の炭素数は7〜24,好ましくは7〜12である。また前記の2価の基に結合していても良い置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が含まれる。
前記R2を例示すると、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、へキシレン基、オクチレン基等のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等のアリーレン基、ジフェニルエーテル基等の置換アリーレン基、フェニレンメチレン基、フェニレンエチレン基等のアラルキレン基等が挙げられる。
【0014】
これらの置換基を有し、一般式(2)で表されるジアミン類の具体例としては、エチレンジアミン、1,6-ジアミノヘキサン、1,12-ジアミノドデカン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-ジアミノアダマンタン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ビフェニルジアミン、4,4’−ジフェニルエーテルジアミン、m−キシレンジアミン、p−キシレンジアミン、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、1種類のジアミン類を単独で用いることもできるが、2種類以上のジアミン類を合わせてもちいることも、本発明の有利な態様に含まれる。
【0015】
本発明の反応における原料化合物の量関係は、ボラジン類とジアミン類のモル比が1:0.1〜10の範囲で実施され、好ましくは1:0.3〜3の範囲である。
本発明は、溶媒の有無に関わらず実施できるが、溶媒を用いる場合には、原料と反応するものを除いた種々の溶媒を用いることができる。それら溶媒としては、芳香族炭化水素系、飽和炭化水素系、脂肪族エーテル系、芳香族エーテル系等の溶媒が挙げられ、より具体的には、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0016】
本発明の重合反応は一般的に室温もしくは百数十℃に加熱した状態で容易に進行する。また原料物質の構造により、好ましい速度を達するために−20℃から200℃の範囲で冷却または加熱することもできる。好ましい温度としては0℃から150℃、より好ましくは10℃から150℃の範囲で実施される。
本発明の重合反応後、減圧濃縮または加熱濃縮することにより溶媒を除去後、そのまま生成重合体を用いることができる。また、再沈等により分取して用いることもできる。
【0017】
本発明において提供されるボラジン・ジアミン系重合体は一般式(3)
【化3】

で表されるボラジン骨格を有する。なお、式中のR及びR2は、それぞれ前記一般式(1)中のR及び一般式(2)中のRと、同じものを意味している。
また、式中、mは正の整数であり、好ましくは1〜1000、より好ましくは1〜100である。また、nは0または正の整数であり、好ましくは0〜100、より好ましくは0〜20である。
【実施例】
【0018】
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
シュレンクコック付きフラスコ内でエチレンジアミン0.03モルを乾燥トルエン30mLに溶解し、N,N’,N”−トリメチルボラジン0.03モルを滴下した。得られた均一溶液を、反応容器に少量の窒素ガスをオーバーフローした状態で、3日間110℃に加熱攪拌した。反応混合物を減圧下、加熱濃縮し白色薄片状の重合体を83%の収率で得た。
得られた重合体について分析した結果は以下のとおりであった。なお、図1は、赤外吸収スペクトルを示すものである。
【0019】
〈NMRスペクトル〉
H−NMR(C):δ 4.7−4.0、3.6−3.2、3.1−2.7、2.4−2.0 ppm
13C−NMR(C):δ 45.2−44.5、43.8−43.2、38.0、34.5−33.7 ppm
11B−NMR(C):δ 30.5、24.4、19.0 ppm
〈赤外吸収スペクトル(KBrペレット)〉
3201cm−1、2380cm−1、1602cm−1、1380cm−1、1068cm−1、712cm−1
〈ICP発光分析(C16)〉
B含量 理論値の104%
〈熱重量分析(アルゴン雰囲気下10℃/分の昇温速度で990℃まで加熱)〉
135℃ 残存率90%
990℃ 残存率58%
【0020】
(実施例2)
実施例1と同様に、1,6−ヘキサンジアミン0.02モルを乾燥トルエン20mLに溶解し、N,N’,N”−トリメチルボラジン0.02モルを滴下した。反応容器に少量の窒素ガスをオーバーフローした状態で110℃に加熱攪拌すると、しばらくすると均一溶液となった。これを3日間加熱攪拌した段階では均一溶液であったが、7日間加熱攪拌を続けると全体が透明なゲル状態で固化した。反応混合物を減圧下、加熱濃縮し白色薄片状の重合体を71%の収率で得た。
得られた重合体について分析した結果は以下のとおりであった。なお、図2は、赤外吸収スペクトルを示すものである。
【0021】
〈赤外吸収スペクトル(KBrペレット)〉
3219cm−1、1356cm−1、1060cm−1、710cm−1
〈ICP発光分析(C16)〉
B含量 理論値の98%
〈熱重量分析(アルゴン雰囲気下10℃/分の昇温速度で990℃まで加熱)〉
221℃ 残存率90%
990℃ 残存率46%
【0022】
(実施例3)
p−フェニレンジアミン0.04モルと乾燥トルエン40mLの懸濁液を窒素下で100℃に加熱攪拌し、N,N’,N”−トリメチルボラジン0.04モルを滴下した。ただちに赤色均一溶液となり、110℃に加熱攪拌1時間後に淡黄色透明液となった。さらに1日110℃に加熱攪拌したところ、白色固体が析出した。均一を、反応容器に少量の窒素ガスをオーバーフローした状態で、3日間110℃に加熱攪拌した。反応混合物を減圧下、加熱濃縮し白色薄片状の重合体を得た。得られた重合体について分析した結果は以下のとおりであった。
【0023】
〈NMRスペクトル〉
H−NMR(C):δ 7.0−7.6(m)、3.2−3.8(m)、3.0(s) ppm
〈熱重量分析(アルゴン雰囲気下10℃/分の昇温速度で990℃まで加熱)〉
138℃ 残存率90%
980℃ 残存率16%
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のボラジン・ジアミン系重合体は、空気中での安定性及び加工性に優れており、耐熱性材料、セラミックス前駆体等への有用性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1で得られた重合体の赤外吸収スペクトル
【図2】実施例2で得られた重合体の赤外吸収スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記の一般式(1)
【化1】

(式中、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基または水素原子を示す)で表されるボラジン類と、(b)下記の一般式(2)
【化2】

(式中、R2は置換基を有していても良いアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基の中から選ばれる2価の基を示す)で表されるジアミン類とを脱水素縮重合させることにより得られるボラジン・ジアミン系重合体。
【請求項2】
下記の一般式(3)
【化3】

で表されるボラジン骨格(但し、式中、Rはアルキル基、アリール基、アラルキル基または水素原子を示し、Rは置換基を有していても良いアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基の中から選ばれる2価の基を示し、mは正の整数、nは0または正の整数を示す。)を有することを特徴とするボラジン・ジアミン系重合体。
【請求項3】
(a)下記の一般式(1)
【化1】

(式中、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基または水素原子を示す)で表されるボラジン類と、(b)下記の一般式(2)
【化2】

(式中、R2は置換基を有していても良いアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基の中から選ばれる2価の基を示す)で表されるジアミン類とを含有することを特徴とするボラジン・ジアミン系重合体製造用重合性組成物。
【請求項4】
(a)一般式(1)
【化1】

(式中、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基または水素原子を示す)で表されるボラジン類と、(b)一般式(2)
【化2】

(式中、R2は置換基を有していても良いアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基の中から選ばれる2価の基を示す)で表されるジアミン類とを脱水素縮重合させることを特徴とするボラジン・ジアミン系重合体の製造方法。
【請求項5】
前記ボラジン・ジアミン系重合体が、下記の一般式(3)
【化3】

で表されるボラジン骨格(但し、式中、Rはアルキル基、アリール基、アラルキル基または水素原子を示し、Rは置換基を有していても良いアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基の中から選ばれる2価の基を示し、mは正の整数、nは0または正の整数を示す。)を有することを特徴とする請求項3に記載のボラジン・ジアミン系重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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