説明

ボンド磁石

【課題】高温且つ酸化性雰囲気下においても、優れた磁気特性を長期間に亘って維持することが可能なボンド磁石を提供する。
【解決手段】希土類化合物を含む磁性粒子と樹脂とを含有する磁石素体12と、該磁石素体12上に被覆層14と、を備えるボンド磁石10であって、被覆層14は、バインダと、該バインダの中に分散されたガラス又は鉱物を含むフィラーと、を含有するボンド磁石10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素を含有する希土類磁石の一形態としてボンド磁石が知られている。このような希土類磁石は、優れた磁気特性を有するため、モータなどの各種機器に使用されている。最近、各種機器は、小型化・高効率化が図られており、それに伴って、希土類磁石の磁気特性を一層向上することが求められている。
【0003】
例えば、自動車やエレベータに用いられるモータは、高温かつ湿潤という過酷な環境下で用いられる。このため、モータに組み込まれる希土類磁石も、磁気特性だけではなく、耐酸化性や耐食性にも優れることが求められる。ところが、希土類化合物は、酸化され易い性質を有することから、耐食性及び耐熱性を向上させるために、例えば、下記の特許文献1では、永久磁石の表面に、シリコーンレジンとフレーク状微粉末を含有する皮膜を形成した希土類磁石が提案されている。ここで、フレーク状微粉末として、永久磁石よりも卑な電位をもつ金属等を用いると、これらが永久磁石よりも先に酸化されるため、永久磁石の酸化を抑制できることが記載されている。また、下記の特許文献2でも、耐酸化性の向上を目的として、永久磁石の表面に金属薄片を含むエポキシ樹脂層を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−158006号公報
【特許文献2】特開昭63−166944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1及び2のような希土類磁石では、酸化性雰囲気下で長時間使用すると、フレーク状微粉末の酸化の進行に伴って、フレーク状微粉末又は金属箔片とシリコーンレジン又はエポキシ樹脂との界面剥離が生じてしまう。その結果、皮膜中の酸素ガスの拡散が進行し、永久磁石に含まれる希土類化合物が酸化することが懸念される。また、永久磁石の表面において希土類化合物の酸化が進行すると、皮膜と永久磁石との密着性が低下して皮膜が剥離し、永久磁石の酸化が加速度的に進行する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高温且つ酸化性雰囲気下においても、優れた磁気特性を長期間に亘って維持することが可能なボンド磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明では、希土類化合物を含む磁性粒子と樹脂とを含有する磁石素体と、該磁石素体上に被覆層と、を備えるボンド磁石であって、被覆層は、バインダと、バインダの中に分散されたガラス又は鉱物を含むフィラーと、を含有するボンド磁石を提供する。
【0008】
本発明のボンド磁石は、ガラス又は鉱物を含むフィラーを含有する被覆層を備えることから、酸化性ガスの拡散経路が長くなり、酸化性ガスによる希土類元素の酸化を十分に抑制することができる。また、フィラー自体が酸化され難いため、当該被覆層はフィラーとバインダとの密着性に優れており、フィラーとバインダとの界面剥離を十分に低減することができる。したがって、界面剥離部分に沿って酸素ガスが拡散することを十分に抑制することができる。さらに、磁石素体が樹脂を含有しているため、アンカー効果によって磁石素体と被覆層との密着力を高くすることが可能になるとともに、磁石素体と被覆層との熱膨張係数の相違を十分に小さくすることができる。このため、高温下で使用しても、磁石素体と被覆層との密着力を高く維持することができる。これらの要因によって、高温且つ酸化性雰囲気下においても、優れた磁気特性を長期間に亘って維持することが可能となる。ただし、本発明の効果が得られる要因は、上述のものに限定されない。
【0009】
本発明では、フィラーに含まれる鉱物が、タルク、マイカ、及びベントナイトから選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。このような鉱物を含むフィラーは、通常酸化されないため、ボンド磁石の耐酸化性を一層向上することができる。
【0010】
本発明では、バインダが、トリアジン環を有する樹脂又は多芳香族環を有する樹脂を含むことが好ましい。被覆層がこのようなバインダを含むことによって、被覆層の耐熱性が一層向上し、高温下におけるボンド磁石の耐酸化性を一層向上することができる。
【0011】
本発明では、被覆層に含まれるフィラーの平均長径が10〜100μmであり、平均厚みが5μmであることが好ましい。被覆層がこのようなサイズを有するフィラーを含有すれば、酸化性ガスの拡散経路が一層長くなり、ボンド磁石の耐酸化性を一層向上することができる。
【0012】
本発明のボンド磁石は、バインダが磁石素体に含まれる樹脂を含み、異方性であることが好ましい。このような被覆層は、磁石素体と同一の樹脂を含有するため、磁石素体との密着性に一層優れる。また、樹脂として耐熱性の高い樹脂成分を含むものを用いれば、高温下における配向の乱れを十分に低減することができる。このようなボンド磁石は、耐熱性に優れるとともに磁気特性にも十分に優れる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温且つ酸化性雰囲気下においても、優れた磁気特性を長期間に亘って維持することが可能なボンド磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のボンド磁石の好適な一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明のボンド磁石の好適な一実施形態を示す模式断面図である。
【図3】本発明のボンド磁石の好適な一実施形態における被覆層の表面の拡大図である。
【図4】本発明のボンド磁石の別の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本実施形態のボンド磁石の模式図である。図2は、リング型である図1のボンド磁石10のII−II線断面図である。ボンド磁石10は、図2に示すように、リング型の磁石素体12と、磁石素体12の全表面を被覆する被覆層14と、を有する。
【0017】
磁石素体12は、樹脂と当該樹脂上に固着した磁性粒子とを含有する。樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、多芳香族環を有する樹脂、トリアジン環を有する樹脂(トリアジン樹脂)等の熱硬化性樹脂;スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ナイロン等のポリアミド系のエラストマー、アイオノマー、エチレンプロピレン共重合体(EPM)、エチレン−エチルアクリレート共重合体等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらのなかでも、多芳香族環を有する樹脂及びトリアジン樹脂が好ましく、COPNA樹脂(縮合多環多核芳香族樹脂、Condensed Polynuclear AromaticResin)及びTEPIC(日産化学株式会社製、登録商標)などがより好ましい。磁石素体12に含まれる樹脂は、例示した各種樹脂の1種を単独で又は2種以上を組み合わせたものであってもよい。
【0018】
磁性粒子は、希土類化合物として、R−Fe−B系金属間化合物を含有することが好ましい。R(希土類元素)は、長周期型周期表の第3族に属するスカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)及びランタノイド元素から選ばれる少なくとも一種の元素である。ランタノイド元素には、例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビニウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)が含まれる。
【0019】
Rは、上述したもののうち、Nd、Pr、Ho及びTbから選ばれる少なくとも1種の元素、又は、La、Sm、Ce、Gd、Er、Eu、Tm、Yb及びYから選ばれる少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。
【0020】
R−Fe−B系金属間化合物としては、NdFe14B等のNd−Fe−B系の化合物が挙げられる。なお、磁性粒子に含まれる希土類化合物はR−Fe−B系金属間化合物に限定されるものではなく、例えば、SmCoやSmCo17等のSm−Co系の化合物、又はSm−Fe−N系の化合物であってもよい。
【0021】
磁石素体12における樹脂の含有率は、優れた磁気特性と優れた形状保持性とを両立させる観点から、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%である。磁石素体12における樹脂の含有率は、製造時に用いる樹脂を含有する溶液中の樹脂濃度や、成形体作製時の成形圧力を変えることによって調整することができる。同様の観点から、磁石素体12における磁性粒子の含有率は、好ましくは90〜99.5質量%、より好ましくは95〜99質量%である。
【0022】
図3は、本実施形態のボンド磁石の被覆層14の表面の拡大図である。このような構造は、被覆層14の表面を、マイクロスコープを用いて550倍に拡大して観察することができる。被覆層14は、バインダ20とバインダ20中に分散されたフィラー22とを含有する。フィラー22は、バインダ20上に固着されている。このフィラー22は、被覆層14の表面から侵入する酸素ガスの拡散経路を長くすることに寄与している。
【0023】
バインダ20は、有機バインダでも無機バインダでもよく、湿度の高い雰囲気中でボンド磁石を用いる場合は、有機バインダであることが好ましい。また、バインダ20は、酸素ガスの透過を十分に抑制する観点から、樹脂を含有するものが好ましい。樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、多芳香族環を有する樹脂、トリアジン樹脂等の熱硬化性樹脂;スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ナイロン等のポリアミド系のエラストマー、アイオノマー、エチレンプロピレン共重合体(EPM)、エチレン−エチルアクリレート共重合体等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらのなかでも、耐熱性を一層向上させる観点から、ガラス転移温度が好ましくは200℃以上のもの、より好ましくは250℃以上のものである。具体的には、多芳香族環を有する樹脂、及びトリアジン樹脂が好ましく、COPNA樹脂(縮合多環多核芳香族樹脂、Condensed Polynuclear AromaticResin)及びTEPIC(日産化学株式会社製、登録商標)などがより好ましい。また、バインダとしては、TEOS(テトラエトキシシラン)等のシラン系の化合物や、チラノコート(登録商標)を含有するものであってもよい。
【0024】
バインダ20は、上述の各種樹脂及び化合物の1種を単独で又は2種以上を組み合わせたものであってもよい。バインダ20に含まれる樹脂を、磁石素体12に含まれる樹脂と同じものにすれば、磁石素体12と被覆層14との密着性を一層向上することができる。
【0025】
フィラー22は、ガラス又は鉱物を含む。また、フィラー22は、ガラス及び鉱物の両方を含んでもよい。ガラスとしては、例えば、無アルカリガラス(Eガラス)、ソーダ石灰ガラス、ケイ酸塩ガラス及び鉛ガラス等が挙げられる。鉱物は、地殻中に存在する結晶質の無機物である。鉱物としては、タルク、マイカ、及びベントナイトが好ましい。
【0026】
被覆層14は、フィラー22として、ガラスフィラーを含み、バインダ20としてトリアジン樹脂を含むことが好ましい。トリアジン樹脂は、下記式(1)に示す繰り返し単位を含む樹脂である。ここで、被覆層14を形成する際に、例えば下記式(2)で表わされる反応が進行する。すなわち、トリアジン樹脂の前駆体(原料)に含まれるシアネート基は、ガラスフィラーの水酸基と、式(2)のように反応して、有機基(I)を生成する。有機基(I)におけるイミノ基(=NH)は、トリアジン樹脂の前駆体とさらに反応する。これによって、ガラスフィラーと樹脂成分とが密着しながらトリアジン骨格が生成し、被覆層14が形成される。このため、ガラスフィラーとトリアジン樹脂とを含む被覆層14を備えるボンド磁石10は、十分に優れた耐熱性及び耐酸化性を有する。なお、式(1)及び式(2)中、Arは、2価のアリール基を示す。
【0027】
【化1】

【0028】
【化2】

【0029】
フィラー22の形状は、被覆層14中を拡散する酸素ガスの経路を長くする観点から、鱗片状であることが好ましい。フィラー22の長径D1の平均値(平均長径)は、好ましくは10〜100μmであり、より好ましくは20〜80μmである。平均長径が大きくなり過ぎると、被覆層14からフィラー22が突き出してしまい、平滑な表面を有する被覆層14にすることが困難になる傾向にある。一方、平均長径が小さくなり過ぎると、酸素ガスの拡散経路を十分に長くすることが困難になる傾向にある。フィラー22は、被覆層14中を拡散する酸素ガスの経路を長くする観点から、長径方向が磁石素体12と被覆層14の界面に平行になるように配向していることが好ましい。
【0030】
フィラー22の平均厚みは、好ましくは1〜8μmであり、より好ましくは2〜6μmである。フィラー22の平均厚みが大きくなり過ぎると、被覆層14の厚みを小さくすることが困難となる傾向にある。一方、フィラー22の平均厚みが小さくなり過ぎると、フィラー22自体が破損し易くなる傾向にある。
【0031】
フィラー22の長径D1は、磁石素体12と被覆層14との界面に平行な被覆層14の表面又は断面を550倍に拡大して示すマイクロスコープの画像を用いて、フィラー22における2つの頂点間を結ぶ直線の最大値として求めることができる。フィラー22の平均長径は、上述のマイクロスコープの画像において任意に選択した50個のフィラーの長径D1の算術平均である。
【0032】
フィラー22の厚みは、磁石素体12と被覆層14との界面に垂直な被覆層14の断面を拡大して示すマイクロスコープの画像を用いて、フィラー22における2つの頂点間を結ぶ直線の最大値として求めることができる。フィラー22の平均厚みは、上述のマイクロスコープの画像において任意に選択した50個のフィラーの個々の厚みの算術平均である。
【0033】
被覆層14におけるバインダの含有率は、十分に優れた耐酸化性を有するボンド磁石とする観点から、好ましくは50〜90質量%であり、より好ましくは60〜80質量%である。同様の観点から、被覆層14におけるフィラーの含有率は好ましくは10〜50質量%であり、より好ましくは20〜40質量%である。
【0034】
被覆層14の厚みは、好ましくは10〜70μmであり、より好ましくは30〜50μmである。被覆層14の厚みが大きくなり過ぎると、十分に高い磁気特性を有するボンド磁石が得られ難くなる傾向にある。一方、被覆層14の厚みが小さくなり過ぎると、優れた耐酸化性が損なわれる傾向にある。
【0035】
次に、上記実施形態のボンド磁石の製造方法の一例を説明する。ここで説明する製造方法は、希土類合金粉末を調製する準備工程と、希土類合金粉末を磁場中成形して成形体を作製する成形工程と、成形体に樹脂を含浸して樹脂を硬化することにより磁石素体を得る含浸工程と、磁石素体の表面にフィラーとバインダを含む被覆層14を形成する被覆工程とを有する。以下、各工程の詳細について説明する。
【0036】
準備工程では、まず、ストリップキャスト法、ブックモールド法、又は遠心鋳造法によって、所定の組成を有する原料化合物を調製する。原料化合物は、出発原料や製造工程に由来する不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0037】
原料化合物の好適な組成としては、希土類元素としてNd及びPrの少なくとも一方を含み、Bを必須元素として0.5〜4.5質量%含み、且つ残部がFe及び不可避的不純物であるR−Fe−B系の組成を有するものが挙げられる。また、原料化合物は、必要に応じて、Co、Ni、Mn、Al、Cu、Nb、Zr、Ti、W、Mo、V、Ga、Zn、Si等の他の元素を更に含んでもよい。
【0038】
上述の組成を有する原料化合物を調製した後、HDDR法による処理を行う。HDDR法とは、水素化(Hydrogenation)、不均化(Disproportionation)、脱水素化(Desorption)、及び再結合(Recombination)を順次実行するプロセスである。HDDR処理の詳細について、以下に説明する。
【0039】
まず、原料化合物を、減圧雰囲気(1kPa以下)又はアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気中、温度1000〜1200℃で5〜48時間保持する均質化熱処理を行う。均質化させた原料化合物は、スタンプミル又はジョークラッシャーなどの粉砕手段を用いて粉砕した後、篩分けすることが好ましい。これによって、粒径が10mm以下の粉末状の原料化合物(原料粉末)を調製することができる。
【0040】
次に、上述の原料粉末を、水素分圧が100〜300kPaである水素雰囲気中、100〜200℃の温度で、0.5〜2時間保持する。これによって、原料粉末に含まれる原料化合物の結晶格子中に水素が吸蔵される。
【0041】
続いて、水素を吸蔵させた原料粉末を、水素雰囲気中、所定の温度で保持することによって、水素化分解させて分解生成物を得る。水素化分解時の水素分圧は10〜100kPa、温度は700〜850℃とすることが好ましい。このような条件で水素化分解を行った後、水素分圧を低減して、分解生成物から水素を放出させて、磁気的な異方性を有する希土類合金粉末を得ることができる。
【0042】
希土類合金粉末の粒径は、好ましくは350μm以下であり、より好ましくは250μm以下であり、さらに好ましくは212μm以下である。希土類合金粉末の粒径の下限に特に制限はないが、実用上、例えば1μm以上とすることが好ましい。
【0043】
なお、上述の希土類合金粉末に、DyやTbなどの重希土類元素を含む拡散材を配合してもよい。拡散材としては、例えばDyH、DyF又はTbHを用いることができる。拡散材を用いる場合は、HDDR処理を施して得られた希土類合金粉末に、拡散材を添加して混合する。
【0044】
成形工程では、希土類合金粉末を磁場中成形して所望の形状を有する成形体を作製する。磁場中成形は、磁場を印加しながら行い、これにより異方性を有する希土類合金粉末を所定方向に配向させた状態で固定する。成形は、例えば、機械プレスや油圧プレス等の圧縮成形機を用いた圧縮成形により行うことができる。具体的には、混合粉末を金型キャビティ内に充填した後、充填された粉末を上パンチと下パンチとの間で挟むようにして加圧することによって、混合粉末を所定形状に成形することができる。
【0045】
成形によって得られる成形体の形状は特に制限されず、柱状、平板状、リング状、C型形状等、所望とするボンド磁石の形状に応じて作製する。リング状の場合、径方向に沿って磁場を印加することによって、ラジアル配向のボンド磁石とすることができる。磁場中成形時の加圧は、580〜1400MPaとすることが好ましい。また、配向磁界は、800〜2000kA/mとすることが好ましい。なお、成形方法としては、上述のように希土類合金粉末をそのまま成形する乾式成形のほか、混合粉末を油等の溶媒に分散させたスラリーを成形する湿式成形を適用することもできる。
【0046】
拡散材を用いた場合、磁場中成形によって得られた成形体を加熱して、拡散材に含まれる重希土類元素を希土類合金粉末の外周部に拡散させる。具体的には、成形体を減圧下又はアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下、好ましくは700〜1100℃、より好ましくは700〜950℃、さらに好ましくは800〜900℃で10分間〜12時間保持する。このような条件で加熱することにより、拡散材に含まれる重希土類元素を希土類合金粉末の外周部に拡散させることができる。
【0047】
含浸工程では、成形体に樹脂を含浸させ、加熱して樹脂を硬化することによりボンド磁石10を得る。具体的には、まず、成形体を予め調製した樹脂含有溶液に浸漬し、密閉容器中で減圧することによって脱泡させて樹脂含有溶液を成形体の空隙内に浸透させる。その後、成形体を樹脂含有溶液中から取り出し、成形体の表面に付着した余剰の樹脂含有溶液を取り除く。余剰の樹脂含有溶液を取り除くには遠心分離機などを用いればよい。また、樹脂含有溶液に浸漬する前に成形体を密閉溶液中に入れ減圧雰囲気に保持しつつトルエン等の溶剤に浸漬することによって、脱泡が促進されて樹脂の含浸量を増やすことが可能となり、成形体中の空隙を減らすことができる。
【0048】
樹脂含有溶液は、磁石素体12に含まれる樹脂として例示したものを、溶媒に溶解させることによって調製することができる。溶媒としては、トルエン、アセトン、エチルアルコールなどの一般的な有機溶媒を用いることができる。溶媒は、樹脂を十分に溶解させるために、用いる樹脂の種類に応じて選択することが好ましい。樹脂含有溶液における樹脂含有量に特に制限はないが、密度が高く空隙の少ないボンド磁石を得るためには、樹脂の含有量は高い方が好ましい。
【0049】
樹脂含有溶液を空隙内に浸透させた成形体を、例えば恒温槽内で、減圧雰囲気(1kPa以下)又はアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下、120〜230℃で1〜5時間保持することによって、樹脂含有溶液に含まれる溶媒を蒸発させるとともに樹脂を硬化させる。これによって、磁石素体12を得ることができる。
【0050】
被覆工程では、磁石素体12の表面にフィラーとバインダ成分と溶媒とを含む分散液を付着させた後、加熱して磁石素体12上に被覆層14を形成する。バインダ成分としては、硬化後に被覆層14に含まれるバインダ20となる成分を用いる。溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、メタノール、ブタノールなどの一般的な有機溶媒を用いることができる。
【0051】
磁石素体12の表面に分散液を付着させる方法は特に限定されず、例えば、磁石素体12を分散液中に浸漬したり、磁石素体12の表面にスプレー法などの手法によって塗布したりしてもよい。
【0052】
磁石素体12の表面に分散液を付着させた後、加熱して分散液に含まれる溶媒を蒸発除去するとともに、バインダ成分を硬化させて、フィラー22とバインダ20とを含有する被覆層14を形成する。樹脂成分を硬化させる際の加熱温度は、用いる樹脂成分の種類に応じて調整することが好ましい。当該加熱温度は、例えば180〜300℃にすることができる。
【0053】
以上の工程によって、磁石素体12と、磁石素体12上に被覆層14と、を有するボンド磁石10を得ることができる。本実施形態のボンド磁石10の製造方法は、上述の方法に限定されるものではない。例えば、次のような方法によって製造することもできる。すなわち、上述の準備工程で得られた希土類合金粉末と樹脂成分との混合物を磁場中成形し、樹脂を硬化させて磁石素体12を得る。この磁石素体12に、上述の被覆工程を施して、ボンド磁石10を得ることができる。
【0054】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、リング型形状のボンド磁石10を挙げたが、本発明のボンド磁石は、図3に示すようなC型形状のボンド磁石30であってもよい。このボンド磁石30は、ボンド磁石10と同様に、磁石素体と当該磁石素体を覆う被覆層とを備える。
【実施例】
【0055】
本発明の内容を実施例及び比較例を用いて以下に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[ボンド磁石の作製]
(実施例1)
ストリップキャスト法によって、主成分としてNdFe14Bを含み、以下の組成を有する原料を調製した。
【0057】
Nd:28.0質量%
B : 1.1質量%
Ga: 0.35質量%
Nb: 0.30質量%
Cu: 0.03質量%
Co: 3.8質量%
Fe及び不可避不純物:残部
【0058】
調製した原料は、微量の不可避不純物(原料合金全体で0.5質量%以下)を含んでいた。この原料を、減圧雰囲気中(1kPa以下)、1000〜1200℃の温度範囲で24時間保持した(均質化熱処理工程)。均質化熱処理後、原料をスタンプミルを用いて粉砕し、篩分けを行って、粉末状(粒径1〜2mm)の原料(原料粉末)を得た。
【0059】
この原料粉末を、モリブテン製の容器に充填し、赤外線加熱方式を有する管状熱処理炉に装填し、以下の条件で水素化分解・脱水素再結合法による処理(HDDR処理)を行った。
【0060】
まず、水素ガス雰囲気下、水素分圧100〜300kPa、温度100℃で原料合金粉末を2時間保持する水素吸蔵工程を行った。続いて、炉内の水素分圧を下げるとともに炉内温度を昇温し、水素ガスを吸蔵した原料粉末を、水素分圧40kPa、温度850℃の条件で1.5時間保持する水素化分解工程を行った。
【0061】
その後、炉内850℃に維持しながら水素圧力を低減して脱水素再結合工程を行った。これによって、HDDR処理された異方性の磁性粉末を得た。得られた磁性粉末を、窒素ガス雰囲気中でスタンプミルを用いて粉砕し、篩い分けを行って、粒径が212μm以下であるNdFe14B粉末を得た。
【0062】
成形圧力980MPa、配向磁界1.2Tの条件で、NdFe14B粉末の磁場中成形を行って、直方体形状の成形体を得た。この成形体をトルエンの入った容器と共に真空ベルジャー内に入れ、成形体をトルエンに浸漬して容器内の圧力を0.9MPa以下の状態で30分間保持する脱泡処理を行った後、常圧に戻した。
【0063】
上記成形体とは別に、上記成形体をトルエンの入った容器と共に真空ベルジャー内に入れ、成形体をトルエンに浸漬して容器内の圧力を10kPa以下の状態で30分間保持する脱泡処理を行った後、常圧に戻した。
【0064】
上記成形体とは別に、トルエンにエポキシ樹脂を溶解させてエポキシ樹脂溶液(エポキ
シ樹脂含有率:50質量%)を調製した。真空ベルジャーに、上述のエポキシ樹脂溶液と、脱泡処理した成形体とを順次投入した。真空ベルジャー内を10kPa以下に減圧して60分間保持し、成形体内にエポキシ樹脂溶液を浸透させた。
【0065】
エポキシ樹脂溶液から成形体を取り出し、遠心分離機によって成形体表面に付着したエポキシ樹脂溶液を除去した。その後、エポキシ樹脂溶液を含浸させた成形体を、温度150℃の恒温槽中(雰囲気:窒素ガス)に5時間保持し、成形体中のエポキシ樹脂を硬化させ、ボンド磁石である磁石素体を得た。
【0066】
次に、以下の手順で分散液を調製した。まず、ガラスフレーク(日本板硝子株式会社製、商品名:REF−160)を篩いにかけて、長径が106μm以下(平均厚み:5μm)のガラスフィラーを得た。また、トリアジン樹脂の前駆体である溶液(三菱ガス化学株式会社製、商品名:CA210、MEK25質量%溶液)に、樹脂固形分100質量部に対して、触媒であるオクチル酸亜鉛を0.2質量部添加した。添加後、この溶液に、ガラスフィラーを配合して、樹脂固形分70質量部に対して、ガラスフレークを30質量部含有する分散液1を得た。
【0067】
この分散液1を、キシレンとn−ブタノールの混合溶媒[キシレン/n−ブタノール=2/1(質量比)]で希釈して、全固形分(ガラスフィラー+樹脂固形分)が40質量%である分散液2を得た。この分散液2を、上述の通り作製した磁石素体上にスプレーガンを用いて塗布した後、不活性ガス雰囲気下、40℃で0.5時間加熱し、磁石素体上の分散液2を乾燥させて、皮膜を形成した。その後、皮膜上に、スプレーガンを用いて分散液2を塗布した後、同様の条件で乾燥させた。乾燥後、180℃で2時間加熱してトリアジン樹脂を硬化させ、磁石素体と、当該磁石素体上に同一組成を有する2つ層が積層された被覆層(厚み:50μm)とを備えるボンド磁石を得た。このボンド磁石の被覆層は、バインダ(トリアジン樹脂)と当該バインダ中に分散したガラスフィラーとを含んでいた。これを実施例1のボンド磁石とした。
【0068】
(比較例1)
実施例1と同様にして磁石素体を作製した。この磁石素体を比較例1のボンド磁石とした。
【0069】
(比較例2)
ガラスフィラーに代えてシリカフィラーを用いたこと、及びトリアジン樹脂の前駆体の溶液に代えてセラミックス系塗料(オキツモ株式会社製、商品名:CE300)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてボンド磁石を作製した。このボンド磁石の被覆層は、バインダ(Si系無機塗料の硬化物)と当該バインダ中に分散したシリカフィラーとを含んでいた。これを比較例2のボンド磁石とした。
【0070】
(比較例3)
ガラスフィラーに代えて、鱗片状の亜鉛粉末(平均長径:20〜30μm、平均厚み:0.3μm)を用いたこと、及びトリアジン樹脂に代えてエポキシ樹脂を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてボンド磁石を作製した。このボンド磁石の被覆層は、バインダ(エポキシ樹脂)と当該バインダ中に分散した亜鉛粉末とを含んでいた。これを比較例3のボンド磁石とした。
【0071】
(比較例4)
分散液2に代えて、亜鉛とスズとアルミニウムのフィラーを含有する市販の耐熱塗料(株式会社日本ダクロシャムロック製、商品名:ジオメット)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてボンド磁石を作製した。このボンド磁石の被覆層は、バインダ(Si系無機バインダ)と当該バインダ中に分散した金属フィラーとを含んでいた。これを比較例4のボンド磁石とした。
【0072】
[ボンド磁石の評価]
実施例1及び比較例1〜4のボンド磁石を5T(テスラ)の条件で着磁して、ボンド磁石の磁束を測定した(初期値)。測定結果は表1〜表5に示すとおりであった。この着磁したボンド磁石を、大気雰囲気下、200℃で1〜1000時間保管した後、磁束を測定した(再着磁前)。測定後、5T(テスラ)の条件で再び着磁して、磁束を測定した(再着磁後)。磁束の測定は、フラックスメーターを用いて行った。保管時間毎の磁束の測定結果を表1〜表5にそれぞれ示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
【表4】

【0077】
【表5】

【0078】
表1〜表5中、着磁前減磁率(%)及び酸化減磁率(%)は、それぞれ下記計算式(3)及び(4)によって算出される値である。なお、式(3)、(4)中、Φは初期磁束を、Φは所定時間保管した後の再着磁前の磁束を、Φは所定時間保管した後の再着磁後の磁束をそれぞれ示す。
【0079】
着磁前減磁率(%)=(Φ−Φ)/Φ (3)
酸化減磁率(%) =(Φ−Φ)/Φ (4)
【0080】
表1〜表5中、「酸化減磁率」の欄は、式(4)から明らかなように、磁石素体に含まれる磁性粉末の酸化による減磁率を示す。また、「ゆらぎ+配向乱」の欄は、ゆらぎ及び配向乱れによる減磁率を示す。表1〜表5に示す結果から明らかなように、実施例1のボンド磁石は、比較例1〜4のボンド磁石に比べて、着磁前の減磁率が大幅に低減されていることが確認された。また、実施例1のボンド磁石は、着磁後の減磁率の値から、酸化に伴う減磁率が小さくなっていることが確認された。
【符号の説明】
【0081】
10,30…ボンド磁石、12…磁石素体、14…被覆層、20…バインダ、20…樹脂、22…フィラー、30…ボンド磁石。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類化合物を含む磁性粒子と樹脂とを含有する磁石素体と、該磁石素体上に被覆層と、を備えるボンド磁石であって、
前記被覆層は、バインダと、前記バインダの中に分散されたガラス又は鉱物を含むフィラーと、を含有するボンド磁石。
【請求項2】
前記鉱物が、タルク、マイカ、及びベントナイトから選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載のボンド磁石。
【請求項3】
前記バインダが、トリアジン環を有する樹脂又は多芳香族環を有する樹脂を含む、請求項1又は2に記載のボンド磁石。
【請求項4】
前記フィラーの平均長径が10〜100μm、平均厚みが5μmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のボンド磁石。
【請求項5】
前記バインダが前記磁石素体に含まれる前記樹脂を含んでおり、異方性である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のボンド磁石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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