説明

ボールねじ装置

【課題】 ボールねじナットのさらなる軽量化を可能としたボールねじ装置を提供する。
【解決手段】 ナット本体11の戻し通路23は、その一方の端の開口31と他方の端の開口32とが径方向同じ位置でかつ周方向にずらされている。これにより、戻し通路23は、軸線Oと平行な直線に対して傾斜した直線状とされるとともに、その径方向内方側の肉厚に関し、中央部の肉厚Tcが両端部の肉厚Teよりも薄くなっている。これに伴って、ナット本体11の外径33は、両端では従来の外径34と同じであり、軸方向の中央においては、両端よりもS=Te−Tcだけ小さいものとなされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールねじ装置に関し、特に、ナットが回転する形態での使用により適したボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ軌道が設けられたねじ軸、ねじ軸に嵌め合わせられたボールねじナットおよびねじ軸とボールねじナットとの間に配設された複数のボールを備えており、ボールねじナットは、ねじ軸のボールねじ軌道に対応するボールねじ軌道およびボール循環のための貫通状の戻し通路が形成されたナット本体と、その両端に設けられたエンドキャップとを有しているボールねじ装置は、よく知られており、このようなボールねじ装置は、アクチュエータや電磁緩衝器などで使用される場合に、ボールねじナットが回転して、ねじ軸が直線移動する形態で使用されることがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−25304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボールねじナットが回転するボールねじ装置では、ボールねじナットの慣性モーメントの低減が課題となっている。従来、ボールねじナットの厚みに関しては、転動体荷重で発生する最大せん断応力深さを考慮して最小肉厚が決められており、これに対応する寸法で製作されたボールねじナットに対しては、さらなる慣性モーメント低減(軽量化)は実施されていない。
【0005】
この発明の目的は、ボールねじナットのさらなる軽量化を可能としたボールねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるボールねじ装置は、ボールねじ軌道が設けられたねじ軸、ねじ軸に嵌め合わせられたボールねじナットおよびねじ軸とボールねじナットとの間に配設された複数のボールを備えており、ボールねじナットは、ねじ軸のボールねじ軌道に対応するボールねじ軌道およびボール循環のための貫通状の戻し通路が形成されたナット本体と、その両端に設けられたエンドキャップとを有しているボールねじ装置において、ナット本体の戻し通路は、その一方の端の開口と他方の端の開口とが径方向同じ位置でかつ周方向にずらされていることで、軸線と平行な直線に対して傾斜した直線状とされるとともに、その径方向内方側の肉厚が両端部よりも中央部で薄くなっており、ナット本体の外径が両端部よりも中央部で小さくなされていることを特徴とするものである。
【0007】
ボールねじ軌道および戻し通路が形成されたナット本体とエンドキャップとを有しているボールねじ装置では、ねじ軸に設けられたボールねじ軌道とナット本体に設けられたボールねじ軌道とによってボールが転動する主通路が形成され、ナット本体周壁に、これを貫通する戻し通路が形成され、エンドキャップに、主通路と戻し通路とを連通する方向転換路が設けられる。ボールは、主通路、方向転換路および戻し通路内に配設され、主通路を転動するボールがねじ軸とボールねじナットの相対回転を案内し、ねじ軸とボールねじナットとが相対回転することにより、ねじ軸とボールねじナットとが軸方向に相対移動する。
【0008】
従来のボールねじ装置において、ナット本体の戻し通路は、軸線と平行な直線状とされており、これに対して、この発明のボールねじ装置では、ナット本体の戻し通路は、軸線と平行な直線に対して傾斜した直線状とされている。この傾斜は、その一方の端の開口と他方の端の開口とが同じ径方向位置にありかつこれらの開口が互いに周方向にずらされることで形成される。すなわち、両端開口の径方向位置は、従来と同じ位置とされるが、その周方向位置に関しては、一方が他方に対して所定角度ずらされ、これら両端を直線状につないだものが戻し通路とされる。このようにして形成された戻し通路の軸方向中央部の径(ナット本体の軸線からの距離)は、両端開口部の径(ナット本体の軸線からの距離)よりも小さいものとなり、ナット本体の内周面がねじ軸に対応する円筒面であることから、戻し通路の径方向内方側の肉厚は、中央部で薄く、両端部で厚くなる。ここで、ナット本体には、強度確保のための最小肉厚が必要であるが、この最小肉厚を決定する最大せん断応力深さに関しては、ボールねじで発生する転動体荷重が軸方向の両端で大きく、中央部では小さいものとなっており、両端部で所要の肉厚を確保することが必要であるが、中央部の肉厚は両端部よりも薄くすることができる。上記の傾斜した戻し通路によると、肉厚の大小関係(中央部が薄い)が最大せん断応力深さの大小関係(転動体荷重が両端部で大)に対応したものとなり、戻し通路の径方向外方側の肉厚を同じにしたときのナット本体の外径は、両端では従来のもの(円筒状外周面を有するナット本体)と同じで、軸方向の中央においては、両端よりもS=両端部の径方向内方側の肉厚Te−中央部の径方向内方側の肉厚Tcだけ小さいものとなる。これにより、ナット本体が軽量化される。
【0009】
ボールねじナットの最小肉厚は、戻し通路の径方向内方側の最小肉厚(ボールねじ軌道溝底から戻し通路までの肉厚)+戻し通路の通路径+戻し通路の径方向外方側の最小肉厚(ナット本体に内輪軌道を設ける場合、内輪軌道溝底から戻し通路までの肉厚)で決まる。ボールねじ軌道溝底から戻し通路までの肉厚および内輪軌道溝底から戻し通路までの肉厚は、転動体荷重で発生する最大せん断応力に応じた厚さ(例えば最大せん断応力深さの8倍以上の厚さ)が必要となる。したがって、強度確保のための最小肉厚という考えから、肉厚が決まり、これによりナット本体の外径が決まることになり、外径をさらに小さくする余地はないことになる。一方、ナット本体にかかる転動体荷重の応力に着目すると、ボールねじで発生する転動体荷重は、ボールねじ軌道全体で均一ではなく、軸方向の両端が大きくなり、中央部は比較的小さくなる。特に、モーメントを受ける場合、エッジ応力によって両端の応力が大きくなる。そこで、従来の軸方向に平行な戻し通路に代えて、傾斜状の戻し通路とすると、ナット本体の端部では肉厚を大きく、中央部では肉厚を小さくすることができる。すなわち、中央部では、転動体荷重の小さい分、せん断応力深さは浅くなり、肉厚を減らすことが可能になる。これにより、転動体荷重が大きい両端の肉厚は従来と同じにして、両端を除いた部分が薄肉化され、強度が低下することなく、ナット本体が軽量化(回転時の慣性モーメントが低減)される。
【0010】
上記のボールねじ装置において、ボールねじナットを回転可能に支持する転がり軸受をさらに備えており、ナット本体の外周に、転がり軸受の内輪軌道が設けられていること(転がり軸受の内輪がナット本体と一体化されていること)がある。このようにすると、転がり軸受の内輪が不要になるとともに、これを固定するための内輪固定用ナットが不要になり、部品数低減の点から好ましい。
【0011】
この発明によるボールねじ装置は、アクチュエータ(モータによってボールねじナットが回転させられ、これにより、ねじ軸が直線移動する形態)として使用されることがあり、緩衝器(ねじ軸が外部からの力によって直線移動させられ、これにより、ボールねじナットが回転し、モータが発生する電磁力が減衰力となる形態)として使用されることがある。いずれの形態でも、ボールねじナットの慣性モーメントの低減が望まれており、この発明によるボールねじ装置を使用することで、慣性モーメントの低減が可能となる。特に、電磁緩衝器用のボールねじ装置では、モータおよびボールねじナットの慣性モーメントによって、制御しづらいという問題があり、しかも、部品点数低減の点から転がり軸受と一体構造とすることが好ましいことから、玉軸受の内輪がナット本体と一体化されているものがより好ましい。
【0012】
ボールねじ装置は、ねじ軸の直線移動を案内するスプライン付きとされることが好ましい。すなわち、ねじ軸にスプライン軌道がさらに設けられて、ねじ軸の一端部においてスプライン軌道にスプライン外筒が嵌め合わされていることが好ましい。この場合のスプラインは、ボールスプラインであってもよく、例えばインボリュートスプラインのような嵌合式のスプラインであってもよい。
【0013】
ボールねじナットは、例えば、軸受鋼(SUJ2)製とされ、ねじ軸は、例えば、S45C,S55Cなどの炭素鋼製あるいはSAE4150鋼製とされ、また、ボールは、例えば、軸受鋼(SUJ2)製とされる。
【発明の効果】
【0014】
この発明のボールねじ装置によると、ナット本体の戻し通路は、その一方の端の開口と他方の端の開口とが径方向同じ位置でかつ周方向にずらされていることで、軸線と平行な直線に対して傾斜した直線状とされるとともに、その径方向内方側の肉厚が両端部よりも中央部で薄くなっており、ナット本体の外径が両端部よりも中央部で小さくなされているので、軽量化(回転時の慣性モーメントが低減)される。ナット本体にかかる転動体荷重に着目すると、ボールねじで発生する転動体荷重は、ボールねじ軌道全体で均一ではなく、軸方向の両端が大きくなり、中央部は比較的転動体荷重が小さくなることから、転動体荷重が大きい両端の肉厚を従来と同じにすることで、強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、この発明によるボールねじ装置の要部であるボールねじナットのナット本体を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図2】図2は、この発明によるボールねじ装置の要部を模式的に示す縦断面図である。
【図3】図3は、従来のボールねじ装置の要部の縦断面図である。
【図4】図4は、この発明が対象とするボールねじ装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。以下の説明において、上下は、図4の上下をいうものとする。
【0017】
図4は、この発明が対象とするボールねじ装置の概略の全体構成を示し、図1および図2は、この発明のボールねじ装置の要部を、図3は、従来のボールねじ装置の要部をそれぞれ示している。
【0018】
図4に示すように、ボールねじ装置(1)は、ボールねじ軌道(2a)および上下方向にのびるスプライン軌道(図示略)が設けられた上下にのびる鋼製ねじ軸(2)と、ねじ軸(2)のボールねじ軌道(2a)にボール(4)を介してねじ合わされた回転自在の鋼製ボールねじナット(3)と、ねじ軸(2)の下端部側においてスプライン軌道にボールを介して嵌め合わされてねじ軸(2)の上下方向(軸方向)直線運動を案内する鋼製ボールスプライン外筒(5)と、ボールねじナット(3)を回転可能に支持する鋼製転がり軸受(6)とを備えている。
【0019】
このボールねじ装置(1)は、例えば、転がり軸受(6)の外輪(45)がハウジング(図示略)に回転不可能に支持され、ボールねじナット(3)が回転させられて、これに伴ってねじ軸(2)が直線移動する形態で使用される。
【0020】
ボールねじナット(3)は、エンドキャップ式のもので、ナット本体(41)およびその両端に複数のキャップ結合用ボルト(43)によってそれぞれ取り付けられた上下1対のエンドキャップ(42)からなる。
【0021】
転がり軸受(6)は、外輪軌道(45a)が形成された外輪(45)と、ナット本体(41)の外周面に形成された内輪軌道(46)と、対応する軌道(45a)(46)の間に介在させられた複数の玉(47)とからなる。
【0022】
図3に示すように、ナット本体(41)には、ねじ軸(2)のボールねじ軌道(2a)に対応して、ボールねじ軌道(41a)が設けられており、これらのボールねじ軌道(2a)(41a)対向空間がボール(4)が転動する主通路(48)となっている。エンドキャップ(42)には、主通路(48)を転動したボール(4)を径方向外方に案内するみぞ状の方向転換路(49)が設けられており、ナット本体(41)周壁には、各方向転換路(49)の径方向外方端部に連通する戻し通路(50)が設けられている。戻し通路(50)は、キャップ結合用ボルト(43)から周方向に所定間隔をおいた位置に設けられており、キャップ結合用ボルト(43)がねじ合わされるねじ孔と平行でかつ径方向ほぼ同じ位置においてナット本体(41)を軸方向全長にわたって貫通する断面円形の孔とされている。
【0023】
ボール(4)は、主通路(48)、方向転換路(49)および戻し通路(50)内に配設され、主通路(48)を転動するボール(4)がねじ軸(2)とボールねじナット(3)の相対回転を案内するようになっている。ねじ軸(2)とボールねじナット(3)とが相対回転することにより、ねじ軸(2)とボールねじナット(3)とが軸方向に相対移動する。このとき、主通路(48)を転動したボール(4)は、一方のエンドキャップ(42)の方向転換路(49)で方向転換されてナット本体(41)の戻し通路(50)に導入され、戻し通路(50)内を他方のエンドキャップ(42)側に移動し、戻し通路(50)を移動してきたボール(4)が、他方のエンドキャップ(42)の方向転換路(49)で方向転換されて、主通路(48)に導入される。
【0024】
この発明によるボールねじ装置は、図4に示したボールねじ装置において、ボールねじナット(3)のナット本体(41)を図1および図2に示すナット本体(11)に置き換えたものとなっている。
【0025】
図3に示す従来のものにおいては、ナット本体(41)に設けられる戻し通路(50)は、ナット本体(41)の軸線と平行な直線状(一方の端の開口(50a)と他方の端の開口(50b)とが径方向および周方向のいずれに関しても同じ位置にある)とされている。したがって、従来のものでは、その縦断面形状で考えた場合、ナット本体(41)の内径の線(L1)、ボールねじ軌道(41a)の溝底をつなぐ線(L2)、戻し通路(50)の径方向内方を規定する線(L3)、戻し通路(50)の径方向外方を規定する線(L4)およびナット本体(41)の外径の線(L5)がすべて平行になり、ナット本体(41)の最小肉厚T’minは、戻し通路(50)の径方向内方側の最小肉厚T1をボールねじ装置のボール(4)による転動体荷重に基づいて決定するとともに、戻し通路(50)の径方向外方側の最小肉厚T2を転がり軸受(6)の玉(47)による転動体荷重に基づいて決定することにより、ナット本体(41)の最小肉厚T’min=戻し通路(50)の径方向内方側の最小肉厚T1+戻し通路(50)の径方向外方側の最小肉厚T2+戻し通路(50)の通路径Dとして求められる。
【0026】
この発明のボールねじ装置は、ボールねじの転動体荷重がボールねじ軌道(11a)(41a)全体で均一ではないことに着目し、ナット本体(11)(41)の肉厚のさらなる低減を図ったものである。ナット本体(11)(41)の肉厚に関しては、転動体荷重で発生する最大せん断応力深さに対応した厚さが必要であるが、ボールねじにおける転動体荷重は、ナット本体(11)(41)の軸方向の両端で大きく、中央部では相対的に小さくなる。言い換えると、従来のものを基準にすると、戻し通路(23)(50)の径方向内方側の肉厚に関し、中央において薄肉化が可能である。
【0027】
そこで、この発明によるボールねじ装置では、ボールねじナット(3)のナット本体(11)に設けられる戻し通路(23)は、図1(a)(b)に示すように、その一方の端の開口(31)と他方の端の開口(32)とが径方向同じ位置でかつ周方向にずらされているものとされ、これにより、軸線Oと平行な直線に対して傾斜した直線状(一方の端と他方の端とが同じ径であるがこれらの端が互いに周方向にずれている直線状)とされている。図1(a)から分かるように、戻し通路(23)の径方向位置(ナット本体(11)の軸線Oからの距離)については、両端部において最大であり、軸方向の中央部において最小であり、言い換えると、戻し通路(23)自体は直線状であっても、円筒状のナット本体(11)においては、戻し通路(23)の中央部における径方向内方側の肉厚Tcが戻し通路(23)の両端部における径方向内方側の肉厚Teよりも薄くなる。戻し通路(23)の径方向外方側の肉厚については、両端部の肉厚と中央部の肉厚とで同じにすればよいので、ナット本体(11)の外径(33)は、図1(b)に示すように、両端部では二点鎖線で示す従来の外径(34)と同じであり、中央部においては、両端部よりもS=Te−Tcだけ小さいものとなる。
【0028】
図1に示す戻し通路(23)の径方向位置と図3の戻し通路(50)の径方向位置とを比較した場合、各戻し通路(23)(50)の両端部開口(31)(32)(50a)(50b)は、すべて同じ径方向位置にある。すなわち、図1における戻し通路(23)の一端開口(31)に図3の戻し通路(50)の一端開口(50a)を重ねることができ、この場合、図3の戻し通路(50)の他端開口(50b)は、一端開口(50a)に重なる位置にあり、図1における戻し通路(23)の他端開口(32)は、これらからずれた位置にあるが、周方向にずれているだけで、径方向位置としてはこれらと同じ位置にある。そして、図1に示す戻し通路(23)の軸方向の中央部の径方向位置は、図1に示す戻し通路(23)の両端開口(31)(32)の径方向位置(=図3の戻し通路(50)の両端開口(50a)(50b)の径方向位置)よりも径方向内方に位置することになり、図1に示す戻し通路(23)を図3に対応させて示す図2においては、戻し通路(23)の左右のちょうど真ん中で戻し通路(23)の径が最小になっており、これにつながる部分の径が各端に近づくに連れて大きくなっていく。したがって、この発明のボールねじ装置におけるナット最小肉厚Tminは、Tmin=ねじ軌道(11a)の溝底をつなぐ線(L2)から戻し通路(23)の軸方向中央部における径方向内方線(Lc)までの分Tc+戻し通路(23)の通路径D+戻し通路(23)の軸方向中央部における径方向外方線(Lo)から転がり軸受の軌道の溝底(Lb)までの分Toであり、これは、従来の最小肉厚T’min=戻し通路(50)の径方向内方側の最小肉厚T1(=図2の戻し通路(23)の軸方向端部における径方向内方側の肉厚Te)+戻し通路(50)の径方向外方側の最小肉厚T2(=図2の戻し通路(23)の軸方向中央部における径方向外方側の肉厚To)+戻し通路(50)の通路径D(=図2の戻し通路(23)の通路径D)よりS=Te−Tc小さくなっている。
【0029】
図2において、ナット本体(11)にボールねじ軌道(11a)が設けられることで、主通路(21)が形成され、ボール(図3参照)は、主通路(21)、方向転換路(22)および戻し通路(23)内に配設され、ねじ軸(図3参照)とボールねじナット(3)とが相対回転することにより、ねじ軸とボールねじナット(3)とが軸方向に相対移動する。このとき、主通路(21)を転動したボールは、一方のエンドキャップ(12)の方向転換路(22)で方向転換されてナット本体(11)の戻し通路(23)に導入される。このエンドキャップ(12)は、図3に示したエンドキャップ(42)と同一形状とすることができる。戻し通路(23)内おけるボールの移動は、戻し通路(23)が直線状であるので、スムーズに行われ、エンドキャップ(12)の方向転換路(22)での方向転換についても、従来と同様に行われる。したがって、戻し通路(23)を傾斜状としたことがボールの循環に悪影響を与えることはない。
【0030】
転がり軸受(6)は、外輪軌道(24a)が形成された外輪(24)と、ナット本体(11)の外周面に形成された内輪軌道(25)と、対応する軌道(24a)(25)の間に介在させられた複数の玉(26)とからなるものとされる。ナット本体(11)の外周面に内輪軌道(25)が形成されていることで、転がり軸受(6)の内輪が不要になるとともに、これを固定するための内輪固定用ナットが不要になり、部品数を低減することができる。また、外輪(24)の内径および外径は、ナット本体(11)の内輪軌道(25)の径が小さくなっていることで、従来のものよりも小径化が可能となっている。
【0031】
上記において、ボールねじ軌道(2a)(11a)は1条とされているが、2条の場合には、図示した戻し通路(23)と対称となるように戻し通路を追加すればよい。また、ナット本体(11)の戻し通路(23)両端開口(31)(32)の周方向位置のずれ量については、特に限定されるものではなく、角度にして例えば10〜80°の範囲で適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0032】
(2) ねじ軸
(2a) ボールねじ軌道
(3) ボールねじナット
(4) ボール
(6) 転がり軸受
(11) ナット本体
(11a) ボールねじ軌道
(12) エンドキャップ
(23) 戻し通路
(25) 内輪軌道
(31) 一方の端の開口
(32) 他方の端の開口
(33) 外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじ軌道が設けられたねじ軸、ねじ軸に嵌め合わせられたボールねじナットおよびねじ軸とボールねじナットとの間に配設された複数のボールを備えており、ボールねじナットは、ねじ軸のボールねじ軌道に対応するボールねじ軌道およびボール循環のための貫通状の戻し通路が形成されたナット本体と、その両端に設けられたエンドキャップとを有しているボールねじ装置において、ナット本体の戻し通路は、その一方の端の開口と他方の端の開口とが径方向同じ位置でかつ周方向にずらされていることで、軸線と平行な直線に対して傾斜した直線状とされるとともに、その径方向内方側の肉厚が両端部よりも中央部で薄くなっており、ナット本体の外径が両端部よりも中央部で小さくなされていることを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
ボールねじナットを回転可能に支持する転がり軸受をさらに備えており、ナット本体の外周に、転がり軸受の内輪軌道が設けられていることを特徴とする請求項1のボールねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−256890(P2011−256890A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129623(P2010−129623)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】