説明

ボールねじ

【課題】 長期にわたってボールの循環性を良好に保つことができるボールねじを提供する。
【解決手段】 エンドキャップ3に、ねじ軸1のおねじみぞ5内に突出してボール4をすくい上げるボールすくい上げ部11が設けられており、ボールすくい上げ部11の先端部11aが、ボール4が進む方向から見ても軸方向から見てもいずれも曲面状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじとして、ねじみぞが外周面に形成されたねじ軸と、ねじ軸が通されてねじ軸のねじみぞに対応するねじみぞが内周面に形成されたナットと、ねじ軸のねじみぞとナットのねじみぞにより形成されるボール通路に配設された複数のボールとを備えており、ナットの軸方向両端面に1対のエンドキャップが設けられ、エンドキャップに、ねじ軸のねじみぞ内に突出してボールをすくい上げるボールすくい上げ部が設けられているものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−84743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のボールねじでは、ボールすくい上げ部先端が細く長くなっており、その背反として、ボールすくい上げ部の尖った先端部が変形して、ボールの循環性が低下する可能性があった。
【0005】
この発明の目的は、長期にわたってボールの循環性を良好に保つことができるボールねじを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるボールねじは、ねじみぞが外周面に形成されたねじ軸と、ねじ軸が通されてねじ軸のねじみぞに対応するねじみぞが内周面に形成されたナットと、ねじ軸のねじみぞとナットのねじみぞにより形成されるボール通路に配設された複数のボールとを備えており、ナットの軸方向両端面に1対のエンドキャップが設けられ、エンドキャップに、ねじ軸のねじみぞ内に突出してボールをすくい上げるボールすくい上げ部が設けられているボールねじにおいて、ボールすくい上げ部の先端部が、ボールが進む方向から見ても軸方向から見てもいずれも曲面状に形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
ボールねじナットは、エンドキャップ式と称されるもので、ナットの軸方向両端面に1対のエンドキャップが設けられ、ねじみぞの径方向外側において周壁を貫通する戻し通路がナットに形成され、エンドキャップのナット側の端面に、主通路と戻し通路とを連通させるみぞ状の方向転換路が形成されているものとされる。エンドキャップ式ボールねじナットでは、エンドキャップに、ねじ軸のねじみぞ内に突出してボールをすくい上げるボールすくい上げ部が設けられる。
【0008】
ボールすくい上げ部は、従来、尖った先端を有していたが、この先端部が丸められる(ボールが進む方向から見ても軸方向から見てもいずれも曲面状に形成される)ことで、変形しにくいものとされる。方向転換路は、従来のものと同じに形成され、方向転換路に対するボールすくい上げ部の先端位置は、尖った先端を有しているものと同じにされることが好ましい。
【0009】
方向転換路は、ねじみそのピッチ角(リード角)と同じ角度で直線状に延びており、接線方向に放出されたボールを案内するための周方向直線軌道部と、周方向直線軌道部から径方向外方に延びるとともに軸方向に湾曲した周方向湾曲軌道部と、周方向湾曲軌道部に連なって軸方向に延び、戻し通路に直線状に連なる軸方向軌道部とを有しており、ボールすくい上げ部は、その径方向外側の面が方向転換路の周方向直線軌道部と平行となされて、ねじみぞのピッチ角で飛び出したボールを方向転換路に沿って移動させる案内機能を有している。
【0010】
ねじ軸およびナットは、例えば、S45C,S55Cなどの炭素鋼製あるいはSAE4150鋼製とされ、また、ボールは、例えば、軸受鋼(SUJ2)製とされる。ナットは、軸受鋼(SUJ2)製としてもよい。エンドキャップは、合成樹脂製あるいは鋼製とされる。
【発明の効果】
【0011】
この発明のボールねじによると、ボールすくい上げ部の先端部が、曲面状に形成されていることにより、ボールすくい上げ部の先端部が変形しにくいものとなり、ボールの循環性の低下が防止され、長期にわたってボールの循環性を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、この発明の実施形態を示すボールねじの主要部の縦断面図である。
【図2】図2は、図1のII−II線の断面図である。
【図3】図3は、エンドキャップの軸方向から見た拡大図である。
【図4】図4は、従来のボールねじとの相違点を説明するエンドキャップ要部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1はボールねじの主要部の縦断面図、図2はその横断面図、図3はエンドキャップの軸方向から見た拡大図、図4は従来のボールねじとの相違点を説明するエンドキャップ要部の軸方向から見た図である。
【0015】
ボールねじは、鋼製ねじ軸(1)、鋼製ナット(2)、1対の合成樹脂製エンドキャップ(ボール循環部材)(3)および多数のボール(4)を備えている。
【0016】
ねじ軸(1)は横断面円形の中実軸であり、ねじ軸(1)の外周面に、2条のおねじみぞ(5)がねじ軸(1)の全長にわたって形成されている。
【0017】
ナット(2)は、円筒状をなし、ねじ軸(1)の外周に径方向に若干の隙間をあけてはめられている。ナット(2)の内周面に、おねじみぞ(5)に対応する2条のめねじみぞ(6)が形成されている。
【0018】
エンドキャップ(3)は、互いに同一形状の短円筒状の環体よりなり、ナット(2)の軸方向両端面にボルト(7)などの連結具を用いて固定されている。エンドキャップ(3)のナット(2)側の端面は、ナット(2)に対する径方向のずれを抑えるために、径方向内方側の面(3a)を基準として、径方向外側の面(3b)が軸方向内方に突出するように形成されており、これに対応して、ナット(2)のエンドキャップ(3)側の端面は、その径方向外側の面が軸方向内方に凹むように形成されている。
【0019】
ナット(2)のめねじみぞ(6)とこれに対向するねじ軸(1)のおねじみぞ(5)との対向空間がボール(4)が転動する主通路(ボール通路)(8)となっている。ナット(2)の周壁の1箇所に、戻し通路(9)が形成されている。戻し通路(9)は、ナット(2)を軸方向全長にわたって貫通する断面円形の貫通穴よりなる。
各エンドキャップ(3)のナット(2)側の端面に、主通路(8)と戻し通路(9)を連通させるみぞ状の方向転換路(10)が形成されている。方向転換路(10)の内周側には、ボール(4)をおねじみぞ(5)からすくい上げて方向転換路(10)内に導くためのボールすくい上げ部(11)が形成されている。ボールすくい上げ部(11)は、おねじみぞ(5)内に突出している。
【0020】
方向転換路(10)は、ねじみそ(5)(6)のピッチ角(リード角)と同じ角度で直線状に延びており、接線方向に放出されたボール(4)を案内するための周方向直線軌道部(10a)と、周方向直線軌道部(10a)から径方向外方に延びるとともに軸方向に湾曲した周方向湾曲軌道部(10b)と、周方向湾曲軌道部(10b)に連なって軸方向に延び、戻し通路(9)に直線状に連なる軸方向軌道部(10c)とを有している。各軌道部(10a)(10b)(10c)は、転動するボール(14)の外側軌道となるように断面円弧状に形成されている。
【0021】
ボールすくい上げ部(11)は、その径方向外側の面(11b)が方向転換路(10)の周方向直線軌道部(10a)と平行となされて、おねじみぞ(5)のピッチ角で飛び出したボール(4)を方向転換路(10)に沿って移動させる案内機能を有している。
【0022】
ボール(4)は、主通路(8)、戻し通路(9)および方向転換路(10)内に配設され、主通路(8)を転動するボール(4)がねじ軸(1)とナット(2)の相対回転を案内するようになっている。
【0023】
ボールすくい上げ部(11)の先端部(11a)は、図1に示されている径方向から見て(ボール(4)が進む方向から見た場合も同じ)、曲面状に形成されており、図2および図3に示されている軸方向から見ても、曲面状に形成されている。
【0024】
図4(a)には、従来のボールすくい上げ部(21)が示されており、その先端部(21a)は、細く長くなっている。そため、尖った先端部(21a)が変形する可能性があり、この場合には、ボール(4)の循環性が低下する。
【0025】
図4(b)に示すボールすくい上げ部(22)は、先端部の変形の可能性をなくすために、その先端部(22a)が曲面状にされている。ただし、図4(b)のものでは、方向転換路(10)の周方向直線軌道部(10a)の始点Qとボールすくい上げ部(22)の先端とのなす角θbは、図4(a)に示す先端が尖っているボールすくい上げ部(21)における方向転換路(10)の周方向直線軌道部(10a)の始点Qとボールすくい上げ部(21)の先端とのなす角θaに比べて、大きくなっており、この分、ボールすくい上げ機能が低下している。
【0026】
図4(c)に示すボールすくい上げ部(11)は、方向転換路(10)の周方向直線軌道部(10a)の始点Qとボールすくい上げ部(11)の先端とのなす角θを図4(a)のθaとほぼ等しくなされたものである。具体的には、図4(a)においては、ボールすくい上げ部(21)の仮想延長線が方向転換路(10)の周方向直線軌道部(10a)の始点Qと同じ角度位置Paでエンドキャップ(3)の径方向内方側の面(3a)の延長面上に位置するようになされているのに対し、図4(c)においては、方向転換路(10)の周方向直線軌道部(10a)の始点Qよりも図で反時計方向に寄った角度位置Pでエンドキャップ(3)の径方向内方側の面(3a)の延長面上に位置するように、ボールすくい上げ部(11)の仮想延長線が設定されている。
【0027】
これにより、図4(c)のボールすくい上げ部(11)は、図4(a)のものに比べて、ボールすくい上げ機能が低下することなく、先端部の変形の可能性が改良されている。図3に示されているボールすくい上げ部(11)は、このようにして形成されたものとなっている。
【0028】
なお、方向転換路(10)の周方向直線軌道部(10a)の始点Qとボールすくい上げ部(11)の先端位置とがなす角θは、20°〜40°が好ましい。
【0029】
ねじ軸(1)とナット(2)とが相対回転することにより、ねじ軸(1)とナット(2)とが軸方向に相対移動する。このとき、主通路(8)を転動していたボール(4)が、一方のエンドキャップ(3)の方向転換路(10)で方向転換されてナット(2)の戻し通路(9)に導入され、戻し通路(9)内を他方のエンドキャップ(3)側に移動し、戻し通路(9)を移動してきたボール(4)が、他方のエンドキャップ(3)の方向転換路(10)で方向転換されて、主通路(8)に導入される。ボールすくい上げ部(11)が上記の形状とされていることで、主通路(8)と方向転換路(10)との間のボール(4)の移動は、ボールすくい上げ部(11)に案内されることでスムーズなものとなり、ボールすくい上げ部(11)が変形しにくいことで、ボール(4)の循環性は、長期にわたって良好に保たれる。
【0030】
なお、上記において、ねじみぞ(5)(6)を2条としているが、ねじみぞが1条または3条以上の多条であってもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0031】
(1) ねじ軸
(2) ナット
(3) エンドキャップ
(4) ボール
(5) おねじみぞ
(6) めねじみぞ
(8) 主通路(ボール通路)
(10) 方向転換路
(11) ボールすくい上げ部
(11a) 先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじみぞが外周面に形成されたねじ軸と、ねじ軸が通されてねじ軸のねじみぞに対応するねじみぞが内周面に形成されたナットと、ねじ軸のねじみぞとナットのねじみぞにより形成されるボール通路に配設された複数のボールとを備えており、ナットの軸方向両端面に1対のエンドキャップが設けられ、エンドキャップに、ねじ軸のねじみぞ内に突出してボールをすくい上げるボールすくい上げ部が設けられているボールねじにおいて、
ボールすくい上げ部の先端部が、ボールが進む方向から見ても軸方向から見てもいずれも曲面状に形成されていることを特徴とするボールねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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