説明

ボールジョイント

【課題】ボールシートの異常摩耗を簡単で安価な構成により検知できるボールジョイントを提供する。
【解決手段】ソケット5の内室4に収容したボールシート6に、ボールスタッド8のボール部51を保持する。ソケット5とボールスタッド8とに、ボールシート6の温度を検知する温度感知センサ32とボールスタッド8の温度を検知する温度感知センサ56とを設ける。温度感知センサ32,56により検知したボールシート6あるいはボールスタッド8の温度上昇により、ボールシート6の異常摩耗が検知可能となるから、複雑なシステムを必要とすることなくボールシート6の異常摩耗を簡単で安価な構成により検知できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソケットの内室に収容されたベアリングシートを有するボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車の懸架装置、あるいは操舵装置などに用いられるボールジョイントは、内部に内室を有する略有底円筒状の金属製のソケットと、このソケットの内室に収容された略筒状のベアリングシートとしてのボールシートと、このボールシート内に摺動可能に収容されるボール部を備えた金属製のボールスタッドとを有している。
【0003】
このようなボールジョイントでは、一般にボールシートが合成樹脂により形成されており、ボールスタッドの揺動に伴うボール部の摺動により、このボール部とボールシートの摺動面との間で摩擦が生じ、この摩擦に伴い、摺動面が経時的に摩耗する。そして、このようにボールシートが摩耗してしまうと、所望のボールジョイント特性が得られなくなる。
【0004】
そこで、ボールシートを絶縁性部材により形成し、一方の電極として作用するボールスタッドを電圧源と電気的に接続し、他方の電極として作用する摩耗検知用の電極をボールシートの外側から埋め込んでランプと電気的に接続して、ボールシートの摩耗によりボールスタッドのボール部と摩耗検知用の電極とが接触すると通電してランプが点灯することによって、ボールシートの摩耗を検知可能な構成が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特表2005−500492号公報(第6−7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のボールジョイントでは、専用の電気系補助システムが必要となり、構成が複雑化し、高価になってしまうという問題点を有している。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、ベアリングシートの異常摩耗を簡単で安価な構成により検知できるボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のボールジョイントは、内室を備えたソケットと、このソケットの内室に収容されたベアリングシートと、このベアリングシートに少なくとも一部が摺動可能に保持されるボールスタッドと、前記ソケットと前記ボールスタッドとの少なくともいずれか一方に設けられ、ソケットとボールスタッドとベアリングシートとの少なくともいずれかの温度を検知する温度検知手段とを具備したものである。
【0008】
そして、ソケットとボールスタッドとの少なくともいずれか一方に設けた温度検知手段により、ソケットとボールスタッドとベアリングシートとの少なくともいずれかの温度上昇を検知することで、ボールスタッドの少なくとも一部の摺動によるベアリングシートの異常摩耗が検知可能となる。
【0009】
請求項2記載のボールジョイントは、請求項1記載のボールジョイントにおいて、温度検知手段は、少なくとも一部がソケットの内部のベアリングシートに対向する位置に配設されているものである。
【0010】
そして、温度検知手段の少なくとも一部を、ソケットの内部のベアリングシートに対向する位置に配設することで、ボールスタッドの少なくとも一部とベアリングシートとの摺動部の温度上昇が、温度検知手段により確実に検知される。
【0011】
請求項3記載のボールジョイントは、請求項1または2記載のボールジョイントにおいて、ボールスタッドは、ベアリングシートの摺動面に摺動可能に保持されるボール部を備え、温度検知手段は、少なくとも一部が、前記ボール部の内部の前記ベアリングシートの前記摺動面に対向する位置に配設されているものである。
【0012】
そして、温度検知手段の少なくとも一部を、ベアリングシートの摺動面に摺動可能に保持されるボール部の内部の摺動面に対向する位置に配設することで、ボール部とベアリングシートの摺動面との摺動部の温度上昇が、摺動面の近傍にて温度検知手段により確実に検知される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複雑なシステムを必要とすることなくベアリングシートの異常摩耗を簡単で安価な構成により検知できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態のボールジョイントの構成を、図1を参照して説明する。
【0015】
図1において、1はボールジョイントを示し、このボールジョイント1は、例えば、自動車の懸架装置、あるいは操舵装置などに用いられるものである。そして、このボールジョイント1は、内部に内室4が区画された略有底円筒状のソケット5を備え、このソケット5の内室4には、ベアリングシートとしての略筒状のボールシート6が収容されている。また、このボールシート6の内部には、摺動面7が形成され、この摺動面7により、ボールスタッド8の一部が摺動可能に保持されている。
【0016】
なお、以下、便宜的に図1に示す上下方向を上下方向として説明する。
【0017】
内室4は、ソケット5の下端部に開口形成された開口部11に連通しており、この開口部11に連続する内周面12と、この内周面12の上側に連続した傾斜面13と、この傾斜面13の上側に連続した底面14とを有し、この底面14に図示しない潤滑剤などが収容される潤滑剤収容凹部15が形成されている。
【0018】
内周面12は、ソケット5の中心軸に対して平行に形成された円筒面状に形成されている。
【0019】
傾斜面13は、ソケット5の中心軸に対して上側に向けて縮径されるように、すなわち、ソケット5の中心軸方向へと傾斜するように形成されている。
【0020】
底面14は、略水平面状、すなわちソケット5の中心軸に対して略直交する方向に沿って形成されている。
【0021】
ソケット5は、ハウジングとも呼ばれるもので、例えばアルミニウムなどの部材を鋳造、あるいは鍛造して成形後、切削成形されている。また、このソケット5には、開口部11の内縁部に、ボールシート6の抜け止め用の環状の抜け止め部材21が嵌着される段差部22が形成され、この段差部22に嵌着された抜け止め部材21は、開口部11の下端縁部が中心軸側へとかしめ変形されて形成されたかしめ部23により抜け止め固定されている。
【0022】
また、ソケット5の下端側の外周部には、開口部11を覆うダストカバー25が取り付けられる嵌合凹部26が設けられている。ここで、ダストカバー25は、ブーツとも呼ばれ、内室4内への塵埃などの侵入を防止するもので、弾性変形可能な、例えばゴム、あるいは軟質の合成樹脂などにて略円筒状に形成されている。そして、このダストカバー25は、上端部の外周部に円環状の押さえリング27が嵌着されて嵌合凹部26に保持されている。
【0023】
さらに、ソケット5の上端側には、このソケット5の中心軸に対して径方向にずれた位置に、取付孔部31が設けられ、この取付孔部31には、温度検知手段としての第1温度検知体(ソケット側温度検知体)である温度感知センサ32が取り付けられている。
【0024】
取付孔部31は、ソケット5の軸方向に沿って設けられ、下端部が内室4の傾斜面13の近傍まで延設され、この下端部に、傾斜面13に対して略平行となるように傾斜した孔部底面33が形成されている。
【0025】
温度感知センサ32は、ボールシート6の温度をボールシート6の外方から検知するもので、センサ本体34と、このセンサ本体34に電気的に接続されたリード線35とを有している。
【0026】
センサ本体34は、孔部底面33に略接触する状態で取付孔部31の下端部に収容されている。
【0027】
また、リード線35は、取付孔部31からソケット5の外部へと導出され、図示しない車両の警告燈へと電気的に接続されている。
【0028】
ボールシート6は、例えば可撓性を有するポリアセタールなどの合成樹脂を射出成形することにより、ソケット5の内室4に対応した略円筒状に形成されている。したがって、ボールシート6は、ソケット5の内室4の内周面12に対応する胴体部41と、ソケット5の内室4の傾斜面13及び底面14に対応する傾斜部42とを有している。
【0029】
胴体部41は、外周面が内周面12に嵌着される略直線円筒状に形成され、下端部に、内室4に取り付けられた状態で開口部11に連通する開口45が開口形成されている。
【0030】
傾斜部42は、ボールシート6の中心軸に対して上側に向けて縮径されるように、すなわち、ボールシート6の中心軸方向へと傾斜するように形成されて外周面が傾斜面13に嵌着され、上面が底面14に嵌着されている。そして、この傾斜部42の上端部には、内室4に取り付けられた状態で潤滑剤収容凹部15に対向する連通開口47が中央部に開口形成されている。
【0031】
ボールスタッド8は、例えば鋼鉄製であり、ボールシート6の摺動面7に保持される球状のボール部51と、このボール部51の軸方向に直線状に突設された略円柱軸状のスタッド部52とを一体に有している。また、このボールスタッド8には、スタッド部52を開口部11及び開口45から下方へと突出させるようにソケット5に取り付けられている。さらに、このボールスタッド8には、上下方向に連続する孔部55が設けられ、この孔部55に、温度検知手段としての第2温度検知体(スタッド側温度検知体)である温度感知センサ56が取り付けられている。
【0032】
ボール部51は、赤道位置よりもスタッド部52側の位置までボールシート6の摺動面7に保持されている。
【0033】
ここで、ボール部51の赤道とは、ボールスタッド8をソケット5に対して直立状態とした際のボールスタッド8の中心軸に直交する平面上でボール部51の半径が最大となる位置をいう。
【0034】
スタッド部52の基端側寄りの周囲には、ダストカバー25の下端側が嵌合している。
【0035】
そして、孔部55は、スタッド部52の下端部に開口し、ボールスタッド8の中心軸に沿ってボール部51の上端近傍まで延設されている。そして、この孔部55の上端部は、ボール部51がボールシート6の連通開口47に対向する位置の近傍に位置している。
【0036】
温度感知センサ56は、ボールシート6の摺動面7に対向する位置のボールスタッド8の温度を、このボールスタッド8の内方から検知するもので、温度感知センサ32と同様に、センサ本体61と、このセンサ本体61に電気的に接続されたリード線62とを有している。
【0037】
センサ本体61は、孔部55の上端部に接触するように収容されている。
【0038】
また、リード線62は、孔部55からソケット5の外部へと導出され、図示しない車両の警告燈へと電気的に接続されている。
【0039】
そして、上記温度感知センサ32,56は、ボールシート6、あるいはボールスタッド8の温度を検知することにより、ボールジョイント1の摺動部、すなわちボールシート6の摺動面7とボールスタッド8のボール部51の外周面との摺動部の温度を間接的に検知することで、ボールシート6の異常摩耗を検知するものである。ここで、異常摩耗とは、通常使用の範囲で摩耗する領域を越える想定外の摩耗であり、例えば潤滑不良による摺動面の乾燥あるいは焼き付き、過酷な使用条件による摩耗の加速、あるいは異物などによる、いわゆるアブレッシブ摩耗などをいう。
【0040】
次に、上記一実施の形態の動作を説明する。
【0041】
使用に際しては、リード線35,62をそれぞれ警告燈に電気的に接続し、ボールスタッド8のスタッド部52の先端側を例えば車両の所定の被接続部であるナックルアームなどに接続する。
【0042】
この状態で、ボールジョイント1の摺動部、すなわちボールシート6の摺動面7とボールスタッド8のボール部51の外周面との間の部分は、車両から負荷入力を受けながら摺動しており、この摺動により、上記摺動部に摩擦が生じ、この摩擦が熱エネルギに変換されて熱が生じる。
【0043】
ここで、ボールジョイント1の摺動部に何らかの異常が生じ、例えば潤滑不良などによりこの摺動部が乾燥状態となった場合など、異常摩擦が生じた場合には、摩擦抵抗が増大し、結果として発熱量が多くなり、ボールジョイント1の摺動部の温度が上昇することで、ボールシート6およびボールスタッド8の温度が上昇する。
【0044】
このとき、温度感知センサ32,56の各センサ本体34,61が、それぞれボールシート6あるいはボールスタッド8の温度上昇を検知すると、リード線35,62を通じて所定の信号が警告燈へと流れ、この警告燈が点灯して、使用者に異常摩耗を報知する。
【0045】
この結果、上記一実施の形態によれば、温度感知センサ32,56によりボールシート6およびボールスタッド8の温度上昇を検知することでボールシート6の異常摩耗が検知可能となるので、例えばボールスタッドを電圧源と電気的に接続し、摩耗検知用電極をボールシートの外側から埋め込んでランプと電気的に接続して、ボールシートの摩耗に伴うボール部と摩耗検知用電極との接触によりランプが点灯することでボールシートの摩耗を検知する従来の場合と比較して、専用の電気系補助システムなどを必要とせず、例えばこのボールジョイント1を取り付けた車両のエンジン冷却水あるいは油温などのセンサと同一の方法でメータパネルに表示することも可能となり、複雑な情報処理システムなどが不要となる。
【0046】
したがって、ボールシート6の異常摩耗を、簡単で安価な構成により検知できる。
【0047】
さらに、温度感知センサ32を、ソケット5に設けた取付孔部31内に収容することで、センサ本体34がボールシート6に近付くため、ボールシート6の温度上昇を、より確実に検知でき、この温度上昇を介して、ボールシート6の異常摩耗を、より確実に検知できる。
【0048】
同様に、温度感知センサ56を、ボールスタッド8に設けた孔部55内に収容することで、センサ本体61がボールシート6の摺動面7と摺接するボール部51の外周面に近付くため、ボールジョイント1の摺動部での温度上昇を、より確実に検知でき、この温度上昇を介して、ボールシート6の異常摩耗を、より確実に検知できる。
【0049】
また、本実施の形態では、従来の構成のようにボールスタッド8に通電させる必要がないため、このボールスタッド8への通電に対する安全性についても何ら考慮する必要がない。
【0050】
なお、上記一実施の形態において、温度感知センサ32,56は、ボールシート6の異常摩耗による温度上昇を検知できれば、例えばソケット5の表面あるいはボールスタッド8の表面など、ソケット5とボールスタッド8とのいずれの位置に設けてもよい。すなわち、温度感知センサ32,56は、ボールシート6、あるいはボールスタッド8のボール部51の温度上昇だけでなく、例えばボールスタッド8の他の部分の温度上昇、あるいはソケット5の温度上昇など、ソケット5とボールシート6とボールスタッド8との少なくともいずれかの温度を検知することで、ボールシート6の異常摩耗を間接的に検知するように構成してもよい。
【0051】
また、ボールスタッド8としては、スタッド部52を有さないボール部51のみの構成でも対応して用いることができる。
【0052】
さらに、温度感知センサ32,56は、いずれか一方のみ設ける構成としてもよい。
【0053】
そして、ボールジョイント1の細部は、上記構成に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態のボールジョイントを示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 ボールジョイント
4 内室
5 ソケット
6 ベアリングシートとしてのボールシート
7 摺動面
8 ボールスタッド
32,56 温度検知手段としての温度感知センサ
51 ボール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内室を備えたソケットと、
このソケットの内室に収容されたベアリングシートと、
このベアリングシートに少なくとも一部が摺動可能に保持されるボールスタッドと、
前記ソケットと前記ボールスタッドとの少なくともいずれか一方に設けられ、ソケットとボールスタッドとベアリングシートとの少なくともいずれかの温度を検知する温度検知手段と
を具備したことを特徴としたボールジョイント。
【請求項2】
温度検知手段は、少なくとも一部がソケットの内部のベアリングシートに対向する位置に配設されている
ことを特徴とした請求項1記載のボールジョイント。
【請求項3】
ボールスタッドは、ベアリングシートの摺動面に摺動可能に保持されるボール部を備え、
温度検知手段は、少なくとも一部が、前記ボール部の内部の前記ベアリングシートの前記摺動面に対向する位置に配設されている
ことを特徴とした請求項1または2記載のボールジョイント。

【図1】
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【公開番号】特開2008−223818(P2008−223818A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59819(P2007−59819)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000198271)株式会社ソミック石川 (91)
【Fターム(参考)】