説明

ボールペンチップ

【課題】ボールペンを後端側から床面に衝突させた場合に、ボールペンチップ内のインキが衝突の衝撃力で後退してしまい、ボールペンチップの先端のボールの周囲にインキが不足することによる筆跡のかすれを抑制させる。
【解決手段】 弾撥部分としてのコイル部と先端に伸張した直状部とを有するコイルスプリングの直状部の長さをL、ボール径をDとし、ボールが最前位置にあるときのボールの最後端部から内方突出部の最後端部までの距離をAとしたとき、A<L<2.0Dの関係式を満足するボールペンチップにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記部材としてのボールと、このボールを先端開口部より一部突出状態に抱持するボールホルダーと、ボールを前方付勢するコイルスプリングとから少なくともなり、ボールホルダーは、貫通穴としてのインキ通孔内に、ボールの後方移動規制部となる内方突出部を有すると共に、インキ通孔の一部として内方突出部の中心孔と、隣り合った内方突出部間に形成される放射状溝とを備えるボールペンチップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボールペンチップ内のインキが乾燥することによる筆記不能や、不使用時にボールとボールホルダーとの隙間からインキが漏れだすことを防止するために、コイルスプリングの先端で筆記部材であるボールを先端側に付勢し、前記ボールをボールホルダーの内壁に周状に当接させて、ボールとボールホルダーとの隙間を密閉する技術が知られている(特許文献1)。その密閉をより確実にする方法として、特許文献2には、コイルスプリングの先端がボールの中心を押圧するために、コイルバネと筆記部材であるボールとの間に小径部を有する棒状部材を配置し、該棒状部材の先端の小径部にてボールを前方へ付勢させる内容が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4436589号公報
【特許文献2】特開2006−102956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、誤って床に落下させてしまった時などに、ボールペンが後端側から床面に衝突した場合、インキは慣性力で後方側へ移動すると共にボールもコイルスプリングの弾撥力に抗して慣性力で後方に移動し、ボールとボールホルダーの隙間の密閉が解除されることがあり、その際、ボールホルダー内に空気が流入してしまい、ボール周辺にインキが存在しないか、或いは極めて微量の状態になってしまった。その後、ボールペンを再使用する際に、ボールの周囲にインキが存在しないか微量であるために、筆跡がかすれてしまうという不具合が発生してしまった。
特に、特許文献2のボールペンでは、棒状部材の重量の分だけコイルスプリングを後方への押圧する力が大きいことから、コイルスプリングの圧縮量が大きくなってしまう。そのため、ボールが前方へ押圧されず、ボールとボールホルダーとの隙間が更に大きく開口してしまうことから、ボールホルダー内に空気の量が多くなり、筆跡のかすれ距離が長くなるという状態になった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、筆記部材としてのボールと、このボールを先端開口部より一部突出状態に抱持するボールホルダーと、ボールを前方付勢するコイルスプリングとから少なくともなり、ボールホルダーは、貫通穴としてのインキ通孔内に、ボールの後方移動規制部となる内方突出部を有すると共に、インキ通孔の一部として内方突出部の中心孔と、隣り合った内方突出部間に形成される放射状溝とを備えるボールペンチップであって、前記コイルスプリングは、弾撥部分としてのコイル部と先端に伸張した直状部とを有すると共に、この直状部の長さをL、ボール径をDとし、ボールが最前位置にあるときのボールの最後端から内方突出部の最後端部までの距離をAとしたとき、A<L<2.0Dの関係式を満足するボールペンチップを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のボールペンチップは、コイルスプリングのコイル部を中心孔の後端かつ放射状溝の後端に近接させることによって、コイル部が、中心孔や放射状溝に存在したインキがボールペンチップの後孔に後退することの障害となり、ボールの周囲にインキが少なくなることを極力抑制できるものである。よって、コイルスプリングのコイル部を中心孔の後端かつ放射状溝の後端とは、中心孔や放射状溝に存在したインキをすべて吐出しない程度とすることが肝要であり、少なくともボールが最前位置にあるときのボールの最後端部から内方突出部の最後端部までの距離(A)より短いことが必要となる。具体的には、ボールが最前位置にあるときのボールの最後端部から内方突出部の最後端部までの距離(A)は、ドリル等の加工具の耐久性などから中心孔の径の1倍〜3倍程度であり、これはボール径(D)の0.5倍〜1.5倍(0.5D≦A≦1.5D)に概ね相当する。よって、直状部の長さ(L)をA<L<2.0Dとすることによって、ボール抱持室内や中心孔、放射状溝に存在するインキが後退して放射状溝等から抜けきる前にコイルスプリングのコイル部が障害となるので、インキの後退を抑制することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】一例を示す縦断面図。
【図2】図1の要部拡大図。
【図3】図2の要部拡大図。
【図4】他の一例を示す要部拡大縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のボールペンチップは、インキを収容したインキ収容部に、直接又は接続部材を介して連結し、インキ収容部のインキをボールホルダーの内孔を通じてボールに接しさせ、ボールが紙面などの被筆記面と接触して後退し形成された隙間よりインキを吐出することで筆跡を形成するものである。インキ収容部を形成する部材としては、外装部材をそのまま利用するものや、他部材として外装体を備えるものであってもよい。また、ペン先を被嵌するキャップを別部材として設けたものでもよいし、キャップを設けずに、後端ノックなどの操作によってペン先が出没するタイプの筆記具としてもよい。
【0009】
ボールペンチップは、先端に筆記部材としてのボールを抱持し、そのボールの直径は0.2mmから2.0mm程度のものを使用することができ、研磨加工によって表面状態の算術平均粗さRaの数値を小さくして、ボールの回転を滑らかにして筆記感を向上させたり、または、ボールに含まれる結合金属などを溶解する液による化学研磨などの粗し加工によって表面状態の算術平均粗さRaの数値を大きくして、ボール表面へのインキの濡れ性を向上させて筆記線のスキップを低減させるなど、筆記条件又はインキに合わせて調整したものを使用している。
ボールの材質としては、炭化タングステン、チタン、コバルト、クロム、ニッケル等を主成分とした超硬材や、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、アルミナ、ジルコニア等のセラミックを使用できる。
【0010】
ボールホルダーは、筆記部材であるボールを回転自在に抱持する部材である。インキ通路としての貫通孔にボールの後退規制部分として内方突出部を備え、ボールホルダーの先端のボール抱持部内にボールを配置した後に、ボールホルダーの先端開口部を外側から内側に向かってボールの直径よりも小径に縮径加工を施し、ボールの一部が突出した状態で、ボールが回転自在に抱持された状態を形成している。
また、内方突出部には、インキをボール側に供給する通路として、内方突出部の中心孔と、隣り合った内方突出部間に形成される放射状の溝が形成されており、放射状溝の最外側部分は、ボールの内方突出部との接触部分より外側に開口している。この放射状溝は、インキ供給量を確保するために、内方突出部を貫通して内方突出部の前方に位置するボール抱持部と、後方に位置する後孔と連通させている。
更に、筆記時にボールの回転をスムーズにして筆記感を向上させる目的で、ボールの回転軸を保つために内方突出部のボール側の表面にボールの表面形状とほぼ同形の円弧上の凹部を形成する。この凹部は、ボールの挿入前に、ボールと同曲率のピン状治具を内方突出部に打ち付けたり、ボール挿入後にボールを内方突出部に向かって叩き、そのボール表面の圧痕として凹部を形成することもできる。
ボールホルダーの材質としては、ステンレスや真鍮、洋白といった金属製のものが使用でき、予め中孔のあるパイプ材や、コイル線材の前端側と後端側からドリル等の刃具で貫通孔を形成したものを使用して作ることができる。また、ポリオキシメチレンのような、エンジニアリングプラスチックと呼ばれる耐磨耗性の高い合成樹脂を使用することもできる。
【0011】
コイルスプリングは、弾撥部材であるコイル部の前部分に軸心から長手方向に伸張した直状部を形成しており、直状部とコイル部との間には接続部が形成されている。
そのコイルスプリングの一部または全部がボールホルダーに内挿されており、その直状部の先端をボール後方部に接触させ、コイル部の弾撥力によって前方付勢することによって、ボールをボールホルダーの開口部の内縁に押し付け、インキの流出を遮断している。
コイルスプリングの後方はボールホルダーの後端側をコイルスプリングのコイル部の外径よりも縮径加工したり、別部材のチップホルダーをボールホルダー後方側に接続して、そのチップホルダー内の内方段部にコイル部の後端を接触させるなどして移動を規制している。
コイルスプリングの材質に関して限定はされないが、インキに侵され難いステンレス鋼線やニッケルメッキ鋼線などの不鋳鋼や不鋳処理を施したものが好適に使用されている。
コイルスプリングの線径は、前記直状部が、ボールホルダーの中心孔内に設置されるので、0.05mmから0.15mmが好ましい。
【0012】
コイルスプリングの直状部は、その先端部をボールに接触させ、ボールを前方へ付勢させるが、コイルスプリングがボールホルダーの貫通孔の小径部分である中心孔を通過する必要があるため、前記中心孔のインキの流通路を阻害しないために、中心孔の断面積に対して十分断面積が小さい、即ち先端部分を巻きのない直線状の部分として形成する。この直状部の断面積は、具体的には、中心孔径の断面積の5%以上50%未満であることが好ましい。5%未満になると、コイルスプリングの線径が小さくなりすぎてしまい、ボールを前方へ付勢させるための十分な弾撥力が得られないおそれがあり、また、50%を超えるとボール側へのインキ供給が妨げられ、筆跡がかすれてしまうおそれがあるからである。
また、直状部の先端にコイルスプリングの製造時の切断工程によるバリが形成されることがある。このバリが後孔の内壁面や内方突出部の後方面に接触して引っ掛かりを助長するので、このバリをバレル等の研磨によって除去することが好ましい。尚、直状部はコイル部の前後両端側に形成することで、ボールホルダー内にコイルスプリングを挿入する際に、コイルスリングの方向を揃える工程が不要であることから作業効率が向上するので好ましい。
【0013】
コイルスプリングの弾撥作用をなすコイル部は、線状体を螺旋状に巻かれている部分であり、巻き線材と線材の間に弾撥するための全長を圧縮するための空間を有している。この空間はインキ流通が可能な隙間としても有効であり、インキの潤沢な流通を確保するために極力その隙間を大きくした方が好ましいが、該隙間を線径以上に大きくすることは、例えば、コイルスプリングをボールペンホルダーに内挿する工程で使用される、パーツフィーダーと称される自動部品供給装置内など、複数のコイルスプリングが接触しあう可能性がある場合に、接触したコイルスプリングのコイル部同士が絡み付いてしまうことがある。よって、前記隙間をコイルスプリングの線径未満にすることが好ましい。尚、コイル部の前端と後端には実質前記隙間の無い部分として座巻き部を形成することもできる。
また、コイル部の外径と、前記ボールホルダーの後孔の内径との寸法差を小さくすることで、コイルスプリングの径方向の移動が制限されることから、直状部と、コイル部とボールホルダーの軸心の径方向の距離が小さくできるので、直状部が内方突出部の後方面などに引っ掛かるといった不具合が抑制できるので好ましい。具体的にはコイルスプリングのボールホルダーへの挿入の組立性を阻害しないことも考慮して、直径で0.01mm以上0.03mm以下の寸法差であることが好ましい。また、コイル部は前端から後端に至るまでその外径を同径とすることもできるが、一部の外径を小さくするなど、ボールホルダーの後孔形状等に合わせて変更することもできる。
【0014】
ボールペンは筆記時に内方突出部のボール側の表面に形成されている凹部に接触して筆記されるため、その凹部よりも外側に位置している放射状溝部にインキが潤沢にあれば、カスレが発生しにくいと言える。よって、前記コイル部の外径が、ボールと前記内方突出部の接触部分である凹部の最外接円径よりも大きく、且つコイル部の内径が、ボールと内方突出部の接触部分である凹部の最外接円径よりも小さいものであれば、ボールペンの後端落下の際に、コイル部が放射状溝に存在したインキがコイル部ボールペンチップの後孔に後退することの障害となり、ボールの周囲にインキが少なくなることを更に極力抑制できるので好ましい。
【0015】
インキを収容するインキ収容部は、内部に繊維集束体などのインキ吸蔵部材を備えるものとしても、そのようなインキを保持する部材を備えず、自由状態でインキを収容するものとしてもよいが、後端を開放したパイプ材をそのまま使用したり、インキ界面に高粘度流体を逆流防止体として配置してもよい。また、インキ収容部内に圧縮空気を封入するなどしてインキを押して吐出支援するものでもよい。インキ収容部の部材を構成する材質は、ポリアミド樹脂や、塩化ビニル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート等の樹脂やステンレス等の金属など種々の材質が使用可能であるが、製造の容易さやインキ色の視認性、蒸気透過性などを考慮する必要がある。また、この押出成形パイプに、着色を施したり、顔料や体質材などを配合することなども適宜である。
【0016】
前記インキ収容部材に収容されているインキは、水を主媒体とした水性インキ、アルコールなどの有機溶剤を主媒体とした油性インキのいずれも使用可能であり、これに着色成分である顔料及び/または染料、凍結防止などのための高沸点有機溶剤、被筆記面への定着性を付与する樹脂成分、表面張力や粘弾性、潤滑性などを調整する界面活性剤や多糖類、防錆・防黴剤などが配合されたものであり、誤字修正などを目的とした酸化チタンなどの白色隠蔽成分を配合したものであってもよい。
【実施例】
【0017】
以下、図面に基づいて一例を説明する。
図1に示したものは、筆記部材としてのボール1を、先端開口部2より一部突出した状態で回転自在に抱持してなるボールホルダー3と、ポリプロピレン樹脂の押し出し成形パイプであるインキ収容管4が、ポリブチレンテレフタレート樹脂で形成されたチップホルダー5で接合されてなるボールペンの一例である。尚、ボールホルダー3の後端側がチップホルダー5の前端挿入孔5aの底面部5bに当接されており、チップの後方移動規制をなした状態となっている。また、図1では外装体に収容されて使用される、所謂リフィルと称されるものとして示してあるが、外装についての図示及び説明は省略する。
インキ収容管4内には、インキ6が収容されており、インキ6の後端界面に接して、インキ6と相溶しない高粘度流体である逆流防止体組成物7が配置されている。特に、低粘度のインキ6を使用した場合には、インキ6が後方に移動することを抑制するために逆流防止体組成物7を配置することは有効である。また、インキ収容管4の内径が大きい場合は、インキ収容管の壁面より遠い部分における逆流防止機能が低下するので、浮子(図示せず)と呼ばれる合成樹脂の成型品を逆流防止体組成物7内に浮遊状態となるように配置してこれを補強することも出来る。
【0018】
図1の要部拡大図である図2、3にも示すように、インキ通路であるボールホルダー3の貫通孔は、内側に倒れこませる塑性変形(所謂かしめ加工)を施してボール1の直径よりも小径とした先端開口部2と、ボール1の後方移動規制をなす内方突出部8にて、ボール1が移動し得る範囲としてのボール抱持室9を形成している。また、この貫通孔は、内方突出部8の中心部に形成される中心孔10、内方突出部8の間に形成される放射状溝11、インキ収容管4側と実質的に接続される後孔12を有している。また、前記内方突出部8のボール抱持室9側の面には、ボール1を先端側より押圧加工具(図示せず)にて押圧し、ボール1とほぼ同曲率の面を有する受座面13を形成している。そして、これにより実質的にボール1の前後に移動する量を確保している。放射状溝11は、ボール抱持室9のボールの外側部分と後孔12側に開口しており、ボール1が後端に移動した場合にもボール1で塞がれていない部分にインキを供給し得ると共に、後孔12より十分なインキを供給できるようになっている。
【0019】
前記ボールホルダー3の後孔12内部には、インキ漏れ防止のための伸縮する巻き部14aと直状部14bを備えるコイルスプリング14が配設され、全長を圧縮された状態で、直状部14bをボール1に当接させて、チップホルダー5の前端挿入孔5aの底面部5bによって抑えられ挟持された状態となっている。
【0020】
コイルスプリング14は、SUS304ステンレスの線状体で形成されており、外側面と内面との間にインキ流通が可能となる隙間15を設けている。この隙間15は、インキ流通性を阻害することが無いように適宜調整されており、この場合、隙間15を0.05mmに設定している。尚、コイルスプリング14の線径は0.09mm、また当該部材のコイルスプリングの巻き部14aの最先端巻き部の外径を0.47mm、直状部14bの長さを0.4mmとしている。また、ボールペンチップのボール1の径を0.5mm、ボールホルダー2の後孔12の内径を0.50mm、内方突出部8の中心に形成されている中心孔10の内径(内方突出部8のボールホルダー2の中心側の頂点を結んだ内接円径)を0.25mm、ボールを最前方に位置させたときのボールの最後端部から内方突出部の最後端部までの距離(A)を0.25mmと設定している。
即ち、前記直状部14bの長さ(L)が、ボール径(D)の2.0倍以下であり、且つ直状部14bの長さ(L)が、ボールを最前方に位置させたときのボールの最後端部から内方突出部の最後端部までの距離(A)以上であるので、コイルスプリングの先端が確実にボールの後方に接触して前方へ押圧付勢され、また、コイルスプリングのコイル部が中心孔の後端かつ放射状溝の後端に近接し、コイル部が、中心孔や放射状溝に存在したインキがボールペンチップの後孔に後退することの障害となり、ボールの周囲にインキが少なくなることが抑制されている。
【0021】
図3に他の一例を示す。
前述の一例との相違点は、コイルスプリング14の巻き部15aの最先端外径が、先端から後端に亘って略同一径を有するものではなく、先方に向かって次第に縮小する部分を備えるものである。詳述すればコイルスプリング14の線径は0.09mm、コイルスプリングの巻き部14aの略中間から後端部亘って円筒状となる部分の外径を0.78mm、巻き部14aの最先端巻き部の外径を0.38mm、隙間16の寸法は0.08mm、直状部の長さを0.5mmとしている。また、ボール径は0.7mm、中心孔径(内方突出部8のボールホルダー2の中心側の頂点を結んだ内接円径)は0.35mm、前記後孔12の内径を0.78mmと設定している。
この様な形状のコイルスプリングとすることで、その投影面積がコイル部が円筒状のものよりも内側に狭まった状態となり、投影面積が実質大きくなっているため、該部が中心孔や放射状溝に存在したインキがボールペンチップの後孔に後退することの障害となる部分が増加する。よって更にボールの周囲にインキが少なくなることが抑制されている。
【0022】
前述の一例に沿ったボールペンチップ及びコイルスプリングについて、各部の寸法や形状を下記のように種々のものを作製し、試験用ボールペンリフィルサンプルを作製した。尚、試験用ボールペンリフィルサンプルは、市販されているボールペンENERGEL(ぺんてる株式会社製、製品符号LRN5−A、ボール径0.5mm)のボールペンチップを試験用ボールペンチップとコイルスプリングに交換した後、ペン先の方向に遠心力が働くように配置して、遠心分離機(国産遠心器株式会社製、卓上遠心機H−103N)で遠心処理を施し、インキ中に存在する気体を除去して得たものである。
更に、前記試験用ボールペンリフィルサンプルを市販のボールペン(ENERGEL、ぺんてる株式会社製、製品符号BL55−A)のボールペンリフィルと交換し試験用ボールペンサンプルを得た。
【0023】
ボールを最前方に位置させたときのボールの最後端部から内方突出部の最後端部までの距離(A)を求める方法については、コイルスプリングが内挿された状態のボールペンチップを樹脂製の円柱状の容器に水平に設置し、冷間埋込樹脂(丸本ストルアス株式会社製、NO.105)に、M剤(硬化剤)を樹脂量に対し2%配合し、攪拌させたもので埋め込んだものを、耐水研磨紙(三共理化学株式会社製、FUJISTAR)を使用し、粒度500、粒度1000、粒度2000の順序で研磨し、ボールホルダー2の中心線を通る縦断面の状態になったサンプルを得て、このサンプルを測定顕微鏡(オリンパス株式会社製、STM−6)にて測定することで求めた。
【0024】
コイルスプリングの直状部の長さ(L)は、測定顕微鏡(オリンパス株式会社製、STM−6)にて直状部の先端から、コイル部の最前端巻き部までの長さを測定した。
【0025】
また、試験サンプルで使用したインキは次の通り。
(インキ1)染料を使用した水性ゲルインキ
WaterBlack108L(C.I.DIRECT BLACK19の14%水溶液(オリエント化学工業(株)製) 45.00部
エチレングリコール 10.00部
グリセリン 10.00部
ベンゾトリアゾール 0.50部
オレオイルサルコシンナトリウム 3.00部
プロクセルGXL(S)(防腐剤、ICIジャパン(株)製) 0.20部
ケルザンAR(キサンタンガム、三晶(株)製) 0.40部
イオン交換水 30.90部
各成分を混合し、2時間攪拌し、粘度が800mPa・s(25℃)のインキを得た。
【0026】
(インキ2)染料を使用した油性インキ
スピロンブラックGMHスペシャル(染料、保土ヶ谷化学工業(株)製) 15.0部
バリファーストバイオレット#1701(染料、オリエント化学工業(株)製) 15.0部
エチレングリコールモノフェニルエーテル 40.0部
ベンジルアルコール 12.5部
レジンSK (ケトン樹脂、ヒュルス社(独)製) 13.5部
PVP K−90(ポリビニルピロリドン、ISPジャパン(株)製) 2.0部
ナイミンL−201(オキシエチレンドデシルアミン、日本油脂(株)製 2.0部
各成分を混合し、2時間攪拌し、粘度が10000mPa・s(25℃)のインキを得た。
【0027】
(筆記線のかすれ有無確認試験)
ボールペンをペン先を天井側に、後端側を床側の向きにした状態で、コンクリート板の上に1.5mの高さ(ユーザーの胸のポケットから床面までの距離として想定)から落下させ、その後、筆記試験機(精機工業株式会社製、WRITING TESTER、MODEL SP−2)にて、前記試験用ボールペンサンプルを用い、JIS S 6054に規定される被筆記用紙に、筆記角度70°、筆記速度7cm/s、筆記荷重981mN、ペン自転有りの条件で、1m筆記し、筆跡がかすれた距離の合計を市販の定規にて測定した。その結果を表1に記載する。
【0028】
【表1】

【0029】
各実施例は、直状部の長さがボール径の2倍未満であり、コイルスプリングのコイル部がインキに対する障害となるので、インキの後退を抑制している。特に、実施例4、9は、コイルスプリングの形状が先端縮径形状となっているため、コイル部のインキ受けとなる部分が、上から投影して見たときに広くなっておりインキがボールペンチップの後孔に後退することの障害となる部分が広く、より後退抑制効果が現われているといえる。これに対して比較例は、直状部の長さがボール径の2倍以上であり、実質的にインキの後退抑制ができていないものであり、筆記の際にかすれが大きく発生するものであった。
【符号の説明】
【0030】
1 ボール
2 先端開口部
3 ボールホルダー
4 インキ収容管
5 チップホルダー
5a 前端挿入孔
5b 底面部
6 インキ
7 逆流防止体組成物
8 内方突出部
9 ボール抱持室
10 中心孔
11 放射状溝
12 後孔
13 受座面
14 コイルスプリング
14a 巻き部
14b 直状部
15 隙間
A ボールが最前位置にあるときのボールの最後端部から内方突出部の最後端部までの距離
L 直状部の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記部材としてのボールと、このボールを先端開口部より一部突出状態に抱持するボールホルダーと、ボールを前方付勢するコイルスプリングとから少なくともなり、ボールホルダーは、貫通穴としてのインキ通孔内に、ボールの後方移動規制部となる内方突出部を有すると共に、インキ通孔の一部として内方突出部の中心孔と、隣り合った内方突出部間に形成される放射状溝とを備えるボールペンチップであって、前記コイルスプリングは、弾撥部分としてのコイル部と先端に伸張した直状部とを有すると共に、この直状部の長さをL、ボール径をDとし、ボールが最前位置にあるときのボールの最後端から内方突出部の最後端部までの距離をAとしたとき、A<L<2.0Dの関係式を満足するボールペンチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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