説明

ボールペン体を含む多芯筆記具

【課題】スムーズな出没作動が得られ、且つ筆記によるチップ先端部の外壁側の摩耗を抑制した多芯筆記具を提供する。
【解決手段】軸筒内に、インキ収容管の先端部にチップ先端部を内側にかしめることによりボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接またはチップホルダーを介して装着してなるボールペン体を、少なくとも1本含む複数の筆記体を配設し、各筆記体と連動した操作体を操作することにより、ボールペンチップを前記軸筒の先端開口部より選択的に出没可能なボールペン体を含む多芯筆記具において、前記ボールペンチップの外壁表面に潤滑被膜層を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒内に、インキ収容管の先端部にチップ先端部を内側にかしめることによりボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接またはチップホルダーを介して装着してなるボールペン体を、少なくとも1本含む複数の筆記体を配設し、各筆記体と連動した操作体を操作することにより、ボールペンチップを前記軸筒の先端開口部より選択的に出没可能なボールペン体を含む多芯筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、軸筒内にボールペン体を含む複数の筆記体を配設し、筆記先端部を口先部の先端開口部より選択的に出没可能な、スライド式、回転式、ノック式等の多芯筆記具は、よく知られている。また、こうした筆記具においては、複数の筆記体を配設しているため、各筆記体は、軸筒の軸心に対して偏心した位置に配設している。また、軸筒の先端部は、先端開口部に向かって先細状となっている。そのため、ボールペン体を選択し、ボールペンチップを先端開口部より出没する際には、ボールペンチップのチップ先端部外壁が、軸筒の先端部の内壁面に接触しながら出没している。
【0003】
こうした問題を鑑みて、特開2010−82892号公報「筆記具」にて、チップ先端部の角度、軸筒先端部の内壁の角度等、角度関係を特定することで、筆記体の出没作動を良好とした多芯筆記具が開示されている。
【0004】
ところで、従来のボールペンチップは、その硬度が、200Hv〜300Hvであったために、ボールの回転によりボール抱持室の底壁が摩耗することが問題視されているが、筆記時に、チップ先端部と紙とが接触し、チップ先端部の外壁側が摩耗する問題があり、筆圧が高く、且つ紙が厚い程、発生し易く、特に複写紙への筆記時に特に発生し易い。また、チップ先端部と紙とが接触することによって、筆記抵抗が大きくなり、書き味が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−82892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のように、構造や角度によって、チップ先端部と軸筒先端部の内壁面との接触を防止することはできるが、ボールペンチップが軸筒先端部の内壁面に接触する摺動抵抗及びチップ先端部と紙とが接触し、チップ先端部の外壁側が摩耗を低減するには至っていない。
【0007】
本発明はこれらの従来技術に鑑みてなされたものであって、スムーズな出没作動が得られ、且つ筆記によるチップ先端部の外壁側の摩耗を抑制した多芯筆記具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記問題を解決するために、軸筒内に、インキ収容管の先端部にチップ先端部を内側にかしめることによりボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接またはチップホルダーを介して装着してなるボールペン体を、少なくとも1本含む複数の筆記体を配設し、各筆記体と連動した操作体を操作することにより、ボールペンチップを前記軸筒の先端開口部より選択的に出没可能なボールペン体を含む多芯筆記具において、前記ボールペンチップの外壁表面に潤滑被膜層を設けたことを特徴とする。
【0009】
また、前記ボールペンチップのチップ先端部のかしめ角度が、90度以上であることを特徴とする。
【0010】
さらにまた、前記ボールペンチップのチップ先端部に、保護用樹脂被膜を着脱自在に付着したことを特徴とする。
【0011】
本願発明の請求項1の構成によれば、前記ボールペンチップの外壁表面に潤滑被膜層を設けることで、ボールペンチップが軸筒先端部の内壁面に接触する摺動抵抗を低減し、スムーズな出没作動を得ることができ、筆記時に、チップ先端部と紙とが接触し、チップ先端部の外壁が摩耗することを防止するとともに、良好な筆感を得ることができる。
【0012】
尚、本発明に用いる潤滑被膜層としては、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、二硫化タングステン(WS2)、二硫化モリブデン(MoS2)やグラファイト、四フッ化エチレン(PTFE)等の含フッ素高分子、シリコーン樹脂等、従来から知られている固体潤滑剤などを適宜用いることができる。また、潤滑被膜層を被覆する方法は、特に制限されず、真空蒸着、イオン蒸着、物理的蒸着、化学的蒸着、真空アーク蒸着などが挙げられ、直接又は前記した潤滑剤を含有した被膜層であってもよい。特に前記した潤滑剤の中でも、耐摩耗性を考慮してダイヤモンドライクカーボン(DLC)を用いることが最も好ましい。
【0013】
本発明に用いるボール材としては、タングステンカーバイドの超硬材やジルコニアなどのセラミックス材、ステンレス鋼材等、特に限定されるものではく、チップ本体もステンレス鋼や銅合金、アルミニウム等、特に限定されるものではない。また、軸筒もPE(ポリエチレン)樹脂、PP(ポリプロピレン)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等、特に限定されるものではない。
【0014】
また、紙面との接触し易いチップ先端部の外壁表面は、潤滑被膜層の密着性を高めることが好ましいが、チップ先端部の外壁が切削しただけであると、面粗度が均一でなく、潤滑被膜層の密着性にバラツキが発生する恐れがある。そのため、チップ先端部の外壁表面に、面粗度が略均一な、密着面を形成することが好ましい。尚、密着面の形成方法は、研磨を施す、或いはチップ本体よりも硬度の高く、面粗度が均一なツールを押し当て、チップ先端部の外壁に転写する等によって形成することができる。
【0015】
本願発明の請求項2の構成によれば、ボールペンチップにおいて、前記チップ先端部のかしめ角度を90度以上とすることで、ボール保持力を高めるとともに、且つボールとチップ先端部の間にインキを溜める空間を大きくすることができるため、インキリターンしやすくすることができる。尚、ボール保持力とは、ボールをチップ後端側から押圧し、チップ先端部からボールが飛び出すのに必要な力を示すものである。
【0016】
また、前述の通り、かしめ角度は、90度以上の鈍角とすることが好ましいが、かしめ角度が大きいほど、紙当たり角度が小さくなる傾向となることや加工性が低下することから、120度以下、好ましくは110度以下とすることが好ましい。
【0017】
本願発明の請求項3の構成によれば、前記ボールペンチップのチップ先端部に、保護用樹脂被膜を着脱自在に付着することで、チップ先端部からのインキ漏れを防止し、チップ先端部に設けた潤滑被膜層によって、容易に取り外すことができるので、保護用樹脂被膜の剥がし残しを防止できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、スムーズな出没作動が得られ、且つ筆記によるチップ先端部の摩耗を抑制した多芯筆記具を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1のボールペン体を含む多芯筆記具を示す縦断面図である。
【図2】図1におけるボールペンチップを突出した状態を示す図である。
【図3】図1におけるのボールペン体を示す図である。
【図4】図1における一部省略した要部拡大断面図である。
【図5】ボールペンチップが突出する状態を示す図である。
【図6】図4のボールペンチップに保護用樹脂被膜を付着した図である。
【図7】実施例2のボールペン体を含む多芯筆記具を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施例1
図1〜図5に示す実施例1のボールペン体を含む多芯筆記具は、PP樹脂からなる前軸2と後軸3を螺合により取り付けられる軸筒本体内に複数本(2本)のボールペン体8、18からなる筆記体が前後方向に移動可能に収容されている。ボールペン体8の後部には、ボールペン体8のインキ収容筒9に収容した筆記具用インキと同色の操作体4を配設してある。また、ボールペン体8は、コイルスプリング6により後方に付勢してあり、他のボールペン体9について詳細は図示していないが、ボールペン体8と同様にして、2本の筆記体を配設した従来から知られている出没機構のスライド式の多芯筆記具である。
【0021】
ボールペン体8について詳述すると、インキ収容筒9の先端部にボール16が回転可能に抱持されたボールペンチップ10を装着し、インキ収容筒9の内部には、黒色の油性ボールペン用インキを直に収容してある。図示はしていないが、他のボールペン体18もボールペン体8と同様に、インキ収容筒19の先端部にボールペンチップ20を装着し、ボールペン8とは色の異なる、赤色の油性ボールペン用インキを直に収容してある。
【0022】
ボールペンチップ10に詳述すると、ボールペンチップ10は、ステンレス鋼線材からなるチップ本体11には、ボール抱持室12、インキ流通孔13、インキ流通溝14、ボール座15を設けてあり、このボール座15にφ0.5mmのタングステンカーバイド製のボール16を載置し、チップ先端部11bを内側にかしめことにより、ボール16の一部がチップ先端縁より突出するように回転自在に抱持してある。また、チップ先端部11bの外壁表面には、予めダイヤモンドライクカーボン(DLC)の表層部からなる潤滑被膜層Sを設けてある。
【0023】
チップ先端部2aの内壁には、略円弧面状のシール面を設けてある。また、チップ本体は、後端側から先端縁に向かって、徐々に縮径するようなテーパー面11aを形成して、筆記時にチップ先端を確認し易くしてある。
【0024】
また、ボール16が、ボール座15に載置している状態のチップ先端より臨出するボール出は、ボール径の30.0%、かしめ角度αは93度、ボール16の縦方向のクリアランスが20μmとしてある。ボールペンチップ20についてもボールペンチップ10と同様の構造である。
【0025】
ボールペン体8のボールペンチップ10を前軸2の先端開口部2aから突出させるには、操作体4の操作部4aを、摺動溝に沿って、前軸2の先端開口部2a方向へスライドすることにより、操作体4に形成した係合突起4bが後軸3内に形成した係止部3aに係止して、ボールペン体8のボールペンチップ10を前軸の先端開口部2aから選択して突出を維持することができる。また、操作体4には、解除突起4cを設けてある。
【0026】
また、ボールペンチップ10の出没時には、ボールペンチップ10のテーパー面11aを形成することによってできる角部11cが前軸の内壁面2bに接触しながら先端開口部2aより突出することができる。
【0027】
ボールペン体8のボールペンチップ10が前軸の先端開口部2aから突出を維持した状態で、他の操作体5の操作部5aを前軸2の先端開口部2a方向にスライドすることで、操作体5の解除突起5cが、操作体4の係止を解除し、ボールペン体8のボールペンチップ10を前軸2内に没入させることができる。
【0028】
また、ボールペンチップ10、20には、ボールペン用インキと同色に着色したインキ色表示部Hを設けてある。このインキ色表示部Hも前軸2の内壁面2bとの接触により、剥がれ落ちてしまうので、インキ色表示部Hを設けた後、潤滑被膜層Sを設けることが望ましい。
【0029】
さらにまた、図6に示すように、ボールペンチップ10のチップ先端部11bには、透明の保護用樹脂被膜Tを付着することができる。ボールペン体8を使用するには、チップ先端部11bに付着した保護用樹脂被膜Tを取り外す必要があるが、チップ先端部11bの表面に設けた潤滑被膜層Sによって、容易に取り外すことができる。
【0030】
実施例2
図7に示す実施例2のボールペン体を含む多芯筆記具101は、PET樹脂からなる前軸102の内壁の表面に潤滑被膜層Sを設けた以外は、実施例1と同様にしてボールペン体を含む多芯筆記具101を得ている。
【0031】
尚、本発明のボールペン用インキのインキ粘度は、特に限定されるものではないが、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製AR−G2(ステンレス製40mm2° ローター)、20℃、剪断速度500sec−1における筆記時の粘度が10mPa・s未満の場合には、チップ先端部からのインキ漏れが発生しやすく、軸筒内壁面を汚す傾向があり、また、インキ粘度が5,000mPa・sを超えると、筆記時のボール回転抵抗が大きくなり、筆感が重くなる傾向がある。そのため、筆記時のインキ粘度は、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製AR−G2(ステンレス製40mm2° ローター)、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が10〜5,000mPa・sが好ましい。より好ましくは、30〜3,000mPa・sであり、最も好ましくは、50〜2,500mPa・sである。
【0032】
また、ボールペンチップの内部機構についても特に限定されるものではなく、コイルスプリング等の弾性部材により、ボールを直接あるいは押圧子等を介して、チップ先端部の内壁面に押圧してなるもの、筆記時の筆圧を受け止めボールの回転を円滑にするボール座を有するもの等、一般的に知られているボールを回転自在に抱持したボールペンチップを適宜選択して使用することができる。
【0033】
本実施例では、便宜上、ボールペンチップ側にのみ潤滑被膜層を設けているが、少なくとも前記ボールペンチップの出没時にボールペンチップが移動する前記軸筒の内壁面に潤滑被膜層を設けることで、より潤滑性を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のボールペンチップは、インキの種類やボール径など、特に限定されないため、ボールペンとして広く利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1、101 ボールペン体を含む多芯筆記具
2、102 前軸
2a、102a 先端開口部
3 後軸
3a 被係止部
4、5 摺動体
4a、5a 隆起部
4b、5b 係止部
6、7 コイルスプリング
8、18 ボールペン体
9、19 インキ収容筒
10、20 ボールペンチップ
11、21 チップ本体
11a、21a テーパー面
11b、21b チップ先端部
12 ボール抱持室
13 インキ流通孔
14 放射状溝
15 ボール座
16、26 ボール
17 コイルスプリング
A ボールペン用インキ
B インキ追従体
S1、S2 潤滑被膜層
T 保護用樹脂被膜
α かしめ角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内に、インキ収容管の先端部にチップ先端部を内側にかしめることによりボールを回転自在に抱持したボールペンチップを直接またはチップホルダーを介して装着してなるボールペン体を、少なくとも1本含む複数の筆記体を配設し、各筆記体と連動した操作体を操作することにより、ボールペンチップを前記軸筒の先端開口部より選択的に出没可能なボールペン体を含む多芯筆記具において、前記ボールペンチップの外壁表面に潤滑被膜層を設けたことを特徴とするボールペン体を含む多芯筆記具。
【請求項2】
前記ボールペンチップのチップ先端部のかしめ角度が、90度以上であることを特徴とする請求項1に記載のボールペン体を含む多芯筆記具。
【請求項3】
前記ボールペンチップのチップ先端部に、保護用樹脂被膜を着脱自在に付着したことを特徴とする請求項1または2に記載のボールペン体を含む多芯筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−43365(P2013−43365A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182406(P2011−182406)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】