説明

ボールペン用油性インキ組成物

【課題】長期保存後や熱掛け後もインキ収容部へのインキ付着汚染がなくインキ残量が確実に視認できるボールペン用油性インキ組成物を得る。
【解決手段】インキ付着防止剤として使用する一般式(化2)で表されるジグリセリンに酸化プロピレンを付加重合して得られるエーテル・ポリオールの一種を添加したボールペン用油性インキ組成物。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ペン先として、ボールペンチップを使用し、透明又は半透明のインキ収容部にインキを収容した際に、筆記によるインキの消費状態を外部から確実に視認でき、熱掛けや経時に対してもインキ付着汚染のない視認性能の良好なボールペン用油性インキ組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、透明または半透明樹脂製のインキ収容部を持ち外観からインキ消費量が確認できるボールペンが知られている。これらの透明または半透明樹脂製インキ収容部を持つボールペンにはインキの収容部へのインキの付着汚染により消費状態が視認できなくなる問題がある。特に長期間の放置後や輸送中・倉庫内などで加熱状態に置かれた後や、書き味重視のためにインキ粘度を下げた低粘度油性ボールペンインキ、耐光・耐光性や外観向上の為に顔料を使用または併用したインキでは付着汚染がおこりやすく大きな問題である。また、インキ収容部として透明または半透明の物を使用しない場合であっても、インキ収容部の内壁にインキが付着して残留してしまうことは、収容されているインキのすべてを筆跡にできないということであり、無駄があるものであった。
【0003】
このような問題に対し、押し出し成形による直管状のインキ収容部の内壁にインキと親和性のない薄膜を作成する、具体的にはシリコーンオイルやシリコーンワニス膜を作成する方法が知られている。しかし、この方法はインキ収容部が射出成形により成形された収容部、特に段差など複雑な内部構造を持つボールペンには実施できない。また、このシリコーン薄膜は経時的に少しずつインキに溶解して長期間の視認性が保てないという問題があった。
【0004】
また、インキ組成物側から視認性を高める方法として、種々の変性シリコーンオイルをインキに添加する方法(特許文献1〜3)、ソルビタントリオレエートを添加したもの(特許文献4)などがある。
また、特定の染料とスルフォアミド樹脂、アルキルビニルエーテル−無水マレイン酸コポリマー、ポリエチレンオキサイド、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドンの一種もしくは二種以上を配合することにより視認性を良くしたインキも知られている(特許文献5)。
【0005】
【特許文献1】
特開昭50−152828号公報
【特許文献2】
特開昭53−036319号公報
【特許文献3】
特開平11−310743号公報
【特許文献4】
特公昭49−036968号公報
【特許文献5】
特開昭49−026023号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1乃至特許文献4に記載の発明では、インキに対し親和性の少ない添加剤を少量添加することでインキとインキ収容部の間に添加剤層を作りインキ付着を防止するものであるが、添加する量が少ないと十分な性能は得られず、添加量を増やすとインキと、元々がインキと親和性の少ない添加剤であるので、ペン先や後端にも添加剤の分離層ができて、インキの代わりに吐出されてしまい筆跡が薄くなることがある。またボールペンが何らかの原因で加熱状態に置かれるとインキと添加剤の溶解性が上がりインキとインキ収容部が直接接触してインキ付着が起こる原因となる。
また、特許文献5に記載の発明では、樹脂を5〜30重量%添加する必要があり、インキの粘度が上昇しインキの追従性、筆記性が悪くなると共に、特定の染料でしか効果がなく、顔料を含有するインキには効果がないものであった。
【0007】
本発明の目的は、収容されているインキをすべて筆跡として消費させることができ、射出成形による複雑内壁形状を有するインキ収容部であってもインキ収容部内壁にインキは付着することを防止でき、また、長期の保存や熱がかけられた場合でも付着防止、視認性の効果を維持し、顔料を含有するインキにおいてもその効果を発揮できるボールペン用油性インキ組成物を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、着色剤、溶剤、樹脂と一般式(化2)で表される化合物の少なくとも1種を含有してなるボールペン用油性インキ組成物を要旨とするものである。
【0009】
【化2】



【0010】
以下、更に詳述する。
本発明において、溶剤としては、従来ボールペンインキに使用される各種の有機溶剤が特に限定なく使用できる。例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、等のグリコールエーテル系溶剤や、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等のグリコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロプル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−n−アミル、酢酸−2−エチルヘキシル、イソ酪酸イソブチル、乳酸エチル、乳酸−n−ブチル等のエステル系溶剤、ベンジルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、α−メチルベンジルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、イソドデシルアルコール、イソトリデシルアルコール等のアルコール系溶剤、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤が使用可能である。特に、エチレングリコールモノフェニルエーテルのエチレンオキサイド付加物であるポリエチレングリコールモノフェニルエーテル(エチレンオキサイド付加モル数2以上)、ベンジルアルコールのエチレンオキサイド付加物であるポリエチレングリコールモノベンジルエーテル(エチレンオキサイド付加モル数1以上)は、各種添加剤や樹脂成分との相溶性がエチレンオキサイド付加前と同等以上なため書き味の良い低粘度インキに好適であり、かつ高温高湿度での付着防止性能が良好なため好ましい。なかでもポリエチレングリコールモノフェニルエーテルのエチレンオキサイド4〜5モル付加物は樹脂や染料の溶解性向上によるインキの低粘度化、臭気改良、凍結防止性能、付着防止性能のバランスが良く特に好ましい。これらは単独で用いてもまた2種以上混合して用いても良く、配合量は油性インキ全量に対し15〜90重量%好ましくは35〜85重量%である。
【0011】
本発明で用いる着色剤としては、従来ボールペン用インキに用いられている染料、顔料ともに限定無く使用可能であるが、染料としては、酸性染料、塩基性染料、金属錯塩染料、造塩染料、アジン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、トリフェニルメタン染料などが使用でき、具体的にはバリファーストイエロー#3104(C.I.13900A)、バリファーストイエロー#3105(C.I.18690)、オリエント スピリットブラックAB(C.I.50415)、バリファーストブラック#3804(C.I.12195)、バリファーストイエロー#1109、バリファーストオレンジ#2210、バリファーストレッド#1320、バリファーストブルー#1605、バリファーストバイオレット#1701、オリエント オイル スカーレット#308、ニグロシンベースEX−BP(以上、オリエント化学工業(株)製の油性染料)、スピロンブラック GMHスペシャル、スピロンイエローC−2GH、スピロンレッドC−GH、スピロンレッドC−BH、スピロンブルーBPNH、スピロンブルーC−RH、スピロンバイオレットC−RH、S.P.T.オレンジ6、S.P.T.ブルー−111(以上、保土谷化学工業(株)製の油性染料)、ローダミンBベース(C.I.45170B、住友化学工業(株)製の油性染料)、ビクトリアブルーF4R、ニグロシンベースLK(独国、B.A.S.F.社製)、メチルバイオレット2Bベース(米国、National Anilne Div.社製)などが使用できる。
【0012】
顔料は不溶性アゾ顔料、アゾレーキ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、アントラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、インジゴ系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、ペリノン、ペリレン系顔料などの有機顔料や酸化鉄、カーボンブラック、酸化チタン、カドミウムレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、群青、紺青等の無機顔料及び蛍光顔料、樹脂粒子を染料で着色した顔料で使用樹脂粒子がインキ溶剤に溶解しないものが使用でき、分散安定、結晶化制御などのためにあらかじめ活性剤、樹脂、顔料誘導体などで表面処理されたものでもよい。具体的には以下のものが挙げられる。
【0013】
黒色顔料としてはカーボンブラックが使用できる。チャンネル、ファーネスどちらのカーボンブラックも好適に使用できるが中性〜酸性カーボンブラックの方が溶剤内での分散性に優れる。青色顔料としては例えばC.I.PigmentBlue 2、9、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17、28、29、36、60、68、76等が使用できるがフタロシアニン系顔料は特に鮮明な筆跡が得られる。溶剤中での結晶安定性や分散安定性からC.I.Pigment Blue15:3やその顔料誘導体処理タイプまたは15:6が好適に使用できる。濃色の筆跡が得られる顔料としてはC.I.Pigment Blue60が好適である。赤色の顔料としてはC.I.Pigment Red 5、8、17、31、48:1、48:2、48:3、48:4、53:1、57:1、122、144、146、166、170、177、202、207、211、213、254、255、264、270、272等が使用できる。耐光性・耐溶剤性がよいことと、インキをリフィルに充填したときの外観色が鮮明な赤になることからジケトピロロピロール系のC.I.Pigment Red254、255、264が特に好適に使用できる。耐溶剤性が良く濃色の筆跡が得られる顔料としてはC.I.Pigment Red170が好適である。黄色の顔料としてはC.I.Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、55、81、83、79、93、94、95、97、109、110、120、128、138、147、151、154、167、185、191等が使用できる。緑色の顔料としてはC.I.Pigment Green 7、36、37等が使用できるが緑色インキとしては青色顔料と黄色顔料の調色や青色染料と黄色顔料の調色でインキを作製する方がインキ外観色が鮮明なインキとなる。
【0014】
これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて調色して用いてもよい。また、染料と顔料を組み合わせて外観色や耐候性、耐水性、耐薬品性向上を図ることもできる。
これらの着色剤の使用量は油性インキ組成物の全量に対して、染料は5〜50重量%が使用でき、顔料は5〜35重量%が使用できる。それぞれ使用量が少ないと筆跡が薄くなり、多くなると染料が析出するまたはインキ組成物の粘度が高くなり筆跡ムラが出ることがある。
【0015】
また、顔料の分散や、筆跡の裏写り防止、筆跡固化・硬化のためやインキ粘度調節のために従来公知の樹脂を添加することができる。具体的にはアクリル樹脂、アクリル酸樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンとマレイン酸エステルとの共重合体、スチレンとアクリル酸又はそのエステルとの共重合体、尿素樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルキルエーテル、クマロン−インデン樹脂、ポリテルペン、ロジン系樹脂やその水素添加物、ケトン樹脂、ポリアクリル酸ポリメタクリル酸共重合物、フェノール樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、N−ビニルアセトアミド、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースやこれらの誘導体などが挙げられる。特に書き味改良を目的としてインキ粘度を5000mPa・s以下に設定し、その手段として粘度調整用樹脂の種類や量を調整したタイプのインキは、インキ追従が悪く付着が起こりやすいため本発明を適用すると好適なものであり、付着防止効果が高い。
【0016】
着色剤が顔料の場合、従来公知の顔料分散剤が上記の樹脂も含め界面活性剤、高分子型界面活性剤、樹脂分散剤の別なく使用できる。特に良好に使用できるのは樹脂分散剤としてはポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、尿素樹脂が挙げられる。このほかに分子内に極性基を導入し特に顔料分散安定性を高めた高分子型界面活性剤では高分子部分の組成・構造や極性基の種類により多数の商品があるが好ましく使用できるものとしてアビシア社製ソルスパース20000、ソルスパース27000が挙げられる。
【0017】
インキの洩れ防止や曳糸性・書き味制御などのレオロジーコントロール用に上記に挙げた樹脂の他に無機系のベントナイト、スメクタイト、シリカや有機系の尿素化合物、アマイド化合物、ウレタン化合物3次元架橋型アクリル酸樹脂、3次元架橋型N−ビニルアセトアミド樹脂、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸−デカジエンコポリマー、樹脂粒子等を使用することもできる。
【0018】
その他必要に応じて使用できるものとして、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防錆剤の他、筆記性、運筆性改良等に用いられる各種界面活性剤、例えば、脂肪酸とその塩類、芳香族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩類、脂肪酸硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸またはその塩等の陰イオン界面活性剤、デカグリセリン脂肪酸エステル、ヘキサグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエ−テル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエ−テル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの非イオン系界面活性剤等が挙げられる。特に、受座の摩耗防止と書き出しカスレ防止のための潤滑剤は添加することが好ましい。
【0019】
インキ付着防止剤として使用する前記一般式(化2)で表される化合物は、ジグリセリンに酸化プロピレンを付加重合して得られるエーテル・ポリオールの一種である。上記一般式(化2)において、m、n、oおよびpはいずれも「CO」の繰り返し数を示す整数である。これらのm+n+o+pの合計値は1以上100以下の範囲の整数であり好ましくは1以上50以下、より好ましくは14以上30以下である。尚、この化合物のm、n、o、pの値が異なる組み合わせの物質が混合されていてもよい。
上記した化合物の配合量は、インキ組成物全量に対して1〜30重量%、好ましくは5〜15重量%であり、これらの化合物は、単独でまた複数種を混合してもよく、合計量が上記の範囲であることが好ましい。また、これらの添加はインキ製造の如何なる工程で行ってもよく、例えば染料を加熱攪拌溶解するとき、顔料を分散させる工程でもよいし、他の添加剤とともにインキ組成を調製する時であってもよい。
【0020】
インキ作成は溶剤量や、着色剤の種類や濃度によって加熱撹拌機やロールミル、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ホモジナイザー等の分散混合機を適宜選択する。着色剤が染料の場合加熱撹拌機でインキ各成分を加熱攪拌混合し作成する。着色剤が顔料の場合顔料を他の成分と共に分散させる、顔料を溶剤と分散樹脂と共に分散させた顔料分散体を作成し、粘度調節用樹脂や添加剤をインキ調整時に添加混合するなど各種の方法によってボールペン用油性インキ組成物を得ることができる。特に顔料の分散混合機としては、樹脂と顔料の分散時に温度コントロールのできるロールミル、ビーズミルが好ましい。
【0021】
インキ中の樹脂や添加剤の不溶解分等を除去するためや、顔料の粗大粒子除去のため、顔料の平均粒子経を設定値内にするために作成したインキベースやインキを遠心機や濾過機で処理することもできる。
【0022】
このボールペン用油性インキ組成物を収容するインキ収容部は、金属製や合成樹脂製のものが使用可能である。透明・半透明の合成樹脂製であればインキ残量を明示できる。この場合、インキ溶剤に溶解・膨潤しない樹脂であれば従来油性ボールペン用インキ収容部として使用されている樹脂が総て使用できる。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリアリレート、エチレン−ビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂等があり、価格と視認性の面からポリプロピレンが良好に使用できる。また押し出し成形、射出成形等どのような成形方法のものでも良く、特に押し出し成型時に内面にシリコーン塗布した成形品はインキ付着防止の相乗効果が見られる。また、インキ後端に逆流防止用組成物を充填してもよい。
【0023】
【作用】
本発明のボールペン用油性インキ組成物がインキの収容部への付着汚染を防止するメカニズムについては明らかでないが、付加重合前のジグリセリン単体や類似構造のジグリセリンに酸化エチレンを付加重合したポリオキシエチレンジグリセリルエーテルには顕著な付着防止の効果がないことから親油性基である酸化プロピレン付加部の炭素鎖が特異的に染料の官能基や顔料表面または顔料表面の分散剤と緩やかな相互作用または配位構造を持ち着色剤がインキ収容部表面に接触・吸着されることを防いでいると考えられる。
【0024】
酸化プロピレンの付加量であるm+n+o+pの合計値が小さいと親水性が高く大きいと親油性が高い。この合計値は1以上100以下の範囲であれば一定以上の付着防止効果を持つが、着色剤である染料や顔料はもともとインキ溶剤中に最も安定かつ容易に溶解・分散するように染料構造や顔料表面処理や分散剤の吸着が行われている。一般的な油性ボールペン用インキ溶剤に対しm+n+o+pの合計値が小さすぎると着色剤表面に比べ親油性が不足し相互作用が弱くなる、またm+n+o+pの合計値が大きくなりすぎると同様に相互作用が弱くなるとともにインキ溶剤に対し親油性が強すぎて溶解性が悪くなり十分な量の添加ができない。このことから最も付着防止の効果があるのはm+n+o+pの合計値が14以上30以下の場合である。この相互作用は熱による影響を受けにくいため加熱後や長期経時後も付着防止効果を保持できる。
【0025】
【実施例】
以下、実施例、比較例の配合を表に示す。なお、以下の配合数値は重量%を示す。
【0026】
【表1】



【0027】
実施例1
配合表成分を撹拌機で加熱撹拌(80℃、4時間)した後、加圧濾過し黒色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0028】
実施例2
配合表成分中C.I.Pigment Red160とエスレックBX−Lとエチレングリコールモノフェニルエーテルの3成分をビーズミルで1時間分散後、残りの成分を投入し撹拌機で加熱撹拌(55℃、6時間)し赤色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0029】
実施例3
ポリビニルピロリドンK−90と上記一般式(化2)の化合物以外の成分をビーズミルで30分分散後残りの成分を投入し撹拌機で加熱攪拌(80℃、4時間)し青色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0030】
実施例4
配合表成分中C.I.Pigment Red254とエスレックBL−1とレジンSK、ベンジルアルコール、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルの5成分をビーズミルで1時間分散後、残りの成分を投入し撹拌機で加熱撹拌(55℃、2時間)し赤色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0031】
実施例5
実施例4において溶剤をベンジルアルコールに代えてエチレングリコールモノフェニルエーテルとポリエチレングリコールモノベンジルエーテル(エチレンオキサイド2モル付加)にした以外は実施例4と同様になして赤色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0032】
実施例6
実施例4において溶剤をベンジルアルコールに代えてポリエチレングリコールモノフェニルエーテル(エチレンオキサイド5モル付加)にした以外は実施例4と同様になして赤色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0033】
実施例7
ガントレッツAN−169以外の成分をビーズミルで1時間分散後、ガントレッツを投入し撹拌機で加熱撹拌(80℃、6時間)し黒色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0034】
比較例1
実施例1において上記一般式(化2)の化合物に代えてこの化合物の酸化プロピレン附加前であるジグリセリンにした以外は実施例1と同様になして黒色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0035】
比較例2
実施例2において上記一般式(化2)の化合物に代えてエチレングリコールモノフェニルエーテルにした以外は実施例2と同様になして赤色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0036】
比較例3
実施例3において上記一般式(化2)の化合物に代えて酸化エチレンを附加したポリオキシエチレン(13)ジグリセリルエーテル(分子量750)にした以外は実施例3と同様になして青色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0037】
比較例4
実施例4において上記一般式(化2)の化合物に代えてベンジルアルコールにした以外は実施例4と同様になして赤色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0038】
比較例5
実施例7において上記一般式(化2)の化合物に代えてβ−フェニルエチルアルコールにした以外は実施例7と同様になして黒色のボールペン用油性インキ組成物を得た。
【0039】
【発明の効果】
試験サンプルの作成
上記実施例1〜5及び比較例1〜5で得た各ボールペン用油性インキ組成物をステンレス製チップとφ0.7mmの超硬合金のボールとからなるペン先と、押出成形により成形したポリプロピレン製パイプからなる筆記具に0.3g充填し、試験サンプルとした。
【0040】
初期筆記試験:ボールペンサンプル3本を作成後、市販の螺旋式筆記試験機(MODEL TS−4C−20、精機工業研究所製)を用い、筆記速度7cm/sec、筆記角度70度、荷重150gでJIS P3201筆記用紙Aにインキがなくなるまで連続筆記し、インキ残量が確認できるかどうか評価した。
◎:インキ収容部に付着汚染なし
○:斑点状にインキが付着している
△:インキ収容部に一部付着があるがインキ残量の確認はできる
×:インキ収容部全面に付着汚染がありインキ残量の確認はできない
【0041】
長期放置後筆記試験:ボールペンサンプル3本を横置きで温度25℃、湿度30%の恒温恒湿槽に3ヶ月放置した後、上記の初期筆記試験と同条件で連続筆記した。評価基準も初期筆記試験と同様である。
【0042】
熱掛け後筆記試験:ボールペンサンプル3本を横置きで温度50℃、湿度30%の恒温恒湿槽に2週間放置した後、上記の初期筆記試験と同条件で連続筆記した。評価基準も初期筆記試験と同様である。
【0043】
加湿後筆記試験:ボールペンサンプル3本を横置きで温度40℃、湿度80%の恒温恒湿槽に3ヶ月間放置した後、上記の初期筆記試験と同条件で連続筆記した。評価基準も初期筆記試験と同様である。
【0044】
【表2】



【0045】
以上、詳細に説明したように、本発明のボールペン用インキ組成物は、長期保存後や熱掛け後もインキ収容部へのインキ付着汚染がなくインキ残量が確実に視認できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、溶剤、樹脂と一般式(化1)で表される化合物の少なくとも1種を含有してなるボールペン用油性インキ組成物。
【化1】



【請求項2】
着色剤として少なくとも顔料を含有し、前記一般式(化1)で表される化合物のm+n+o+pが14以上30以下である請求項1記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項3】
溶剤としてポリエチレングリコールモノフェニルエーテル及び/又はポリエチレングリコールベンジルアルコールエーテルから選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1または2記載のボールペン用油性インキ組成物。

【公開番号】特開2004−83881(P2004−83881A)
【公開日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−183155(P2003−183155)
【出願日】平成15年6月26日(2003.6.26)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】