説明

ボール盤

【課題】駆動モータによりドリルに回転運動を与えても、ドリルの偏心運動の径にズレが生じることなくドリルに正確な偏心運動を与えることが出来るように構成されたボール盤を提供すること。
【解決手段】主軸23に対し軸方向の相対移動が規制された状態で主軸23を回転可能に支持する回転支持体24と、被加工材料を加工する加工位置に移動可能なベース部20と、ベース部20に対し回転可能に設けられ回転支持体24を支持するスピンドル25と、から少なくとも構成されており、スピンドル25は、回転支持体24に対し軸方向に相対移動することで、回転支持体24の軸心とスピンドル25の軸心との離間間隔を変化可能に成っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動モータの回転力を主軸に伝達し、この主軸に取り付けられたドリルを回転させることにより、加工対象となる被加工材料に孔あけ加工を行うためのボール盤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドリルによる板ガラス等の硬脆材料の孔あけ加工を行うための工作機械として、ドリルを回転させながらドリルと加工対象となる板ガラスとの間に相対的な偏心運動を与えることで、ドリルの孔あけ加工能率を向上させるボール盤があり、ドリルの偏心運動の径を変化可能な偏心量調節体が構成されたボール盤がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−75939号公報(第7頁、第6図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にあっては、偏心量調節体が軸方向に略直交する平面方向に回動することで、ドリルの偏心運動の径が変化するように構成されているため、偏心量調節後に、ドリル自体に回転を与える主軸駆動モータ、及びドリルに偏心運動を与える偏心駆動モータが、偏心量調節体の回動と同じ平面方向に回転することで、これ等モータの回転による遠心力が偏心量調節体にも発生してしまい、偏心量調節体による偏心運動の径にズレが生じ易く、ドリルに正確な偏心運動を与えることが出来ない虞があるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、駆動モータによりドリルに回転運動を与えても、ドリルの偏心運動の径にズレが生じることなくドリルに正確な偏心運動を与えることが出来るように構成されたボール盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明のボール盤は、
駆動モータの回転力を主軸に伝達し、該主軸に取り付けられたドリルを回転させることにより、加工対象となる被加工材料に孔あけ加工を行うためのボール盤であって、
前記主軸に対し軸方向の相対移動が規制された状態で該主軸を回転可能に支持する回転支持体と、被加工材料を加工する加工位置に移動可能なベース部と、該ベース部に対し回転可能に設けられ前記回転支持体を支持するスピンドルと、から少なくとも構成されており、
前記スピンドルは、前記回転支持体に対し前記軸方向に相対移動することで、前記回転支持体の軸心と前記スピンドルの軸心との離間間隔を変化可能に成っていることを特徴としている。
この特徴によれば、スピンドルと回転支持体とが、軸心同士の離間方向に直交する軸方向に相対移動することで、主軸とスピンドルの軸心同士の離間間隔を変化させることができるため、駆動モータによりドリルに回転運動を与えても、ドリルの偏心運動の径にズレが生じることなくドリルに正確な偏心運動を与えることが出来る。
【0007】
本発明のボール盤は、
前記回転支持体と前記スピンドルとは、該回転支持体とスピンドルの一方に設けられ前記軸方向に延びるとともに前記回転支持体の軸心と前記スピンドルの軸心との離間方向に延びる被係合部と、前記回転支持体とスピンドルの他方に設けられ前記被係合部に係合する係合部と、を介して互いに組み付けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、回転支持体とスピンドルとが、軸方向に延びるとともに回転支持体とスピンドルの軸心同士の離間方向に延びる被係合部と、この被係合部に係合する係合部とを介して互いに組み付けられており、回転支持体とスピンドルとが回転方向に相対移動することなく同期して回転することに成るため、回転支持体とスピンドルとの軸方向の相対移動を、軸心同士の離間方向の相対移動に確実に転換できる。
【0008】
本発明のボール盤は、
前記被係合部と前記係合部とは、前記軸方向に沿って複数組設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、被係合部と係合部とは、軸方向に沿って複数組設けられていることで、スピンドルを軸方向に沿って真直ぐ相対移動させることができる。
【0009】
本発明のボール盤は、
前記ベース部に、前記スピンドルを前記軸方向に移動させるとともに移動させた所定位置で固定させる固定手段が設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、スピンドルを前記軸方向に移動させるとともに移動させた所定位置で固定させる固定手段がベース部に設けられているため、主軸に取り付けられたドリルを、同じベース部に対し回転可能に設けられスピンドルとともに被加工材料の加工位置に移動させ、移動させた加工位置で固定した状態で、スピンドルを軸方向に移動させることができる。
【0010】
本発明のボール盤は、
前記スピンドルと前記固定手段とは、前記スピンドルの回転方向に沿って設けられた被係止部と、前記固定手段に接続されるとともに前記被係止部に沿って相対回転可能に係止する係止部と、を介して互いに組み付けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、スピンドルと固定手段とが、スピンドルの回転方向に沿って設けられた被係止部と、固定手段に接続されるとともに被係止部に沿って相対回転可能に係止する係止部と、を介して互いに組み付けられており、固定手段に接続された係止部が、回転するスピンドルの被係止部に係止し続けることに成るため、回転している状態にあるスピンドルを固定手段により軸方向に移動させることができる。
【0011】
本発明のボール盤は、
前記ベース部に、前記スピンドルを前記軸方向に移動可能に支持する支持手段が設けられていることを特徴としている。
この特徴によれば、スピンドルが、ベース部に設けられた支持手段に沿って軸方向に安定して移動可能に成る。
【0012】
本発明のボール盤は、
前記駆動モータの回転力が、ベルトを介して前記主軸に伝達されるように成っており、該ベルトが、前記ベース部に取り付けられた付勢手段によって、張力が与えられる方向に付勢されていることを特徴としている。
この特徴によれば、スピンドルの回転によって主軸の軸心の位置が変化しても、ベルトの張力を付勢手段によって常に維持でき、ドリルの回転数を安定化できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1におけるボール盤を示す側面図である。
【図2】実施例1におけるボール盤を示す正面図である。
【図3】実施例1における主軸頭を示す平面図である。
【図4】実施例1における主軸頭を示す正面断面図である。
【図5】実施例1における主軸頭を示す側面断面図である。
【図6】図4のA−A断面図である。
【図7】(a)は、実施例1におけるボール盤の構造を模式的に示す模式平面図であり、(b)は、(a)と同じくドリルの偏心運動を模式的に示す模式平面図である。
【図8】(a)は、実施例1におけるボール盤の構造を模式的に示す模式正面図であり、(b)は、(a)と同じくドリルの偏心運動を模式的に示す模式正面図である。
【図9】(a)は、実施例2におけるボール盤の構造を模式的に示す模式正面図であり、(b)は、(a)と同じくドリルの偏心運動を模式的に示す模式正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るボール盤を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0015】
実施例1に係るボール盤につき、図1から図8を参照して説明する。以下、図1及び図5の紙面右側をボール盤の正面側(前方側)とし、図3,図6,及び図7の紙面下側をボール盤の正面側(前方側)として説明する。
【0016】
図1の符号1は、ドリルを用いて加工対象となるガラス板等から成る被加工材料(硬脆材料)Gに孔あけ加工を行うためのボール盤である。このボール盤1は、床面に設置され側面視略コ字状に形成された本体部2と、本体部2の前面に設けられた昇降レール3を介して配設された主軸頭5と、から主として構成されている。また、主軸頭5の下方に位置する本体部2の前上面に、被加工材料を載置するためのテーブル6が取り付けられている。
【0017】
主軸頭5は、本体部2に固設された昇降装置4を用いてワイヤWを介して伝達される駆動力により、昇降レール3に沿って略鉛直上下方向に昇降可能であり、主軸23の下端に取り付けられたドリル7が、被加工材料が載置されたテーブル6に対して近づいたり、離れたりすることができる。尚、昇降装置4を用いた昇降操作は、使用者の図示しない昇降スイッチによる手動操作であってもよいし、若しくは図示しない昇降制御部に基づく自動操作であっても構わない。更に尚、主軸頭の昇降操作は、主軸頭に直接接続されたハンドルを用いた回動操作によるものであってもよい。
【0018】
図2,3に示すように、主軸頭5の下部には、ドリル7が取り付けられるドリルチャック8が配置されており、主軸頭5の左右側には、主軸駆動モータ9や偏心駆動モータ10、プーリ11〜13やベルト15,16、更に、主軸頭5の後部側に、固定手段としての上下駆動モータ18からなる駆動機構部が配置されている。また、この駆動機構部に配置されるプーリ11〜13やベルト15,16等は、図示しないベルトカバーによって覆われていてもよい。
【0019】
次に、主軸頭5および駆動機構部について図4,5を参照して説明する。主軸頭5は、昇降レール3に対して固定されたベース部を構成する内空筒状のスリーブ20を有し、このスリーブ20内に、外筒26、スピンドル25、回転支持体24、そして前述したドリル7用のドリルチャック8が設けられた主軸23が、それぞれ内径側に向けて順に配置されている。この主軸23は回転支持体24に対して同一の軸心回りに回転可能に支持されている。また、主軸23及び回転支持体24の軸心と、外筒26及びスピンドル25の軸心とは、互いに平行を成し、垂直方向に延びている。以下、スリーブ20内部の各部材の構造について詳述する。
【0020】
外筒26は、内空構造の筒状体であって、スリーブ20内周面に設けられたベアリング34を介してスリーブ20に対し周方向に回転可能に支持されるとともに、上端及び下端を各々閉塞する環状蓋部40,40により、スリーブ20に対し軸方向の移動が規制されており、外筒26は支持手段として、スピンドル25を軸方向に移動可能に支持している。外筒26の外周面に設けられた歯車部26aが偏心駆動モータ10に接続されたギア14に噛合しており、偏心駆動モータ10からの回転駆動力がギア14を介して外筒26に伝達されるように成っている。また、図4,6に示されるように、外筒26は、外筒26の内径方向に向けて突出して固定された突出部27を有している。
【0021】
図4,5に示されるように、スピンドル25は、外筒26内に嵌挿された内空構造の筒状体であって、スピンドル25の外周面に上下方向に形成された嵌合部25aが外筒26の突出部27に嵌合している。この嵌合部25aと突出部27との嵌合により、スピンドル25は、外筒26との周方向の相対移動が規制されるとともに、軸方向の相対移動が所定長さ許容された状態で規制されており、偏心駆動モータ10からの回転駆動力が外筒26を介してスピンドル25に伝達され、スピンドル25は外筒26と共に同軸に回転可能に成っている。
【0022】
また、スピンドル25の上端部は外筒26から上方に突出しており、この上端部の外周面に回転方向に亘って被係止部としての凹溝25bが形成されている。更に、凹溝25b内に、後述する上下駆動モータ18に接続された係止部としてのカムフォロア29が凹溝25bに沿って相対回転可能に係止されており、上下駆動モータ18からの上下駆動力がカムフォロア29を介してスピンドル25に伝達されるように成っている。また、スピンドル25は、スピンドル25の内径方向に向けて突出して固定された係合部としての凸部28を有している。
【0023】
図4,6に示されるように、回転支持体24は、スピンドル25内に図示左右方向に所定長さの空隙30,30を形成した状態で嵌挿された内空構造の筒状体であって、回転支持体24の外周面に被係合部としての凹部24aが形成され、この凹部24aにスピンドル25の凸部28が嵌合している。より詳しくは凹部24aは、回転支持体24の外周面に軸方向すなわち上下方向に延びるとともに、回転支持体24の軸心とスピンドル25の軸心との離間方向に延びる傾斜形状に形成されている。組となる被係合部としての凹部24aと係合部としての凸部28とは、軸方向に沿って複数組(本実施例では2組)形成された列が、周方向に2列設けられ、すなわち合計4組設けられている。尚、被係合部と係合部との各列の組数若しくは列数は、必ずしも本実施例に限られず、適宜設定可能である。
【0024】
このような傾斜形状の凹部24aと凸部28との係合により、回転支持体24は、スピンドル25との周方向の相対移動が規制されており、偏心駆動モータ10からの回転駆動力が外筒26、スピンドル25を介して回転支持体24に伝達され、従って回転支持体24は、外筒26そしてスピンドル25と共に回転可能に成っている。
【0025】
本実施例の凹部24aの傾斜の比率は、軸方向寸法:軸心同士の離間寸法=約10:1の比率である。尚、被係合部としての凹部の傾斜の比率は、必ずしも本実施例の約10:1に限られないが、軸方向寸法が軸心同士の離間寸法よりも大きい寸法を採る比率が好ましく、このような傾斜の比率にすることで、スピンドル25の軸方向の移動量に比して軸心同士の離間方向の移動量が小さく成るため、偏心量の変更の精度を高めることが出来る。
【0026】
回転支持体24の下端部は、外径方向に突出形成されており、ベース部を構成する環状底部41とベアリング39を介して接続され、回転支持体24は軸方向の移動が規制されている。
【0027】
また、回転支持体24の上端部はスピンドル25から上方に突出しており、この回転支持体24の上端部の外周面とスピンドル25の上端面とに架けて、上下方向に伸縮可能な蛇腹式の防水筒31が取り付けられている。
【0028】
図3,5に示されるように、主軸23は、回転支持体24内に嵌挿された内空構造の筒状体であって、回転支持体24内周面に設けられたベアリング35を介して回転支持体24に対し周方向に回転可能に支持されており、主軸23の上端部に取り付けられた主軸プーリ11に、主軸駆動モータ9からの回転駆動力が伝達される。
【0029】
より詳しくは、図4に示されるように、主軸23に与える回転駆動力を発生する主軸駆動モータ9は、スリーブ20の右側に固着された固着部材46に対し固定に設けられ、従動プーリ12は、固着部材46に対し垂直方向の軸回りに回転可能に枢支された回転腕部48に、取り付けられている。主軸駆動モータ9に接続された駆動プーリ13と従動プーリ12とは、互いに独立して水平方向に回転できるようになっている。更に、駆動プーリ13と従動プーリ12の上部との間にはベルト15が巻き回され、従動プーリ12の下部と主軸プーリ11との間にもベルト16が巻き回されている。
【0030】
また、図3に示されるように、固着部材46と回転腕部48とに架けて、内部にコイルバネ32が配置された本実施例における付勢手段としての付勢装置33が取り付けられており、この付勢装置33が従動プーリ12を常に外方側に向かって付勢するように成っている。
【0031】
主軸駆動モータ9を駆動させると、駆動プーリ13が回転され、ベルト15を介して従動プーリ12が回転し、更にベルト16を介して主軸プーリ11が取り付けられた主軸23、及びドリル7が回転される。
【0032】
図4に示されるように、駆動モータ9で主軸23を回転させ、別の駆動モータ10で外筒26、スピンドル25、及び回転支持体24を回転させる構成になっているので、別途、変速機等を用いる必要がなく、簡単な構成で主軸23の回転数や回転方向と、外筒26、スピンドル25、及び回転支持体24の回転数や回転方向とを、それぞれ独立して任意に設定できるようになる。尚、本実施例では、主軸23の回転方向と、外筒26、スピンドル25、及び回転支持体24の回転方向とが、互いに逆向きになっている。
【0033】
図5に示されるように、主軸23の内部には、主軸23の軸心を貫通する軸心貫通孔36が形成されている。また、主軸23の上端部には、主軸23の軸心貫通孔36に水を供給するためのホース(図示略)が取り付け可能になっている。更に、主軸23の下端部に取り付けられたドリル7は、ドリル7の軸心を貫通する軸心貫通孔37が形成されたコアドリルとなっている。ボール盤1の使用時には、水を前記したホースから主軸23の軸心貫通孔36に供給し、この主軸23の軸心貫通孔36に供給された水がドリル7の軸心貫通孔37を通過してドリル7の先端部から流出されるようになっている。
【0034】
このように、ドリル7の先端部から流出された水は、ドリル7と被加工材料との間に流出されるようになり、孔あけ加工の際に発生する切粉を洗い流すことができる。更に、ドリル7と被加工材料との間の摩擦抵抗や摩擦熱も低減されるため、スムーズに孔あけ加工を行うことができる。尚、本実施例のボール盤1は、2つの駆動モータ9,10を用いてそれぞれ主軸23と、外筒26、スピンドル25、及び回転支持体24とを独立して回転させているため、主軸23の軸心に軸心貫通孔36を形成することが容易になっている。
【0035】
次に、上下駆動モータ18は、スリーブ20の後部に固着されたベース部を構成する固着部材19に対し、固定に設けられており、固着部材19に対し上下動作するアクチュエータであるロボシリンダ42を備える。ロボシリンダ42の下端部には、後述する回動ブラケット45を回動可能に枢支する枢支部43が接続されており、更に枢支部43の下方にロボシリンダ42の上下動作を案内する案内ロッド44が設けられる。ロボシリンダ42は、図示しない螺合部を介し上下駆動モータ18の駆動部と接続されており、螺挿により上下動作し、且つ上下動作した所定位置で固定されるように成っている。
【0036】
図3,5に示されるように、回動ブラケット45は、スピンドル25の上端部を左右にフォーク状に挟むように、前後方向に延設された部材であって、回動ブラケット45の後端部は、ロボシリンダ42の下端部に配設された枢支部43に回動可能に接続されるとともに、回動ブラケット45の前端部は、スリーブ20の前部に固着されたベース部を構成する固着部材21に回動可能に接続されている。また、固着部材19と枢支部43とに架けて、スピンドル25の上下位置を維持するべく吊持するバネ部材47が設けられる。更に、回動ブラケット45の中央側に、スピンドル25の凹溝25bに嵌合したカムフォロア29が回動可能に設けられている。
【0037】
上下駆動モータ18によりロボシリンダ42を上方に動作させることで、回動ブラケット45は前端部45bを支点にして後端部45aが枢支部43により持ち上げられることに成る。この回動ブラケット45の動作により、回動ブラケット45の中央側に設けられたカムフォロア29を介し、スピンドル25が上方に向けて動作する。
【0038】
同様に、上下駆動モータ18によりロボシリンダ42を下方に動作させることで、回動ブラケット45は前端部45bを支点にして後端部45aが枢支部43により下げられることに成る。この回動ブラケット45の動作により、カムフォロア29を介し、スピンドル25が下方に向けて動作する。
【0039】
次に、図7(a),(b)に示されるように、ドリル7に与えられる偏心運動について詳述する。主軸駆動モータ9に取り付けられた駆動プーリ13の回転力は、ベルト15を介し従動プーリ12に伝達され、更にベルト16を介し主軸23に伝達されるようになっている。尚、従動プーリ12は、付勢装置33によって主軸23から離れる方向に付勢されている。また、偏心駆動モータ10に取り付けられたギア14の回転力は、外筒26及びスピンドル25に伝達され、更に回転支持体24に伝達されるようになっている。
【0040】
ドリル7が取り付けられた主軸23と回転支持体24とは、ベアリング35を介し互いに組み付けられており、共に偏心運動するとともに常に同軸の軸心α回りに回転するように成っている。また、スリーブ20にベアリング34を介し組み付けられた外筒26と、外筒26に突出部27を介し組み付けられたスピンドル25とは、常に同一軸の軸心β回りに回転するように成っている。
【0041】
主軸23及び回転支持体24の回転の軸心αと、外筒26及びスピンドル25の回転の軸心βとは、互いに平行を成し、互いの離間間隔を変化可能に配置されている。本実施例では、ベース部としてのスリーブ20に組み付けられた外筒26及びスピンドル25の軸心βの位置は常に不動であり、この軸心βに対し、主軸23及び回転支持体24の軸心αが移動することで、軸心α,β同士の離間間隔を変化させることができる。
【0042】
軸心α,βの相対位置について説明すると、図7(a)に示されるように、主軸23及び回転支持体24の軸心αと、外筒26及びスピンドル25の回転の軸心βとは、同一軸になるように位置している(図8(a)参照)。すなわち図7(a)に示される軸心α,βの相対位置において、主軸23に接続されたドリル7は、軸心βに対し偏心運動することなく、軸心α回りに回転運動するのみである。
【0043】
次に、図7(b)に示すように、主軸23及び回転支持体24の軸心αと、外筒26及びスピンドル25の軸心βとが離間されて配置された場合、主軸23が回転するとともに、外筒26、スピンドル25、及び回転支持体24が回転したときに、主軸23に取り付けられたドリル7自体が軸心α回りに回転しつつ、このドリル7が外筒26及びスピンドル25の軸心βを中心として偏心運動するようになっている(図8(b)参照)。すなわち図7(a)に示される軸心α,βの相対位置において、主軸23に接続されたドリル7は、軌跡Sを描いて被加工材料に対し孔あき加工を行う。
【0044】
軸心α,β同士の離間間隔を変化させる構造について詳述する。図8(a)に示されるように、主軸23及び回転支持体24の軸心αと、外筒26及びスピンドル25の回転の軸心βとが同一軸になるように位置している状態から、スピンドル25を、上述した上下駆動モータ18を用い外筒26に対し鉛直上方向すなわち軸方向に移動させることで、スピンドル25に固定に設けられた係合部としての凸部28が、回転支持体24の外周面に上下方向に延びるとともに周方向に延びる傾斜形状に形成された被係合部としての凹部24aを、図示左方向に押圧しながら鉛直上方向に移動する。
【0045】
図8(b)に示されるように、スピンドル25の移動に伴う凸部28の鉛直上向きの移動により、凹部24aを有する回転支持体24は、主軸23とともに軸心αの略直交方向(図示左方向)に移動することに成り、この回転支持体24及び主軸23の移動により、軸心α,β同士が離間するように成っている。
【0046】
また、図8(b)に示されるスピンドル25を、外筒26に対し鉛直下向きに移動させることで、スピンドル25の凸部28が回転支持体24の凹部24aを図示右方向に押圧しながら鉛直下方向に移動し、この凸部28の鉛直下方向の移動により、回転支持体24及び主軸23の軸心α,軸心β同士が互いに近づき、図8(a)に示されるように、軸心α,β同士が同一軸に成る。
【0047】
尚、上述したように、回転支持体24及び主軸23は上下方向の動きが規制されているため、スピンドル25及び凸部28の上下方向の移動によっても、回転支持体24及び主軸23が上下方向に移動することがない。
【0048】
以上、本実施例のボール盤1によれば、スピンドル25と回転支持体24とが、軸心α,β同士の離間方向に直交する軸方向に相対移動することで、主軸23とスピンドル25の軸心α,β同士の離間間隔を変化させることができるため、主軸駆動モータ9及び偏心駆動モータ10によりドリル7に回転運動を与えても、ドリル7の偏心運動の径にズレが生じることなくドリルに正確な偏心運動を与えることが出来る。また、被加工材料Gに対し偏心運動しながら孔あけ加工することで被加工面の仕上りを滑らかにできるばかりか、偏心運動の径を変化させることで孔径の自由度を高め、更に孔あけ後に軸心α,β同士の離間間隔を狭めることでドリル7を被加工材料Gから容易に抜き取ることができる。
【0049】
尚、ドリルをNC制御(数値制御)により偏心運動させる場合には、数値の誤差分だけ、孔の内周面に微細な段差が形成される場合がある。しかしながら本発明のボール盤1によれば、スピンドル25の支持による物理的な円運動で偏心運動を与えるため、被加工面である孔の内周面を滑らかに仕上げることができる。
【0050】
回転支持体24とスピンドル25とが、軸方向に延びるとともに主軸23及び回転支持体24と、スピンドル25との軸心α,β同士の離間方向に延びる被係合部としての凹部24aと、この凹部24aに係合する係合部としての凸部28とを介して組み付けられており、回転支持体24とスピンドル25とが回転方向に相対移動することなく同期して回転することに成るため、回転支持体24とスピンドル25との軸方向の相対移動を、軸心α,β同士の離間方向の相対移動に確実に転換できる。
【0051】
また、被係合部としての凹部24aと係合部としての凸部28とは、軸方向に沿って複数組設けられていることで、スピンドル25を軸方向に沿って真直ぐ相対移動させることができる。
【0052】
また、スピンドル25を軸方向に移動させるとともに移動させた所定位置で固定させる固定手段としての上下駆動モータ18が、ベース部を構成する固着部材19に設けられているため、主軸23に取り付けられたドリル7を、同じベース部を構成するスリーブ20に対し回転可能に設けられスピンドル25とともに被加工材料Gの加工位置に移動させ、移動した加工位置で固定した状態で、スピンドル25を軸方向に移動させることができる。
【0053】
更に、スピンドル25と固定手段としての上下駆動モータ18とが、スピンドル25の回転方向に沿って設けられた被係止部としての凹溝25bと、上下駆動モータ18に接続されるとともに凹溝25bに沿って相対回転可能に係止する係止部としてのカムフォロア29と、を介して組み付けられており、上下駆動モータ18に接続されたカムフォロア29が、回転するスピンドル25の凹溝25bに係止し続けることに成るため、回転している状態にあるスピンドル25を上下駆動モータ18により軸方向に移動させることができる。
【0054】
また、ベ−ス部としてのスリーブ20に、スピンドル25を軸方向に移動可能に支持する支持手段としての外筒26が設けられていることで、スピンドル25が、スリーブ20に設けられた外筒26に沿って軸方向に安定して移動可能に成る。更に、偏心駆動モータ10からの駆動力が伝達される歯車部26aが設けられた外筒26は軸方向に動くことなく、駆動力を確実に受け取ることができる。
【0055】
図5に示すように、加工時に外筒26及びスピンドル25が回転されると、主軸23の位置が水平方向に変化するので、主軸23と駆動プーリ13との間の距離が変化するが、駆動プーリ13が取り付けられた主軸駆動モータ9が付勢装置33によって、主軸23から離れる方向、すなわちベルト15に張力が与えられる方向に付勢されていることにより、外筒26及びスピンドル25の回転によって主軸23の軸心αの位置が変化しても、ベルト15の張力を常に維持でき、ドリル7の回転数を安定化できる。
【実施例2】
【0056】
次に、本発明の実施例2に係るボール盤につき、図9(a),(b)を参照して説明する。尚、実施例1と同一構成で重複する構成を省略する。
【0057】
図9(a),(b)に示されるように、ボール盤を構成するベース部としてのスリーブ20’に、図示しない偏心駆動モータに接続された外筒26’が設けられている。外筒26’は、前記した偏心駆動モータにより鉛直方向の不動の軸心β’回りに回転可能であるとともに、この軸心β’に対し所定角度傾斜した軸心γ回りの周形状に形成された内周面26a’を有している。
【0058】
外筒26’の内周面26a’に、この外筒26’と同期して軸心β’回りに回転可能なスピンドル25’が嵌挿されている。スピンドル25’は、外筒26’の内周面26a’に沿うすなわち軸心γ回りの周形状に形成された外周面25a’を有しており、外筒26’に対し上下方向に移動可能に設けられている。またスピンドル25’は、鉛直方向の軸心α’回りに形成された内周面を有している。
【0059】
スピンドル25’の内周面に、外筒26’及びスピンドル25’と同期して回転可能な回転支持体24’が嵌挿されている。回転支持体24’は、図示しない主軸駆動モータに接続されドリル7’が取り付けられた主軸23’を回転可能に支持し、主軸する23’とともに鉛直方向の軸心α’回りに回転する。
【0060】
軸心α’,β’同士の離間間隔を変化させる構造について詳述する。図9(a)に示されるように、主軸23’及び回転支持体24’の軸心α’と、外筒26’及びスピンドル25’の回転の軸心β’とが同一軸になるように位置している状態から、スピンドル25’を、図示しない固定手段としての上下駆動モータを用い、外筒26’に対し図示左上方向すなわち軸心γ方向に移動させる。スピンドル25’は、その外周面25a’が外筒26’の内周面26a’に沿うようにして、図示上方向に移動するとともに、回転支持体24’を押圧しながら図示左方向すなわち軸心α’,β’同士の離間方向に移動する。
【0061】
図9(b)に示されるように、スピンドル25’の図示左上方向の移動により、主軸23’と同軸の回転支持体24’は、主軸23’とともに軸心α’の略直交方向(図示左方向)に移動することに成り、この回転支持体24及び主軸23の移動により、軸心α’,β’同士が離間するように成っている。主軸23’及び回転支持体24’の軸心α’と、外筒26’及びスピンドル25’の軸心β’とが離間されて配置された場合、主軸23’が回転するとともに、外筒26’、スピンドル25’、及び回転支持体24’が回転したときに、主軸23’に取り付けられたドリル7’自体が軸心α’回りに回転しつつ、このドリル7’が外筒26’及びスピンドル25’の軸心β’を中心として偏心運動するようになっている。
【0062】
また、図9(b)に示されるスピンドル25’を、外筒26’に対し右下向きに移動させることで、スピンドル25’の外周面25a’が外筒26’の内周面26a’に沿うようにして、図示下方向に移動するとともに、回転支持体24’を押圧しながら図示右方向に移動し、回転支持体24’及び主軸23’の軸心α’,軸心β’同士が互いに近づき、図9(a)に示されるように、軸心α’,β’同士が同一軸に成る。
【0063】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0064】
例えば、実施例1では、回転支持体24に被係合部としての凹部24aが形成されるとともに、スピンドル25に係合部としての凸部28が形成されているが、例えばスピンドルに凹部等から成る被係合部が形成されるとともに、回転支持体に凸部等から成る係合部が形成されてもよい。
【0065】
また実施例1では、偏心駆動モータ10からの駆動力は、ギア14を介して、外筒26、スピンドル25、及び回転支持体24に伝達しているが、例えば偏心駆動モータからの駆動力は、前記実施例の主軸駆動モータ9と同様に、プーリに巻き回されたベルトを介して伝達されてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 ボール盤
5 主軸頭
7,7’ ドリル
9 主軸駆動モータ(駆動モータ)
10 偏心駆動モータ
15,16 ベルト
18 上下駆動モータ(固定手段)
19 固着部材(ベース部)
20,20’ スリーブ(ベース部)
23,23’ 主軸
24,24’ 回転支持体
24a 凹部(被係合部)
25,25’ スピンドル
25b 凹溝(被係止部)
26,26’ 外筒(支持手段)
28 凸部(係合部)
29 カムフォロア(係止部)
33 付勢装置(付勢手段)1 ボール盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータの回転力を主軸に伝達し、該主軸に取り付けられたドリルを回転させることにより、加工対象となる被加工材料に孔あけ加工を行うためのボール盤であって、
前記主軸に対し軸方向の相対移動が規制された状態で該主軸を回転可能に支持する回転支持体と、被加工材料を加工する加工位置に移動可能なベース部と、該ベース部に対し回転可能に設けられ前記回転支持体を支持するスピンドルと、から少なくとも構成されており、
前記スピンドルは、前記回転支持体に対し前記軸方向に相対移動することで、前記回転支持体の軸心と前記スピンドルの軸心との離間間隔を変化可能に成っていることを特徴とするボール盤。
【請求項2】
前記回転支持体と前記スピンドルとは、該回転支持体とスピンドルの一方に設けられ前記軸方向に延びるとともに前記回転支持体の軸心と前記スピンドルの軸心との離間方向に延びる被係合部と、前記回転支持体とスピンドルの他方に設けられ前記被係合部に係合する係合部と、を介して互いに組み付けられていることを特徴とする請求項1に記載のボール盤。
【請求項3】
前記被係合部と前記係合部とは、前記軸方向に沿って複数組設けられていることを特徴とする請求項2に記載のボール盤。
【請求項4】
前記ベース部に、前記スピンドルを前記軸方向に移動させるとともに移動させた所定位置で固定させる固定手段が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のボール盤。
【請求項5】
前記スピンドルと前記支持手段とは、前記スピンドルの回転方向に沿って設けられた被係止部と、前記支持手段に接続されるとともに前記被係止部に沿って相対回転可能に係止する係止部と、を介して互いに組み付けられていることを特徴とする請求項4に記載のボール盤。
【請求項6】
前記ベース部に、前記スピンドルを前記軸方向に移動可能に支持する支持手段が設けられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のボール盤。
【請求項7】
前記駆動モータの回転力が、ベルトを介して前記主軸に伝達されるように成っており、該ベルトが、前記ベース部に取り付けられた付勢手段によって、張力が与えられる方向に付勢されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のボール盤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−88245(P2011−88245A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243024(P2009−243024)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(390001535)旭栄研磨加工株式会社 (9)
【出願人】(502068964)有限会社アオノ技研 (2)
【出願人】(505346285)
【Fターム(参考)】