説明

ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂およびその製造方法

【課題】バイオマス由来のアクリル酸であっても過度の精製工程を必要とせず、紙オムツ等で大量消費される吸水性樹脂であり、地球環境に優しい再生可能な吸水性樹脂であって、白色度が高く、経時着色の少ない吸水性樹脂を提供する。
【解決手段】水溶性不飽和単量体を重合して得られる内部架橋構造を有するポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂であって、加速器質量分析法によって測定される炭素安定同位体比(δ13C)が−20‰以上であることを特徴とする、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、再生可能な動植物由来の有機性資源から得られる単量体を原料とする吸水性樹脂であり、白色度が高く、経時着色の少ないポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度の吸水性を有する吸水性樹脂が開発され、紙オムツ、生理用ナプキン等の吸収性物品、さらには、農園芸用保水剤、工業用止水材等として、主に使い捨て用途に多用されている。
【0003】
また近年、地球環境の問題から、石油等の枯渇性エネルギー資源(以下、「化石資源」と称する)に代えて、現生生物体構成物質である再生可能な、動植物由来の有機性資源で上記化石資源を除いたもの(以下、「バイオマス」と称する)を、利用しようとする動きが活発化している。吸水性樹脂の分野においても、バイオマスから得られる単量体を原料として用いる研究が進められている。
【0004】
吸水性樹脂は、これまでに種々の観点から数多くの規定(パラメーター測定法)が提案されており、例えば、無加圧下吸水倍率、加圧下吸水倍率、吸水速度、無加圧下通液性、加圧下通液性、耐衝撃性、耐尿性、流動性、ゲル強度、初期色調(白色度)、経時着色、粒度等の物性向上が求められている。そして、その原料として多くの単量体や親水性高分子化合物が提案されている。中でもアクリル酸および/またはその塩を原料として用いたポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂が、その吸水性能の高さから工業的に最も多く用いられている。
【0005】
しかしながら、上記物性の向上を目的として開発されている吸水性樹脂ではあるが、紙オムツ等の吸収性物品の使用において、未だ十分な性能を発揮しているとは言い難い状況である。特に、白色度や経時着色については、化石資源由来の単量体を用いる場合には顕著であった。
【0006】
そこで、原材料の単量体や吸水性樹脂の処理方法に着目して、吸水性樹脂の白色度向上や着色防止技術の提案がなされてきた(特許文献1〜27等)。具体的には、アクリル酸中のメトキシフェノールを10〜160ppmに制御する技術(特許文献1)、アクリル酸中のハイドロキノンを0.2ppm以下に制御する技術(特許文献2)、単量体を活性炭で処理する技術(特許文献3)、重合禁止剤としてトコフェノールを使用する技術(特許文献4)、重合禁止剤としてN−オキシル化合物やマンガン化合物等を使用する技術(特許文献5)、メトキシフェノールおよび特定の多価金属塩を使用する技術(特許文献6、7)等が知られている。
【0007】
また、吸水性樹脂の着色防止技術として、次亜リン酸塩等の還元剤を添加する技術(特許文献8)、酸化防止剤を添加する技術(特許文献9、10)、金属キレートおよび必要によりその他還元剤等を添加する技術(特許文献11〜15)、有機カルボン酸および必要によりその他化合物等を添加する技術(特許文献16〜19)等が知られている。さらに、吸水性樹脂の重合工程における重合開始剤に着目した技術(特許文献20〜22)や、着色原因物質としての鉄に着目し、還元剤等中の鉄含有量を制御する技術(特許文献23、24)、単量体にアクリル酸アンモニウム塩を用いる技術(特許文献25)、乾燥工程や表面架橋工程での酸素量を制御する技術(特許文献26、27)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2003/051940号パンフレット
【特許文献2】米国特許第6444744号明細書
【特許文献3】国際公開第2004/052819号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2003/053482号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2008/096713号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2008/092843号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2008/092842号パンフレット
【特許文献8】米国特許第6359049号明細書
【特許文献9】国際公開第2009/060062号パンフレット
【特許文献10】国際公開第2009/011717号パンフレット
【特許文献11】米国特許出願公開第2005/085604号明細書
【特許文献12】国際公開第2003/059961号パンフレット
【特許文献13】欧州特許第1645596号明細書
【特許文献14】日本国登録特許第3107873号公報
【特許文献15】国際公開第2009/005114号パンフレット
【特許文献16】国際公開第2008/026772号パンフレット
【特許文献17】特開2000−327926号公報
【特許文献18】特開2003−052742号公報
【特許文献19】特開2005−186016号公報
【特許文献20】特開平4−331205号公報
【特許文献21】米国特許出願公開第2006/089611号明細書
【特許文献22】米国特許第7528291号明細書
【特許文献23】国際公開第2007/072969号パンフレット
【特許文献24】米国特許出願公開第2006/074160号明細書
【特許文献25】国際公開第2006/109882号パンフレット
【特許文献26】米国特許出願公開第2007/293632号明細書
【特許文献27】国際公開第2006/008905号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜27に開示された着色防止技術を、バイオマス由来の単量体や吸水性樹脂に適用しても、依然として、吸水性樹脂の白色度および経時着色にバラつきが見られ、その効果は十分であるとは言い難い状況であった。
【0010】
さらに、バイオマス由来の単量体の純度を高める、吸水性樹脂の重合条件や乾燥条件を最適化する、あるいは、新たな着色防止剤(例えば、還元剤)を使用する等の着色防止技術では、生産コストの増大や生産性の低下、着色防止剤の使用による安全性や吸水特性の低下等の問題が生じるおそれがあった。
【0011】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、その目的は、生産性や製造コストおよび安全性等を犠牲にすることなく、白色度が高く、経時着色の少ない吸水性樹脂を提供することにある。
【0012】
さらなる目的は、バイオマス由来のアクリル酸であっても過度の精製工程を必要とせず、紙オムツ等で大量消費される吸水性樹脂であり、地球環境に優しい再生可能な吸水性樹脂であって、白色度が高く、経時着色の少ない吸水性樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するために鋭意検討した結果、C4植物を出発原料とするバイオマスから合成されるアクリル酸を吸水性樹脂の原料として用いる場合、C4植物のアルコール発酵時に副生するジヒドロキシアセトンが着色原因物質であることを見出し、上記アクリル酸中のジヒドロキシアセトン含有量を特定量に制御することで、得られる吸水性樹脂の白色度向上および経時着色の低減が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は上記課題を解決するため、水溶性不飽和単量体を重合して得られる内部架橋構造を有するポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂であって、加速器質量分析法によって測定される炭素安定同位体比(δ13C)が−20‰以上であることを特徴とする、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂を提供する。
【0015】
また、本発明は上記課題を解決するため、水溶性不飽和単量体の重合工程、得られた含水ゲル状架橋重合体の乾燥工程を含む、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂の製造方法であって、加速器質量分析法により測定される炭素安定同位体比(δ13C)が−20‰以上のアクリル酸を単量体として用いることを特徴とする、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
得られる吸水性樹脂の炭素安定同位体比(δ13C)が−20‰以上となる、バイオマス源を吸水性樹脂の原料として用いることで、白色度が高く、経時着色の少ない吸水性樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂およびその製造方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更、実施し得る。具体的には、本発明は下記の各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0018】
〔1〕用語の定義
(1−1)「吸水性樹脂」
本発明における「吸水性樹脂」とは、水膨潤性水不溶性の高分子ゲル化剤を意味する。なお、「水膨潤性」とは、ERT441.2−02で規定するCRC(無加圧下吸水倍率)が通常5[g/g]以上であることをいい、また、「水不溶性」とは、ERT470.2−02で規定するExt(水可溶分)が通常0〜50重量%であることをいう。
【0019】
上記吸水性樹脂は、その用途に応じて適宜設計可能であり、特に限定されるものではないが、カルボキシル基を有する不飽和単量体を架橋重合させた、親水性架橋重合体であることが好ましい。また、全量(100重量%)が重合体である形態に限定されず、上記性能を維持する範囲内において、添加剤等を含んでもよい。
【0020】
(1−2)「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂」
本発明における「ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂」とは、繰り返し単位として、アクリル酸および/またはその塩(以下、「アクリル酸(塩)」と称する)を主成分とする吸水性樹脂を意味する。
【0021】
具体的には、重合に用いられる総単量体(架橋剤を除く)のうち、アクリル酸(塩)を通常50〜100モル%含む重合体をいい、好ましくは70〜100モル%、より好ましくは90〜100モル%、特に好ましくは実質100モル%含む吸水性樹脂をいう。
【0022】
(1−3)「EDANA」および「ERT」
「EDANA」は、欧州不織布工業会(European Disposables and Nonwovens Associations)の略称であり、「ERT」は、欧州標準(ほぼ世界標準)である吸水性樹脂の測定方法(EDANA Recomeded Test Method)の略称である。なお、本発明においては、特に断りのない限り、ERT原本(公知文献:2002年改定)に準拠して、吸水性樹脂の物性を測定する。
【0023】
(a)「CRC」(ERT441.2−02)
「CRC」は、Centrifuge Retention Capacity(遠心分離機保持容量)の略称であり、無加圧下吸水倍率(以下、「吸水倍率」と称することもある)を意味する。具体的には、吸水性樹脂0.2gについて、0.9重量%塩化ナトリウム水溶液に対する30分間の自由膨潤後さらに遠心分離機で水切りした後の吸水倍率(単位;[g/g])である。
【0024】
(b)「AAP」(ERT442.2−02)
「AAP」は、Absorption Against Pressureの略称であり、加圧下吸水倍率を意味する。具体的には、0.9重量%塩化ナトリウム水溶液に対する1時間、2.06kPa(0.3psi)での荷重下膨潤後の吸水倍率(単位;[g/g])である。なお、荷重条件を4.83kPa(0.7psi)に変更して測定することもある。
【0025】
(c)「Ext」(ERT470.2−02)
「Ext」は、Extractablesの略称であり、水可溶分(水可溶成分量)を意味する。具体的には、0.9重量%塩化ナトリウム水溶液200gに対して、吸水性樹脂1gを500rpmで16時間攪拌した後、溶解したポリマー量をpH滴定で測定した値(単位;重量%)である。
【0026】
(d)「FSC」(ERT440.2−02)
「FSC」は、Free Swell Capacityの略称であり、自由膨潤倍率を意味する。具体的には、0.9重量%塩化ナトリウム水溶液に吸水性樹脂0.20gを30分浸漬した後、遠心分離機で水切りを行わないで測定した吸水倍率(単位;[g/g])である。
【0027】
(e)「Residual Monomers」(ERT410.2−02)
「Residual Monomers」とは、吸水性樹脂中に残存するモノマー量を意味する。具体的には、0.9重量%塩化ナトリウム水溶液200cmに対して、吸水性樹脂1.0gを500rpmで1時間攪拌した後、溶解した残存モノマー量をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で測定した値(単位;ppm)である。
【0028】
(f)「PSD」(ERT420.2−02)
「PSD」とは、Particle Size Disributionの略称であり、ふるい分級により測定される粒度分布を意味する。なお、重量平均粒子径(D50)および粒子径分布幅は欧州公告特許第0349240号明細書7頁25〜43行に記載された「(1) Average Particle Diameter and Distribution of Particle Diameter」と同様の方法で測定する。
【0029】
(1−4)「通液性」
荷重下または無荷重下における膨潤ゲルの粒子間を流れる液の流れを「通液性」という。この「通液性」の代表的な測定方法として、SFC(Saline Flow Conductivity)や、GBP(Gel Bed Permeability)がある。
【0030】
「SFC(生理食塩水流れ誘導性)」は、荷重0.3psiにおける吸水性樹脂に対する0.69重量%生理食塩水の通液性をいう。米国特許第5669894号明細書に記載されたSFC試験方法に準じて測定される。
【0031】
「GBP」は、荷重下または自由膨張における吸水性樹脂に対する0.69重量%生理食塩水の通液性をいう。国際公開第2005/016393号パンフレットに記載されたGBP試験方法に準じて測定される。
【0032】
(1−5)「初期色調および経時着色」
本発明における「初期色調」とは、製造直後の吸水性樹脂またはユーザー出荷直後の吸水性樹脂の色調をいい、通常、工場出荷前の色調で管理する。色調の測定方法については、国際公開第2009/005114号に記載される方法(Lab値、YI値、WB値等)を例示することができる。
【0033】
また、「経時着色」とは、未使用状態で長期間の保管、あるいは、流通時に生じる吸水性樹脂の色調変化をいう。経時によって吸水性樹脂が着色するため、紙オムツの商品価値の低下となりうる。経時着色は数ヶ月〜数年単位で生じるため、国際公開第2009/005114号に開示される促進試験(高温・高湿下での促進試験)で検証する。
【0034】
(1−6)「バイオマス」
本発明における「バイオマス」とは、枯渇性資源ではない、現生生物構成体物質起源の産業資源のことをいい、再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものをいう。
【0035】
バイオマスはその成長過程で光合成により大気中の二酸化炭素を取り込む。したがって、バイオマスを燃焼させ、二酸化炭素を排出しても、全体としてみれば大気中の二酸化炭素量は増加しない。この性質をカーボンニュートラルといい、地球環境の観点から、好ましい性質である。
【0036】
バイオマスとして単一由来でもよく、混合物でもよく、例えば、玉蜀黍の穂軸と茎葉、草と葉であり、バイオマスはバイオ燃料収穫物に限定されず、農業残さ、都市廃棄物、産業廃棄物、製紙工業の沈積物、牧草地の廃棄物、木材や森林の廃棄物等が挙げられる。
【0037】
(1−7)「炭素安定同位体比(δ13C)」
本発明における「炭素安定同位体比(δ13C)」とは、自然界に存在する炭素原子の3種類の同位体(存在比 12C:13C:14C=98.9:1.11:1.2×10−12 単位;%)のうち、12Cに対する13Cの割合のいい、以下の式で定義される値をいう。
【0038】
【数1】

【0039】
なお、ここで、PDBは、「Pee Dee Belemnite」の略称であり、炭酸カルシウムからなる矢石類の化石を意味し、13C/12C比の標準体として用いられる。また、「炭素安定同位体比(δ13C)」は、加速器質量分析法(AMS法;Accelerator Mass Spectrometry)によって測定される。
【0040】
(1−8)「C3植物およびC4植物」
本発明における「C3植物およびC4植物」とは、植物の光合成機構の違いによる分類を指し、C3型光合成を行う植物群をC3植物、C4型光合成を行う植物群をC4植物という。
【0041】
C3型光合成は、植物体内に取り込まれた二酸化炭素から炭素数3の3−ホスホグリセリン酸を合成することをいい、陸上植物の大部分(約90%)が含まれる。
【0042】
C4型光合成は、植物体内に取り込まれた二酸化炭素から炭素数4のオキザロ酢酸を合成することをいい、トウモロコシ、サトウキビ、シバ等の植物が含まれる。
【0043】
なお、上記C3型光合成、C4型光合成の他に、CAM型光合成という特殊な光合成を行う植物群もある。このCAM型光合成は、夜間に二酸化炭素を植物体内に取り込みリンゴ酸等の形で蓄え、昼間にそれを分解してできる二酸化酸素を利用するもので、サボテン等の多肉植物やパイナップル等が該当する。
【0044】
(1−9)トレーサー/トレーサビリティー
伝播の状態や範囲を追跡調査するための微量添加物質や性質をいう。本発明では吸水性樹脂に特定範囲量の13C、さらに好ましくは14Cを使用するが、市販ないし公知の吸水性樹脂と13C(および14C量)で判別できる範囲においてトレーサビリティーを有している。
【0045】
(1−10)その他
本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、「X以上、Y以下」であることを意味する。また、重量の単位である「t(トン)」は、「Metric ton(メトリック トン)」であることを意味し、さらに、特に注釈のない限り、「ppm」は「重量ppm」または「質量ppm」を意味する。
【0046】
〔2〕ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂の製造方法
(2−1)アクリル酸製造工程
本工程は、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂の原料として用いるアクリル酸、特にバイオマスからアクリル酸を得る工程である。
【0047】
(アクリル酸)
本発明で用いられるアクリル酸は、アクリル酸の炭素安定同位体比(δ13C)が−20‰以上であればよく、その製造方法については特に限定されない。例えば、トウモロコシやサトウキビといったC4植物から合成されるエタノール、イソプロパノール、メタノール等を出発原料として得られるプロピレンからアクリル酸を合成すればよい。さらには、天然油脂、好ましくは植物油脂の鹸化物、特に好ましくは天然油脂のエステル交換反応から得られるグリセリンの脱水・酸化反応によりアクリル酸を得る方法や、β−アラニン、乳酸、グリセリン、グルコース、澱粉、セルロース等の発酵法により得られる、2−ヒドロキシプロピオン酸や3−ヒドロキシプロピオン酸の脱水反応によりアクリル酸を得る方法等が挙げられる。これら以外に、バイオマスから得られるアセチレンを用いる方法、バイオマスから得られる酸化エチレンと二酸化炭素との反応による方法、バイオマスから得られるホルマリンと酢酸との反応による方法等を挙げることができる。
【0048】
さらに、現在、アクリル酸の原料として使用されているプロピレンについて、化石資源である原油のクラッキング法に代わり、バイオマス由来とする製造方法が例示される。具体的には、ブテンとエチレンとのメタセシス反応、プロパノールの脱水反応、グリセリンの脱水還元反応、ブテンの接触分解、バイオガス(合成ガス)のGTL合成反応、バイオガス(合成ガス)からのメタノール合成を経たMTO合成反応、バイオマスプロパンの脱水素反応等が挙げられる。
【0049】
上記各種の製造方法においては、その出発原料として、エチレン、プロパノール、ブテン、グリセリン、バイオガス等が挙げられるが、これら物質のバイオガスからの生成ルートは、以下の通りである。すなわち、バイオマスからエタノールを経てエチレンおよび/またはブテンを得る方法、バイオマスからエタノールを経てブタノールおよび/またはブテンを得る方法、バイオマスからブタノールを経てブテンを得る方法、バイオマスからアセトンを経てi−プロパノールを得る方法、バイオマスからn−プロパノールおよび/またはiso−プロパノールを得る方法、バイオマスからBDFとグリセリンを得る方法、バイオマスから合成ガス(CO、H)を得る方法等が挙げられる。
【0050】
これらバイオマス由来のアクリル酸の製造方法については、例えば、国際公開第2006/08024号、同第2007/119528号、同第2007/132926号、および米国特許出願公開第2007/0129570号等に例示されている。国際公開第2006/08024号はグリセリンからアクロレインを得る際にプロパナールが副生する事実を開示し、かかるプロパナールを含むアクロレインを酸化することで、本発明のアクリル酸を容易に得ることができる。
【0051】
なお、バイオマス由来のアクリル酸を用いた吸水性樹脂の製造方法については、国際公開第2006/092271号、同第2006/092272号、同第2006/136336号、同第2008/023039号、同第2008/023040号、および同第2007/109128号等に例示されている。しかしながら、上記6件の特許文献は、本願発明の吸水性樹脂の製造方法については、なんら開示も示唆もない。
【0052】
(ジヒドロキシアセトン)
本発明において、ジヒドロキシアセトンが吸水性樹脂の初期色調および経時着色に悪影響を与えることが見出された。
【0053】
すなわち、本発明のアクリル酸に、不純物として、好ましくはジヒドロキシアセトンが、0〜500ppm含有(対アクリル酸)していることが好ましい。ジヒドロキシアセトンの含有量の上限は、200ppm、100ppm、50ppm、20ppm、10ppm、5ppm、1ppm、0.1ppmの順で好ましい。なお、高度の精製は、アクリル酸のコストや収率の問題もあり、また、後述の実施例にあるように、所定量の含有は初期着色(特にWB)を改善する場合もあるので、ジヒドロキシアセトンは0.1ppm程度存在してもよい。単量体や使用するアクリル酸でジヒドロキシアセトンが500ppmを超えると、重合前、すなわち重合開始剤添加前の単量体、特に脱気時の単量体に微量の重合物が副生し易く、微量ゲルのための配管閉塞など、工業的な安定生産で好ましくないだけでなく、得られる吸水性樹脂の経時着色(製造後してから使用までの保存時・輸送時の着色)が低下するので好ましくない。
【0054】
本発明では、ジヒドロキシアセトンを低減することにより、その酸化物である非重合性の酢酸も低減できるため、得られる吸水性樹脂の酸臭も低減でき好ましい。
【0055】
従来、物性や生産性のために重合開始温度や濃度を上げたり、重合スケールを大きくしたり、また、着色防止のために重合禁止剤を減らしたりすると、単量体の部分的なゲル化が起っていた。そこで、本発明では、かかる原因物性として、ジヒドロキシアセトンが単量体の安定性を低下させることが見出された。ジヒドロキシアセトンは、アクリル酸に対し0.1〜500ppm程度含有していることが好ましい。
【0056】
すなわち、アクリル酸中のジヒドロキシアセトンの影響に注目し、ジヒドロキシアセトンが重合前の単量体の安定性を低下させ、かつ、吸水性樹脂の経時着色の原因であること、および、C4植物由来のアクリル酸には比較的多く、ジヒドロキシアセトンが含まれる為、得られた吸水性樹脂が着色しやすいことを見出し、本発明を完成した。また、ジヒドロキシアセトンは天然物、特にC4植物からアクリル酸を得る場合、ジヒドロキシアセトンは比較的多く含まれ易いため、本発明の方法が好適に適用される。
【0057】
なお、国際公開第2008/053646号公報に開示の制御方法(特に段落〔0015〕〜〔0039〕および実施例の段落〔0042〕〜〔0054〕)はすべて本願に盛り込まれる。また、前記特許文献17、18は、グリセリン由来のアクリル酸で吸水性樹脂を重合する技術を開示するが、同様に、フェノールやヒドロキシアセトンを所定量含有させて特定工程で吸水性樹脂を製造する技術を開示しないし、フェノールやヒドロキシアセトンの制御において、特定の重合禁止剤(好ましくはp−メトキシフェノール25〜200ppm)やFe(好ましくは0.005〜3ppm/Fe換算)との併用も開示しない。
【0058】
(キレート剤)
本発明の粒子状吸水剤は、例えばさらに色安定性(粒子状吸水剤を、高温高湿条件下で、長期間保存する場合の色安定性)の向上や耐尿性(ゲル劣化防止)の向上を目的とする場合は、好ましくはキレート剤(さらに好ましくは水溶性有機キレート剤)が用いられる。
【0059】
効果の面から好ましくは、キレート剤が水溶性有機キレート剤であり、さらに、好ましくは、窒素原子または燐原子を有する非高分子化合物有機キレート剤が用いられ、より好ましくは、アミノ多価カルボン酸系キレート剤またはアミノ多価燐酸系キレート剤が使用される。重合への影響や得られる物性から、重量平均分子量が5000以下の非高分子系有機化合物が好ましく、より好ましくは分子量100〜1000である。
【0060】
前記の中でも窒素原子または燐原子を有する化合物が好ましく、さらに好ましくはカルボキシル基を分子内に2個さらには3個以上、好ましくは3〜100個、さらには3〜20個、特に3〜10個を有する、アミノ多価カルボン酸(塩)またはリン酸基を有する有機リン酸(塩)化合物が好ましい。有機多価リン酸化合物やアミノ基を有するアミノ多価リン酸化合物が好ましい。
【0061】
2個以上のカルボキシル基を有するアミノ多価カルボン酸(塩)としては、イミノ二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三プロピオン酸、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、ヘキサメチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸およびこれらの塩等のアミノカルボン酸系金属キレート剤が例示される。
【0062】
分子内に3個以上のリン酸基を有する有機多価リン酸化合物またはアミノ多価有機リン酸化合物としては、エチレンジアミン−N,N’−ジ(メチレンホスフィン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスフィン酸)、ポリメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、およびこれらの塩である。
【0063】
(ヒドロキシカルボン酸化合物)
さらには、色安定性効果のために、本願出願時点で未公開の国際出願第2007/JP/67348号(国際出願日2007年8月30日)例示の乳酸(塩)、クエン酸(塩)、リンゴ酸(塩)などヒドロキシカルボン酸、特に非高分子ヒドロキシカルボン酸(塩)などを単量体ないしその重合物に使用してもよい。
【0064】
(還元性無機塩)
さらには、色安定性効果のために、米国特許出願公開第2006/88115号明細書に例示の還元性無機塩を使用してもよい。
【0065】
(その他の不純物)
該アクリル酸中のプロトアネモニン、アリルアクリレート、アリルアルコール、アルデヒド分(特にフルフラール)、マレイン酸、安息香酸の不純物6種類のうち、1以上、2以上、さらには3以上、4以上、5以上、6個が各々0〜20ppm(質量基準、以下同じ)である。好ましくは各々が0〜10ppm、より好ましくは0〜5ppm、さらに好ましくは0〜3ppm、特に好ましくは0〜1ppm、最も好ましくはND(検出限界)である。また、これらプロトアネモニン、アリルアクリレート、アリルアルコール、アルデヒド分、マレイン酸、安息香酸の合計量(対アクリル酸質量)は100ppm以下が好ましく、0〜20ppm、さらには0〜10ppmであることがより好ましい。これら微量成分やプロピオン酸量の好適な制御方法として、下記の非化石原料由来のアクリル酸が使用される。
【0066】
(2−2)重合工程
本工程は、上記(2−1)アクリル酸製造工程で得られたアクリル酸(塩)を主成分として含む水溶液を重合して、含水ゲル状架橋重合体(以下、「含水ゲル」と称する)を得る工程である。
【0067】
(単量体)架橋剤を除く
本発明で得られる吸水性樹脂は、その原料(単量体)として、アクリル酸(塩)を主成分として含む水溶液を使用し、通常、水溶液状態で重合される。該単量体水溶液中の単量体濃度は、通常10〜90重量%であり、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%、さらに好ましくは40〜60重量%である。
【0068】
また、該水溶液の重合により得られる含水ゲルは、吸水性能の観点から、重合体の酸基の少なくとも一部が中和されていることが好ましい。上記中和は、アクリル酸の重合前、重合中または重合後に行うことができるが、吸水性樹脂の生産性、AAP(加圧下吸水倍率)やSFC(生理食塩水流れ誘導性)の向上等の観点から、アクリル酸の重合前に中和を行うことが好ましい。つまり、中和されたアクリル酸(すなわち、アクリル酸の部分中和塩)を単量体として使用することが好ましい。
【0069】
上記中和の中和率は、特に制限されないが、酸基に対して10〜100モル%が好ましく、30〜95モル%がより好ましく、50〜90モル%がさらに好ましく、60〜80モル%が特に好ましい。中和率が10モル%未満の場合、特に、CRC(無加圧下吸水倍率)が著しく低下することがあり好ましくない。
【0070】
また、本発明においてアクリル酸(塩)を主成分として使用する場合、アクリル酸(塩)以外の親水性または疎水性の不飽和単量体(以下、「他の単量体」と称することもある)を使用することもできる。このような他の単量体としては、特に限定されないが、メタクリル酸、(無水)マレイン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリロキシアルカンスルホン酸、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルアセトアミド、(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアリルアクリレートやそれらの塩等が挙げられる。これら他の単量体を使用する場合、その使用量は、得られる吸水性樹脂の吸水特性を損なわない程度であれば、特に限定されないが、全単量体の重量に対して、50重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。
【0071】
(中和の塩)
上記単量体としてのアクリル酸または重合後の重合体(含水ゲル)の中和に用いられる塩基性物質としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物や炭酸(水素)ナトリウム、炭酸(水素)カリウム等の炭酸(水素)塩等の一価の塩基性物質が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。また、中和時の温度(中和温度)についても、特に制限されず、10〜100℃が好ましく、30〜90℃がより好ましい。なお、上記以外の中和処理条件等については、国際公開第2006/522181号に開示されている条件等が、本発明に好ましく適用される。
【0072】
(内部架橋剤)
本発明においては、得られる吸水性樹脂の吸水性能の観点から、架橋剤(以下、「内部架橋剤」と称することもある)を使用することが特に好ましい。使用できる内部架橋剤としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸との重合性架橋剤や、カルボキシル基との反応性架橋剤、それらを併せ持った架橋剤等を例示することができる。具体的には、重合性架橋剤として、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリオキシエチレン)トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アリロキシアルカン等、分子内に重合性二重結合を少なくとも2個有する化合物が例示できる。また、反応性架橋剤として、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル;プロパンジオール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール等の共有結合性架橋剤、アルミニウム塩等の多価金属化合物であるイオン結合性架橋剤が例示できる。これらの中でも、吸水性能の観点から、アクリル酸との重合性架橋剤が好ましく、特に、アクリレート系、アリル系、アクリルアミド系の重合性架橋剤が好適に使用される。これらの内部架橋剤は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記内部架橋剤の使用量は、物性面から、架橋剤を除く上記単量体に対して、0.001〜5モル%が好ましく、0.005〜2モル%がより好ましく、0.01〜1モル%がさらに好ましく、0.03〜0.5モル%が特に好ましい。
【0073】
したがって、特許文献5に例示される未架橋物(内部架橋剤を未使用)では高物性の吸水性樹脂が得ることができず、よって本発明では含水ゲル状架橋重合体が必須に使用される。
【0074】
(単量体水溶液中のその他の成分)
本発明で得られる吸水性樹脂の諸物性を改善するために、任意成分として、上記単量体水溶液に、以下の物質を添加することができる。すなわち、澱粉、ポリアクリル酸(塩)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン等の水溶性樹脂あるいは吸水性樹脂を、単量体に対して、例えば0〜50重量%、好ましくは0〜20重量%、より好ましくは0〜10重量%、さらに好ましくは0〜3重量%添加することができる。さらに、各種の発泡剤(炭酸塩、アゾ化合物、気泡等)、界面活性剤、各種キレート剤、ヒドロキシカルボン酸や還元性無機塩等の添加剤を、単量体に対して、例えば0〜5重量%、好ましくは0〜1重量%添加することができる。
【0075】
これらの中でも、吸水性樹脂の経時着色の抑制や耐尿性(ゲル劣化防止)の向上を目的とする場合には、キレート剤、ヒドロキシカルボン酸、還元性無機塩が好ましく使用され、キレート剤が特に好ましく使用される。この場合の使用量は、吸水性樹脂に対して、10〜5000ppmが好ましく、10〜1000ppmがより好ましく、50〜1000ppmがさらに好ましく、100〜1000ppmが特に好ましい。なお、上記キレート剤、ヒドロキシカルボン酸、還元性無機塩については、国際公開第2009/005114号、欧州特許第2057228号、同第1848758号に開示される化合物が使用される。
【0076】
(重合開始剤)
本発明において使用される重合開始剤は、重合形態によって適宜選択され、特に限定されない。例えば、熱分解型重合開始剤、光分解型重合開始剤、レドックス系重合開始剤等が挙げられる。具体的には、熱分解型重合開始剤としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素、t−ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物;2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド等のアゾ化合物等が挙げられる。また、光分解型重合開始剤としては、ベンゾイン誘導体、ベンジル誘導体、アセトフェノン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、アゾ化合物等が挙げられる。さらに、レドックス系重合開始剤としては、上記過硫酸塩や過酸化物に、L−アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム等の還元性化合物を組み合わせた系が挙げられる。上記熱分解型重合開始剤と光分解型重合開始剤とを併用することも、好ましい態様として挙げることができる。これらの重合開始剤の使用量は、上記単量体に対して、0.0001〜1モル%が好ましく、0.001〜0.5モル%がより好ましい。重合開始剤の使用量が1モル%を超える場合、吸水性樹脂の着色を引き起こすことがあるため好ましくない。また、重合開始剤の使用量が0.0001モル%を下回る場合、残存モノマーを増加させるおそれがあるため好ましくない。
【0077】
なお、上記重合開始剤を使用する代わりに、放射線、電子線、紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより重合を行ってもよく、これらの活性エネルギー線と重合開始剤とを併用して重合してもよい。
【0078】
(重合方法)
本発明においては、上記単量体水溶液を重合するに際して、得られる吸水性樹脂の吸水性能や重合制御の容易性等の観点から、通常、水溶液重合または逆相懸濁重合が採用されるが、好ましくは水溶液重合、より好ましくは連続水溶液重合が採用される。中でも、吸水性樹脂の1ラインあたりの生産量が多い巨大スケールでの製造に好ましく適用される。該生産量として、好ましくは0.5[t/hr]以上であり、より好ましくは1[t/hr]以上、さらに好ましくは5[t/hr]以上、特に好ましくは10[t/hr]以上である。また、上記水溶液重合の好ましい形態として、連続ベルト重合(米国特許第4893999号、同第6241928号、米国特許出願公開第2005/215734号等に開示)、連続ニーダー重合、バッチニーダー重合(米国特許第6987151号、同第6710141号等に開示)等が挙げられ、これらの中でも、連続ベルト重合が特に好ましい。
【0079】
上記連続水溶液重合においては、重合開始温度を好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上、さらに好ましくは40℃以上、特に好ましくは50℃以上(上限は沸点)とする高温開始重合、あるいは、単量体濃度を好ましくは35重量%以上、より好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは45重量%以上(上限は飽和濃度)とする高単量体濃度重合が、最も好ましい一例として例示できる。なお、上記重合開始温度は、単量体水溶液の重合機供給直前の液温で規定されるが、米国特許第6906159号および同第7091253号等に開示された条件等を、本発明に好ましく適用することができる。
【0080】
さらに本発明においては、得られる吸水性樹脂の物性と乾燥効率の向上という観点から、重合時に水分を蒸発させることが好ましい。すなわち、本発明の重合において、より高固形分の含水ゲルを得ればよく、固形分上昇度(「重合後の含水ゲルの固形分」−「重合前の単量体濃度」)が、1重量%以上が好ましく、2〜40重量%がより好ましく、3〜30重量%がさらに好ましい。ただし、得られる含水ゲルの固形分が80重量%以下であることが好ましい。
【0081】
また、これらの重合は、空気雰囲気下でも実施可能であるが、着色防止の観点から窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気(例えば、酸素濃度1容積%以下)下で実施することが好ましい。また、単量体または単量体を含む溶液中の溶存酸素を不活性ガスで置換(例えば、溶存酸素濃度;1mg/L未満)した後に、重合することが好ましい。また、減圧、常圧、加圧のいずれの圧力下でも実施することができる。
【0082】
(2−3)ゲル解砕工程
本工程は、上記重合工程で得られた含水ゲルを解砕し、粒子状の含水ゲル(以下、「粒子状含水ゲル」と称する)を得る工程である。
【0083】
上記重合工程で得られた含水ゲルは、そのまま乾燥を行ってもよいが、課題を解決するために、好ましくは重合時または重合後、必要により解砕機(ニーダー、ミートチョパー、カッターミル等)を用いてゲル解砕され粒子状にされる。すなわち、連続ベルト重合または連続ニーダー重合による重合工程と乾燥工程との間に、含水ゲルの細粒化(以下、「ゲル解砕」とも称する)工程をさらに含んでもよい。なお、逆相懸濁重合等、重合時に溶媒中での分散よってゲルが細粒化されている場合も、本発明の細粒化(重合工程の細粒化)に含むものとするが、好適には解砕機を用いて解砕される。
【0084】
ゲル解砕時の含水ゲルの温度は、物性の面から、40〜95℃に保温あるいは加熱されるのが好ましく、50〜80℃がより好ましい。また、ゲル解砕時または解砕後の粒子状含水ゲルの樹脂固形分は、特に限定されるものではないが、物性の面から、55〜80重量%が好ましい。なお、ゲル解砕工程においては、解砕効率向上を目的に、必要に応じて、水、多価アルコール、水と多価アルコールとの混合液、多価金属水溶液、あるいはこれらの蒸気等を添加してもよい。また、本願発明を好ましく適用できる高固形分濃度(例えば、上述した55〜80重量%)の含水ゲルを解砕する場合には、解砕装置内を通風、好ましくは乾燥空気を通気してもよい。
【0085】
ゲル解砕後の粒子状含水ゲルの重量平均粒子径(D50)は、落下飛散率を低く制御する観点から、0.2〜4mmが好ましく、0.3〜3mmがより好ましく、0.5〜2mmがさらに好ましい。上記粒子状含水ゲルの重量平均粒子径(D50)が、上記範囲内となることで、乾燥が効率的に行われるため好ましい。また、5mm以上の粒径を有する粒子状含水ゲルの割合は、粒子状含水ゲル全体の0〜10重量%が好ましく、0〜5重量%がより好ましい。
【0086】
なお、上記粒子状含水ゲルの粒子径は、粉砕工程後の吸水性樹脂の粒子径と同様に、特定の目開きの篩で分級することによって求められる。また、重量平均粒子径(D50)についても、同様に求めることができる。ただし、上記粒子状含水ゲルの分級操作が、乾式の分級方法では凝集等により測定が困難である場合は、特開2000−63527号公報の段落〔0091〕に記載の、湿式の分級方法を用いて測定する。
【0087】
(2−4)乾燥工程
上記重合工程で得られた含水ゲル状架橋重合体、またはゲル細粒化工程で得られた解砕ゲルを、所望する樹脂固形分量まで乾燥することができれば、その方法について特に制限されないが、例えば、加熱乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥、流動床乾燥、赤外線乾燥、マイクロ波乾燥、ドラムドライヤー乾燥、疎水性有機溶媒との共沸による脱水乾燥、高温の水蒸気を用いた高湿乾燥等、種々の乾燥方法を採用することができる。
【0088】
これらの中でも、熱風乾燥が好ましく、露点温度が40〜100℃の気体による熱風乾燥がより好ましく、露点温度が50〜90℃の気体による熱風乾燥がさらに好ましい。熱風乾燥を用いる場合、その風速(水平に広がる乾燥対象物に対して垂直に通過する気流の速度)は、0.01〜10[m/s]が好ましく、0.1〜5[m/s]がより好ましい。
【0089】
本発明において、適用される乾燥温度としては、特に制限されないが、50〜300℃(100℃以下の場合は減圧下で行うことが好ましい)が好ましく、100〜250℃がより好ましく、150〜200℃がさらに好ましい。また、乾燥時間としては、10〜120分が好ましく、20〜90分がより好ましく、30〜60分がさらに好ましい。上記乾燥時間が10分未満の場合、吸水性樹脂内部のポリマー鎖に起こる変化が小さく、十分な改善効果が得られないと考えられるため、諸物性の向上効果が見られない場合がある。一方、上記乾燥時間が120分以上の場合では、吸水性樹脂にダメージを与えてしまい、水可溶分の上昇が生じ、諸物性の向上効果が見られない場合がある。
【0090】
さらに、得られる粒子状吸水剤の物性と白色度を両立させるため、乾燥温度が165〜230℃の範囲内で、乾燥時間が50分以内であることが好ましく、20〜40分が特に好ましい。乾燥温度や乾燥時間がこの範囲を外れると、粒子状吸水剤のCRC(無加圧下吸水倍率)の低下や水可溶分の増加、白色度の低下を引き起こす恐れがある。
【0091】
また、含水ゲル状架橋重合体または解砕ゲルの乾燥減量(吸水性樹脂1gを180℃で3時間加熱した際の重量変化)から求められる樹脂固形分は、80重量%以上が好ましく、85〜99重量%がより好ましく、90〜98重量%がさらに好ましく、92〜97重量%が特に好ましい。該乾燥工程において、乾燥重量が前記範囲内に調整された乾燥重合体が得られる。
【0092】
さらに、得られる粒子状吸水剤の残存モノマー低減や、ゲル劣化(耐尿性)の防止、黄変の防止を図るため、重合終了後から乾燥を開始するまでの時間を短時間とすることが好ましい。すなわち、上記ゲル細粒化工程の有無に関わらず、重合終了時点から乾燥開始までの時間を1時間以内とすることが好ましく、0.5時間以内とすることがより好ましく、0.1時間以内とすることがさらに好ましい。また、この期間中、含水ゲル状架橋重合体または解砕ゲルの温度は、50〜80℃に制御されるのが好ましく、60〜70℃がさらに好ましい。この温度範囲に制御することで、残存モノマーの低減や低着色を達成することができる。
【0093】
(2−5)粉砕工程、分級工程
本工程は、上記乾燥工程で得られた乾燥物を、粉砕・分級して、吸水性樹脂を得る工程である。
【0094】
本工程においては、上記乾燥工程で得られた乾燥物をそのまま乾燥粉末として使用することもできるが、後述する表面架橋工程での物性向上のため、特定の粒度に制御することが好ましい。なお、粒度制御は、本粉砕工程、分級工程に限らず、重合工程(特に逆相懸濁重合)、微粉回収工程、造粒工程等で適宜実施することができる。以下、粒度は標準篩(JIS Z8801−1(2000))で規定する。
【0095】
本粉砕工程で使用できる粉砕機は、特に限定されず、従来から知られている粉砕機を使用することができる。具体的には、ロールミル、ハンマーミル、ロールグラニュレーター、ジョークラッシャー、ジャイレクトリークラッシャー、コーンクラッシャー、ロールクラッシャー、カッターミル等を挙げることができる。これらの中でも、粒度制御の観点から、多段のロールミルまたはロールグラニュレーターを使用することが好ましい。
【0096】
また、分級工程においては、ふるい分級や気流分級等、各種の分級機を使用することができる。
【0097】
本工程で得られる吸水性樹脂の物性向上の観点から、以下の粒度となるように制御することが好ましい。すなわち、表面架橋前の吸水性樹脂の重量平均粒子径(D50)は、200〜600μmが好ましく、200〜550μmがより好ましく、250〜500μmがさらに好ましく、350〜450μmが特に好ましい。また、目開き150μmの篩(JIS標準篩)を通過する微細な粒子の割合が、吸水性樹脂全体に対して、0〜5重量%が好ましく、0〜3重量%がより好ましく、0〜1重量%がさらに好ましい。また、目開き850μmの篩(JIS標準篩)を通過しない巨大な粒子の割合が、吸水性樹脂全体に対して、0〜5重量%が好ましく、0〜3重量%がより好ましく、0〜1重量%がさらに好ましい。さらに、吸水性樹脂の粒度分布の対数標準偏差(σζ)は、0.20〜0.40が好ましく、0.25〜0.37がより好ましく、0.25〜0.35がさらに好ましい。これらの粒度は、国際公開第2004/69915号やEDANA−ERT420.2.−02(Particle Size Disribution)に開示された方法で測定される。
【0098】
一般的に粒度分布を狭くする、すなわち、粒度の上下限を近づけるように制御すると、吸水性樹脂の着色が色調測定上目立つが、本発明では、このような色調の問題が発生せず、好ましい。したがって、本発明で得られる吸水性樹脂の粒度分布は、150〜850μmの粒子径を有する割合が95重量%以上であり、好ましくは98重量%以上(上限が100重量%)である。
【0099】
(2−6)表面架橋工程
本工程は、上記粉砕工程、分級工程で得られた吸水性樹脂の表面近傍を、吸水性能向上のために、表面架橋剤を用いて架橋(表面架橋反応)する工程である。本表面架橋処理によって、着色の少ない白色度の高い吸水性樹脂が得られ、特に高温表面架橋での吸水性樹脂に好ましく適用される。さらに、本発明で得られる吸水性樹脂を衛生用品(特に紙オムツ)の原材料として使用する場合、本表面架橋処理によって、AAP(加圧下吸水倍率)を、好ましくは20[g/g]以上に高めればよい。
【0100】
本発明で用いることができる表面架橋剤としては、特に限定されないが、種々の有機または無機架橋剤を挙げることができる。中でも有機表面架橋剤が好ましく、有機表面架橋剤とイオン架橋剤との併用がより好ましい。具体的には、多価アルコール化合物、エポキシ化合物、多価アミン化合物またはそのハロエポキシ化合物との縮合物、オキサゾリン化合物、(モノ、ジ、またはポリ)オキサゾリジノン化合物、アルキレンカーボネート化合物であり、特に高温での反応が必要な、多価アルコール化合物、アルキレンカーボネート化合物、オキサゾリジノン化合物からなる脱水エステル反応性架橋剤が使用できる。さらにより具体的には、米国特許第6228930号、同第6071976号、同第6254990号等に例示されている化合物を挙げることが出来る。例えば、モノ,ジ,トリ,テトラまたはプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、グリセリン、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ソルビトール等多価アルコール化合物;エチレングリコールジグリシジルエーテルやグリシドール等のエポキシ化合物;エチレンカボネート等のアルキレンカーボネート化合物;オキセタン化合物;2−イミダゾリジノンのような環状尿素化合物等が挙げられる。上記表面架橋剤の使用量は、吸水性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.001〜10重量部、より好ましくは0.01〜5重量部の範囲内で適宜決定される。
【0101】
また、吸水性樹脂と表面架橋剤との混合の際、溶媒として水を用いることが好ましい。上記水の使用量は、吸水性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部の範囲内で適宜決定される。さらに、上記水以外に、必要に応じて、親水性有機溶媒を併用してもよく、その使用量は、吸水性樹脂100重量部に対して、好ましくは0〜10重量部、より好ましくは0〜5重量部の範囲内で適宜決定される。さらに、表面架橋剤溶液の混合に際し、水不溶性の微粒子粉体や界面活性剤を本発明の効果を妨げない程度に共存させてもよい。該微粒子粉体や界面活性剤の種類や使用量等については、米国特許第7473739号等に例示されているが、該使用量としては、吸水性樹脂100重量部に対して、好ましくは0〜10重量部、より好ましくは0〜5重量部、さらに好ましくは0〜1重量部の範囲内で適宜決定される。
【0102】
本工程において、吸水性樹脂と表面架橋剤とを混合した後、好ましくは加熱処理され、その後必要により冷却処理される。上記加熱処理時の加熱温度は、70〜300℃が好ましく、120〜250℃がより好ましく、150〜250℃がさらに好ましい。上記処理温度が70℃未満の場合、加熱処理時間が延び生産性の低下を招来する上に、均一な表面架橋層を形成することができないため好ましくない。また、上記処理温度が300℃を超える場合、吸水性樹脂が劣化するため好ましくない。また、上記加熱処理時の加熱時間は、1分〜2時間の範囲が好ましい。上記加熱処理は、通常の乾燥機または加熱炉で行うことができる。
【0103】
なお、欧州特許第0349240号、同第0605150号、同第0450923号、同第0812873号、同第0450924号、同第0668080号、日本国特開平7−242709号、同平7−224304号、米国特許第5409771号、同第5597873号、同第5385983号、同第5610220号、同第5633316号、同第5674633号、同第5462972号、国際公開第99/42494号、同第99/43720号、同第99/42496号等に開示された表面架橋方法についても、本発明に好ましく適用することができる。
【0104】
(2−7)微粉リサイクル工程
本工程は、乾燥工程および必要により粉砕工程、分級工程で発生する微粉(特に粒子径150μm以下の粉体を70重量%以上含む微粉)を分離した後、そのままの状態で、あるいは水和して重合工程や乾燥工程にリサイクルする工程をいい、米国特許出願公開第2006/247351号や米国特許第6228930号に記載された方法を適用することができる。微粉をリサイクルすることで、吸水性樹脂の粒度を制御することができるとともに、微粉の添加によって、高固形分濃度を容易に達成することができ、さらに、乾燥機の通気ベルトから、乾燥後の吸水性樹脂を容易に剥離することができるので好ましい。
【0105】
(2−8)その他の工程
上記工程以外に、必要により、多価金属の表面処理工程、蒸発モノマーのリサイクル工程、造粒工程、微粉除去工程等を設けてもよい。さらに、経時色調の安定性効果やゲル劣化防止等のために、上記各工程のいずれかまたは全部に、上記添加剤を必要により使用してもよい。
【0106】
上記多価金属塩の表面処理工程は、高い加圧下通液性(SFCやGBP)を求める場合に適用され、例えば、米国特許第6605673号、同第6620899号に記載された製法が必要に応じて適用される。
【0107】
〔3〕ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂
本発明の吸水性樹脂は、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂を主成分とし、衛生用品、特に紙オムツへの使用を目的とする場合、上述した重合方法や表面架橋方法等によって得られる。さらに得られる吸水性樹脂は、下記(2−1)〜(2−7)に挙げられた各物性のうち、少なくとも1以上の物性を制御することが好ましく、さらにはAAPを含めた2以上、特に3以上の物性を制御することが好ましい。吸水性樹脂が下記の各物性を満たさない場合、吸水性樹脂濃度が40重量%以上の高濃度オムツでは十分な性能を発揮しないおそれがある。
【0108】
(3−1)初期色調
本発明で得られる吸水性樹脂は、紙オムツ等の衛生用品の原材料として使用するため、白色粉末であることが好ましい。したがって、分光式色差計によるハンターLab表色系測定において、初期色調として、L値(Lightness/明度)が、85以上が好ましく、87以上がより好ましく、89以上がさらに好ましい。また、a値は、−2〜2が好ましく、−1〜1がより好ましく、−0.5〜1がさらに好ましく、0〜1が特に好ましい。さらに、b値は、−5〜10が好ましく、−5〜5がより好ましく、−4〜4がさらに好ましい。なお、上記L値の上限は100であるが、85以上を示せば、衛生用品等において色調による問題が発生しない。また、YI(Yellow Index)値は、10以下が好ましく、8以下が好ましく、6以下がより好ましい。さらに、WB(White Balance)値は、70以上が好ましく、75以上がより好ましく、77以上がさらに好ましい。
【0109】
上記初期色調とは、製造後の粒子状吸水剤の色調を指し、一般的には工場出荷前に測定される色調をいうが、30℃以下、相対湿度50%RHの雰囲気下での保存であれば、製造後1年以内に測定される色調でもよい。
【0110】
(3−2)経時色調
本発明にかかる吸水性樹脂は、上述した通り、紙オムツ等の衛生用品の原材料として使用するため、高温多湿条件下での長期貯蔵状態においても、清浄な白色状態を維持することが好ましい。したがって、分光式色差計によるハンターLab表色系測定において、経時色調として、L値(Lightness/明度)が少なくとも80を示すことが好ましく、81以上がより好ましく、82以上がさらに好ましく、83以上が特に好ましい。また、a値は、−3〜3が好ましく、−2〜2がより好ましく、−1〜1がさらに好ましい。さらに、b値は、0〜15が好ましく、0〜12がより好ましく、0〜10がさらに好ましい。なお、上記L値の上限は100であるが、80以上を示せば、高温多湿条件下での長期保存状態において実質問題が発生しない。
【0111】
上記経時色調とは、吸水性樹脂を温度70±1℃、相対湿度65±1%RHの雰囲気下、7日間曝露させた後に測定される色調をいう。
【0112】
(3−3)CRC(無加圧下吸水倍率)
本発明で得られる吸水性樹脂のCRC(無加圧下吸水倍率)は、10[g/g]以上が好ましく、20[g/g]以上がより好ましく、25[g/g]以上がさらに好ましく、30[g/g]以上が特に好ましい。CRCの上限値は、特に限定されないが、50[g/g]以下が好ましく、45[g/g]以下がより好ましく、40[g/g]以下がさらに好ましい。上記CRCが10[g/g]未満の場合、吸水性樹脂の吸水量が低く、紙オムツ等、衛生用品中の吸収体への使用に適さないおそれがある。また、上記CRCが50[g/g]を超える場合、かような吸水性樹脂を吸収体に使用すると、液の取り込み速度に優れる衛生用品を得ることができないおそれがあるため、好ましくない。なお、CRCは、上述した内部架橋剤や表面架橋剤等で適宜制御することができる。
【0113】
(3−4)AAP(加圧下吸水倍率)
本発明で得られる吸水性樹脂のAAP(加圧下吸水倍率)は、紙オムツでのモレを防止するため、上記乾燥を達成手段として、1.9kPa、さらに好ましくは4.8kPaの加圧下において、20[g/g]以上が好ましく、22[g/g]以上がより好ましく、24[g/g]以上がさらに好ましい。AAPの上限値は、特に限定されないが、他の物性とのバランスから40[g/g]以下が好ましい。上記AAPが20[g/g]未満の場合、かような吸水性樹脂を吸収体に使用すると、吸収体に圧力が加わった際の液の戻り(通常、「リウェット(Re−Wet)」とも称される)が少ない衛生用品を得ることができないおそれがあるため、好ましくない。なお、AAPは、上述した表面架橋剤や粒度等で適宜制御することができる。
【0114】
(3−5)SFC(食塩水流れ誘導性)
本発明で得られる吸水性樹脂のSFC(食塩水流れ誘導性)は、紙オムツでのモレを防止するため、上記乾燥を達成手段として、加圧下において、1[×10−7・cm・s・g−1]以上が好ましく、10[×10−7・cm・s・g−1]以上がより好ましく、50[×10−7・cm・s・g−1]以上がさらに好ましく、70[×10−7・cm・s・g−1]以上が特に好ましく、100[×10−7・cm・s・g−1]以上が最も好ましい。SFCの上限値は、特に限定されないが、3000[×10−7・cm・s・g−1]以下が好ましく、2000[×10−7・cm・s・g−1]以下がより好ましい。上記SFCが3000[×10−7・cm・s・g−1]を超える場合、かような吸水性樹脂を吸水体に使用すると、吸水体で液漏れが発生するおそれがあるため、好ましくない。なお、SFCは、上述した乾燥方法等で適宜制御することができる。
【0115】
(3−6)Ext(水可溶分)
本発明で得られる吸水性樹脂のExt(水可溶分)は、35重量%以下が好ましく、25重量%以下がより好ましく、15重量%以下がさらに好ましく、10重量%以下が特に好ましい。上記Extが35重量%を超える場合、得られる吸水性樹脂のゲル強度が弱く、液透過性に劣ったものとなるおそれがある。また、かような吸水性樹脂を吸水体に使用すると、吸水体に圧力が加わった際の液の戻り(リウェット)が少ない吸水性樹脂を得ることができないおそれがあるため、好ましくない。なお、Extは、上述した内部架橋剤等で適宜制御することができる。
【0116】
(3−7)Residual Monomers(残存モノマー)
本発明で得られる吸水性樹脂のResidual Monomers(残存モノマー)は、安全性の観点から、好ましくは0〜400ppm、より好ましくは0〜300ppm、さらに好ましくは0〜200ppmに制御される。なお、Residual Monomersは、上述した重合方法等で適宜制御することができる。
【0117】
〔4〕ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂の用途
本発明にかかる製造方法により得られる吸水性樹脂の用途は、特に限定されず、紙オムツ、生理用ナプキン、失禁パット等の衛生用品、農園芸用保水剤、廃液固化剤や、工業用止水材等、吸収性物品に使用することができる
本発明で得られる吸水性樹脂は、吸水性樹脂を高濃度に使用する吸収性物品で、特に優れた性能が発揮される。すなわち、該吸収性物品中の吸収体における吸水性樹脂の含有量(コア濃度)は、30〜100重量%が好ましく、40〜100重量%がより好ましく、50〜100重量%がさらに好ましく、60〜100重量%がさらにより好ましく、70〜100重量%が特に好ましく、75〜95重量%が最も好ましい。該コア濃度を上記範囲内とすることで、本発明の効果をより発揮することができるため、好ましい。特に、本発明で得られる吸水性樹脂を上記コア濃度の範囲内で吸収体上層部分に使用する場合、高通液性(加圧下通液性)のため、尿等の吸収液の拡散性に優れ、効率的な液分配によって、紙オムツ等、吸収性物品全体の吸収量が向上するため、好ましい。さらに、衛生感のある白色状態が保たれた吸収性物品を提供することができるため、好ましい。
【0118】
また、上記吸収体は、密度が0.06〜0.50[g/cm]であり、坪量が0.01〜0.20[g/cm]に圧縮成形されているのが好ましい。さらに、上記吸収体の厚みは、好ましくは30mm以下、より好ましくは20mm以下、さらに好ましくは10mm以下の薄型化の紙オムツにとって好適な吸収性物品を提供することができる。
【0119】
〔5〕吸水性樹脂の同定方法/追跡方法
本発明において、製造後のポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂の同定方法として、該吸水性樹脂中の13C量を定量してもよい。同定するには、紙オムツ等に組み込まれたり、土中に埋められた流通中の吸水性樹脂について、吸水性樹脂を取り出し、さらに13C量を定量すればよい。吸水性樹脂の同定ないし追跡の制度を高めるために、吸水性樹脂の物性が測定されたり、微量成分が定量されたりすればよい。
【0120】
分析される物性としては、吸水倍率、加圧下吸水倍率、粒度分布、可溶成分、粒度、通液性などであり、分析される微量成分としては残存モノマー、残存飽和有機酸(特にプロピオン酸)、残存架橋剤などであり、過去の標準サンプルと比較することで、吸水性樹脂の同定/あるいは追跡すればよい。
【0121】
[実施例]
以下、実施例に従い本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、便宜上、「リットル」を「L」、「重量%」を「wt%」と記すことがある。なお、本発明の吸水性樹脂の諸物性は、特に記載がない限り、室温(20〜25℃)、湿度50RH%の条件下で測定した。
【0122】
[測定例1]CRC(無加圧下吸水倍率)
吸水性樹脂0.2g(重量W0[g]とする)を秤量し、不織布製の袋(60×60mm)に均一に入れヒートシールした後、25±3℃に調温した0.9wt%塩化ナトリウム水溶液500mL中に浸漬した。60分経過後、袋を引き上げ、遠心分離機(株式会社コクサン社製遠心機、形式;H−122)を用いて、250G、3分間の条件で水切りを行った。その後、袋の重量W1[g]を測定した。
【0123】
また、同様の操作を、吸水性樹脂を入れずに行い、そのときの袋の重量W2[g]を測定した。得られたW0[g]、W1[g]、W2[g]から次式にしたがって、CRC(無加圧下吸水倍率)を算出した。
【0124】
【数2】

【0125】
[測定例2]AAP(加圧下吸水倍率)
図1に示す測定装置を用いて、本発明の吸水性樹脂のAAP(加圧下吸水倍率)を測定した。なお、ERT442.2−02に規定する測定方法にしたがってAAPを測定したが、荷重のみ、4.83kPaに変更した。以下、図1を参照しながら測定方法について説明する。
【0126】
ステンレス製400メッシュの金網101(目開き38μm)を融着させたプラスチックの支持円筒(内径60mm)を用意した。20〜25℃(室温)、相対湿度50RH%の雰囲気下で、上記金網101上に0.900gの吸水性樹脂102を均一に載せた。次いで、該吸水性樹脂102の上に、ピストン103、荷重(おもり)104をこの順序に載せ、測定装置一式の重量Wa[g]を測定した。なお、ピストン103と荷重(おもり)104は、支持円筒100との隙間がなく、かつ、上下の動きが妨げられないように、外径が60mmよりわずかに小さいものであった。さらに、吸水性樹脂に対して、均一に荷重を加えることができるものであった。
【0127】
次に、ペトリ皿105(直径150mm)に、ガラスフィルター106(直径90mm)(株式会社相互理化学硝子製作所製;細孔直径100〜120μm)を置き、20〜25℃に調温した0.9wt%塩化ナトリウム水溶液をガラスフィルター106の上面と同じ高さとなるまで注いだ。次いで、濾紙107(直径90mm)(ADVANTEC東洋株式会社製、品名:JIS P 3801、No.2、厚さ0.26mm、保留粒子径5μm)1枚をガラスフィルター106上に載せ、濾紙107全体が濡れるようにし、かつ、過剰の0.9wt%塩化ナトリウム水溶液108を取り除いた。その後、上記測定装置一式を、上記濾紙107上に載せ、0.9wt%塩化ナトリウム水溶液108を吸水性樹脂102に吸収させた。
【0128】
1時間経過後、測定装置一式を持ち上げ、その重量Wb[g]を測定した。得られたWa[g]、Wb[g]から次式にしたがって、AAP(加圧下吸水倍率)を算出した。
【0129】
【数3】

【0130】
[測定例3]SFC(生理食塩水流れ誘導性)
図2に示す測定装置を用いて、本発明の吸水性樹脂のSFC(生理食塩水流れ誘導性)を測定した。SFC(生理食塩水流れ誘導性)は、膨潤した吸水性樹脂の液透過性を示す値であり、値が大きいほど高い液透過性を有することを示している。なお、SFCの測定は、米国特許第5849405号明細書に開示された方法にしたがって行った。
【0131】
まず、図2に示すSFC測定装置について、説明する。
【0132】
本発明で使用するSFC測定装置は、0.69wt%塩化ナトリウム水溶液(以下、「生理食塩水」と称する)の貯蔵タンク31およびその付帯設備、荷重下で膨潤ゲル44に生理食塩水を通液させる通液装置40、膨潤ゲルを通過した生理食塩水の重量を測定する測定部から構成されている。
【0133】
上記貯蔵タンク31には、一定静水圧で生理食塩水33を通液装置40に移送するために、末端が開いたガラス管32が設置されている。該ガラス管32は、シリンダー41中の生理食塩水の液面が、膨潤ゲル44の底部から5cm上の高さとなるように、ゴム栓(蓋)を通して生理食塩水33中に挿入されている。
【0134】
また、貯蔵タンク31には、通液装置40に生理食塩水33を移送するための、コック付きL字管34を備えている。該コック付L字管34は、貯蔵タンク31中の生理食塩水33の液面より下に配置されており、コック35により生理食塩水の流量を制御することができる。
【0135】
上記通液装置40は、シリンダー41(内径6cm)、およびピストン46とから構成されており、シリンダー41の底部にはステンレス製金網42(目開き38μm)が、ピストン46の底部にはガラスフィルター45がそれぞれ取り付けられ、吸水性樹脂または膨潤ゲル44が移動できないようにされている。また、ピストン46の下部には、生理食塩水が通過するために十分な穴47が開けられている。さらに該通液装置40は、ステンレス製金網43で構成される台の上に置かれている。
【0136】
上記測定部は、通過した生理食塩水を捕集する容器48と、捕集した生理食塩水の重量を測定する上皿天秤49とから構成されている。
【0137】
次に、SFCの測定方法について説明する。
【0138】
シリンダー41中に吸水性樹脂0.900gを均一に入れ、2.07kPaの荷重となるようにおもりを載せたピストン46を設置した、通液装置40を用意した。該通液装置40中の吸水性樹脂を人工尿で60分間膨潤させた後、膨潤ゲル44のゲル層高さを測定した。なお、上記膨潤方法は、AAP(加圧下吸水倍率)測定方法に準拠して行った。また、上記人工尿は、塩化カルシウム2水和物0.25g、塩化カリウム2.0g、塩化マグネシウム6水和物0.50g、硫酸ナトリウム2.0g、りん酸2水素アンモニウム0.85g、およびりん酸水素2アンモニウム0.15gを純水に加え、全体の重量を1000.00gとしたものを用いた。
【0139】
上記人工尿で膨潤した後の通液装置40を図2のように設置し、2.07kPaの荷重下で生理食塩水33を、一定の静水圧で貯蔵タンク31からコック付L字管34を経て膨潤ゲル44に通液させた。コック35を開けた時点を起点として、20秒間隔でゲル層を通過する生理食塩水の重量を10分間記録した。20秒ごとの増加液量[g]を経過時間[s](20秒)で除した値を、膨潤ゲル44(主に粒子間)を通過する生理食塩水の流速Fs(T)[g/s]とし、経過時間に対して流速Fs(T)をプロットした。
【0140】
上記プロットから、安定した流速が得られる時点を読み取り、その点をTsとした。該Tsから測定終了時(10分目)までに得た流速データのみを利用して、Fs(T=0)、つまり、ゲル層を通る最初の流速を最小二乗法の結果をT=0に外挿することにより計算した後、下記数3にしたがって、SFC(食塩水流れ誘導性)を算出した。
【0141】
【数4】

【0142】
ここで、
Fs(t=0):流速[g/s]
L0:ゲル層の高さ[cm]
ρ:塩化ナトリウム水溶液の密度(1.003[g/cm])
A:シリンダー41中のゲル層上側の面積(28.27[cm])
ΔP:ゲル層にかかる静水圧(4920[dyn/cm])
である。
【0143】
[測定例4]Ext(水可溶分)
吸水性樹脂1.00gと0.90wt%塩化ナトリウム水溶液184.3gとを、容量250mLの蓋付きプラスチック容器に入れ、16時間攪拌を行い、吸水性樹脂中の水可溶分を抽出した。この抽出液を濾紙(ADVANTEC東洋株式会社、品名:JIS P 3801、No.2、厚さ0.26mm、保留粒子径5μm)1枚を用いて濾過し、得られた濾液50.0gを測定用液とした。
【0144】
上記測定用液を、pH10となるまで0.1NのNaOH水溶液で滴定し、次いで、pH2.7となるまで0.1NのHCl水溶液で滴定し、滴定量([NaOH]mL、[HCl]mL)を求めた。また、同様の操作を、0.90wt%塩化ナトリウム水溶液のみに対して行い、空滴定量([bNaOH]mL、[bHCl]mL)を求めた。
【0145】
上記操作により得られた滴定量およびモノマーの平均分子量とから下記数5にしたがって、Ext(水可溶分)を算出した。なお、モノマーの平均分子量が未知の場合、下記数6にしたがって算出される中和率を用いて、モノマーの平均分子量を算出した。
【0146】
【数5】

【0147】
【数6】

【0148】
[測定例5]Residual Monomer(残存モノマー)
本発明の吸水性樹脂に含まれる残存モノマーは、上記Ext(水可溶分)の測定方法における攪拌時間を16時間から2時間に変更した以外は同様の操作を行って得た濾液を、高速液体クロマトグラフィーで分析することにより、求められる。なお、残存モノマーはppm(対吸水性樹脂)で表す。
【0149】
[測定定6]含水率
底面の直径が約50mmのアルミカップに、吸水性樹脂1.00gを量り取り、試料(吸水性樹脂およびアルミカップ)の総重量W8[g]を測定した。
【0150】
次に、雰囲気温度180℃のオーブン中に上記試料を静置し、吸水性樹脂を乾燥させた。3時間経過後オーブンから該試料を取り出し、デシケーター中で室温まで冷却した。その後、乾燥後の試料(吸水性樹脂およびアルミカップ)の総重量W9[g]を測定し、次式にしたがって含水率(単位;[重量%])を算出した。
【0151】
【数7】

【0152】
[測定例7]重量平均粒子径(D50)、粒子径150μm未満の重量百分率、粒度分布の対数標準偏差(σζ)
以下の目開きを有するJIS標準篩を用いて吸水性樹脂10.00gを分級し、ふるい毎の重量を測定し、粒子径150μm未満の重量百分率を算出した。また、各粒度の残留百分率Rを数確率紙にプロットし、このグラフからR=50重量%に相当する粒子径を重量平均粒子径(D50)として読み取った。なお。重量平均粒子径(D50)は、米国特許第5051259号明細書等に開示されているように、粒子全体の50重量%に対応する標準篩の粒子径のことをいう。さらに、粒度分布の対数標準偏差(σζ)は下記の数8にしたがって算出した。なお、粒度分布の対数標準偏差(σζ)は、値が小さいほど粒度分布が狭いことを意味する。
【0153】
【数8】

【0154】
ここで、X1はR=84.1重量%、X2はR=15.9重量%に相当する粒子径である。
【0155】
上記JIS標準篩(The IIDA TESTING SIEVE:内径80mm)は、目開き850μm、710μm、600μm、500μm、425μm、300μm、212μm、150μm、106μm、45μmのものを用意した。また、ロータップ型ふるい振盪機(株式会社飯田製作所製;ES−65型ふるい振盪機)で5分間分級を行った。
【0156】
[測定例8]吸水性樹脂の色調評価
吸水性樹脂の色調評価は、ハンターLab表色系で実施した。なお、測定装置(分光式色差計)としては、HunterLab社製のLabScan(登録商標)XEを使用し、その測定条件としては、反射測定を選択した。また、粉末・ペースト試料用容器(内径30mm、高さ12mm)、粉末・ペースト用標準丸白板No.2および30Φ投光パイプを用いた。
【0157】
上記粉末・ペースト試料用容器に吸水性樹脂約5gを充填し、室温(20〜25℃)、相対湿度50RH%の雰囲気下で、上記分光式色差計にて該吸水性樹脂表面のL値(Lightness:明度指数)、a値、b値を測定した。
【0158】
本発明においては、製造直後の吸水性樹脂、あるいは、気温30℃以下、相対湿度50RH%以下の雰囲気下での保存期間が製造後1年以内である吸水性樹脂の色調を「初期色調」とし、この際に測定されたL値を「曝露前の明度指数」という。
【0159】
また、「着色促進試験」として、以下の操作を行い、「曝露後の明度指数」を測定した。
【0160】
上記着色促進試験は、温度70±1℃、相対湿度65±1RH%の雰囲気に調整した恒温恒湿機(エスペック株式会社製小型環境試験器;形式SH−641)中に、吸水性樹脂約5gを充填した粉末・ペースト試料用容器を入れ、7日間曝露することで実施した。
【0161】
上記曝露後の吸水性樹脂についての色調を「経時色調」とし、この際に測定されたL値を「曝露後の明度指数」という。
【0162】
なお、上記L値は100に近づくほど白色度が増し、a値、b値は0(ゼロ)に近いほど、低着色で実質的に白色となる。
【0163】
[測定例9]δ13C(炭素安定同位体比)
片側を閉じた外径9mm、内径6mm、長さ350mmの石英ガラス管に、酸化銅500mgと吸水性樹脂10mgとを入れ、次に、銀線(直径0.1mm、長さ5mm)5本を入れた。
【0164】
次いで、予め1000℃に加熱処理が施されている石英綿をゆるく丸めて上記石英ガラス管の中ほどにいれ、該ガラス管の内部を真空に引く際に吸水性樹脂が管外に放出されないようにした。真空操作は、油回転式のポンプと液体窒素のコールドトラップを用いて行った。吸水性樹脂および助燃剤が入った上記ガラス管を高真空に排気し、ガスバーナーを用いて300mmの長さに封じきった。
【0165】
その後、上記石英ガラス管を900℃で3時間加熱し、試料を燃焼させ、二酸化炭素等を発生させた。
【0166】
上記操作により発生した二酸化炭素を含む燃焼ガスを真空装置に導入し、液体窒素を用いて精製分離して純粋な二酸化炭素を回収した。
【0167】
この二酸化炭素は、水素還元法により触媒として作用する鉄粉上にグラファイトとして回収される。さらに、回収されたグラファイトと鉄粉とを混合し、アルミニウム製のターゲットホルダーに圧入して、タンデトロン加速器質量分析計の分析試料とした。
【0168】
その後、タンデトロン加速器質量分析計を用いて、試料の炭素同位体比を測定した。
【0169】
[実施例1]
C4植物であるサトウキビを出発原料とするアクリル酸を得た。
【0170】
上記得られたアクリル酸に、NaOH水溶液を中和温度60℃で添加し、中和率75モル%で濃度35重量%のアクリル酸ナトリウム水溶液を得た。このとき、3−ヒドロキシプロピオン酸の含有量は2100ppm(対アクリル酸ナトリウム水溶液)であった。
【0171】
該アクリル酸ナトリウム水溶液に、内部架橋剤としてポリエチレングリコールジアクリレートを0.05モル%(対アクリル酸ナトリウム塩)を溶解させることで、単量体(1)を得た。該単量体(1)350gを容積1Lの円筒型容器に3分以内で投入し、2[L/min]で窒素バブリングを20分間行い、脱気した。次いで、過硫酸ナトリウム0.12[g/モル](対単量体)、およびL−アスコルビン酸0.005[g/モル](対単量体)を水溶液状態で、攪拌下の上記単量体(1)に添加して重合を開始した。重合開始後に攪拌を停止し、静置水溶液重合を行った。重合開始後14分経過したところで、ピーク重合温度110℃を示した。その後、30分経過後に円筒型容器から重合物を取り出し、含水ゲル状架橋重合体(1)を得た。
【0172】
得られた含水ゲル状架橋重合体(1)は、雰囲気温度45℃の条件下で、ミートチョッパー(孔径8mm)によって細分化した後、3分以内に乾燥機に導入した。該乾燥は、風速1.8[m/sec]、温度170℃の熱風を20分間吹き付けることで、行った。該乾燥操作により得られた乾燥重合物(固形分濃度;約95重量%)をロールミルで粉砕し、JIS標準篩で850〜150μmに分級することで、粒子状吸水性樹脂(1)を得た。
【0173】
得られた粒子状吸水性樹脂(1)100重量部に対して、表面架橋剤として、エチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名デナコール(登録商標)EX−810;ナガセ化成株式会社製)0.05重量部/イソプロピルアルコール1重量部/水3重量部からなる混合物を噴霧添加した後、195℃のオイルバス中で60分間加熱処理を行い、表面架橋された吸水性樹脂(1)を得た。
【0174】
得られた吸水性樹脂(1)のハンターLab表色系のL値は89であった。また、着色促進試験後のL値は80であり、経時着色は少なかった。
【0175】
また、上記測定例9で求められる炭素安定同位体比は−13‰であった。ジヒドロキシアセトン含有量は250ppmであった。
【0176】
[比較例1]
C3植物であるキャッサバを出発原料とするアクリル酸を得た以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0177】
得られた比較吸水性樹脂(1)のハンターLab表色系のL値は76であった。また、着色促進試験後のL値は62まで低下した。
【0178】
また、上記測定例9で求められる炭素安定同位体比は−25‰であった。ジヒドロキシアセトン含有量は1460ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0179】
バイオマス由来物の使用によって、燃焼しても大気中の二酸化炭素が増えることはなく、地球環境にやさしい吸水性樹脂を得ることができる。さらに、C4植物由来のバイオマス源を用いることによって、白色度が高く、経時着色の少ない吸水性樹脂を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性不飽和単量体を重合して得られる内部架橋構造を有するポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂であって、
加速器質量分析法によって測定される炭素安定同位体比(δ13C)が−20‰以上であることを特徴とする、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂。
【請求項2】
ジヒドロキシアセトン含有量が500ppm以下である、請求項1に記載の吸水性樹脂。
【請求項3】
飽和脂肪族カルボン酸含有量が2000ppm以下である、請求項1または2に記載の吸水性樹脂。
【請求項4】
上記飽和脂肪族カルボン酸が酢酸、プロピオン酸、酪酸から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸水性樹脂。
【請求項5】
上記水溶性不飽和単量体がC4植物由来のバイオマス源から得られるアクリル酸を主成分とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸水性樹脂。
【請求項6】
上記アクリル酸の炭素安定同位体比(δ13C)が−20‰以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の吸水性樹脂。
【請求項7】
上記アクリル酸中のジヒドロキアセトン含有量が500ppm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の吸水性樹脂。
【請求項8】
水溶性不飽和単量体の重合工程、得られた含水ゲル状架橋重合体の乾燥工程を含む、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂の製造方法であって、
加速器質量分析法により測定される炭素安定同位体比(δ13C)が−20‰以上のアクリル酸を単量体として用いることを特徴とする、ポリアクリル酸(塩)系吸水性樹脂の製造方法。
【請求項9】
上記水溶性不飽和単量体がC4植物由来のバイオマス源から得られるアクリル酸を主成分とする、請求項8に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−231188(P2011−231188A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101484(P2010−101484)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】