説明

ポリアセタールを含む分割型複合繊維、これを用いた繊維成形体および製品

【課題】分割性、耐薬品性に優れた分割型複合繊維を提供する。またその繊維を用いて得られる繊維成形体及び製品を生産性良く提供する。
【解決手段】ポリアセタール1とポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン、等)2とを含む分割型複合繊維であって、該ポリアセタールが下記数式を満たす分割型複合繊維。Tc´ ≦ 144℃[上記数式中、Tc´は210℃で溶融したポリアセタールを冷却速度10℃/minで冷却した時の結晶化温度Tc(℃)を表す。]中空部を有する分割型複合繊維であると、より好ましい。該分割型複合繊維を分割して得られる0.6デシテックス以下の極細繊維を含む繊維成形体、及び該繊維成形体を用いて得られる製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割性に優れたポリアセタールを含む分割型複合繊維に関する。さらに詳しくは、バッテリセパレーター、ワイパー、フィルターなどの産業資材分野、おむつ、ナプキン等の衛生材料分野等に好適に使用できる分割型複合繊維、それを用いた繊維成形体及び製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、極細繊維を得る方法として、海島型や分割型の複合繊維が知られている。
海島型複合繊維を用いる方法は、複数成分を組合せて紡糸して海島型複合繊維とし、得られた該複合繊維の1成分を溶解除去することにより、極細繊維を得るものである。この方法は、非常に細い繊維を得ることができる反面、1成分を溶解除去するために非経済的である。
一方、分割型複合繊維を用いる方法は、複数成分の樹脂を組合せて紡糸して複合繊維とし、得られた該複合繊維を物理的応力や樹脂の化学薬品に対する収縮差などを利用して、該分割型複合繊維を多数の繊維に分割して極細繊維を得るものである。
【0003】
分割型複合繊維は、例えばポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂の組み合わせ、ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂の組み合わせ、ポリアミド樹脂とポリオレフィン樹脂の組み合わせが知られている(特許文献1,2等参照)。これらは物理的応力により分割が進行するものの、ポリエステル、ポリアミドの耐薬品性が低いために分割して得られた極細繊維及びそれからなる繊維成形体は、耐薬品性の要求される産業資材分野への使用が制限されていた。
【0004】
一方、耐薬品性に優れるポリオレフィン系樹脂同士の組み合わせでは、前記異種ポリマー同士の組み合わせに比べ相溶性が良いため、分割細繊化には、物理的衝撃を大きくする必要があった。しかしながら、高度な高圧液体流処理を施すためには処理設備中に、繊維を相応の時間滞留させる必要があり、加工速度を大幅に下げる、または高圧液体流処理設備を大きくする必要があった。また大きな物理的衝撃により繊維が押し分けられることにより、得られた不織布にむらが生じて地合が悪くなるなど、決して満足のできるものではなかった。
【0005】
これを改善するために特許文献3では、同種ポリマー同士の分割型複合繊維においてオルガノシロキサン及びこれらの変成体を添加し、繊維を構成する成分間の界面の少なくとも一部に存在させることにより、繊維を容易に分割できるとしている。しかし、分割性は多少向上するものの、該分割繊維はオルガノシロキサンによる剥離性向上の影響で熱接着性が低下し、不織布強力が低下したり、2次加工で加工性不良が発生したりするなどの問題も多い。
【0006】
また、特許文献4では、少なくとも2成分のポリオレフィンから構成され、中空部を有する分割型複合繊維の中空部の中空率と、繊維を構成するポリオレフィン成分の繊維外周弧の平均長さWと該中空部から繊維外周部までの平均厚みLの比(W/L)を規定することで、該複合繊維が優れた分割性を持つとしている。しかし、分割性は向上するものの、未だ完全に満足できるものではなく、該分割型複合繊維を用いて分割率高く、効率的に極細繊維を得るためには、相応に高度な分割処理操作が必要とされる。
【0007】
さらに、特許文献5に具体的に開示されているのは、ポリアセタールとポリメチルペンテンコポリマーからなるセメント補強用の分割型複合繊維であり、セメントスラリー中での分散性に優れてセメント補強用に好適に使用されるとしている。ここで使用されているポリアセタールについてその結晶化温度を測定すると145℃のものであったが、この分割繊維は、セメントスラリー中での分散性には優れるものの、紡糸性が低く、繊維成形体製造用の繊維として効率良く生産することが難しい。
【0008】
【特許文献1】特開昭62−133164号公報
【特許文献2】特開2000−110031号公報
【特許文献3】特開平4−289222号公報
【特許文献4】特許第3309181号公報
【特許文献5】特開2002−29793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、分割性と耐薬品性に優れた分割型複合繊維を得ようとする検討は、材料であるポリマー種の選定と、繊維断面形状の改良の両面から成されている。しかしながら、既存の方法で得られる分割型複合繊維の分割性や耐薬品性、紡糸性は満足できるものではない。本発明が解決しようとする課題は、上記の問題を解決し、分割性ならびに耐薬品性に優れた分割型複合繊維、及び、その繊維を用いて得られる繊維成形体及び製品を生産性良く提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリアセタールとポリオレフィンとを含む特定の分割型複合繊維とすることによって、目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1) ポリアセタールとポリオレフィンとを含む分割型複合繊維であって、該ポリアセタールが下記数式を満たす分割型複合繊維。
Tc´ ≦ 144℃
[上記数式中、Tc´は210℃で溶融したポリアセタールを冷却速度10℃/minで冷却した時の結晶化温度Tc(℃)を表す。]
(2) 前記ポリオレフィンがポリプロピレンである、前記(1)に記載の分割型複合繊維。
(3) 前記ポリオレフィンがポリエチレンである、前記(1)に記載の分割型複合繊維。
(4) 中空部を有する、前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の分割型複合繊維。
(5) 前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の分割型複合繊維を分割して得られる0.6デシテックス未満の極細繊維を含む繊維成形体。
(6) 分割型複合繊維の50%以上が分割している前記(5)に記載の繊維成形体。
(7) 前記(5)又は(6)に記載の繊維成形体を用いて得られた製品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の分割型複合繊維は、ポリアセタールとポリオレフィンとを含む特定の分割型複合繊維であるために、分割性に優れており、物理的衝撃が小さい場合であっても、特別に易分割させるための添加剤を一切添加せずとも、極細繊維化が容易に行えるとともに、耐薬品性にも優れている上に、紡糸性に優れているので、分割型複合繊維、その繊維を用いて得られる繊維成形体及び製品の生産性に優れている。本発明の分割型複合繊維からは、緻密で地合の良い繊維成形体を得ることができ、製品として、おむつ、ナプキン等の衛生材料分野に好適に使用できるだけでなく、バッテリセパレーター、ワイパー、フィルター等の産業資材分野にも好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を発明の実施の形態に則して詳細に説明する。
本発明の分割型複合繊維は、上述したようにポリアセタールとポリオレフィンとの2成分を含む。
ポリアセタールには、通常1000個以上のオキシメチレン部からなるホモポリマーと、ポリオキシメチレン主鎖中に、エチレン部を有する共重合体であるコポリマーの2種類があり、本発明に使用されるポリアセタールとしては特に限定されるものではないが、熱安定性の点よりコポリマーが好ましい。ポリアセタール中にエチレン部が1〜10mol%含まれるものが、好適であり、特に好ましくは1〜4mol%のものである。ポリアセタール中にエチレン部が1%以上含まれることで、ポリアセタールの熱安定性が向上し、ポリアセタール中のエチレン部が10mol%以下であることで分割型複合繊維の強度が好適なものになる。また、本発明の分割型複合繊維に含まれるポリアセタールは、210℃で溶融した後に冷却速度10℃/minで冷却した時の結晶化温度Tc´が144℃以下であり、好ましくは136℃〜144℃の範囲であり、特に好ましくは138℃〜142℃である。ポリアセタールは結晶性に優れている反面、押出成型、特に溶融紡糸においては紡糸線の上流側(紡糸口金近傍)で固化が急速に進み、その結果、吐出されてから固化して細化が完了するまでの過程における歪み速度が極めて大きくなるので、紡糸性が悪化するが、Tc´が144℃以下であることで急速な固化を防ぎ、紡糸性を保つことが出来る。一方、Tc´が136℃以上であることで、固化点において応力が樹脂に十分に加わり、繊維構造が発達するため、本発明の繊維に求められる、優れた分割性が得られやすい。さらに、210℃で溶融したポリアセタールの冷却速度V(℃/min)の対数logVに対して結晶化温度Tc(℃)をプロットしたグラフの傾きAが−13〜−4、特に好ましくは−11〜−6であり、かつTc´が144℃以下、好ましくは136℃〜144℃、特に好ましくは138℃〜142℃であるポリアセタールが紡糸性の点からより好適に使用できる。前記グラフの傾きAが−4以下、かつTc´が144℃以下であることで急速な固化を防ぎ、良好な紡糸性が得られやすい。一方、前記グラフの傾きAが−13以上、かつTc´が136℃以上であることで、固化点において応力が樹脂に十分に加わり、繊維構造が発達するため、本発明の繊維に求められる、優れた分割性が得られやすい。また、logVが1の時のポリアセタール樹脂1g当りの結晶化熱量Qc(J/g)が90〜125J/g、特に好ましくは95〜120J/gであるポリアセタールが紡糸性、延伸性、並びに分割性の点から好適に使用できる。Qcが125J/g以下のポリアセタールを用いることで、溶融紡糸によって得られる未延伸糸中に延伸性を確保するのに必要なタイ分子が十分に含まれ、より大きな延伸倍率を掛けることが可能になり、もって本発明の繊維に求められる分割性を得ることが容易となる。一方、Qcが95J/g以上のポリアセタールを用いることで、溶融張力が確保されて好適な紡糸性を維持し、高い生産性が実現される。このように、溶融紡糸に好適なポリアセタールは、樹脂中の共重合成分比や分子構造を選択したり、添加剤の種類や量を選択したりすることで得ることが出来る。また、好適に使用できるポリアセタールのメルトフローレート(以下、MFRと略す)は、紡糸可能な範囲であれば特に限定されることはないが、紡糸性の点から1〜90g/10分が好ましく、より好ましくは5〜40g/10分である。ポリアセタールのMFRが1以上だと、溶融張力が減少して、紡糸性、延伸性の点から好ましく、90以下とすることで、隣接する成分同士が規則正しく配列し物理的応力による分割細繊化を所望のレベルで維持しながら、紡糸性を維持し、高い生産性が実現できる点から、より好ましい。また、ポリアセタールの融点は紡糸性の点から120〜200℃が好ましく、特に140〜180℃が好ましい。ポリアセタールは、例えば、「テナック」、「ウルトラフォルム」、「デルリン」、「ジュラコン」、「アミラス」、「ホスタフォーム」、「ユビタール」(何れも商品名)などとして各社から市販されている。これらのものの中から、本願の使用に適するものを選択できる。
【0014】
一方、ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリオクテン−1、エチレン−プロピレン共重合体、ポリメチルペンテン共重合体が挙げることができ、なかでも生産コスト、熱的特性の点よりポリプロピレンが好ましく、生産コスト、紡糸性、延伸性の点よりポリエチレンが好ましい。さらにいえば、紡糸性の点から本発明に使用されるポリプロピレンのQ値(重量平均分子量/数平均分子量)は2〜5であることがより好ましく、ポリエチレンのQ値は3〜6であることがより好ましい。また、好適に使用できるポリオレフィン系樹脂のMFRは、紡糸可能な範囲であれば特に限定されることはないが、紡糸性の点から1〜100g/10分が好ましく、より好ましくは、5〜70g/10分である。ポリオレフィンのMFRが1以上だと、溶融張力が減少して、紡糸性、延伸性の点から好ましく、100以下とすることで、ポリオレフィン成分の剥離性向上により、物理的応力による分割細繊化を所望のレベルで維持しながら、紡糸性を維持し、高い生産性が実現できる点から、より好ましい。また、紡糸性の点からポリプロピレンの融点は100〜190℃が好ましく、より好ましくは120〜170℃であり、ポリエチレンの融点は80〜170℃が好ましく、特に90〜140℃が好ましい。
【0015】
これらポリアセタールおよびポリオレフィンは、分割性や耐薬品性を向上させる等の改質の為に第3成分を共重合しても良く、また、他種ポリマーを混合してもよく、さらには各種添加剤を配合しても良い。例えば、着色の目的で、カーボンブラック、クロムイエロー、カドミウムイエロー、酸化鉄等の無機顔料、ジアゾ系顔料、アントラセン系顔料、フタロシアニン系顔料等の有機顔料を配合することができる。
【0016】
次に本発明の分割型複合繊維の繊維断面について説明する。図1〜6は本発明に用いる分割型複合繊維の一例を示す断面図である。隣接する他成分との接触面積を抑制し、分割性が向上する点から、分割型複合繊維の長さ方向とは直角する方向の繊維断面の円周方向において、ポリアセタールとポリオレフィンが交互に配列した断面形状を採用することが好ましい。ポリアセタールの繊維表面への露出の程度については、繊維軸に直角な繊維断面外周の10〜90%をポリアセタールが占めることが好ましい。繊維断面外周の10〜90%をポリアセタールが占めることにより分割の端緒となる樹脂界面が繊維表面に露出し、本発明の特長である優れた分割性を示す。一方の成分(1)の少なくとも一部の樹脂界面端部が他方の成分(2)によって覆われていても良い(図3)。そして、このような断面を有する繊維が全繊維の少なくとも一部を構成していてもよい。分割性の点からは、各成分が繊維断面外周の10%以上を占めるという条件の下に、個々の繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部において、及び、任意に選んだ10本の繊維に関する繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部の平均値において、繊維中心から繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部までの距離(r)と繊維中心から繊維表面までの距離(d)の比(r/d)が、0.7〜1.0であることが望ましく、特に、0.8〜1.0の範囲であることが好ましい。これら断面形状や、前記r/d比の異なる断面形状を持つ繊維の混在率等は、ノズルの形状や、繊維を構成する樹脂成分のMFRによって調整される。具体的には、ノズル内部のポリアセタール樹脂流路をノズル孔外周部近傍に配置する、又は/及び、ポリオレフィンのMFRがポリアセタールのMFRに対して比較的小さい値を有する組み合わせに構成する、又は/及び、ポリアセタールの紡糸温度を比較的高く設定する、などによって、繊維断面外周にポリアセタールが比較的多く露出した形状のものを製造することができる。本発明の分割型複合繊維に使用されるポリオレフィンのMFRはポリアセタールのMFRに対して、好ましくは20〜500%の値を有し、特に20〜80%の値を有するのが好ましい。本発明の分割型複合繊維に使用されるポリオレフィンのMFRがポリアセタールのMFRに対して80〜125%の値を有する時には図1に示すような断面形状を有する繊維を好適に得ることが出来、80%未満のときには、図2または図3において、白抜きで表示されたセグメントがポリアセタールであるような、ポリアセタールが繊維断面外周に比較的多く露出した断面形状を有する繊維を好適に得ることができ、125%より大きい値を有するときには、図2又は図3において、白抜きで表示されたセグメントがポリオレフィンであるような、ポリオレフィンが繊維断面外周に比較的多く露出した断面形状を有する繊維を好適に得ることができる。ポリアセタール樹脂は、繊維断面外周にポリアセタールが多く露出した形状のものを効率的に製造する点からは190℃以上で紡糸することが好ましい。各成分は、繊維中央側で互いに連結して一体化し、また互いに独立して存在している。各成分の繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部の数は、それぞれ2つ以上であれば良いが、紡糸性並びに分割後に発生する極細繊維の繊度を細くする点からそれぞれ4〜18が好ましく、より好ましくは5〜12である。各成分の繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部の数を4以上とすることで、分割後に発生する極細繊維の繊度が細くなる点から好ましく、18以下とすることで、紡糸口金中の樹脂流動性が最適化され、紡糸性が安定化する点から好ましい。また繊維外周面は真円でも楕円形または三角〜八角系などの角形等の異形断面形状であっても何ら問題ない。
【0017】
本発明の分割型複合繊維は中空部を有することが好ましく、繊維の中心部に有することは特に好ましい。図4、5、6は中空部を有する分割型複合繊維の一例を示す断面図である。中空部の形状は丸、楕円、三角、四角等いずれでも良い。さらに、中空率は繊維軸に直角な繊維断面積の1〜50%の範囲、特には5〜40%とすることが望ましい。中空率が1%以上だと、繊維中央側での隣接する樹脂成分同士の接触及び接触面積が小さく、未分割繊維を物理的応力で分割細繊化する場合に、繊維が潰れやすく、2成分の接触界面での剥離に要するエネルギーが小さくてすむ。すなわち、中空部を有することによる分割性向上の効果が得られやすい。また、中空率を40%以下とすることで、隣接する樹脂成分同士の接触及び接触面積を小さく物理的応力による分割細繊化を所望のレベルで維持しながら、紡糸性を維持し、高い生産性が実現できる点から、より好ましい。さらに中空部は繊維中心部のみでなく、ポリアセタールまたはポリオレフィンのいずれか一方に発泡剤を混入して紡糸すると、発泡剤の作用でポリアセタールまたはポリオレフィンのいずれか一方に中空部を存在させることができる。この中空部はポリアセタール、ポリオレフィン成分境界部に存在し隣接成分同士の接触面積を小さくするので、分割に要する衝撃エネルギーも少なくて済み、易分割性を著しく向上させることができる。ここで発泡剤は、例えばアゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレート、N,N−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p−トルエンスルホニルセミカルバジド、トリヒドラジノトリアジン等を例示することができる。
【0018】
本発明の分割型複合繊維は、単糸繊度が1〜15dtex(デシテックス)であることが好ましい。単糸繊度は紡糸口金の単孔から吐出する樹脂量をコントロールすることによって決まるが、樹脂の吐出量を単糸繊度が1dtex以上となるように設定することにより、目的とする断面形態が得られやすく、また、溶融紡糸する際に紡糸口金の単孔から吐出する樹脂量が安定するので、紡糸性、延伸性が良好に保たれる。
また、樹脂の吐出量を単糸繊度が15dtex以下となるように設定することにより、糸条の冷却を十分に行うことができ、冷却不足によるドローレゾナンスも発生せず、十分に安定した紡糸延伸性を保つことができる。分割後の平均単糸繊度は、分割繊維の最大の特徴である細繊度化による均一で地合によい柔軟な繊維成形体を得るという観点から、0.6dtex未満であることが好ましく、より好ましくは、0.5dtex以下である。
【0019】
以下、本発明の分割型複合繊維の1例として、ポリアセタール樹脂とポリプロピレン樹脂を組合せた分割型複合繊維の製造方法を例示する。分割型複合繊維は従来公知の溶融複合紡糸法で紡糸され、横吹付や環状吹付等の従来公知の冷却装置を用いて、吹付風により冷却された後、界面活性剤を付与し引き取りローラーを介して未延伸糸を得る。
紡糸口金は公知の分割型複合繊維用のものを用いることができる。紡糸温度は、紡糸性、繊維断面形状を最適化する点で、特に重要である。具体的には、ポリアセタール樹脂は170〜250℃の範囲で紡糸することが好ましく、特に好ましいのは190〜250℃である。ポリアセタール樹脂に関しては、熱分解を抑制する点から、250℃以下で紡糸することが好ましく、紡糸性を確保する点から190℃以上で紡糸することが好ましい。ポリプロピレン樹脂は紡糸性を確保する点から190〜330℃の範囲で紡糸することが好ましく、特に好ましいのは210〜260℃である。引き取りローラーの速度は、500m/min〜2000m/minであることが好ましい。得られた未延伸糸を複数本束ね、公知の延伸機にて周速の異なるローラー郡間で延伸される。延伸は必要に応じて多段延伸を行っても良く、延伸倍率は通常2〜5倍程度とするのが良い。次いで、延伸トウ(繊維束)を必要に応じて押し込み式捲縮付与装置にて捲縮を付与した後、所定の繊維長に切断して短繊維を得る。以上は短繊維の製造工程を開示したが、トウを切断せず、長繊維トウを分繊ガイドなどによりウェブとすることもできる。その後は必要に応じて高次加工工程を経て、種々用途に応じて繊維成形体に形成される。また紡糸延伸後、フィラメント糸条として巻き取り、これを編成または織成して編織物とした繊維成形体、あるいは前記短繊維を紡績糸とした後、これを編成または織成して編織物とした繊維成形体に成形しても良い。
【0020】
つまり、ここで繊維成形体とは、繊維が集合した形態であればいかなるものでも良く、例えば織物、編物、連続繊維束、不織布あるいは不織繊維集合体などがある。また、混綿、混紡、混繊、交撚、交編、交繊等の方法で布状の形態にすることもできる。さらに不織繊維集合体とは、例えばカード法、エアレイド法、あるいは抄紙法などの方法で均一にしたウェブ状物あるいはこのウェブ状物に織物、編物、不織布を種々積層したもの、スライバーなどもいう。
【0021】
本発明の繊維成形体は、本発明の妨げにならない範囲で、必要に応じて本発明の分割複合繊維に他の繊維あるいは粉体を混合して用いることができる。この他の繊維としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリルなどの合成繊維やこれらの繊維に生分解性、消臭性等の機能を付与したもの、綿、羊毛、麻などの天然繊維、レーヨン、キュプラ、アセテートなどの再生繊維、半合成繊維などが挙げられる。粉体としては、粉砕パルプ、レザーパウダー、竹炭粉、木炭粉、寒天粉等の天然由来物質、吸水性ポリマー等の合成高分子、鉄粉、酸化チタン等の無機物質などが挙げられる。
【0022】
前述のように本発明の分割型複合繊維を紡出後、繊維の静電気防止、繊維成形体への加工性向上のための平滑性付与などを目的として界面活性剤を付着させることができる。界面活性剤の種類、濃度は用途に合わせて適宜調整する。付着の方法は、ローラー法、浸漬法、パットドライ法などを用いることができる。付着は、前述の紡糸工程に限定されず、延伸工程、捲縮工程のいずれで付着させても差し支えない。さらに短繊維、長繊維に問わず、紡糸工程、延伸工程、捲縮工程以外の、例えば繊維成形体に成形後、界面活性剤を付着させることもできる。
【0023】
本発明の分割型複合繊維の繊維長は、特に限定されるものではないが、カード機を用いてウェブを作製する場合は、一般に20〜76mmのものを用い、抄紙法やエアレイド法では、一般に繊維長が20mm以下のものが好ましく用いられる。繊維長を76mm以下とすることにより、カード機等でのウェブ形成を均一に行うことができ、均一な地合のウェブを容易に得ることができる。
【0024】
本発明の分割型複合繊維は、エアレイド法を含む様々な繊維成形体の製造方法に適用可能である。一例として、不織布の製造方法を例示する。例えば前記分割複合繊維の短繊維を用いて、カード法、エアレイド法、あるいは抄紙法を用いて必要な目付のウェブを作製する。またメルトブローン法、スパンボンド法などで直接ウェブを作製しても良い。前記の方法で作製したウェブを、ニードルパンチ法、高圧液体流処理等の公知の方法で分割細繊化して繊維成形体を得ることができる。さらに、この繊維成形体を熱風あるいは熱ロール等の公知の加工方法でさらに処理することもできる。
【0025】
本発明の分割型複合繊維を分割処理する方法は特に制限されず、ニードルパンチ法、高圧液体流処理などの方法を例示できる。ここでは、その一例として、高圧液体流処理を用いた分割処理方法について説明する。高圧液体流処理に用いる高圧液体流装置とは、例えば、孔径が0.05〜1.5mm、特に0.1〜0.5mmの噴射孔を孔間隔0.1〜1.5mmで一列あるいは複数列に多数配列した装置を用いる。噴射孔から高水圧で噴射させて得られる高圧液体流を多孔性支持部材上に置いた前記ウェブまたは不織布に衝突させる。これにより本発明の未分割の分割型複合繊維は高圧液体流により、交絡されると同時に細繊化される。噴射孔の配列は前記ウェブの進行方向と直交する方向に列状に配列する。高圧液体流としては、常温あるいは温水を用いても良いし、任意に他の液体を用いても良い。噴射孔とウェブまたは不織布との間の距離は、10〜150mmとするのが良い。この距離が10mm未満であるとこの処理により得られる繊維成形体の地合が乱れる場合があり、一方、この距離が150mmを超えると液体流がウェブまたは不織布に与える物理的衝撃が弱くなり、交絡及び分割細繊化が十分に施されない場合がある。この高圧液体流の処理圧力は、製造方法及び繊維成形体の要求性能によって、制御されるが、一般的には、20kg/cm2〜200kg/cm2の高圧液体流を噴射するのが良い。なお処理する目付等にも左右されるが、前記処理圧力の範囲内において、高圧液体流は順次、低水圧から高水圧へ圧力を上げて処理すると、ウェブまたは不織布の地合が乱れにくく、交絡及び分割細繊化が可能となる。高圧液体流を施す際にウェブまたは不織布を載せる多孔性支持部材としては、例えば50〜200メッシュの金網製あるいは合成樹脂製のメッシュスクリーンや有孔板など高圧液体流が上記ウェブまたは不織布を貫通するものであれば特に限定されない。尚、ウェブまたは不織布の片面より高圧液体流処理を施した後、引き続き交絡処理されたウェブまたは不織布を反転させて、高圧液体流処理を施すことによって、表裏共に緻密で地合の良い繊維成形体を得ることができる。さらに高圧液体流処理を施した後、処理後の繊維成形体から水分を除去する。この水分を除去するに際しては、公知の方法を採用することができる。例えば,マングロール等の絞り装置を用いて、水分をある程度除去した後、熱風循環式乾燥機等の乾燥装置を用いて完全に水分を除去して本発明の繊維成形体を得ることができる。
【0026】
本発明の繊維成形体の目付は、特に限定されるものではないが、10〜200gsmのものが好ましく使用できる。目付が10gsm以上とすることにより、高圧液体流処理などの物理的応力で分割細繊化する場合、不織布の地合を良好に保つことができる。また目付が200gsm以下とすることにより、過剰な高圧液体流処理を施さなくても地合良く、均一な分割を行うことができる。
【0027】
本発明の分割型複合繊維は、従来のポリオレフィン系分割型繊維に比べ、分割し易く、高圧液体流による物理的衝撃が少なくとも分割、細繊化が可能である。本発明の分割型複合繊維を用いれば容易にその50%以上が分割された繊維成形体を得ることが可能である。特に、60%以上、さらに70%以上が分割された繊維成形体を容易に得ることが出来る。このため、スパンレースの律速段階である高圧液体流処理の高速化及び高圧液体流の低圧化による地合改善、例えば抄紙法のような繊維長の短い繊維からなるウェブでは、高圧液体流の圧力を低くすることができ、繊維成形体の地合の乱れ、貫通孔の発生などの問題を改善することができる。
【0028】
また、本発明の分割型複合繊維は、それぞれが耐薬品性に優れるポリアセタールとポリオレフィンとを含む分割型複合繊維であるため耐薬品性、特に耐アルカリ性に優れている。
【0029】
以上のように本発明の分割型複合繊維は、容易に分割させることができ、緻密で地合の良い繊維成形体を得ることができるとともに、耐薬品性にも優れている。これにより、非常に緻密で地合の良い不織布とすることができ、製品として、おむつ、ナプキン等の衛生材料分野等に好適に使用できるだけでなく、バッテリセパレーターやワイパー、フィルター等の産業資材分野にも好適に使用することができる。
【0030】
本発明の分割型複合繊維を10重量%以上含む繊維集合体として用いてもよい。本発明の分割型複合繊維と併用する他の繊維については特に制限はないが、例えば、本発明以外の分割型複合繊維、ポリプロピレン/高密度ポリエチレン系の熱接着性複合繊維、ポリプロピレン/エチレン共重合ポリプロピレン系の熱接着性複合繊維、ポリプロピレン/エチレン−ブテン−1共重合ポリプロピレン系の熱接着性複合繊維、ポリエステル/高密度ポリエチレン系の熱接着性複合繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン等を挙げることができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。なお、実施例中に示した物性値の測定方法又は定義を以下に示す。
(1)単糸繊度
JIS−L−1015に準じて測定した。
(2)引張り強度、伸度
JIS−L−1017に準じ、島津製作所(株)製オートグラフ AGS500Dを用い、試長100mm、引張速度100mm/分で測定した。
(3)メルトフローレート(MFR)
JIS−K−7210に準じて測定した。
原料ポリアセタール樹脂 :条件4
原料ポリプロピレン樹脂 :条件14
原料ポリエチレン樹脂 :条件4
原料ポリメチルペンテン樹脂:条件20
(4)(r/d)測定法
任意に選んだ未分割繊維10本の横断面写真から、以下の値を計算し、その平均値からr/dを算出した。
r:被覆成分端部先端と繊維中心の長さの平均値
d:繊維中心から繊維表面までの長さの平均値
(5)中空率 測定法
未分割横断面写真から任意に選んだ未分割繊維10本から、以下の式により算出した。
中空率(%)=(中空部の断面積/繊維の中空部を含む総断面積)×100
(6)ポリアセタールの繊維表面への露出率 測定法
未分割横断面写真から任意に選んだ未分割繊維10本から、以下の値を計算し、その平均値からポリアセタールの繊維表面への露出率を算出した。
c:繊維軸と直角な繊維断面外周長さ
w:繊維軸と直角な繊維断面外周の内ポリアセタールにより構成される弧の長さ
ポリアセタールの繊維表面への露出率(%)=(w/c)×100
(7)紡糸性
溶融紡糸時の曳糸性を糸切れ回数の発生率により、次の3段階で評価した。
○:糸切れが全く発生せず、操作性が良好である。
△:糸切れが1時間当たり1〜2回
×:糸切れが1時間当たり4回以上発生し、操作上問題がある。
(8)延伸倍率
以下の式により算出した。
延伸倍率=引取ロール速度(m/分)/供給ロール(m/分)
(9)分割性評価
高圧液体流処理の代替評価としてミキサー(Osterizer Blender)による分割処理操作で分割性を評価した。ミキサー内の水流が、高圧液体流処理を施した場合と同様の物理的な刺激を繊維に与えることで、繊維は分割される。
(分割後ウェブの作製方法)
ミキサーに500mlの脱イオン水と本発明の分割型複合繊維1.0g(繊維重量)を入れ、7900rpmで3分間撹拌した。これを直径12cmのブフナーロートで濾過し、80℃で乾燥させた。
(通気度の測定方法)
分割後ウェブを150メッシュの金属金網で挟み、JISL10966.27A法に準じて通気度を測定した。
分割性が高くなるほどウェブは緻密となり、分割前の繊維径が同じであるならば、分割後ウェブの通気度を比較することで分割性の指標となる。すなわち、分割前の繊維径が等しい繊維の分割後ウェブの通気度が低くなるほどその分割型複合繊維の分割性は高く、分割し易い繊維であると判断することが出来る。
(10)地合
10人のパネラーに対し、分割細繊化加工後の不織布(1m角)の繊維の分布斑を目視により次のように判定した。
○:7人以上が斑が少なく、また貫通孔もないと感じた。
△:4〜6人が斑が少なく、貫通孔もないと感じた。
×:斑が少ないと感じたのは3人以下であった。
(11)耐薬品性
繊維をエタノール又は水酸化ナトリウム水溶液100mlに浸漬させ、20℃で3ヶ月間放置した。放置後の繊維重量変化量を測定し、以下のように判定した。
○:繊維重量の減少が0.3%未満であった。
△:繊維重量の減少が0.3%以上2.0%未満であった。
×:繊維重量の減少が2.0%以上であった。
(12)種々のVに対するTcとQcの測定
TA Instruments社製 示差走査熱量計DSC Q10(商品名)を用い、210℃に溶融したポリアセタール樹脂を種々の速度で冷却した時の結晶化温度Tc(℃)を測定した。具体的には、4.0mg〜4.5mgのポリアセタール樹脂試料を、室温から昇温速度10℃/minで、210℃とし10分間保持した後、5、10、20、30、65℃/minの速度で冷却した時の熱流束のピークから結晶化温度Tc(℃)を求めた。また、logVが1の時の結晶化熱量Qcを、前記熱流束を130〜150℃でベースラインを引き、積分した値から求めた。
【0032】
[実施例1]
ポリアセタールとして融点が160℃、MFRが9でlogVに対してTcをプロットしたグラフの傾きAが−9.0、かつlogVが1の時のTc(Tc´)が141℃、Qcが106J/gであるポリアセタールコポリマー、ポリオレフィンとして融点が160℃、MFRが16、Q値が4.9のポリプロピレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、ポリアセタールとポリオレフィンの容積比率50/50、紡糸繊度8.9dtexの、図5に示すような繊維横断面形状を主に有し、他に図4、6に示すような繊維横断面形状を一部有する中空分割型複合繊維を紡糸した。該繊維は、それぞれの成分について繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部が8個、すなわち16分割であり、ポリアセタールコポリマーの樹脂界面端部のうち一部が、ポリプロピレンに覆われた構造を有する繊維が混在しており、ポリアセタールコポリマーを対象としてr/dは0.97、中空率は20.3%、ポリアセタールの繊維表面への露出率は28.9%であった。
引き取り工程において、アルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。得られた未延伸糸を80℃、4.7倍で延伸し、抄紙用分散剤を付着させた後、6mm長に切断した。
得られた短繊維に、前記のミキサー分割処理を施し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維物性値、繊維成形体の通気度等を表1に示す。
【0033】
[実施例2]
ポリアセタールとして融点が160℃、MFRが31でlogVに対してTcをプロットしたグラフの傾きAが−9.4、かつlogVが1の時のTc(Tc´)が141℃、Qcが119J/gであるポリアセタールコポリマー、ポリオレフィンとして融点が160℃、MFRが16、Q値が4.9のポリプロピレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、ポリアセタールとポリオレフィンの容積比率50/50、紡糸繊度8.9dtexの、図4に示すような繊維横断面形状を主に有し、他に図5に示すような繊維横断面形状を一部有する中空分割型複合繊維を紡糸した。該繊維は、それぞれの成分について繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部が8個、すなわち16分割でありポリアセタールコポリマーを対象として、r/dは1.00、中空率は9.2%、ポリアセタールの繊維表面への露出率は60.2%であった。
引き取り工程において、アルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。得られた未延伸糸を80℃、4.7倍で延伸し、抄紙用分散剤を付着させた後、6mm長に切断した。
得られた短繊維に、実施例1と同じ分割処理を施し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維物性値、繊維成形体の通気度等を表1に示す。
【0034】
[実施例3]
ポリアセタールとして融点が160℃、MFRが9でlogVに対してTcをプロットしたグラフの傾きAが−9.0、かつlogVが1の時のTc(Tc´)が141℃、Qcが106J/gであるポリアセタールコポリマー、ポリオレフィンとして融点が160℃、MFRが11、Q値が4.9のポリプロピレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、ポリアセタールとポリオレフィンの容積比率50/50、紡糸繊度8.9dtexの、図5に示すような繊維横断面形状を主に有し、他に図4、6に示すような繊維横断面形状を一部有する中空分割型複合繊維を紡糸した。該繊維は、それぞれの成分について繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部が8個、すなわち16分割であり、ポリアセタールコポリマーの樹脂界面端部のうち一部が、ポリプロピレンに覆われた構造を有する繊維が混在しており、ポリアセタールコポリマーを対象として、r/dは0.97、中空率は24.7%、ポリアセタールの繊維表面への露出率は28.9%であった。
引き取り工程において、アルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。得られた未延伸糸を80℃、4.7倍で延伸し、抄紙用分散剤を付着させた後、6mm長に切断した。
得られた短繊維に、実施例1と同じ分割処理を施し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維物性値、繊維成形体の通気度等を表1に示す。
【0035】
[実施例4]
ポリアセタールとして融点が160℃、MFRが9でlogVに対してTcをプロットしたグラフの傾きAが−9.0、かつlogVが1の時のTc(Tc´)が141℃、Qcが106J/gであるポリアセタールコポリマー、ポリオレフィンとして融点が160℃、MFRが30、Q値が2.9のポリプロピレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、ポリアセタールとポリオレフィンの容積比率50/50、紡糸繊度8.9dtexの、図5に示すような繊維横断面形状を主に有し、他に図4、6に示すような繊維横断面形状を一部有する中空分割型複合繊維を紡糸した。該繊維は、それぞれの成分について繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部が8個、すなわち16分割であり、ポリアセタールコポリマーの樹脂界面端部のうち一部が、ポリプロピレンに覆われた構造を有する繊維が混在しており、ポリアセタールコポリマーを対象として、r/dは0.97、中空率は16.9%、ポリアセタールの繊維表面への露出率は25.1%であった。
引き取り工程において、アルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。得られた未延伸糸を80℃、4.7倍で延伸し、抄紙用分散剤を付着させた後、6mm長に切断した。
得られた短繊維に、実施例1と同じ分割処理を施し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維物性値、繊維成形体の通気度等を表1に示す。
【0036】
[実施例5]
ポリアセタールとして融点が160℃、MFRが9でlogVに対してTcをプロットしたグラフの傾きAが−9.0、かつlogVが1の時のTc(Tc´)が141℃、Qcが106J/gであるポリアセタールコポリマー、ポリオレフィンとして融点が130℃、MFRが16.5、Q値が5.1の高密度ポリエチレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、ポリアセタールとポリオレフィンの容積比率50/50、紡糸繊度8.9dtexの、図5に示すような繊維横断面形状を主に有し、他に図4、6に示すような繊維横断面形状を一部有する中空分割型複合繊維を紡糸した。該繊維は、それぞれの成分について繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部が8個、すなわち16分割であり、ポリアセタールコポリマーの樹脂界面端部のうち一部が、高密度ポリエチレンに覆われた構造を有する繊維が混在しており、ポリアセタールコポリマーを対象として、r/dは0.97、中空率は14.3%、ポリアセタールの繊維表面への露出率は25.8%であった。
引き取り工程において、アルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。得られた未延伸糸を80℃、4.7倍で延伸し、抄紙用分散剤を付着させた後、6mm長に切断した。
得られた短繊維に、実施例1と同じ分割処理を施し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維物性値、繊維成形体の通気度等を表1に示す。
【0037】
[比較例1]
融点が160℃のポリプロピレンと融点が130℃の高密度ポリエチレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、ポリプロピレンとポリエチレンの容積比率50/50、紡糸繊度6.5dtexの、図4に示すような繊維横断面形状を有する中空分割型複合繊維を紡糸した。ポリプロピレンのMFRは11、Q値は4.9、高密度ポリエチレンのMFRは16.5、Q値は5.1であった。該繊維は、それぞれの成分について繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部が8個、すなわち16分割であり、ポリプロピレンを対象としてr/dは1.00、中空率は18.7%、ポリプロピレンの繊維表面への露出率は26.8%であった。
引き取り工程において、アルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。得られた未延伸糸を95℃、4.4倍で延伸し、抄紙用分散剤を付着させた後、5mm長に切断した。このとき得られた分割型複合繊維の繊維径は、実施例1〜5と同じであった。
得られた短繊維を、前記ミキサー分割処理し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維物性値、繊維成形体の通気度等を表1に示す。
【0038】
[比較例2]
融点が260℃のポリエチレンテレフタレートと融点が160℃のポリプロピレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、ポリエチレンテレフタレートとポリプロピレンの容積比率50/50、紡糸繊度5.4dtexの、図5に示すような繊維横断面形状を主に有し、他に図4、6に示すような繊維横断面形状を有する中空分割型複合繊維を紡糸した。ポリエチレンテレフタレートの限界粘度は0.64、ポリプロピレンのMFRは30、Q値は2.9であった。該繊維は、それぞれの成分について繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部が8個、すなわち16分割であり、ポリエチレンテレフタレートの樹脂界面端部のうち一部が、ポリプロピレンに覆われた構造を有する繊維が混在しており、ポリエチレンテレフタレートを対象として、r/dは0.97、中空率は14.5%、ポリエチレンテレフタレートの繊維表面への露出率は35.0%であった。
引き取り工程において、アルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。得られた未延伸糸を90℃、1.8倍で延伸し、抄紙用分散剤を付着させた後、6mm長に切断した。
得られた短繊維に、実施例1と同じ分割処理を施し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維物性値、繊維成形体の通気度等を表1に示す。
【0039】
[比較例3]
ポリアセタールとして融点が160℃、MFRが9でlogVに対してTcをプロットしたグラフの傾きAが−10.1、かつlogVが1の時のTc(Tc´)が145℃、Qcが148J/gであるポリアセタールコポリマー、ポリオレフィンとして融点が160℃、MFRが11、Q値が4.9のポリプロピレンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、ポリアセタールとポリオレフィンの容積比率50/50、紡糸繊度8.3dtexの、図5に示すような繊維横断面形状を主に有し、他に図4、6に示すような繊維横断面形状を一部有する中空分割型複合繊維を紡糸した。該繊維は、紡糸性が低く種々の繊維物性を確認するために十分なサンプルを採取することが出来なかった。
【0040】
[比較例4]
ポリアセタールとして融点が160℃、MFRが9でlogVに対してTcをプロットしたグラフの傾きAが−10.1、かつlogVが1の時のTc(Tc´)が145℃、Qcが148J/gであるポリアセタールコポリマー、ポリオレフィンとして融点が238℃、MFRが85のポリメチルペンテンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、ポリアセタールとポリオレフィンの容積比率50/50、紡糸繊度9.1dtexの、図5に示すような繊維横断面形状を主に有し、他に図4、6に示すような繊維横断面形状を一部有する中空分割型複合繊維を紡糸した。該繊維は、紡糸性が低く種々の繊維物性を確認するために十分なサンプルを採取することが出来なかった。
【0041】
[比較例5]
ポリアセタールとして融点が160℃、MFRが9でlogVに対してTcをプロットしたグラフの傾きAが−10.1、かつlogVが1の時のTc(Tc´)が145℃、Qcが148J/gであるポリアセタールコポリマー、ポリオレフィンとして融点が238℃、MFRが85のポリメチルペンテンを用い、分割型複合繊維用口金を用いて、ポリアセタールとポリオレフィンの容積比率50/50、紡糸繊度9.1dtexの中実分割型複合繊維を紡糸した。該繊維は、それぞれの成分について繊維表面側へ伸びる樹脂界面端部が4個、すなわち8分割であり、ポリアセタールコポリマーの樹脂界面端部のうち一部が、ポリメチルペンテンに覆われた構造を有する繊維が混在しており、ポリアセタールコポリマーを対象として、r/dは0.97、ポリアセタールの繊維表面への露出率は27.3%であった。
引き取り工程において、アルキルフォスフェートカリウム塩を付着させた。得られた未延伸糸を90℃、4.0倍で延伸し、抄紙用分散剤を付着させた後、6mm長に切断した。
得られた短繊維に、実施例1と同じ分割処理を施し、本発明の繊維成形体とした。得られた繊維物性値、繊維成形体の通気度等を表1に示す。
該繊維は、紡糸性が低くサンプルには糸切れに由来する糸尻が多数混入した。この為、繊維成形体の地合は満足できるものではなかった。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から明らかなように、ポリアセタールとポリオレフィンとを含む本発明の実施例1〜5からなる分割型複合繊維は、比較例1,2と比べて、通気度が低く、優れた分割性を示し、同条件でも高度に分割している。即ち従来のような厳しい条件での分割処理を行わなくても、分割細繊化が容易に進行するため、比較的低目付の不織布でも地合が乱れることなく分割が可能であり、これによって、分割処理(例えば高圧液体流処理)にかかる時間、コストも大幅に削減することができる。
また、ポリアセタールとポリオレフィンとを含む本発明の実施例1〜5からなる分割型複合繊維は、ポリオレフィン系樹脂同士を組合せた分割型複合繊維(比較例1)と同等の耐薬品性を示している。したがって、特に耐薬品性が必要とされる、バッテリセパレーターやワイパー、フィルター等の産業資材分野にも好適に使用することができる。さらに、ポリアセタールのTc´が144℃以下である本発明の実施例1〜5からなる分割型複合繊維は、同様の断面を有するがTc´が144℃を超える比較例3、4、さらには、より単純な断面を有するがTc´が144℃を超える比較例5と比べても紡糸性に優れ、もって生産性良く分割により効率よく極細繊維を得ることが出来る分割型複合繊維を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に用いられる分割型複合繊維の繊維横断面の模式図の一例である。
【図2】本発明に用いられる分割型複合繊維の繊維横断面の模式図の別の例である。
【図3】本発明に用いられる分割型複合繊維の繊維横断面の模式図例のさらに別の例である。
【図4】本発明に用いられる中空部を有する分割型複合繊維の繊維横断面の模式図の一例である。
【図5】本発明に用いられる中空部を有する分割型複合繊維の繊維横断面の模式図の別の例である。
【図6】本発明に用いられる中空部を有する分割型複合繊維の繊維横断面の模式図のさらに別の例である。
【符号の説明】
【0045】
1 一方の樹脂成分(例.ポリアセタール)
2 他方の樹脂成分(例.ポリオレフィン)
3 中空部
d 繊維中心から繊維表面までの距離
r 繊維中心から繊維表面に露出していない一方の樹脂成分の凸部先端までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタールとポリオレフィンとを含む分割型複合繊維であって、該ポリアセタールが下記数式を満たす分割型複合繊維。
Tc´ ≦ 144℃
[上記数式中、Tc´は210℃で溶融したポリアセタールを冷却速度10℃/minで冷却した時の結晶化温度Tc(℃)を表す。]
【請求項2】
前記ポリオレフィンがポリプロピレンである、請求項1記載の分割型複合繊維。
【請求項3】
前記ポリオレフィンがポリエチレンである、請求項1記載の分割型複合繊維。
【請求項4】
中空部を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の分割型複合繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の分割型複合繊維を分割して得られる0.6デシテックス未満の極細繊維を含む繊維成形体。
【請求項6】
分割型複合繊維の50%以上が分割している請求項5記載の繊維成形体。
【請求項7】
請求項5又は6記載の繊維成形体を用いて得られた製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−261081(P2008−261081A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332295(P2007−332295)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(506276907)ESファイバービジョンズ株式会社 (16)
【出願人】(506276712)イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド (16)
【出願人】(506275575)イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ (16)
【出願人】(506276332)イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス (16)
【Fターム(参考)】