説明

ポリアミド−ベースの組成物と、この組成物から得られる物品と、その使用

【課題】本発明は式:MXD.10またはMXD.10/Zで表される、溶融温度Tf1を有する少なくとも一種の第1のポリアミド)と、少なくとも一種の第2のポリアミドとから成る組成物と、この組成物を用いて製造された物品と、この物品の成形方法と、上記組成物および物品の使用とに関するものである。
【解決手段】上記の少なくとも一種の第2のポリアミドがTf1−40℃≦Tf2<Tf1+20℃の関係を満足する溶融温度Tf2を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド-ベースの組成物と、この組成物の製造方法と、組成物成形方法と、その使用とに関するものであり、特に、各種の物品、例えば、消費材、例えば、電気製品、電子製品、自動車部品、医学および外科用材料、包装材料またはスポーツ用品の製造での使用に関するものである。
本発明は特に、少なくとも2種のポリアミドを含み、その一つが式:MXD.10/Zを有する組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在公知のポリアミドはその顕著な機械特性、特に高い撓み性と引張りモジュラスの点で重要である。
【0003】
その中には3GPa程度の高いモジュラスを有する半芳香族ポリアミドであるポリフタルアミド(PPA)が含まれる。同じことがMXDとアジピン酸との縮合生成物であるポリアミドMXD.6でも事実である。ここで、MXDはメタ−キシレンジアミンまたはメタキシレンジアミンとパラ−キシレンジアミンとの混合物を表す。
【0004】
PPAおよびMXD.6は機械特性(特に高いモジュラス)の点で満足なものであるが、下記の2つの主たる欠点を有している:
(1)その欠点の一つは、溶融温度が高いため、PPAおよびMXD.6は変形温度が高い(一般に280℃以上)ポリアミドであことである。そのためエネルギの消費量が大きいことの他に、高い成形温度での加工でPPAまたはMXD.6をベースにした組成物中にこの温度で破壊される強化材および/または添加剤を添加することができないという欠点がある。
(2)第2の欠点は、ガラス遷移温度(Tg)が高く、結晶化速度が遅いため、
PPAまたはMXD.6をベースにした材料の成形は、極大結晶化を得るため、従って、最適寸法安定性および最適機械特性を与えるために、高い成形温度、一般には120℃〜130℃(Tgより30〜40℃高い)程度で加工する必要がある。
【0005】
特に、射出成形で成形する場合には、熱伝達媒体としてオイルを使用した金型を使用する必要があるが、そうした金型は熱媒体流体として水を使用する通常の金型に比べてモルダーに普及していない。
【0006】
MXD.6をベースにした組成物の結晶化を最適化するために、非特許文献1では250℃程度の溶融温度で核剤、特にタルクおよびPA6.6を導入している。
【0007】
MXDとセバシン酸との縮合生成物であるポリアミドMXD.10も優れた機械特性、特に高いモジュラスを有する。
【0008】
MXD.10の溶融温度(約193℃)はPPAまたはMXD.6の溶融温度以下であるので、その成形温度は200℃〜270℃、一般には210℃〜260℃で、PPAおよびMXD.6より低く、エネルギ消費量が少ない。さらに、MXD.10をベースにした組成物はPPAおよびMXD.6の成形温度では破壊される強化材および/または添加剤の使用が可能になる場合もある。
【0009】
さらに、MXD.10の密度はPPAまたはMXD.6で一般に観測される密度より低い。従って、MXD.10をベースにした組成物から得られる物品はPPAまたはMXD.6をベースにした組成物から得られるものより軽いという利点がある。
【0010】
しかし、生成物の極大結晶化を確実にし、従って、寸法安定性を最適化し、機械特性を最適化するためには、PPAまたはMXD.6の場合と同様に、射出成形で成形する際に高い金型温度(一般に120℃程度)が必要である。
【0011】
MXD.10をベースにした組成物の成形条件を良くするため、特に射出成形での冷却段階の時間を短くするために、特許文献1(欧州特許第EP 0272 503号公報)では、100重量部のポリアミドMXD.10に1〜20重量部のMXD.10をより溶融温度が約20〜30℃高い結晶性ポリアミドを加えた組成物を提案している。
【0012】
この結晶質ポリアミドは、無機充填剤タイプの核剤、例えばタルクが不存在の場合でも、核剤として作用する。
【0013】
この特許文献1(欧州特許第EP 0272 503号公報)に記載のいくつかの実施例では射出成形段階金型を70℃、100℃および130℃の温度に加熱しているが、この特許に記載の組成物が最高の成形条件を示すか否かは記載がない。特に、130℃の金型温度の場合に成形サイクルを迅速に実行できる否かは記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許第EP 0272 503号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「Effect of Nucleating Additives on Crystallization of Poly(mxylylene adipamide)」、Journal Polymer Engineering and Science in 2007, pages 365-373
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、上記従来方法の欠点の全てを解決して、機械特性、特に3GPaオーダのモジュラスを有し、さらに下記の(1)〜(2)の特性を有する材料または物品を製造することができる組成物を提供することにある:
(1)成形温度がPPAおよびMXD.6より低く、MXD.10の成形温度程度である。すなわち、成形温度は210℃〜260℃の間にあるのが有利である。
(2)金型温度、特に射出成形で成形する時の熱伝達液として水を使用した金型温度が100℃以下、好ましくは90℃以下である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記タイプのポリアミドをベースにした組成物、すなわち、少なくとも一種の第1のポリアミドと、一種の第2のポリアミドとから成っている組成物を提供する。上記第1のポリアミドは式:MXD.10またはMXD.10/Zで表され、溶融温度Tf1を有する。ここで、Zはアミノ酸から得られる単位、ラクタムから得られる単位および式(Caジアミン).(Cb二酸)で表される単位の中から選択される単位であり、上記aはジアミンの炭素の数を表し、bは二酸の炭素数を表す。
本発明では上記の少なくとも一種の第2のポリアミドが下記の関係を満足する溶融温度Tf2を有する:
Tf1−40℃≦Tf2<Tf1+20℃
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明で使用する溶融温度Tf2を有する第2のポリアミドは半結晶性ポリアミドである。これに対して非晶質ポリアミドは溶融温度を有しない。
【0019】
発明者は溶融温度Tf2を有する上記第2のポリアミドを添加することで、上記組成物から機械特性が高い、特にモジュラスが高い材料または物品を製造することができるということを見出した。本発明組成物は、従来のPPAまたはMXD.6の成形温度では破壊される一種以上の強化材および/また添加剤を導入可能な成形温度を示すということも見出した。
【0020】
さらに、驚くことに、本発明の組成物から得られる材料または物品の機械特性(縦弾性係数)は、MXD.10またはMXD.10/Zの結晶化が高くなることで、射出成形段階で選択する金型温度にほとんど依存しないということも見出した。従って、本発明組成物は温度調節熱伝達液として水またはオイルを使用する任意タイプの金型で使用できるという有利な利点を有する。従来公知の金型温度以下、特に100℃以下、好ましくは90℃以下の金型温度で射出成形を行うことができる。
【0021】
以下に記載する実施例から分かるように、金型温度は90℃以下にすることができ、35℃程度でも有効である。また、例えばPPAまたはMXD.6で共通して使われている100℃以上の金型温度での使用も可能である。
【0022】
PPAまたはMXD.6をベースにした組成物と比較して、本発明組成物は、エネルギー消費量が少なく、成形温度および金型温度が低い。
【0023】
本発明の一つの好ましい実施例は、溶融温度Tf2が下記の関係を満足する:
Tf1−30℃≦Tf2<Tf1+10℃
【0024】
本発明では、第1および第2のポリアミドは別々のポリアミドである。
【0025】
本発明組成物は2つの成分すなわち第1と第2のポリアミドだけから成ることができる。
【0026】
また、第1および第2のポリアミドの2種と、第1のポリアミドの定義および/または第2のポリアミドの定義ではない少なくとも一種の他のポリアミドとから成ることもできる。
【0027】
本発明組成物の第1のポリアミドは式:MXD.10/Zで表され、2つの別々の繰返し単位、一つは(MXD.10)、他方がZ(Zが0以外の場合)から成ることができる。
【0028】
式:MXD.10/ZのZの比率は、0モル%〜10モル%(両端を含む)、好ましくは0モル%〜5モル%(両端を含む)である。
【0029】
本明細書で「〜」という表現は、特に断らない限り、範囲の両端を含む。
【0030】
式:MXD.l0/Zにおいて、Zはアミノ酸から得られる単位、ラクタムから得られる単位および式:(Caジアミン).(Cb二酸)で表される単位)の中から選択される単位に対応する。ここで、aはジアミンの炭素数を表し、bは二酸の炭素数を表す。
【0031】
このポリアミドは下記の重縮合で得られる:
(1)メタ−キシレンジアミン(MXDまたは1,3-キシレンジアミンともよばれる)またはMXDとパラ-キシレンジアミン(PXDまたは1,4-キシリレン−ジアミンともよばれる)との混合物(MXDが混合物の主成分)、
(2)セバシン酸(C10の二酸である直鎖脂肪族)、
(3)α、ω-アミノカルボン酸、ラクタムまたはCaジアミンとCb二酸(Zが存在する場合)
【0032】
Z=0の場合、第1のポリアミドは式:MXD.10で表されるホモポリアミドである。
【0033】
MXD(またはMXDと上記PXDとの混合物)とセバシン酸との重縮合で得られる式:MXD.10の第1のポリアミドは本発明の特に有利な実施例である。
【0034】
Zが存在する場合、第1のポリアミドはコポリアミドである。
【0035】
3つ以上の異なる繰返し単位のペアーを有する第1のポリアミドであってもよい。
【0036】
Zがα-ωアミノカルボン酸を表す場合には、例えば9-アミノノナン酸(Z=9)、lO-アミノデカン酸(Z=1O)、12-アミノドデカン酸(Z=12)、11-アミノウンデカン酸(Z11)およびその誘導体、特にN- ヘプチル-11-アミノウンデカン酸から選択できる。
【0037】
Zがラクタムを表す場合には、特にカプロラクタム(Z=6)およびラウリルラクタム(Z12)から選択できる。
【0038】
Zが式:(Caジアミン).(Cb二酸)で表される単位の場合、Caジアミンは直鎖または分岐鎖の脂肪族ジアミン、脂環式ジアミンまたは芳香族ジアミンにすることができる。Cb二酸は直鎖か分岐鎖の脂肪族ジカルボン酸、脂環式二酸または芳香族二酸にすることができる。
【0039】
Caジアミンの炭素数を表す「a」とCbジカルボン酸の炭素数を表す「b」は各々6〜36の炭素原子を表すのが好ましい。
【0040】
本発明組成物は式:MXD.10および/またはMXD.10/Zで表される一種以上の第1のポリアミドを含む。本発明組成物の第2のポリアミドは下記の不等式に従った溶融温度Tf2を有す:
Tf1−40℃≦Tf2<Tf1+20℃
【0041】
本発明の一つの有利な実施例では、溶融温度Tf2は下記を満足する:
Tf1−30℃≦Tf2<Tf1+10℃
【0042】
本発明者は、上記の第2のポリアミドを導入することで、ポリアミドMXD.10またはMXD.10/Zをベースにした組成物の結晶化を特に有効にコントロールできるということを見出した。
【0043】
ポリアミド−ベースの組成物の結晶化を開始させるために一種以上の核剤を導入することは従来技術で周知であるが、本発明の結果は特に驚くべきものである。本発明で使用する第2のポリアミドはこの種組成物の結晶化を高めるために用いている従来の核剤の定義には入らない。すなわち、無機材料の核剤ではなく、MXD.10の溶融温度より少なくとも20〜30℃高いポリアミドを使用する特許文献1(欧州特許第EP 0272503号公報)に記載の結晶質ポリアミドでもない。
【0044】
以下に記載の実施例では、本発明で定義の第2のポリアミドの存在下では本発明の組成物がより効果的に結晶すること分かる。すなわち、第2のポリアミドがMXD.10の約193℃の溶融温度に対して20℃以上高い220℃の溶融温度を有する結晶質ポリアミド(PA6.lO)である同様な組成物の場合よりもより効果的に結晶する。
【0045】
本発明の一つの有利な実施例では、第2のポリアミドはPAll、PA12、PAl0.10およびPA10.12の中から選択される。
【0046】
各々の溶融温度Tf2がTf1−40℃≦Tf2<Tf1+20℃を満たす2種以上の第2のポリアミドを使用することもできる。ここで、Tf1は第1のポリアミドMXD10またはMXD.10/Zの溶融温度である。
【0047】
特に好ましい第2のポリアミドはPAl1である。
【0048】
本発明組成物は少なくとも一種の第2のポリアミドを第1と第2のポリアミドの総重量に対して0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%含む。
【0049】
組成物の第1および/または第2のポリアミドの全部または一部をバイオベース(biobased)すなわちASTF規格 D6866で決まる有機炭素から成るバイオマスから得られるものにすることができる。この場合、本発明組成物自体が部分的にバイオベースであるとみなされる。この点が化石原料から得たポリアミドをベースにした組成物に比べて本発明組成物の利点である。
【0050】
特に、単位MXD.10および/または単位Zのセバシン酸はバイオベースである。同様に、第2のポリアミドがPAllはひまし油に由来するポリアミドである場合には、第2のポリアミドもバイオベースである。
【0051】
本発明の一つの有利な実施例では、本発明組成物は強化材をさらに含むことができる。
【0052】
本発明組成物に強化材を添加することで組成物から得られる材料の機械特性、特にモジュラスを補強することができる。強化材の種類および量は達成すべきモジュラスのターゲット値に適応させる。ガラス繊維の場合、モジュラスは3GPa以上、例えば20GPa程度にすることができる。
【0053】
強化材はポリマーマトリックスと組合せた時にモジュラスを増加させるビーズ、長短繊維、織成または不織の連続繊維、織成または不織のマット、粉砕物、粉末にすることができる。強化材は例えばガラスビーズ、繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ポリマー繊維、天然繊維(例えば植物または動物繊維)およびこれらの混合物の中から選択できる。
【0054】
バイオマスから得られる強化材が有利である。換言すればASTF規格 D6866で決まる有機性炭素から成るバイオベースの強化材にすることができる。
【0055】
本発明で使用可能なバイオベースの強化材としては下記が挙げられる:
(1)植物繊維(種の種子の毛に由来する繊維、綿、カポック、植物の茎から取り出した靱皮セルロース(亜麻、大麻、ジュート、ラミー、その他)、葉から取り出した硬質繊維(サイザル、マニラ麻、その他)、幹(マニラ大麻、木材一般)、果実の外皮(ココナッツ、その他)、
(2)毛に由来する動物繊維、例えば動物羊毛および絹のような分泌物、
(3)炭素繊維またはバイオ原料から得られるカーボンナノチューブ、
(4)バイオ原料から得られるポリマー繊維、
(5)樹皮、ピールまたはピップ(ハシバミ、堅果類、その他)、甲皮動物(カニ、その他)、穀類(米、その他)の砕製物。
【0056】
本発明組成物の成形温度を考慮すると、強化材は広範囲の中から選択でき、例えば植物繊維から選択できる。これは本発明の実用上、経済上および技術上の大きな利点である。事実、食物繊維は他の強化材と比較して密度が小さいので、植物繊維から成る強化材を含む組成物は他の組成物より軽量であるという利点を有する。
【0057】
本発明の一つの実施例では、強化材は繊維、好ましくはガラス繊維および/または炭素繊維であるのが好ましい。
【0058】
強化材の重量比率は本発明の組成物の総重量に対して0%〜70%、有利には15%〜65%、より好ましくは20%〜60%である。
【0059】
本発明の他の有利な実施例では、組成物はポリアミド-ベースの組成物で共通して使用される少なくとも一種の添加剤をさらに含むことができる。
【0060】
本発明組成物の成形温度は低いので、PPAまたはMXD.6をベースにした組成物の場合より広範囲から添加剤を選択できる。
【0061】
添加剤はバイオベースの添加剤にすることができる。換言すれば、ASTF規格 D6866で決きまる有機性炭素から成るバイオマスから得られる添加剤にするのが有利である。
【0062】
本発明組成物に導入可能な添加剤の量および種類は所望の効果に依存する。
【0063】
添加剤は充填剤、染料、安定剤、特に紫外線安定剤、可塑剤、衝撃緩衝剤、界面活性剤、核剤、顔料、光沢剤、抗酸化剤、滑剤、難燃剤、天然ワックスおよびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一つの添加剤にすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
充填剤にはシリカ、カオリン、マグネシアおよび/または酸化チタンが含まれる。
【0065】
また、カーボンブラック、グラファイトまたはカーボンナノチューブのような伝導性充填剤にすることもできる。この種の充填剤を用いることで本発明組成物およびこの組成物から得られる材料に静電気防止特性を与えることができる。
【0066】
添加剤には当業者に公知の核剤、例えばタルクが含まれる。本発明組成物を結晶化させることは必須ではないが、核剤を本発明組成物に導入することができる。
【0067】
核剤の重量配合比率は本発明組成物の総重量に対して0%〜5%、有利には0.3%〜4%にすることができる。
【0068】
本発明組成物はさらに、一種以上の難燃剤、例えばMg(OH)2、メラミン・ピロリン酸塩、メラミンシアヌレート、ポリリン酸アンモニウム、ホスフィン酸またはジホスフィン酸金属塩、ホスフィン酸またはジホスフィン酸の少なくとも一種の金属塩を含むポリマーを含むことができる。
【0069】
上記の塩は例えばアルミニウムメチルエチルホスフィナートおよびアルミニウム・ジエチルホスフィナートから選択できる。この種の金属塩を含む混合物はClariant社からExolit 0P1311、0P1312、0P1230およびOPl3l4 の商品名で市販されている。
【0070】
本発明成物の成形温度から、難燃剤は広範囲から選択でき、それが本発明の経済上および技術上の利点である。
【0071】
難燃剤の重量配合比率は本発明の組成物の総重量に対して0%〜35%、有利には10%〜30%、より好ましくは15%〜25%である。
【0072】
本発明の有利な組成物の各種化合物の重量配合比率は下記である:
(1)10%〜100%の第1のポリアミドMXD.10/Z、好ましくはMXD.10および第2のポリアミド、好ましくはPAll(第2のポリアミドの重量配合比率は第1と第2のポリアミドの0.1%〜20%)
(2)0%〜70%の炭素および/またはガラス繊維、
(3)0%〜5%の核剤、例えばタルク、
(4)0%〜35%の難燃剤。
【0073】
本発明組成物は構造物の製造で用いられる。本発明組成物のみから成る場合、この構造は単一層構造にすることができる。構造物は多層構造でもよい。少なくとも2層から成る場合、異なる層の少なくとも一つの層を本発明組成物で作ることができる。
【0074】
単一層または多層の構造物は繊維、フィルム、チューブ、中空体または射出成形品の形にすることができる。本発明は特に射出成形で得られる物品、品目の生産に特に適している。
【0075】
本発明は、上記本発明組成物の製造方法を提供する。本発明組成物は、ポリマーおよび本発明組成物の一部を形成する任意添加剤および/または強化材を均一に混合する任意の方法で製造できる。この方法には溶融押出し、圧縮、ローラ加工が含まれる。
【0076】
特に、本発明組成物は、ポリマーと任意の添加剤および繊維の全てを溶融状態で混合し後、例えば当業者に公知の機械、例えば二軸押出機、共グラインダまたはミキサーでコンパウンディングすることでペレットの形に成形できる。
【0077】
上記製造方法で得られる本発明組成物は次の成形で当業者に公知の機械、特に射出成形機または押出機によって成形される。
【0078】
また、本発明組成物は二軸押出機へ導入できる、この場合には中間ペレタイジング段階無しに当業者に公知の射出成形機または押出機へ供給できる。
【0079】
本発明は特に、射出成形段階を含む上記組成物から得られる物品の成形方法に関するものである。
【0080】
この種の物品は少なくとも一種の上記組成物を用いた共押出し、多重射出、押出成形、射出成形で得ることができる。
【0081】
本発明はさらに、本発明組成物から得られる物品と、この物品の使用とを提供する。
【0082】
上記物品は自動車分野、建設分野または家庭分野、電気・エレクトロニクス、医療またはスポーツ分野で有利に使用できる。
【0083】
本発明組成物はPPAまたはMXD.6をベースにした組成物より密度が小さいので、本発明組成物から得られる物品は同じ容積でより軽量になる。
【0084】
本発明組成物は電気および電子部品、要素の全部または一部、例えば封入ソレノイド、ポンプ、電話、コンピュータ、プリンタ、写真複写機、モデム、モニター、リモートコントロール装置、カメラ、遮断器、電気ケーブル、光学ファイバ、開閉器およびマルチメディア装置の製造で有利に使用できる。電気、電子部品、要素は上記商品の構造部分(ケーシング、支持枠、その他)だけでなく、その付属品(イヤホーン、連結要素、ケーブル、その他)を含む。
【0085】
本発明組成物はさらに、自動車部品の全部または一部、例えばチューブ接続具、ポンプ、アンダフード射出成形品、バンパー、床板およびドアの射出成形品の製造で使用できる。
【0086】
本発明成物はさらに、包装材料、スポーツ様子ン、レジャー用品、医療、外科機器、自転車部品(サドル、ペダル等)、履物のリジッド要素の全部または一部の製造でも使用できる。
【0087】
本発明組成物はさらに、家庭機器(空調装置等)、台所電化製品(コーヒーメーカー、乾燥器、水洗機、食器洗い機)の要素の全部または一部の製造でも使用できる。
【0088】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0089】
組成物1.1〜1.5、2.1〜2.6および3の製造
各組成物を下記化合物から製造した:
PA MXD.10
57%のバイオベースの炭素を含む、1,3- キシレンジアミンとドデカン二酸(セバシン酸)との重縮合で得られるホモポリアミド(Arkema社)、溶融温度は193℃。
PA 11
100%のバイオベースの炭素を含む、11-アミノウンデカン二酸の重縮合で得られるホモポリアミド(Arkema社)、溶融温度は185℃。
PA 6.10
ヘキサンジアミンとセバシン酸(Arkema社)の重縮合によって得られるホモポリアミド、溶融温度は220℃。
Steamic OOS DG タルク
核剤(Luzenac社)
ガラス繊維
CT FT 692(ASAHI社)として市販の強化材
Irganox 1010
抗酸化剤(CIBA社)
ステアリン酸カルシウムおよびWax E
滑剤/離型剤(それぞれBASF社およびCECA社)
【0090】
研究の第1部では、共回転するHaakeの二軸押出機を使用して260℃の設定温度で各成分を混合(コンパウンディング)することでガラス繊維を含まない組成物を調製した。各組成物の各成分の重量配合量は[表1]に示す。各組成物は第1バーレルの供給ホッパーへ導入した。
【0091】
【表1】

【0092】
組成物1.1、1.2および1.3は比較例の組成物であり、組成物1.4と1.5は本発明の組成物である。比較例の組成物1.2は特許文献1(欧州特許第EP 0272 503号公報)に記載の組成物である。
【0093】
研究の第2部では、共回転するMC26の二軸押出機を使用して260℃の設定温度で各成分を混合(コンパウンディング)することでガラス繊維を含む組成物を調製した。各組成物の各成分の重量配合量は[表2]に示す。各組成物は第1バーレルの供給ホッパーへ導入し、ガラス繊維はサイドフィードで導入した。
【0094】
【表2】

【0095】
組成物2.1〜2.3および2.5は比較例の組成物であり、組成物2.4と2.6は本発明の組成物である。比較例の組成物2.3は特許文献1(欧州特許第EP 0272 503号公報)に記載の組成物である。
【0096】
研究の第3部では、共回転するWerner 40の二軸押出機を使用して260℃の成形温度で各成分を混合(コンパウンディング)することでガラス繊維を含む組成物を調製した。各組成物の各成分の重量配合量は[表3]に示す。各組成物は第1バーレルの供給ホッパーへ導入し、ガラス繊維はサイドフィードで導入した。
【0097】
組成物3の各成分は[表2]に示した組成物2.6と同じものである点に注意されたい。
【0098】
【表3】

【0099】
組成物1.1〜1.5、2.1〜2.6および3の射出成形
各組成物1.1〜1.5、2.1〜2.6および3を、金型温度を変えた以外は下記の同じ条件で射出成形した:
(1)金型フィード温度:240/260℃
(2)金型温度:35℃または90℃または130℃
(3)流速:27cm3/s
(4)サイクルタイム:60秒(20秒の保持時間と40秒の冷却時間に対応)
【0100】
材料の特徴付け
(A)DSC解析による組成物1.1〜1.5の結晶化の研究
熱伝達液としての水を使用した90℃の金型に組成物1.1〜1.5を射出して80×10×4 mm3のバーを作った。各バーからDSC解析用サンプルを採った。使用した分析プロトコルは以下の通り:
(1)20℃での温度平衡、
(2)20℃/分の加熱速度で280℃まで第1加熱。
【0101】
第1加熱中に系に供給されるエネルギーによって成形段階(この場合には射出成形)で結晶しなかった組成物の部分の結晶化が生じる。この点で測定される結晶化のエンタルピー(J/g)によって上記現象が定量化できる。その後の溶融温度で組成物は溶融し、特に射出段階で結晶化した組成物の部分と第1加熱中に結晶化した組成物の部分が溶融する。この点で測定される溶融エンタルピー(J/g)によって上記現象が定量化できる。
【0102】
結晶化エンタルピー(DSC解析の第1加熱時の測定値)/ 溶融エンタルピー(DSC解析の第1加熱時の測定値)比から射出成形中に容易に結晶可能な系のキャパシティの数量化ができる。この比が小さい程、系が成形段階中により容易に結晶する(これが本発明が所望する目的である)。DSC解析結果は[表4]に示した。
【0103】
【表4】

【0104】
本発明組成物1.4および1.5の結晶化エンタルピー/溶融エンタルピー比は比較例の組成物1.1、1.2および1.3のそれより小さいことがわかる。本発明組成物1.4および1.5は射出成形による成形で比較例の組成物1.1、1.2.および1.3より容易に結晶化させることができる。
【0105】
特に、組成物1.2および1.4で得られた比を比較することで、185℃の溶融温度を有するPAllは220℃の溶融温度を有するPA6.10より大きな核化パワーを有することが分かる。この観測結果は(MXD.10の溶融温度より少なくとも20℃高い溶融温度を有する結晶質ポリアミドを導入することを教えている)特許文献1(欧州特許第EP 0272 503号公報)の教えとは違う。
【0106】
さらに、組成物1.3および1.4で得られた比を比較すると、PAl1はタルクより大きな核化パワーを有することが分かる。さらに、PAllとタルクから成る組成物1.5が結晶化エンタルピー/溶融エンタルピー比の最大値を与えることも観測される。
【0107】
(B)DSC解析による組成物2.1〜2.6の結晶化の研究
95℃の金型で組成物2.1〜2.6から射出成形でISO規格5271BAのプロトコルに従った厚さ2mmの引張試験片を作った。試験片が得られる時間である「サイクル時間」は15秒である。
次いで、サンプルをDSC解析した。使用した分析プロトコルは組成物1.1〜1.5で作ったバーのDSC解析に記載のものと同じものである。DSC解析結果は[表5]に示す。
【0108】
【表5】

【0109】
ここでも再び、本発明組成物2.4および2.6の結晶化エンタルピー/溶融エンタルピー比が下記であることが分かる:
(1)第2のポリアミドを含まない比較例の組成物2.1および2.2より低い。
(2)第2のポリアミドとしてPA6.10を含み、必要に応じてタルクを含む各比較例の組成物2.3および2.5より低い。
【0110】
本発明組成物2.4および2.6は射出成形段階中に比較例の組成物2.1、2.2、2.3および2.5より容易に結晶する。
組成物2.3および2.4で得られた比を比較することによって、ガラス繊維の存在下でも、PAllはPA6.10よりも核化パワーが高い点に注意されたい。この観測結果はタルクを核剤として組成物に加えた場合でも同じである。本発明組成物2.6で得られた比は比較例の組成物2.5以下である。
最後に、PAllとタルクを含む組成物2.6は結晶化エンタルピー/溶融エンタルピー比の値が最大になることが分かる。
【0111】
(C)組成物3の機械特性の研究
引張りモジュラス(縦弾性係数)
ISO規格527lAプロトコルに従って異なる金型温度(35℃、90℃および130℃)で組成物3から射出成形によって厚さ4mmの引張試験片を作った。試験片が得られるまでの時間である「サイクル時間」は40秒である。
【0112】
試験片はコンディショニングしないでテストするか、23℃で50%相対湿度の雰囲気で15日間のコンディショニン条件後にテストした。試験片はISO規格527で評価した。引張りモジュラス(縦弾性係数)はGPaで表される。
【0113】
シャルピー衝撃強度
組成物3から異なる金型温度(35℃、90℃および130℃)で射出成形して80×10×4 mm3のバーを作った。各バーはコンディショニングしないでテストするか、23℃で50%相対湿度の雰囲気で15日間のコンディショニンした後にテストした。
ISO規格179ieUに従って7.5ジュールの振り子でテストした。すなわち、バーが吸収したエネルギを測定した(kJ/m2)。
【0114】
引張りモジュラス(縦弾性係数)およびシャルピー衝撃の測定結果は射出-金型温度の関数として[表6][表7]に示す。[表6]はドライ条件(コンディショニングなし)でバーを測定した結果である。[表7]は試験片およびバーを23℃で50%相対湿度の雰囲気で15日間のコンディショニンした後にテストした結果を示す。
【0115】
【表6】

【表7】

【0116】
本発明の組成物3は使用した射出金型温度およびコンディショニング条件にかかわりなく同様かつ最適な機械特性を有する点に注意されたい。
本発明組成物は金型をオイルでも水でも調整して使用できるという利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:MXD.10またはMXD.10/Zで表される、溶融温度Tf1を有する少なくとも一種の第1のポリアミド(ここで、Zはアミノ酸から得られる単位、ラクタムから得られる単位および式(Caジアミン).(Cb二酸)で表される単位の中から選択される単位であり、上記aはジアミンの炭素の数を表し、bは二酸の炭素数を表す)と、少なくとも一種の第2のポリアミドとから成る組成物において、
上記の少なくとも一種の第2のポリアミドが下記の関係を満足する溶融温度Tf2を有することを特徴とする組成物:
Tf1−40℃≦Tf2<Tf1+20℃
【請求項2】
溶融温度Tf2が下記の関係を満足する請求項1に記載の組成物:
Tf1−30℃≦Tf2<Tf1+10℃
【請求項3】
上記の少なくとも一種の第2のポリアミドの配合比率が第1および第2のポリアミドの総重量に対して0.1重量%〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
第2のポリアミドがPA11である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
式:MXD.l0/ZのZの比率が0〜10モル%(0%は含まない)、好ましくは0〜5モル%(0%は含まない)である請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
第1のポリアミドがホモポリアミドMXD.10である請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
強化材、好ましくは繊維、好ましくはガラス繊維および/または炭素繊維をさちらに含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
上記強化材を組成物の総重量に対して0重量%〜70重量%(0重量%は含まない)、好ましくは15重量%〜65重量%、さらに好ましくは20重量%〜60重量%含む請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
充填剤、染料、安定剤、可塑剤、衝撃緩衝剤、界面活性剤、核剤、顔料、光沢剤、抗酸化剤、滑剤、難燃剤、天然ワックスおよびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一種の添加剤をさらに含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
核剤を組成物の総重量に対して0重量%〜5重量%(0重量%は含まない)、好ましくは0.3重量%〜4重量%さらに含む請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
難燃剤を組成物の総重量に対して0重量%〜35重量%(0重量%は含まない)、好ましくは10重量%〜30重量%、さらに好ましくは15重量%〜25重量%さらに含む請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物の、単一層構造物または多層構造物の少なくとも一つの層での使用。
【請求項13】
上記構造が繊維、フィルム、チューブ、中空体または射出成形品の形をしている請求項12に記載の使用。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物から得られる物品。
【請求項15】
射出成形段階を含む請求項14に記載のの物品の製造方法。
【請求項16】
請求項15の物品の、自動車分野、建設分野または家庭用品、電気、エレクトロニクス用品、医療機器またはスポーツ用品での使用。

【公表番号】特表2012−532240(P2012−532240A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519035(P2012−519035)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051377
【国際公開番号】WO2011/010039
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】