説明

ポリアミド樹脂組成物成形体の製造方法、およびそれより得られる成形体

【課題】ポリアミド樹脂組成物よりなる引張強度の高い成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂組成物よりなる厚み方向に二層構造を有する成形体S1、S2の製造方法であって、厚み方向に二層構造となった成形体であり、下記式(I)、(II)を満たすことを特徴とするポリアミド樹脂組成物成形体の製造方法。(I)4.5×10−3<A×(B−C)≦15×10−3(II)(Tm−Tc)/t>0.6[ただし、式(I)中、Aはポリアミド樹脂組成物成形体の流れ方向Lの線膨張係数(1/℃)、B、Cはそれぞれ成形時の樹脂温度(℃)、金型温度(℃)を示し、式(II)中、Tm、Tcはそれぞれポリアミド樹脂組成物の融点(℃)、固化温度(℃)、tは一次成形S1が開始されてから二次成形S2が開始されるまでの時間(sec)を示す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物よりなる引張強度の高い成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は結晶性熱可塑性樹脂であり、優れた機械的強度、熱安定性、成形性耐薬品性などの特性を有する。特にガラス等を充填した強化ポリアミド樹脂は、自動車分野などで金属代替の材料として利用されている。
【0003】
一般的に、ポリアミド樹脂は結晶化速度が速く、また成形収縮率も高いため、特に肉厚の成形体の射出成形では、金型内への溶融樹脂の充填後、金型冷却により溶融樹脂の冷却固化が急激に進む。その際、成形体中心部が固化するより前に、金型内のゲート部近傍の溶融樹脂も固化(ゲートシール)してしまい、成形体のヒケ防止のために、保圧をかけてもゲートシールによって、保圧がかからず中心部にボイドが残りやすい。このようなボイドは成形体の引張強度を低下させる要因であった。
【0004】
肉厚な成形体中に発生するボイドを抑える方法として、(1)ポリアミド66樹脂とエチレンアイオノマー樹脂の樹脂混合物に対し、ガラス繊維を配合する方法(特許文献1)や、(2)長繊維強化熱可塑性樹脂を使用する方法(特許文献2)などが提案されている。(1)の技術は、特殊な樹脂を用いる必要があり、(2)は、特殊な樹脂ペレットの製造装置が必要になるなどコストアップとなり、産業上の利用範囲は狭くなっている。
【0005】
一方で、(3)自動車用エンジン冷却水系部品などの中空成形体を製造するために、予め成形された複数の一次成形品を金型内に配置し、その接合部に二次成形体を射出成形する方法(特許文献3)、(4)一次成形体の表面に二次成形体を射出し一体化された成形品を得る方法(特許文献4)が開示されている。しかし、これらの成形方法は、いずれも薄肉の中空成形体を得るための成形方法であって、これら成形方法を用いて、肉厚の成形体を成形する場合に、成形体中のボイドの発生を抑制して成形すること、成形体の機械的強度を上げることは難しかった。
【0006】
また、ガラス繊維を充填したポリアミド樹脂を用いた射出成形では、成形体の厚みが増すにしたがって、成形体表層部では樹脂流れ方向にガラス繊維が配向するのに対し、成形体中心部では、樹脂流れに対し直交方向にガラス繊維が配向する傾向があり、その結果、成形体の流れ方向の引張強度が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−112877号公報
【特許文献2】特開2002−85109号公報
【特許文献3】特開平11−179756号公報
【特許文献4】特開平11−129284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のような問題に対して、本発明者らは先に特願2009-011959号において、厚さ8mm以上の高い引張強度を有する成形体およびその製造方法を提案した。すなわち、ガラス繊維を配合したポリアミド樹脂組成物を射出成形にて成形する際に、ポリアミド樹脂組成物成形体の流れ方向の線膨張係数(1/℃)、成形時の樹脂温度(℃)、成形時の金型温度(℃)の間に下記式(IV)に示す関係を満足させることで、上記成形体を得るものである。このような成形体を得るためには、二色射出成形法を用いることが必要であった。
【0009】
【数1】

【0010】
ここで、「二色射出成形」とは、一つの成形体を得る際に、二段階に分けて成形する方法であり、一段階目で得られる成形体(以下、一次成形体という)に対し、二段階目で得られる成形体(以下、二次成形体という)を金型内で接合する方法である。特願2009-011959号では、特に厚み方向に二層構造となった成形体とすることで、一次成形体と二次成形体の接合界面でのマトリックス樹脂、またはガラス繊維を成形体の樹脂流れ方向へ配向させることができ、得られる成形体の引張強度を向上させることができた。
【0011】
しかし、このような成形方法を用いたとしても、上記式(IV)で示す{A×(B−C)}の値が、(4.5×10−3)より大きくなる場合には、成形体の成形体の流れ方向の引張強度を十分には強くできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の成形条件を選択し二色射出成形することにより、上記式(IV)を満たさない場合でも、引張強度の強い肉厚の成形体を得られることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち本発明の要旨は下記の通りである。
【0014】
(1)ポリアミド樹脂組成物よりなる厚み方向に二層構造を有する成形体の製造方法
であって、下記式(I)、(II)を満たすことを特徴とするポリアミド樹脂組成物成形体の製造方法。
【0015】
【数2】

【数3】

[ただし、式(I)中、Aはポリアミド樹脂組成物成形体の流れ方向の線膨張係数(1/℃)、B、Cはそれぞれ成形時の樹脂温度(℃)、金型温度(℃)を示し、式(II)中、Tm、Tcはそれぞれポリアミド樹脂組成物の融点(℃)、固化温度(℃)、tは一次成形が開始されてから二次成形が開始されるまでの時間(sec)を示す。]
(2)ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド樹脂100質量部とガラス繊維50〜120質量部を含有することを特徴とする(1)のポリアミド樹脂成形体の製造方法。
(3)ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド樹脂100質量部と無機フィラー0.1〜50質量部を含有することを特徴とする(1)のポリアミド樹脂成形体の製造方法。
(4)(1)〜(3)のポリアミド樹脂成形体の製造方法で成形されてなる成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、ポリアミド樹脂組成物よりなる成形体の製造において、厚み方向に二層構造となるよう二色射出成形することにより、厚み方向に一層構造である一色射出成形である成形体よりも高い引張強度を有する成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明における、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物からなる二色射出成形体の断面概略図を示す。
【図2】一色射出成形体の断面概略図を示す。
【図3】本発明において、引張強度の評価を行なった際に用いた二色射出成形体の形状を示す。
【図4】引張強度の評価を行なった際に用いた一色射出成形体の形状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、厚み方向に二層構造を有する成形体とは、二色射出成形を用いて得ら
れる成形体のことである。二色射出成形体とは、一次成形体と二次成形体を金型内で接合する射出成形方法である。接合の状態は、成形体の長さ方向で一次成形体/二次成形体となる場合や、成形体の厚み方向で一次成形体/二次成形体(図4参照)となる場合があるが、本発明では、厚み方向で一次成形体/二次成形体となる成形体(以下、二色射出成形体という)を取り扱うものとする。
【0019】
厚み方向の厚み比率としては、一次成形体厚み/二次成形体厚み=50/50が、本発明の強い引張強度を有する成形体を得るために最もバランスがよいが、上記成形体の形状によっては、厚み比率を適宜調整することができる。
【0020】
本発明においては、ポリアミド樹脂組成物の流れ方向の線膨張係数A(1/℃)、成形時の樹脂温度B(℃)、成形時の金型温度C(℃)の間に、下記式(I)で示すような関係があることを必要とする。
【0021】
【数4】

【0022】
さらに、成形時の樹脂温度Bは、ポリアミド樹脂組成物の融点≦B≦ポリアミド樹脂組成物の融点+70℃の関係を有することが好ましい。成形時の樹脂温度が、ポリアミド樹脂組成物の融点より低い場合はポリアミド樹脂組成物を十分に可塑化することができず、また、ポリアミド樹脂組成物の融点+70℃を越える場合はポリアミド樹脂組成物が熱劣化するため好ましくない。
【0023】
また、成形時の金型温度Cは、C≦ポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度+50℃の関係を有することが好ましい。 成形時の金型温度が、ポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度+50℃を越える場合は成形体の冷却を十分に行うことができず、金型内で固化するのが遅くなり、成形サイクルが長くなり、二色射出成形の一次成形体と二次成形体の界面の接着強力が弱くなるので好ましくない。
【0024】
本発明では、上記(I)式において、A×(B−C)>4.5×10−3を満足すると同時に、A×(B−C)≦15×10−3 を満足する必要がある。
{A×(B−C)}が(4.5×10−3)以下の場合は、特願2009-011959号の(IV)式を満足する場合であり、同出願の発明により、強い引張強度を有する二色射出成形体を得ることができる。
{A×(B−C)}が(15×10−3)を越える場合は、二色射出成形後の一次成形体と二次成形体の界面における接着強度が十分でなく、成形体の引張強度が低くなる。
【0025】
本発明においては、ポリアミド樹脂組成物の融点Tm(℃)および固化温度Tc(℃)と一次成形が開始されてから二次成形が開始されるまでの時間t(sec)の間に下記式(II)で示される関係が成り立つことを必要とする。
【0026】
【数5】

【0027】
なお、一次成形が開始されてから二次成形が開始されるまでの時間t(sec)とは、
一次成形体を射出成形するための溶融樹脂がキャビティー内に入った瞬間の時刻t1から、一次成形体の成形が完了し、金型内より一次成形品を取り出し、金型の反転、またはインサート成形により、二次成形体を射出成形するための溶融樹脂がキャビティー内に入った瞬間の時刻t2までの時間であり、次式(V)で求めることができる。
【0028】
【数6】

【0029】
二色射出成形とは、まず、一次成形体を射出成形し、次いで、金型内の一次成形体の表面の一部に、二次成形材料を射出成形し、一次成形体と二次成形体とを融着させる方法である。
【0030】
一次成形体の成形が完了してから、二次成形体の成形が開始されるまでの、射出成形機の操作としては、用いる成形機の方式により異なるが、(1)一次成形体を得た後、それを一旦金型から取り出し、その後、別の金型のキャビティーにこの一次成形体を挿入し、二次成形体を射出成形してもよいし、(2)一次成形体を得た後、金型のキャビティーをスライド機構等で拡張した後、二次成形体を射出成形してもよい。ただし、(2)は、(1)よりも成形時の時間tが短くなる傾向があり、上記式(II)を満足させやすくなるため好ましい。
【0031】
本発明では、上記式(I)、式(II)で示される関係を満足させることで、一色射出成形体(通常の射出成形体)よりも高い引張強度を有する二色射出成形体を得ることができる。すなわち、一色射出成形体の引張強度D(MPa)と、二色射出成形体の引張強度E(MPa)の間に、下記式(III)の関係が得られる。
【0032】
【数7】

【0033】
本発明の製造方法は、特に、厚み8mm以上の成形体の成形に適用すると、引張強度の高い成形体を得ることができる。一次成形体の成形体の厚みは、2mm以上が好ましく、より好ましくは2.5mm以上、さらに好ましくは3mm以上である。2mm未満であると、特に、ポリアミド樹脂組成物にガラス繊維を配合する場合は、ガラス繊維の流れ方向の領域が狭くなり、得られたポリアミド樹脂組成物成形体の引張強度の向上効果が低い。
【0034】
本発明におけるポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を主体とする樹脂組成物であり、強化材として、ガラス繊維、または無機フィラーを配合してもよい。また、各種添加剤の配合を行ってもよい。
【0035】
ポリアミド樹脂としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMDT)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)およびこれらの混合物ないし共重合体等が挙げられる。中でもナイロン6、ナイロン66が特に好ましい。
【0036】
ポリアミド樹脂の相対粘度(分子量)には、特に制限はないが、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件で測定した相対粘度が、1.5以上、3.5未満であることが好ましい。さらに好ましくは2.0以上3.5未満である。相対粘度が1.5未満であると、得られたポリアミド樹脂組成物の強度が低下する傾向がある。相対粘度が3.5を超えると溶融粘度が高くなり、加工適性が悪くなる傾向がある。
【0037】
ポリアミド樹脂に配合されるガラス繊維は特に限定されず、公知の製造方法により製造されたガラス繊維を用いることができる。ガラス繊維の表面には、マトリックス樹脂との密着性、均一分散性の向上のために、シランカップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニア系カップリング剤などのカップリング剤等のカップリング剤、および皮膜形成剤などを配合した集束剤で表面処理されていてもよく、用いるガラス繊維の繊維長としては、0.5〜10mmが好ましく、1.5〜5mmがさらに好ましく、短くカットされたチョップドストランドを好適に用いることができる。ガラス繊維の断面は、丸型、偏平型、ひょうたん型、まゆ型、長円型、楕円型、矩形等を用いることができるが、繊維断面が、丸型以外で、例えば、偏平型、ひょうたん型、まゆ型、長円型、楕円型、矩形である場合は、長辺と短辺との比、すなわちアスペクト比は、2〜5であることが好ましい。
【0038】
ガラス繊維の平均繊維長は100〜1000μm、ガラス繊維の繊維径は7〜15μm、アスペクト比が15以上であることがそれぞれ好ましい。
【0039】
ポリアミド樹脂に配合されるガラス繊維の配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、ガラス繊維50〜120質量部配合することが好ましく、60〜110質量部配合することがより好ましい。ガラス繊維の配合が、50質量部未満では得られる成形体の引張強度が不足し、120質量部を越えると溶融混練や二色射出成形を行う際の操業性が低下する。
【0040】
ポリアミド樹脂に配合される無機フィラーとしては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、ゼオライト、ハイドロタルサイト等の板状フィラー、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等の繊維状フィラーが挙げられる。無機フィラーの表面には、エポキシ、ウレタン、アミノシラン等で表面処理されていても良い。
【0041】
板状フィラーの大きさとしては、厚みは、0.1〜10μm であることが好ましく、長辺と短辺との比、すなわちアスペクト比は、1〜30であることが好ましく、5〜30であることがさらに好ましい。繊維状フィラーの大きさとしては、繊維長さは、0.5〜10mmであることが好ましく、繊維径は0.1〜20μmであることが好ましい。
【0042】
ポリアミド樹脂に配合される無機フィラーの配合量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、無機フィラー0.1〜50質量部配合することが好ましく、0.5〜40質量部配合することがより好ましい。無機フィラーの配合が、0.1質量部未満では得られる成形体の引張強度が不足し、50質量部を越えると溶融混練や二色射出成形を行う際の操業性が低下する。
【0043】
ポリアミド樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、強化材、顔料、着色防止剤、耐候剤、耐光剤、難燃剤、可塑剤、結晶核剤、離型剤等を添加してもよい。
【0044】
熱安定剤や酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0045】
本発明の製造方法を用いて成形される成形体は、エンジンマウント、インテークマニホールド、シフトレバーハウジング、スタビライザー・リンケージロッド、ドアミラーステイ、ペダルモジュール、ステアリングホイールなどに適用できる。特に、金属代替として、高い強度保持に用いられる、構造部材として使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。なお実施例および比較例に用いた原料および測定方法は次の通りである。
【0047】
1.原料
【0048】
(1)ポリアミド樹脂
・ ポリアミド6(ユニチカ社製A1030BRL、相対粘度ηrel=2.5、融点=221℃、ガラス転移温度=48℃)
・ ポリアミド66(ユニチカ社製 A125、相対粘度ηrel=2.6、融点=262℃、ガラス転移温度=50℃)
【0049】
(2)ガラス繊維
・ ガラス繊維(日東紡社製 CSG3PE−451 チョップ長さ3mm、直径13μm)
【0050】
(3)無機フィラー
・ タルク(日本タルク社製、平均粒径 8μm)
【0051】
2.測定方法
【0052】
(1)融点(Tm)、固化温度(Tc)、ガラス転移温度(Tg)
ポリアミド樹脂10mgをサンプルとし、示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で、300℃まで昇温し、ポリアミド樹脂を完全融解させた。得られた昇温曲線から融解ピークの頂点の温度を融点Tmとして求めた。次いで、一旦溶融した強化ポリアミド樹脂組成物を20℃/minで0℃まで降下させたときに得られる発熱ピークの頂点の温度を固化温度Tcとし、再び10℃/minで昇温させた時に得られるガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値を求め、これをガラス転移温度Tgとして求めた。
【0053】
(2)線膨張係数(A)
ASTM−D790 の曲げ試験片から切り出した幅3mm、長さ12.7mmの角柱を用いて、樹脂の流れ方向の線膨張係数(10−5/K)を測定した。なお、サンプルは加熱炉内で10〜160 ℃まで加熱し、20〜150 ℃間のサンプル長の変化から線膨張係数Aを求めた。
【0054】
(3)引張強度
以下のような2種の金型を準備し射出成形を行い、成形体を得た。
[金型A]:標点間距離50mm、幅12.7mm、厚さ6mmのダンベル型成形体を作成できる金型。
[金型B] : 標点間距離50mm、幅12.7mm、厚さ12mmのダンベル型成形体を作成できる金型。
(3−1) 一色射出成形体の成形および引張強度(D)の測定
[金型B]にて射出成形を行い、厚み12mmの一色射出成形体を得た。得られた一色射出成形体につき、ASTM D−638に準拠して、23℃で引張強度を測定した。
(3−2) 二色射出成形体の成形および引張強度(E)の測定
[金型A]にて一次成形体を成形した後、得られた成形体を[金型B]に移し変え、二次成形体の成形を行った。得られた成形体は、厚み方向に二層構造となった、総厚み12mmの二色射出成形体であった。得られた二色射出成形体につき、ASTM D−638に準拠して、23℃で引張強度を測定した。
引張強度が、(D)<(E)を満たすものを合格とした。
【0055】
(4)一次成形が開始されてから二次成形が開始されるまでの時間t
上記(3−2)で二色射出成形体の成形を行った際に、[金型A]にて一次成形体を射出成形するための溶融樹脂がキャビティー内に入った瞬間t1から、一次成形体の成形が完了し、得られた成形体を[金型B]に移し変え、二次成形体を射出成形するための溶融樹脂がキャビティー内に入った瞬間t2までの時間tを計測した。なお、時間tには、一次成形体の[金型A]から[金型B]への移し変えの時間を含んでいる。
【0056】
(5)成形性
上記(3−2)で二色射出成形体の成形を行った際の、一次成形体と二次成形体の界面の接着性が十分なものを○、界面間で容易に剥離してしまうものを×とした。
【0057】
(6)外観
上記(3−1)で得られた一色射出成形体、または(3−2)で得られた二色射出成形体につき、成形体の外観を目視で観察し、表面の荒れがなく、光沢があるものを◎、荒れがないが、光沢もないものを○、表面に荒れが見られれば、×とした。
【0058】
実施例1
ポリアミド6樹脂をクボタ社製連続定量供給装置を用いて、同方向二軸押出機(東芝機械製TEM37BS)の最も上流側に位置するフィード孔(トップフィード)より供給して溶融混練し、途中、ポリアミド6樹脂/ガラス繊維=100/15(質量比)となるよう、サイドフィーダーにてガラス繊維の供給を行い、混練された樹脂組成物をストランド状に押出し、20℃で水冷、カッティングを行い、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。溶融混練は、シリンダー温度240℃〜290℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量35kg/hの条件にて行った。
得られたポリアミド樹脂組成物の線膨張係数は、4.2×10−5/℃であった。また、TmとTcの差は45℃であった。このポリアミド樹脂組成物について、樹脂温度260℃、金型温度80℃で一色射出成形を行って、得られた厚み12mmの一色射出成形体の引張強度は70MPaであった。次に樹脂温度260℃、金型温度80℃で厚み6mmの一次成形体を成形し、二次成形体を同じ樹脂温度、金型温度で成形した。時間tは40secであった。この時得られた二色射出成形体の引張強度は、82MPaであり、一色射出成形体より高い値であった。その結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例2
時間tを60secに変更した以外は、実施例1と同様に二色射出成形体を得て、一色射出成形体との対比を行った。この時一色射出成形体の引張強度より、二色射出成形体の引張強度の方が高い値であった。その結果を表1に示す。
【0061】
実施例3
ガラス繊維の代わりにタルク1質量部を、ポリアミド6樹脂100質量部に対して配合した以外は、実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物を得た。線膨張係数は、表1に示すように9.6×10−5/℃であった。また、TmとTcの差は25℃であった。このポリアミド樹脂組成物を樹脂温度260℃、金型温度120℃で一色射出成形を行い、得られた厚み12mmの一色射出成形体の引張強度は、55MPaであった。次に樹脂温度260℃、金型温度120℃で厚み6mmの一次成形体を得て、二次成形体を同じ樹脂温度、金型温度で成形した。時間tは40secであった。この時得られた二色射出成形体の引張強度は、57MPaであり、一色射出成形体より高い値であった。その結果を表1に示す。
【0062】
実施例4
ポリアミド66樹脂100質量部に対して、ガラス繊維50質量部を配合して、得られたポリアミド樹脂組成物の流れ方向の線膨張係数は、表1に示すように2.0×10−5/℃であった。また、TmとTcの差は48℃であった。このポリアミド樹脂組成物を樹脂温度290℃、金型温度30℃で一色射出成形を行い、得られた厚み12mmの一色射出成形体の引張強度は、1400MPaであった。次に樹脂温度290℃、金型温度30℃で厚み6mmの一次成形体を得て、二次成形体を同じ樹脂温度、金型温度で成形した。時間tは40secであった。この時得られた二色射出成形体の引張強度は、145MPaであり、一色成形体より高い値であった。その結果を表1に示す。
【0063】
実施例5、実施例6
ガラス繊維の配合を行わないで、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂のそれぞれにつき、一色射出成形体、二色射出成形体を得て、引張強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0064】
比較例1
時間tを600secに変更した以外は、実施例1と同様に二色射出成形体を得て、一色射出成形体との対比を行った。この時一色射出成形体の引張強度より、二色射出成形体の引張強度の方が低い値であった。その結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
比較例2
実施例3と同じポリアミド樹脂組成物を用い、成形時の金型温度を80℃にした以外は、実施例3と同様に一色射出成形体と二色射出成形体を得た。成形温度を80℃としたため、{A×(B−C)}=17×10−5/℃となり式(I)を満たさなかった。また、得られた二色射出成形体は引張強度が50MPaであり、一色射出成形体の55MPaより低い値となった。その結果を表2に示す。
【0067】
比較例3
時間tを600secとした以外は、実施例4と同様に二色射出成形体を得て、一色射出成形体との対比を行った。一色射出成形体の引張強度より、二色射出成形体の引張強度の方が低い値であった。その結果を表2に示す。
【0068】
比較例4、比較例5
ガラス繊維の配合を行わないで、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂のそれぞれにつき、一色射出成形体、二色射出成形体を得て、引張強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0069】
実施例1〜6は、本発明で規定する式(I)、(II)を満足する条件でポリアミド樹脂組成物の二色射出成形を行ったため、得られた二色射出成形体は、一次成形体と二次成形体の界面の接着強力が強く、一色射出成形体よりも高い引張強度とすることができた。
【0070】
比較例1〜5は、実施例で用いた組成と同一のポリアミド樹脂組成物にて二色射出成形を行ったが、本発明で規定する式(I)、(II)の何れかを満足しない条件で二色射出成形を行ったため、得られた二色射出成形体の、一次成形体と二次成形体の界面の接着強力が弱く、一色射出成形体よりも低い引張強度であった。式(III)満足することができず、二色射出成形方法を用いて引張強度の高い成形体を得るという本発明の課題を達成することができなかった。
【符号の説明】
【0071】
S1 一次成形体
S2 二次成形体
L 樹脂の流れ方向
a 樹脂の流れとガラス繊維の向きが同方向なエリア
b 樹脂の流れとガラス繊維の向きが垂直方向なエリア。(ボイドが発生しやすい)










【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂組成物よりなる厚み方向に二層構造を有する成形体の製造方法であって、厚み方向に二層構造となった成形体であり、下記式(I)、(II)を満たすことを特徴とするポリアミド樹脂組成物成形体の製造方法。
【数1】

【数2】

[ただし、式(I)中、Aはポリアミド樹脂組成物成形体の流れ方向の線膨張係数(1/℃)、B、Cはそれぞれ成形時の樹脂温度(℃)、金型温度(℃)を示し、式(II)中、Tm、Tcはそれぞれポリアミド樹脂組成物の融点(℃)、固化温度(℃)、tは一次成形が開始されてから二次成形が開始されるまでの時間(sec)を示す]
【請求項2】
ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド樹脂100質量部とガラス繊維50〜120質量部を含有することを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド樹脂100質量部と無機フィラー0.1〜50質量部を含有することを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂成形体の製造方法で成形されてなる成形体。

























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−73374(P2011−73374A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229032(P2009−229032)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】