説明

ポリアミド樹脂組成物

【課題】 ポリアミド樹脂中の膨潤性層状珪酸塩をナノサイズに分散させることにより、機械的特性に優れ、さらには透明性、ガスバリヤ性にも優れたポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】相対粘度2.6以上のポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、膨潤性層状珪酸塩(B)1〜20質量部、1分子中に3個のグリシジル基を有する脂肪族エポキシ化合物(C)0.05〜1質量部、高級脂肪酸金属塩(D)0.05〜1質量部を含有させたポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂(A)がポリアミド11および/またはポリアミド12であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性、耐熱性に加え、透明性、ガスバリヤ性にも優れたポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリアミド樹脂は、耐熱性、機械的特性に優れた熱可塑性樹脂として用いられてきた。中でも、膨潤性層状珪酸塩を充填したポリアミド樹脂組成物は、その補強効果のみならず、ガスバリヤ性を高めた材料として、各種成形体に加工され用いられている。
さらなる機械的特性の向上を目的として、特許文献1では、ポリアミド樹脂に層状珪酸塩、3官能エポキシを配合したポリアミド樹脂組成物が提案されている。特許文献2では、ポリアミド樹脂に対しグリシジル型のカップリング剤で処理した珪酸塩を配合したポリアミド樹脂組成物が提案されている。さらに、特許文献3では、ポリアミド11を用いて層状珪酸塩、ガラス繊維、エポキシ化合物を配合したポリアミド樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/125907号パンフレット
【特許文献2】特開2008−280376号公報
【特許文献3】特開2009−35592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で得られるポリアミド樹脂組成物では、機械的特性を高めガスバリヤ性を付与することができたが、透明性を向上させることができなかった。特許文献2で得られるポリアミド樹脂組成物では、衝撃強度と弾性率を高めることはできたが、透明性を向上させることはできなかった。特許文献3で得られるポリアミド樹脂組成物では、透明性を維持しながらガスバリヤ性を付与することはできなかった。
本発明は、ポリアミド樹脂中の膨潤性層状珪酸塩をナノサイズに分散させることにより、機械的特性に優れ、さらには透明性、ガスバリヤ性にも優れたポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0007】
(1)相対粘度2.6以上のポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、膨潤性層状珪酸塩(B)1〜20質量部、1分子中に3個のグリシジル基を有する脂肪族エポキシ化合物(C)0.05〜1質量部、高級脂肪酸金属塩(D)0.05〜1質量部を含有させたポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂(A)がポリアミド11および/またはポリアミド12であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(2)膨潤性層状珪酸塩(B)が、膨潤性フッ素雲母であることを特徴とする(1)のポリアミド樹脂組成物。
(3)1分子中に3個のグリシジル基を有する脂肪族エポキシ化合物(C)がトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルおよび/またはグリセロールポリグリシジルエーテルであることを特徴とする(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物。
(4)(1)〜(3)のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機械的特性に優れ、さらには透明性、ガスバリヤ性にも優れたポリアミド樹脂組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のポリアミド樹脂組成物成形体のガスバリヤ性を評価するために用いる装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明で用いるポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド11および/またはポリアミド12を用いる必要がある。ポリアミド11、ポリアミド12は主鎖中にアミド結合を有する重合体で、ポリアミド11はウンデカンラクタムを開環重縮合するか、11−アミノウンデカン酸を重縮合したものであり、ポリアミド12はラウリルラクタムを開環重縮合するか、12−アミノドデカン酸を重縮合したものである。本発明においては、ポリアミド11、ポリアミド12は、それぞれ単独で用いてもよい。両者を併用して用いてもよい。
【0012】
ポリアミド11、ポリアミド12の相対粘度(分子量)は2.6以上である必要があり、2.8以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。相対粘度は、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件にて測定した相対粘度される。この値が2.6未満のものは膨潤性層状珪酸塩の分散が悪く、衝撃強度、ガスバリヤ性が低下する。
【0013】
本発明で用いる膨潤性層状珪酸塩(B)は、珪酸塩を主成分とする負に帯電した結晶層(シリケート層)とその層間に介在するイオン交換能を有する正に帯電したカウンターイオンとからなる構造を有する物である。シリケート層とは、膨潤性層状珪酸塩を構成する基本単位であり、層状珪酸塩の層構造を崩すこと(以下、「劈開」と呼ぶ)によって得られる板状の無機結晶である。本発明におけるシリケート層とは、この層の一枚一枚もしくは平均5層以下の積層状態を意味する。
【0014】
膨潤性層状珪酸塩(B)としては、天然品、人工品を問わず用いることができ、例えば、スメクタイト族(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、ソーコナイト等)、バーミキュライト族(バーミキュウライト等)、雲母族(フッ素雲母、白雲母、パラゴナイト、金雲母、レピドライト等)、脆雲母族(マーガライト、クリントナイト、アナンダイト等)、緑泥石族(ドンバサイト、スドーアイト、クッケアイト、クリノクロア、シャモサイト、ニマイアナンダイト等)が挙げられるが、本発明においては膨潤性フッ素雲母やモンモリロナイトが特に好適に用いられ、特に膨潤性フッ素雲母は白色度に優れているうえ、ポリアミド樹脂組成物中での分散性の向上、機械的特性の改善、ガスバリヤ性の向上効果が高いため好ましく用いることができる。
【0015】
膨潤性フッ素雲母は一般的に次式で示される構造式を有するものであり、溶融法やインターカレーション法によって得られる。
(MgLi)Si10
(式中で、0<a≦1、2.5≦b≦3、0≦c≦0.5、a+b+2c=6、Mはイオン交換性カチオンを表し、具体的にはナトリウムやリチウム等である)
【0016】
モンモリロナイトは一般的に次式で示される構造式を有するもので、天然に産出するものを水ひ処理等を用いて精製することにより得ることができる。
Si(Al2−aMg)O10(OH)・nH
(式中で、0.25≦a≦0.6、nはゼロまたは正の整数、Mはイオン交換性カチオンを表している)
また、モンモリロナイトにはマグネシアンモンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、鉄マグネシアンモンモリロナイト等の同型イオン置換体の存在が知られており、これらを用いてもよい。
【0017】
膨潤性層状珪酸塩(B)は、層間に膨潤化剤が挿入されていることが好ましい。膨潤性層状珪酸塩を予め膨潤化剤と接触させて層間距離を拡げておくことで、樹脂マトリクス中にシリケート層を均一に分散させる上で重要である。膨潤化剤としては有機カチオンが好ましく、有機アンモニウムイオンや有機ホスホニウムイオンが挙げられる。
【0018】
有機アンモニウムイオンとしては、1級ないし4級のアンモニウムイオンが挙げられる。1級アンモニウムイオンとしては、オクチルアンモニウム、ドデシルアンモニウム、オクタデシルアンモニウム等が挙げられる。2級アンモニウムイオンとしてはジオクチルアンモニウム、メチルオクタデシルアンモニウム、ジオクタデシルアンモニウム等が挙げられる。3級アンモニウムイオンとしては、トリオクチルアンモニウム、ジメチルドデシルアンモニウム、ジドデシルモノメチルアンモニウム等が挙げられる。4級アンモニウムイオンとしてはテトラエチルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ジオクタデシルジメチルアンモニウム、ドデシルジヘキシルメチルアンモニウム、ジヒドロキシエチルメチルオクタデシルアンモニウム、メチルドデシルビス(ポリエチレングリコール)アンモニウム、メチルジエチル(ポリプロピレングリコール)アンモニウム等が挙げられる。また、有機ホスホニウムイオンとしては、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム、2−ヒドロキシエチルトリフェニルホスホニウム等が挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でアンモニウムイオンが好適に用いられる。
【0019】
膨潤性層状珪酸塩(B)を前記有機カチオンで処理する方法としては、まず、層状珪酸塩を水またはアルコール中に分散させ、ここへ前記有機カチオンを塩の形で添加して攪拌混合することにより、層状珪酸塩の無機イオンを有機カチオンとイオン交換させた後、濾別・洗浄・乾燥する方法が挙げられる。
【0020】
膨潤性層状珪酸塩(B)の初期粒子径は1μm〜10μmであることが好ましい。膨潤性層状珪酸塩の初期粒子径が1μm未満であれば、押出機のスクリューに食い込みにくく、ポリアミド樹脂への分散性が低下してしまう。一方、初期粒子径が10μmより大きければ、膨潤性層状珪酸塩の劈開がうまく進まず、機械的強度が低くなってしまう。初期粒子径とは、膨潤性層状珪酸塩(B)をポリアミド樹脂組成物中に分散させる前の、原料段階での初期の粒子径であり、ポリアミド樹脂組成物中の珪酸塩層の大きさとは異なるものである。しかしポリアミド樹脂組成物中の珪酸塩層の大きさもまた得られたポリアミド樹脂組成物の機械的特性、特に剛性や耐熱性、ガスバリヤ性に少なからず影響を及ぼす。したがって、膨潤性層状珪酸塩(B)の混合比率を選択するに当たっては、この点も考慮するのが望ましく、必要に応じてジェットミル等で粉砕して粒子径をコントロールすることが好ましい。
ここで、膨潤性層状珪酸塩(B)として膨潤性フッ素雲母系鉱物を用いる場合は、原料であるタルクの粒子径を適切に選択することにより初期粒子径を変更することができる。粉砕との併用により、より広い範囲で初期粒子径を調節することができる。
【0021】
膨潤性層状珪酸塩(B)の添加量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、1〜20質量部である必要があり、2〜15質量部であることが好ましく、3〜10質量部であることがより好ましい。添加量が1質量部未満であると、引張強度、曲げ弾性率、ガスバリヤ性が低下し、20質量部を超えると衝撃強度、透明性が低下する。
【0022】
本発明で用いる1分子中に3個のグリシジル基を有する脂肪族エポキシ化合物(C)は、例えば、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが挙げられる。なかでも、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテルを好適に用いることができる。
【0023】
本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物が有するグリシジル基は、1分子中に3個である必要があるが、その他、グリシジル基を有する脂肪族エポキシ化合物として、グリシジル基の数が、1分子中3個未満であると靭性、耐久性の向上の効果が乏しく、3個を超えると、ポリアミド樹脂組成物のゲル化が著しく操業性が悪化するばかりか、透明性、ガスバリヤ性が低下するため好ましくない。また、操業性の観点から、1分子中に3個のグリシジル基を有する脂肪族エポキシ化合物(C)の25℃における粘度が1〜1000mPa・sであることが好ましく、1〜700mPa・sであることがより好ましい。
【0024】
1分子中に3個のグリシジル基を有する脂肪族エポキシ化合物(C)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.05〜1.0質量部である必要があり、0.1〜0.8質量部であることが好ましく、0.2〜0.6質量部であることがより好ましい。1分子中に3個のグリシジル基を有する脂肪族エポキシ化合物(C)の配合が0.05質量部未満であると、剛性、靱性、耐久性の向上の効果が乏しく、配合が1.0質量部を超えるとポリアミド樹脂組成物の流動性が著しく低下し、成形加工性が悪化するばかりか、ポリアミド樹脂組成物中にゲル化物が発生し、機械的特性、透明性、ガスバリヤ性を低下させる。
【0025】
本発明で用いる高級脂肪酸金属塩(D)は、膨潤性層状珪酸塩の分散性を高めるために用いる。通常高級脂肪酸金属塩は、顔料の分散性向上や成形時の離型性向上などを目的として用いられるが、本発明においては、膨潤性層状珪酸塩と併用して用いると、層状珪酸塩の劈開を促進し、膨潤性層状珪酸塩の添加量が少量でも機械的特性の効果を発現しやすい。高級脂肪酸金属塩(D)は、高級飽和脂肪酸金属塩、高級不飽和脂肪酸金属塩あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0026】
高級脂肪酸金属塩(D)として用いる高級飽和脂肪酸金属塩は、下記一般式で示されるものである。
CH(CHCOO(M)
ここで、n=8〜32であり、金属元素(M)が、元素周期律表の第1、2、3族元素、亜鉛、アルミニウムなどが好ましく用いられる。中でも、より好ましいものとしては、例えばカプリン酸、ウラデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸のリチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩など、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0027】
高級脂肪酸金属塩(D)として用いる高級不飽和脂肪酸金属塩としては、炭素数が6〜22の不飽和脂肪酸と、元素周期律表の第1、2、3族元素、亜鉛、アルミニウムなどとの金属塩が好ましく用いられ、中でも、より好ましいものとしては、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、ソルビル酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアロール酸、2−ヘキサデセン酸、7−ヘキサデセン酸、9−ヘキサデセン酸、ガドレイン酸、ガドエライジン酸、11−エイコセン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩など、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0028】
高級脂肪酸金属塩(D)の添加量は、0.05〜1質量部である必要があり、0.05〜0.8質量部であることが好ましく、0.05〜0.6質量部であることがより好ましい。高級脂肪酸金属塩(D)の添加量が、0.05質量部未満であると、膨潤性層状珪酸塩の分散性が劣るため、機械的特性、透明性、ガスバリヤ性が低下してしまい、1質量部を超えると熱分解成分が増えるため、ポリアミド樹脂組成物の溶融混練や成形加工時に分解ガスが発生し、ポリアミド樹脂組成物ペレットや成形体の表面外観を損ねるため好ましくない。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、染料、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、帯電防止剤等を添加することも可能である。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造には、ポリアミド樹脂(A)、膨潤性層状珪酸塩(B)脂肪族エポキシ化合物(C)、高級脂肪酸金属塩(D)を押出機を用いて溶融混練する。用いられる押出機は限定されない。混練性を高めるためには、2本のスクリューを備えた2軸押出機を用いて溶融混練し、ストランド状に押出してペレット化すればよい。押出機への組成の添加順は、特に限定されないが、ポリアミド樹脂(A)、膨潤性層状珪酸塩(B)、高級脂肪酸金属塩(D)を押出機基部から添加し、溶融混練を行い、押出機の途中から脂肪族エポキシ化合物(C)を添加することで、ポリアミド樹脂組成物中でのゲル化を抑制し、透明性、ガスバリヤ性を高めたポリアミド樹脂組成物を得られる点で好ましい。脂肪族エポキシ化合物(C)は、膨潤性層状珪酸塩(B)と同時期に混合すると、膨潤性層状珪酸塩(B)に吸着され、膨潤性層状珪酸塩の劈開を阻害する可能性があるため、できれば分割して添加することが望ましい。溶融混練後のポリアミド樹脂組成物の相対粘度は特に限定されるものではないが、96質量%濃硫酸を溶媒とし、温度25℃、濃度1g/dlの条件で測定した相対粘度が2.8〜5.0の範囲であることが好ましい。ポリアミド樹脂組成物の相対粘度が2.8未満であると、靱性、耐久性、衝撃強度に劣り、相対粘度が5.0を超えると、ポリアミド樹脂組成物の溶融時の流動性が極端に低下し、成形性を損ねる傾向があるので好ましくない。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物成形体は、靱性、耐久性、衝撃強度等の機械的特性に優れるため各種成形体用途に用いることができる。具体的には、自動車部品、電気、電子部品で用いられるギア、カム、ベアリング等の機械機構部品、OA機器、モバイル機器等のハウジング材、ビジネスシューズ、スポーツシューズ等の靴底で好適に用いられる。また、透明性、ガスバリヤ性が要求される密閉容器、タンク、ボトル等で好適に用いることができ、ガソリン等の燃料バリヤ性にも優れるため、自動車燃料タンク周辺部材、配管、ホース、チューブ等に用いて、燃料等の残量を視認可能なバリヤ材として好適に用いられる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例ならびに比較例での使用材料および評価方法料は次の通りである。
【0033】
1.評価方法
【0034】
(1)ポリアミド樹脂組成物の無機灰分率
ポリアミド樹脂組成物の乾燥ペレットを磁性ルツボに精秤し、500℃に保持した電気炉で15時間焼却処理した後の残渣を無機灰分として、次式に従って無機灰分率を求めた。
無機灰分(質量%)={無機灰分質量(g)}/{焼却処理前の試料の全質量(g)}×100
【0035】
(2)ポリアミド樹脂の相対粘度
96質量%濃硫酸中に、ポリアミド樹脂の乾燥ペレットを濃度が1g/dlになるように溶解させた後、ウベローデ型粘度計を用い液温25℃で測定した。
【0036】
(3)膨潤性層状珪酸塩の劈開度
ポリアミド樹脂組成物ペレットを冷凍粉砕し、平均粒子径を10μm以下にした粉砕物を、X線回折装置(リガク社製RINT−TTRIII型)を用いて、WAXD粉末反射法にて、d001面の2θ=1°〜12.5°のX線回折ピークを採取した。検出されたピークは膨潤性層状珪酸塩の未劈開ピークであるため、ピーク面積比が小さいほど劈開が進んでいる。2θ=1°〜12.5°に検出されたピーク面積と無機灰分を用いた以下の式にて、劈開度6.0x10未満を合格とした。
劈開度(degree・cps/%)=ピーク面積(degree・cps)/無機灰分(%)
【0037】
(4)引張強度
ISO527−1、ISO527−2に準拠し、温度23℃環境下で測定した。引張強度は45MPa以上を合格とした。
【0038】
(5)曲げ弾性率
ISO178に準拠し、温度23℃環境下で測定した。曲げ弾性率は1.6GPa以上を合格とした。
【0039】
(6)シャルピー衝撃強度(ノッチ付き)
ISO179−1に準拠し、温度23℃環境下で測定した。シャルピー衝撃強度は8kJ/m以上を合格とした。
【0040】
(7)耐久試験
射出成形により、長さ127mm、巾3.2mm、厚さ12.7mmの試験片を得た。振動疲労試験機を用いて、温度23℃環境下、スパン間距離を35mmになるように試験片を固定し、荷重98Nで30サイクル/secの振動を与え、試験片が破断するまでのサイクル数を測定した。試験片が破断するまでのサイクル数は100×10以上が好ましい。
【0041】
(8)透明性
射出成形により、長さ70mm、巾40mm、厚さ4mmの試験片を得た。試験片を文字が印刷された紙の上に置き、文字の判読ができるか否かにより判断した。
○:判読できる、×:判読できない
【0042】
(9)ガスバリヤ性
射出成形により、長さ60mm、巾60mm、厚さ1mmの試験片を得た。この試験片より、試験片から直径50mmの円板を切り取った。アルミ製の試験カップ(スクリューキャップ、開放部44mmφ)に試験溶液を約10ml入れ、直径50mmの円板の試験片をテトラフルオロエチレン製パッキン(厚さ1mm、デムナムグリースL−200をパッキンの上下に塗布)で挟んだ状態でキャップにて図1のように固定した。試験溶液は、エタノール10wt%混合ガソリンである。試験雰囲気は、窒素流通下で、温度50℃である。2000時間経過後の試験カップの質量を測定した。質量減少量が0.1g以下であるものを合格とした。
【0043】
2.原料
【0044】
(A)ポリアミド樹脂
・(A−1):Rilsan BSNO(アルケマ社製ポリアミド11樹脂、相対粘度3.0)
・(A−2):Rilsan LMNO(アルケマ社製ポリアミド11樹脂、相対粘度2.0)
・(A−3):Rilsan AMVO(アルケマ社製ポリアミド12樹脂、相対粘度3.0)
・(A−4):Rilsan AMNO(アルケマ社製ポリアミド12樹脂、相対粘度2.5)
・(A−5):A−1030BRL(ユニチカ社製ポリアミド6樹脂、相対粘度2.5)
・(A−6):A−1030BRF−BA(ユニチカ社製ポリアミド6樹脂、相対粘度3.0)
【0045】
(B)膨潤性層状珪酸塩
・(B−1):コープケミカル社製MEE(膨潤性フッ素雲母、層間物質ドデシルジヘキシルメチルアンモニウム、初期粒径7μm)
・(B−2):ホージュン社製エスベンW(モンモリロナイト、層間物質ジメチルジオクタデシルアンモニウム、初期粒径5μm)
【0046】
(C)脂肪族エポキシ化合物
・(C−1):阪本薬品工業社製 SR−TMP(トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル)、エポキシ当量137g/eq、粘度125mPa・s、1分子中にグリシジル基を3個有する。
・(C−2):ナガセケムテックス社製「グリセロールポリグリシジルエーテル EX−313」、エポキシ当量141g/eq、粘度150mPa・s、1分子中にグリシジル基を3個有する。
・(C−3):阪本薬品工業社製「ジエチレングリコールグリシジルエーテル SR−2EG」 エポキシ当量149g/eq、粘度22mPa・s、1分子中にグリシジル基を2個有する。
・(C−4):ナガセケムテックス社製「ソルビトールポリグリシジルエーテル EX−614B」エポキシ当量173g/eq、粘度5000mPa・s、1分子中にグリシジル基を4個以上有する。
【0047】
(D)高級脂肪酸金属塩
・(D−1):日東化成工業社製NS−7(ベヘン酸ナトリウム)
【0048】
実施例1
ポリアミド樹脂(A−1)100質量部、膨潤性層状珪酸塩(B−1)6質量部、脂肪族エポキシ化合物(C−1)0.5質量部、高級脂肪酸金属塩(D−1)0.2質量部をクボタ社製連続定量供給装置を用いて、同方向二軸押出機(東芝機械製TEM37BS型)の主供給口に供給して溶融混練し、ダイスからストランド状に引き取り、水槽を通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出条件は温度設定250〜260℃で、スクリュー回転数250rpm、吐出量20kg/h、ダイスから出たポリアミド樹脂組成物の樹脂温度は270℃であった。
次いで得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを射出成形機(東芝機械社製EC−100型)を用いてシリンダー温度220℃、金型温度80℃の条件で射出成形して試験片を作成し、各種評価試験を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例2〜12
表1に記載のポリアミド樹脂、膨潤性層状珪酸塩、脂肪族エポキシ化合物、高級脂肪酸金属塩を用い、所定の配合とした以外は、実施例1と同様の操作を行ってポリアミド樹脂組成物を得て、各種評価試験を行った。その結果を表1に示す。
【0051】
比較例1〜13
表2に記載のポリアミド樹脂、膨潤性層状珪酸塩、脂肪族エポキシ化合物、高級脂肪酸金属塩を用い、所定の配合とした以外は、実施例1と同様の操作を行ってポリアミド樹脂組成物を得て、各種評価試験を行った。その結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例1〜12は所定のポリアミド樹脂、膨潤性層状珪酸塩、脂肪族エポキシ化合物、高級脂肪酸金属塩を用いポリアミド樹脂組成物の作製を行ったため、機械的特性(引張強度、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度)、耐久性、透明性、ガスバリヤ性に優れたポリアミド樹脂組成物が得られた。
【0054】
比較例1、2は用いたポリアミド樹脂の相対粘度が2.8未満であったため、膨潤性層状珪酸塩の劈開度が大きく、シャルピー衝撃強度、耐久性に劣る結果となった。
【0055】
比較例3は、膨潤性層状珪酸塩を添加しなかったため、引張強度、曲げ弾性率に劣る結果となった。
【0056】
比較例4は、膨潤性層状珪酸塩量の配合が過多であったため、シャルピー衝撃強度、耐久性に劣るものであった。
【0057】
比較例5は、脂肪族エポキシ化合物を添加されていないため、シャルピー衝撃強度に劣る結果となった。
【0058】
比較例6は、脂肪族エポキシ化合物の配合が過多であったため、ポリアミド樹脂組成物の流動性が大きく低下し溶融混練ができずポリアミド樹脂組成物ペレットを得ることはできなかった。
【0059】
比較例7は、高級脂肪族金属塩を添加しなかったため、膨潤性層状珪酸塩の分散性が悪く、膨潤性層状珪酸塩の劈開度が大きく、引張強度に劣る結果となった。
【0060】
比較例8は、高級脂肪族金属塩の配合が過多であったため、引張強度、耐久性に劣る結果となった。
【0061】
比較例9は、脂肪族エポキシ化合物の配合が過少であったため、シャルピー衝撃強度、耐久性に劣るものであった。
【0062】
比較例10は、1分子中にグリシジル基を2個有する脂肪族エポキシ化合物を用いたため、シャルピー衝撃強度、耐久性に劣るものであった。
【0063】
比較例11は、1分子中にグリシジル基を4個有する脂肪族エポキシ化合物を用いたため、透明性、ガスバリヤ性に劣るものであった。
【0064】
比較例12は、相対粘度が2.5であるポリアミド6樹脂を用いたため、透明性に劣った。
【0065】
比較例13は、相対粘度が3.0であるポリアミド6樹脂を用いたため、耐久性、透明性に劣った。
【符号の説明】
【0066】
A:試験片
B:試験溶液
C:アルミ製カップ
D:テトラフルオロエチレン製パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対粘度2.6以上のポリアミド樹脂(A)100質量部に対し、膨潤性層状珪酸塩(B)1〜20質量部、1分子中に3個のグリシジル基を有する脂肪族エポキシ化合物(C)0.05〜1質量部、高級脂肪酸金属塩(D)0.05〜1質量部を含有させたポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂(A)がポリアミド11および/またはポリアミド12であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
膨潤性層状珪酸塩(B)が、膨潤性フッ素雲母であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
1分子中に3個のグリシジル基を有する脂肪族エポキシ化合物(C)がトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルおよび/またはグリセロールポリグリシジルエーテルであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。




【図1】
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【公開番号】特開2012−77193(P2012−77193A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223310(P2010−223310)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】