説明

ポリアミド系人工毛髪用繊維

【課題】
通常のポリアミド系繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、触感、加工安定性に優れ、さらには、難燃性を有するポリアミド系人工毛髪用繊維を提供する。
【解決手段】
ポリアミド(A)と、無機微粒子(B)および/または有機微粒子(C)を含む組成物を溶融紡糸することにより、通常のポリアミド系繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、触感、加工安定性に優れ、さらには、難燃性を有するポリアミド系人工毛髪用繊維が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドに無機微粒子および/または有機微粒子を含んでなる組成物から形成されるポリアミド系人工毛髪用繊維に関する。さらに詳しくは、耐熱性、強伸度などの繊維物性を維持し、アイロンセット性、触感および加工安定性に優れたポリアミド系人工毛髪用繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘアーウィッグ、ツーぺ、エクステンション、ヘアアクセサリー、ドールヘアー等に用いられる毛髪用繊維材料としては当初、人毛が用いられていたが、近年においては、人毛の入手が困難になったために、各種人工毛髪繊維材料(例えば、モダクリル繊維等のアクリル系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエステル系繊維等)への代替が進んでいる。
【0003】
前記各種人工毛髪用繊維材料の中でも、ポリエステル系繊維を用いた人工毛髪用繊維材料は、アクリル系繊維やポリ塩化ビニル系繊維を用いた人工毛髪用繊維材料に比べて耐熱性が高いためアイロンセット性が良いとして好ましく用いられている。
【0004】
人工毛髪用途に使用されるポリエステル系繊維やポリアミド系繊維は、通常、溶融紡糸法により製造されるため、その表面は極めて平滑で光沢性が強く、いわゆる鏡面光沢を示す。天然毛髪はキューティクルと称される鱗状の表面構造を有しており、この形状が毛髪に当たる光を乱反射させ、その結果、つやが抑えられており、ポリエステル系繊維やポリアミド系繊維を用いた人工毛髪用繊維を、人毛と一緒に用いるような頭飾製品、特にヘアーウィッグやツーぺ等のかつら用途に用いた場合には人毛との光沢感の違いにより頭髪全体として違和感が生じるという問題があった。そのため、人工毛髪用繊維においては、光沢性を天然毛髪に限りなく近づけるため、人工毛髪用繊維の表面の鏡面光沢を抑制する努力がなされている。光沢感を調整する方法としては、例えば、ポリエステル系人工毛髪用繊維に有機粒子や無機粒子を含有させたポリエステル系繊維を用いることにより繊維の艶を調整する技術が開示されている(特許文献1)。
【0005】
また、たとえば、ナイロン6を主原料として人工毛髪用繊維を製造する場合、原料を280〜300℃で溶融紡糸し、次にその紡糸した糸を60〜100℃の温水に浸し、1秒前後の時間をかけて徐冷する。この操作により樹脂の表面に球晶が生成すること等の理由により表面の平滑性が低下し、これを延伸工程にかけるとちょうどキューティクルと同じような大きさの凹凸形状の表面構造を有するポリアミド繊維を得ることができる。しかしながら、このような方法では紡糸・延伸工程が複雑になり、繊維の製造が困難になる等の問題があった。特に、球晶の発生は延伸工程での作業性を困難なものにしていた。また、合成重合体からなる人工毛髪は天然毛髪に比べ画一的であり、人工毛髪の硬さ等は使用する合成重合体の種類によりほぼ定まってしまい、紡糸・延伸等の製造条件を変更しても硬さを調節することは困難であった(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−42234号公報
【特許文献2】特開平6−287807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述のごとき従来の問題を解決し、通常のポリアミド系繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、触感、加工安定性に優れ、さらには、難燃性を有するポリアミド系人工毛髪用繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリアミドに無機微粒子および/または有機微粒子を含んでなる組成物、さらに、リン含有難燃剤および/または臭素含有難燃剤を含んでなる組成物、さらには、難燃助剤を含んでなる組成物を溶融紡糸することにより、通常のポリアミド繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、セット性、触感、加工安定性に優れたポリアミド系人工毛髪用繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリアミドおよび共重合ポリアミドの1種以上からなるポリアミド(A)100質量部と、無機微粒子(B)および/または有機微粒子(C)0.1〜5質量部を含む組成物から形成されるポリアミド系人工毛髪用繊維に関する。好ましい態様としては、ポリアミドおよび共重合ポリアミドの1種以上からなるポリアミド(A)が、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン12、ナイロン6,10およびナイロン6,12よりなる群から選ばれた少なくとも1種のポリマーである上記記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。好ましい態様としては、無機微粒子(B)が、炭酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムとリン酸カルシウムとの複合粒子、酸化ケイ素、シリカ/メラミン樹脂複合体、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイトおよびマイカよりなる群から選ばれた少なくとも1種である上記記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。好ましい態様としては、有機微粒子(C)が、フッ素樹脂、シリコン樹脂、架橋アクリル樹脂および架橋ポリスチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種である上記記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。より好ましい態様としては、さらに、ポリアミドおよび共重合ポリアミドの1種以上からなるポリアミド(A)100質量部に対し、リン含有難燃剤(D)および/または臭素含有難燃剤(E)5〜30質量部を含む組成物からなる上記記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。好ましい態様としては、リン含有難燃剤(D)が、ホスフェート系化合物、ホスホネート系化合物、ホスフィネート系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、ホスホナイト系化合物、ホスフィナイト系化合物、ホスフィン系化合物、縮合リン酸エステル化合物、リン酸エステルアミド化合物および有機環状リン系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である上記記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。好ましい態様としては、臭素含有難燃剤(E)が、臭素化芳香族系難燃剤、臭素含有リン酸エステル系難燃剤、臭素化ポリスチレン系難燃剤、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ系難燃剤、臭素化ポリカーボネート系難燃剤、テトラブロモビスフェノールA誘導体、臭素含有トリアジン系化合物および臭素含有イソシアヌル酸系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である上記記載のポリアミド系人工毛髪用繊維である。さらに好ましい態様としては、さらに、ポリアミドおよび共重合ポリアミドの1種以上からなるポリアミド(A)100質量部に対し、難燃助剤(F)0.2〜5質量部を含む組成物からなる上記記載のポリアミド系人工毛髪用繊維である。好ましい態様としては、難燃助剤(F)が、メラミンシアヌレート、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛よりなる群から選ばれた少なくとも1種である上記記載のポリアミド系人工毛髪用繊維である。また、上記ポリアミド系人工毛髪用繊維は、原着および/または染色により着色されており、単繊維繊度が10〜100dtexであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ポリアミドおよび共重合ポリアミドの1種以上からなるポリアミドと無機微粒子および/または有機微粒子からなる組成物を溶融紡糸した繊維を用いることにより、繊維表面が適度に粗面化され、人工毛髪として自然な光沢を得ることができる。さらに、リン含有難燃剤、臭素含有難燃剤、難燃助剤を含む組成物とすることで、難燃性に優れたポリアミド系繊維が得られ、安全に使用することができる。従って、本発明によると、通常のポリアミド繊維の耐熱性、強伸度など繊維物性を維持し、光沢、触感、美容特性に優れたポリアミド系人工毛髪用繊維が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のポリアミド系人工毛髪用繊維は、ポリアミドおよび共重合ポリアミドの1種以上からなるポリアミド(A)、無機微粒子(B)および/または有機微粒子(C)を含んでなる組成物、さらに、リン含有難燃剤(D)、臭素含有難燃剤(E)および難燃助剤(F)を含んでなる組成物を溶融紡糸した繊維である。
【0011】
本発明に用いられるポリアミド(A)は、ラクタム、アミノカルボン酸、ジカルボン酸/ジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体/ジアミンの混合物、ジカルボン酸/ジアミンの塩、およびこれらの2種以上の混合物を重合して得られるナイロン樹脂を意味する。ラクタムの具体例としては、2−アゼチジノン、2−ピロリジノン、δ−バレロラクタム、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ウンデカラクタム、ラウロラクタムなどを挙げることができ、これらのうち、ε−カプロラクタム、ウンデカラクタム、ラウロラクタムが好ましく、特にε−カプロラクタムが好ましい。なお、これらのラクタムは2種以上の混合物で使用することもできる。アミノカルボン酸の具体例としては、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、10−アミノデカン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などを挙げることができ、これらのうち、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸が好ましく、特に6−アミノカプロン酸が好ましい。なお、これらのアミノカルボン酸は2種以上の混合物で使用することもできる。
【0012】
ジカルボン酸/ジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体/ジアミンの混合物、ジカルボン酸/ジアミンの塩で用いられるジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられ、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、特にアジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。なお、これらのジカルボン酸は2種以上の混合物で使用することもできる。
【0013】
ジカルボン酸/ジアミンの混合物、ジカルボン酸誘導体/ジアミンの混合物、ジカルボン酸/ジアミンの塩で用いられるジアミンの具体例としては、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン(MDP)、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンのような芳香族ジアミンなどが挙げられ、特に脂肪族ジアミンが好ましく、とりわけヘキサメチレンジアミンが好ましく用いられる。なお、これらのジアミンは2種以上の混合物で使用することもできる。
【0014】
本発明法の適用が好ましいナイロン樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン6T及び/または6I単位を含有する半芳香族ナイロンまたはこれらナイロン樹脂の共重合体が挙げられる。とりわけ、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/ナイロン66共重合体が好ましい。ポリアミドは、例えば、ポリアミド原料を触媒の存在下または不存在下で加熱して行うポリアミド重合方法により製造される。その重合時に攪拌はあっても無くてもよいが、均質な生成物を得るには攪拌した方が好ましい。重合温度は目的とする前重合物の重合度、反応収率、反応時間に応じて任意に設定可能であるが、最終的に得られるポリアミドの品質を考慮すれば低温の方が好ましい。反応率についても任意に設定できる。圧力について制限はないが揮発性成分を効率よく系外に抜出すためには系内を減圧とすることが好ましい。
【0015】
本発明に用いられるポリアミド(A)は、必要に応じてカルボン酸化合物またはアミン化合物で末端を封鎖してあってもよい。モノカルボン酸及び/又はモノアミンを添加して末端封鎖する場合には、得られたナイロン樹脂の末端アミノ基または末端カルボキシル基濃度が末端封鎖剤を使用しない場合に比べて低下する。一方、ジカルボン酸又はジアミンで末端封鎖した場合には末端アミノ基と末端カルボキシル基濃度の和は変化しないが、アミノ末端基とカルボキシル末端基との濃度の比率が変化する。
【0016】
カルボン酸化合物の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ウンデカン酸、ラウリル酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキン酸のような脂肪族モノカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸のような脂環式モノカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、エチル安息香酸、フェニル酢酸のような芳香族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0017】
アミン化合物の具体例としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、イコシルアミンのような脂肪族モノアミン、シクロヘキシルアミン、メチルシクロヘキシルアミンのような脂環式モノアミン、ベンジルアミン、β−フェニルエチルアミンのような芳香族モノアミン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン、キシリレンジアミンのような芳香族ジアミンなどが挙げられる。
【0018】
ポリアミド(A)の末端基濃度に特に制限はないが、繊維用途で染色性を高める必要がある場合や樹脂用途でアロイ化に適した材料を設計する場合等には末端アミノ基濃度が高い方が好ましい。また、長期エージング条件下での着色やゲル化を抑制したい場合などは逆に末端アミノ基濃度が低い方が好ましい。更に再溶融時のラクタム再生、オリゴマー生成による溶融紡糸時の糸切れ、連続射出成形時のモールドデポジット、フィルムの連続押出におけるダイマーク発生を抑制したい場合には末端カルボキシル基濃度及び末端アミノ基濃度が共に低い方が好ましい。適用する用途によって末端基濃度を調製すればよいが、末端アミノ基濃度、末端カルボキシル基濃度共に、好ましくは、1.0×10-5〜15.0×10-5eq/g、より好ましくは2.0×10-5〜12.0×10-5eq/g、特に好ましくは3.0×10-5〜11.0×10-5eq/gである。
【0019】
また、末端封鎖剤の添加方法としては重合初期にカプロラクタム等の原料と同時に仕込む方法、重合途中で添加する方法、ナイロン樹脂を溶融状態で縦型攪拌式薄膜蒸発機を通過させる際に添加する方法などが採用される。末端封鎖剤はそのまま添加してもよいし、少量の溶剤に溶解して添加してもよい。
【0020】
本発明のポリアミド系人工毛髪用繊維は、無機微粒子(B)および/または有機微粒子(C)を混合することにより、得られる繊維の表面に微細な突起を形成し、繊維表面の光沢、つやを調整することができる。
【0021】
本発明に用いられる無機微粒子(B)としては、繊維の透明性および発色性への影響から、ポリアミド(A)の屈折率に近い屈折率を有するものが好ましく、例えば、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、マイカなどがあげられる。これらのなかでは、球形に近い微粒子の方が光沢調整効果は高く、酸化ケイ素、酸化ケイ素を主体とした複合粒子などが好ましい。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明に用いられる無機微粒子(B)は、必要に応じて、エポキシ化合物、シラン化合物、イソシアネート化合物、チタネート化合物等で表面処理されてもよい。
【0022】
本発明に用いられる有機微粒子(C)としては、主成分である難燃性ポリアミド(A)と相溶しないか、部分的に相溶しない構造を有する有機樹脂であれば使用することができ、例えば、ポリアリレート、フッ素樹脂、シリコン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレンなどが好ましく用いられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。安定的に光沢調整効果を発現するためには、耐熱性および分散性の点から、架橋ポリエステル粒子および架橋アクリル粒子が好ましい。
【0023】
前記架橋ポリエステル粒子は、不飽和ポリエステルおよびビニル系単量体を水分散させ、架橋硬化させることで得られる。ここで使用される不飽和ポリエステルとしては、特に限定はなく、例えば、α,β−不飽和酸もしくはそれと飽和酸との混合物と二価アルコールもしくは三価アルコールとを重合させたものなどを挙げることができる。不飽和酸としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などが挙げられ、飽和酸としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、コハク酸、グルタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバチン酸などが挙げられる。また、二価アルコールおよび三価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。一方、ビニル系単量体としては、特に限定はなく、例えば、スチレン、クロルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、アクリル酸、メチルアクリレート、アクリロニトリル、エチルアクリレート、およびジアリルフタレートなどがあげられる。
【0024】
前記架橋アクリル粒子は、アクリル系単量体および架橋剤を水分散させ、架橋硬化させることで得られる。ここで使用されるアクリル系の単量体としては、アクリル酸またはアクリル酸の誘導体、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリロニトリル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、あるいはメタクリル酸またはメタクリル酸の誘導体、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸N−ビニル−2−ピロリドン、メタクリロニトリル、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの1分子中に1個のビニル基を有するビニル系単量体があげられる。これらは1種又は2種以上を組合せて使用することができる。また、架橋剤としては、1分子中に2個以上のビニル基を有する単量体であればいずれでもよいが、1分子中に2個のビニル基を有するものが好ましい。その好ましい単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、グリコールとメタクリル酸あるいはアクリル酸との反応生成物(例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレートなど)などがあげられるが、これらに限定されるものではない。架橋剤の添加量は、ビニル基を1個有する単量体100重量部に対して0.02〜5重量部が好ましい。重合開始剤としては、過酸化物系ラジカル重合開始剤が好ましく、例えば、過酸化ベンゾイル、過安息香酸2−エチルヘキシル、過酸化ジtert−ブチル、クメンヒドロペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシドなどが挙げられる。ラジカル重合開始剤は、ビニル基を1個有する単量体100質量部に対して0.05〜10質量部使用されるのが好ましい。
【0025】
本発明における無機微粒子(B)および/または有機微粒子(C)の平均粒子径は、0.1〜15μmが好ましく、0.2〜10μmがより好ましく、0.5〜8μmがさらに好ましい。粒子径が0.1μmより小さい場合には、光沢調整効果が小さい傾向があり、粒子径が15μmより大きい場合には、光沢調整効果が小さくなったり、糸切れが発生したりする傾向がある。
本発明における無機微粒子(B)および/または有機微粒子(C)の使用量は、特に限定されないが、ポリアミド(A)100質量部に対し、0.1〜5質量部であるのが好ましく、0.2〜3重量部がより好ましく、0.3〜2重量部がさらに好ましい。無機微粒子(B)および/または有機微粒子(C)の使用量が5質量部より多いと、外観性、色相、発色性が損なわれる傾向があり、0.1質量部より少ないと、繊維表面に形成される微細な突起が少なくなるため、繊維表面の光沢調整が不十分になる傾向がある。
【0026】
本発明で用いられるリン含有系難燃剤(D)には特に限定はなく、一般に用いられているリン含有難燃剤であれば使用することができる。リン含有難燃剤(D)の具体例としては、例えば、の具体例としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリネフチルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどのほか、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェートなどが挙げられる。
【0027】
また、前記縮合リン酸エステル系化合物、リン酸エステルアミド化合物または有機環状リン系化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される縮合リン酸エステル系化合物、下記一般式(2)で表されるリン酸エステルアミド化合物、下記一般式(3)および(4)で表される有機環状リン系化合物が挙げられる。
【0028】
【化1】

【0029】
(式中、R1は1価の芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。R2は2価の芳香族炭化水素基であり、2個以上含まれる場合、それらは同一であってもよく異なっていてもよい。nは0〜15を示す。)
【0030】
【化2】

【0031】
(式中、R3は水素原子、直鎖または分岐を有するアルキル基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよく、R4は2価の直鎖または分岐を有するアルキレン基、直鎖または分岐を有するヒドロキシアルキル基、シクロアルキレン基、主鎖中にエーテル酸素を有するアルキレン基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアラルキル基を示し、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい。)
【0032】
【化3】

【0033】
(式中、R5は水素原子、直鎖または分岐を有するアルキル基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよく、R6は水素原子、直鎖または分岐を有するアルキル基、直鎖または分岐を有するヒドロキシアルキル基、シクロアルキル基、置換または非置換のアリール基、置換または非置換のアラルキル基を示す。)
【0034】
【化4】

【0035】
(式中、R7は水素原子、直鎖または分岐を有するアルキル基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよく、mは3〜100の整数を示す)
それらの具体例としては、
【0036】
【化5】

【0037】
【化6】

【0038】
【化7】

【0039】
などの構造式で表される縮合リン酸エステル系化合物、
【0040】
【化8】

【0041】
などの構造式で表されるリン酸エステルアミド化合物、
【0042】
【化9】

【0043】
【化10】

【0044】
【化11】

【0045】
などの構造式で表される有機環状リン系化合物、
【0046】
【化12】

【0047】
【化13】

【0048】
【化14】

【0049】
【化15】

【0050】
などの構造式で表される有機環状リン系化合物などが挙げられる。
【0051】
本発明で用いられる臭素含有難燃剤(E)には特に限定はなく、一般に用いられている臭素含有難燃剤であれば使用することができる。
【0052】
臭素含有難燃剤(E)の具体例としては、例えば、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモ無水フタル酸、エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェートなどの臭素含有リン酸エステル類、一般式(5)で表される臭素化ポリスチレン類、一般式(6)で表される臭素化ポリベンジルアクリレート類、一般式(7)で表される臭素化エポキシオリゴマー類、臭素化フェノキシ樹脂、一般式(8)で表される臭素化ポリカーボネートオリゴマー類、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)などのテトラブロモビスフェノールA誘導体、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジンなどの臭素含有トリアジン系化合物、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどの臭素含有イソシアヌル酸系化合物などが挙げられる。これらは1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
【化16】

【0054】
(式中、Yは1〜5、pは5〜200を示す)
【0055】
【化17】

【0056】
(式中、qは5〜100を示す)
【0057】
【化18】

【0058】
(式中、R8は炭素数1〜10の炭化水素基、アリール基、アラルキル基、反応性基を含む炭化水素基、臭素含有アリール基、または臭素含有アラルキル基であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、rは1〜80を示す)
【0059】
【化19】

【0060】
(式中、R9は水素または臭素原子であり、それらはそれぞれ同一であってもよく異なっていてもよい、sは1〜80を示す)
これらのなかでは、難燃性付与の点から、臭素含有リン酸エステル系難燃剤、臭素化ポリスチレン系難燃剤、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ樹脂系難燃剤、臭素化ポリカーボネート系難燃剤、テトラブロモビスフェノールA誘導体、臭素含有トリアジン系化合物、臭素含有イソシアヌル酸系化合物が好ましく、繊維物性、耐熱性および加工安定性の点から、臭素含有リン酸エステル系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ樹脂系難燃剤がさらに好ましい。
【0061】
本発明におけるリン含有難燃剤(D)および/または臭素含有難燃剤(E)の使用量は、ポリアミド(A)100質量部に対し、3〜30質量部が好ましく、6〜25質量部がより好ましく、7〜20質量部がさらに好ましい。リン含有難燃剤(D)および/または臭素含有難燃剤(E)の使用量が3質量部未満では難燃効果が得られにくい傾向があり、30質量部を超えると得られる人工毛髪用繊維の機械的特性、耐熱性、耐ドリップ性が損なわれる傾向がある。
【0062】
本発明においては、リン含有難燃剤(D)および/または臭素含有難燃剤(E)成分を配合することにより難燃性は発現されるものの、シリコーン系の繊維処理剤を使用した場合や可燃性繊維と混合使用した場合には、十分な難燃性を得るには至らないため、難燃助剤(F)を配合することにより、難燃効果が著しく向上し、十分な難燃性を得ることができる。
【0063】
本発明に用いられる難燃助剤(F)としては、特に限定はなく、一般に用いられているものであれば使用することができる。難燃助剤(F)の具体例としては、例えば、メラミンシアヌレート、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。混合物の紡糸加工性の点から、アンチモン酸ナトリウムが好ましい。難燃助剤(F)を使用する場合の使用割合としては、ポリアミド系樹脂100質量部に対し、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、6重量部以下0.5質量部以上がさらに好ましい。前記難燃助剤の使用割合が10質量部を超える場合には、加工安定性、外観性および透明性が損なわれる傾向がある。本発明に用いられる難燃助剤(F)の平均粒子径の上限値としては、1.5μm未満が好ましく、1.4μm以下がより好ましく、1.3μm以下がさらに好ましい。平均粒子径の下限値としては、0.2μm超が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、0.8μm以上がさらに好ましい。
【0064】
本発明に用いられるポリアミド系人工毛髪用繊維は、例えば、ポリアミド(A)、無機微粒子(B)および/または有機微粒子(C)、さらには、リン含有難燃剤(D)および/または臭素含有難燃剤(E)、難燃助剤(F)をドライブレンドした後、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練することにより製造することができる。前記混練機の例としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられる。これらのなかでは、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0065】
本発明のポリアミド系人工毛髪用繊維は、前記ポリアミド系組成物を通常の溶融紡糸法で溶融紡糸することにより製造することができる。すなわち、例えば、押出機、ギアポンプ、口金などの温度を270〜310℃とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させた後、ガラス転移点以下に冷却し、50〜5000m/分の速度で引き取ることにより紡出糸条が得られる。また、紡出糸条を冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを行なうことも可能である。加熱筒の温度や長さ、冷却風の温度や吹付量、冷却水槽の温度、冷却時間、引取速度は、吐出量および口金の孔数によって適宜調整することができる。得られた紡出糸条は熱延伸されるが、延伸は紡出糸条を一旦巻き取ってから延伸する2工程法および巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。熱延伸は、1段延伸法または2段以上の多段延伸法で行なわれる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0066】
本発明のポリアミド系人工毛髪用繊維には、必要に応じて、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、可塑剤、潤滑剤などの各種添加剤を含有させることができる。顔料を含有させることにより、原着繊維を得ることができる。このようにして得られる本発明のポリアミド系人工毛髪用繊維は、非捲縮性糸状の繊維であり、その繊度は、通常、10〜100dtex、さらには20〜90dtexであるのが、人工毛髪に適している。また、人工毛髪としては、160〜200℃で美容熱器具(ヘアーアイロン)が使用できる耐熱性を有しており、着火しにくく、自己消火性を有していることが好ましい。本発明のポリアミド系人工毛髪用繊維が原着されている場合、そのまま使用することができるが、原着されていない場合、通常のポリアミド系繊維と同様の条件で染色することができる。染色に使用される顔料、染料、助剤などとしては、耐候性および難燃性のよいものが好ましい。
【0067】
本発明のポリアミド系人工毛髪用繊維は、美容熱器具(ヘアーアイロン)を用いたカールセット性に優れ、カールの保持性にも優れる。また、繊維表面の凹凸により、適度に艶消されており、人工毛髪として使用することができる。さらに、繊維表面処理剤、柔軟剤などの油剤を使用し、触感、風合を付与して、より人毛に近づけることができる。また、本発明の難燃性ポリアミド系人工毛髪用繊維は、モダアクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエステル系繊維など、他の人工毛髪用繊維素材と併用してもよいし、人毛と併用してもよい。
【実施例】
【0068】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、特性値の測定法は、以下のとおりである。
【0069】
(強度および伸度)
引張圧縮試験機(インテスコ社製、INTESCO Model201型)を用いて、フィラメントの引張強伸度を測定した。長さ40mmのフィラメント1本をとり、フィラメントの両端10mmを、接着剤を糊付けした両面テープを貼り付けた台紙(薄紙)で挟み、一晩風乾させて、長さ20mmの試料を作製した。試験機に試料を装着し、温度24℃、湿度80%以下、荷重1/30gF×繊度(デニール)、引張速度20mm/分で試験を行ない、破断時の引張強度および伸度を測定する。同じ条件で試験を10回繰り返し、平均値をフィラメントの強伸度とした。
【0070】
(難燃性)
繊度約50dtexのフィラメントを150mmの長さに切り、0.7gを束ね、一方の端をクランプで挟んでスタンドに固定して垂直に垂らす。有効長120mmの固定したフィラメントに20mmの炎を3秒間接炎し、火炎を遠ざけた後の燃焼時間を測定し、難燃性の評価とした。
◎:燃焼時間が1秒未満
○:1秒〜5秒未満
△:5秒〜8秒未満
×:8秒以上
【0071】
(光沢)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを太陽光のもと、専門美容師の目視により、以下の基準で評価した
◎:対比して注意深く比較しても、人毛との差を認めることができない程度の光沢
○:対比して注意深く比較した場合に、人毛よりも光沢が多い、または、少ないと判 断できる光沢
△:対比して通常の注意力で比較した場合に、人毛よりも光沢が多い、または、少な い判断できる光沢
×:対比を要することなく、明らかに人毛よりも光沢が多すぎる、または、少なすぎ ると判断できる光沢
【0072】
(透明性)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントを太陽光のもと、目視により、以下の基準で評価した。
○:透明感がある
△:若干不透明感(曇り)がある
×:不透明感がある
【0073】
(スチームによる変色)
長さ30cm、総繊度5万dtexの繊維束を、高圧滅菌装置(平山製作所(株)製)内に入れて密閉し、スチームを発生させて120℃に昇温した。120℃に到達してから1時間経過後に繊維束を取り出し、80℃の熱風乾燥機で30分間乾燥し、専門美容師の目視により、変色の程度を処理前の繊維束と比較して以下の基準により評価した。
◎:注意深く対比して比較しても白化が確認できない
○:注意深く対比して比較することにより白化したことが確認できる
△:対比して比較することにより白化が確認できる
×:対比して比較しなくとも白化したことが明らかである
【0074】
(触感)
専門美容師による官能評価を行い、3段階で評価する
○:人毛に似た非常に柔らかな風合い
△:人毛に比べやや硬い風合い
×:人毛に比べ硬い風合い
【0075】
(くし通り)
長さ30cm、総繊度10万dtexのトウフィラメントに繊維表面処理剤を付着させる。処理されたトウフィラメントにくし(デルリン樹脂製)を通し、くしの通り易さを評価した。
◎:全く抵抗ない(非常に軽い)
○:ほとんど抵抗ない(軽い)
△:若干抵抗がある(重い)
×:かなり抵抗がある、または、途中で引っかかる
【0076】
(美容特性)
繊維束を蓑毛にし、これを直径60mmφのパイプに巻いて、120℃でスチームセットしてカールを付与し、カールの付いた蓑毛をヘアキャップに縫い付けてショートボブスタイルのウィッグを作製し、専門美容師により、毛先カール保持性、カールの安定性、中間部のストレート性、スタイルの順応性、商品の触感およびくし通りを評価した。毛先カール保持性は、スタイルに必要なカールが毛先に付与されており、その形状を維持している、また、霧吹きなどで水分を十分に吸収させ、乾燥させた後でも、その形状を維持しているかどうかを評価する。カールの安定性は、商品を実用的な範囲で振り、その際にスタイルが維持しているかどうかを評価する。中間部のストレート性は、スタイルに不要な中間部のカールの出現が抑えられているかどうかを評価する。商品の触感は、人毛に近いこし(硬過ぎず柔らか過ぎず)を有し、また、不自然ながさつきがないかどうかを評価する。くし通りは、スムーズにコーミングができるかどうかを評価する。
【0077】
本実施例および比較例において使用した原料は、以下のとおりである。
ポリアミド(A):
・ナイロン6、ユニチカ(株)製、A1030BRT
・ナイロン6,6、ユニチカ(株)製、A125
無機微粒子(B):
・シリカ、(株)龍森製、クリスタライト5X、平均粒子径1.7μm
・炭酸カルシウム−リン酸カルシウム複合粒子、丸尾カルシウム(株)製、HAP−30NP
・メラミン−シリカ複合粒子、日産化学工業(株)製、オプトビーズ500S、平均粒子径0.6μm
有機微粒子(C):
・架橋アクリル粒子、綜研化学(株)製、MX−180TA、平均粒子径1.8μm
リン含有難燃剤(D):
・環状リン化合物系難燃剤、三光(株)製、MエステルHP
臭素含有難燃剤(E):
・臭素化エポキシ系難燃剤、阪本薬品工業(株)製、SR−T20000
難燃助剤(F):
・アンチモン酸ナトリウム、日本精鉱(株)製、SA−A、平均粒子径(一次粒子)2.0μm
(実施例1〜10)
表1に示す配合比率の組成物を、水分量100ppm以下に乾燥した後、ドライブレンドし、二軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX44)に供給し、バレル設定温度280℃にて溶融混練し、ペレット化した後に、水分量100ppm以下に乾燥させた。次いで、溶融紡糸機(シンコーマシナリー(株)製、SV30)を用いて、バレル設定温度280℃でノズル径0.5mmの丸断面ノズル孔を有する紡糸口金より溶融ポリマーを吐出し、20℃の冷却風により空冷し、100m/分の速度にて巻き取って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸に対し、75℃に加熱したヒートロールを用いて4倍に延伸し、180℃に加熱したヒートロールを用いて熱処理を行い、30m/分の速度で巻き取り、単繊維繊度が60dtex前後のポリアミド系繊維(マルチフィラメント)を得た。
【0078】
【表1】

【0079】
得られた繊維を用いて、強伸度、難燃性、光沢、透明性、スチームによる変色、触感および美容特性を評価した結果を、表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
(比較例1〜5)
表3に示す比率の組成物を、水分量100ppm以下に乾燥し、実施例1と同様にして溶融混練、溶融紡糸を実施した。
【0082】
【表3】

【0083】
得られた繊維を用いて、強伸度、難燃性、光沢、透明性、スチームによる変色、触感および美容特性を評価した結果を、表4に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
表2、4に示したように、実施例では、全て光沢および透明性が◎または○であり、光沢と透明性を兼ね備えた人工毛髪用繊維が得られているのに対し、比較例1〜5においては、それぞれ光沢または透明性の少なくとも一方が△または×と評価され、光沢と透明性を兼ね備えたものが得られなかった。また、実施例では、触感、くし通りにも優れ、人工毛髪として有効に用いることが可能となることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドおよび共重合ポリアミドの1種以上からなるポリアミド(A)100質量部と、無機微粒子(B)および/または有機微粒子(C)0.1〜5質量部を含む組成物から形成されるポリアミド系人工毛髪用繊維。
【請求項2】
ポリアミドおよび共重合ポリアミドの1種以上からなるポリアミド(A)が、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン12、ナイロン6,10およびナイロン6,12よりなる群から選ばれた少なくとも1種のポリマーである請求項1に記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。
【請求項3】
無機微粒子(B)が、炭酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムとリン酸カルシウムとの複合粒子、酸化ケイ素、シリカ/メラミン樹脂複合体、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイトおよびマイカよりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1または2に記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。
【請求項4】
有機微粒子(C)が、フッ素樹脂、シリコン樹脂、架橋アクリル樹脂および架橋ポリスチレンよりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。
【請求項5】
前記(A)〜(C)成分に加え、さらに、ポリアミドおよび共重合ポリアミドの1種以上からなるポリアミド(A)100質量部に対し、リン含有難燃剤(D)および/または臭素含有難燃剤(E)5〜30質量部を含む組成物からなる請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。
【請求項6】
リン含有難燃剤(D)が、ホスフェート系化合物、ホスホネート系化合物、ホスフィネート系化合物、ホスフィンオキサイド系化合物、ホスホナイト系化合物、ホスフィナイト系化合物、ホスフィン系化合物、縮合リン酸エステル化合物、リン酸エステルアミド化合物および有機環状リン系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。
【請求項7】
臭素含有難燃剤(E)が、臭素化芳香族系難燃剤、臭素含有リン酸エステル系難燃剤、臭素化ポリスチレン系難燃剤、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ系難燃剤、臭素化ポリカーボネート系難燃剤、テトラブロモビスフェノールA誘導体、臭素含有トリアジン系化合物および臭素含有イソシアヌル酸系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5または請求項6に記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。
【請求項8】
前記(A)〜(E)成分に加え、さらに、ポリアミドおよび共重合ポリアミドの1種以上からなるポリアミド(A)100質量部に対し、難燃助剤(F)0.2〜5質量部を含む組成物からなる請求項1〜7のいずれかに記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。
【請求項9】
難燃助剤(F)が、メラミンシアヌレート、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛よりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項8に記載のポリアミド系人工毛髪用繊維。

【公開番号】特開2007−332507(P2007−332507A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167938(P2006−167938)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】