説明

ポリアミド酸エステルの製造方法

【課題】高収率、高純度にて、安定的に、かつ簡便に実施しうるポリアミド酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−アルキルモルホリニウムハライド及び塩基の存在下に、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとを重縮合させる。前記塩基が、トリアルキルアミン又はN−アルキルモルホリンであり、温度が−20〜80℃にて重縮合させる製造方法であり、さらに、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとジカルボン酸とを重縮合させる製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸エステルの製造方法、より詳しくは、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとを重縮合させるポリアミド酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、優れた耐熱性・機械的強度・絶縁性を有することから、エレクトロニクス材料や航空機材料など幅広く用いられている。代表的なポリイミドとしては、ポリ-4,4’-オキシジフェニレンピロメリトイミドなどの芳香族ポリイミドが知られている。このような芳香族ポリイミドは、有機溶媒に溶解せず、溶融もしないため、成型加工が困難である。そこで、有機溶媒に可溶なポリイミド前駆体の段階で成型加工した後、加熱処理または化学的手法で閉環反応させることによりポリイミドを得る方法が広く実施されている。
【0003】
ポリイミドの前駆体として、ポリアミド酸(ポリアミック酸)が知られている。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させることにより容易に合成できる。具体的には、芳香族ジアミンをN-メチルピロリドン(NMP)のような極性溶媒に溶解させた後に、テトラカルボン酸二無水物を加えて室温攪拌することで容易に高分子量のポリアミド酸が得られ、工業的に広く利用されている。
【0004】
しかし、上記のようにして製造されたポリアミド酸は次の2つの問題点を有する。1つ目の問題点は、溶液の保存安定性が悪いことである。ポリアミド酸溶液を室温で保存しておくと、数時間から数日間で粘度が徐々に低下していくため、粘度を一定に維持するためには‐20℃程度の冷凍保存が必要である。2つ目の問題点は、脱水閉環のための加熱処理時にポリアミド酸の分子量が低下することである。この2つの問題は、原因が共通しており、テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの反応は、テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合によるポリアミド酸の生成反応と、ポリアミド酸の解重合とによってテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンに戻る逆反応を有する平衡反応であるためである。
【0005】
上記のようなポリアミド酸の問題点を解決するポリイミド前駆体として、ポリアミド酸エステルが知られている。ポリアミド酸エステルは、ポリアミド酸のカルボキシル基がエステルに置き換わった分子構造の高分子である。この分子構造の違いにより、ポリアミド酸エステルは解重合を起こさないため、室温での保存安定性に優れ、加熱処理時にも分子量低下が起こらないといった特長を有する。
【0006】
一方、ポリアミド酸エステルの合成法は、3種類の方法に大別される。1つ目の合成法は、ジエステルジカルボン酸クロリドとジアミンとを反応させる方法である(特許文献1、2参照)。ジエステルジカルボン酸クロリドは、テトラカルボン酸二無水物よりもジアミンとの反応性が高いことから、この合成法ではポリアミド酸よりも更に短時間で高分子量のポリアミド酸エステルが得られる。しかし、その反応性の高さのために、ジエステルジカルボン酸クロリドは加水分解によってジエステルジカルボン酸へと容易に変化してしまう。そのため、重合系中に水分が混入すると、得られるポリアミド酸エステルの分子量が低下し、その結果、分子量の再現性が乏しくなる。
【0007】
2つ目の合成法は、ポリアミド酸のカルボキシル基をエステルに変換する方法である。テトラカルボン酸二無水物とジアミンからポリアミド酸を合成した後に、所望のエステル化剤を加えて反応させることで、ポリアミド酸エステルが得られる(特許文献3参照)。しかし、問題点として、エステル化の簡便な反応追跡方法が無く、全てのカルボキシル基を定量的にエステル化させることが困難であるということが挙げられる。
【0008】
3つ目の合成法は、ジエステルジカルボン酸とジアミンとを縮合剤を用いて重縮合させる方法である。縮合剤としては、カルボニルジイミダゾールやリン系縮合剤などが知られている(非特許文献1〜4参照)。この方法では、再現性良く高分子量のポリアミド酸エステルが得られる反面、縮合剤由来の不純物を工業的に簡便な方法で除去し、高純度のポリアミド酸エステルを得るのが困難である。
【0009】
以上の状況から、ポリアミド酸エステルを収率良く安定して容易に製造し得る工業的に有利な製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
特許文献1:特開平11−315140号公報
特許文献2:特開2000−273172号公報
特許文献3:特開平10−60109号公報
【非特許文献】
【0011】
非特許文献1:Polyimides and Other High-Temperature Polymers, pp.45-50(1991)
非特許文献2:Macromolecules Vol.22, No12, p4477-4483, 1989
非特許文献3:Polyimides and Other High-Temperature Polymers, pp.19-33(1991)
非特許文献4:Makromol.Chem., 194, 511(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ジエステルジカルボン酸とジアミンとを重縮合させて、高収率、高純度にて、安定的に、かつ簡便な方法により行い得るポリアミド酸エステル、なかでも、液晶配向膜などとして有用である特定の構造を有するポリアミド酸エステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究を進めたところ、上記の目的を達成し得ることに成功したものであり、下記の要旨を有する。
(1)4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−アルキルモルホリニウムハライド及び塩基の存在下に、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとを重縮合させることを特徴とするポリアミド酸エステルの製造方法。
(2)前記ジカルボン酸ジエステルが、下記の式(1−1)及び/又は式(1−2)で表わされる化合物である上記(1)に記載の製造方法。
【0014】
【化1】

(式中、Xは4価の有機基であり、Rは、炭素数1〜20のアルキル基である。)
(3)前記式(1−1)及び式(1−2)におけるXが、下記式のいずれかである上記(1)又は(2)に記載の製造方法。
【0015】
【化2】


(4)前記ジアミンが、式(2):HN−Y―NH(Yは、2価の有機基である。)で表わされる上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)前記式(2)におけるYが、下記式のいずれかである上記(4)に記載の製造方法。
【0016】
【化3】


(式中nは、1から12の整数である。)
(6)前記塩基が、7〜11のpKaを有する上記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)前記塩基が、トリアルキルアミン又はN-アルキルモルホリンである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の製造方法。
(8)温度が−20〜80℃にて重縮合させる上記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法において、さらに、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとジカルボン酸とを重縮合させるポリアミド−ポリアミド酸エステルの製造方法。
(10)前記ジカルボン酸が、イソフタル酸又はテレフタル酸である上記(9)に記載の製造方法。
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに記載の製造方法でえられた、ポリアミド酸エステル又はポリアミド−ポリアミド酸エステルをイミド化したポリイミド又はポリアミド−ポリイミド。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ジエステルジカルボン酸とジアミンとを重縮合させることにより、高収率、高純度にて、安定的に、かつ分離回収も容易な方法によりポリアミド酸エステルを製造することができる。
また、本発明によれば、同様にして、ジエステルジカルボン酸とジアミンとジカルボン酸を重縮合させることによりポリアミド−ポリアミド酸エステルを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔ジエステルジカルボン酸〕
本発明において、使用されるジエステルジカルボン酸は、好ましくは下記の式(1−1)及び/又は式(1−2)で表される。
【0019】
【化4】


上記式中、Xは4価の有機基であり、Rは、炭素数1〜20、好ましくは1〜3のアルキル基であり、好ましくはメチル基である。
(1−1)、(1−2)の具体的な構造としては以下のA−1〜A−24があげられるが、これに限るものではない。なかでも重合反応性、ポリマーの溶解性の観点からして、A−1、A−8、A−10、A−13、A−20、A−22の構造が好ましい。
【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

【0022】
〔ジアミン〕
本発明において、使用されるジアミンは、好ましくは、下記の式(2)で表される。
N−Y―NH・・・(2)
上記式中、Yは、2価の有機基である。具体的な構造は、以下のB−1〜B−78が例として挙げられるが、これに限るものではない。この中でも、ジアミンの反応性、ポリマーの溶解性の観点から、B−7、B−8、B−13、B−18、B−20、B−43,B−44、B−46、B−56、B−60、B−75の構造のジアミンを用いると好ましい。
【0023】
【化7】

【0024】
【化8】

【0025】
【化9】

【0026】
【化10】

【0027】
【化11】

【0028】
〔ジカルボン酸〕
本発明において、ポリアミド−ポリアミド酸エステルを製造する場合に使用されるジカルボン酸は、好ましくは、以下の式(3)で表わされる。
HOOC−Z―COOH・・・(3)
上記式(3)中、Zは、2価の有機基である。
上記式(3)の具体的な構造は、マロン酸、蓚酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ムコン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライイン酸、セバシン酸およびスベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,1−シクロプロパンジカルボン酸、1,2−シクロプロパンジカルボン酸、1,1−シクロブタンジカルボン酸、1,2−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、3,4−ジフェニル−1,2−シクロブタンジカルボン酸、2,4−ジフェニル−1,3−シクロブタンジカルボン酸、3,4−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−1,2−シクロブタンジカルボン酸、2,4−ビス(2−ヒドロキシフェニル)−1,3−シクロブタンジカルボン酸、1−シクロブテン−1,2−ジカルボン酸、1−シクロブテン−3,4−ジカルボン酸、1,1−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,1−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−(2−ノルボルネン)ジカルボン酸、ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−1,4−ジカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3−ジカルボン酸、2,5−ジオキソ−1,4−ビシクロ[2.2.2]オクタンジカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸、4,8−ジオキソー1,3−アダマンタンジカルボン酸、2,6−スピロ[3.3]ヘプタンジカルボン酸、1,3−アダマンタン二酢酸、カンファー酸ジハライド等の脂環式ジカルボン酸;
【0029】
o−フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−tert−ブチルイソフタル酸、5−アミノイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、テトラメチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−アントラセンジカルボン酸、1,4’−アントラキノンジカルボン酸、2,5−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、1,5−ビフェニレンジカルボン酸、4,4''−ターフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルプロパンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルヘキサフルオロプロパンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ビベンジルジカルボン酸、4,4’−スチルベンジルカルボン酸、4,4’−トランジルカルボン酸、4,4’−カルボニル二安息香酸、4,4’−スルホニル二安息香酸、4,4’−ジチオ二安息香酸、p−フェニレン二酢酸、3,3’−p−フェニレンジプロピオン酸、4−カルボキシ桂皮酸、p−フェニレンジアクリル酸、3,3’−(4−4’−(メチレンジ−p−フェニレン))ジプロピオン酸、4,4’−(4,4’−(オキシジ−p−フェニレン))ジプロピオン酸、4,4’−(4,4’−(オキシジーp−フェニレン))二酪酸、(イソプロピリデンジ−p−フェニレンジオキシ)二酪酸、ビス(p−カルボキシフェニル)ジメチルシラン、1,5−(9−オキソフルオレン)ジカルボン酸、3,4−フランジカルボン酸、4,5−チアゾールジカルボン酸、2−フェニル−4,5−チアゾールジカルボン酸、1,2,5−チアジアゾール−3,4−ジカルボン酸、1,2,5−オキサジアゾール−3,4−ジカルボン酸、2,3−ピリジンジカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、2,6−ピリジンジカルボン酸、3,4−ピリジンジカルボン酸、3,5−ピリジンジカルボン酸、6−ピリジンジカルボン酸、
などが挙げられる。
中でも、重合反応性ポリマーの溶解性の観点からして、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましい。
【0030】
〔重縮合反応〕
本発明において、上記ジエステルジカルボン酸と上記ジアミンとを、4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−アルキルモルホリニウムハライド及び塩基の存在下において、重縮合反応させることによりポリアミド酸エステルが製造される。この場合、さらに、上記ジカルボン酸を存在させて重縮合反応させることにより、ポリアミド-ポリアミド酸エステルが製造される。以下、本発明では、重縮合反応で製造されるポリアミド酸エステル及びポリアミド-ポリアミド酸エステルを総称して単にポリマーともいう。
【0031】
上記4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)4−アルキルモルホリニウムハライドにおける、アルコキシ基及びアルキル基の炭素数としては、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2、特には1が好ましい。好ましい具体例は、4−(4,6−ジメトキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)4−メチルモルホリニウムハライド、4−(4,6−ジエトキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)4−エチルモルホリニウムハライドである。
上記4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)4−アルキルルホリニウムハライドの使用量は、ジエステルジカルボン酸に対して過剰量で使用するのが好ましいため、ジエステルジカルボン酸に対して好ましくは、1.8倍モル〜4倍モル、より好ましくは2.2倍モル〜3.5倍モル、とりわけ好ましくは2.5倍モル〜3倍モルが好適である。
【0032】
上記塩基としては、反応性の観点からpKaが好ましくは6〜13、より好ましくは6.5〜12、特に好ましくは7〜11である。好ましい塩基としては、トリエチルアミン(pKa=10.7)などのトリアルキルアミン、N−メチルモルホリン(pKa=7.4)などのN−アルキルモルホリンが好ましい。
上記塩基の使用量は、少量であると分子量が上がりにくいため、ジエステルジカルボン酸に対して好ましくは、0.5モル〜3モル、より好ましくは0.7モル〜2モル、とりわけ好ましくは1.0モル〜1.5モルが好適である。
重縮合反応は、有機溶媒を使用して行うのが好ましい。有機溶媒としては、モノマーであるジエステルジカルボン酸、ジアミン及びジカルボン酸に対する溶解性の観点から、N−メチルー2−ピロリドン、γ―ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシドが好ましい。これらは1種または2種以上用いてもよい。
【0033】
本発明における重縮合反応は、過度に高温になると、4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)4−アルキルモルホリニウムハライドの分解が起こるので、好ましくは−20℃〜80℃、より好ましくは−10℃〜60℃、とりわけ好ましくは0℃〜40℃で行うのが好適である。重縮合反応は、通常、0.5時間〜48時間、好ましくは1.5時間〜24時間、とりわけ好ましくは3時間〜12時間にて行われる。
【0034】
本発明におけるジエステルジカルボン酸、ジアミン、さらに、ジカルボン酸(以下、これらを総称して単にモノマーともいう。)との重縮合におけるモノマーの濃度は、使用するモノマーが十分に溶解し、また、生成するポリマーが析出しないようにするのが好ましい。モノマーの濃度が高すぎると、ポリマーが析出してしまい、一方、濃度が低すぎるとポリマーの分子量が上がらない。
本発明において、重縮合反応液中におけるモノマーの濃度は、反応液の合計重量に対して2質量%〜15質量%が好ましく、より好ましくは3質量%〜12質量%であり、特に好ましくは4質量%〜10質量%である。
【0035】
上記のようにして、ジエステルジカルボン酸とジアミン、さらにはジカルボン酸とを重縮合させることにより、生成したポリマーを含む溶液を、好ましくは、貧溶媒に撹拌下に加えることによりポリマーを析出させて容易に分離、回収することができる。
上記の貧溶媒は特に限定されず、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられるが、減圧乾燥などによって除去しやすいため、特に、メタノール、エタノールが好ましく用いられる。貧溶媒の使用量は、ポリマー含む溶液量に対して3倍重量〜12倍重量が好ましく、より好ましくは4倍重量〜10倍重量、とりわけ好ましくは5倍重量〜8倍重量である。
【0036】
本発明では、析出したポリマーは、好ましくは濾取した後、好ましくは上記析出に使用した貧溶媒を用いて洗浄することにより、使用した4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)4−アルキルモルホリニウムハライドや塩基由来の不純物を容易により取り除くことができる。洗浄に用いる貧溶媒の量は、ポリマーに対し、0.8倍重量〜5倍重量が好ましく、より好ましくは1.2倍重量〜4倍重量であり、とりわけ好ましくは1.5倍重量〜3.5倍重量である。
【0037】
ポリマーの洗浄回数は多いほど、より不純物の少ないポリマー粉末を得ることができる。洗浄回数としては、2回〜10回が好ましく、より好ましくは3回〜8回、とりわけ好ましくは4回〜6回である。
【0038】
ポリマーは、洗浄後に好ましくは20℃〜140℃、より好ましくは40℃〜100℃好ましくは真空下で、乾燥することにより、ポリアミド酸エステルまたはポリアミド-ポリアミド酸エステル共重合体の粉末が得られる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではないことはもちろんである。
本実施例で使用した化合物の略号と構造を以下に示す。
DMT-MM:4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド
PMDEme:2,5-ビス(メトキシカルボニル)ベンゼン-1,4-ジカルボン酸
DA-3MG:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン
DA-5MG:1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン
DDE:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
【0040】
【化12】


IPA:イソフタル酸
以下に、粘度、分子量の各測定方法を示す。
【0041】
[粘度]
実施例において、ポリアミド酸エステルまたはポリアミド−ポリアミド酸エステル共重合体溶液の粘度は、E型粘度計TVE−22H(東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL(リットル)のコーンロータTE−1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
[分子量]
また、ポリアミド酸エステルまたはポリアミド−ポリアミド酸エステル共重合体の分子量は、GPC(常温ゲル浸透クロマトグラフィー)装置によって測定した。ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキシド換算値として、それぞれ、数平均分子量(以下、Mnとも言う。)及び重量平均分子量(以下、Mwとも言う。)を算出した。
GPC装置:Shodex社製 (GPC−101)
カラム:Shodex社製 (KD803、KD805の直列)
カラム温度:50℃
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム−水和物(LiBr・HO)が30mmoL/L、リン酸・無水結晶(o-リン酸)が30mmoL/L、テトラヒドロフラン(THF)が10moL/L)
流速:1.0mL/分
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(重量平均分子量(Mw)約900,000、150,000、100,000、30,000)、及び、ポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp):約12,000、4,000、1,000)。
測定は、ピークが重なるのを避けるため、900,000、100,000、12,000、1,000の4種類を混合したサンプル、及び150,000、30,000、4,000の3種類を混合したサンプルの2サンプルを別々に測定した。
【0042】
(実施例1) PMDEme/DA−3MG
撹拌子を入れた100mL(リットル)の四つ口フラスコ中に、PMDEmeを2.68g(9.50mmol)投入した後、N−メチル−2−ピロリドンを69.9g加えて撹拌して溶解させた。次いで、トリエチルアミンを0.506g(5.00mmol)、及びDA−3MGを 2.58g(10.0mmol)加えて撹拌して溶解させた。
この溶液を撹拌しながら、DMT−MM(15±2重量%水和物)を9.96g(36.0mmol)添加し、更にN−メチル−2−ピロリドンを12.5g加え、室温で4時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は30.9mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(589g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=17,800、Mw=39,700であった。
【0043】
(実施例2) PMDEme/DA−5MG
撹拌子を入れた200mLの四つ口フラスコ中に、PMDEmeを5.36g(19.0mmol)投入した後、N−メチル−2−ピロリドンを147g加えて撹拌して溶解させた。次いで、トリエチルアミンを1.01g(10.0mmol)、及びDA−5MGを5.73g(20.0mmol)加えて撹拌して溶解させた。
この溶液を撹拌しながら、DMT−MM(15±2重量%水和物)を9.9g(72.0mmol)添加し、更にN−メチル−2−ピロリドンを26.4gを加え、室温で4時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は41.7mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール(1235g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=21,300、Mw=45,700であった。
【0044】
(実施例3) PMDEme/DDE
撹拌子を入れた300mLの四つ口フラスコにPMDEmeを 7.96g(28.2mmol)投入した後、N−メチル−2−ピロリドン186gを加えて撹拌して溶解させた。次いで、トリエチルアミンを1.52g(15.0mmol)、及びDDEを6.01g(30.0mmol)加えて撹拌して溶解させた。
この溶液を撹拌しながら、DMT−MM(15±2重量パーセント水和物)を24.9g(90.0mmol)添加し、更にN−メチル−2−ピロリドンを33.3加え、室温で5.5時間撹拌してポリアミド酸エステルの溶液を得た。このポリアミド酸エステル溶液の温度25℃における粘度は23.0mPa・sであった。
このポリアミド酸エステル溶液をメタノール{1555g}中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド酸エステル粉末を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=13,500、Mw=29,100であった。
【0045】
(実施例4)PMDEme,IPA(20)/DDE
撹拌子を入れた200mLの四つ口フラスコにPMDEmeを4.29g(15.2mmol)とIPA0.67g(4.0mmol)を取り、N−メチル−2−ピロリドン119gを加え、撹拌して溶解させた。続いて、トリエチルアミン1.02g(10.0mmol)、およびDDE4.00g(20.0mmol)加え、撹拌して溶解させた。この溶液を撹拌しながら、DMT−MM(15±2重量%水和物)19.9g(72.0mmol)添加し、更にN−メチル−2−ピロリドン21.3gを加え、室温で5.5時間撹拌してポリアミド−ポリアミド酸エステル共重合体の溶液を得た。このポリアミド-ポリアミド酸エステル共重合体溶液の温度25℃における粘度は33.4mPa・sであった。
【0046】
このポリアミド−ポリアミド酸エステル共重合体溶液をメタノール(1021g)中に投入し、得られた沈殿物を濾別した。この沈殿物をメタノールで洗浄した後に温度100℃で減圧乾燥し、ポリアミド−ポリアミド酸エステル共重合体粉末を得た。このポリアミド−ポリアミド酸エステル共重合体の分子量はMn=13,300、Mw=41,500であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により製造されるポリアミド酸エステル、及びポリアミド−ポリアミド酸エステルは、これをイミド化することにより、それぞれ、容易にポリイミド、及びポリアミド−ポリイミドが得られる。これらのポリイミド、及びポリアミド−ポリイミドは、優れた耐熱性・機械的強度・絶縁性を有することから、エレクトロニクス材料や航空機材料など幅広く用いられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−(4,6−ジアルコキシー1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−アルキルモルホリニウムハライド及び塩基の存在下に、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとを重縮合させることを特徴とするポリアミド酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記ジカルボン酸ジエステルが、下記の式(1−1)及び/又は式(1−2)で表わされる化合物である請求項1に記載の製造方法。
【化1】

(式中、Xは4価の有機基であり、Rは、炭素数1〜20のアルキル基である。)
【請求項3】
前記式(1−1)及び式(1−2)におけるYが、下記式のいずれかである請求項1又は2に記載の製造方法。
【化2】

【請求項4】
前記ジアミンが、式(2):HN−Y―NH(Yは、2価の有機基である。)で表わされる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記式(2)におけるYが、下記式のいずれかである請求項4に記載の製造方法。
【化3】


(式中nは、1から12の整数である。)
【請求項6】
前記塩基が、7〜11のpKaを有する請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記塩基が、トリアルキルアミン又はN-アルキルモルホリンである請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
温度が−20〜80℃にて重縮合させる請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法において、さらに、ジカルボン酸ジエステルとジアミンとジカルボン酸とを重縮合させるポリアミド−ポリアミド酸エステルの製造方法。
【請求項10】
前記ジカルボン酸が、イソフタル酸又はテレフタル酸である請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法でえられた、ポリアミド酸エステル又はポリアミド−ポリアミド酸エステルをイミド化したポリイミド又はポリアミド−ポリイミド。

【公開番号】特開2011−174020(P2011−174020A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40895(P2010−40895)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】