ポリアミノ酸誘導体及びその製造方法
【課題】特殊な溶媒を必要とすること、低温では高分子量のポリアミノ酸が得られないこと、ラセミ化が起こること、及び高次構造が形成されないことを改善したポリアミノ酸及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(I):
(式(I)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を、R2は単結合又は二価の連結基を、R3は水素原子又は炭化水素基を、R4はアミノ酸残基を、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされる繰り返し構造からなる重合体。
【解決手段】下記一般式(I):
(式(I)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を、R2は単結合又は二価の連結基を、R3は水素原子又は炭化水素基を、R4はアミノ酸残基を、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされる繰り返し構造からなる重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミノ酸、特にアミノ酸残基含有オキセタン化合物から開環重合により得られるポリアミノ酸誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の構成要素であるアミノ酸は、食品関係、飼料、および医薬品などに広く利用されており、我々の生活に密接に関係している。アミノ酸の特徴に着目した機能性材料の応用は積極的に進められており、中でもアミノ酸を原料としたポリアミノ酸の合成は、Leuchs等によるα−アミノ酸の重合法の発見、Woodward、Schrammによる高分子量のポリ−α−アミノ酸の合成によって始められた。その後、ポリアミノ酸に関する研究はタンパク質のモデルとして重要な役割として過去50年にわたって行われており、α−へリックス、βコイル、ランダムコイルをもった構造上の特徴があること、耐有機溶媒性、耐熱性、耐候性が良好であるという特徴があることが分かっている。ポリアミノ酸が研究されている分野は人工臓器、医薬、動物性合成繊維、界面活性剤、樹脂など多岐にわたっている。利用されている用途として、医療、食品、衣料、化粧品などの幅広い分野である。また、光学活性材料や生分解性材料、生体適合性材料など機能性材料としての応用は特に注目を集めている。
【0003】
現在、高分子量のポリアミノ酸を合成する方法として、N-カルボキシ−α−アミノ酸無水物(α−アミノ酸NCA)を用いたNCA法が一般的である。この方法は、α−アミノ酸にホスゲンを直接反応させ、そこで得られたα−アミノ酸NCAのアニオン開環重合によってポリアミノ酸を合成する方法である。この方法は、モノマーは純粋な状態で容易に得られ、高分子量のポリアミノ酸が得られるという利点がある。そのため、特にポリグルタミン酸-γ-メチル (PMG)の合成において、NCA法は工業的に利用されている。しかし、NCAの合成の際に用いるホスゲンは毒性が非常に高いにもかかわらず、その使用は避けられないという問題点がある。他にも、アミノ酸類の種類によってはNCA類の合成が困難である点、さらにはNCAの安定性が低い点など多くの問題点が残されている。
【0004】
渥美等は、同一分子内にオキセタニル基とカルボキシル基を有する光学活性モノマーの合成、そしてモノマーの自己重付加反応によるポストポリアミノ酸の合成を提案した(非特許文献1)。しかし、この方法で得られたモノマーの旋光度を測定した結果、L体とD体の混合物であることが示唆された。このことはモノマー合成の際、アルカリ加水分解反応を用いることによってラセミ化が起こってしまったと考えられる。
【0005】
翌年村上等は、ラセミ化が進行しない経路の検討を行い、また、そのモノマーの自己重付加反応についての検討も行った(非特許文献2)。しかし、この方法で得たポリマーのCDスペクトルを測定した結果、明確なコットン効果が観測されなかった。この理由は、明確な高次構造が形成されなかったためと考えられるが、その原因がラセミ化によるものであるかどうかは不明である。
【0006】
ところで、四員環エーテルであるオキセタン類はカチオン重合が進行しやすく、また開環プロセスによってポリエーテルを得られる事が知られている。カチオン重合は、使用する開始剤や溶媒の種類によって反応速度や得られるポリマーの構造を規制することが比較的容易であるという興味深い特徴を有しているにもかかわらず、工業化されている例は極めて少ない。その理由として次の二つが挙げられる。一つ目の理由として、カチオン重合は低温でないと高分子量のポリマーが得られないということである。二つ目の理由として、重合に使用する溶媒が特別な有機溶媒に限られているということである。
【0007】
このような現状でありながら、ポリアミノ酸は産業界での幅広い分野において、従来用いられてきた合成高分子にない特徴を活かすことのできる機能性高分子材料として、その用途の開発は益々拡大していくと予想される。これらの問題点を改善した新たな合成法が確立されるならば、高分子化学分野をはじめとする、さまざまな産業分野において更なる新しい発展につながる可能性を秘めている。
【非特許文献1】渥美 宏之、平成十七年度 神奈川大学 応用化学専攻 修士論文
【非特許文献2】村上 晴香、平成十八年度 神奈川大学 応用化学科 卒業論文
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したような従来技術の問題点、すなわち、特殊な溶媒な溶媒を必要とすること、低温では高分子量のポリアミノ酸が得られないこと、ラセミ化が起こること、及び高次構造が形成されないことを改善したポリアミノ酸誘導体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(I):
【化6】
(式(I)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を表し、R2は単結合又は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、R4はアミノ酸残基を表し、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされる繰り返し構造からなることを特徴とする重合体である。
【0010】
また、本発明は、上記一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含む重合体の製造方法であって、下記一般式(VII):
【化7】
(式(VII)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を表し、R2は単結合又は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、R4はアミノ酸残基を表し、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされるオキセタン化合物を開環重合することを含む、製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の重合体は、特殊な溶媒な溶媒を必要とすることなく、低温反応においても高分子量で製造でき、また、ラセミ化が起こることなく、高次構造を形成することができる。さらに、本発明の重合体は、生体適合性、生分解性、光学活性ポリマーとしての多岐にわたる展開が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、下記一般式(I):
【化8】
(式(I)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を表し、R2は単結合又は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、R4はアミノ酸残基を表し、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされる繰り返し構造からなることを特徴とする重合体である。
【0013】
R1は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基である。アルキル基又は前記の基のアルキル部分は、好ましくは炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。アリールオキシアルキル基におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、トリル基、キシリル基、ナフチル基ジメチルナフチル基、アントラセル基、フェナントレニル基、クリセニル基、テトラフェニル基、ナフタセニル基等が挙げられる。R1は、水素原子、メチル基、又は、エチル基が特に好ましい。
【0014】
R2は、単結合又は二価の連結基を表し、単結合又は二価の炭化水素基であることが好ましい。R2における二価の炭化水素基としては、直鎖状であっても分岐を有していてもよい、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、及び、これらを2以上組み合わせた基が例示できるが、炭素数1〜6のアルキレン基であることが好ましい。
【0015】
R3は、水素原子又は炭化水素基を表す。R3における炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、及び、これらを2以上組み合わせた基が例示できる。R3としては、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は、炭素数7〜11のアラルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。また、R3は、R4と結合して環構造を有していてもよく、環構造を有する場合は、その環構造が含窒素5員環構造であることが好ましい。
【0016】
R4は、アミノ酸残基を表す。本発明における「アミノ酸残基」とは、アミノ酸からカルボキシル基(COOH基)及びアミノ基(NH2基又はNHR’基、R’は任意の一価の置換基)を除いた残基を表すものとする。また、本発明におけるアミノ酸残基は、アミノ酸の多量体(ポリペプチド)からカルボキシル基及びアミノ基を除いた残基であってもよい。アミノ酸残基が、アミノ酸の多量体由来の基である場合、2量体又は3量体の残基であることが好ましい。R4におけるアミノ酸残基としては、二価の炭化水素基、及び、二価の炭化水素基と二価のヘテロ原子を含む連結基とを組み合わせた基が好ましく挙げられる。
【0017】
R4における二価の炭化水素基としては、直鎖状であっても、分岐を有していても、環状構造であってもよい、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、及び、これらを2以上組み合わせた基を好ましく例示できる。また、下記二価のヘテロ原子を含む連結基とを組み合わせた多価の複素環基であることも好ましい。
【0018】
二価のヘテロ原子を含む連結基としては、−O−、−S−、−CO−、−NR−(Rは、炭化水素基を表す。)、−SO−、−SO2−が例示できる。
【0019】
また、R4の示すアミノ酸残基は、光学活性部位を有し、R体及びS体が存在するが、そのどちらでも良く、又はラセミ体でも良い。
【0020】
R5は、水素原子又は保護基を表し、保護基は、「Protective Groups in Organic Synthesis」(3rd Edition、Theodora. D. Greene and Peter G. M. Wuts著、Wiley, John & Sons社発行、1999年刊)等に記載の保護基を反応条件等により選ぶことができ、メチル基、t−ブチル基、ベンジル基、又は、p−メトキシベンジル基が好ましい。
【0021】
なお、前記炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びこれらの組み合わせ)、及び、二価の炭化水素基(アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基及びこれらの組み合わせ)は、直鎖型であっても、分岐を有していてもよく、下記に示す置換基を有していてもよい。
【0022】
前記置換基としては、炭素数1〜6の分岐を有してもよいアルキル基、炭素数1〜6の分岐を有してもよいアルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、又は、ニトロ基が好ましく挙げられる。
【0023】
上記式中の−NR3−R4−COO−部位としては、アミノ酸部位であることが好ましく、α−アミノ酸部位又はβ−アミノ酸部位であることがより好ましく、α−アミノ酸部位であることがさらに好ましい。また、光学活性を有するアミノ酸部位であることが好ましい。
【0024】
−NR3−R4−COO−部位として具体的には、以下に示すA−1〜A−20のアミノ酸構造を好ましく例示でき、その中でも、A−2及びA−11の構造であることが好ましい。なお、下記の構造中、Pgは保護基を表し、H(Pg)は水素原子であっても保護基であってもよいことを表す。1つの化合物に2以上のPgがある場合、2つ以上のPgはそれぞれ、同じであっても、異なっていてもよい。また、波線部は光学活性を有する部位を表し、R体又はS体のどちらであってもよく、ラセミ体であってもよい。
【0025】
【化9】
【0026】
【化10】
【0027】
また、本発明の重合体は、下記式(VII-1)〜(VII-4)のいずれかで表される化合物から誘導されたものであることが好ましい。
【0028】
【化11】
【0029】
本発明の重合体は、繰り返し構造が下記一般式(II):
【化12】
で表わされることが好ましい。
【0030】
本発明の化合物は、繰り返し構造が下記式(III)又は(VI):
【化13】
で表されることが好ましい。
【0031】
さらに、本発明の重合体は、繰り返し構造が下記式(V)又は(VI):
【化14】
で表されることが好ましい。
【0032】
本発明の重合体は、数平均分子量が300〜100000、好ましくは500〜50000である。
【0033】
さらに、本発明は、上記の重合体の製造方法であり、この方法は、下記一般式(VII):
【化15】
(式(VII)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を表し、R2は単結合又は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、R4はアミノ酸残基を表し、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされるオキセタン化合物を開環重合することを含む。
本発明の製造方法は、例えば、R5が保護基である一般式(VII)で表わされるオキセタン化合物からR5が保護基である一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含む重合体を製造する方法、R5が保護基である一般式(VII)で表わされるオキセタン化合物からR5が保護基である一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含む重合体を得、これを脱保護してR5が水素原子である一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含む重合体を製造する方法、及び、R5が水素原子である一般式(VII)で表わされるオキセタン化合物からR5が水素原子である一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含む重合体を製造する方法を含む。
【0034】
本発明の製造方法におけるオキセタン化合物の開環重合は、カチオン重合触媒の存在下にカチオン重合することにより行うことができる。
【0035】
式(VII)の化合物は、同一分子内にオキセタニル基と、アミド結合と、カルボキシル基又はその前駆基とを有することを特徴とする。式(VII)におけるR1〜R5としては、重合体について述べた範囲と同一である。
【0036】
前述の通り、式(VII)中の−NR3−R4−COO−部位として具体的には、A−1〜A−20のアミノ酸構造を好ましく例示でき、その中でも、A−2及びA−11の構造であることが好ましく、また、式(VII)で表される化合物は、式(VII-1)〜(VII-4)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【0037】
式(VII)の化合物の合成法としては、特に制限されるわけではないが、特開2007−210946号公報に記載された以下のScheme1〜3に示す方法が好ましく例示できる。
【化16】
(Scheme1〜3中、R1〜R5は、式(I)のR1〜R5と同義であり、好ましい範囲も同様である。)
【0038】
前記Scheme1の出発物質であるアミノ酸(a)は、市販のもの用いても、又は、市販の化合物より誘導し得てもよく、特に合成法は限定されない。前記アミノ酸としては、α−アミノ酸であっても、β−以上のアミノ酸であってもよい。具体的には、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン又はフェニルアラニンが好ましく例示でき、これらの中でも、アラニン又はフェニルアラニンがより好ましい。アミノ酸としては、L体、D体、又は、これらの任意の割合の混合体を例示でき、L体、D体又はDL体を好ましく使用できるが、より好ましくはL体又はD体であり、さらに好ましくはL体である。
【0039】
フェニルアラニンベンジルエステル及び3-カルボキシ-3-エチルオキセタン(CEO)からの一般式(VII)の化合物を使用する本発明の製造方法を以下に示す。
【化17】
Oxe-L(D)-PhAla-Benzylからベンジル保護基を除いてOxe-L(D)-PhAla-COOHとした後に、同様に重合して、ポリ(Oxe-L(D)-PhAla-COOH)を製造することもできる。
【0040】
本発明の製造方法で使用するカチオン重合触媒は、例えば光あるいは熱により活性化されて酸成分を生成し単量体中の開環重合性基のカチオン開環重合を誘発する触媒やプロトン酸、ルイス酸があげられる。具体的には、トリフルオロメタンスルホン酸、三フッ化ホウ素エーテル錯体が例示できる。
触媒の使用量は、基質1molに対し0.01〜20mol%、好ましくは0.1〜10mol%である。
本発明の製造方法においては、溶剤を使用できる。溶剤としては、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロピラン、ニトロメタン等を挙げることができ、好ましくはニトロメタンである。
溶剤の使用量は、基質1molに対して0.01〜100L、好ましくは0.1〜10Lである。
本発明の製造方法におけるカチオン重合は、反応温度−30〜150℃、好ましくは20〜100℃で、反応時間1〜100時間、好ましくは10〜72時間反応させる。
【実施例】
【0041】
以下本発明を実施例を用いて説明する。
1. 試薬および溶媒
3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン (EHO)は、減圧蒸留にて精製し用いた。酸化クロム(VI)、硫酸、L-フェニルアラニン、D-フェニルアラニン、p-トルエンスルホン酸、ベンジルアルコール、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩 (EDC塩酸塩)、トリエチルアミン (NEt3)、塩酸、三フッ化ホウ素エーテル錯体 (BF3Et2O)、トリフルオロメタンスルホン酸 (TFMSA)、N,N-ジメチルホルムアミド (DMF)は、市販品をそのまま使用した。溶媒として用いたアセトン、THF、n-ヘキサン、クロロホルム、酢酸エチル、メタノール、塩化メチレン、トルエン、エーテルは、市販品をそのまま使用した。ニトロメタンは、無水硫酸マグネシウムにより予備乾燥後、常圧蒸留にて精製を行った。
【0042】
2. 測定機器
分析は、以下の測定機器を使用して行った。
・赤外分光光度計 (IR):Thermo ELECTRON(株)製 NICOLET 380 FT-IR
・1H 核磁気共鳴装置:500 MHz-NMR;日本電子(株)製 JEOL ECA-500
600 MHz-NMR;日本電子(株)製 JEOL ECA-600
・ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC):東ソー(株)製 HLC-8220
カラム;Shodex Asahipac GF-510 HQ、GF-310 HQ×2
標準;ポリスチレン
溶媒;20 mM リチウムブロミド、20 mM リン酸含有ジメチルホルムアミド溶液
検出器;RI、UV-8220 (内蔵)
・示差走査熱量計 (DSC):セイコーインスツルメンツ(株)社製
Seiko Instruments EXTAR 6000 DSC 6200
(測定条件:窒素雰囲気下、昇温速度 10 ℃/min、密閉型アルミニウムパン)
・融点測定機:柳本製作所(株)製 Yanako MP-500D
・元素分析 (EA):パーキンエルマーPE2400 SeriesII CHNS/O Analyzer
・旋光計:日本分光(株)製 P-1020型旋光計
・円二色性分散計:日本分光(株)製 J-600
【0043】
製造例1 3-カルボキシ-3-エチルオキセタン(CEO)の合成
特願2007−210946の合成例1記載の方法に従って合成した。500 mLナスフラスコに回転子を入れ、Jones試薬22.8 mL(1.5 eq)、アセトン180 mLを加え、0 ℃にて攪拌した。これに、3-エチル-3-ヒドロキシルメチルオキセタン(EHO) 2.78 g (24 mmol)とアセトン180 mLの混合物をゆっくりと滴下し、-5 ℃にて2 h、続いて室温にて4 h攪拌を行った。反応終了後、0 ℃にてイソプロピルアルコールを5 mL加え反応を停止させた。得られた混合物をセライトにてろ過し、適量のアセトンを使用して洗浄した。次に、得られたろ液を減圧濃縮した。残留した液体にNaOH水溶液を加え塩基性にさせた後、酢酸エチルを用いて洗浄を3回行った。水相にH2SO4を加え酸性にさせた後、酢酸エチルによる抽出操作を3回行い、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、乾燥剤をろ別し、溶媒を減圧留去した後、減圧蒸留により精製し、無色透明液体を得た。この得られた液体を冷凍庫に静置し、白色粉末固体を得た。
収量:2.12 g (67 %)
沸点:72 ℃ (3.0 mmHg)
融点:34.3 ℃ (DSC)
IR(KRS, cm-1):2968 (ν-OH)、2638 and 2559 (νC-H)、1732 (ν-C=O カルボン酸)、982 (νC-O-C 環状エーテル)
1H NMR(500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.82 ( t, Jab = 6.3 Hz, 3 H)、1.93 ( q, Jba = 6.5 Hz, 2 H)、4.32 〜 4.33 and 4.69 〜 4.70 ( AB qualtet, Jcc = 5.0 Hz, 4 H)、12.7 ( br, 1 H)
【0044】
製造例2 L体の合成
(1) L-フェニルアラニンベンジルエステルTosOH塩 (L-Phe-OBzl・TosOH)の合成
500 mLナスフラスコに回転子を入れ、L−フェニルアラニン (L -PA) 9.91 g (60 mmol)、p-トルエンスルホン酸 (TosOH) 13.70 g (72 mmol)、ベンジルアルコール (BzlOH) 30 mL、トルエン75 mLを加え還流冷却器を付けたDean-Stark 装置を用いて120 ℃で水の生成が確認されなくなるまで5 h攪拌した。その後、得られた反応母液を放冷し、粗結晶を得た。得られた粗結晶をエーテルを用いて洗浄し、メタノールにて再結晶を行い、無色針状結晶を得た。
収量:22.3 g (87 %)
融点:153 ℃ (DSC)
[α]D25=- 6.6 °(CH3OH、c = 0.1 g/dL)
IR (KBr,cm-1):3088〜2948 (νNH3+ 1級アミンセール)、2739 and 2666 (νC-H)、1740 (νC=O エステル)、1206 and 1036 (νS=O スルホン酸)、1127 (νC-O-C エステル)、696 (νS-O スルホン酸)
1H NMR(500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):2.27 (s,3 H)、3.11 (m,2 H)、4.37 (s, 1 H)、4.50 (s, 1 H)、5.13 (s,2 H)、7.11〜7.52 (m,14 H)、8.48 (s,3 H)
【0045】
(2) 3-(カルボキシ-L-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン (C-L-PAEO-OBzl)の合成
200 mL三つ口ナスフラスコに回転子を入れ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド (EDC塩酸塩) 3.83 g (20 mmol) 、CH2Cl2 20 mLを加え窒素雰囲気下、0 ℃で1 h 攪拌した。この後、3-カルボキシ-3-エチルオキセタン (CEO) 2.60 g (20 mmol)、L-フェニルアラニンベンジルエステルTosOH塩(L-Phe-OBzl-TosOH) 8.55 g (20 mL)、NEt3 2.23 mL、CH2Cl2 25 mLを加え、室温、窒素雰囲気下中、12 h 攪拌を行った。反応終了後、反応母液を1N HClで2回、重曹水で2回、さらに水で2回洗浄を行った後、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し溶媒を減圧留去させ、得られた淡黄色透明の粘性液体を展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=2:1を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる単離精製 (Rf= 0.3)を行った。溶媒を減圧留去させ、得られた液体を冷凍庫に静置し、淡黄色固体を得た。
収量:3.98 g (54 %)
融点:57.7 ℃ (DSC)
[α]D25=-3.18 °(CHCl3、c = 1 g/dL)
IR(KRS, cm-1):3308 (νNH)、3064 ,3031, 2964 and 2877 (νC-H)、1742 (νC=O エステル)、1652 (νC=O アミド)、1213 and 1179 (νC-O-C エステル)、982 (νC-O-C 環状エーテル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.52 (t, 3 H)、1.80〜1.88 (m, 2 H)、2.92〜2.96 (m, 2 H)、4.21〜4.22、4.50〜4.55 (AB qualtet, Jcc = 6.6 Hz, 4 H)、4.60〜4.64 (m, 1 H)、5.12 (m, 2 H)、7.20〜7.40 (m, 10 H)、8.25 (m, 1 H)
元素分析:C15H19NO4 計算値 (%) C:71.91、H:6.86、N:3.81、O:17.42
実測値 (%) C:71.95、H:6.70、N:3.72、O:17.63
【0046】
製造例3 D体の合成
(1) D-フェニルアラニンベンジルエステルTosOH塩 (D-Phe-OBzl・TosOH)の合成
500 mLナスフラスコに回転子を入れ、D -フェニルアラニン (D -PA) 9.91 g (60 mmol)、p-トルエンスルホン酸 (TosOH) 13.70 g (72 mmol)、ベンジルアルコール (BzlOH) 30 mL、トルエン 75 mLを加え還流冷却器を付けたDean-Stark 装置を用いて120 ℃で水の生成が確認されなくなるまで5 h攪拌した。その後、得られた反応母液を放冷し、粗結晶を得た。得られた粗結晶をエーテルを用いて洗浄し、メタノールにて再結晶を行い、無色針状結晶を得た。
収量:21.7 g (85 %)
融点:約154 ℃ (DSC)
[α]D25=+6.4 °(CH3OH,c = 0.1 g/dL)
IR (KBr,cm-1):3090〜2949 (νNH3+ 1級アミンセール)、2638 and 2559 (νC-H)、1741 (νC=O エステル)、1206 and 1037 (νS=O スルホン酸)、1128 (νC-O-C エステル)、697 (νS-O スルホン酸)
1H NMR(500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):3.27 (s,3 H)、2.17 (m,2 H)、3.61 (s, 1 H)、3.62 (s, 1 H)、5.15 (s,2 H)、7.10〜7.48 (m,14 H)、8.42 (s,3 H)
【0047】
(2) 3-(カルボキシ-D-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン(C-D-PAEO-OBzl)の合成
200 mL三つ口ナスフラスコに回転子を入れ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド (EDC塩酸塩) 3.83 g (20 mmol) 、CH2Cl2 20 mLを加え窒素雰囲気下、0 ℃で1 h 攪拌した。この後、3-カルボキシ-3-エチルオキセタン (CEO) 2.60 g (20 mmol)、D-フェニルアラニンベンジルエステルTosOH塩 (D-Phe-OBzl-TosOH) 8.55 g (20 mL)、NEt3 2.23 mL、CH2Cl2 25 mLを加え、室温、窒素雰囲気下中、12 h 攪拌を行った。反応終了後、反応母液を1N HClで2回、重曹水で2回、さらに水で2回洗浄を行った後、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し溶媒を減圧留去させ、得られた淡黄色透明の粘性液体を展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=2:1を用いてカラムクロマトグラフィーによる単離精製を行った (Rf= 0.3)。溶媒を減圧留去させ、得られた液体を冷凍庫に静置し、淡黄色固体を得た。
収量:4.2 g (57 %)
融点:60.8℃ (DSC)
[α]D25=+3.33 °( CHCl3、c = 1 g/dL)
IR(KRS, cm-1):3307 (νNH)、3064, 3031, 2964 and 2877 (νC-H)、1732 (νC=O エステル)、1650 (νC=O アミド)、1213 and 1179 (νC-O-C エステル)、982 (νC-O-C 環状エーテル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.52 (t, 3 H)、1.80〜1.88 (m, 2 H)、2.92〜2.96 (m, 2 H)、4.18〜4.22、4.51〜4.53 (AB qualtet, Jcc = 6.5 Hz, 4 H)、4.60〜4.64 (m, 1 H)、5.13 (m, 2 H)、7.20〜7.38 (m, 10 H)、8.26 (m, 1 H)
元素分析:C15H19NO4 計算値 (%) C:71.91、H:6.86、N:3.81、O:17.42
実測値 (%) C:72.01、H:6.90、N:3.72、O:17.37
【0048】
実施例1 C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合
10 mLナスフラスコに回転子を入れ、C-L-PAEO-OBzl 1.1 g (3 mmol) を量り取り、溶媒としてCH3NO2を3 mLを加え、70 ℃で30分攪拌した。この後、触媒としてTFMSA (10 mol%)を加え、同様の温度にて 24 h攪拌を行った。反応母液にトリエチルアミンをパスツールピペットで1滴加えてクエンチを行った。その後、適量のクロロホルムで希釈し、1N HClで2回洗浄を行った後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し溶媒を減圧留去させ、クロロホルムを良溶媒とし、大量のn-ヘキサンに落として乳白色の固体を得た。
収量:0.86 g(78 %)
Mn:3000
Mw/Mn:1.8
[α]D25 = -1.3 °(CHCl3, c = 1 g/dL)
IR(KRS, cm-1):3342 (νNH)、3062, 3029, 2967 and 2935 (νC-H)、1740 (νC=O エステル)、1659 (νC=O アミド)、1215 and 1190 (νC-O エステル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.47 〜 0.60 (m, 3 H)、1.36 (br, 2 H)、3.03 〜 3.06 (m, 2 H)、3.27 (br, 1 H)、3.46 〜 4.88 (m, 4H)、5.03 〜 5.10 (m, 2 H)、7.09 〜 7.23 (m, 10 H)、7.64 〜 8.32 (m, 1.0 H)
【0049】
実施例2 C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合における触媒効果
すり付き試験管に回転子を入れ、C-L-PAEO-OBzl 0.11 g (0.3 mmol) を量り取り、溶媒としてCH3NO2を0.3 mLを加え、70 ℃で30分 攪拌した。この後、触媒としてBF3Et2O (30 mol%)もしくはTFMSA (30 mol%)を加え、同様の温度にて 24 h攪拌を行った。反応終了後の単離操作は実施例1 と同様に行った。
【0050】
実施例3 C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合における触媒濃度効果
すり付き試験管に回転子を入れ、C-L-PAEO-OBzl 0.11 g (0.3 mmol) を量り取り、溶媒としてCH3NO2を0.3 mLを加え、70 ℃で30分攪拌した。この後、触媒としてTFMSA (3 mol%、10 mol%、30 mol%、50 mol%)を加え、同様の温度にて 24 h攪拌を行った。反応終了後の単離操作は実施例1 と同様に行った。
【0051】
実施例4 C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合における温度効果
すり付き試験管に回転子を入れ、C-L-PAEO-OBzl 0.11 g (0.3 mmol) を量り取り、溶媒としてCH3NO2を0.3 mLを加え、種々の反応温度 (60、70、80 ℃)で30分 攪拌した。この後、触媒としてTFMSA (10 mol%)を加え、同様の温度にて 24 h攪拌を行った。反応終了後の単離操作は実施例1 と同様に行った。
【0052】
製造例4 モノマーの脱保護反応
(1) 3-(カルボキシ-L-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン (C-L-PAEO)の合成
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、C-L-PAEO-OBzl 1.86 g (5 mmol)を加え少量のメタノールで希釈した。凍結・脱気を三回行い、過剰量のパラジウム-活性炭素を加え24 h水素添加を行った。その後、パラジウム-活性炭素をろ過し、母液を酢酸エチルで希釈し1 N HClで二回洗浄を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、乾燥剤をろ別した。その後溶媒を減圧留去し、白色固体を得た。得られた白色固体を酢酸エチルを用いて再結晶を行い、無色針状結晶を得た。
収量:0.87 g (63 %)
融点:128 ℃ (DSC)
[α]D25 = +51.3 °(CHCl3, c = 1 g/dL)
IR (KBr, cm-1):3312 (νNH)、2965 (νC-H)、1735 (νC=O カルボン酸) 、1649 (νC=O アミド)、1218 and 1194 (νC-O-C カルボキシラート) 、962 (νC-O-C 環状エーテル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.53 (t, 3 H, Jab = 7.0 Hz)、1.80 〜 1.89 (m, 2 H, Jba = 7.0 Hz)、2.84 〜 3.15 (m, 2 H)、4.18 〜 4.23, 4.50 〜 4.57 (AB qualtet, Jcc = 8.0 Hz, 4 H)、4.48 〜 4.49 (m, 1 H, Jed = 8.5 Hz)、7.18 〜 7.29 (m, 5 H)、8.09 (d, 1 H, Jde = 8.5 Hz)、12.75 (s, 1 H)
【0053】
(2) 3-(カルボキシ-D-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン(C-D-PAEO)の合成
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、C-D-PAEO-OBzl 1.86 g (5 mmol)を加え少量のメタノールで希釈した。凍結・脱気を二回行い、過剰量のパラジウム-活性炭素を加え24 h水素添加を行った。その後、パラジウム-活性炭素をろ過し、母液を酢酸エチルで希釈し1 N HClで二回洗浄を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、乾燥剤をろ別した。その後溶媒を減圧留去し、白色固体を得た。得られた白色固体を酢酸エチルを用いて再結晶を行い、無色針状結晶を得た。
収量:1.02 g (74 %)
融点:127 ℃ (DSC)
[α]D25 = -49.4°(CHCl3, c = 1 g/dL)
IR (KBr, cm-1):3313 (νNH)、2967 (νC-H)、1735 (νC=O カルボン酸)、1648 (νC=O アミド)、1219 and 1195 (νC-O-C カルボキシラート)、962 (νC-O-C 環状エーテル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.53 (t, 3 H, Jab = 7.3 Hz)、1.80 〜 1.90 (m, 2 H, Jba = 7.3 Hz)、2.86 〜 3.15 (m, 2 H)、4.18 〜 4.23, 4.50 〜 4.57 (AB qualtet, Jcc = 8.0 Hz,4 H)、4.48 〜 4.49 (m, 1 H, Jed= 8.5 Hz)、7.18 〜 7. 29(m, 5 H)、8.09 (d, 1 H, Jde = 8.5 Hz)、12.75 (s, 1 H)
【0054】
実施例5 ポリマーの脱保護反応
(1) Poly(C-L-PAEO)の合成
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、Poly(C-L-PAEO-OBzl) 0.8 gを加え少量のTHFで希釈した。凍結・脱気を三回行い、過剰量のパラジウム-活性炭素を加え72 h水素添加を行った。その後、パラジウム-活性炭素をろ過し、溶媒を減圧留去させ、THFを良溶媒とし、大量のエーテルに落として白色の固体を得た。
収量:0.26 g (32 %)
脱保護率:100 % (1H NMR)
Mn:2900
Mw/Mn:1.8
[α]D25 = +27.5°(CHCl3, c = 1 g/dL)
IR (KRS, cm-1):3349 (νNH)、2969,2936and 2880 (νC-H)、1739 (νC=O カルボン酸)、1654 (νC=O アミド)、1215 and 1192 (νC-O-C エステル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.49 (br, 3 H)、1.36 (br, 2 H)、3.01 (br, 2 H)、3.34 〜 3.35 (m, 1 H)、3.56 〜 4.47 (m, 4 H)、7.18 (br, 5 H)、7.50〜7.52 (m, 1 H)
【0055】
(2) Poly(C-D-PAEO)の合成
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、Poly(C-D-PAEO-OBzl) 0.8 gを加え少量のTHFで希釈した。凍結・脱気を三回行い、過剰量のパラジウム-活性炭素を加え24 h水素添加を行った。その後、パラジウム-活性炭素をろ過し、溶媒を減圧留去させ、THFを良溶媒とし、大量のエーテルに落として白色の固体を得た。
収量:0.26 g (32 %)
脱保護率:84 % (1H NMR)
Mn:2900
Mw/Mn:1.6
[α]D25 = -26.1°(CHCl3, c = 1 g/dL)
IR (KRS, cm-1):3349 (νNH)、2969,2936and 2880 (νC-H)、1739 (νC=O カルボン酸)、1654 (νC=O アミド)、1215 and 1192 (νC-O-C エステル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.49 (br, 3 H)、1.36 (br, 2 H)、2.95 〜 3.04 (m, 2 H)、3.30 (br, 1 H)、4.04〜4.58 (m, 4 H)、7.18 (br, 5 H)、7.69〜8.32 (m, 1 H)
【0056】
測定例 光学特性
(1) 比旋光度の測定
モノマー C-L-PAEO-OBzl、C-D-PAEO-OBzl、脱保護を行ったモノマーC-L-PAEO、C-D-PAEO、ポリマーPoly(C-L-PAEO-OBzl) (Mn = 3000)、Poly(C-D-PAEO-OBzl) (Mn = 3000) 、脱保護を行ったポリマーPoly(C-L-PAEO) (Mn = 2700) 、Poly(C-D-PAEO) (Mn = 2700)をそれぞれ0.1 g量りとり、10 mLメスフラスコを用いて、濃度c = 1 g/dLのサンプルを調整した。空測定および測定溶媒 DMF/CHCl3混合溶媒の測定を行った。次いで、サンプルの比旋光度 [α]D25を測定した。
(2) CDスペクトルの測定
モノマー C-L-PAEO-OBzl、C-D-PAEO-OBzl、脱保護を行ったモノマーC-L-PAEO、C-D-PAEO、ポリマーPoly(C-L-PAEO-OBzl) (Mn = 3000)、Poly(C-D-PAEO-OBzl) (Mn = 3000) 、脱保護を行ったポリマーPoly(C-L-PAEO) (Mn = 2700) 、Poly(C-D-PAEO) (Mn = 2700)をそれぞれ、0.1 g秤りとり、10 mLメスフラスコを用いて、濃度c = 1 g/dLのサンプルを調整した。サンプルをCDスペクトル用のセルに入れ、CDスペクトルを測定した。
【0057】
結果
1. アミノ酸を出発原料に用いたオキセタニル基を有する光学活性モノマー類の合成
(1) 3-カルボキシ-3-エチルオキセタン (CEO)の合成
【化18】
製造例1により、収率67 %でCEOを得た。構造確認はIR、1H NMRにて行った。IRスペクトルにおいて、1732 cm-1にカルボン酸に起因する新たなカルボニル基の吸収を確認した (図 1)。また、1H NMRスペクトルより水酸基に起因するシグナルが消失し、12.7 ppmにカルボキシル基に起因するシグナルが観測された (図 2)。
【0058】
(2) L体の合成
(2.1) L-フェニルアラニンベンジルエステルTosOH塩 (L-Phe-OBzl・TosOH)の合成
【化19】
製造例2(1)により、収率87 %、[α]D25 = -6.6 °(CH3OH, c = 0.1 g/dL)でL-フェニルアラニンベンジルエステルを得た。構造確認はIR、1H NMR、にて行った。IRスペクトルにおいて、L-PAのカルボン酸に起因する吸収が消失し、1206, 1036 cm-1にスルホン酸に起因する吸収が新たに観測された(図 3)。また、1H NMRスペクトルよりカルボン酸に起因するシグナルが消失し、5.13 ppm、7.11 〜 7.52 ppm付近に新たにベンジルエステルに起因するシグナルが観測された (図4)。
(2.2) 3-(カルボキシ-L-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン (C-L-PAEO-OBzl)の合成
【化20】
製造例2(2)により、収率54 %、[α]D25= -3.18 °(CHCl3, c = 1 g/dL)でC-L-PAEO-OBzlを得た。構造確認はIR、1H NMR、および元素分析にて行った。IRスペクトルにおいて、982 cm-1にオキセタニル基に起因する吸収、および1652 cm-1にアミドに起因するカルボニルの吸収を確認した (図5)。また、1H NMRスペクトルよりスルホン酸に起因するシグナルが消失し、4.21 〜 4.22, 4.50 〜 4.55 ppmにオキセタニル基に起因するシグナル、および8.25 ppmにアミドに起因するシグナルが新たに観測された (図6)。
【0059】
(3) D体の合成
(3.1) D-フェニルアラニンベンジルエステルTosOH塩 (D-Phe-OBzl・TosOH)の合成
【化21】
製造例3(1)により、D-Phe-OBzl・TosOHを収率85 %、[α]D25 = + 6.4°(CH3OH, c = 0.1 g/dL)で得た。構造確認はIR、1H NMRにて行った。IRスペクトルにおいて、D-PAのカルボン酸の吸収が消失し、1206, 1037 cm-1にスルホン酸に起因する吸収を新たに観測された (図7)。また、1H NMRスペクトルよりカルボン酸に起因するシグナルが消失し、5.15 ppm、7.10 〜 7.48 ppm付近に新たにベンジルエステルに起因するシグナルが観測された (図8)。
(3.2) 3-(カルボキシ-D-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン(C-D-PAEO-OBzl)の合成
【化22】
製造例3(2)により、収率57 %、[α]D25= +3.33°(CHCl3, c = 0.1 g/dL)でC-D-PAEO-OBzlを得た。構造確認はIR、1H NMRスペクトルにて行った。IRスペクトルにおいて、982 cm-1にオキセタニル基に起因する吸収、および1650 cm-1にアミドに起因するカルボニル基の吸収を確認した (図9)。また、1H NMRスペクトルよりスルホン酸に起因するシグナルが消失し、4.18 〜 4.22, 4.51 〜 4.53 ppmにオキセタニル基に起因するシグナル、および8.26 ppmにアミドに起因するシグナルが新たに観測された (図10)。
【0060】
(4) アミノ酸を出発原料に用いたオキセタニル基を有する光学活性モノマー類のカチオン重合
(4.1) C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合
【化23】
実施例1により、Mn = 3000、Mw / Mn = 1.8のPoly(C-L-PAEO-OBzl)が収率58 %で得られた。得られたポリマーの構造確認はIR、1H NMRにより行った。その結果、IR スペクトルより、C-L-PAE-OBzlのオキセタニル基 (982 cm-1)に起因するシグナルが消失した(図11)。また、1H NMR スペクトルより、オキセタニル基に起因する4.21 ppm付近のピークの減少、そして新たに、オキセタニル基が開環したことにより生じるエーテルのメチレンプロトンに起因するピークが3.28 ppm付近に出現した(図12)。
【0061】
(4.2) C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合における触媒効果
実施例2に基づき反応を行った (表1)。
【表1】
表1に示した結果のように、BF3Et2O を用いた場合よりもTFMSAを用いた場合の方が収率および数平均分子量が増加する傾向を示した。
【0062】
(4.3) C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合における触媒濃度効果
実施例3に基づき反応を行った (表2)。
【表2】
表2に示した結果のように、触媒濃度を増加させることにより、数平均分子量が増加する傾向を示した。しかしながら、30 mol% (ラン3)以上において、分子量分布も広く、SECチャートは単峰性を示さなかった (図13)。
【0063】
(4.4) C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合における温度効果
実施例4に基づき反応を行った (表3)
【表3】
表3に示した結果のように、温度を増加させることにより、数平均分子量が増加する傾向を示した。しかしながら、80 ℃ (ラン 3)において、分子量分布も広く、SECチャートは単峰性を示さなかった (図14)。
【0064】
(5) モノマーの脱保護
(5.1) 3-(カルボキシ-L-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン(C-L-PAEO)の合成
【化24】
製造例4(1)により、C-L-PAEOを収率63 %、[α]D25 = +51.3 °(CHCl3, c = 1 g/dL)で得た。構造確認はIR、1H NMRにて行った。IRスペクトルにおいて、1735 cm-1にカルボン酸に起因する吸収を確認した (図15)。また、1H NMRスペクトルよりベンジルエステルに起因するシグナルが消失し、12.75 ppmにカルボン酸に起因するシグナルが観測された (図16)。
【0065】
(5.2) 3-(カルボキシ-D-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン(C-D-PAEO)の合成
【化25】
製造例4(2)により、C-D -PAEOを収率 74 %、[α]D25= -49.6 °(CHCl3, c = 1 g/dL)で得た。構造確認はIR、1H NMR、にて行った。IRスペクトルにおいて、1735 cm-1にカルボン酸に起因する吸収を確認した (図17)。また、1H NMRスペクトルよりベンジルエステルに起因するシグナルが消失し、12.75 ppm付近にカルボン酸に起因するシグナルが新たに観測された (図18)。
【0066】
(6) ポリマーの脱保護
(6.1) Poly(C-L-PAEO)の合成
【化26】
実施例5(1)により、Mn = 2900、Mw / Mn = 1.8のPoly(C-L-PAEO)を脱保護率100 %、収率32 %、[α]D25 = +27.5 °(CHCl3, c = 1 g/dL)で得た。構造確認はIR、1H NMRにて行った。IRスペクトルにおいて、1749 cm-1にカルボン酸に起因する吸収を確認した (図19)。また、1H NMRスペクトルよりカルボン酸に起因するシグナルが観測されなかったものの、Poly(C-L-PAEO-OBzl)のベンジルエステルに起因するシグナルが消失したことが観測された (図20)。
【0067】
(6.2) Poly (C-D-PAEO)の合成
【化27】
実施例5(2)により、Mn = 2900、Mw / Mn = 1.6のPoly(C-D-PAEO)を脱保護率84 %、収率36 %、[α]D25=-26.1 °(CHCl3, c = 1 g/dL)で得た。構造確認はIR、1H NMR、にて行った。IRスペクトルにおいて、1749 cm-1にカルボン酸に起因する吸収を確認した (図21)。また、1H NMRスペクトルよりカルボン酸に起因するシグナルが観測されなかったものの、Poly(C-D-PAEO-OBzl)のベンジルエステルに起因するシグナルが減少したことが観測された (図22)。
また、反応を72 時間で行ったPoly(C-L-PAEO)の脱保護率は100 %であるのに対し、反応を24 時間で行ったPoly(C-D-PAEO)の脱保護率は84 %であった。
【0068】
(7) 光学特性
(7.1) 比旋光度の測定
測定例(1)に基づき比旋光度 [α]D25の測定をCHCl3中で行った (表4、表5)。
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
これらの結果より、L体とD体から、絶対値にわずかな違いが確認されたが、絶対値はほとんど一致し、一連の反応はラセミ化が起こらず進行したことが示された。また、脱保護反応を行うことによって、モノマーおよびポリマーの[α]D25は、正と負の値が逆転した。
【0072】
また、モノマー C-L-PAEO-OBzl、C-D-PAEO-OBzl、ポリマーPoly(C-L-PAEO-OBzl) (Mn = 3000)、Poly(C-D-PAEO-OBzl) (Mn = 3000)の比旋光度 [α]D25の測定をDMF / CHCl3混合溶媒の種々の混合比 (0:1、1:3、1:1、3:1、1:0)によって行った(C = 1g/dL, DMF/CHCl3)(図23)。
【0073】
(7.2) モノマーのCDスペクトル
測定例(2)に基づきモノマーのCDスペクトル測定をCHCl3を用いて行った(C = 1g/dL, CHCl3)(図24)。
図24 に示したように、4種のモノマーC-L-PAEO-OBzl、C-D-PAEO-OBzl、C-L-PAEO、C-D-PAEOでは上下対象のコットン効果が観測された。さらに、脱保護反応後ではコットン効果が増大した。
また、脱保護反応後に比旋光度 [α]D25の正と負の値が逆転したにもかかわらず、コットン効果の反転は観測されなかった。
【0074】
(7.3) ポリマーのCDスペクトル
測定例(2)に基づきポリマーのCDスペクトル測定をCHCl3を用いて行った(C = 1g/dL, CHCl3)(図25)。
図25 に示したように、4種のポリマーPoly(C-L-PAEO-OBzl) (Mn = 3000)、Poly(C-D-PAEO-OBzl) (Mn = 3000) 、Poly(C-L-PAEO) (Mn = 2900) 、Poly(C-D-PAEO) (Mn = 2900)では上下対象のコットン効果が観測された。これは、ポリマーPoly(C-L-PAEO-OBzl) とPoly(C-D-PAEO-OBzl)、脱保護を行ったポリマーPoly(C-L-PAEO) とPoly(C-D-PAEO)がそれぞれ対称の高次構造を構築していることが示唆される。さらに、脱保護反応後ではコットン効果が増大した。
また、モノマーと同様に、脱保護反応後に比旋光度 [α]D25の正と負の値が逆転したにもかかわらず、コットン効果の反転は観測されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の重合体は、生体適合性、生分解性、光学活性ポリマーとしての多岐にわたる展開が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】CEOのIRスペクトルを示す。
【図2】CEOの1H NMRスペクトルを示す。
【図3】L-Phe-OBzl・TosOHのIRスペクトルを示す。
【図4】L-Phe-OBzl・TosOHの1H NMRスペクトルを示す。
【図5】C-L-PAEO-OBzlのIRスペクトルを示す。
【図6】C-L-PAEO-OBzlの1H NMRスペクトルを示す。
【図7】D-Phe-OBzl・TosOHのIRスペクトルを示す。
【図8】D-Phe-OBzl・TosOHの1H NMRスペクトルを示す。
【図9】C-D-PAEO-OBzlのIRスペクトルを示す。
【図10】C-D-PAEO-OBzlの1H NMRスペクトルを示す。
【図11】ポリ(C-L-PAEO-OBzl)のIRスペクトルを示す。
【図12】ポリ(C-L-PAEO-OBzl)の1H NMRスペクトルを示す。
【図13】ポリ(C-L-PAEO-OBzl)のSECチャート(触媒濃度)を示す。
【図14】ポリ(C-L-PAEO-OBzl)のSECチャート(反応温度)を示す。
【図15】C-L-PAEOのIRスペクトルを示す。
【図16】C-L-PAEOの1H NMRスペクトルを示す。
【図17】C-D-PAEOのIRスペクトルを示す。
【図18】C-D-PAEOの1H NMRスペクトルを示す。
【図19】ポリ(C-L-PAEO)のIRスペクトルを示す。
【図20】ポリ(C-L-PAEO)の1H NMRスペクトルを示す。
【図21】ポリ(C-D-PAEO)のIRスペクトルを示す。
【図22】ポリ(C-D-PAEO)の1H NMRスペクトルを示す。
【図23】モノマー、ポリマーの混合溶媒(DMF/CHC3)中での比旋光度を示す。
【図24】モノマーのCDスペクトルを示す。
【図25】ポリマーのCDスペクトルを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミノ酸、特にアミノ酸残基含有オキセタン化合物から開環重合により得られるポリアミノ酸誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の構成要素であるアミノ酸は、食品関係、飼料、および医薬品などに広く利用されており、我々の生活に密接に関係している。アミノ酸の特徴に着目した機能性材料の応用は積極的に進められており、中でもアミノ酸を原料としたポリアミノ酸の合成は、Leuchs等によるα−アミノ酸の重合法の発見、Woodward、Schrammによる高分子量のポリ−α−アミノ酸の合成によって始められた。その後、ポリアミノ酸に関する研究はタンパク質のモデルとして重要な役割として過去50年にわたって行われており、α−へリックス、βコイル、ランダムコイルをもった構造上の特徴があること、耐有機溶媒性、耐熱性、耐候性が良好であるという特徴があることが分かっている。ポリアミノ酸が研究されている分野は人工臓器、医薬、動物性合成繊維、界面活性剤、樹脂など多岐にわたっている。利用されている用途として、医療、食品、衣料、化粧品などの幅広い分野である。また、光学活性材料や生分解性材料、生体適合性材料など機能性材料としての応用は特に注目を集めている。
【0003】
現在、高分子量のポリアミノ酸を合成する方法として、N-カルボキシ−α−アミノ酸無水物(α−アミノ酸NCA)を用いたNCA法が一般的である。この方法は、α−アミノ酸にホスゲンを直接反応させ、そこで得られたα−アミノ酸NCAのアニオン開環重合によってポリアミノ酸を合成する方法である。この方法は、モノマーは純粋な状態で容易に得られ、高分子量のポリアミノ酸が得られるという利点がある。そのため、特にポリグルタミン酸-γ-メチル (PMG)の合成において、NCA法は工業的に利用されている。しかし、NCAの合成の際に用いるホスゲンは毒性が非常に高いにもかかわらず、その使用は避けられないという問題点がある。他にも、アミノ酸類の種類によってはNCA類の合成が困難である点、さらにはNCAの安定性が低い点など多くの問題点が残されている。
【0004】
渥美等は、同一分子内にオキセタニル基とカルボキシル基を有する光学活性モノマーの合成、そしてモノマーの自己重付加反応によるポストポリアミノ酸の合成を提案した(非特許文献1)。しかし、この方法で得られたモノマーの旋光度を測定した結果、L体とD体の混合物であることが示唆された。このことはモノマー合成の際、アルカリ加水分解反応を用いることによってラセミ化が起こってしまったと考えられる。
【0005】
翌年村上等は、ラセミ化が進行しない経路の検討を行い、また、そのモノマーの自己重付加反応についての検討も行った(非特許文献2)。しかし、この方法で得たポリマーのCDスペクトルを測定した結果、明確なコットン効果が観測されなかった。この理由は、明確な高次構造が形成されなかったためと考えられるが、その原因がラセミ化によるものであるかどうかは不明である。
【0006】
ところで、四員環エーテルであるオキセタン類はカチオン重合が進行しやすく、また開環プロセスによってポリエーテルを得られる事が知られている。カチオン重合は、使用する開始剤や溶媒の種類によって反応速度や得られるポリマーの構造を規制することが比較的容易であるという興味深い特徴を有しているにもかかわらず、工業化されている例は極めて少ない。その理由として次の二つが挙げられる。一つ目の理由として、カチオン重合は低温でないと高分子量のポリマーが得られないということである。二つ目の理由として、重合に使用する溶媒が特別な有機溶媒に限られているということである。
【0007】
このような現状でありながら、ポリアミノ酸は産業界での幅広い分野において、従来用いられてきた合成高分子にない特徴を活かすことのできる機能性高分子材料として、その用途の開発は益々拡大していくと予想される。これらの問題点を改善した新たな合成法が確立されるならば、高分子化学分野をはじめとする、さまざまな産業分野において更なる新しい発展につながる可能性を秘めている。
【非特許文献1】渥美 宏之、平成十七年度 神奈川大学 応用化学専攻 修士論文
【非特許文献2】村上 晴香、平成十八年度 神奈川大学 応用化学科 卒業論文
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したような従来技術の問題点、すなわち、特殊な溶媒な溶媒を必要とすること、低温では高分子量のポリアミノ酸が得られないこと、ラセミ化が起こること、及び高次構造が形成されないことを改善したポリアミノ酸誘導体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(I):
【化6】
(式(I)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を表し、R2は単結合又は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、R4はアミノ酸残基を表し、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされる繰り返し構造からなることを特徴とする重合体である。
【0010】
また、本発明は、上記一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含む重合体の製造方法であって、下記一般式(VII):
【化7】
(式(VII)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を表し、R2は単結合又は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、R4はアミノ酸残基を表し、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされるオキセタン化合物を開環重合することを含む、製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の重合体は、特殊な溶媒な溶媒を必要とすることなく、低温反応においても高分子量で製造でき、また、ラセミ化が起こることなく、高次構造を形成することができる。さらに、本発明の重合体は、生体適合性、生分解性、光学活性ポリマーとしての多岐にわたる展開が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、下記一般式(I):
【化8】
(式(I)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよいヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を表し、R2は単結合又は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、R4はアミノ酸残基を表し、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされる繰り返し構造からなることを特徴とする重合体である。
【0013】
R1は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基である。アルキル基又は前記の基のアルキル部分は、好ましくは炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。アリールオキシアルキル基におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、トリル基、キシリル基、ナフチル基ジメチルナフチル基、アントラセル基、フェナントレニル基、クリセニル基、テトラフェニル基、ナフタセニル基等が挙げられる。R1は、水素原子、メチル基、又は、エチル基が特に好ましい。
【0014】
R2は、単結合又は二価の連結基を表し、単結合又は二価の炭化水素基であることが好ましい。R2における二価の炭化水素基としては、直鎖状であっても分岐を有していてもよい、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、及び、これらを2以上組み合わせた基が例示できるが、炭素数1〜6のアルキレン基であることが好ましい。
【0015】
R3は、水素原子又は炭化水素基を表す。R3における炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、及び、これらを2以上組み合わせた基が例示できる。R3としては、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は、炭素数7〜11のアラルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。また、R3は、R4と結合して環構造を有していてもよく、環構造を有する場合は、その環構造が含窒素5員環構造であることが好ましい。
【0016】
R4は、アミノ酸残基を表す。本発明における「アミノ酸残基」とは、アミノ酸からカルボキシル基(COOH基)及びアミノ基(NH2基又はNHR’基、R’は任意の一価の置換基)を除いた残基を表すものとする。また、本発明におけるアミノ酸残基は、アミノ酸の多量体(ポリペプチド)からカルボキシル基及びアミノ基を除いた残基であってもよい。アミノ酸残基が、アミノ酸の多量体由来の基である場合、2量体又は3量体の残基であることが好ましい。R4におけるアミノ酸残基としては、二価の炭化水素基、及び、二価の炭化水素基と二価のヘテロ原子を含む連結基とを組み合わせた基が好ましく挙げられる。
【0017】
R4における二価の炭化水素基としては、直鎖状であっても、分岐を有していても、環状構造であってもよい、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、及び、これらを2以上組み合わせた基を好ましく例示できる。また、下記二価のヘテロ原子を含む連結基とを組み合わせた多価の複素環基であることも好ましい。
【0018】
二価のヘテロ原子を含む連結基としては、−O−、−S−、−CO−、−NR−(Rは、炭化水素基を表す。)、−SO−、−SO2−が例示できる。
【0019】
また、R4の示すアミノ酸残基は、光学活性部位を有し、R体及びS体が存在するが、そのどちらでも良く、又はラセミ体でも良い。
【0020】
R5は、水素原子又は保護基を表し、保護基は、「Protective Groups in Organic Synthesis」(3rd Edition、Theodora. D. Greene and Peter G. M. Wuts著、Wiley, John & Sons社発行、1999年刊)等に記載の保護基を反応条件等により選ぶことができ、メチル基、t−ブチル基、ベンジル基、又は、p−メトキシベンジル基が好ましい。
【0021】
なお、前記炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びこれらの組み合わせ)、及び、二価の炭化水素基(アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基及びこれらの組み合わせ)は、直鎖型であっても、分岐を有していてもよく、下記に示す置換基を有していてもよい。
【0022】
前記置換基としては、炭素数1〜6の分岐を有してもよいアルキル基、炭素数1〜6の分岐を有してもよいアルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、又は、ニトロ基が好ましく挙げられる。
【0023】
上記式中の−NR3−R4−COO−部位としては、アミノ酸部位であることが好ましく、α−アミノ酸部位又はβ−アミノ酸部位であることがより好ましく、α−アミノ酸部位であることがさらに好ましい。また、光学活性を有するアミノ酸部位であることが好ましい。
【0024】
−NR3−R4−COO−部位として具体的には、以下に示すA−1〜A−20のアミノ酸構造を好ましく例示でき、その中でも、A−2及びA−11の構造であることが好ましい。なお、下記の構造中、Pgは保護基を表し、H(Pg)は水素原子であっても保護基であってもよいことを表す。1つの化合物に2以上のPgがある場合、2つ以上のPgはそれぞれ、同じであっても、異なっていてもよい。また、波線部は光学活性を有する部位を表し、R体又はS体のどちらであってもよく、ラセミ体であってもよい。
【0025】
【化9】
【0026】
【化10】
【0027】
また、本発明の重合体は、下記式(VII-1)〜(VII-4)のいずれかで表される化合物から誘導されたものであることが好ましい。
【0028】
【化11】
【0029】
本発明の重合体は、繰り返し構造が下記一般式(II):
【化12】
で表わされることが好ましい。
【0030】
本発明の化合物は、繰り返し構造が下記式(III)又は(VI):
【化13】
で表されることが好ましい。
【0031】
さらに、本発明の重合体は、繰り返し構造が下記式(V)又は(VI):
【化14】
で表されることが好ましい。
【0032】
本発明の重合体は、数平均分子量が300〜100000、好ましくは500〜50000である。
【0033】
さらに、本発明は、上記の重合体の製造方法であり、この方法は、下記一般式(VII):
【化15】
(式(VII)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を表し、R2は単結合又は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、R4はアミノ酸残基を表し、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされるオキセタン化合物を開環重合することを含む。
本発明の製造方法は、例えば、R5が保護基である一般式(VII)で表わされるオキセタン化合物からR5が保護基である一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含む重合体を製造する方法、R5が保護基である一般式(VII)で表わされるオキセタン化合物からR5が保護基である一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含む重合体を得、これを脱保護してR5が水素原子である一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含む重合体を製造する方法、及び、R5が水素原子である一般式(VII)で表わされるオキセタン化合物からR5が水素原子である一般式(I)で表わされる繰り返し構造を含む重合体を製造する方法を含む。
【0034】
本発明の製造方法におけるオキセタン化合物の開環重合は、カチオン重合触媒の存在下にカチオン重合することにより行うことができる。
【0035】
式(VII)の化合物は、同一分子内にオキセタニル基と、アミド結合と、カルボキシル基又はその前駆基とを有することを特徴とする。式(VII)におけるR1〜R5としては、重合体について述べた範囲と同一である。
【0036】
前述の通り、式(VII)中の−NR3−R4−COO−部位として具体的には、A−1〜A−20のアミノ酸構造を好ましく例示でき、その中でも、A−2及びA−11の構造であることが好ましく、また、式(VII)で表される化合物は、式(VII-1)〜(VII-4)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。
【0037】
式(VII)の化合物の合成法としては、特に制限されるわけではないが、特開2007−210946号公報に記載された以下のScheme1〜3に示す方法が好ましく例示できる。
【化16】
(Scheme1〜3中、R1〜R5は、式(I)のR1〜R5と同義であり、好ましい範囲も同様である。)
【0038】
前記Scheme1の出発物質であるアミノ酸(a)は、市販のもの用いても、又は、市販の化合物より誘導し得てもよく、特に合成法は限定されない。前記アミノ酸としては、α−アミノ酸であっても、β−以上のアミノ酸であってもよい。具体的には、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン又はフェニルアラニンが好ましく例示でき、これらの中でも、アラニン又はフェニルアラニンがより好ましい。アミノ酸としては、L体、D体、又は、これらの任意の割合の混合体を例示でき、L体、D体又はDL体を好ましく使用できるが、より好ましくはL体又はD体であり、さらに好ましくはL体である。
【0039】
フェニルアラニンベンジルエステル及び3-カルボキシ-3-エチルオキセタン(CEO)からの一般式(VII)の化合物を使用する本発明の製造方法を以下に示す。
【化17】
Oxe-L(D)-PhAla-Benzylからベンジル保護基を除いてOxe-L(D)-PhAla-COOHとした後に、同様に重合して、ポリ(Oxe-L(D)-PhAla-COOH)を製造することもできる。
【0040】
本発明の製造方法で使用するカチオン重合触媒は、例えば光あるいは熱により活性化されて酸成分を生成し単量体中の開環重合性基のカチオン開環重合を誘発する触媒やプロトン酸、ルイス酸があげられる。具体的には、トリフルオロメタンスルホン酸、三フッ化ホウ素エーテル錯体が例示できる。
触媒の使用量は、基質1molに対し0.01〜20mol%、好ましくは0.1〜10mol%である。
本発明の製造方法においては、溶剤を使用できる。溶剤としては、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロピラン、ニトロメタン等を挙げることができ、好ましくはニトロメタンである。
溶剤の使用量は、基質1molに対して0.01〜100L、好ましくは0.1〜10Lである。
本発明の製造方法におけるカチオン重合は、反応温度−30〜150℃、好ましくは20〜100℃で、反応時間1〜100時間、好ましくは10〜72時間反応させる。
【実施例】
【0041】
以下本発明を実施例を用いて説明する。
1. 試薬および溶媒
3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン (EHO)は、減圧蒸留にて精製し用いた。酸化クロム(VI)、硫酸、L-フェニルアラニン、D-フェニルアラニン、p-トルエンスルホン酸、ベンジルアルコール、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩 (EDC塩酸塩)、トリエチルアミン (NEt3)、塩酸、三フッ化ホウ素エーテル錯体 (BF3Et2O)、トリフルオロメタンスルホン酸 (TFMSA)、N,N-ジメチルホルムアミド (DMF)は、市販品をそのまま使用した。溶媒として用いたアセトン、THF、n-ヘキサン、クロロホルム、酢酸エチル、メタノール、塩化メチレン、トルエン、エーテルは、市販品をそのまま使用した。ニトロメタンは、無水硫酸マグネシウムにより予備乾燥後、常圧蒸留にて精製を行った。
【0042】
2. 測定機器
分析は、以下の測定機器を使用して行った。
・赤外分光光度計 (IR):Thermo ELECTRON(株)製 NICOLET 380 FT-IR
・1H 核磁気共鳴装置:500 MHz-NMR;日本電子(株)製 JEOL ECA-500
600 MHz-NMR;日本電子(株)製 JEOL ECA-600
・ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC):東ソー(株)製 HLC-8220
カラム;Shodex Asahipac GF-510 HQ、GF-310 HQ×2
標準;ポリスチレン
溶媒;20 mM リチウムブロミド、20 mM リン酸含有ジメチルホルムアミド溶液
検出器;RI、UV-8220 (内蔵)
・示差走査熱量計 (DSC):セイコーインスツルメンツ(株)社製
Seiko Instruments EXTAR 6000 DSC 6200
(測定条件:窒素雰囲気下、昇温速度 10 ℃/min、密閉型アルミニウムパン)
・融点測定機:柳本製作所(株)製 Yanako MP-500D
・元素分析 (EA):パーキンエルマーPE2400 SeriesII CHNS/O Analyzer
・旋光計:日本分光(株)製 P-1020型旋光計
・円二色性分散計:日本分光(株)製 J-600
【0043】
製造例1 3-カルボキシ-3-エチルオキセタン(CEO)の合成
特願2007−210946の合成例1記載の方法に従って合成した。500 mLナスフラスコに回転子を入れ、Jones試薬22.8 mL(1.5 eq)、アセトン180 mLを加え、0 ℃にて攪拌した。これに、3-エチル-3-ヒドロキシルメチルオキセタン(EHO) 2.78 g (24 mmol)とアセトン180 mLの混合物をゆっくりと滴下し、-5 ℃にて2 h、続いて室温にて4 h攪拌を行った。反応終了後、0 ℃にてイソプロピルアルコールを5 mL加え反応を停止させた。得られた混合物をセライトにてろ過し、適量のアセトンを使用して洗浄した。次に、得られたろ液を減圧濃縮した。残留した液体にNaOH水溶液を加え塩基性にさせた後、酢酸エチルを用いて洗浄を3回行った。水相にH2SO4を加え酸性にさせた後、酢酸エチルによる抽出操作を3回行い、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、乾燥剤をろ別し、溶媒を減圧留去した後、減圧蒸留により精製し、無色透明液体を得た。この得られた液体を冷凍庫に静置し、白色粉末固体を得た。
収量:2.12 g (67 %)
沸点:72 ℃ (3.0 mmHg)
融点:34.3 ℃ (DSC)
IR(KRS, cm-1):2968 (ν-OH)、2638 and 2559 (νC-H)、1732 (ν-C=O カルボン酸)、982 (νC-O-C 環状エーテル)
1H NMR(500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.82 ( t, Jab = 6.3 Hz, 3 H)、1.93 ( q, Jba = 6.5 Hz, 2 H)、4.32 〜 4.33 and 4.69 〜 4.70 ( AB qualtet, Jcc = 5.0 Hz, 4 H)、12.7 ( br, 1 H)
【0044】
製造例2 L体の合成
(1) L-フェニルアラニンベンジルエステルTosOH塩 (L-Phe-OBzl・TosOH)の合成
500 mLナスフラスコに回転子を入れ、L−フェニルアラニン (L -PA) 9.91 g (60 mmol)、p-トルエンスルホン酸 (TosOH) 13.70 g (72 mmol)、ベンジルアルコール (BzlOH) 30 mL、トルエン75 mLを加え還流冷却器を付けたDean-Stark 装置を用いて120 ℃で水の生成が確認されなくなるまで5 h攪拌した。その後、得られた反応母液を放冷し、粗結晶を得た。得られた粗結晶をエーテルを用いて洗浄し、メタノールにて再結晶を行い、無色針状結晶を得た。
収量:22.3 g (87 %)
融点:153 ℃ (DSC)
[α]D25=- 6.6 °(CH3OH、c = 0.1 g/dL)
IR (KBr,cm-1):3088〜2948 (νNH3+ 1級アミンセール)、2739 and 2666 (νC-H)、1740 (νC=O エステル)、1206 and 1036 (νS=O スルホン酸)、1127 (νC-O-C エステル)、696 (νS-O スルホン酸)
1H NMR(500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):2.27 (s,3 H)、3.11 (m,2 H)、4.37 (s, 1 H)、4.50 (s, 1 H)、5.13 (s,2 H)、7.11〜7.52 (m,14 H)、8.48 (s,3 H)
【0045】
(2) 3-(カルボキシ-L-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン (C-L-PAEO-OBzl)の合成
200 mL三つ口ナスフラスコに回転子を入れ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド (EDC塩酸塩) 3.83 g (20 mmol) 、CH2Cl2 20 mLを加え窒素雰囲気下、0 ℃で1 h 攪拌した。この後、3-カルボキシ-3-エチルオキセタン (CEO) 2.60 g (20 mmol)、L-フェニルアラニンベンジルエステルTosOH塩(L-Phe-OBzl-TosOH) 8.55 g (20 mL)、NEt3 2.23 mL、CH2Cl2 25 mLを加え、室温、窒素雰囲気下中、12 h 攪拌を行った。反応終了後、反応母液を1N HClで2回、重曹水で2回、さらに水で2回洗浄を行った後、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し溶媒を減圧留去させ、得られた淡黄色透明の粘性液体を展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=2:1を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる単離精製 (Rf= 0.3)を行った。溶媒を減圧留去させ、得られた液体を冷凍庫に静置し、淡黄色固体を得た。
収量:3.98 g (54 %)
融点:57.7 ℃ (DSC)
[α]D25=-3.18 °(CHCl3、c = 1 g/dL)
IR(KRS, cm-1):3308 (νNH)、3064 ,3031, 2964 and 2877 (νC-H)、1742 (νC=O エステル)、1652 (νC=O アミド)、1213 and 1179 (νC-O-C エステル)、982 (νC-O-C 環状エーテル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.52 (t, 3 H)、1.80〜1.88 (m, 2 H)、2.92〜2.96 (m, 2 H)、4.21〜4.22、4.50〜4.55 (AB qualtet, Jcc = 6.6 Hz, 4 H)、4.60〜4.64 (m, 1 H)、5.12 (m, 2 H)、7.20〜7.40 (m, 10 H)、8.25 (m, 1 H)
元素分析:C15H19NO4 計算値 (%) C:71.91、H:6.86、N:3.81、O:17.42
実測値 (%) C:71.95、H:6.70、N:3.72、O:17.63
【0046】
製造例3 D体の合成
(1) D-フェニルアラニンベンジルエステルTosOH塩 (D-Phe-OBzl・TosOH)の合成
500 mLナスフラスコに回転子を入れ、D -フェニルアラニン (D -PA) 9.91 g (60 mmol)、p-トルエンスルホン酸 (TosOH) 13.70 g (72 mmol)、ベンジルアルコール (BzlOH) 30 mL、トルエン 75 mLを加え還流冷却器を付けたDean-Stark 装置を用いて120 ℃で水の生成が確認されなくなるまで5 h攪拌した。その後、得られた反応母液を放冷し、粗結晶を得た。得られた粗結晶をエーテルを用いて洗浄し、メタノールにて再結晶を行い、無色針状結晶を得た。
収量:21.7 g (85 %)
融点:約154 ℃ (DSC)
[α]D25=+6.4 °(CH3OH,c = 0.1 g/dL)
IR (KBr,cm-1):3090〜2949 (νNH3+ 1級アミンセール)、2638 and 2559 (νC-H)、1741 (νC=O エステル)、1206 and 1037 (νS=O スルホン酸)、1128 (νC-O-C エステル)、697 (νS-O スルホン酸)
1H NMR(500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):3.27 (s,3 H)、2.17 (m,2 H)、3.61 (s, 1 H)、3.62 (s, 1 H)、5.15 (s,2 H)、7.10〜7.48 (m,14 H)、8.42 (s,3 H)
【0047】
(2) 3-(カルボキシ-D-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン(C-D-PAEO-OBzl)の合成
200 mL三つ口ナスフラスコに回転子を入れ、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロライド (EDC塩酸塩) 3.83 g (20 mmol) 、CH2Cl2 20 mLを加え窒素雰囲気下、0 ℃で1 h 攪拌した。この後、3-カルボキシ-3-エチルオキセタン (CEO) 2.60 g (20 mmol)、D-フェニルアラニンベンジルエステルTosOH塩 (D-Phe-OBzl-TosOH) 8.55 g (20 mL)、NEt3 2.23 mL、CH2Cl2 25 mLを加え、室温、窒素雰囲気下中、12 h 攪拌を行った。反応終了後、反応母液を1N HClで2回、重曹水で2回、さらに水で2回洗浄を行った後、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し溶媒を減圧留去させ、得られた淡黄色透明の粘性液体を展開溶媒 n-ヘキサン:酢酸エチル=2:1を用いてカラムクロマトグラフィーによる単離精製を行った (Rf= 0.3)。溶媒を減圧留去させ、得られた液体を冷凍庫に静置し、淡黄色固体を得た。
収量:4.2 g (57 %)
融点:60.8℃ (DSC)
[α]D25=+3.33 °( CHCl3、c = 1 g/dL)
IR(KRS, cm-1):3307 (νNH)、3064, 3031, 2964 and 2877 (νC-H)、1732 (νC=O エステル)、1650 (νC=O アミド)、1213 and 1179 (νC-O-C エステル)、982 (νC-O-C 環状エーテル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.52 (t, 3 H)、1.80〜1.88 (m, 2 H)、2.92〜2.96 (m, 2 H)、4.18〜4.22、4.51〜4.53 (AB qualtet, Jcc = 6.5 Hz, 4 H)、4.60〜4.64 (m, 1 H)、5.13 (m, 2 H)、7.20〜7.38 (m, 10 H)、8.26 (m, 1 H)
元素分析:C15H19NO4 計算値 (%) C:71.91、H:6.86、N:3.81、O:17.42
実測値 (%) C:72.01、H:6.90、N:3.72、O:17.37
【0048】
実施例1 C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合
10 mLナスフラスコに回転子を入れ、C-L-PAEO-OBzl 1.1 g (3 mmol) を量り取り、溶媒としてCH3NO2を3 mLを加え、70 ℃で30分攪拌した。この後、触媒としてTFMSA (10 mol%)を加え、同様の温度にて 24 h攪拌を行った。反応母液にトリエチルアミンをパスツールピペットで1滴加えてクエンチを行った。その後、適量のクロロホルムで希釈し、1N HClで2回洗浄を行った後、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤をろ別し溶媒を減圧留去させ、クロロホルムを良溶媒とし、大量のn-ヘキサンに落として乳白色の固体を得た。
収量:0.86 g(78 %)
Mn:3000
Mw/Mn:1.8
[α]D25 = -1.3 °(CHCl3, c = 1 g/dL)
IR(KRS, cm-1):3342 (νNH)、3062, 3029, 2967 and 2935 (νC-H)、1740 (νC=O エステル)、1659 (νC=O アミド)、1215 and 1190 (νC-O エステル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.47 〜 0.60 (m, 3 H)、1.36 (br, 2 H)、3.03 〜 3.06 (m, 2 H)、3.27 (br, 1 H)、3.46 〜 4.88 (m, 4H)、5.03 〜 5.10 (m, 2 H)、7.09 〜 7.23 (m, 10 H)、7.64 〜 8.32 (m, 1.0 H)
【0049】
実施例2 C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合における触媒効果
すり付き試験管に回転子を入れ、C-L-PAEO-OBzl 0.11 g (0.3 mmol) を量り取り、溶媒としてCH3NO2を0.3 mLを加え、70 ℃で30分 攪拌した。この後、触媒としてBF3Et2O (30 mol%)もしくはTFMSA (30 mol%)を加え、同様の温度にて 24 h攪拌を行った。反応終了後の単離操作は実施例1 と同様に行った。
【0050】
実施例3 C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合における触媒濃度効果
すり付き試験管に回転子を入れ、C-L-PAEO-OBzl 0.11 g (0.3 mmol) を量り取り、溶媒としてCH3NO2を0.3 mLを加え、70 ℃で30分攪拌した。この後、触媒としてTFMSA (3 mol%、10 mol%、30 mol%、50 mol%)を加え、同様の温度にて 24 h攪拌を行った。反応終了後の単離操作は実施例1 と同様に行った。
【0051】
実施例4 C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合における温度効果
すり付き試験管に回転子を入れ、C-L-PAEO-OBzl 0.11 g (0.3 mmol) を量り取り、溶媒としてCH3NO2を0.3 mLを加え、種々の反応温度 (60、70、80 ℃)で30分 攪拌した。この後、触媒としてTFMSA (10 mol%)を加え、同様の温度にて 24 h攪拌を行った。反応終了後の単離操作は実施例1 と同様に行った。
【0052】
製造例4 モノマーの脱保護反応
(1) 3-(カルボキシ-L-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン (C-L-PAEO)の合成
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、C-L-PAEO-OBzl 1.86 g (5 mmol)を加え少量のメタノールで希釈した。凍結・脱気を三回行い、過剰量のパラジウム-活性炭素を加え24 h水素添加を行った。その後、パラジウム-活性炭素をろ過し、母液を酢酸エチルで希釈し1 N HClで二回洗浄を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、乾燥剤をろ別した。その後溶媒を減圧留去し、白色固体を得た。得られた白色固体を酢酸エチルを用いて再結晶を行い、無色針状結晶を得た。
収量:0.87 g (63 %)
融点:128 ℃ (DSC)
[α]D25 = +51.3 °(CHCl3, c = 1 g/dL)
IR (KBr, cm-1):3312 (νNH)、2965 (νC-H)、1735 (νC=O カルボン酸) 、1649 (νC=O アミド)、1218 and 1194 (νC-O-C カルボキシラート) 、962 (νC-O-C 環状エーテル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.53 (t, 3 H, Jab = 7.0 Hz)、1.80 〜 1.89 (m, 2 H, Jba = 7.0 Hz)、2.84 〜 3.15 (m, 2 H)、4.18 〜 4.23, 4.50 〜 4.57 (AB qualtet, Jcc = 8.0 Hz, 4 H)、4.48 〜 4.49 (m, 1 H, Jed = 8.5 Hz)、7.18 〜 7.29 (m, 5 H)、8.09 (d, 1 H, Jde = 8.5 Hz)、12.75 (s, 1 H)
【0053】
(2) 3-(カルボキシ-D-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン(C-D-PAEO)の合成
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、C-D-PAEO-OBzl 1.86 g (5 mmol)を加え少量のメタノールで希釈した。凍結・脱気を二回行い、過剰量のパラジウム-活性炭素を加え24 h水素添加を行った。その後、パラジウム-活性炭素をろ過し、母液を酢酸エチルで希釈し1 N HClで二回洗浄を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、乾燥剤をろ別した。その後溶媒を減圧留去し、白色固体を得た。得られた白色固体を酢酸エチルを用いて再結晶を行い、無色針状結晶を得た。
収量:1.02 g (74 %)
融点:127 ℃ (DSC)
[α]D25 = -49.4°(CHCl3, c = 1 g/dL)
IR (KBr, cm-1):3313 (νNH)、2967 (νC-H)、1735 (νC=O カルボン酸)、1648 (νC=O アミド)、1219 and 1195 (νC-O-C カルボキシラート)、962 (νC-O-C 環状エーテル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.53 (t, 3 H, Jab = 7.3 Hz)、1.80 〜 1.90 (m, 2 H, Jba = 7.3 Hz)、2.86 〜 3.15 (m, 2 H)、4.18 〜 4.23, 4.50 〜 4.57 (AB qualtet, Jcc = 8.0 Hz,4 H)、4.48 〜 4.49 (m, 1 H, Jed= 8.5 Hz)、7.18 〜 7. 29(m, 5 H)、8.09 (d, 1 H, Jde = 8.5 Hz)、12.75 (s, 1 H)
【0054】
実施例5 ポリマーの脱保護反応
(1) Poly(C-L-PAEO)の合成
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、Poly(C-L-PAEO-OBzl) 0.8 gを加え少量のTHFで希釈した。凍結・脱気を三回行い、過剰量のパラジウム-活性炭素を加え72 h水素添加を行った。その後、パラジウム-活性炭素をろ過し、溶媒を減圧留去させ、THFを良溶媒とし、大量のエーテルに落として白色の固体を得た。
収量:0.26 g (32 %)
脱保護率:100 % (1H NMR)
Mn:2900
Mw/Mn:1.8
[α]D25 = +27.5°(CHCl3, c = 1 g/dL)
IR (KRS, cm-1):3349 (νNH)、2969,2936and 2880 (νC-H)、1739 (νC=O カルボン酸)、1654 (νC=O アミド)、1215 and 1192 (νC-O-C エステル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.49 (br, 3 H)、1.36 (br, 2 H)、3.01 (br, 2 H)、3.34 〜 3.35 (m, 1 H)、3.56 〜 4.47 (m, 4 H)、7.18 (br, 5 H)、7.50〜7.52 (m, 1 H)
【0055】
(2) Poly(C-D-PAEO)の合成
50 mLナスフラスコに回転子を入れ、Poly(C-D-PAEO-OBzl) 0.8 gを加え少量のTHFで希釈した。凍結・脱気を三回行い、過剰量のパラジウム-活性炭素を加え24 h水素添加を行った。その後、パラジウム-活性炭素をろ過し、溶媒を減圧留去させ、THFを良溶媒とし、大量のエーテルに落として白色の固体を得た。
収量:0.26 g (32 %)
脱保護率:84 % (1H NMR)
Mn:2900
Mw/Mn:1.6
[α]D25 = -26.1°(CHCl3, c = 1 g/dL)
IR (KRS, cm-1):3349 (νNH)、2969,2936and 2880 (νC-H)、1739 (νC=O カルボン酸)、1654 (νC=O アミド)、1215 and 1192 (νC-O-C エステル)
1H NMR (500 MHz、DMSO-d6、TMS)
δ(ppm):0.49 (br, 3 H)、1.36 (br, 2 H)、2.95 〜 3.04 (m, 2 H)、3.30 (br, 1 H)、4.04〜4.58 (m, 4 H)、7.18 (br, 5 H)、7.69〜8.32 (m, 1 H)
【0056】
測定例 光学特性
(1) 比旋光度の測定
モノマー C-L-PAEO-OBzl、C-D-PAEO-OBzl、脱保護を行ったモノマーC-L-PAEO、C-D-PAEO、ポリマーPoly(C-L-PAEO-OBzl) (Mn = 3000)、Poly(C-D-PAEO-OBzl) (Mn = 3000) 、脱保護を行ったポリマーPoly(C-L-PAEO) (Mn = 2700) 、Poly(C-D-PAEO) (Mn = 2700)をそれぞれ0.1 g量りとり、10 mLメスフラスコを用いて、濃度c = 1 g/dLのサンプルを調整した。空測定および測定溶媒 DMF/CHCl3混合溶媒の測定を行った。次いで、サンプルの比旋光度 [α]D25を測定した。
(2) CDスペクトルの測定
モノマー C-L-PAEO-OBzl、C-D-PAEO-OBzl、脱保護を行ったモノマーC-L-PAEO、C-D-PAEO、ポリマーPoly(C-L-PAEO-OBzl) (Mn = 3000)、Poly(C-D-PAEO-OBzl) (Mn = 3000) 、脱保護を行ったポリマーPoly(C-L-PAEO) (Mn = 2700) 、Poly(C-D-PAEO) (Mn = 2700)をそれぞれ、0.1 g秤りとり、10 mLメスフラスコを用いて、濃度c = 1 g/dLのサンプルを調整した。サンプルをCDスペクトル用のセルに入れ、CDスペクトルを測定した。
【0057】
結果
1. アミノ酸を出発原料に用いたオキセタニル基を有する光学活性モノマー類の合成
(1) 3-カルボキシ-3-エチルオキセタン (CEO)の合成
【化18】
製造例1により、収率67 %でCEOを得た。構造確認はIR、1H NMRにて行った。IRスペクトルにおいて、1732 cm-1にカルボン酸に起因する新たなカルボニル基の吸収を確認した (図 1)。また、1H NMRスペクトルより水酸基に起因するシグナルが消失し、12.7 ppmにカルボキシル基に起因するシグナルが観測された (図 2)。
【0058】
(2) L体の合成
(2.1) L-フェニルアラニンベンジルエステルTosOH塩 (L-Phe-OBzl・TosOH)の合成
【化19】
製造例2(1)により、収率87 %、[α]D25 = -6.6 °(CH3OH, c = 0.1 g/dL)でL-フェニルアラニンベンジルエステルを得た。構造確認はIR、1H NMR、にて行った。IRスペクトルにおいて、L-PAのカルボン酸に起因する吸収が消失し、1206, 1036 cm-1にスルホン酸に起因する吸収が新たに観測された(図 3)。また、1H NMRスペクトルよりカルボン酸に起因するシグナルが消失し、5.13 ppm、7.11 〜 7.52 ppm付近に新たにベンジルエステルに起因するシグナルが観測された (図4)。
(2.2) 3-(カルボキシ-L-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン (C-L-PAEO-OBzl)の合成
【化20】
製造例2(2)により、収率54 %、[α]D25= -3.18 °(CHCl3, c = 1 g/dL)でC-L-PAEO-OBzlを得た。構造確認はIR、1H NMR、および元素分析にて行った。IRスペクトルにおいて、982 cm-1にオキセタニル基に起因する吸収、および1652 cm-1にアミドに起因するカルボニルの吸収を確認した (図5)。また、1H NMRスペクトルよりスルホン酸に起因するシグナルが消失し、4.21 〜 4.22, 4.50 〜 4.55 ppmにオキセタニル基に起因するシグナル、および8.25 ppmにアミドに起因するシグナルが新たに観測された (図6)。
【0059】
(3) D体の合成
(3.1) D-フェニルアラニンベンジルエステルTosOH塩 (D-Phe-OBzl・TosOH)の合成
【化21】
製造例3(1)により、D-Phe-OBzl・TosOHを収率85 %、[α]D25 = + 6.4°(CH3OH, c = 0.1 g/dL)で得た。構造確認はIR、1H NMRにて行った。IRスペクトルにおいて、D-PAのカルボン酸の吸収が消失し、1206, 1037 cm-1にスルホン酸に起因する吸収を新たに観測された (図7)。また、1H NMRスペクトルよりカルボン酸に起因するシグナルが消失し、5.15 ppm、7.10 〜 7.48 ppm付近に新たにベンジルエステルに起因するシグナルが観測された (図8)。
(3.2) 3-(カルボキシ-D-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン(C-D-PAEO-OBzl)の合成
【化22】
製造例3(2)により、収率57 %、[α]D25= +3.33°(CHCl3, c = 0.1 g/dL)でC-D-PAEO-OBzlを得た。構造確認はIR、1H NMRスペクトルにて行った。IRスペクトルにおいて、982 cm-1にオキセタニル基に起因する吸収、および1650 cm-1にアミドに起因するカルボニル基の吸収を確認した (図9)。また、1H NMRスペクトルよりスルホン酸に起因するシグナルが消失し、4.18 〜 4.22, 4.51 〜 4.53 ppmにオキセタニル基に起因するシグナル、および8.26 ppmにアミドに起因するシグナルが新たに観測された (図10)。
【0060】
(4) アミノ酸を出発原料に用いたオキセタニル基を有する光学活性モノマー類のカチオン重合
(4.1) C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合
【化23】
実施例1により、Mn = 3000、Mw / Mn = 1.8のPoly(C-L-PAEO-OBzl)が収率58 %で得られた。得られたポリマーの構造確認はIR、1H NMRにより行った。その結果、IR スペクトルより、C-L-PAE-OBzlのオキセタニル基 (982 cm-1)に起因するシグナルが消失した(図11)。また、1H NMR スペクトルより、オキセタニル基に起因する4.21 ppm付近のピークの減少、そして新たに、オキセタニル基が開環したことにより生じるエーテルのメチレンプロトンに起因するピークが3.28 ppm付近に出現した(図12)。
【0061】
(4.2) C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合における触媒効果
実施例2に基づき反応を行った (表1)。
【表1】
表1に示した結果のように、BF3Et2O を用いた場合よりもTFMSAを用いた場合の方が収率および数平均分子量が増加する傾向を示した。
【0062】
(4.3) C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合における触媒濃度効果
実施例3に基づき反応を行った (表2)。
【表2】
表2に示した結果のように、触媒濃度を増加させることにより、数平均分子量が増加する傾向を示した。しかしながら、30 mol% (ラン3)以上において、分子量分布も広く、SECチャートは単峰性を示さなかった (図13)。
【0063】
(4.4) C-L-PAEO-OBzlのカチオン重合における温度効果
実施例4に基づき反応を行った (表3)
【表3】
表3に示した結果のように、温度を増加させることにより、数平均分子量が増加する傾向を示した。しかしながら、80 ℃ (ラン 3)において、分子量分布も広く、SECチャートは単峰性を示さなかった (図14)。
【0064】
(5) モノマーの脱保護
(5.1) 3-(カルボキシ-L-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン(C-L-PAEO)の合成
【化24】
製造例4(1)により、C-L-PAEOを収率63 %、[α]D25 = +51.3 °(CHCl3, c = 1 g/dL)で得た。構造確認はIR、1H NMRにて行った。IRスペクトルにおいて、1735 cm-1にカルボン酸に起因する吸収を確認した (図15)。また、1H NMRスペクトルよりベンジルエステルに起因するシグナルが消失し、12.75 ppmにカルボン酸に起因するシグナルが観測された (図16)。
【0065】
(5.2) 3-(カルボキシ-D-フェニルアラニン)-3-エチルオキセタン(C-D-PAEO)の合成
【化25】
製造例4(2)により、C-D -PAEOを収率 74 %、[α]D25= -49.6 °(CHCl3, c = 1 g/dL)で得た。構造確認はIR、1H NMR、にて行った。IRスペクトルにおいて、1735 cm-1にカルボン酸に起因する吸収を確認した (図17)。また、1H NMRスペクトルよりベンジルエステルに起因するシグナルが消失し、12.75 ppm付近にカルボン酸に起因するシグナルが新たに観測された (図18)。
【0066】
(6) ポリマーの脱保護
(6.1) Poly(C-L-PAEO)の合成
【化26】
実施例5(1)により、Mn = 2900、Mw / Mn = 1.8のPoly(C-L-PAEO)を脱保護率100 %、収率32 %、[α]D25 = +27.5 °(CHCl3, c = 1 g/dL)で得た。構造確認はIR、1H NMRにて行った。IRスペクトルにおいて、1749 cm-1にカルボン酸に起因する吸収を確認した (図19)。また、1H NMRスペクトルよりカルボン酸に起因するシグナルが観測されなかったものの、Poly(C-L-PAEO-OBzl)のベンジルエステルに起因するシグナルが消失したことが観測された (図20)。
【0067】
(6.2) Poly (C-D-PAEO)の合成
【化27】
実施例5(2)により、Mn = 2900、Mw / Mn = 1.6のPoly(C-D-PAEO)を脱保護率84 %、収率36 %、[α]D25=-26.1 °(CHCl3, c = 1 g/dL)で得た。構造確認はIR、1H NMR、にて行った。IRスペクトルにおいて、1749 cm-1にカルボン酸に起因する吸収を確認した (図21)。また、1H NMRスペクトルよりカルボン酸に起因するシグナルが観測されなかったものの、Poly(C-D-PAEO-OBzl)のベンジルエステルに起因するシグナルが減少したことが観測された (図22)。
また、反応を72 時間で行ったPoly(C-L-PAEO)の脱保護率は100 %であるのに対し、反応を24 時間で行ったPoly(C-D-PAEO)の脱保護率は84 %であった。
【0068】
(7) 光学特性
(7.1) 比旋光度の測定
測定例(1)に基づき比旋光度 [α]D25の測定をCHCl3中で行った (表4、表5)。
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
これらの結果より、L体とD体から、絶対値にわずかな違いが確認されたが、絶対値はほとんど一致し、一連の反応はラセミ化が起こらず進行したことが示された。また、脱保護反応を行うことによって、モノマーおよびポリマーの[α]D25は、正と負の値が逆転した。
【0072】
また、モノマー C-L-PAEO-OBzl、C-D-PAEO-OBzl、ポリマーPoly(C-L-PAEO-OBzl) (Mn = 3000)、Poly(C-D-PAEO-OBzl) (Mn = 3000)の比旋光度 [α]D25の測定をDMF / CHCl3混合溶媒の種々の混合比 (0:1、1:3、1:1、3:1、1:0)によって行った(C = 1g/dL, DMF/CHCl3)(図23)。
【0073】
(7.2) モノマーのCDスペクトル
測定例(2)に基づきモノマーのCDスペクトル測定をCHCl3を用いて行った(C = 1g/dL, CHCl3)(図24)。
図24 に示したように、4種のモノマーC-L-PAEO-OBzl、C-D-PAEO-OBzl、C-L-PAEO、C-D-PAEOでは上下対象のコットン効果が観測された。さらに、脱保護反応後ではコットン効果が増大した。
また、脱保護反応後に比旋光度 [α]D25の正と負の値が逆転したにもかかわらず、コットン効果の反転は観測されなかった。
【0074】
(7.3) ポリマーのCDスペクトル
測定例(2)に基づきポリマーのCDスペクトル測定をCHCl3を用いて行った(C = 1g/dL, CHCl3)(図25)。
図25 に示したように、4種のポリマーPoly(C-L-PAEO-OBzl) (Mn = 3000)、Poly(C-D-PAEO-OBzl) (Mn = 3000) 、Poly(C-L-PAEO) (Mn = 2900) 、Poly(C-D-PAEO) (Mn = 2900)では上下対象のコットン効果が観測された。これは、ポリマーPoly(C-L-PAEO-OBzl) とPoly(C-D-PAEO-OBzl)、脱保護を行ったポリマーPoly(C-L-PAEO) とPoly(C-D-PAEO)がそれぞれ対称の高次構造を構築していることが示唆される。さらに、脱保護反応後ではコットン効果が増大した。
また、モノマーと同様に、脱保護反応後に比旋光度 [α]D25の正と負の値が逆転したにもかかわらず、コットン効果の反転は観測されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の重合体は、生体適合性、生分解性、光学活性ポリマーとしての多岐にわたる展開が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】CEOのIRスペクトルを示す。
【図2】CEOの1H NMRスペクトルを示す。
【図3】L-Phe-OBzl・TosOHのIRスペクトルを示す。
【図4】L-Phe-OBzl・TosOHの1H NMRスペクトルを示す。
【図5】C-L-PAEO-OBzlのIRスペクトルを示す。
【図6】C-L-PAEO-OBzlの1H NMRスペクトルを示す。
【図7】D-Phe-OBzl・TosOHのIRスペクトルを示す。
【図8】D-Phe-OBzl・TosOHの1H NMRスペクトルを示す。
【図9】C-D-PAEO-OBzlのIRスペクトルを示す。
【図10】C-D-PAEO-OBzlの1H NMRスペクトルを示す。
【図11】ポリ(C-L-PAEO-OBzl)のIRスペクトルを示す。
【図12】ポリ(C-L-PAEO-OBzl)の1H NMRスペクトルを示す。
【図13】ポリ(C-L-PAEO-OBzl)のSECチャート(触媒濃度)を示す。
【図14】ポリ(C-L-PAEO-OBzl)のSECチャート(反応温度)を示す。
【図15】C-L-PAEOのIRスペクトルを示す。
【図16】C-L-PAEOの1H NMRスペクトルを示す。
【図17】C-D-PAEOのIRスペクトルを示す。
【図18】C-D-PAEOの1H NMRスペクトルを示す。
【図19】ポリ(C-L-PAEO)のIRスペクトルを示す。
【図20】ポリ(C-L-PAEO)の1H NMRスペクトルを示す。
【図21】ポリ(C-D-PAEO)のIRスペクトルを示す。
【図22】ポリ(C-D-PAEO)の1H NMRスペクトルを示す。
【図23】モノマー、ポリマーの混合溶媒(DMF/CHC3)中での比旋光度を示す。
【図24】モノマーのCDスペクトルを示す。
【図25】ポリマーのCDスペクトルを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】
(式(I)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を表し、R2は単結合又は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、R4はアミノ酸残基を表し、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされる繰り返し構造からなることを特徴とする重合体。
【請求項2】
繰り返し構造が下記一般式(II):
【化2】
で表わされることを特徴とする請求項1記載の重合体。
【請求項3】
繰り返し構造が下記式(III)又は(VI):
【化3】
で表されることを特徴とする請求項1記載の重合体。
【請求項4】
繰り返し構造が下記式(V)又は(VI):
【化4】
で表されることを特徴とする請求項1記載の重合体。
【請求項5】
下記一般式(VII):
【化5】
(式(VII)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を表し、R2は単結合又は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、R4はアミノ酸残基を表し、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされるオキセタン化合物を開環重合することを含む、請求項1記載の重合体の製造方法。
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】
(式(I)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を表し、R2は単結合又は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、R4はアミノ酸残基を表し、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされる繰り返し構造からなることを特徴とする重合体。
【請求項2】
繰り返し構造が下記一般式(II):
【化2】
で表わされることを特徴とする請求項1記載の重合体。
【請求項3】
繰り返し構造が下記式(III)又は(VI):
【化3】
で表されることを特徴とする請求項1記載の重合体。
【請求項4】
繰り返し構造が下記式(V)又は(VI):
【化4】
で表されることを特徴とする請求項1記載の重合体。
【請求項5】
下記一般式(VII):
【化5】
(式(VII)中、R1は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい、ヒドロキシアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、又はアルキル基を表し、R2は単結合又は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭化水素基を表し、R4はアミノ酸残基を表し、R5は保護基又は水素原子を表わす。)で表わされるオキセタン化合物を開環重合することを含む、請求項1記載の重合体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2010−65159(P2010−65159A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233426(P2008−233426)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
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