説明

ポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法

【課題】チオフェノール類またはジアリールジスルフィド類から、ポリアリーレンスルフィド化合物を穏和な条件下、短時間で得ることができる新規製造方法を提供する。
【解決手段】チオフェノール類および/またはジアリールジスルフィド類を周期表第7族から第12族かつ第5,6周期の金属を含む錯体と接触させることを特徴とするポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法であり、金属錯体としては、パラジウム錯体が好ましく使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法に関し、特にチオフェノール類および/またはジフェニルジスルフィド類を出発原料(モノマー)とし、触媒として周期表第7族から第12族かつ第5,6周期の金属を含む錯体を用いることで、温和な条件下、短時間で得ることができるポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィド化合物は耐熱性、耐薬品性、剛性、難燃性に優れ、更に良好な成形加工性、寸法安定性を有するため、電気・電子機器部品、自動車部品や精密機器部品などに広く使用されている。
【0003】
ポリアリーレンスルフィド化合物を製造する方法としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶媒中で、硫化ナトリウムなどのスルフィド化剤とp−ジクロロベンゼンなどのジハロ芳香族化合物とを反応させる方法が一般的である。この方法においては、有機アミド溶媒中でスルフィド化剤とジハロ芳香族化合物とを高温・高圧で反応させ、ポリアリーレンスルフィド化合物を製造している。従って、該製造方法では高温・高圧に耐えうる反応容器が必要であり、また望ましくない副反応などが生じやすく、更に高い精製負荷のため製造コストが高くなり、経済的なプロセスとはなりえない場合があった。また、品質面においても十分とは言えなかった(例えば特許文献1参照。)。
【0004】
近年、上記のごとき問題を解決したポリアリーレンスルフィド化合物の新規製造方法が注目を浴びている。その例として、ジフェニルジスルフィド類あるいはチオフェノール類を酸の存在下、バナジル錯体を用いて、酸素による酸化カップリング重合する方法(例えば特許文献2〜6参照。)や、ルイス酸を用いて重合する方法(例えば特許文献7参照。)が提案されている。前者の方法では穏和な条件下でポリアリーレンスルフィド化合物を得ることができるが、反応に長時間有するなどの問題点があり、また後者の方法では、ルイス酸をジフェニルジスルフィド類あるいはチオフェノール類と等量添加する必要があるという問題があるため、より短時間で、効率よくポリアリーレンスルフィド化合物を得ることができる製造方法が望まれていた。
【特許文献1】特公昭45−3368号公報
【特許文献2】特開平2−169626号公報
【特許文献3】特開平4−55433号公報
【特許文献4】特開平4−55434号公報
【特許文献5】特開平4−57830号公報
【特許文献6】特開平11−12359号公報
【特許文献7】特開昭63−213527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記問題点を解決し、耐熱性、耐薬品性、種々の機械的特性、電気的特性、流動性、成形性などに優れたポリアリーレンスルフィド化合物を温和な条件下、短時間で得ることができる新規製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる課題を解決するために、次の手段を採用するものである。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)一般式[I]
【0008】
【化1】

【0009】
(ただし、式[I]中、R1〜R4は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子および炭素数1〜10のアルコキシ基よりなる群から選択されるいずれかを表す。なお、R1〜R4は、たがいに同じ種類であっても異なる種類であってもよい。)で表されるチオフェノール類および/または一般式[II]
【0010】
【化2】

【0011】
(ただし、式[II]中、R5〜R12は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子および炭素数1〜10のアルコキシ基からなる群から選択されるいずれかを表す。なお、R5〜R12は、たがいに同じ種類であっても異なった種類であってもよい。)で表されるジアリールジスルフィド類を周期表第7族から第12族かつ第5、6周期の金属を含む錯体と接触させることを特徴とするポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法、
(2)金属錯体が、周期表第10族の2価の金属を含む錯体であることを特徴とする(1)記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法、
(3)金属錯体が、パラジウムを含む錯体であることを特徴とする(2)記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法、
(4)前記チオフェノール類および/またはジアリールジスルフィド類と前記錯体との接触を酸性条件下で行なうことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法、
(5)前記チオフェノール類および/またはジアリールジスルフィド類と前記錯体との接触を酸素含有ガスの雰囲気下で行なうことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法、
(6)前記チオフェノール類および/またはジアリールジスルフィド類と前記錯体との接触を助触媒の存在下で行なうことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法、
(7)所触媒が、銅を含む金属錯体および/または鉄を含む金属錯体であることを特徴とする(6)記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法、および
(8)前記チオフェノール類および/または前記ジアリールジスルフィド類を、常温における溶媒1Lに対して0.5mol/L以下として行なうことを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、穏和な条件下、短時間で、ポリアリーレンスルフィド化合物を得る製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本製造方法において出発物質として用いる原料は、前記一般式[I]で表されるチオフェノール類および/または一般式[II]で表されるジアリールジスルフィド類である。
【0015】
前記一般式[I]、[II]中のR1〜R12について、更に詳しく説明すると以下の通りである。すなわち、前記R1〜R12のそれぞれの具体例を例示すると、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、1−メチルエチル基、ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基、ペンチル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、2−メチルブチル基、2−エチルプロピル基、3−メチルブチル基等の炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基などの炭素数6〜24のアリーレン基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、1−メチルエトキシ基、ブトキシ基、1−メチルプロポキシ基、2−メチルプロポキシ基、1,1−ジメチルエトキシ基、ペントキシ基、1−メチルブトキシ基、1−エチルプロポキシ基、2−メチルブトキシ基、2−エチルプロポキシ基、3−メチルブトキシ基などの炭素数1〜12のアルコキシ基を挙げることができる。これらの中でも、水素原子、メチル基、エチル基などのさらに低級なアルキル基、またはメトキシ基などのさらに低級なアルコキシ基が好ましく、特に水素原子、メチル基が好ましい。
【0016】
前記一般式[I]によって表されるチオフェノール類としては、例えばチオフェノール、2−メチルチオフェノール、2−エチルチオフェノール、2−プロピルチオフェノール、2−(1−メチルエチル)チオフェノール、2−ブチルチオフェノール、2−(1−メチルプロピル)チオフェノール、2−(1,1−ジメチルエチル)チオフェノール、2−ペンチルチオフェノール、2−(1−メチルブチル)チオフェノール、2−(1−エチルプロピル)チオフェノール、2−(2−メチルブチル)チオフェノール、2−(2−エチルプロピル)チオフェノール、2−(3−メチルブチル)チオフェノール、2−フェニルチオフェノール、2−ビフェニルチオフェノール、2−ナフチルチオフェノール、2−メトキシチオフェノール、2−エトキシチオフェノール、2−プロポキシチオフェノール、2−(1―メチルエトキシ)チオフェノール、2−ブトキシチオフェノール、2−(1−メチルブトキシ)チオフェノール、2−(2−メチルプロポキシ)チオフェノール、2−(1,1−ジメチルエトキシ)チオフェノール、2−ペントキシチオフェノール、2−(1−メチルブトキシ)チオフェノール、2−(1−エチルプロポキシ)チオフェノール、2−(2―メチルブトキシ)チオフェノール,2−(2−エチルプロポキシ)チオフェノール、2−(3−メチルブトキシ)チオフェノール、3−メチルチオフェノール、3−エチルチオフェノール、3−プロピルチオフェノール、3−(1−メチルエチル)チオフェノール、3−ブチルチオフェノール、3−(1−メチルプロピル)チオフェノール、3−(1,1−ジメチルエチル)チオフェノール、3−ペンチルチオフェノール、3−(1−メチルブチル)チオフェノール、3−(1−エチルプロピル)チオフェノール、3−(2−メチルブチル)チオフェノール、3−(2−エチルプロピル)チオフェノール、3−(3−メチルブチル)チオフェノール、3−フェニルチオフェノール、3−ビフェニルチオフェノール、3−ナフチルチオフェノール、3−メトキシチオフェノール、3−エトキシチオフェノール、3−プロポキシチオフェノール、3−(1―メチルエトキシ)チオフェノール、3−ブトキシチオフェノール、3−(1−メチルブトキシ)チオフェノール、3−(2−メチルプロポキシ)チオフェノール、3−(1,1−ジメチルエトキシ)チオフェノール、3−ペントキシチオフェノール、3−(1−メチルブトキシ)チオフェノール、3−(1−エチルプロポキシ)チオフェノール、3−(2―メチルブトキシ)チオフェノール,3−(2−エチルプロポキシ)チオフェノール、3−(3−メチルブトキシ)チオフェノール、2,6−ジメチルチオフェノール、2,6−ジエチルチオフェノール、2,6−ジブチルチオフェノール、2,5−ジメチルチオフェノール、2,5−ジエチルチオフェノール、2,5−ジブチルチオフェノール、2,3−ジメチルチオフェノール、2,3−ジエチルチオフェノール、2,3−ジブチルチオフェノール、2−メチル−6―エチルチオフェノール、2−メチル−6−ブチルチオフェノール、2−メチル−5―エチルチオフェノール、2−メチル−5ブチルチオフェノール、2−メチル−3−エチルチオフェノール、2−メチル−3−ブチルチオフェノール、2−メチル−6−メトキシチオフェノール、2−メチル−5―メトキシチオフェノール、2−メチル−3−メトキシチオフェノール、3−メチル−6―エチルチオフェノール、3−メチル−6−ブチルチオフェノール、3−メチル−5―エチルチオフェノール、3−メチル−5ブチルチオフェノール、3−メチル−6−メトキシチオフェノール、3−メチル−5―メトキシチオフェノール、2−エチル−6−ブチルチオフェノール、2−エチル−5ブチルチオフェノール、2−エチル−3−ブチルチオフェノール、2−エチル−6−メトキシチオフェノール、2−エチル−5―メトキシチオフェノール、2−エチル−3−メトキシチオフェノール、3−エチル−6−ブチルチオフェノール、3−エチル−5ブチルチオフェノール、3−エチル−6−メトキシチオフェノール、3−エチル−5―メトキシチオフェノール、2−ブチル−6―エチルチオフェノール、2−ブチル−5―エチルチオフェノール、2−ブチル−3−エチルチオフェノール、2−ブチル−6−メトキシチオフェノール、2−ブチル−5―メトキシチオフェノール、2−ブチル−3−メトキシチオフェノール、3−ブチル−6―エチルチオフェノール、3−ブチル−5―エチルチオフェノール、3−ブチル−6−メトキシチオフェノール、3−ブチル−5―メトキシチオフェノール、2−メトキシ−6―エチルチオフェノール、2−メトキシ−5―エチルチオフェノール、2−メトキシ−3−エチルチオフェノール、3−メトキシ−6―エチルチオフェノール、3−メトキシ−5―エチルチオフェノール、2,3,5−トリメチルチオフェノール、2,3,5−トリエチルチオフェノール、2,3,5,6−テトラメチルチオフェノール、2,3,5,6、−テトラエチルチオフェノール、2,3,5,6−テトラメトキシチオフェノールなどを挙げることができる。これらの中でも、チオフェノール、2−メチルチオフェノール、2−エチルチオフェノール、2−メトキシチオフェノール、2,5−ジメチルチオフェノール、3,5−ジメチルチオフェノール、2,5−ジエチルチオフェノール、3,5−ジエチルチオフェノール、2,6−ジメチルチオフェノール、2,6−ジエチルチオフェノール、2,6−ジメトキシチオフェノール、2,3,5,6−テトラメチルチオフェノールが好ましく、特にチオフェノール、2−メチルチオフェノール、2,5−ジメチルチオフェノール、2,6−ジメチルチオフェノールが好ましい。
【0017】
前記一般式[II]によって表されるジアリールジスルフィド類としては、ジフェニルジスルフィド、2,2’−ジメチルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,6,6’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、
3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,6,6’−ヘキサメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタメチルジフェニルジスルフィド、2,2’−ジエチルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,6,6’−テトラエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,6,6’−ヘキサエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタエチルジフェニルジスルフィド、2,2’−ジメトキシジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’−テトラメトキシジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトラメトキシジフェニルジスルフィド、2,2’,6,6’−テトラメトキシジフェニルジスルフィド、2−メチルジフェニルジスルフィド、2−エチルジフェニルジスルフィド、2−プロピルジフェニルジスルフィド、2−ブチルジフェニルジスルフィド、2−メトキシジフェニルジスルフィド、2,6−ジメチルジフェニルジスルフィド、2,6−ジエチルジスルフィド、2,3−ジメチルジスルフィド、2,3,5,6−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,3,6−トリメチルジフェニルジスルフィド、2,6−ジメチル−2’−メチルジフェニルジスルフィド、2,6−ジメチル−2’−エチルジフェニルジスルフィド、2,6−ジエチル−2’−メチルジフェニルジスルフィド、2,6−ジエチル−2’−エチルジフェニルジスルフィド、2,6−ジメチル−2’,6’−ジエチルジフェニルジスルフィドを挙げることができる。これらの中でも、ジフェニルジスルフィド、2,2’−ジメチルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィドが好ましく、ジフェニルジスルフィドが特に好ましい。
【0018】
なお、本発明においては、前記一般式[I]で表されるチオフェノール類、および一般式[II]で表されるジアリールジスルフィド類の中から選ばれる1種または2種以上の化合物を単独重合または共重合させることにより、様々な種類・構造のポリアリーレンスルフィド化合物(単独重合体・共重合体またはそれらの混合物もしくは組成物)を得ることができる。
【0019】
本発明では、ポリアリーレンスルフィド化合物の製造に際し、周期表第7族から第12族の第5,6周期の金属を含む錯体を用いるが、好ましくは、化学便覧基礎編改定2版(著作者;社団法人日本化学会、発行者;飯泉新吾、昭和50年6月20日発行)記載の金属錯体の中心金属の水溶液系での標準酸化電位が0.78V以上である金属を含む金属錯体である。本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法では、出発原料であるチオフェノール類および/またはジフェニルジスルフィド類が酸化されることにより、ポリアリーレンスルフィド化合物が得られるため、用いる金属錯体にはこれら出発原料(モノマー)を酸化し得る酸化電位を有していることが特に望ましい。我々は鋭意検討を行った結果、周期表第7族から第12族の第5,6周期の金属を含む錯体を用いることで、更に望ましくは、これら金属錯体のなかでも、金属錯体の中心金属の水溶液系での標準酸化電位が0.78V以上である金属を含む金属錯体を用いることで、チオフェノール類またはジフェニルジスルフィド類から短時間でポリアリーレンスルフィド化合物が得られることを見出した。標準酸化電位が0.78V以上の金属を含む錯体を用いることで、重合時間を短時間とすることができるため好ましい。
【0020】
ここで、金属錯体の中心金属の標準酸化電位とは、配位子の付いていない状態の金属の標準酸化電位を示す。具体例を例示すると、銀(Ag+e=Ag(0.79V))、ロジウム(Rh3++3e=Rh(0.80V))、パラジウム(Pd2++2e=Pd(0.987V))、イリジウム(Ir3+ +3e=Ir(1.156V))、白金(Pt2++2e=pt(1.2V))、タリウム(Tl3++2e=Tl(1.25V))、金(Au3++3e=Au(1.498V))、マンガン(Mn3++e=Mn2+ (1.51V))、セリウム(Ce4++e=Ce3+(1.61V))、コバルト(Co3++e=Co2+(1.808V))をあげることができる。本発明では、このような金属を含む金属錯体を使用することが好ましい。特に好ましくはパラジウムを含む錯体である。
このような金属を含む錯体の配位子は、中心金属が高原子価状態を形成すれば、結合の状態、配位の様式に制限なく、これらの金属と錯体を形成する公知の配位子が使用できる。
【0021】
周期表第7族から第12族の第5,6周期の金属を含む錯体としては、例えばビス(シクロペンタジエニル)ルテニウム、デカメチルルテノセン、ジクロロベンゼンルテニウムダイマー、ジカルボニルシクロペンタジエニルルテニウムダイマー、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム、ジクロロジカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロトリカルボニルルテニウムダイマー、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ルテニウムアセチルアセトナート、ルテニウムブロマイド、ルテニウムカルボニル、ルテニウムクロライド、ルテニウムアイオダイド、ルテニウムオキサイド、オスミウムカルボニル、オスミウムクロライド、オスミウムオキサイド、アセチルアセトナートビス(エチレン)ロジウム、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ロジウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、クロロビス(エチレン)ロジウムダイマー、クロロカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、クロロ(1,5−シクロオクタジエン)ロジウムダイマー、クロロジカルボニルロジウムダイマー、クロロノルボルナジエンロジウムダイマー、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジカルボニルアセチルアセトナートロジウム、ジカルボニル(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ロジウム、ロジウムアセテートダイマー、ロジウムアセチルアセトナート、ロジウムブロマイド、ロジウムクロライド、ロジウムアイオダイド、ロジウムオキサイド、クロロカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)イリジウム、クロロ1,5−シクロオクタジエンイリジウムダイマー、クロロトリカルボニルイリジウム、1,5−シクロオクタジエン(アセチルアセトナート)イリジウム、ジカルボニルアセチルアセトナートイリジウム、イリジウムアセチルアセトナート、イリジウムブロマイド、イリジウムカルボニル、イリジウムクロライド、イリジウムオキサイド、アリルパラジウムクロライドダイマー、クロチルパラジウムクロライドダイマー、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナート、パラジウムブロマイド、パラジウムクロライド、パラジウムシアニド、パラジウムアイオダイド、パラジウムオキサイド、パラジウムトリフルオロアセテート、ジブロモ(1,5−シクロオクタジエン)白金、ジクロロビス(ベンゾニトリル)白金、ジクロロビス(1,5−シクロオクタジエン)白金、白金アセチルアセトナート、臭化白金、塩化白金、白金ヘキサフルオロアセチルアセトナート、ヨウ化白金、酸化白金、酢酸銀、臭化銀、塩化銀、フッ化銀、酸化銀、クロロカルボニル金、クロロトリフェニルホスフィン金、臭化金、塩化金、酸化金が例示できる。これらの中でも、パラジウムを含む錯体が好ましく、例示するとアリルパラジウムクロライドダイマー、クロチルパラジウムクロライドダイマー、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナート、パラジウムブロマイド、パラジウムクロライド、パラジウムシアニド、パラジウムアイオダイド、パラジウムオキサイド、トリフルオロ酢酸パラジウムが好ましく、酢酸パラジウムが特に好ましい。また、金属錯体は1種単独で用いてもよいし2種以上混合あるいは組み合わせて用いてもよい。
【0022】
使用する金属錯体の好ましい使用量は、用いる金属錯体により異なるが、通常、出発原料(モノマー)に対して0.001〜50モル%、好ましくは0.005〜20モル%、さらに好ましくは0.1〜15モル%である。
【0023】
本発明の周期表第7族から第12族かつ第5,6周期の金属を含む錯体と接触させることを特徴とするポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法は、酸性条件下で行なうことが望ましくこれにより、特に短時間でポリアリーレンスルフィド化合物が得られる傾向にある。ポリアリーレンスルフィド化合物を製造する際に酸性条件下にせしめる方法としては、公知の酸を用いる方法が例示でき、このような酸としては例えばプロトン酸、ルイス酸挙げられ、公知の有機酸またはその塩、無機酸またはその塩、さらにそれらの混合物もしくは複合体を用いることができる。プロトン酸としては、例えば塩酸、臭化水素酸、青酸などの非酸素酸、硫酸、リン酸、塩素酸、臭素酸、硝酸、炭酸、ホウ酸、モリブデン酸、イソポリ酸、ヘテロポリ酸などの無機オキソ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、コハク酸、安息香酸、フタル酸などの1価もしくは多価のカルボン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸などのハロゲン置換カルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、取るフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの1価もしくは多価のスルホン酸などが挙げることができる。これらの中でも、揮発性が低く、安定性の高い強酸性プロトン酸、例えば硫酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などが好ましく、特にトリフルオロ酢酸が好ましい。
【0024】
またルイス酸としては、例えば金属などのハロゲン化合物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、塩素酸塩、臭素酸塩、ケイ酸塩、メタロケイ酸塩、ヘテロ酸塩などのオキソ酸塩、フルオロケイ酸塩、酸性酸化物などの公知のいわゆるルイス酸(形式上非プロトン酸)もしくはそれらを含有するルイス酸組成物を挙げることができる。これらの中でも、一般にカチオン重合触媒として用いられるものを好適に使用することができる。これらの酸は、1種単独で用いてもよいし2種以上混合もしくは複合して用いてもよい。
【0025】
出発原料(モノマー)に対する前記酸の添加量は、酸の種類、酸の強さ、出発原料(モノマー)の種類、他の重合条件等により異なり、適宜決定されるが、上記酸の量は、出発原料(モノマー)に対するモル基準で0.001〜100倍、好ましくは0.01〜50倍、さらに好ましくは0.05〜30倍である。好ましい酸の出発原料に対する添加量を例示すると、トリフルオロメタンスルホン酸は0.05〜1.0倍であり、トリフルオロ酢酸は、1〜20倍である。
【0026】
また、本発明の周期表第7族から第12族かつ第5,6周期の金属を含む錯体と接触させることを特徴とするポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法における反応雰囲気に特に制限はないが、酸素含有ガスの雰囲気下で反応を行うことが好ましく、さらに好ましくは酸素下で行うのがよい。酸素分圧は、高いほど短時間でポリアリーレンスルフィド化合物が得られる傾向にあるが、常圧下であれば十分であり、さらに、減圧下であってもよい。酸素含有ガスとしては、空気や、酸素ガスと他のガス(例えば窒素ガス、アルゴンガス)との混合物が挙げられる。
【0027】
本発明の周期表第7族から第12族かつ第5,6周期の金属を含む錯体と接触させることを特徴とするポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法は溶媒中で行なうことが好ましく、これにより、特に短時間でポリアリーレンスルフィド化合物が得られる傾向がある。使用する溶媒は、重合活性を実質的に失活させないものであれば特に制限はないが、通常、用いる出発原料(モノマー)、遷移金属錯体、さらに好ましくは酸を溶解できるものが望ましい。通常、好適に使用できる溶媒としては、例えばハロゲンまたはニトロ基を含む脂肪族または芳香族の溶媒をあげることができ、具体的には、ジクロロメタン、ジブロモメタン、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラブロモエタン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、ジクロロベンゼンなどを挙げることができ、このほか一般にフリーデルクラフツ反応や、カチオン重合などに使用される二硫化炭素などの溶媒も適宜に選択して好適に使用することができる。これら溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよく、あるいは必要に応じて、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などの不活性溶媒などを適宜混合してもよい。また、前記酸が溶媒として好ましい特性を有する場合には、それ自体をこの重合溶媒として用いることも可能である。
【0028】
前記重合に際しての反応温度は、使用する遷移金属錯体や出発原料(モノマー)の種類によって異なるが、通常、溶媒や、酸の散逸を避けるために、0℃から溶媒の沸点程度とするのが好ましい。
【0029】
反応時間は、用いる触媒、出発原料(モノマー)の種類やその使用割合、反応温度などのほかの条件によっても著しく異なるが、通常0.1〜30時間程度の範囲に適宜設定すればよいが、本発明では極めて短時間で反応を行うことができるため、0.1〜13時間程度の範囲に設定することも可能である。
【0030】
また、本発明では、反応時間を更に短縮するために、助触媒を使用することが可能である。ここで、助触媒とは、金属錯体の触媒効率を上げる作用がある化合物のことを指し、好適に作用する助触媒としては、金属錯体の酸化還元電位と、酸素の酸化還元電位の間に酸化還元電位をもつ金属を含むものが好ましく、すなわち、化学便覧基礎編改定2版(著作者;社団法人日本化学会、発行者;飯泉新吾、昭和50年6月20日発行)記載の金属錯体の中心金属の水溶液系の標準電極電位が0V〜1.0Vである金属を含むものが好ましい。このような助触媒としては、例えば、臭化銅、塩化銅、塩化銀、酸化銀、炭酸銀、塩化鉄、酸化ルテニウム、酢酸銀が挙げることができ、このなかでも銅を含む金属錯体および/または鉄を含む金属錯体が好ましく、具体的には、塩化銅、塩化鉄、酢酸銀が好ましく、特に塩化銅が好ましい。好ましい助触媒の中心金属の水溶液系の標準電極電位を例示すると、銅(Cu2++e=Cu(0.153V)),鉄(Fe3++e=Fe2+(0.771V))銀(Ag+e=Ag(0.799V))である。これらの助触媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
出発原料(モノマー)に対する助触媒の添加量は、助触媒の種類、出発原料(モノマー)の種類、金属錯体の種類、ほかの重合条件により異なり、適宜決定されるが、上記助触媒の量は、重合触媒に対してモル基準で0.01〜50倍、好ましくは0.1〜20倍、さらに好ましくは1〜5倍である。
【0032】
本発明の周期表第7族から第12族かつ第5,6周期の金属を含む錯体と接触させることを特徴とするポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法おける出発原料(モノマー)の濃度に特に制限はなく、重合反応で得られる重合体に所望される分子量などによって異なるが、通常、常温における溶媒1Lに対する出発原料濃度が5.0mol/L以下の範囲が採用される。なおここで常温とは、10〜25℃のことである。また、出発原料(モノマー)の濃度を低くすると鎖状のポリアリーレンスルフィド化合物のほかに、環状のポリアリーレンスルフィド化合物が得られる。環状のポリアリーレンスルフィド化合物を効率よく得るための出発原料(モノマー)の濃度範囲は、0.5mol/L以下が好ましく、さらに好ましくは、0.1〜0.01mol/Lの濃度範囲である。
【0033】
本発明の周期表第7族から第12族かつ第5,6周期の金属を含む錯体と接触させることを特徴とするポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法における反応容器は、耐酸性、耐酸化性のある容器なら問題なく使用できるが、好ましくは、ガラス容器、フッ素樹脂製反応容器、接液部がガラスライニングを施された反応容器、または接液部がフッ素樹脂でライニングされた反応容器であり、特にガラス反応容器が好ましい。また、本発明の製造方法における反応様式は、連続式・バッチ式、また、静置・撹拌に特に制限はないが、バッチ式で行なうのが好ましく、撹拌下バッチ式で行なうのが特に好ましい。
【0034】
本発明の製造方法により生成するポリアリーレンスルフィド化合物は、様々な後処理を施して、回収することができる。この後処理は、公知の様々な方法に準じて行うことができる。この後処理の一例を挙げると、以下の通りである。
【0035】
すなわち、出発原料(モノマー)のポリアリーレンスルフィド化合物への転化が完結もしくは必要な程度に進行した後、反応混合物を水、メタノールなどの低級アルコールあるいはそれらの混合物と接触させて、生成物のポリマーを沈殿させる。この際、必要に応じて塩基性物質などの重合停止剤を併用してもよい。
【0036】
なお、出発原料(モノマー)の残存量は、ガスクロマトグラフ法によって求めることができ、その転化率は、以下の式により算出することができる。
転化率=100−([出発原料残存量]/[出発原料仕込み量])
本発明の製造方法では、出発原料(モノマー)の転化率は80〜100%が好ましく、更に好ましくは90〜100%である。また、転化率が100%近傍になった場合は、副反応の進行を抑制するために、30分〜2時間で反応を停止させるのが好ましい。
【0037】
この沈殿したポリマーは、通常の濾過などの分離操作によって、液体から分離される。この分離したポリマーは必要に応じて、適当な溶媒と再沈液とを用いて溶解・再沈・分離・メタノール洗浄などの洗浄を必要なだけ繰り返したのち、乾燥され、種々のポリアリーレンスルフィド化合物として回収することができる。
【0038】
なお、前記溶解・再沈に用いる溶媒としては、ポリマーを効率よく溶解するという点などから、たとえばN−メチルピロリドンなどが好適に用いられる。また、上記再沈液、洗浄液としては、通常、たとえば水、メタノールあるいはこれらの混合液など、特にメタノールが好適に使用できる。
【0039】
この発明の方法により得られたポリアリーレンスルフィド化合物は、耐熱性、耐薬品性、種々の機械的特性、電気的特性に優れたものである。また、架橋ポリマーの存在割合が極めて低く、本質的に直鎖状であり、流動性、成形性に優れるといった利点を有している。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を持って本発明を具体的に説明する。なお、この発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例は次に記載する試薬を用いて検討を行った。
【0041】
使用試薬
ジフェニルジスルフィド(東京化成)
酢酸パラジウム(和光純薬 特級)
トリフルオロ酢酸パラジウム(アルドリッチ)
バナジルアセチルアセトナート(東京化成)
トリフルオロメタンスルホン酸(東京化成)
トリフルオロ酢酸(アルドリッチ)
トリフルオロ酢酸無水物(関東化学 鹿特級)
1、2−ジクロロエタン(アルドリッチ)
塩化第二銅(東京化成)
酸素(東亜テクノガス)。
【0042】
〈原料消費量測定〉
反応原料のジアリールジスルフィド類の消費量はガスクロマトグラフィー(GC)分析により定量分析を行なった。GCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 GC17−A
カラム:TC−17 0.32mmφ×60m 0.5μm thickness(GLサイエンス社製)
キャリアガス流量:1.44mL/min
カラム入り口圧:140kPa
カラムオーブン:250℃
スプリット比:10:1
検出器:水素炎イオン化検出法(FID法)
注入量:5μL(反応溶液をクロロホルムにより約10倍に希釈したものを注入)
【0043】
〈構造決定〉
得られたポリアリーレンスルフィド化合物の構造は、赤外線吸収スペクトル(IR)分析、NMR分析により行なった。
IRの測定条件を以下に示す。
装置:Perkin Elmer System2000FT−IR
サンプル調製:KBr法
NMRの測定条件を以下に示す。
装置:日本電子社製 FT−NMR JNM−AL400
測定溶媒:重水素化クロロホルム
測定核:1H、13C
【0044】
〈分子量測定〉
得られたポリアリーレンスルフィド化合物の分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学社製 SSC−7100
カラム:センシュー科学 GPC3506
移動相:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
ポンプ恒温槽温度:40℃
検出器温度:210℃
カラム温度:210℃
ポンプ流量:1.0mL/min
試料注入量:350μL
【0045】
〈環状ポリフェニレンスルフィド生成率測定〉
環状ポリフェニレンスルフィド化合物の生成率は、HPLCを用いて定性定量分析を行なった。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP 150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)
【0046】
実施例1
ガラス製2つ口フラスコに酢酸パラジウム22.4mg(0.1mmol)をいれ、20mLの1,2−ジクロロエタンに溶解させ、スターラーで撹拌しながら、30.02mg(0.2mmol)のトリフルオロメタンスルホン酸、840.12mg(4mmol)のトリフルオロ酢酸無水物を加えた。そこに、ジフェニルジスルフィド436.69mg(2mmol)を添加し、反応系中を酸素で置換し、40℃に加温し、40℃で5時間反応させた。なお、反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、反応開始2時間後に、ジフェニルジスルフィドの消失を確認した。反応終了後、反応溶液を10重量%の塩酸酸性メタノール溶液200gに注入すると沈殿物が得られた。沈殿物を濾過、水100g、メタノール100gで洗浄後、減圧下80℃で乾燥し、収率64%で重合体を得た。得られた重合体は、赤外線吸収スペクトル(IR)分析、NMR分析より、ポリフェニレンスルフィドである事、高温GPCにより分子量が5200であることを確認した。また、液体クロマトグラフィー分析により、環状のポリフェニレンスルフィド(4〜12員環)が収率12%で得られていることを確認した。
【0047】
実施例2
ガラス製2つ口フラスコに、トリフルオロ酢酸パラジウム33.2mg(0.1mmol)をいれ、20mLの1,2−ジクロロエタンに溶解させ、スターラーで撹拌しながら、30.02mg(0.2mmol)のトリフルオロメタンスルホン酸、840.12mg(4mmol)のトリフルオロ酢酸無水物を加えた。そこに、ジフェニルジスルフィド436.69mg(2mmol)を添加し、反応系中を酸素で置換し、40℃に加温し、40℃で5時間反応させた。なお反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、反応開始2時間後に、ジフェニルジスルフィドの消失を確認した。反応終了後、反応溶液を10重量%の塩酸酸性メタノール溶液200gに注入すると沈殿物が得られた。沈殿物を濾過、水100g、メタノール100gで洗浄後、減圧下80℃で感想し、収率70%で重合体を得た。得られた重合体は、赤外線吸収スペクトル(IR)分析、NMR分析より、ポリフェニレンスルフィドである事、高温GPCにより分子量が6000である事を確認した。また、液体クロマトグラフィー分析により、環状のポリフェニレンスルフィド(4〜12員環)が収率13%で得られていることを確認した。
【0048】
比較例1
ガラス製2つ口フラスコに、バナジルアセチルアセトナート26.5mg(0.1mmol)をいれ、20mLの1,2−ジクロロエタンに溶解させ、スターラーで撹拌しながら、30.02mg(0.2mmol)のトリフルオロメタンスルホン酸、840.12mg(4mmol)のトリフルオロ酢酸無水物を加えた。そこに、ジフェニルジスルフィド426.68mg(2mmol)を添加し、反応系中を酸素で置換し、40℃に加温し、15時間反応させた。なお、反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、反応開始12時間後にジフェニルジスルフィドの消失を確認した。反応終了後、反応溶液を10重量%の塩酸酸性メタノール溶液200gに注入すると沈殿物が得られた。沈殿物を濾過、水100g、メタノール100gで洗浄後、減圧下80℃で乾燥し、収率58%で重合体を得た。得られた重合体は、赤外線吸収スペクトル(IR)分析、NMR分析より、ポリフェニレンスルフィドである事、高温GPCにより分子量が4000であることを確認した。また、液体クロマトグラフィー分析により、環状のポリフェニレンスルフィド(5〜10員環)が収率6%で得られていることを確認した。
【0049】
実施例1、2と比較例1の対比より、パラジウム錯体を用いることで、短時間でポリアリーレンスルフィド化合物が生成することがわかる。
【0050】
実施例3
ガラス製2つ口フラスコに、酢酸パラジウム22.4mg(0.1mmol)をいれ、20mLの1,2−ジクロロエタンに溶解させ、スターラーで撹拌しながら、30.02mgの(0.2mmol)トリフルオロメタンスルホン酸、840.12mg(4mmol)のトリフルオロ酢酸無水物を加えた。そこに、ジフェニルジスルフィド436.69mg(2mmol)を添加し、反応系中を酸素で置換し、20℃に加温し、20℃で8時間反応させた。なお、反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、反応開始6時間後にジフェニルジスルフィドの消失を確認した。反応終了後、反応溶液を10重量%の塩酸酸性メタノール溶液200gに注入すると沈殿物が得られた。沈殿物を、濾過、水100g、メタノール100gで洗浄後、減圧下80℃で乾燥し、収率53%で重合体を得た。得られた重合体は、赤外線吸収スペクトル(IR)分析、NMR分析より、ポリフェニレンスルフィドである事を確認した。
【0051】
比較例2
ガラス製の2つ口フラスコに、バナジルアセチルアセトナート26.5mg(0.1mmol)をいれ、20mLの1,2−ジクロロエタンに溶解させ、スターラーで撹拌しながら、30.02mg(0.2mmol)のトリフルオロメタンスルホン酸、840.12mg(4mmol)のトリフルオロ酢酸無水物を加えた。そこに、ジフェニルジスルフィド426.68mg(2mmol)を添加し、反応系中を酸素で置換し、20℃に加温し、30時間反応させた。なお、反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、ジフェニルジスルフィドの転化率が89%で停止することを確認した。
【0052】
実施例3と比較例2の対比より、酢酸パラジウムを用いることで、重合反応を室温付近(20℃)で行なっても、問題なく反応が進行し、完結することがわかる。
【0053】
実施例4
ガラス製2つ口フラスコに、酢酸パラジウム44.9mg(0.2mmol)をいれ、20mLの1,2−ジクロロエタンに溶解させ、スターラーで撹拌しながら、4.56g(40mmol)のトリフルオロ酢酸、1.68g(8mmol)のトリフルオロ酢酸無水物を加えた。そこに、ジフェニルジスルフィド436.69mg(2mmol)を添加し、反応系中を窒素で置換し、40℃に加温し、40℃で20時間反応させた。なお、反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、反応開始13時間後にジフェニルジスルフィドの消失を確認した。反応終了後、反応溶液を10重量%の塩酸酸性メタノール溶液200gに注入すると沈殿物が得られた。沈殿物を濾過、水100g、メタノール100gで洗浄後、減圧下80℃で乾燥し、収率55%で重合体を得た。得られた重合体は、赤外線吸収スペクトル(IR)分析、NMR分析より、ポリフェニレンスルフィドである事を確認した。また、液体クロマトグラフィー分析により、環状のポリフェニレンスルフィド(4〜12員環)が収率9%で得られていることを確認した。
【0054】
実施例4より、重合触媒として酢酸パラジウムを用いることで、酸素が存在しなくても問題なく反応が進行し、完結することがわかる。
【0055】
実施例5
ガラス製2つ口フラスコに、酢酸パラジウム44.9mg(0.2mmol)をいれ、20mLの1,2−ジクロロエタンに溶解させ、スターラーで撹拌しながら、4.56g(40mmol)のトリフルオロ酢酸、1.68g(8mmol)のトリフルオロ酢酸無水物、53.78mg(0.4mmol)の塩化第二銅を加えた。そこに、ジフェニルジスルフィド436.69mg(2mmol)を添加し、反応系中を酸素で置換し、40℃に加温し、40℃で3時間反応させた。なお、反応溶液のガスクロマトグラフィー分析により、反応開始45分後にジフェニルジスルフィド消失を確認した。反応終了後、反応溶液を10重量%の塩酸酸性メタノール溶液200gに注入すると沈殿物が得られた。沈殿物を濾過、水100g、メタノール100gで洗浄後、減圧下80℃で乾燥し、収率60%で重合体を得た。得られた重合体は、赤外線吸収スペクトル(IR)分析、NMR分析より、ポリフェニレンスルフィドである事を確認した。また、液体クロマトグラフィー分析により、環状のポリフェニレンスルフィド(4〜12員環)が収率14%で得られていることを確認した。
【0056】
実施例5より、本発明のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法は、助触媒を触媒量添加することで、反応が短時間で進行することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[I]
【化1】

(ただし、式[I]中、R1〜R4は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子および炭素数1〜10のアルコキシ基よりなる群から選択されるいずれかを表す。なお、R1〜R4は、たがいに同じ種類であっても異なった種類であってもよい。)で表されるチオフェノール類および/または一般式[II]
【化2】

(ただし、式[II]中、R5〜R12は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子および炭素数1〜10のアルコキシ基よりなる群から選択されるいずれかを表す。なお、R5〜R12は、たがいに同じ種類であっても異なった種類であってもよい。)で表されるジアリールジスルフィド類を周期表第7族から第12族かつ第5、6周期の金属を含む錯体と接触させることを特徴とするポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法。
【請求項2】
金属錯体が、周期表第10族の2価の金属を含む錯体であることを特徴とする請求項1記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法。
【請求項3】
金属錯体が、パラジウムを含む錯体であることを特徴とする請求項2記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法。
【請求項4】
前記チオフェノール類および/またはジアリールジスルフィド類と前記錯体との接触を酸性条件下で行なうことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法。
【請求項5】
前記チオフェノール類および/またはジアリールジスルフィド類と前記錯体との接触を酸素含有ガスの雰囲気下で行なうことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法。
【請求項6】
前記チオフェノール類および/またはジアリールジスルフィド類と前記錯体との接触を助触媒の存在下で行なうことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法。
【請求項7】
助触媒が、銅を含む金属錯体および/または鉄を含む金属錯体であることを特徴とする請求項6記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法。
【請求項8】
前記チオフェノール類および/または前記ジアリールジスルフィド類を、常温における溶媒1Lに対して0.5mol/L以下として行なうことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−163223(P2008−163223A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355288(P2006−355288)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】