説明

ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法、ポリアリーレンスルフィド樹脂、それからなる成形品およびその製造方法

【課題】比較的高分子量にも関わらず、低せん断領域での溶融粘度が低く流動性に優れると共に、結晶化速度が遅く、かつ滞留安定性に優れたPASを得ることを課題とする。
【解決手段】有機溶媒中で重合反応させた後の重量平均分子量45,000以上のPAS樹脂を含む重合スラリーに対して、(a)重合溶媒と同じ有機溶媒中で撹拌処理した後、処理溶媒とポリアリーレンスルフィド樹脂を固液分離する工程、(b)水中で撹拌処理した後、処理溶媒とポリアリーレンスルフィド樹脂を固液分離する工程、(c)固液分離した際の濾液のpHが6.5を超え、8.0以下になるよう、水と無機酸および/または有機酸を加え撹拌処理した後、処理溶媒とポリアリーレンスルフィド樹脂を固液分離する工程を順次行うことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的高分子量にも関わらず低せん断領域での溶融粘度が低く流動性に優れると共に結晶化速度が遅く、かつ滞留安定性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂とその製造方法および当該ポリアリーレンスルフィド樹脂からなる成形品とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下PASと略す)は、耐熱性、難燃性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性および機械的強度や寸法安定性などに優れたエンジニアリングプラスチックであり、射出成形や押出成形などの各種成形法により、各種成形品や繊維、フィルムなどに成形可能であるため、電気・電子部品、機械部品および自動車部品など広範な分野において実用に供されている。
【0003】
近年では、成形品の小型化、薄肉化を目的に溶融流動性の高いPASの開発が試みられている。また、溶融時の流動性向上は成形加工温度の低下や成形サイクルの短縮に繋がることから、環境負荷低減やエネルギーコスト削減にも寄与すると考えられる。
【0004】
更に、溶融流動性の向上に伴う成形加工温度の低下はPAS溶融時に発生する揮発成分の低減にも繋がる。溶融時の揮発成分は、射出成形時の金型内や溶融紡糸、溶融製膜時の口金へ付着することで、生産性の低下を招くため、その低減が望まれている。
【0005】
一般的に押出成形品として繊維用途やフィルム用途に用いられるPASとしては、溶融紡糸時の糸切れや溶融製膜時のフィルム破れ・割れを抑制するために、滞留安定性に優れ、かつ結晶化速度が遅いことが要求される(特許文献1参照)。更に、強度や伸度といった糸物性やフィルム物性を満足させるためには、PASの分子量が比較的高い必要がある。しかしながら、一般的に溶融流動性は分子量に依存するところが大きく、分子量の増大とともに流動性が低下するため、流動性の優れた繊維用途やフィルム用途のPASを得ることは困難であった。
【0006】
PASの溶融流動性や結晶化特性を制御する方法として、重合後の洗浄工程にて有機溶媒中あるいは水中で酸またはアルカリで処理する方法が知られている。特許文献1の実施例では、アセトンと水の混合溶媒を用いた洗浄の後、水洗浄を行い、最終的な濾液のpHを制御する方法を示している。しかしながら、最終的な濾液のpHをアルカリ性とした場合には、結晶化温度が低いものの、同時に低せん断領域での流動性に優れたPASを得ることは出来ていない。また、酸性の条件下で洗浄を行った場合には、流動性の向上は見られるものの、結晶化温度が高温となることが示されており、本発明によって得られるPASが有する溶融粘度と結晶化温度を同時に満たすことは出来ていない。更には、洗浄に重合溶媒と異なる有機溶媒を使用しているため、回収溶媒種が増加し、洗浄方法として効率的ではない。
【0007】
その他の洗浄条件による物性制御としては、例えば特許文献2には、有機溶媒中に有機酸や無機酸を添加することで、含有する金属イオンを低減する手法が示されている。しかし、処理によって得られたPASは流動性には優れるものの、重合段階で得られるPASの分子量が比較的小さいことが推測され、溶融紡糸や溶融製膜には適さない。また、処理後の有機溶媒中には酸や水分と共に塩が混入するため、蒸留回収工程の前処理として中和や分離といった工程が必要となることから、コスト的に好ましくない。
【0008】
特許文献3には、重合反応系への有機酸又は無機酸の添加、次いで無機アルカリを添加して撹拌処理した後、固液分離して、酸性水溶液およびアルカリ性水溶液で処理する方法が記載してある。しかし、処理工程が煩雑なうえ、酸またはアルカリを含有する有機溶媒の回収工程も必要であることからコスト的に好ましくない。また、得られたPASの溶融時の発生ガス量は少ないものの、結晶化温度が高いため繊維用途やフィルム用途には適さない。
【0009】
特許文献4には、重合後のPASからフラッシュ法(重合反応物を高温高圧の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へ放出し、溶媒回収と同時に重合物の回収を行う方法である。)により重合溶媒を除去した後、回収したPASに対して130℃以上の条件にて酸性水溶液にて処理を行う方法が開示されている。このような方法で回収と洗浄を行ったPASは、低分子量成分の含有量が多いために、溶融流動性に優れ、射出成形用途等に好適であると考えられる。しかしながら、回収PASの分子量は小さく、繊維用途やフィルム用途には好適ではない。
【0010】
特許文献5には有機溶媒処理後、固液分離を行い、その後酸性水溶液での処理をすることで揮発成分を低減する方法が示されている。実施例にはpH6.4の酸性水溶液中での処理の記載があるが、この方法により流動性の高いPASを得ることは出来たものの、そもそものPASの分子量が小さく、繊維やフィルムとした場合には充分な強度と伸度が発現しない。また、pH6.4の条件下で処理することで溶融時の発生ガス量は低減しているが、滞留安定性が低いために比較的溶融滞留時間の長い紡糸工程や製膜工程に供するには適していない。また、酸性の洗浄条件のため結晶化速度が速いと推測され、射出成形用途には好適と考えられるが、繊維用途では紡糸および延伸工程での糸切れ抑制の観点から、およびフィルム用途では製膜工程でのフィルム破れや割れ抑制の観点から、結晶化速度が遅いPASが望まれており、該発明で得られるPASは好ましくない。
【0011】
また、いずれの特許文献においても、PAS単体の溶融流動性を向上させることで、成形加工温度を低下させる技術思想は認められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−225931号公報 4〜6ページ、14〜22ページ
【特許文献2】特開2000−239383号公報 1〜3ページ
【特許文献3】特開H8−198965号公報 1〜3ページ
【特許文献4】特開2002−293934号公報 1〜3ページ
【特許文献5】特開2010−77347号公報 1〜4ページ 12〜14ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来、比較的高い分子量を有するPASでは、低せん断領域での優れた溶融流動性と低い溶融結晶化温度を両立することが困難であった。そのため、溶融紡糸や溶融製膜をはじめとする各種成形時の成形加工温度を低下させることは難しかった。
【0014】
本発明は、比較的高分子量にも関わらず低せん断領域での溶融粘度が低く流動性に優れると共に結晶化速度が遅く、かつ滞留安定性に優れたPASを得ることを課題として検討した結果、達成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、かかる課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、比較的高分子量のPASを含む重合スラリーに対して、有機溶媒による処理と固液分離、次いで水による処理と固液分離、次いで固液分離後の濾液のpHが6.5〜8.0になるよう、酸性水溶液で処理する工程を経ることで、比較的高分子量にも関わらず、低せん断領域での溶融粘度が低く流動性に優れると共に結晶化速度が遅く、かつ滞留安定性に優れたPASを得ることを見出し、本発明に至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)有機溶媒中で重合反応させた後の重量平均分子量45,000以上のポリアリーレンスルフィド樹脂を含む重合スラリーに対して、下記(a)〜(c)の工程を順次行うことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
(a)重合溶媒と同じ有機溶媒中で撹拌処理した後、処理溶媒とポリアリーレンスルフィド樹脂を固液分離する工程。
(b)水中で撹拌処理した後、処理溶媒とポリアリーレンスルフィド樹脂を固液分離する工程。
(c)固液分離した際の濾液のpHが6.5を超え、8.0以下になるよう、水と無機酸および/または有機酸を加え撹拌処理した後、処理溶媒とポリアリーレンスルフィド樹脂を固液分離する工程。
(2)示差走査熱量計(DSC)にて降温速度20℃/minで測定した溶融結晶化温度(Tmc)が190℃以下であり、重量平均分子量が45,000以上であり、かつ温度310℃、せん断速度243sec−1における溶融粘度が110Pa・s以下であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂。
(3)真空下300℃、40分間加熱溶融した際の揮発成分量<1>と120分間加熱溶融した際の揮発成分量<2>の比(<2>/<1>)が1.2未満であるであることを特徴とする(2)記載のポリアリーレンスルフィド樹脂。
(4)(2)または(3)記載のポリアリーレンスルフィド樹脂からなるポリアリーレンスルフィド成形品。
(5)成形品が繊維またはフィルムであることを特徴とする(4)記載のポリアリーレンスルフィド成形品。
(6)(2)または(3)記載のポリアリーレンスルフィド樹脂を285〜300℃の温度で溶融成形することを特徴とするポリアリーレンスルフィド成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法によれば、比較的高分子量にも関わらず低せん断領域での溶融粘度が低く流動性に優れると共に結晶化速度が遅く、かつ滞留安定性に優れたPASを得ることが出来る。更には、その樹脂を用いることで定法よりも低温の条件下で溶融押出成形加工が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明におけるPASとは、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(A)が特に好ましい。
【0019】
【化1】

【0020】
(R1,R2は水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)
【0021】
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(L)〜式(N)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。
【0022】
【化2】

【0023】
また、本発明におけるPASは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
【0024】
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドエーテル、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいPASとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0025】
【化3】

【0026】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドエーテルが挙げられ、ポリフェニレンスルフィドが特に好ましい。
【0027】
本発明でのPASの製造方法について、以下、スルフィド化剤、有機極性溶媒、ジハロゲン化芳香族化合物、重合助剤、分岐・架橋剤、分子量調整剤、重合安定剤、脱水工程、重合反応工程、ポリマー回収工程、洗浄工程、後処理工程、生成PAS、溶融紡糸、溶融製膜及び用途の順に詳述する。
【0028】
(1)スルフィド化剤
本発明で用いられるスルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0029】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0030】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0031】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からスルフィド化剤を調製し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0032】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるスルフィド化剤も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からスルフィド化剤を調製し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0033】
本発明において、スルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0034】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0035】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましく、この使用量はアルカリ金属水硫化物100モルに対し90モル以上120モル未満、好ましくは95モル以上115モル未満、更に好ましくは95モル以上110モル未満の範囲が例示できる。この範囲にすることで、分解を引き起こすことなく、また重合副生物量の少ないPASを得ることができる。
【0036】
(2)有機極性溶媒
本発明では重合溶媒として有機極性溶媒を用いる。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が好ましく用いられる。
【0037】
本発明においてPASの重合溶媒として用いる有機極性溶媒の使用量に特に制限はないが、安定した反応性および経済性の観点から、スルフィド化剤100モル当たり250モル以上550モル未満、好ましくは250モル以上500モル未満、より好ましくは250モル以上450モル未満の範囲が選択される。
【0038】
(3)ジハロゲン化芳香族化合物
本発明で用いるジハロゲン化芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼンなどのジハロゲン化ベンゼン、および1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン、3,5−ジクロロ安息香酸などのハロゲン以外の置換基をも含むジハロゲン化芳香族化合物などを挙げることができる。なかでも、p−ジクロロベンゼンに代表されるp−ジハロゲン化ベンゼンを主成分にするジハロゲン化芳香族化合物が好ましい。また、PAS共重合体を製造するために異なる2種以上のジハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて用いることも可能である。
【0039】
本発明におけるジハロゲン化芳香族化合物の使用量は、一定以上の高分子量のPASを得る観点から、スルフィド化剤100モルあたり95モル以上110モル未満が必要であり、97モル以上107モル以下が好ましい範囲として例示できる。
【0040】
スルフィド化剤100モルに対して、ジハロゲン化芳香族化合物が95モルよりも少ない場合には、重合中に分解が進み、本発明のような比較的分子量の高いPASを得ることは出来ない。一方、スルフィド化剤100モルに対して、ジハロゲン化芳香族化合物が110モルを超えると、経済的に好ましくない傾向にある。
【0041】
(4)重合助剤
本発明では、反応系内の相分離形成剤として重合助剤を用いる。相分離を形成する目的はPASを所望の溶融粘度に調整するためと顆粒状のPASを得るためである。このような重合助剤としては、有機カルボン酸金属塩、アルカリ金属塩化物(但し、塩化ナトリウムを除く)、有機スルホン酸金属塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上同時に用いても差し障りない。なかでも、有機カルボン酸金属塩が好ましく用いられる。
【0042】
有機カルボン酸金属塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物を好ましい例として挙げることができる。有機カルボン酸金属塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。有機カルボン酸金属塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。有機カルボン酸金属塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記有機カルボン酸金属塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると推定しており、安価でかつ反応系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが好ましく用いられる。
【0043】
本発明では、所望の重量平均分子量を有するPASを効率よく得る観点から、重合助剤の存在下で重合を行う必要があり、スルフィド化剤100モルに対して、0.5モル以上100モル未満の重合助剤の使用が好ましく、5モル以上50モル未満がより好ましい範囲として例示できる。重合助剤として、例えば、有機カルボン酸金属塩を使用する場合、その添加時期には特に制限はなく、後述する脱水工程前、重合反応工程前、重合反応工程途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、添加の容易性からすると、脱水工程開始時或いは重合反応工程開始時に同時に添加することが好ましい。なお、重合反応工程途中に重合助剤を添加する場合は、重合反応工程期間の30%以上の期間に重合助剤が存在することが好ましい。重合助剤の使用量については、スルフィド化剤100モルに対して、重合助剤が0.5モルより少ない場合には、相分離を形成する効果が弱く、所望の分子量を有するPASを得ることは難しく、重合助剤が100モルを超える場合には、費用対効果の面から不利益である傾向がある。
【0044】
上記の重合助剤の効果をより高める目的で、水を用いることが可能である。例えば、有機カルボン酸金属塩あるいは水を単独で用いるよりも、有機カルボン酸金属塩と水を同時に用いることで、相分離の形成をより高めることができ、所望の重量平均分子量を有するPASを得ることができる。本発明における重合後の反応系内での水の存在量は、スルフィド化剤100モルに対して、100モル以上1000モル未満が好ましく、150モル以上1000モル未満がより好ましい範囲として例示できる。かかる水としては、重合により副生する水に加えて、後記する重合反応工程前、重合反応工程途中のいずれかの時点で系内に水を添加することが好ましい様態である。なお、重合反応工程途中に水を添加する場合は、重合反応工程期間の30%以上の期間に水が存在することが好ましい。
【0045】
(5)分岐・架橋剤、分子量調整剤
本発明では、分岐または架橋重合体を形成させるために、トリハロゲン化以上のポリハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物及びハロゲン化芳香族ニトロ化合物などの分岐・架橋剤を併用することも可能である。ポリハロゲン化合物としては通常に用いられる化合物を用いることができるが、中でもポリハロゲン化芳香族化合物が好ましく、具体例としては、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,4,6−トリクロロナフタレン等を挙げることができ、中でも1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼンが好ましい。前記、活性水素含有ハロゲン化芳香族化合物としては、例えばアミノ基、メルカプト基及びヒドロキシル基などの官能基を有するハロゲン化芳香族化合物を挙げることができる。具体例としては2,5−ジクロロアニリン、2,4−ジクロロアニリン、2,3−ジクロロアニリン、2,4,6−トリクロロアニリン、2,2’−ジアミノ−4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノ−2’,4−ジクロロジフェニルエーテルなどを挙げることができる。前記、ハロゲン化芳香族ニトロ化合物としては、例えば2,4−ジニトロクロロベンゼン、2,5−ジクロロニトロベンゼン、2−ニトロ−4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、3,3’−ジニトロ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、2,5−ジクロロ−2−ニトロピリジン、2−クロロ−3,5−ジニトロピリジンなどを挙げることができる。
【0046】
また、PASの分子量を調整する目的でモノハロゲン化化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を併用することも可能である。モノハロゲン化化合物としては、モノハロゲン化ベンゼン、モノハロゲン化ナフタレン、モノハロゲン化アントラセン、ベンゼン環を2個以上含むモノハロゲン化化合物、モノハロゲン化複素環式化合物、などを挙げることができる。なかでも、経済性の観点からするとモノハロゲン化ベンゼンが好ましい。また、異なる2種以上のモノハロゲン化化合物を組み合わせて用いることも可能である。
【0047】
(6)重合安定剤
本発明のPASの製造においては、重合反応系を安定化し、副反応を抑制するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。前述した有機カルボン酸金属塩も重合安定剤として作用するので、本発明で使用する重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0048】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、重合反応開始前の反応系内のスルフィド化剤100モルに対して、通常1〜20モル、好ましくは3〜10モルの割合で使用することが望ましい。この割合が多すぎると経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下したりする傾向にある。なお、反応時にアルカリ金属硫化物の一部が分解して、硫化水素が発生する場合には、その結果生成したアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0049】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する脱水工程前、重合反応工程前、重合反応工程途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよい。
【0050】
(7)脱水工程
本発明のPASの製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ジハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。なお、この操作により水を除去し過ぎた場合には、不足分の水を添加して補充することが好ましい。
【0051】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温〜100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180℃〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0052】
脱水工程が終了した段階での系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤100モル当たり90〜110モルであることが好ましい。ここで系内の水分量とは脱水工程で仕込まれた水分量から系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0053】
脱水工程が終了した後、有機極性溶媒中で、脱水工程で調製した反応物とジハロゲン化芳香族化合物を接触させて重合反応を行うが、脱水工程と同じ反応器で後述の重合反応工程を行っても良いし、脱水工程と異なる反応容器に脱水工程で調製した反応物を移送した後に重合反応工程を行ってもよい。
【0054】
(8)重合反応工程
本発明において、有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂を製造する。重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100℃〜230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤およびポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤や分岐・架橋剤、分子量調整剤を添加してもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であっても差し支えない。
【0055】
かかる混合物を通常200℃〜290℃の温度範囲に昇温する。昇温速度は特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の速度範囲がより好ましい。
【0056】
一般に、最終的には250℃〜290℃の温度範囲まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
【0057】
最終温度に到達させる前の段階で、最終温度よりも低温の一定温度で一定時間反応させた後、昇温して最終温度に到達させることも、より高い重合度を得る上で有効な方法である。この際の反応時間としては、通常0.25〜20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選択される。なお、一定温度での重合反応工程は複数段階あっても差し支えない。
【0058】
(9)ポリマー回収工程
本発明におけるPASの製造方法において、重合反応終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物からPASを回収する。本発明で用いるPASは、公知の如何なる回収方法を採用しても良いが、顆粒状のPASを得る意味で、クエンチ法での回収が好ましい。クエンチ法とは、重合反応物を高温高圧の状態から徐々に冷却して反応系内のPAS成分を析出させ、粒子状のポリマーを回収する方法である。この際の冷却時間には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、ポリマー粒子が析出するまでは0.1℃/分〜1℃/分、その後は1℃/分以上の速度で冷却する方法などを採用しても良い。最終的には200℃以下まで冷却する。なおここで、ポリマー成分が析出した状態とは、生成したポリマー成分の少なくとも60%以上が重合溶媒に溶解しない状態である。
【0059】
(10)洗浄工程
本発明である、溶融結晶化温度が190℃以下であり、かつ温度310℃、せん断速度243sec−1における溶融粘度が110Pa・s以下であるPASを得るためには、重合反応工程およびポリマー回収工程後の回収物に対して、以下の(a)〜(c)の工程を順次行う必要がある。
(a)重合溶媒と同じ有機溶媒中で撹拌処理した後、処理溶媒とPAS樹脂を固液分離する工程。
(b)水中で撹拌処理した後、処理溶媒とPAS樹脂を固液分離する工程。
(c)固液分離した際の濾液のpHが6.5を超え、8.0以下になるよう、水と無機酸および/または有機酸を加え撹拌処理した後、処理溶媒とPAS樹脂を固液分離する工程。
【0060】
以下に詳細について記載する。
【0061】
(a)工程
本発明では、重合反応終了後の反応回収物に対して、有機溶媒中での撹拌処理を実施する。この撹拌処理は、有機溶媒洗浄による不純物除去能力の観点から、反応後の重合スラリーを水洗する前に適用することが必要である。本発明での固体のPASを含む回収物を有機溶媒中で洗浄する場合の具体的方法としては、以下の方法を例示できる。
【0062】
洗浄に用いる有機溶媒としては、重合時に使用した溶媒であり、PASを分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が好ましく用いられる。
【0063】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPASを浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。
【0064】
有機溶媒でPASを洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。
【0065】
PASと有機溶媒の割合は、有機溶媒が多いほうが好ましいが、通常、有機溶媒1リットルに対し、PASが300g以下の浴比が選択される。
【0066】
有機溶媒での処理工程は、必要により複数回実施しても良いが、洗浄能や工程の複雑化および経済性の観点から、4回以下が好ましく適用され、より好ましくは1回以上3回以下が適用される。
【0067】
なお、有機溶媒による洗浄を行う前に、前記スラリーの濾別を行い、続いて有機溶媒による洗浄を行うことが好ましい。このような手順を踏むことで、同量の有機溶剤を用いた際より高い洗浄効果を得られることが多い。また、有機溶媒での処理後にも、同様の理由で固液分離を行う必要がある。なお、濾別の方法に特に制限はないが篩い等による濾別、遠心分離による濾別、濾布を用いた濾別などを例示できる。
【0068】
(b)工程
次いで、固液分離により得られた回収物に水を加え、撹拌処理を行う。この工程を経ることで上記有機溶媒での処理にて十分に除去出来なかった水溶性のイオン性不純物を除去することが可能となる。
【0069】
PASを水で洗浄する場合の方法としては、水にPASを浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。
【0070】
PASを洗浄する際の洗浄温度は特に制限はなく、例えば20℃〜220℃が挙げられるが、クエンチ法で得られたPASは洗浄効率が良いため、低い温度でも、比較的良好に洗浄可能である。生産性から考えると、20℃〜100℃が好ましく、50℃〜80℃が更に好ましい。20℃未満だと副生成物の除去が困難となる。
【0071】
PASと水との割合は、水が多いほうが好ましいが、通常、水1リットルに対し、PAS200g以下の浴比が選択される。この際、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
【0072】
この撹拌処理工程は、必要により複数回実施することが好ましく、通常、洗浄回数は20回未満であることが好ましい。
【0073】
(c)工程
本発明では、水での洗浄を行った後、撹拌処理後に固液分離した際の濾液のpHが6.5を超え、8.0以下になるよう、水と無機酸および/または有機酸を加え撹拌処理する工程を経ることを必要とする。この工程を経ることで、高い溶融流動性と所望の結晶化特性を有するPASを得ることが可能となる。具体的な方法としては、上記(b)工程の後、撹拌処理後に固液分離した際の濾液のpHが6.5を超え、8.0以下になるように、水にギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、アクリル酸、クロトン酸、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などの有機酸性化合物、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物およびアンモニウムイオンなどの添加剤を加えた水溶液を用いて洗浄を行う。
【0074】
洗浄濾液のpHは6.5を超え8.0以下であることが必要であり、7.0以上8.0以下であることがより好ましく、7.0以上7.5以下であることが更に好ましい。洗浄後の濾液のpHが6.5より小さく、より酸性である場合には結晶化温度が高く、また後述する溶融時の揮発性成分量の経時変化率が大きくなるため、繊維用途やフィルム用途に用いるには好適ではない。一方、pHが8.0を超える場合には、溶融流動性が低下するため、本発明のような流動性の優れたPASを得ることは出来ない。
【0075】
撹拌処理後に固液分離した際の濾液のpHが6.5を超え、8.0以下になる範囲であれば、特に有機酸および/または無機酸の添加量に制限はないが、通常、PASに対し0.002〜5重量%が好ましく、0.005〜1.0重量%がより好ましい。
【0076】
PASを水溶液で洗浄する場合の方法としては、水溶液にPASを浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。
【0077】
PASを洗浄する際の洗浄温度は特に制限はなく、例えば20℃〜220℃が挙げられるが、クエンチ法で得られたPASは洗浄効率が良いため、低い温度でも、比較的良好に洗浄可能である。生産性から考えると、20℃〜100℃が好ましく、50℃〜80℃が更に好ましい。20℃未満だと添加剤の除去が困難となる。
【0078】
PASと水溶液との割合は、水溶液が多いほうが好ましいが、通常、水溶液1リットルに対し、PAS200g以下の浴比が選択される。この際、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。
【0079】
この撹拌処理工程は、必要により複数回実施しても良いが、洗浄能や工程の複雑化および経済性の観点から、1回以上3回以下が好ましく適用され、より好ましくは1回以上2回以下が適用される。
【0080】
なお、必要により(c)工程の後に、再度水中で撹拌処理を行うことも残存する添加剤を除去する観点から好ましい操作である。PASを水で洗浄する場合の方法としては、水にPASを浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。
【0081】
PASを洗浄する際の洗浄温度は特に制限はなく、例えば20℃〜220℃が挙げられるが、クエンチ法で得られたPASは洗浄効率が良いため、低い温度でも、比較的良好に洗浄可能である。生産性から考えると、20℃〜100℃が好ましく、50℃〜80℃が更に好ましい。20℃未満だと副生成物の除去が困難となる。
【0082】
PASと水との割合は、水が多いほうが好ましいが、通常、水1リットルに対し、PAS200g以下の浴比が選択される。この際、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。この撹拌処理工程は、必要により複数回実施しても良いが、洗浄能や工程の複雑化の観点から、10回以下が好ましく適用され、より好ましくは1回以上5回以下が適用される。
【0083】
かくして得られたPASは常圧下および/または減圧下に乾燥する。かかる乾燥温度としては、110〜280℃の範囲が好ましく、120〜250℃の範囲がより好ましい。乾燥雰囲気は、窒素、ヘリウム、減圧下などの不活性雰囲気でも、酸素、空気などの酸化性雰囲気、空気と窒素の混合雰囲気の何れでも良いが、溶融粘度の関係から不活性雰囲気が好ましい。乾燥時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜30時間が好ましく、1〜20時間がさらに好ましい。
【0084】
(11)後処理工程
本発明において得られたPASを、揮発性成分を除去するために、或いは架橋高分子量化するために、酸素含有雰囲気下、130〜260℃の温度で処理することも可能である。
【0085】
架橋高分子量化を抑制し、揮発性成分除去を目的として乾式熱処理を行う場合、熱処理は熱処理温度および熱処理時間を特定の範囲にすれば、高い酸素濃度雰囲気下でも低い酸素濃度雰囲気下でも差し支えない。
【0086】
高い酸素濃度雰囲気の条件としては酸素濃度が2体積%以上であることが好ましく、熱処理温度は160〜270℃、熱処理時間は0.1〜20時間行うことが望ましい。ただ、酸素濃度が高い条件下では揮発性成分の低減速度が速いものの、同時に酸化架橋が急速に進行するためゲル化物が発生しやすくなる。そのため概して低温・長時間または高温・短時間で熱処理を行うことが好ましい。低温・長時間熱処理する具体的な条件としては160℃以上210℃以下で1時間以上20時間以下が好ましく、170℃以上200℃以下で1時間以上10時間以下がより好ましい。熱処理温度が160℃を下回る温度で熱処理を行っても揮発性成分の低減効果が小さく溶融紡糸性の改善効果は小さい。また、低温であっても酸素濃度2体積%以上の条件においては熱処理時間が20時間を越えると酸化架橋が進行しゲル化物が発生しやすくなる。高温・短時間熱処理する具体的な条件としては210℃を超え270℃以下で0.1時間以上1時間未満が好ましく、220℃以上260℃以下で0.2〜0.8時間がより好ましい。熱処理温度が270℃を超えると酸化架橋が急激に進行しゲル化物が発生しやすくなる。また、高温であっても酸素濃度2体積%以上の条件においては熱処理時間が0.1時間を下回ると揮発性成分の低減効果が小さく溶融紡糸性、溶融製膜性等の成形加工性の改善効果は小さい。
【0087】
低い酸素濃度雰囲気の条件としては酸素濃度が2体積%未満であることが好ましく、熱処理温度は210〜270℃、熱処理時間は0.2〜50時間行うことが望ましい。酸素濃度が低いと揮発性成分の低減効果が小さくなる傾向にあるため概して高温・長時間で熱処理を行うことが好ましく、220℃〜260℃の熱処理温度条件下2〜20時間行うことがより好ましい。熱処理時間が210℃を下回る場合は揮発性ガスが低減せず溶融紡糸性、溶融製膜性等の成形加工性の改善効果は小さく、熱処理時間が50時間を上回ると生産性が低下する。
【0088】
架橋高分子量化を目的として乾式熱処理する場合、その温度は210〜270℃が好ましく、220〜260℃の範囲がより好ましい。また酸素濃度2体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。処理時間は、1〜100時間が好ましく、2〜50時間がより好ましく、3〜25時間が更に好ましい。
【0089】
加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0090】
(12)生成PAS
本発明によれば、示差走査熱量計(DSC)にて降温速度20℃/minで測定した溶融結晶化温度(Tmc)が190℃以下であり、重量平均分子量が45,000以上であり、かつ温度310℃、せん断速度243sec−1における溶融粘度が110Pa・s以下であるPASを得ることが出来る。また、得られたPASは真空下300℃、40分間加熱溶融した際の揮発成分量<1>と120分間加熱溶融した際の揮発成分量<2>の比(<2>/<1>)が1.2未満である特徴を有する。
【0091】
一般的に、結晶化温度が高いということは、結晶化速度が速いことを意味する。結晶化温度が高いPASを溶融紡糸に用いた場合には、紡糸工程の後、速やかに結晶化が進行するため、延伸工程での糸切れが生じ易くなる。また、溶融製膜の場合にも、高結晶化速度はフィルムの破れや亀裂発生の原因となり得る。そのため、本発明では得られるPASのTmcが190℃以下であることが必要であり、185℃以下であることがより好ましい。一方、Tmcの下限値は特に設けないが、一般にTmcが低温になるほど、溶融粘度は増加する傾向があるため、本発明の良流動性を考慮すると、Tmcは170℃以上が好ましく、175℃以上が更に好ましい。
【0092】
次に、本発明では得られるPASの重量平均分子量は45000以上であることが必要である。重量平均分子量が45000以下であるPASを紡糸あるいは製膜した場合には、得られる繊維やフィルムの強度や伸度が低下する。一方、分子量が著しく高い場合には、溶融粘度の上昇により、本発明の特徴である比較的低温での溶融成形加工が出来ない。そのため、得られるPASの重量平均分子量は45000以上が必要であり、150000未満であることが好ましく、100000未満であることが更に好ましい。
【0093】
温度310℃、せん断速度243sec−1における溶融粘度は、本発明の特徴である溶融加工温度の低下の観点から、110Pa・s以下であることが必要である。溶融粘度が110Pa・sを超える場合には、加工温度を低下させることが出来ない。一方、溶融粘度が著しく低い場合には、溶融紡糸工程や溶融製膜工程での加工性が低下するため、溶融粘度は45Pa・s以上110Pa・s以下が好ましく、60Pa・s以上110Pa・s以下が更に好ましい。
【0094】
本発明で得られるPASを真空下300℃にて40分間、120分間加熱溶融した際の揮発性成分量の比が1.2未満であることが好ましく、1.1未満であることが更に好ましい。この比は、溶融状態で滞留させた場合の安定性を示しており、1に近いほどポリマーの溶融安定性が高いことを意味する。紡糸工程や製膜工程では比較的長い溶融滞留時間を経る可能性があるため、前記揮発性成分量の比が1.2以上である場合には、ポリマーの分解や口金への揮発性成分の付着が生じ易く、生産性の低下を招くため繊維用途には好適ではない。また、同様の理由から、40分間加熱溶融時の揮発性成分量は0.5重量%以下が好ましく、0.3重量%以下が更に好ましい。
【0095】
これらの特性を満たすということは、比較的高分子量にも関わらず高い溶融流動性を有し、かつ、結晶化速度が遅く、更には溶融安定性に優れたPASが得られるということである。
【0096】
本発明のPASが得られることにより、成形加工温度の低下が可能であり、省エネルギー化に有効である。また、成形加工温度の低下はPAS溶融時に発生する揮発成分の低減にも繋がり、射出成形時の金型や溶融紡糸、フィルム加工時の口金の汚染が起こりにくくなることから、生産性が向上する。
【0097】
なお、前記した溶融結晶化温度(Tmc)とは、パーキンエルマー社製DSC7を用い、サンプル量約10mg、窒素雰囲気下、昇温・降温速度20℃/分で、(1)50℃から340℃まで昇温し、340℃で1分間保持、(2)100℃まで降温、(3)再度340℃まで昇温し、340℃で1分間保持、(4)再度100℃まで降温した際、(4)に現れる溶融結晶化ピーク温度である。また、ガラス転移温度(Tg)は、上記のTmc測定方法の(1)の熱量変化曲線から、下記式により算出した。
【0098】
ガラス転移温度=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)/2
また、前記した重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した値である。GPCの測定条件を以下の通りである。装置:センシュー科学社製SSC−7100、カラム名:センシュー科学社製GPC3506、溶離液:1−クロロナフタレン、検出器:示差屈折率検出器、カラム温度:210℃、プレ恒温槽温度:250℃、ポンプ恒温槽温度:50℃、検出器温度:210℃、流量:1.0mL/min、試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
【0099】
前記した溶融粘度とは、東洋精機社製キャピログラフ1Cと孔長10.00mm、孔直径1.00mmのダイスを用い、310℃の条件で測定を行った値である。せん断速度243sec−1時の溶融粘度を比較した。
【0100】
前記した揮発性成分量および溶融安定性とは、以下に示す手順で得られた値である。腹部が100mm×25mmφ、首部が255mm×12mmφ、肉厚が1mmのガラスアンプルにポリマー3gを計り入れてから真空封入した。このガラスアンプルの腹部のみを、300℃に設定されたアサヒ理化製作所製のセラミックス電気管状炉ARF−30Kに挿入して、40分間または120分間加熱した。その後、アンプルを取り出し、管状炉によって加熱されておらず揮発ガスの付着したアンプル首部をヤスリで切り出して秤量した。次いで付着ガスを5gのクロロホルムで溶解して除去した後、60℃のガラス乾燥機で1時間乾燥してから再度秤量した。ガスを除去した前後のアンプル首部の重量差を、ガラスアンプルに封入したポリマー量3gで割った値を揮発性成分量(重量%)とした。
【0101】
前記の揮発性成分量の測定法に従って、40分間加熱溶融した際の揮発性成分量<1>と120分間加熱溶融した際の揮発性成分量<2>の比(<2>/<1>)を溶融安定性として算出した。この比は、溶融状態で滞留させた場合の安定性を示しており、1に近いほどポリマーの溶融安定性が高いことを意味する。
【0102】
(13)溶融紡糸
本発明において、繊維を得る場合、上記PAS樹脂を原料として溶融紡糸することが好ましいが、溶融紡糸に適用する前に、本発明のPAS樹脂粒子については一旦ペレタイズした後、溶融紡糸に適用することが望ましい。また、本発明のPAS樹脂を繊維以外の用途に用いる場合も、一旦ペレタイズして用いることが好ましい。
【0103】
混練機は、単軸、2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、及びミキシングロールなど通常公知の溶融混練機に供給してPAS樹脂の融解ピーク温度+5〜60℃の加工温度で混練する方法などを代表例として挙げることが出来る。副原料を用いる際、原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
【0104】
また本発明において、溶融紡糸に適用する前に、PAS樹脂粉粒体あるいは溶融混練して得られたPAS樹脂ペレットを常圧下、好ましくは減圧下で、十分に乾燥してから用いることが好ましく、特に減圧下で乾燥した後、用いることが望ましい。かかる減圧下での乾燥条件に特に制限はないが、通常130〜200℃の範囲で、1〜10時間行われる。
【0105】
次に、繊維化については、通常の紡糸機を用いて、溶融紡糸することで目的のPAS樹脂繊維を得ることが出来る。紡糸工程では、余分の増粘によるゲル化を防止するため、好ましくは窒素雰囲気下、可能な限り低温で、しかも溶融するに十分な程度に加熱し、口金より吐出する。紡糸温度は285〜300℃の範囲で、口金は通常の溶融紡糸に使用するもの、例えば0.15〜0.5mm程度の口径のものが好ましく用いられる。本発明のPASが得られることにより、上記紡糸温度での加工が可能となる。
【0106】
糸条は通常、紡出後に引き取ることにより得られる。引き取り速度に特に制限は無いが、通常500m/分〜7000m/分の範囲である。また、紡糸工程の後に、浴中や熱板上や熱ローラー上において延伸工程を経ることが好ましい。
【0107】
上記、紡糸工程と延伸工程は、連続工程であっても構わないし、不連続の工程であっても構わない。また、繊維は、マルチフィラメント繊維、モノフィラメント繊維、ステープル繊維のいずれであっても構わない。
【0108】
(14)溶融製膜
本発明において、フィルムを得る場合には、押出機の溶融部を285〜300℃に加熱された押出機に投入する。その後、押出機を経た溶融ポリマーをフィルター内に通過させ、その溶融ポリマーをTダイの口金を用いてシート状に吐出する。このシート状物を表面温度20〜70℃の冷却ドラム上に密着させて冷却固化し、実質的に無配向状態の未延伸フィルムを得る。
【0109】
次に、この未延伸フィルムを二軸延伸し、二軸配向させる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、またはそれらを組み合わせた方法を用いることが出来る。
【0110】
ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を例示する。未延伸PASフィルムを加熱ロール群で加熱し、長手方向に2〜4倍、好ましくは2.5〜4倍、更に好ましくは3〜4倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。延伸温度は、Tg(PASのガラス転移温度)〜(Tg+50)℃、好ましくは(Tg+5)〜(Tg+40)℃、更に好ましくは(Tg+10)〜(Tg+30)℃の範囲である。最も好ましくは(Tg+15)〜(Tg+30)℃の範囲である。その後、20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。
【0111】
MD延伸に続く幅方向の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う(TD延伸)。延伸温度はTg(PASのガラス転移温度)〜(Tg+60)℃が好ましく、より好ましくは(Tg+5)〜(Tg+50)℃、更に好ましくは(Tg+10)〜(Tg+40)℃の範囲である。特に、TD延伸には、MD延伸より3〜15℃だけ低温で延伸することが好ましく、更に好ましくは5〜10℃低温に設定する。TD延伸の延伸温度を好ましい範囲に設定することで、PASの結晶化を過度に進行させずに分子鎖配向を制御しやすく、破断伸度向上や成形加工性向上の効果を得やすくなる。更に、TD延伸の延伸ゾーンの前の予熱ゾーンにおいて、予熱温度をTD延伸の温度より3〜10℃だけ低温で実施することが好ましく、更に好ましくは5〜7℃だけ低温に設定する。TD延伸前の予熱温度を好ましい範囲に設定することで、PASの結晶化を過度に進行させずに分子鎖配向を制御しやすく、破断伸度向上や成形加工性向上の効果を得やすくなる。延伸倍率は2〜4倍が好ましく、より好ましくは2.5〜4倍、更に好ましくは3〜4倍の範囲である。
【0112】
次に、この延伸フィルムを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。好ましい熱固定温度は、200〜270℃、より好ましくは210〜260℃、更に好ましくは220〜255℃の範囲である。熱固定は温度を変更して2段で実施するのも好ましい。その場合、2段目の熱固定温度を1段目より5〜20℃高温にするのが好ましい。熱固定時間は0.2〜30秒の範囲で行うことが好ましく、5〜20秒の範囲が更に好ましい。さらにこのフィルムを40〜180℃の温度ゾーンで幅方向に弛緩しながら冷却する。弛緩率は、幅方向の熱収縮率を低下させる観点から1〜10%であることが好ましく、より好ましくは2〜8%、更に好ましくは3〜7%の範囲である。更に、フィルムを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、目的とする二軸配向PASフィルムを得る。
【0113】
(15)用途
本発明で得られたPASは、耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気的性質並びに機械的性質に優れることから、上記した繊維用途、フィルム用途の他、射出成形用途、射出圧縮成形用途、ブロー成形用途および、押出成形により、シート及びパイプなどの押出成形品に成形することが可能である。
【0114】
また、本発明で得られるPASは、単独で用いても良いし、所望に応じて、ガラス繊維、炭素繊維、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、着色剤などを添加することもでき、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、酸無水物基などの官能基を有するオレフィン系コポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリイミドなどの樹脂を配合することもできる。
【0115】
本発明で得られたPASを用いた繊維は、高強度繊維、耐熱性繊維、極細繊維、耐薬品性繊維、電気絶縁性繊維として使用することができ、これらの特徴を活かして、バグフィルター、薬液フィルター、食品用フィルター、ケミカルフィルター、オイルフィルター、エンジンオイルフィルター、空気清浄フィルター等のフィルター用途、電気絶縁紙等の紙用途、消防服等の耐熱作業着用途、安全衣服、実験作業着、保温衣料、難燃衣料、抄紙用フェルト、縫糸、耐熱性フェルト、離形材、抄紙ドライヤーカンバス、電池用セパレーター、電極用セパレーター、心臓パッチ、人工血管、人工皮膚、プリント基板基材、コピーローリングクリーナー、イオン交換基材、オイル保持材、断熱材、保護フィルム、建築用断熱材、クッション材、吸液芯、ブラシ、ネットコンベヤー、モーター結束糸、モーターバインダーテープ、サーマルボンド法不織布熱接着工程絶縁紙などの各種用途に好適に使用することができる。
【0116】
本発明で得られたPASを用いたフィルムは、モーター、トランスなどの電気絶縁材料や成形材料、回路基板材料、回路・光学部材などの工程・離型フィルムや保護フィルム、リチウムイオン電池材料、燃料電池材料、振動板などに用いられる。特に、給湯器モーター用絶縁材料や、ハイブリッド車などに使用されるカーエアコン用モーターや駆動モーター用などの電気絶縁材料や携帯電話用などのスピーカー振動板などに好適に使用できる。
【0117】
また、本発明により発現する顕著な効果として、溶融流動性の優れたPASが得られるため、得られたPASは複雑形状の射出成型品などの良流動性が望まれる用途にも用いることが可能である。
【0118】
その射出成形用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナー、エンジンコントロールユニットケース、エンジンドライバーユニットケース、コンデンサーケース、モーター絶縁材料、ハイブリッドカーの制御系部品ケースなどの自動車・車両関連部品、その他の各種用途が例示できる。
【実施例】
【0119】
以下、本発明の方法を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、各種測定法は以下の通りである。
【0120】
[溶融結晶化温度(Tmc)の測定]
パーキンエルマー社製DSC7を用い、サンプル量約10mg、窒素雰囲気下、昇温・降温速度20℃/分で、
(1)50℃から340℃まで昇温し、340℃で1分間保持
(2)100℃まで降温
(3)再度340℃まで昇温し、340℃で1分間保持
(4)再度100℃まで降温
した際、(4)にあらわれる溶融結晶化ピーク温度を溶融結晶化温度(Tmc)とした。
【0121】
[ポリマーの重量平均分子量]
ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学社製SSC−7100
カラム名:センシュー科学社製GPC3506
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
【0122】
[溶融粘度]
東洋精機社製キャピログラフ1Cを用い孔長10.00mm、孔直径1.00mmのダイスにて、310℃の条件で測定を行い、せん断速度243sec−1の溶融粘度を比較した。
【0123】
[揮発性成分量]
腹部が100mm×25mmφ、首部が255mm×12mmφ、肉厚が1mmのガラスアンプルにポリマー3gを計り入れてから真空封入した。このガラスアンプルの腹部のみを、300℃に設定されたアサヒ理化製作所製のセラミックス電気管状炉ARF−30Kに挿入して、40分間または120分間加熱した。その後、アンプルを取り出し、管状炉によって加熱されておらず揮発ガスの付着したアンプル首部をヤスリで切り出して秤量した。次いで付着ガスを5gのクロロホルムで溶解して除去した後、60℃のガラス乾燥機で1時間乾燥してから再度秤量した。ガスを除去した前後のアンプル首部の重量差を、ガラスアンプルに封入したポリマー量3gで割り返して揮発性成分量(重量%)とした。
【0124】
[溶融安定性]
前記の揮発性成分量の測定法に従って、40分間加熱溶融した際の揮発成分量<1>と120分間加熱溶融した際の揮発成分量<2>の比(<2>/<1>)を溶融安定性として算出した。この比は、溶融状態で滞留させた場合の安定性を示しており、1に近いほどポリマーの溶融安定性が高いことを意味する。
【0125】
[糸物性:紡糸性]
以下の基準に従い紡糸性を評価した。
◎20時間紡糸しても糸切れが発生しない。
○20時間に1回の割合で糸切れが発生。
△8時間に1回の割合で糸切れが発生。
×4時間に1回の割合で糸切れが発生。
【0126】
[糸物性:強度・伸度]
JIS L1013の方法に準拠し、試長25cm、引張り速度30cm/分の条件で測定した。
【0127】
[糸物性:熱収縮率]
熱安定性の指標として熱収縮率を98℃に温度調整された熱水バスで30分間放置後の初期長さに対する熱収縮率(%)として求めた。
【0128】
[参考例1]PPSの重合1
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、48%水硫化ナトリウム8.18kg(70.00モル)、97%水酸化ナトリウム2.85kg(69.17モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.19kg(112.84モル)、酢酸ナトリウム0.84kg(10.26モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.84kgおよびNMP0.30kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。脱水工程での硫化水素の飛散量は1.61モルであった。
【0129】
その後、200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)10.38kg(70.58モル)、NMP9.45kg(95.36モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら200℃からから270℃まで昇温した後、270℃の定温状態で140分反応を行った。その後、系内にイオン交換水2.46kgを注入すると共に200℃まで徐々に冷却を行った後、急冷して重合スラリーを回収した。
【0130】
[参考例2]PPSの重合2
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、48%水硫化ナトリウム8.18kg(70.00モル)、97%水酸化ナトリウム2.87kg(69.52モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.19kg(112.84モル)、酢酸ナトリウム0.50kg(6.09モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.84kgおよびNMP0.30kgを留出した時点で加熱を終え冷却を開始した。脱水工程での硫化水素の飛散量は1.61モルであった。
【0131】
その後、200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)10.44kg(70.99モル)、NMP9.45kg(95.36モル)を加えた後に反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら200℃からから270℃まで昇温した後、270℃の定温状態で140分反応を行った。その後、系内にイオン交換水2.46kgを注入するとともに200℃まで徐々に冷却を行った後、急冷して重合スラリーを回収した。
【0132】
[実施例1]
参考例1で得た重合スラリーに約35リットルのNMPを加えてから85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.180mm)で固液分離して固形物を得た。得られた固形物に70リットルのイオン交換水を加え、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を3回繰り返した。その後、得られた固形物に酢酸4.7gと70リットルのイオン交換水を加え、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾別した。その際の濾液pHは7.1であった。次いで、得られた固形物に70リットルのイオン交換水を加え、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。洗浄条件および分析結果を表1に示した。
【0133】
得られたPPSの溶融結晶化温度は180℃であり、温度310℃、剪断速度243sec−1での溶融粘度は101Pa・sであった。
【0134】
次いで、得られたPPS樹脂を日本製鋼所社製TEX30型2軸ベント付き押出機で、シリンダー温度を290℃に設定して、溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを150℃にて10時間、真空乾燥した後、2軸押出機が接続された紡糸機に供給した。紡糸機に接続された2軸押出機は設定温度300℃、せん断速度100sec−1とした。また、紡糸温度295℃、口金口径0.23mm、口金孔数24ホール、1000m/分の条件で紡糸し、未延伸糸を得た。次いで得られた未延伸糸を延伸温度90℃、熱処理温度170℃、延伸倍率2.6倍で延伸した。得られた糸物性を表1に示した。
【0135】
溶融製膜では、上記乾燥ペレットを溶融部が300℃に加熱された単軸押出機に供給し、溶融したポリマーをフィルターで濾過した後、Tダイの口金(300℃)から溶融押出して表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを、103℃の温度でフィルムの縦方向に3.5倍の倍率で延伸した後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度105℃、延伸倍率3.5倍でフィルムの幅方向に延伸を行い、引き続いて温度260℃で2秒間の熱処理を行った。その後、150℃にコントロールされた冷却ゾーンで横方向に4%弛緩処理を行い室温まで冷却し、厚さ125μmの二軸配向PPSフィルムを作製した。溶融製膜加工性は良好であった。
【0136】
[実施例2]
酢酸の添加量を5.7gに変更した以外は実施例1と同様に洗浄、回収、乾燥を行い、PPSを得た。酢酸を添加した処理後の濾液のpHは6.7であった。洗浄条件および分析結果を表1に示した。
【0137】
得られたPPSの溶融結晶化温度は180℃であり、温度310℃、剪断速度243sec−1での溶融粘度は99Pa・sであった。
【0138】
次いで得られたPPS樹脂を実施例1と同様の操作で溶融紡糸した後、実施例1と同様の操作で延伸して延伸糸を得た。得られた糸物性を表1に示した。
【0139】
[比較例1]
酢酸の添加量を34.1gに変更した以外は実施例1と同様に洗浄、回収、乾燥を行い、PPSを得た。酢酸を添加した処理後の濾液のpHは4.6であった。洗浄条件および分析結果を表1に示した。
【0140】
得られたPPSの溶融結晶化温度は216℃であり、温度310℃、剪断速度243sec−1での溶融粘度は87Pa・sであった。
【0141】
次いで得られたPPS樹脂を実施例1と同様の操作で溶融紡糸した後、実施例1と同様の操作で延伸して延伸糸を得た。得られた糸物性を表1に示した。
【0142】
実施例1、2に比較して、酸性条件下(pH4.6)で洗浄を行った場合には、流動性は向上するものの、溶融結晶化温度が高くなり、かつ揮発性成分の増加と滞留安定性の低下が認められた。得られたPASを用いた紡糸と延伸工程では、糸切れが多発する結果となった。
【0143】
[比較例2]
酢酸の添加量を6.7gに変更した以外は実施例1と同様に洗浄、回収、乾燥を行い、PPSを得た。酢酸を添加した処理後の濾液のpHは6.4であった。洗浄条件および分析結果を表1に示した。
【0144】
得られたPPSの溶融結晶化温度は185℃であり、温度310℃、剪断速度243sec−1での溶融粘度は95Pa・sであった。
【0145】
次いで得られたPPS樹脂を実施例1と同様の操作で溶融紡糸した後、実施例1と同様の操作で延伸して延伸糸を得た。得られた糸物性を表1に示した。
【0146】
比較例1と同様に、実施例に比較して酸性条件下(pH6.4)で洗浄を行った場合、流動性は向上するものの、揮発性成分の増加と滞留安定性の低下が認められた。また、得られたPASを用いた紡糸と延伸工程では、糸切れが発生する結果となった。pH6.5〜8.0の範囲を外れることで、紡糸性が低下する。
【0147】
[比較例3]
用いる重合スラリーを参考例2で得られた重合スラリーに変更した以外は実施例1と同様に洗浄、回収、乾燥を行い、PPSを得た。酢酸を添加した処理後の濾液のpHは6.4であった。洗浄条件および分析結果を表1に示した。
【0148】
得られたPPSの溶融結晶化温度は187℃であり、温度310℃、剪断速度243sec−1での溶融粘度は55Pa・sであった。
【0149】
次いで得られたPPS樹脂を実施例1と同様の操作で溶融紡糸した後、実施例1と同様の操作で延伸して延伸糸を得た。得られた糸物性を表1に示した。
【0150】
分子量が小さいPPSに対して酸添加後のpHが6.4になるよう洗浄を行った場合には、流動性は良好なものの、揮発性成分の増加と滞留安定性の低下が認められた。また、紡糸と延伸工程では、糸切れが発生するとともに、得られた繊維の物性が著しく低下する結果になった。
【0151】
[比較例4]
酢酸を添加しなかったこと以外は実施例1と同様に洗浄、回収、乾燥を行い、PPSを得た。実施例1で酢酸を添加したのと同じ段階での処理後の濾液のpHは9.5であった。洗浄条件および分析結果を表1に示した。
【0152】
得られたPPSの溶融結晶化温度は182℃であり、温度310℃、剪断速度243sec−1での溶融粘度は115Pa・sであった。
【0153】
次いで得られたPPS樹脂を実施例1と同様の操作で紡糸工程を試みたが、溶融粘度が高く、パック圧が上昇しすぎたため、紡糸することは出来なかった。
【0154】
酸を用いた洗浄を行わなかったため、洗浄時のpHがアルカリ性を示した。得られたPASの溶融粘度は高く、295℃の紡糸温度では溶融紡糸を行うことが出来なかった。
【0155】
[比較例5]
85℃の重合スラリーを固液分離した後、得られた固形物に70リットルのイオン交換水を加え、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を3回繰り返した。その後、得られた固形物に酢酸4.7gと70リットルのイオン交換水を加え、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾別した。その際の濾液のpHは7.1であった。次いで、得られた固形物に70リットルのイオン交換水を加え、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。洗浄条件および分析結果を表1に示した。
【0156】
得られたPPSの溶融結晶化温度は220℃であり、温度310℃、剪断速度243sec−1での溶融粘度は70Pa・sであった。
【0157】
次いで得られたPPS樹脂を実施例1と同様の操作で溶融紡糸した後、実施例1と同様の操作で延伸して延伸糸を得た。得られた糸物性を表1に示した。
【0158】
NMPでの洗浄を行わない場合、低分子量のPPS成分や不純物を含むため、溶融粘度は低下するものの、結晶化温度は高く、また揮発性成分の増加と滞留安定性の低下が認められた。得られたPASを用いた紡糸と延伸工程では、糸切れが発生すると共に、実施例に比較して得られた糸の強度と伸度が低下した。
【0159】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂は、射出成形用途、射出圧縮成形用途、ブロー成形用途および押出成形用途など広範な用途において使用可能である。特に、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の特徴として、流動性に優れること、結晶化速度が遅いこと、溶融安定性に優れることを兼ね備えているため、押出成形用途にて好適に使用することが出来る。具体的には、繊維用途、フィルム用途、シート用途、パイプ用途などが挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中で重合反応させた後の重量平均分子量45,000以上のポリアリーレンスルフィド樹脂を含む重合スラリーに対して、下記(a)〜(c)の工程を順次行うことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
(a)重合溶媒と同じ有機溶媒中で撹拌処理した後、処理溶媒とポリアリーレンスルフィド樹脂を固液分離する工程。
(b)水中で撹拌処理した後、処理溶媒とポリアリーレンスルフィド樹脂を固液分離する工程。
(c)固液分離した際の濾液のpHが6.5を超え、8.0以下になるよう、水と無機酸および/または有機酸を加え撹拌処理した後、処理溶媒とポリアリーレンスルフィド樹脂を固液分離する工程。
【請求項2】
示差走査熱量計(DSC)にて降温速度20℃/minで測定した溶融結晶化温度(Tmc)が190℃以下であり、重量平均分子量が45,000以上であり、かつ温度310℃、せん断速度243sec−1における溶融粘度が110Pa・s以下であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂。
【請求項3】
真空下300℃、40分間加熱溶融した際の揮発成分量<1>と120分間加熱溶融した際の揮発成分量<2>の比(<2>/<1>)が1.2未満であるであることを特徴とする請求項2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂。
【請求項4】
請求項2または3記載のポリアリーレンスルフィド樹脂からなるポリアリーレンスルフィド成形品。
【請求項5】
成形品が繊維またはフィルムであることを特徴とする請求項4記載のポリアリーレンスルフィド成形品。
【請求項6】
請求項2または3記載のポリアリーレンスルフィド樹脂を285〜300℃の温度で溶融成形することを特徴とするポリアリーレンスルフィド成形品の製造方法。

【公開番号】特開2012−92292(P2012−92292A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119176(P2011−119176)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】