説明

ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法

【課題】ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化速度を飛躍的に速めさせることが出来る新規なポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】スルフィド化剤とジハロ芳香族化合物とを有機極性溶媒中で仕込んだスルフィド化剤の消費率が90モル%以上に到達した時点まで反応させる工程I、得られた工程Iの反応液に下記一般式[1]のポリハロ芳香族化合物を添加して反応する工程II、及び、得られた工程IIの反応液にスルフィド化剤と4,4’−ジハロベンゾフェノンとを添加し反応してポリアリーレンスルフィド樹脂を得る工程IIIからなることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法を提供する。


(一般式[1]中、Xはハロゲン原子、Rは水素原子またはアルキル基を示し、nは3〜6の整数で、且つ、n+m=6である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化速度を速め、電気電子部品や自動車部品等の成型品に幅広く利用可能なポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品や自動車部品等の成型品に幅広く利用されている。ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法としては、例えば、有機極性溶媒中でアルカリ金属硫化物とポリハロ芳香族化合物とを反応させる方法などにより得られる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、一般にポリアリーレンスルフィド樹脂は、製品に加工する際の固化時間が長い、即ち、結晶化速度が遅いものしか得られなかった。ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化速度を速める技術としては、酸処理による方法(例えば、非特許文献1参照。)があるが、複雑な後処理工程を必要とするため、生産性が著しく劣るという問題点があった。
【0004】
【特許文献1】特公昭45−3368号公報
【非特許文献1】POLYMER,30巻,第147−155頁(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化速度を飛躍的に速めさせることが出来る新規なポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、スルフィド化剤とジハロ芳香族化合物とポリハロ芳香族化合物とを有機極性溶媒中で反応させるPASの製造方法において、工程Iとして線状のポリマーを生成させ、次いで工程IIとして、工程Iで得られた線状のポリマーにポリハロ芳香族化合物を加えて反応し、工程IIIとして、工程IIで得られたポリマーに、更に、スルフィド化剤と4,4’−ジハロベンゾフェノンとを添加して反応させて得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、その結晶化時間が従来のポリアリーレンスルフィド樹脂と比較して飛躍的に速くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、スルフィド化剤とジハロ芳香族化合物とを有機極性溶媒中で仕込んだスルフィド化剤の消費率が90モル%以上に到達した時点まで反応させる工程I、得られた工程Iの反応液に下記一般式[1]のポリハロ芳香族化合物を添加して反応する工程II、及び、得られた工程IIの反応液にスルフィド化剤と4,4’−ジハロベンゾフェノンとを添加し反応してポリアリーレンスルフィド樹脂を得る工程IIIからなることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PASと略記する。)の製造方法を提供する。
【0008】
【化1】

(一般式[1]中、Xはハロゲン原子、Rは水素原子またはアルキル基を示し、nは3〜6の整数で、且つ、n+m=6である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを有機極性溶媒中で反応させるPASの製造方法において、スルフィド化剤の消費率が90モル%以上に到達した時点で、特定の範囲量のポリハロ芳香族化合物を添加して反応させた後、更に特定の範囲量のスルフィド化剤と4,4’−ジクロルベンゾフェノンを添加するという、多段階に重合反応を行うことにより、PASの結晶化時間を飛躍的に速めさせることが可能となり、耐熱性、耐薬品性に優れ、特に射出成型用途等に幅広く利用可能なPASを提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、工程Iで使用し得るジハロ芳香族化合物は、例えば、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド等が挙げられる。
【0011】
また、ジハロ芳香族化合物の適当な選択組み合せによって2種以上の異なる反応単位を含む共重合体を得ることも出来る。具体的な組み合せは特に制限されるものでなく、上記したジハロ芳香族化合物の中から任意に選択した2種以上のものを適宜組み合わせることが出来るが、具体的には、p−ジクロルベンゼンと4,4’−ジクロルベンゾフェノン又は4,4’−ジクロルジフェニルスルホンとを組み合わせて使用することが種々の物性に優れたポリアリーレンスルフィドが得られるので特に好ましい。
【0012】
本発明における工程Iでのジハロ芳香族化合物の使用量は、使用するスルフィド化剤中の硫黄源1モル当たり0.8〜1.3モルの範囲が好ましく、特に好ましくは0.9〜1.1モルの範囲である。ジハロ芳香族化合物の使用量がこの範囲であれば、物性の優れた高分子量のPASを得ることが可能である。
【0013】
本発明の工程IIにおいて使用し得るポリハロ芳香族化合物は、特に制限されるものではないが、例えば、工程Iで挙げた種類のジハロ芳香族化合物の他に、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレンなどのように1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を所望に応じて用いてもよい。これらの中でも1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼンが好適に使用され、特に好ましくは、1,2,4−トリハロベンゼンである。また、ここで、各ポリハロ芳香族化合物は、芳香環上の置換基として炭素原子数1〜18のアルキル基を有するものも好ましく使用出来る。また、上記の各ポリハロ芳香族化合物が有するハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0014】
本発明における工程IIIでの4,4’−ジハロベンゾフェノンの使用量は、使用するスルフィド化剤中の硫黄源1モル当たり0.8〜1.3モルの範囲が好ましく、特に好ましくは0.9〜1.1モルの範囲である。4,4’−ジハロベンゾフェノンの使用量がこの範囲であれば、物性の優れた高分子量のPASを得ることが可能である。
【0015】
工程I及び工程IIIにおいて使用し得るスルフィド化剤は、特に制限されるものではなく、アルカリ金属硫化物の無水物又は含水物又は水溶液として用いることが出来、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウムおよび硫化セシウム、又はこれらの水和物等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。上記アルカリ金属硫化物の中でも、反応性に優れる点から硫化ナトリウムと硫化カリウムが好ましく、中でも硫化ナトリウムが特に好ましい。
【0016】
また、これらアルカリ金属硫化物は、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応容器内で事前に反応させることによっても得られるが、反応系外で調製されたものを用いてもよい。ここで、アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、中でも水酸化リチウムと水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましく、中でも水酸化ナトリウムが特に好ましい。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物は共に、固体状態でも液体状態でも溶融状態などどのような形態で反応に用いてもよく、特に制限はない。
【0017】
尚、通常、硫化アルカリ金属中に微量存在する水硫化アルカリ金属、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量の水酸化アルカリ金属を加えても差し支えない。
【0018】
アルカリ金属水硫化物は、特に制限されるものではなく、アルカリ金属水硫化物の無水物又は含水物又は水溶液として用いることが出来る。アルカリ金属水硫化物としては、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム及び水硫化セシウム、またはこれらの水和物等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0019】
本発明の工程Iから工程IIIにおいて用いられる有機極性溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する)、N−シクロヘキシルピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸のアミド尿素、及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物などを挙げることが出来る。これらの有機極性溶媒の中でも、N−メチル−2−ピロリドンはスルフィド化剤の反応性を向上させる点から特に好ましい。
【0020】
本発明における有機極性溶媒の使用量は、使用する溶媒の種類及び系内の溶媒に対する水分量によって異なるため、特に制限されるものではないが、反応系を攪拌可能な状態に維持するためには、重合に用いる有機極性溶媒の使用量はスルフィド化剤中の硫黄源1モル当り1.0〜6.0モルとなる範囲であることが好ましく、スルフィド化剤中の硫黄源1モル当り2.5〜4.5モルの範囲がより好ましい。
【0021】
本発明の工程I〜工程IIIの重合条件としては、特に制限されるものではないが、副反応を抑制するためには比較的低温で反応させることが望ましく、好ましくは200〜300℃の範囲、より好ましくは220〜260℃の範囲の比較的低温で反応させることが望ましい。
【0022】
本発明の工程IIにおいて、ポリハロ芳香族化合物の添加時期は、ポリマーの分子末端にポリハロ芳香族化合物を導入する目的から、反応が実質的に完了した後が好ましく、即ち、スルフィド化剤の消費率が90モル%以上の段階での添加が好ましく、特に好ましくはスルフィド化剤の消費率が93モル%以上の段階である。スルフィド化剤の消費率が90モル%以上の段階でポリハロ芳香族化合物を添加することにより、一層顕著に分子末端にポリハロ芳香族化合物を導入することが出来る。尚、ここで言う「スルフィド化剤の消費率」とは、ある時点でのスルフィド化剤物の残存量と仕込量の割合から導かれるものである。
【0023】
工程IIにおいて使用し得るポリハロ芳香族化合物の使用量は、工程Iで仕込んだスルフィド化剤中の硫黄源に対して0.01〜10モル%の範囲となることが好ましく、特に好ましくは0.1〜5モル%の範囲である。工程IIでのポリハロ芳香族化合物の使用量がこのような範囲内にあるならば、ポリハロ芳香族化合物を分子末端に導入することが出来、工程IIIでこの分子末端を基点に効果的に再反応を起こすことが可能となる。
【0024】
工程IIの終了時期は、添加したポリハロ芳香族化合物の消費率が50モル%以上の段階が好ましく、特に好ましくはポリハロ芳香族化合物の消費率が100モル%に到達した段階である。
【0025】
前記工程IIIにおいて使用し得るスルフィド化剤及び、4,4’−ジハロベンゾフェノンの使用量は、工程Iのスルフィド化剤の仕込量に対して、それぞれ0.1〜10モル%の範囲が好ましく、より好ましくは1.0〜9モル%の範囲である。この範囲であるならば、効率的に分子末端にアリーレンチオエーテルケトンセグメントを導入することが出来、結晶化が速められたPASを得ることが可能となる。
【0026】
工程IIIでの4,4’−ジハロベンゾフェノンの使用量は、工程IIIで使用するスルフィド化剤中の硫黄源1モル当たり0.8〜1.3モルの範囲が好ましく、特に好ましくは0.9〜1.1モルの範囲である。
【0027】
また、工程I〜工程IIの反応で使用する反応容器は、特に限定されるものではないが、接液部がチタンあるいはクロムあるいはジルコニウム等で作られた耐腐食性にすぐれた反応容器を用い、また、何れの反応においても、不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。使用する不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられ、中でも経済性及び取扱いの容易さの面から窒素が好ましい。
【0028】
重合反応にて得られたPASを含有する反応混合物は、常圧または減圧下での濾濾などにより液体と固体を分離して液体部より溶媒を回収し、固体部より食塩などの複生成物や未反応原料などを除去する為、水洗や溶剤洗浄を繰り返して行い最後に乾燥してPASを取り出す事が通常行われる。
【0029】
具体的な重合反応後のPASを含む反応混合物の後処理方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
(1) 重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥してPASを分離して取り出す方法。
【0030】
(2) 重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(行程Iに使用した有機極性溶媒に可溶であり、且つ少なくともPASに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PASや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾過してPASを含む固形分を分離し、洗浄、乾燥してPASを分離、取得する。
【0031】
(3) 重合反応終了後、反応混合物に最初に加えたのと同じ有機極性溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて攪拌した後、濾過して低分子量重合体、有機極性溶剤とその溶解物を除いた後、PASの入った固形物を水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をしてPASを取り出す方法。
【0032】
尚、前記(1)〜(3)に例示したような後処理方法において、PASの乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよく、特に限定はしない。
【0033】
この様にして得られたPASは、そのまま各種成形材料等に利用可能であるが、空気あるいは酸素富化空気中あるいは減圧条件下で熱処理することにより、粘度を上昇させることが可能であり、必要に応じてこのような増粘操作(通常、このような操作を「架橋」という。)を行なった後、各種成形材料等に利用してもよい。
【0034】
この架橋温度は、目標とする架橋処理時間や処理する雰囲気によっても異なるので一概に規定出来ないが、通常は180℃以上で行われる。
【0035】
また、架橋を押出機等で行う場合、PASの融点以上の溶融状態で行ってもよいが、PASの熱劣化を避ける為、融点プラス100℃以下で行うことが好ましい。
【0036】
以上詳述した本発明の製造方法によって得られたPASは、後述する、添加剤やその他の合成樹脂を組み合わせて組成物として、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形の如き成形方法により、耐熱性、加工性、寸法安定性等に優れた成形物に加工することが出来るが、シランカップリング剤と組み合わせて使用することにより、成型品の靱性を飛躍的に向上させることが出来る。
【0037】
ここで使用し得るシランカップリング剤は、特に制限されるものではないが、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、エポキシシクロヘキシルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることが出来る。
【0038】
上記のシランカップリング剤の使用量は、特に制限されるものではないが、通常は成型品の靱性改善効果が顕著である点からPASに対して、0.01〜2重量%となる割合が好ましい。
【0039】
また、前記PASは、更に強度、耐熱性、寸法安定性等の性能を改善するために、本発明の目的を損なわない範囲で各種充填材と組み合わせて使用することも出来る。本発明で用いられる充填材としては、特に制限されるものではないが、例えば、繊維状充填材、無機充填材等が挙げられる。繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化珪素繊維、硫酸カルシウム繊維、珪酸カルシウム繊維、及びウォラストナイト繊維等の繊維が使用出来る。また無機充填材としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、バイロフェライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、アタルパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等が使用出来る。
【0040】
また、成形加工の際に添加剤として本発明の目的を逸脱しない範囲で離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤等の各種添加剤を含有せしめることが出来る。
【0041】
更に、同様に下記のような合成樹脂及びエラストマーを混合して使用出来る。前記合成樹脂としては、特に制限されるものではないが、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられ、またエラストマーとしては、特に制限されるものではないが、ポリオレフィン系ゴム、弗素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0042】
本発明のPASの製造方法で得られるPAS及びシランカップリング剤とを含有する組成物は、PASの本来有する耐熱性、寸法安定性等の諸性能も具備しているので、例えば、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車部品、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの精密部品等の射出成形若しくは圧縮成形、若しくはコンポジット、シート、パイプなどの押出成形、又は引抜成形などの各種成形加工用の材料として、或いは繊維若しくはフィルム用の材料として幅広く有用である。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を実施例と比較例により、一層、具体的に説明する。尚、部及び%は、特にことわりのない限り、全て重量基準である。
【0044】
〔溶融粘度の測定方法〕
溶融粘度ηは、高化式フローテスターを用いて、300℃、剪断速度100sec-1、ノズル孔径0.5mm、長さ1.0mmで測定した。
【0045】
〔結晶化温度の測定方法〕(結晶化速度の判定)
結晶化温度は、示差走査型熱量計を用いて、窒素雰囲気中、350℃にて3分間溶融後、20℃/分のスピードで120℃まで冷却する。結晶化時の発熱ピークの頂点温度を結晶化温度として求めた。即ち、結晶化速度の差は結晶化温度の差として出てくる事になり、結晶化温度の高い方が、結晶化速度が速いことになる。
【0046】
実施例1
(工程I)温度センサー、冷却塔、滴下槽、滴下ポンプを連結した攪拌翼付チタンライニングステンレス製4Lオートクレーブに、硫化ナトリウム水和物(以下Na2S・XH2Oと略す)804.2g(5.0モル)と、N−メチル−2−ピロリドン1487g(15モル)を室温で仕込み、攪拌しながら窒素雰囲気下で205℃まで昇温して、水315.0gを留出させた。その後、p−ジクロルベンゼン(以下p−DCBと略す)735.0g(5.0モル)とNMP496g(5モル)の混合溶液を系内に添加し、220℃まで昇温した。220℃で3時間攪拌した後、250℃まで昇温し、1時間攪拌した。スルフィド化剤の残存量を測定して、スルフィド化剤の消費率が95%である事を確認した。
(工程II)次いで、1,2,4−トリクロルベンゼン(以下1,2,4−TCBと略す)4.54g(0.025モル)とNMP5.0gの混合液を系内に添加し、250℃で1時間攪拌した。
(工程III)次いで、Na2S・XH2O8.04g(0.05モル)と4,4’−ジクロルベンゾフェノン(以下、4,4’−DCBPと略す)12.56g(0.05モル)を系内に添加し、250℃で1時間攪拌した。
【0047】
冷却後、得られたスラリーを20リットルの水に注いで80℃で1時間攪拌した後、濾過した。このケーキ(濾取物)を再び5リットルの湯で1時間攪拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返し、濾過後、熱風乾燥機内で120℃で一晩乾燥して粉末状物を得た。得られたポリマーの溶融粘度は58Pa・sであった。その結果を表1に示した。
【0048】
実施例2
工程IIIにおいて、Na2S・XH2O40.21g(0.25モル)と4,4’−DCBP62.78g(0.25モル)にした以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたポリマーの溶融粘度は57Pa・sであった。その結果を表1に示した。
【0049】
比較例1
工程IIIを省略した以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたポリマーの溶融粘度は53Pa・sであった。その結果を表1に示した。
【0050】
比較例2
工程Iにおいて、Na2S・XH2O40.21g(0.25モル)と4,4’−DCBP62.78g(0.25モル)をp−DCBと同時に添加した以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたポリマーの溶融粘度は12Pa・sであった。その結果を表1に示した。
【0051】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルフィド化剤とジハロ芳香族化合物とを有機極性溶媒中で仕込んだスルフィド化剤の消費率が90モル%以上に到達した時点まで反応させる工程I、得られた工程Iの反応液に下記一般式[1]のポリハロ芳香族化合物を添加して反応する工程II、及び、得られた工程IIの反応液にスルフィド化剤と4,4’−ジハロベンゾフェノンとを添加し反応してポリアリーレンスルフィド樹脂を得る工程IIIからなることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【化2】

(一般式[1]中、Xはハロゲン原子、Rは水素原子またはアルキル基を示し、nは3〜6の整数で、且つ、n+m=6である。)
【請求項2】
前記工程IIにおけるポリハロ芳香族化合物の添加量が、工程Iで仕込んだスルフィド化剤の硫黄源の0.01〜10モル%の範囲である請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記工程IIIにおけるスルフィド化剤及び4,4’−ジハロベンゾフェノンの添加量が、工程Iのスルフィド化剤の仕込量に対して、それぞれ独立に0.1〜10モル%の範囲である請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2006−16567(P2006−16567A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197944(P2004−197944)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】