説明

ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法

【課題】 溶融時の流動性が良好で、且つ得られるポリアリーレンスルフィド樹脂を著しく高分子量化できるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】 固形のアルカリ金属硫化物の存在下で、芳香族ジハロゲン化合物と、アルカリ金属水硫化物および脂肪族環状構造を有する化合物の加水分解物のアルカリ金属塩とを有機極性溶媒中で反応させ、反応の終点に近い時期に芳香族ポリハロゲン化合物を添加して重合反応を行うこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融成型時の流動性に優れ、かつ高い靭性を有し自動車部品用途等に幅広く利用可能なポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気または電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。これらの各用途では、強度や成型性といった観点から、近年、特に高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂の要求が高い。しかしながら、高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂は、低分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した後、これを熱酸化架橋させて製造するものが一般的であるものの、このような熱酸化架橋して高分子量化したポリアリーレンスルフィド樹脂は、通常、溶融押出成形が困難であり、用途が制限されてしまうものであった。
【0003】
一方、重合段階で高分子量化して線状高分子ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法として、例えば、含水アルカリ金属硫化物、該含水アルカリ金属硫化物1モル当たり1モル未満のN−メチルピロリドン、及び、芳香族ポリハロゲン化合物を混合し、該混合物を共沸脱水することで微粒子状の無水アルカリ金属硫化物を含むスラリー状の組成物を得、次いで、これを加熱して重合させることでポリアリーレンスルフィド樹脂を生産効率よく線状高分子ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法が知られている(特許文献1参照)。
しかしながら、前記方法は副反応を抑制できて副生不純物の含有量の少ない、線状高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造することが可能であるものの、原料成分をスラリー状態で反応させる不均一系反応で重合させるために、微粒子状の無水アルカリ金属硫化物と芳香族ポリハロゲン化合物との反応が効率的に進行せず、近年求められている高分子量化のレベルには至らないものであった。
【0004】
また、重合により高分子量化する別の方法として、スルフィド化剤と芳香族ポリハロゲン化合物とを有機極性溶媒中で反応させるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、スルフィド化剤と芳香族ジハロゲン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、次いで、反応開始前に仕込んだスルフィド化剤の消費率が90モル%以上に到達した時点で、トリクロルベンゼンを添加し重合させる方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、上記した方法によれば含水率の高い有機極性溶媒中で反応を行うため副反応が多量に進行し、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂の分子量は低く、やはり近年求められている高分子量化のレベルには至らないものであった。
【特許文献1】特開平8−231723号公報
【特許文献2】特開2002−212292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、溶融時の流動性が良好で、且つ得られるポリアリーレンスルフィド樹脂を著しく高分子量化できるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、固形のアルカリ金属硫化物の存在下で、芳香族ジハロゲン化合物と、アルカリ金属水硫化物および脂肪族環状構造を有する化合物の加水分解物のアルカリ金属塩とを有機極性溶媒中で反応させ、反応の終点に近い時期に芳香族ポリハロゲン化合物を添加して重合反応を行うことにより従来になく高分子量化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、芳香族ジハロゲン化合物(A)、固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)、加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)の加水分解物のアルカリ金属塩(c1)を含有するスラリー状の混合物を、
工程1:前記芳香族ジハロゲン化合物(A)のモル数に対する、前記固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]のモル比{[(b1)+(b2)]/(A)}が0.8〜1.2となる割合で反応させ、
工程2:次いで、工程1における反応開始時の芳香族ジハロゲン化合物(A)のモル数に対する、反応系内の前記固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]のモル比{[(b1)+(b2)]/(A)}が0.1以下となった後に、1分子中にハロゲン原子を3個〜6個有する芳香族ポリハロゲン化合物(d)を反応系内に加え反応させる
ことを特徴とするポリアリ−レンスルフィド樹脂の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶融時の流動性が良好で、且つ得られるポリアリーレンスルフィド樹脂を著しく高分子量化できるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法を提供できる。従って、本発明の製造方法によって製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂は機械的物性および耐衝撃性に優れた高い靭性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、先ず、芳香族ジハロゲン化合物(A)、固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)、加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)の加水分解物のアルカリ金属塩(c1)を含有するスラリー状の混合物を得、工程1ではこのスラリー状態のまま反応を開始させることを特徴としている。
この際、反応開始時、スラリー状の反応系は前記芳香族ジハロゲン化合物(A)のモル数に対する、前記固形アルカリ金属硫化物(b1)及びアルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]のモル比{[(b1)+(b2)]/(A)}が0.8〜1.2となる割合である必要があり、このようなモル比率になるよう適宜該スラリー内に各原料成分を加え調節することが望ましい。
【0011】
前記したスラリー状の混合物は、例えば市販の固形のアルカリ金属硫化物を用い、所定の各種成分と配合してスラリー化する方法や、含水アルカリ金属硫化物を、芳香族ジハロゲン化合物(A)、加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)、及び必要によりアルカリ金属水酸化物を混合、脱水させる方法により調整することができるが、本発明では、芳香族ジハロゲン化合物(A)、含水アルカリ金属水硫化物(B)、加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)、及びアルカリ金属水酸化物を反応系内を脱水し乍ら反応させることにより、固形アルカリ金属硫化物(b1)を析出させて得られるものであることが、前記スラリーの調整が容易であり、副反応抑制によるポリアリーレンスルフィド樹脂の高分子量化の効果が顕著なものとなる点から好ましい。
【0012】
このスラリー調整時の脱水反応は、下記式(1)に示す通り、脱水処理によって含水アルカリ金属水硫化物(B)に含まれる水を除去すると共に、加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)が加水分解し、同時にアルカリ金属水硫化物(b2)を形成する工程である。
【0013】
【化1】

ここで、式(1)中、x及びyは(x+y)が0.1〜30を満足する数、zはMSH・xHOに対して当量未満、好ましくは0.01〜0.9であり、Mはアルカリ金属原子、Xは前記化合物(C)、X’はその加水分解物を表す。
【0014】
この脱水反応において、加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)の加水分解に供された水は、工程1において、芳香族ジハロゲン化合物(A)とアルカリ金属水硫化物(b2)との反応後、前記化合物(C)の加水分解物が閉環して該化合物(C)に戻る際、反応系内に放出され、次いで、スラリー中の固形分であるアルカリ金属硫化物を溶解させ、アルカリ金属水硫化物(b2)と前記化合物(C)の加水分解物に変換させる。
【0015】
従って、前記脂肪族環状構造を有する化合物(C)の仕込み量を調整することで、反応系内の固形アルカリ金属硫化物(b1)の量、及びアルカリ金属水硫化物(b2)の量を調節することができる。具体的には、含水アルカリ金属水硫化物(B)1モルに対して加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)を0.01〜0.9モルとなる割合で使用することにより、固形アルカリ金属硫化物(b1)の析出が適正量となることに加え、工程1のポリアリーレンスルフィド樹脂の重合時における副反応を抑制、ポリアリーレンスルフィド樹脂をより高分子量化できる点から好ましく、特に高分子量化の効果が顕著なものとなる点から含水アルカリ金属水硫化物(B)1モルに対して加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)を0.04〜0.4モルとなる割合で用いることが好ましい。
【0016】
ここで使用し得る前記した加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)は、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記する。)、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ε−カプロラクタム、N−メチル−ε−カプロラクタム、等の環状アミド類または環状尿素類、スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類が挙げられる。これらの中でも本発明では特にNMPが好ましい。
【0017】
この脱水反応において用いられる芳香族ジハロゲン化合物(A)の使用量は、スラリーの流動性が良好となり、かつ、工程1における反応性や重合性に優れる点から含水アルカリ金属水硫化物(B)1モル当たり、0.2〜5.0モルの範囲が好ましく、特に0.3〜2.0モルの範囲が好ましい。芳香族ジハロゲン化合物(A)は、この脱水反応に続く工程1のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程でそのまま使用でき、当該工程1において必要量に達していない場合には、工程1の反応時に適宜追加すればよい。
【0018】
この脱水反応で用いる含水アルカリ金属水硫化物(B)は、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム及び水硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は10〜80質量%であることが好ましい。これらの中でも水硫化リチウムの含水物と水硫化ナトリウムの含水物が好ましく、特に水硫化ナトリウムの含水物が好ましい。
【0019】
一方、前記アルカリ金属水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの水溶液が挙げられる。なお、該水溶液を用いる場合には、濃度20質量%以上の水溶液であることが脱水処理が容易である点から好ましい。これらの中でも特に水酸化リチウムと水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量は、固形のアルカリ金属硫化物の生成が促進される点から、含水アルカリ金属水硫化物(B)1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより好ましい。
【0020】
また、ここで用いられる芳香族ジハロゲン化合物(A)は、例えば、p−ジハロゲン化ベンゼン、m−ジハロゲン化ベンゼン、o−ジハロゲン化ベンゼン、2,5−ジハロゲン化トルエン、1,4−ジハロゲン化ナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロゲン化ベンゼン、4,4’−ジハロゲン化ビフェニル、3,5−ジハロゲン化安息香酸、2,4−ジハロゲン化安息香酸、2,5−ジハロゲン化ニトロベンゼン、2,4−ジハロゲン化ニトロベンゼン、2,4−ジハロゲン化アニソール、p,p’−ジハロゲン化ジフェニルエーテル、4,4’−ジハロゲン化ベンゾフェノン、4,4’−ジハロゲン化ジフェニルスルホン、4,4’−ジハロゲン化ジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロゲン化ジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0021】
前記した芳香族ジハロゲン化合物(A)の中でも、線状高分子量PAS樹脂を効率的に製造でき、とりわけ最終的に得られるPAS樹脂の機械的強度や成形性が良好となる点からp−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン及び4,4’−ジクロロジフェニルスルホンが好ましく、特にp−ジクロロベンゼンが好ましい。
【0022】
その他、芳香族ジハロゲン化合物(A)の適当な選択組合せによって2種以上の異なる反応単位を含む共重合体を得ることもでき、例えばp−ジクロルベンゼンと4,4’−ジクロルベンゾフェノン又は4,4’−ジクロルジフェニルスルホンとを組み合わせて使用することが耐熱性に優れたポリアリーレンスルフィドが得られるので特に好ましい。
【0023】
前記脱水反応を行う具体的方法は、加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)、芳香族ジハロゲン化合物(A)、含水アルカリ金属水硫化物(B)、及びアルカリ金属水酸化物の所定量を反応容器に仕込み、この仕込みとほぼ同時に含水アルカリ金属硫化物を生成させた後、前記含水アルカリ金属硫化物の沸点以上で、かつ、水が共沸により除去される温度、具体的には80〜200℃未満の範囲、好ましくは100〜190℃の範囲にまで加熱して脱水する方法が挙げられる。
【0024】
また、脱水初期の反応系内は、芳香族ジハロゲン化合物(A)と溶融した含水アルカリ金属硫化物との2層になっているが、脱水が進行するとともに無水の固形アルカリ金属硫化物(b1)が微粒子状となって析出し、芳香族ジハロゲン化合物(A)中に均一に分散する。さらに、反応系内の加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)のほぼ全てが加水分解するまで継続して脱水処理を行う。
【0025】
前記脱水反応後の反応系内の水分量は極力少ない方が副反応を抑制してよりポリアリーレンスルフィド樹脂の高分子量化を図ることができる点から好ましく、具体的には、最終的に得られるスラリー中の固形アルカリ金属硫化物(b1)の含有量が、前記脱水反応で用いた含水アルカリ金属水硫化物(B)1モル当たり0.4〜0.98モルとなるような
範囲、好ましくは0.6〜0.96モルとなるような範囲であること、特に実質的に水分を含有しないことが好ましい。
【0026】
前記脱水反応に使用し得る装置は、例えば、脱水容器に撹拌装置、蒸気留出ライン、コンデンサ、デカンタ、留出液戻しライン、排気ライン、硫化水素捕捉装置、及び加熱装置を備えた脱水装置が挙げられる。また、前記脱水工程の脱水処理及び工程1の反応乃至重合で使用する反応容器は、特に限定されるものではないが、接液部がチタンあるいはクロムあるいはジルコニウム等で作られた反応容器を用いることが好ましい。
【0027】
前記脱水反応によって得られたスラリーは、次に工程1として芳香族ジハロゲン化合物(A)と、前記アルカリ金属水硫化物(b2)、及び前記化合物(C)の加水分解物のアルカリ金属塩(c1)との反応に供せられる。
【0028】
本発明における工程1は、スラリー状態にある反応系において、芳香族ジハロゲン化合物(A)、アルカリ金属水硫化物(b2)、及び前記化合物(C)の加水分解物のアルカリ金属塩(c1)を反応させて、ポリアリーレンスルフィド樹脂を重合する工程である。
【0029】
工程1の反応においては、下記式(2)に示すように、アルカリ金属水硫化物(b2)1分子と芳香族ジハロゲン化合物(A)の1分子が反応した場合に、該反応に関与した前記化合物(C)の加水分解物が、閉環して水を放出し、ついで、これがスラリー中の固形のアルカリ金属硫化物を溶解させて、再度、アルカリ金属水硫化物(b2)を生成する、というサイクルによって重合が進行していくものである。このように固形アルカリ金属硫化物(b1)が徐々に必要量のアルカリ金属水硫化物(b2)と前記化合物(C)の加水分解物のアルカリ金属塩(c1)とに変換される為、副反応が抑制されることになる。
【0030】
【化2】

【0031】
本発明は、このような前記化合物(c1)の加水分解、それに続く閉環による水の放出というサイクルによって、工程1の反応乃至重合が進行していくため、工程2において改めて水を反応系内に加える必要はないものの、本発明ではスラリー中の固形アルカリ金属硫化物の溶解を促進させる点から、反応系内の潜在的な水分量の総計が、スラリー調整時に用いた含水アルカリ金属水硫化物(B)に対して当量未満、好ましくは当該含水アルカリ金属水硫化物(B)1モルに対して0.02〜0.6モル、更に好ましくは0.04〜0.4モルとなる範囲内となるように加えることが好ましい。
【0032】
また、工程1における反応は、前記した通り、その初期においては、反応系内の水分量は実質的に無水状態となるため、見かけ上反応系内に水は存在せず、スラリー中の固形分が消失した時点で、前記化合物(C)の加水分解も進行しなくなるため、見かけ上、反応内に水が認められる様になる。従って、本発明の工程1では前記芳香族ジハロゲン化合物(A)のモル数に対する、前記固形アルカリ金属硫化物(b1)及びアルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]のモル比{[(b1)+(b2)]/(A)}が0.1の時点における該重合スラリー中の水分量が、実質的に無水状態であることが好ましい。
【0033】
また、工程1における反応乃至重合反応の原料である前記アルカリ金属水硫化物(b2)は、必要により、工程1の任意の段階でアルカリ金属水硫化物(b1)を別途添加してもよい。
【0034】
また、スラリーの固形分を構成する固形アルカリ金属硫化物(b1)中に微量存在するアルカリ金属水硫化物(b2)やチオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えてもよい。
【0035】
工程1の反応及び重合を行う具体的方法は、前記脱水工程を経て得られたスラリーに、必要により、水、芳香族ジハロゲン化合物(A)、前記固形アルカリ金属水硫化物(b1)、有機溶媒を加え、180〜300℃の範囲、好ましくは200〜280℃の範囲で反応乃至重合させることが好ましい。重合反応は定温で行うこともできるが、段階的にまたは連続的に昇温しながら行うこともできる。
【0036】
また、工程1における芳香族ジハロゲン化合物(A)の量は、具体的には、反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより高分子量のポリアリーレンスルフィド樹脂を得られる点から好ましい。
【0037】
工程1の反応乃至重合反応において、更に有機溶媒として前記化合物(C)を加えてもよい。反応内に存在する前記化合物(c1)の総使用量は、特に制限されるものではないが、反応系内に存在する硫黄原子1モル当たり0.6〜10モルとなる様に前記化合物(C)を追加することが好ましく、更にはポリアリーレンスルフィド樹脂のより一層の高分子量化が可能となる点から2.0〜6.0モルの範囲が好ましい。また、重合釜容積当たりの反応体濃度の増加という観点からは、反応系内に存在する硫黄原子1モル当たり1.0〜3.0モルの範囲が好ましい。
【0038】
次に、工程2は、工程1における反応開始時の芳香族ジハロゲン化合物(A)のモル数に対する、反応系内の前記固形アルカリ金属硫化物(b1)及びアルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]のモル比{[(b1)+(b2)]/(A)}が0.1以下となった後に、1分子中にハロゲン原子を3個〜6個有する芳香族ポリハロゲン化合物(d)(以下、「芳香族ポリハロゲン化合物(d)」と略記する。)を反応系内に加え反応させる工程である。本発明ではこの様に工程1の反応が終了する直前、乃至は終了後に反応系に芳香族ポリハロゲン化合物(d)を加えることにより、溶融時の優れた流動性を保持したまま、ポリアリーレンスルフィド樹脂を高分子量化することができる。なかでも、この流動性と、高分子量化に伴う衝撃強度の改善が良好なものとなる点から、反応系内の前記固形アルカリ金属硫化物(b1)及びアルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]のモル比{[(b1)+(b2)]/(A)}が0.01〜0.09となった後であることが好ましく、特に0.07〜0.02の範囲であることが好ましい。
【0039】
工程2において用いられる芳香族ポリハロゲン化合物(d)は、該分子構造中にハロゲン原子を3〜6の範囲で含有するものであり、例えば1,2,3−トリハロゲン化ベンゼン、1,2,4−トリハロゲン化ベンゼン、1,3,5−トリハロゲン化ベンゼン、1,2,3,5−テトラハロゲン化ベンゼン、1,2,4,5−テトラハロゲン化ベンゼン、1,2,3,4,5−ペンタハロゲン化ベンゼン、ヘキサハロゲン化ベンゼン、1,4,6−トリハロゲン化ナフタレンなどのように、1分子中に3個〜6個の範囲のハロゲン置換基を有する芳香族ポリハロゲン化合物が挙げられる。これらの中でも1,2,3−トリハロゲン化ベンゼン、1,2,4−トリハロゲン化ベンゼン、1,3,5−トリハロゲン化ベンゼンが好適に使用され、特に好ましくは、1,2,4−トリハロゲン化ベンゼンである。また、ここで、各芳香族ポリハロゲン化合物は、芳香環上の置換基として炭素原子数1〜18のアルキル基を有するものも好ましく使用出来る。また、上記の各芳香族ポリハロゲン化合物が有するハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0040】
工程2の反応及び重合を行う具体的方法は、工程1に次いで、200〜300℃の範囲、好ましくは220〜260℃の範囲で反応乃至重合させることが好ましい。重合反応は定温で行うこともできるが、段階的にまたは連続的に昇温しながら行うこともできる。
【0041】
また、工程2における芳香族ポリハロゲン化合物(d)の量は、前記固形アルカリ金属硫化物(b1)1モル部に対して0.0001〜0.01モル部の範囲が好ましく、特に0.001〜0.005モル部の範囲がより高分子量のポリアリーレンスルフィド樹脂を得られる点から好ましい。
【0042】
さらに前記工程2において芳香族ポリハロゲン化合物(d)を反応系内に加えた後に、アルカリ金属硫化物(e1)を反応系内に加え重合を行うことが、より高分子量のポリアリーレンスルフィド樹脂を得られる点から好ましい。前記アルカリ金属硫化物(e1)は、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の化合物が挙げられ、これらの中でも硫化リチウム、硫化ナトリウムがより好ましく、特に硫化ナトリウムが好ましい。また、該アルカリ金属硫化物(e1)の添加方法は、例えばフレーク等の固体のままの状態で添加する方法、有機溶媒等に分散させてスラリー状にして添加する方法、水溶液にして添加する方法を挙げることができる。これらの中でも取り扱いが容易であることから水溶液にして添加する方法が好ましい。
【0043】
前記アルカリ金属硫化物(e1)は、工程1の反応開始時における前記固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]に対する前記アルカリ金属硫化物(e1)のモル比{(e1)/[(b1)+(b2)]}が0.0001〜0.01の範囲になるように反応系内に加えることが好ましい。これらの範囲の中でも0.001〜0.005の範囲になるように加えることが特に好ましい。
【0044】
前記アルカリ金属硫化物(e1)を添加する時期は、前記芳香族ポリハロゲン化合物(d)を反応系内に加えた後に、ガスクロマトグラフィー等の分析法によって得られる該芳香族ポリハロゲン化合物(d)のピークが、消失した時点以降に添加されることがより高分子量のポリアリーレンスルフィド樹脂を得られる点から好ましい。
【0045】
また、前記工程2において芳香族ポリハロゲン化合物(d)を反応系内に加えた後に、アルカリ金属水酸化物(e2)を反応系内に加え重合を行うことが、より高分子量のポリアリーレンスルフィド樹脂を得られる点から好ましい。前記アルカリ金属水酸化物(e2)は、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等の化合物が挙げられ、これらの中でも水酸化リチウム、水酸化ナトリウムがより好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。また、該アルカリ金属水酸化物(e2)の添加方法は、例えばフレーク等の固体のままの状態で添加する方法、有機溶媒等に分散させてスラリー状にして添加する方法、水溶液にして添加する方法を挙げることができる。これらの中でも取り扱いが容易であることから水溶液にして添加する方法が好ましい。
【0046】
前記アルカリ金属水酸化物(e2)は、工程1の反応開始時における前記固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]に対する前記アルカリ金属水酸化物(e2)のモル比{(e2)/[(b1)+(b2)]}が0.0001〜0.01の範囲になるように反応系内に加えることが好ましい。これらの範囲の中でも0.001〜0.005の範囲になるように加えることが特に好ましい。
【0047】
前記アルカリ金属水酸化物(e2)を添加する時期は、前記固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]に対する前記アルカリ金属硫化物(e1)のモル比{(e1)/[(b1)+(b2)]}が0.01〜0.1の範囲にある時点で添加されることが好ましい。
【0048】
前記脱水工程の脱水処理及び工程1の反応乃至重合の各工程は、バッチ方式、回分方式あるいは連続方式など通常の各重合方式を採用することができる。また、前記脱水工程、前記工程1または前記工程2何れにおいても、不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。使用する不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられ、中でも経済性及び取扱いの容易さの面から窒素が好ましい。
【0049】
前記重合工程を経て得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、(2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、且つ少なくともPASに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィド樹脂や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法等が挙げられる。
【0050】
尚、上記(1)〜(3)に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0051】
この様にして得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、そのまま各種成形材料等に利用可能であるが、空気あるいは酸素富化空気中あるいは減圧条件下で熱処理を行い、酸化架橋させてもよい。この熱処理の温度は、目標とする架橋処理時間や処理する雰囲気によっても異なるものの、180℃〜270℃の範囲であることが好ましい。また、前記熱処理は押出機等を用いてポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上で、ポリアリーレンスルフィド樹脂を溶融した状態で行ってもよいが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の熱劣化の可能性が高まるため、融点プラス100℃以下で行うことが好ましい。
【0052】
以上詳述した本発明の製造方法によって得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、溶融時の流動性が良好で、且つ著しく高分子量化されており高い靭性を有するものであるので、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形の如き各種溶融加工法により、曲げ試験時の伸びやアイゾット衝撃強度に優れ、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形物に加工することが出来る。
【0053】
また、本発明により得られたPAS樹脂は、更に強度、耐熱性、寸法安定性等の性能を更に改善するために、各種充填材と組み合わせたPAS樹脂組成物として使用することが出来る。充填材としては、特に制限されるものではないが、例えば、繊維状充填材、無機充填材等が挙げられる。繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等の繊維、ウォラストナイト等の天然繊維等が使用出来る。また無機充填材としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、バイロフェライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、アタルパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等が使用出来る。また、成形加工の際に添加剤として離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤等の各種添加剤を含有せしめることが出来る。
【0054】
更に、本発明により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、用途に応じて、適宜、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂、或いは、ポリオレフィン系ゴム、弗素ゴム、シリコーンゴム等のエラストマーを配合したPAS樹脂組成物として使用してもよい。
【0055】
本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の本来有する耐熱性、寸法安定性等の諸性能も具備しているので、例えば、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車部品、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの精密部品等の射出成形若しくは圧縮成形、若しくはコンポジット、シート、パイプなどの押出成形、又は引抜成形などの各種成形加工用の材料として、或いは繊維若しくはフィルム用の材料として幅広く有用である。
【実施例】
【0056】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0057】
(溶融粘度の測定法)
得られた重合体の溶融粘度(η)は、島津製作所製フローテスターを用い、温度300℃、応力1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後に測定した値である。
【0058】
(分子量の測定法)
得られたポリマーの分子量は、センシュー科学製高温ゲルパーミエーションクロマトグラフ(高温GPC)SSC−7000を用いて測定した。測定条件は溶離液:1−クロロナフタレン、温度:210℃、検出器:UV検出器(360nm)、サンプル注入量:200μl(濃度:0.2重量%)、流速1ml/分。なお、分子量はポリスチレン換算で算出し、分子量分布のピークトップの位置における分子量(以下「Mp」と略記する。)重量平均分子量(以下「Mw」と略記する。)Mwで比較を行った。
【0059】
実施例1
(脱水工程:無水硫化ナトリウムの製造工程)
圧力計、温度計、コンデンサ−、デカンタ−を連結した撹拌翼付きジルコニウムライニングの1リットルオートクレーブにp−ジクロロベンゼン(以下、「p−DCB」と略記する。)220.5g(1.5モル)、NMP29.7g(0.3モル)、47.43質量%NaSH水溶液177.29g(1.5モル)、及び48.71質量%NaOH水溶液123.18g(1.5モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで2時間掛けて昇温して、水177.98gを留出させた後、釜を密閉した。その際、共沸により留出したp−DCBはデカンタ−で分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後の釜内は微粒子状の無水硫化ナトリウムがDCB中に分散した状態であった。
【0060】
(重合工程:PPSの製造工程)
(工程1)上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP267.65g(2.7モル)を仕込み、230℃まで昇温し、230℃で5時間撹拌した後、250℃まで40分で昇温し、250℃で1時間撹拌した。この時点でのスルフィド化剤の消費率は95.0%であった。
(工程2)前記スルフィド化剤の消費率が95.0%になった時点で1,2,4−トリクロルベンゼン(以下「1,2,4−TCB」と略す)0.436g(0.0024モル)とNMP5.0gの混合液を系内に添加し、250℃で30分撹拌した。
(工程3)次いで、20質量%Na2S水溶液0.468g(0.0012モル)を系内に添加し、250℃で30分撹拌した。最終圧力は0.40MPaであった。
冷却後、得られたスラリーを3リットルの水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返し、濾過後、熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPS154gを得た。このポリマーの溶融粘度は730Pa・s、Mpは56600、Mwは57200、Mw/Mp=1.01であった。
【0061】
実施例2
前記工程3において、20質量%Na2S水溶液の代わりに48.71質量%NaOH水溶液0.197g(0.0024モル)を使用した以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたポリマーの溶融粘度は814Pa・s、Mpは57100、Mwは57700、Mw/Mp=1.01であった。
【0062】
実施例3
前記工程2において、1,2,4−TCBの代わりに1,3,5−トリクロルベンゼン(以下「1,3,5−TCB」と略す)0.817g(0.0045モル)を使用し、前記工程3において、20質量%Na2S水溶液1.756g(0.0045モル)を使用した以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたポリマーの溶融粘度は2011Pa・s、Mpは58500、Mwは64400、Mw/Mp=1.10であった。
【0063】
実施例4
前記工程1において、230℃で5時間撹拌した後、250℃まで40分で昇温し、250℃で30分撹拌した。この時点でのスルフィド化剤の消費率は94.7%であった。前記工程3を省略した以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたポリマーの溶融粘度は642Pa・s、Mpは54800、Mwは57000、Mw/Mp=1.04であった。
【0064】
比較例1
前記重合工程において工程2および工程3を省略した以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたポリマーの溶融粘度は202Pa・s、Mpは45000、Mwは44100、Mw/Mp=0.98であった。
比較例2
前記重合工程において工程1において、1,2,4−TCB0.436g(0.0024モル)をNMP267.65g(2.7モル)と同時に仕込み、工程2、工程3を省略した以外は実施例1と同じ操作を行った。得られたポリマーの溶融粘度は1540Pa・s、Mpは46800、Mwは58000、Mw/Mp=1.24であった。
比較例3
(脱水工程および工程1)温度センサー、冷却塔、滴下槽、滴下ポンプを連結した撹拌翼付チタンライニングステンレス製4Lオートクレーブに、硫化ナトリウム水和物804.2g(5.0モル)と、NMP1983g(20モル)を室温で仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で205℃まで昇温して、水315.0gを留出させた。その後、反応系を密閉し、更に220℃まで昇温し、p−DCB735.0g(5.0モル)を滴下し、220℃で3時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。
(工程2)次いで、1,2,4−TCB4.54g(0.025モル)とNMP5.0gの混合液を系内に添加し、250℃で1時間撹拌した。
(工程3)次いで、硫化ナトリウム水和物2.01g(0.0125モル)とNMP5.0gの混合液を系内に添加し、250℃で1時間撹拌した。
【0065】
冷却後、得られたスラリーを20リットルの水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキ(濾取物)を再び5リットルの湯で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返し、濾過後、熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPSを508g得た。得られたポリマーの溶融粘度は108Pa・s、Mpは36200、Mwは36900、Mw/Mp=1.02であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジハロゲン化合物(A)、固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)、加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)の加水分解物のアルカリ金属塩(c1)を含有するスラリー状の混合物を、
工程1:前記芳香族ジハロゲン化合物(A)のモル数に対する、前記固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]のモル比{[(b1)+(b2)]/(A)}が0.8〜1.2となる割合で反応させ、
工程2:次いで、工程1における反応開始時の芳香族ジハロゲン化合物(A)のモル数に対する、反応系内の前記固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]のモル比{[(b1)+(b2)]/(A)}が0.1以下となった後に、1分子中にハロゲン原子を3個〜6個有する芳香族ポリハロゲン化合物(d)を反応系内に加え反応させる
ことを特徴とするポリアリ−レンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
工程2において、芳香族ポリハロゲン化合物(d)を反応系内に加えた後に、アルカリ金属硫化物(e1)を反応系内に加え重合を行う請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属硫化物(e1)の使用量が、工程1の反応開始時における前記固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]に対するモル比{(e1)/[(b1)+(b2)]}が0.0001〜0.01の範囲にある請求項2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項4】
工程2において、芳香族ポリハロゲン化合物(d)を反応系内に加えた後に、アルカリ金属水酸化物(e2)を反応系内に加え、重合を行う請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項5】
アルカリ金属水酸化物(e2)の使用量が、工程1の反応開始時における前記固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)の合計モル数[(b1)+(b2)]に対するモル比{(e2)/[(b1)+(b2)]}が0.0001〜0.01の範囲にある請求項4記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項6】
工程1で用いる、芳香族ジハロゲン化合物(A)、固形アルカリ金属硫化物(b1)、アルカリ金属水硫化物(b2)、加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)の加水分解物のアルカリ金属塩(c1)を含有するスラリー状の混合物が、芳香族ジハロゲン化合物(A)、含水アルカリ金属水硫化物(B)、加水分解によって開環し得る脂肪族環状構造を有する化合物(C)、およびアルカリ金属水酸化物を、反応系内を脱水し乍ら反応させて得られるものである請求項1〜5の何れか1つに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2008−239767(P2008−239767A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81387(P2007−81387)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】