説明

ポリアリーレンスルフィド酸化物ナノファイバーおよびそれからなるペーパー

【課題】 優れた耐熱性と耐薬品性を有するPPSOナノファイバーおよびPPSOナノファイバーからなる電気絶縁性に優れたペーパーを提供する。
【解決手段】 繊維径が0.0001μm以上0.3μm以下であり、かつ、示差走査熱量計(DSC)の測定において融解ピークが実質的に認められないことを特徴とするPPSOナノファイバーおよびこのPPSOナノファイバーを含有することを特徴とするペーパー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド酸化物ナノファイバー、および、それからなる、紙中の粗大空隙やピンホールをほとんど有しない耐熱性、耐薬品性に優れたペーパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド繊維(PPS繊維)は、耐熱性、耐薬品性に優れた繊維として、広く知られている。また、従来、PPS繊維を酸化処理して、ポリアリーレンスルフィド酸化物繊維(PPSO繊維)を得ることが提案されている(特許文献1、2参照)。PPSO繊維は、PPS繊維に比較して、耐熱性に優れ、耐薬品性、特に耐酸性に優れ、さらには熱溶融しない優れた点を有する繊維である。ところが、上記の従来技術においては、PPSO繊維を用いたシート状物に関する記載はあるものの、電気絶縁材などで使用されるペーパー用途に好適であることに関しては何ら示されていない。
【0003】
また、ポリフェニレンスルフィド・ナノファイバーからなる、紙中の粗大空隙やピンホールをほとんど有しない耐熱性、耐薬品性に優れた紙、およびその原料となるトウおよび短繊維束およびパルプおよび液体分散体に関するものも従来提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、湿式抄紙法による不織布について記載されているものの、電気絶縁材用途などについては何ら示されておらず、さらに、ポリフェニレンスルフィド繊維を越える耐熱性を有するPPSO繊維についても何ら示されていない。
【0004】
モーターや変圧器などで使用される電気絶縁材には、セルロースからなるペーパーなど、湿式抄紙で製造されるペーパーが多く使用されている。特に高温下で使用される電気絶縁材には、メタアラミドからなるペーパーが多く使用されている。この高温下で使用されるペーパーは、耐熱性や耐薬品性が要求されるので、PPS繊維からなるペーパーは、基本性能としては好適な材料である。ところが、PPS繊維からなるペーパーは、高温下で使用される電気絶縁材料には未だ使用されていない。何故なら、電気絶縁材用のペーパーには電気絶縁性を向上させるために、緻密でポアサイズの小さいペーパーの構造が必要であり、さらに高温環境下でのピンホール発生などによる絶縁性低下を防ぐために実質的に融点を有さないポリマーの使用が必要であった。すなわち、融点を持つPPS繊維およびPPSからなるナノファイバーを用いても本発明の目的である高性能な電気絶縁性を示さないという問題があった。さらに、単純にPPSO繊維を用いても大きなポアサイズが発生してしまうのである。
【0005】
このように、従来知られていた技術では緻密なポアサイズの小さいペーパーを得ることは困難であった。
【特許文献1】特開昭53−182413号公報
【特許文献2】特開平03−260177号公報
【特許文献3】特開2004−162244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、前記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、PPSOナノファイバー、およびその耐熱性と耐薬品性を利用したペーパーであって、しかも、緻密でポアサイズの小さいペーパーを提供することにある。さらには、PPSO繊維製ペーパーの耐熱性と耐薬品性を利用した電気絶縁材に好適な耐熱性ペーパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下のような構成をとることを特徴とする。すなわち、
(1)繊維径が0.0001μm以上0.3μm以下であり、かつ、示差走査熱量計(DSC)の測定において融解ピークが実質的に認められないことを特徴とするポリアリーレンスルフィド酸化物ナノファイバー。
(2)繊維長が10mm以下であることを特徴とする前記(1)記載のポリアリーレンスルフィド酸化物ナノファイバー。
(3)前記(1)または(2)記載のポリアリーレンスルフィド酸化物ナノファイバーを少なくとも一部に含有することを特徴とするペーパー。
(4)繊維長10mm以下、繊維径10μm以上30μm以下のポリアリーレンスルフィド酸化物ファイバーを含有することを特徴とする前記(3)記載のペーパー。
(5)前記ポリアリーレンスルフィド酸化物ナノファイバーが30〜70重量%、ポリアリーレンスルフィド酸化物ファイバーが70〜30重量%からなることを特徴とする前記(4)記載のペーパー。
から構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性と耐薬品性に優れたポリアリーレンスルフィド酸化物ナノファイバー、およびそれからなるペーパーだけでなく、優れた高密度ペーパー、電気絶縁材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、さらに本発明について詳述する。
【0010】
本発明において、上記課題を達成するためのポイントは以下のとおりである。すなわち、PPS繊維は叩解をしても、熱可塑性であり、柔軟性を有するため繊維断面が変形して潰れるだけで、分枝構造もしくはフィブリル構造を有するパルプ状態にはならないが、本発明者らは、あらかじめPPS繊維をナノファイバーまたはその前駆体としたのちに、酸化処理して実質的に融点を持たないPPSOナノファイバーとすることによりパルプ代替材料となり得ることを知見したのである。
【0011】
本発明において、PPSOとは、
下記一般式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(R”は、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、分子間のR”同士が互いに連結して架橋構造を形成していてもよい。またR”はPPSOからなるポリマー鎖でもよい。R'”はPPSOからなるポリマー鎖を示し、mは0〜3のいずれかの整数を表す。また、Xは0、1、2のいずれかを表す。)で示される繰り返し単位からなるポリマー、または、主要構造単位としての上記繰り返し単位と、上記繰り返し単位1モル当たり1.0モル以下、好ましくは0.3モル以下の一般式(2)〜(8)
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
【化5】

【0018】
【化6】

【0019】
【化7】

【0020】
【化8】

【0021】
(R”は、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、R””は、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基を表し、分子間のRまたはR’同士が互いに連結して架橋構造を形成していてもよい。また、R”、R””はPPSOからなるポリマー鎖でもよい。R'”はPPSOからなるポリマー鎖を示し、mは0〜3のいずれかの整数を表し、nは0〜2のいずれかの整数を表す。また、Xは0、1、2のいずれかを表す。)で示される繰り返し単位とからなる共重合体からなる固体物品である。また、一般式(1)で示される繰り返し単位のうち、Xが0、1、2である構造単位中に占める、Xが1または2である構造単位の比率は、0.5以上0.9以下が好ましく、さらに好ましくは0.7以上0.9以下である。
【0022】
本発明における、PPSOナノファイバーとは、上記説明のPPSOから構成されるナノファイバー形状物品である。
【0023】
本発明のPPSOナノファイバーは、繊維径が0.0001μm以上0.3μm以下であることが重要である。繊維径が0.3μmを越えるとペーパーにした場合に空隙が大きくなりやすく、0.0001μmを下回ると取り扱い性が非常に悪くなる。
【0024】
また、本発明のPPSOナノファイバーは示差走査熱量計(DSC)の測定において融解ピークが実質的に認められないことが重要である。実質的に融解ピークが観察されないとは、具体的には、15J/g以下、好ましくは10J/g以下、より好ましくは5J/g以下、特に好ましくは1J/g以下の融解熱量を有するPPSOを意味し、この範囲において耐熱性、耐薬品性に関して特に優れた特性を有する。これは、耐熱性ペーパーとして十分な耐熱性を保持するだけでなく、融解によるピンホールの発生を防ぐ上で重要な要素になる。
【0025】
ここで、DSC測定条件は、窒素雰囲気下、窒素流量20mL/分において、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC)を用い、サンプル量5mg〜10mgの範囲内で、温度プログラムを30℃〜500℃(30℃から10℃/分昇温で340℃まで昇温)と設定し、測定した時の融解熱量である。
【0026】
PPSOナノファイバーの断面形状は特に限定されるものではなく、通常の円形断面のみならず、△断面、Y字断面、□断面、十字断面、中空断面、C型断面、田型断面などいかなる異形断面も採用できる。
【0027】
本発明のPPSOナノファイバーを得る方法としては、PPSOを適切な良溶媒に溶解して、エレクトロスピニング法など従来公知のナノファイバー製造技術を利用する方法や、PPSナノファイバーを酸化処理する方法が挙げられるが、製造の容易さの点から好ましくはPPS化合物からなるナノファイバーを酸化処理することにより得られる。
【0028】
例えば、ポリフェニレンスルフィド酸化物ナノファイバーは、ポリフェニレンスルフィドと適切に選ばれた他の熱可塑性ポリマーを溶融ブレンドして溶融紡糸を行いナノファイバー前駆体を製造したのち、該他の熱可塑性ポリマーを溶出除去してポリフェニレンスルフィドのナノファイバーを得、このナノファイバーを酸化してポリフェニレンスルフィド酸化物ナノファイバーを製造する。またこのとき、ナノファイバー前駆体の状態で酸化した後に該他の熱可塑性ポリマーを溶出除去することでも製造可能である。
【0029】
該他の熱可塑性ポリマーはPPSと溶融ブレンドした際に繊維中のPPSがおよそ0.0001μm以上0.3μm以下に繊維軸方向にスジ状に微分散し、かつ繊維化が可能なこと、適切な溶出処理が可能なことを条件として選択する。具体例としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコールなどが挙げられるが、中でもポリエステル、特に溶融紡糸温度付近でPPSとの粘度比が1/10から10のポリエチレンテレフタレートとすることにより前駆体の製糸性が向上するため好ましい。
【0030】
また、ここで言うPPS化合物とは、一般式(9)
【0031】
【化9】

【0032】
(Rは、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基の少なくともいずれか1つを表す。)で示される繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマー、または、上記繰り返し単位と、上記繰り返し単位1モル当たり1.0モル以下、好ましくは0.3モル以下の一般式(10)〜(16)
【0033】
【化10】

【0034】
【化11】

【0035】
【化12】

【0036】
【化13】

【0037】
【化14】

【0038】
【化15】

【0039】
【化16】

【0040】
(Rは、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、R’は、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基を表す。)で示される繰り返し単位とからなる共重合体からなる固体物品である。
【0041】
中でも置換基RおよびR’は、水素または炭素数1〜4の脂肪族置換基が好ましく、具体例としては水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられ、中でも好ましいのは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基であり、さらに好ましいのは、メチル基である。PPS化合物の具体例としては、ポリ−p−フェニレンスルフィド、ポリ−p−トリレンスルフィド、ポリ−p−クロロフェニレンスルフィド、ポリ−p−フルオロフェニレンスルフィドなどが挙げられ、中でも好ましいのは、ポリ−p−フェニレンスルフィド、ポリ−p−トリレンスルフィドであり、さらに好ましいのは、ポリ−p−フェニレンスルフィドである。
【0042】
さらに、PPS化合物ナノファイバーまたは、その前駆体は、結晶化度20%以上70%以下かつ重量平均分子量30000(Mw)以上80000以下の物性を有することが好ましく、さらに結晶化度は40%以上70%以下であることがより好ましく、重量平均分子量は40000(Mw)以上80000以下であることがより好ましい。ここで結晶化度は、広角X線回折の測定において観測される、全回折ピーク面積に占める結晶性構造に由来するピーク面積比より算出した値である。例えば、広角X線回折装置(RINT2100:リガク)を用い、Cu線源(λ=1.5406オングストローム)にて、繊維試料を測定した時の結晶性構造に由来するピーク面積比より算出することができる。重量平均分子量は、例えばゲル浸透クロマトグラフ(GPC220)を用い210℃の1−クロロナフタレンに溶解し測定をすることにより得られる。重量平均分子量を30000以上とすることにより後工程で形態保持出来る強度のナノファイバーを得ることが出来、80000以下とすることにより前駆体繊維を得る場合の紡糸性が良好となる。この範囲のPPS化合物ナノファイバーもしくはその前駆体を用いると、酸化反応処理においてもその結晶性や分子量を大きく損なわず、その結果生成するPPSナノファイバーの物性面に関して良好な結果を与える。このような結晶化度及び重量平均分子量を有するPPS化合物ナノファイバーは、例えば以下の方法により得ることができる。
【0043】
すなわち、重量平均分子量30000(Mw)以上80000以下を有するポリフェニレンスルフィドを得る場合、硫黄源として水硫化ナトリウムおよび有機モノマーとしてp−ジクロロベンゼンを用いて重合する際に使用する重合助剤としては酢酸ナトリウムを用い、その重合助剤を水硫化ナトリウムに対して0.04倍モル以上用い、水硫化ナトリウムに対するp−ジクロロベンゼンの過剰率が2.0モル%以上の条件で約4時間重合させることにより得ることができる。
【0044】
また、結晶化度20%以上70%以下、あるいは40%以上70%以下を有するPPS化合物ナノファイバーを得る場合は、微分散可能な他の熱可塑性ポリマーとブレンド紡糸を行い、公知の方法により延伸速度、延伸倍率、あるいは延伸後の熱処理条件を制御し、その後他の熱可塑性ポリマーを溶出除去することにより得られる。
【0045】
本発明において、酸化反応処理に使用される反応溶媒の液体は、PPS化合物ナノファイバー、またはその前駆体の形態を保持するものであれば任意に用いることができ、酸化反応処理に用いる酸化剤を均一に溶解するものであることが好ましい。中でも、有機酸または有機酸無水物または鉱酸を含む液体であることが好ましい。また、液体は単独・混合溶媒のいずれでもよく、またそれに水が含まれていても、水単独の液体でも構わない。液体の具体例としては、水、アセトン、メタノール、エタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、ピリジン、後述する有機酸、有機酸無水物が挙げられる。有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、酪酸、マレイン酸などが挙げられる。有機酸無水物としては、下記一般式(a)
【0046】
【化17】

【0047】
(R、Rは、それぞれ炭素数1〜5の脂肪族置換基、芳香族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、RおよびRは互いに連結して環状構造を形成していてもよい。)で示される酸無水物が挙げられ、具体例としては無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸、無水−クロロ安息香酸などが挙げられる。鉱酸の具体例としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸などが挙げられる。好ましい酸化剤は、水、酢酸、トリフルオロ酢酸、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、硫酸、塩酸であり、さらに好ましいのは、水、酢酸、トリフルオロ酢酸、硫酸である。中でも特に好ましいのは、水および酢酸および硫酸が混合された液体である。その混合組成比としてより好ましいのは、水:5〜20重量%、酢酸:60〜90重量%、硫酸:5〜20重量%であり、この範囲の濃度において良好な結果を与える。
【0048】
本反応に使用される酸化剤は、上記液体に均一に溶解するものであって、本発明で規定する特性を有するPPSOナノファイバーを与えるものであれば任意に用いることができる。中でもPPSナノファイバーの形状を保持したまま酸化処理し得る酸化剤、液体の組み合わせであることが好ましい。酸化剤としては無機塩過酸化物、過酸化水素水から少なくとも1つ選ばれるものであることが好ましく、無機塩過酸化物および過酸化水素水から選択される一種以上と、有機酸および有機酸無水物から選択される一種以上との混合物から形成される過酸化物(過酸を含む)であっても構わない。
【0049】
酸化剤として用いる無機塩過酸化物としては、過硫酸塩類、過ホウ酸塩類、過炭酸塩類が好ましく挙げられる。ここで塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが挙げられるが、なかでもナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。その具体例としては、過硫酸塩としては過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過ホウ酸塩としては過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過ホウ酸アンモニウム、過炭酸塩としては過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムなどが挙げられる。過酸化水素水と、有機酸または有機酸無水物との混合物から形成される過酸の具体例としては、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過プロピオン酸、過酪酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸などが挙げられ、中でも好ましいのは、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸であり、さらに好ましいのは、過ホウ酸ナトリウム、過酢酸、トリフルオロ過酢酸である。
【0050】
酸化剤の濃度は工業的製法における安全性管理の上で重要で、処理効率の点からは高い濃度の方が好ましいが、PPS化合物ナノファイバーからなる固体物品の形態や見かけ体積などから、固体物品が酸化剤を含む液体に十分浸漬しうる濃度までであって、かつ、本発明で規定する範囲のPPSOナノファイバーが得られる濃度であれば、液体で希釈、あるいは安全面から濃度を下げることは任意に可能である。
【0051】
本発明における過酸の濃度は20重量%以下が好ましく、より好ましくは0.1重量%〜10重量%であり、さらに好ましくは3〜8重量%である。この範囲の濃度において良好な反応結果を与え、かつ安全性の高いプロセスが構築できる。これより高いとその安定性や安全性が温度に対して非常に影響を受けやすくなり、特に20重量%を超える高濃度の過酸はその安定性やプロセスの安全性の管理が難しいため好ましくない。
【0052】
また、酸化剤として無機塩過酸化物を用いる場合、PPS化合物ナノファイバーまたはその前駆体からなる繊維の形態や見かけ体積などから十分浸漬しうる濃度まで溶媒で希釈、あるいは安全面から濃度を下げることは任意に可能である。好ましくは0.1重量%〜10重量%、さらに好ましくは3重量%〜8重量%である。
【0053】
過酸化水素水と有機酸との混合物から形成される過酸または過酸化物を用いる場合、過酸または過酸化物の濃度は、10重量%以下であることが好ましい。
【0054】
過酸化水素水と有機酸無水物との混合物から形成される過酸あるいは過酸化物を用いる場合、過酸または過酸化物の濃度は、好ましくは0.1重量%〜20重量%、さらに好ましくは3重量%〜15重量%、特に好ましくは3重量%〜8重量%である。
【0055】
上記範囲の濃度において良好な反応結果を与え、かつ安全性の高いプロセスが構築できる。これより高いとその安定性や安全性が温度に対して非常に影響を受けやすくなり、特に20重量%を超える高濃度の過酸はその安定性やプロセスの安全性の管理が難しいため好ましくない。
【0056】
例えば、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC)を用い、空気雰囲気下、サンプル量を5mg〜8mgの範囲内で秤量し、ステンレス製4.9MPa(50気圧)耐圧密閉容器にて、温度プログラムを30℃〜200℃(30℃から10℃/分昇温で200℃まで昇温)と設定して測定した時の過酢酸溶液の熱的挙動は、40%過酢酸溶液の場合が分解温度110℃、発熱量770J/gであり、酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した平衡過酢酸の場合が分解温度133℃、発熱量704J/gであるのに対し、無水酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した混合液体のそれは分解温度132℃、445J/gと約6割の発熱量であり、また、9%のそれは分解温度110℃、230J/gと約3分の1の発熱量であり、非常に小さい。それ故に、酸化剤濃度を下げることで酸化反応処理プロセスの安全性を確保することは非常に重要である。
【0057】
本酸化反応処理は、本発明で規定する特性を有するPPSOナノファイバーが得られる限り特に制限はないが、使用される液体の沸点以下の温度で行われることが好ましい。沸点以上の温度では系が加圧になり、酸化剤の分解が促進されたり煩雑な設備となる場合が多く、また安全面においても厳しいプロセス管理が必要とされる傾向にある。具体的な酸化反応処理温度は、用いる液体の沸点により異なるが、液体の沸点が許容する範囲内において、0℃〜100℃の間、中でも30℃前後〜80℃の間が好ましく、特に40℃〜70℃が好ましい。例えば、液体が酢酸の場合には50℃〜70℃の酸化反応処理温度が好ましく、この範囲の温度において良好な反応結果を与える。
【0058】
酸化反応処理時間は、本発明で規定した特性を有するPPSOナノファイバーが得られる限り特に制限はなく、具体的な時間としても反応温度と酸化剤の濃度により左右されるため一概にはいえないが、例えば、液体が酢酸の場合には、60℃条件下、10重量%の酸化剤濃度において、約2時間である。
【0059】
また、通常60℃条件下、5重量%の酸化剤濃度において、約1〜8時間である。さらに酸化剤として前記一般式(a)で示される酸無水物と過酸化水素との混合物から形成される過酸を用いる場合、安全性を確保した上で効率よく短時間で酸化反応処理を行うことが好ましい。例えば、酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した平衡過酢酸を用いた場合の、繊維束、布帛、フェルトのいずれかを酸化処理するための時間が60℃温度条件下で約8時間であるのに対し、無水酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した混合液体のそれは約2時間であり、非常に効率がよい。
【0060】
本酸化反応処理を行うための処理方式に特に制限はないが、バッチ式または連続式、あるいはそれらを組み合わせたものでも採用でき、また1段式プロセスまたは多段式プロセスのいずれでも採用できる。
【0061】
ここで、バッチ式とは、任意の反応容器内にPPS化合物ナノファイバーおよび酸化剤の含まれる液体を投入し、任意の濃度、温度、時間で酸化反応処理した後、PPSOナノファイバーまたは液体を取り出す処理方式を意味し、連続式とは、PPS化合物からなるナノファイバーまたは酸化剤の含まれる液体を任意の流速を持たせて反応容器内を流通させて酸化反応処理する方式を意味する。連続式においては、任意の形態で固定化したPPS化合物からなるナノファイバーに対して、酸化剤の含まれる液体を流通または循環させて酸化反応処理する方法、あるいは、酸化剤の含まれる液体を任意の反応容器内に投入し、そこへPPS化合物からなるナノファイバーを連続的に流通または循環させて酸化反応処理する方法のいずれも採用できる。
【0062】
また、多段式プロセスとは、バッチ式または連続式を採用した酸化反応処理の単位工程が、複数または段階的に構築されたプロセスを意味する。具体的には、酸化反応処理を複数回に分け、各処理を行う際に、酸化反応処理を行うための酸化剤を含む液体をあらたに調製し、続く酸化反応処理を行う方法が例示される。かかる方法は酸化反応を促進できる点で好ましく、具体的には酸化反応処理時間の短縮や、より低い温度での反応が可能となる点で好ましく用いられる。特に、PPS化合物からなるナノファイバーの形態や見かけ体積などの影響で、それが十分浸漬するよう液体で希釈したり、あるいは安全性確保のために濃度を下げたりすることにより生じ得る酸化反応処理時間の延長を抑制したり、過度の温度上昇を不要にし得る点でこの多段式プロセスが好ましく、これを採用することにより、酸化反応時間の延長や温度上昇を被ることなくかつ安全性を確保した上でプロセス構築ができる。
【0063】
さらに、酸化反応処理においてPPSは、ナノファイバー前駆体、ナノファイバーそのもの、あるいは他の繊維等との混合物として存在させることができ、短繊維でも長繊維でも良く、形態はカセ、巻取パッケージ、綿状、あるいはフェルトやペーパーなどの不織布状であっても良い。また、酸化処理反応の際の酸化剤との接触のさせ方としては、これらの繊維状物を酸化剤に浸漬する方法、酸化剤の含まれる液体を散布または噴霧する方法のいずれも採用できる。
【0064】
上述のように、PPS化合物からなるナノファイバーを酸化処理して得られるPPSOナノファイバーに関して、さらに詳しく説明する。
【0065】
本発明における酸化反応処理過程で生じる架橋とは、PPS化合物を酸化反応処理する過程でポリマー分子間で橋架け構造を形成することを意味し、繰り返し単位の構造中に含まれる炭素原子、硫黄原子、酸素原子のいずれかから選ばれる原子どうしが結合して橋架け構造を形成することを意味する。また、この架橋化度は、該PPSOナノファイバーの固体NMR分析および示差熱重量(TGA)測定によりその一部を把握することができ、中でもTGA測定においては、窒素雰囲気下で熱重量変化評価後に残存する炭化物量を測定することにより、架橋構造のうち、炭素原子どうしの架橋構造の割合を把握できる。例えば、示差熱重量(DTG−50:島津製作所)を用い、窒素雰囲気下、サンプル量約10mgを精秤し、白金製セル容器上にて、温度プログラムを30℃〜900℃(30℃から10℃/分昇温で900℃まで昇温)と設定して測定した時の残存する炭化物量は、PPS繊維(東レ社製「トルコン(登録商標)」、ポリアリーレンスルフィド繊維)がほぼ定量的に熱消失して残存物が検出されないのに対し、酸化処理後に得られるPPSO繊維(ポリアリーレンスルフィド酸化物繊維)の一例では炭化物が13.2重量%残存し、酸化処理により炭素原子同士の架橋構造を形成していることが確認できる。該PPSO繊維は、本TGA測定において残存炭化物が実質的に認められることが好ましく、さらに、実質的に1重量%以上の残存炭化物量を有することが好ましく、特に、実質的に5重量%以上の残存炭化物量を有することが好ましい。この範囲において耐熱性、耐薬品性に関して特に優れた特性を有する。ここで言う実質的にとは、上記の示差熱重量(TGA)測定において、測定前のPPSO繊維の重量に対する測定後の残存炭化物量の重量%を意味する。
【0066】
また、本酸化処理により得られるPPSOナノファイバーは結晶性を有する。すなわち、広角X線回折の測定における結晶化度が10%以上80%以下であることが好ましく、さらに好ましくは30%以上80%以下、より好ましくは50%以上70%以下である。結晶化度を前記範囲とすることにより引張強度と脆性のバランスがとれた繊維となる。
【0067】
本発明において、PPSOナノファイバーの結晶性は、酸化反応に供するPPSナノファイバーとして結晶性、分子量の比較的高いものを用い、このPPSナノファイバーの結晶性を過大に損なわない酸化条件を選択することにより高めることが可能である。
【0068】
このようにして得られた、PPSOナノファイバーは、PPS繊維以上の耐熱性と耐薬品性、特に耐酸性を有しているとともに、実質的に融点がなくなり、熱によって溶融しないという特徴を有しているので、性能の向上した良好なペーパーを得ることができる。
【0069】
一般的なペーパーでは、繊維間の空隙が大きく、この空隙が電気絶縁性、耐熱性をおとしめているため、本発明のペーパーでは繊維径が0.0001μm以上0.3μm以下であり、かつ、示差走査熱量計(DSC)の測定において融解ピークが実質的に認められないPPSOナノファイバーを含有することが重要である。PPSOナノファイバーを含有することにより繊維間空隙を埋め電気絶縁性を向上させるばかりでなく、ペーパーそのものの耐薬品性や耐熱性をも向上させることができる。
【0070】
このとき、繊維間空隙をより密に埋めるためにはPPSOナノファイバーの繊維長が0.001mm以上10mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.01mm以上5mm以下である。繊維長が長いとナノファイバーが絡まりやすく緻密な分散が出来なくなり空隙を埋めることができず、また、短いと繊維間空隙から脱落しやすくなるため、この結果電気絶縁性を向上することができない。
【0071】
さらに、ペーパーの引張、引裂強度を落とさずに、より耐薬品性や耐熱性を向上させるためには、PPSOナノファイバーだけでなく繊維長0.001mm以上10mm以下、繊維径10μm以上30μm以下のPPSOファイバーを含有させることが好ましい。ペーパーの形態保持を担うカットファイバーと空隙を埋め電気絶縁性を向上させるナノファイバーの組み合わせにより高性能なペーパーを得ることができるばかりでなく、カットファイバーとナノファイバーをPPSOとすることにより、PPSOの特徴である実質的に融点を持たないという特徴を有効に利用することができ、耐熱性が大幅に向上する。このときのPPSOファイバーの繊維径は、10μm以上30μm以下、より好ましくは15μm以上25μm以下の範囲である。PPSOファイバーの繊維径が10μm未満であると繊維の剛性が小さくなるため形態保持性が低下しやすく、繊維径が30μmを超えると繊維径が太いため繊維間空隙が大きくなり、ナノファイバーにより空隙を埋めにくくなる。
【0072】
また、電気絶縁性に優れ、さらに耐薬品性、耐熱性を持つペーパーを得るためには、PPSOナノファイバーとPPSOファイバーの比率は、PPSOナノファイバーが30重量%以上、70重量%以下、PPSOファイバーが70重量%以上、30重量%以下であることが好ましい。PPSOナノファイバーが30重量%未満であるとカットファイバーの空隙を十分に埋めることができずに耐絶縁性が低下しやすくなり、またPPSOナノファイバーが70重量%を越えると耐絶縁性は良好であるものの、ペーパー自身の強度が不足し、取り扱いが難しくなる傾向にある。
【0073】
このようにして得られたPPSOファイバーからなる電気絶縁性に優れ、さらに耐薬品性、耐熱性に優れたペーパーの用途としては、電気モーターコイルの絶縁材やプリント基板、等に用いられる他、各種フィルター、特に耐薬品性、耐熱性を必要とされる分野において有効に活用される。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
A.融点、降温結晶化温度
融点は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC)で観察される主吸熱ピークがあらわれる温度を測定することにより行った。
B.粘度
東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、ズリ速度1000sec-1での見かけ粘度を測定した。
C.目付 得られたペーパの面積と重量から単面積あたりの重量を算出した。
D.引張強力
引張強力はJIS P8113に準じオリエンテック社製テンシロンUCT−100を用いて測定した。
E.形態保持性
取り扱い性、紙の柔らかさなど総合した官能検査で判断した。官能評価として最良の物が◎、以下良が○、普通△、不良を×として判断した。
F.絶縁破壊電圧
JIS−K−6911の試験方法に基づいて、電極として上部φ25円筒電極、下部φ25円盤状電極を使用して大気中にて、電圧上昇速度0.25kV/secにて測定を行った。
G.繊維径
繊維および基準目盛りを走査型電子顕微鏡(ニコンESEM−2700)で1万倍に拡大して写真撮影を行い、その写真から1/100μmのオーダーで繊維径を読みとった。
【0075】

実施例1
ポリフェニレンスルフィド樹脂として、攪拌機付きオートクレーブに硫化ナトリウム9水塩25モル、酢酸ナトリウム2.5モルおよびN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略す)を仕込み、窒素を通じながら徐々に205℃まで昇温し、水を留出した。次に反応容器を180℃に冷却後、1,4−ジクロロベンゼン25.3モルならびにNMPを加えて、窒素下に密閉し、270℃まで昇温後、270℃で2.5時間反応した。冷却後、反応生成物を温水で5回洗浄し、次に100℃に加熱されNMP中に投入して、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、さらに熱湯で数回洗浄した。これを90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液25リットル中に投入し、約1時間攪拌し続けたのち、濾過し、濾液のpHが7になるまで約90℃のイオン交換水で洗浄後、80℃で24時間減圧乾燥してポリフェニレンスルフィド樹脂を得た。該ポリフェニレンスルフィド樹脂は融点282℃、降温結晶化温度243℃、温度320℃での粘度200Pa・sであった。このポリマーと融点が252℃、温度320℃での溶融粘度100Pa・sのポリエチレンテレフタレートを30:70の割合で300℃の2軸混練機で混練しアロイポリマーを得た。このアロイポリマーを既存の単成分紡糸機を用い320℃の温度で紡糸を行った。このとき、吐出量35g/分、チムニーは温度25℃、風速25m/分、収束剤として一般的な油剤を塗布し、紡糸速度1000m/分で引き取り、350.7dtex36フィラメントのポリフェニレンスルフィドアロイ未延伸糸を得た。この未延伸糸は強度1.15cN/dtex、伸度412%を有していた。さらにこの未延伸糸を第1ホットローラー温度が90℃、第2ホットローラー温度が150℃のローラー間で3.5倍で延伸して100dtex36フィラメントのポリフェニレンスルフィドアロイ延伸糸を得た。この延伸糸は、強度4.0cN/dtex、伸度22%であった。
【0076】
この延伸糸を5mm長さにカットした後、温度98℃、濃度10%の水酸化ナトリウム水溶液に3時間浸しポリエチレンテレフタレートを溶出除去しポリフェニレンスルフィドのナノファイバーを得た。
【0077】
このナノファイバーを酢酸800mL (関東化学社製)、過ホウ酸ナトリウム4水和物 46.16g (0.30mol;三菱ガス化学社製) を反応容器に投入し、60℃で攪拌・溶解させた。次に、ポリフェニレンスルフィドナノファイバー4gをその反応溶液に浸漬させて60℃、10時間酸化反応処理したところ、重量は24.3%増加し、5gのポリフェニレンスルフィドナノファイバーの酸化物である、ポリフェニレンスルフィド酸化物ナノファイバーを得た。
【0078】
このように得られたポリフェニレンスルフィド酸化物ナノファイバーは実質的に融点を持たず耐熱性良好な繊維であった。この繊維100本の直径を電子顕微鏡を用い測定したところ図1に示すように、ピーク径が0.09μmで最大径0.15μm、最小径0.02μmであった。
【0079】
実施例2
実施例1と同様な方法で得たポリフェニレンスルフィドアロイ延伸糸10gを5mmにカットした後、ポリエチレンテレフタレートを溶出除去することなく、酢酸800mL (関東化学社製)、過ホウ酸ナトリウム4水和物 46.16g(0.30mol;三菱ガス化学社製) を反応容器に投入し、60℃で攪拌・溶解させた反応溶液に浸漬させて60℃、10時間酸化反応処理したところ、10.75gのポリフェニレンスルフィドアロイ酸化物繊維を得た。
【0080】
このアロイ酸化物繊維を温度98℃、濃度10%の水酸化ナトリウム水溶液に3時間浸しポリエチレンテレフタレートを溶出除去しポリフェニレンスルフィド酸化物のナノファイバーを得た。このナノファイバーは実施例1で得られた物と同様な特性を示した。
【0081】
実施例3
実施例1と同様な方法でポリフェニレンスルフィド酸化物ナノファイバー20gを製造し、50リットルのナイアガラビーターを用いて水を20リットルとして分散を試みたところ、15分程度でナノファイバーは分散してパルプ状物を得ることができた。
【0082】
この分散液4リットルを、大きさ25cm×25cmで高さ40cmの熊谷理機工業製の手漉き抄紙機に投入し、さらに水を追加するとともに、ポリビニルアルコールの糊剤を若干量添加して、さらに攪拌した。手漉き抄紙機の水を抜き、金網上に残ったペーパーを濾紙に転写して、濾紙ごとジャポー製乾燥機に温度125℃、速度0.5m/minにて投入し、乾燥処理をした。乾燥処理したペーパーを濾紙から剥離して、鉄ロールとペーパーロールからなるカレンダー加工機に通した。カレンダー条件は、温度100℃、荷重は25cm幅のペーパーに対して、1kN/25cm、ロール周速度2m/minであり、3回通しとした。上記の様にして、ポリフェニレンスルフィド酸化物ナノファイバーのペーパーを得た。得られたペーパーの目付けは64g/m、厚みは0.22mmであり、ペーパーの引張強力は50N/15mmであり、紙力と形態安定性がやや弱い以外は、良好なペーパーが得られた。特性を表1に示す。
【0083】
得られたペーパーは、空隙の少ない緻密なペーパーであり、絶縁破壊電圧を測定したところ、56kV/mmであった。
【0084】
実施例4〜7
実施例1で得られたポリフェニレンスルフィド酸化物ナノファイバーと、ポリフェニレンスルフィドを公知の紡糸機を用い、紡糸機温度320℃で実施例1と同様な条件で溶融紡糸して80dtex、36フィラメントの延伸糸とし、5mm長にカットして、酸化反応させポリフェニレンスルフィド酸化物ファイバーを任意の比率で分散させて実施例3の抄紙方法で抄紙してペーパーを得た。特性を表1に示す。これらペーパーは電気絶縁性も良好で耐熱、耐薬品性に優れるものであった。
【0085】
【表1】

【0086】
比較例1
実施例4で得られたポリフェニレンスルフィド酸化物ファイバーを水に分散させて実施例3の抄紙方法で抄紙して、ポリフェニレンスルフィド酸化物ファイバーのみからなるペーパーを得た。このペーパーは、耐薬品性、耐熱性に優れるものの電気絶縁性が低い物であった。
【0087】
比較例2
実施例1で得られた酸化処理前のポリフェニレンスルフィドナノファイバーを50リットルのナイアガラビーターを用いてナノファイバー/水比率を20g/20リットルとして分散を試みたところ、15分程度でナノファイバーは分散してパルプ状物を得ることができた。この分散液4リットルを抄紙することによりポリフェニレンスルフィドナノファイバーからなるペーパーを得た。このペーパーは、電気絶縁性は40kV/mmと優れているものの、加熱すると溶融し耐熱性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のPPSOナノファイバーは、耐熱性と耐薬品性を有する湿式抄紙からなるペーパーを緻密なペーパーとすることができる。また、本発明のPPSOナノファイバーを用いたペーパーは、モーターや変圧器などで使用される電気絶縁材に、好ましく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】実施例1におけるポリフェニレンスルフィド酸化物ナノファイバーの直径と度数の分布を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が0.0001μm以上0.3μm以下であり、かつ、示差走査熱量計(DSC)の測定において融解ピークが実質的に認められないことを特徴とするポリアリーレンスルフィド酸化物ナノファイバー。
【請求項2】
繊維長が10mm以下であることを特徴とする請求項1記載のポリアリーレンスルフィド酸化物ナノファイバー。
【請求項3】
請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィド酸化物ナノファイバーを少なくとも一部に含有することを特徴とするペーパー。
【請求項4】
繊維長10mm以下、繊維径10μm以上30μm以下のポリアリーレンスルフィド酸化物ファイバーを含有することを特徴とする請求項3記載のペーパー。
【請求項5】
ポリアリーレンスルフィド酸化物ナノファイバーが30〜70重量%、ポリアリーレンスルフィド酸化物ファイバーが70〜30重量%からなる請求項4記載のペーパー。

【図1】
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【公開番号】特開2007−2373(P2007−2373A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186236(P2005−186236)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】