説明

ポリイソシアネート製造設備およびポリイソシアネート製造方法

【課題】格別の送液手段を設けずとも、循環ラインにおいて反応液を安定して循環させることができ、反応液からの塩化水素の安定した除去を達成することのできる、ポリイソシアネートの製造方法、および、その方法を実施するための製造装置を提供すること。
【解決手段】イソシアネート化反応槽2の下流側に、クローズドラインである循環ライン11と、その循環ライン11の途中に介装される熱交換器12および脱塩化水素槽9とを備えるサーモサイフォン還流部10を接続して、温度制御部13によって熱交換器12をサンプル値制御することにより、循環ライン11において反応液をサーモサイフォンによって循環させる。また、レベル計22によって検知される脱塩化水素槽9の液面レベル9aに基づいて、液面レベル9aが熱交換器12内の加熱面の上端12aの近くに合うように、制御弁17をレベル制御部23によって制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンの原料となるポリイソシアネートの製造方法、および、その方法を実施するための製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンの原料として用いられるポリイソシアネートは、ポリアミンと塩化カルボニルとをイソシアネート化反応させることにより、工業的に製造されている。
【0003】
このようなポリイソシアネートは、工業的には、ポリアミンを含むポリアミン溶液と、塩化カルボニルを含む塩化カルボニル溶液と、溶媒とを、連続的に反応器に供給して反応させ、反応器において生成したポリイソシアネートを、反応器から連続的に留出させるようにして、製造されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、このような製造では、イソシアネート化反応において副生する塩化水素を除去するための脱塩化水素工程が必要である。この脱塩化水素工程では、イソシアネート化反応槽から反応液とともに流出する塩化水素を除去するための脱塩化水素槽と、脱塩化水素槽から留出した反応液を再度脱塩化水素槽へ還流する還流ラインとを設けて、脱塩化水素槽において塩化水素が除去された反応液を、再度脱塩化水素槽へ還流して塩化水素の除去を繰り返すことにより、反応液から所定レベルの塩化水素を除去する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−035492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、上記した脱塩化水素槽に対する還流ラインでは、反応液を還流するためのポンプなどの送液手段が必要となるが、ポンプで送液する場合、脱塩化水素槽に必要な熱量を与えるためには、大容量のポンプを用いて大循環をする必要がある。送液する反応液は、高温でかつ腐食性が著しいことから、そのようなポンプには、ニッケル合金などの高級材質を使用せねばならず、不経済である。また、高温、かつ腐食性の条件下で回転機器の使用は、軸シール部などに伴うトラブルなどの不具合が不可避となる。
【0007】
一方、クローズドラインにおける循環手段として、ポンプなどの格別の送液手段が不要であるサーモサイフォン方式(あるいはエアリフト方式とも呼ばれる。)が知られている。
【0008】
サーモサイフォン方式では、例えば、還流ラインの途中に熱交換器を設けて、循環ラインを循環する反応液の温度を調整することにより、反応液の加熱による比重差と反応液から発生する塩化カルボニルガスや塩化水素ガスのベーパーの上昇流により、ポンプなどの格別の送液手段を設けずとも、循環ラインにおいて反応液を循環させることができる。なお、サーモサイフォンを安定的に循環させるには、熱交換器内の加熱管の上端近くに、脱塩化水素槽の液面レベルを合わせる必要があり、そのため、脱塩化水素槽の液面レベルを一定に制御する必要がある。
【0009】
熱交換器による反応液の温度調整は、通常、応答性のよいPID制御により、常時フィードバック制御される。PID制御により、熱交換器による反応液の温度調整を常時フィードバック制御すると、循環ラインを循環する反応液の温度が、とりわけ、スタートアップや設定温度変更、プラントのロードアップする場合などにおいて、頻繁に変動して、却って反応液の温度を早期に安定させることができず、そのため、循環ラインを循環する反応液の循環速度が不安定となり、さらに、脱塩化水素槽の液面レベルの変動を引き起こし、液面レベルが、熱交換器の伝熱面積を変化させることになり、更なる熱交換量の変動をきたし、ひいては、脱塩化水素槽での塩化水素の除去が不安定になる。
【0010】
また、脱塩化水素槽では、塩化水素ガスおよび塩化カルボニルガスが発生し、脱塩化水素槽の条件によっては、塩化カルボニルが凝縮し、脱塩化水素槽の液面レベルが変動したり、その液面レベルの変動によって熱交換器のレベルが変動することにより有効伝熱面積が変化し、次いで伝熱量が大きく変化することにより一気に塩化カルボニルの蒸発が大きく変動するなどの現象が玉突き的に発生し、脱塩化水素槽の温度制御操作が逆に、脱塩化水素槽の温度の不安定化要素となることがある。特に、製造設備のスタートアップ時は、反応によって生じる塩化水素の量が変化し、これにより脱塩化水素槽に供給される塩化水素および塩化カルボニルの濃度が逐次変化しており、このような温度制御を不安定化させる玉突き現状が発生しやすくなっており、簡便に制御する方法が望まれている。
【0011】
また、これらに対応するために、脱塩化水素槽のガスを分析し、その分析値に基づき温度を制御することもできるが、自動ガス分析装置は高価であり、そのメンテナンスも煩雑であるだけでなく、フランジ部が増加し、塩化カルボニルの漏洩可能箇所が増大するため、その漏洩防止対策が必要となり、高価でメンテナンスの困難な設備になる。
本発明の目的は、格別の送液手段を設けずとも、循環ラインにおいて反応液を安定して循環させることができ、反応液からの塩化水素の安定した除去を達成することのできる、ポリイソシアネート製造方法、および、その方法を実施するための製造設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のポリイソシアネート製造設備は、塩化カルボニルとポリアミンとを反応させるためのイソシアネート化反応槽と、前記イソシアネート化反応槽において副生した塩化水素を除去するための脱塩化水素手段とを備え、前記脱塩化水素手段は、イソシアネート化反応槽から得られた反応液中の塩化水素を除去するための脱塩化水素槽と、前記脱塩化水素槽中の反応液を、前記脱塩化水素槽へサーモサイフォンにより還流するサーモサイフォン還流手段とを備え、前記サーモサイフォン還流手段は、
1) 前記脱塩化水素槽の反応液を循環させる循環ラインと、
2) 前記循環ラインの途中に接続され、前記イソシアネート化反応槽から得られた反応液を前記循環ラインに供給する反応液供給ラインと、
3) 前記反応液供給ラインから供給された反応液と前記脱塩化水素槽中の反応液とを混合する混合手段と、
4) 前記混合手段により混合された混合液を加熱する熱交換手段と、
5) 前記熱交換手段により熱交換される熱量を、制御期間とホールド期間とを有するサンプリング周期が繰り返されるように間欠的にサンプル値制御することにより、前記脱塩化水素槽の温度を制御するサンプル値制御手段と、
6) 前記脱塩化水素槽から前記脱塩化水素槽中の反応液を次工程に抜き出す抜き出し手段とを備え、
前記脱塩化水素槽は、前記脱塩化水素槽の液面レベルを検知するためのレベル計を備え、前記抜き出し手段は、制御弁を備え、前記レベル計および前記制御弁は、前記レベル計によって検知される前記脱塩化水素槽の前記液面レベルに基づいて、前記液面レベルが前記熱交換手段内の加熱面の上端の近くに合うように、前記制御弁を制御するためのレベル制御部に接続されていることを特徴としている。
【0013】
この装置では、サーモサイフォン還流手段によって、脱塩化水素槽から流出する反応液が再度脱塩化水素槽へサーモサイフォンにより還流するので、ポンプなどの格別の送液手段を設けずとも、循環ラインにおいて反応液を循環させることができる。従って、装置の腐食や回転機器の使用によるトラブルなどの上記した不具合を解消することができる。
【0014】
また、サーモサイフォン還流手段では、サンプル値制御手段が熱交換手段により熱交換される熱量をサンプル値制御することにより、循環ラインにおいて反応液がサーモサイフォンにより循環する。そのため、熱交換手段を常時PID制御することにより、反応液を循環させる場合に比べて、とりわけ、スタートアップや設定温度を変更する場合などにおいて、循環ラインを循環する反応液の温度を早期に安定させることができ、循環ラインを循環する反応液の循環速度を安定させることができる。その結果、脱塩化水素槽での塩化水素の安定した除去を達成することができる。
【0015】
また、本発明のポリイソシアネート製造方法は、上記のポリイソシアネート製造設備が用いられるポリイソシアネート製造方法であって、塩化カルボニルとポリアミンとを反応させるためのイソシアネート化反応工程と、前記イソシアネート化反応工程において副生した塩化水素を除去するための脱塩化水素操作とを備え、前記脱塩化水素操作は、イソシアネート化反応工程から得られた反応液中の塩化水素を除去するための脱塩化水素工程と、前記脱塩化水素工程中の反応液を、前記脱塩化水素工程へサーモサイフォンにより還流するサーモサイフォン還流工程とを備え、前記サーモサイフォン還流工程は、
1) 前記脱塩化水素工程の反応液を循環させる循環工程と、
2) 前記循環工程の途中に、前記イソシアネート化反応工程から得られた反応液を供給する反応液供給工程と、
3) 前記反応液供給工程において供給された反応液と前記脱塩化水素槽中の反応液とを混合する混合工程と、
4) 前記混合工程により混合された混合液を加熱する熱交換工程と、
5) 前記熱交換工程により熱交換される熱量を、制御期間とホールド期間とを有するサンプリング周期が繰り返されるように間欠的にサンプル値制御することにより、前記脱塩化水素槽の温度を制御するサンプル値制御工程と、
6) 前記脱塩化水素工程から前記脱塩化水素工程中の反応液を次工程に抜き出す抜き出し工程とを備え、
さらに、前記レベル計によって検知される前記脱塩化水素槽の前記液面レベルに基づいて、前記液面レベルが前記熱交換手段内の加熱面の上端の近くに合うように、前記制御弁を前記レベル制御部によって制御する制御工程を備えていることを特徴としている。
【0016】
この方法では、サーモサイフォン還流工程によって、脱塩化水素工程から流出する反応液が再度脱塩化水素工程へサーモサイフォンにより還流するので、ポンプなどの格別の送液手段を設けずとも、反応液を循環させることができる。従って、装置の腐食や回転機器の使用によるトラブルなどの上記した不具合を解消することができる。
【0017】
また、サーモサイフォン還流工程では、熱交換工程において熱交換される熱量をサンプル値制御することにより、反応液がサーモサイフォンにより循環する。そのため、熱交換工程をPID制御することにより、反応液がサーモサイフォンにより循環する場合に比べて、とりわけ、スタートアップや設定温度を変更する場合などにおいて、循環する反応液の温度を早期に安定させることができ、循環する反応液の循環速度を安定させることができる。その結果、脱塩化水素工程での塩化水素の安定した除去を達成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリイソシアネート製造設備および本発明のポリイソシアネート製造方法によれば、循環する反応液の温度を早期に安定させることができ、循環する反応液の循環速度を安定させることができる。その結果、塩化水素の安定した除去を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のポリイソシアネート製造設備の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】温度制御部における熱交換器のサンプル値制御の制御例を示すタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明のポリイソシアネート製造設備の一実施形態を示す概略構成図である。
【0021】
図1において、このポリイソシアネート製造設備1は、イソシアネート化反応槽2と、脱塩化水素手段としての脱塩化水素プロセス部3とを備えている。
【0022】
イソシアネート化反応槽2は、塩化カルボニルとポリアミンとを反応させるための反応槽であれば、特に制限されないが、例えば、攪拌翼が装備された反応器や多孔板を有する反応塔から構成されている。イソシアネート化反応槽2は、多段連続式反応器として構成されてもよく、その場合には、例えば、低温の1段目反応器と高温の2段目反応器とを備えてもよい。
【0023】
このイソシアネート化反応槽2には、ポリイソシアネートの原料である塩化カルボニルおよびポリアミンが供給される供給管4が接続されている。
【0024】
また、イソシアネート化反応槽2のベーパー側(上側)には、溶媒や過剰に供給された塩化カルボニルの一部を循環させる循環ライン7が接続されている。この循環ライン7は、イソシアネート化反応槽2に対して循環するように接続されており、その途中には、コンデンサ6が介装されるとともに、後述する脱塩化水素槽9のベーパーライン15が接続されている。また、コンデンサ6の気相側(上側)には、副生する塩化水素ガスおよび凝縮しなかった過剰の塩化カルボニルを排出するための排出管8が接続されている。
【0025】
また、ポリアミンおよび塩化カルボニルは、供給管4からイソシアネート化反応槽2へ供給される。ポリアミンは、予め溶媒と混合されて供給されることが好ましく、一方、塩化カルボニルは、そのままでも、予め溶媒と混合しても、ガス状でも、液状でも供給することができる。また、ポリアミンと塩化カルボニルとは、イソシアネート化反応槽2へ別々のラインでフィードしても、イソシアネート化反応槽2の前で混合後フィードしてもよい。
【0026】
ポリアミンは、ポリウレタンの製造に用いられるポリイソシアネートに対応するポリアミンであって、特に制限されず、例えば、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(MDI)に対応するポリメチレンポリフェニレンポリアミン(MDA)、トリレンジイソシアネート(TDI)に対応するトリレンジアミン(TDA)などの芳香族ジアミン、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)に対応するキシリレンジアミン(XDA)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)に対応するテトラメチルキシリレンジアミン(TMXDA)などの芳香脂肪族ジアミン、例えば、ビス(イソシアナトメチル)ノルボルナン(NBDI)に対応するビス(アミノメチル)ノルボルナン(NBDA)、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)に対応する3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン(IPDA)、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(H12MDI)に対応する4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(H12MDA)、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)に対応するビス(アミノメチル)シクロヘキサン(HXDA)などの脂環族ジアミン、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)に対応するヘキサメチレンジアミン(HDA)などの脂肪族ジアミン、および、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)に対応するポリメチレンポリフェニルポリアミンなどから、適宜選択される。このポリイソシアネート製造設備1は、芳香族ジアミンから、芳香族ジイソシアネートを製造するのに適している。
【0027】
溶媒は、ポリアミン、塩化カルボニルおよびポリイソシアネートに対して不活性な有機溶媒であれば、特に制限されず、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、例えば、クロロトルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、例えば、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル類、例えば、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などが挙げられる。好ましくは、ジクロロベンゼンが挙げられる。また、ポリアミンおよび塩化カルボニルは、これらの5〜50重量%の有機溶媒の溶液として調製される。
【0028】
イソシアネート化反応槽2では、例えば、2段連続式反応器として構成されている場合、1段目は、反応温度60〜100℃、反応圧力0.1〜0.7MPaGであり、2段目は、反応温度100〜160℃、反応圧力0.1〜0.7MPaGである。これによって、ポリアミンと塩化カルボニルとをイソシアネート化反応させる(イソシアネート化反応工程)。また、このイソシアネート化反応では、ポリイソシアネートを生成するとともに、塩化水素ガスを副生する。
【0029】
また、イソシアネート化反応槽2のベーパーは、循環ライン7に流出し、ベーパーライン15からのベーパーと合流した後、コンデンサー6へ導かれ、分離された液、すなわち、溶媒や過剰に供給された塩化カルボニルの一部は、再びイソシアネート化反応槽2(あるいは、図示しないが、脱塩化水素槽9)へ戻される。一方、コンデンサ6の気相側からは、副生する塩化水素ガスおよび凝縮しなかった過剰の塩化カルボニルが排出管8を介して排出される。
【0030】
そして、イソシアネート化反応槽2から流出する反応液(つまり、生成したポリイソシアネート、未反応塩化カルボニル、および、反応途中のカルバモイルクロライドとポリアミン塩酸塩などが含有されている溶媒)は、反応液供給ライン5を介して、次に詳述する、イソシアネート化反応槽2において副生した塩化水素を除去するための脱塩化水素プロセス部3に供給される(反応液供給工程)。
【0031】
脱塩化水素プロセス部3は、脱塩化水素槽9と、サーモサイフォン還流手段としてのサーモサイフォン還流部10とを備えている。
【0032】
サーモサイフォン還流部10は、循環ライン11と、熱交換手段としての熱交換器12と、熱交換器12を制御するためのサンプル値制御手段としての温度制御部13とを備えている。
【0033】
循環ライン11は、ループ状のクローズドラインとして配管されており、その途中に、イソシアネート化反応槽2からの反応液が供給される反応液供給ライン5が接続されている。また、この循環ライン11には、反応液供給ライン5の接続部分よりも下流側(以下、「上流側」および「下流側」は、特に言及がない限り、反応液の流れ方向を基準とする。)に、熱交換器12が介装され、その熱交換器12よりも下流側に、脱塩化水素槽9が介装されている。
【0034】
なお、循環ライン11における熱交換器12よりも下流側であって、脱塩化水素槽9の上流側には、温度計21が接続されている。
【0035】
また、循環ライン11には、脱塩化水素槽9の下流側であって、反応液供給ライン5の接続部分よりも上流側に、粗ポリイソシアネートが抜き出される抜き出し手段としての抜出管14が接続されている。なお、この抜出管14には、制御弁17が設けられている。
【0036】
また、この循環ライン11において、反応液供給ライン5の接続部分から下流側で、熱交換器12より上流側の部分が、イソシアネート化反応槽2から流出した反応液と、脱塩化水素槽9から流出した反応液とを混合するための混合手段としての混合ライン16とされている。
【0037】
循環ライン11において、反応液は、反応液供給ライン5から供給され、反応液供給ライン5の接続部分、混合ライン16、熱交換器12、脱塩化水素槽9、抜出管14の接続部分を、順次循環し、制御弁17の開閉動作によって、抜出管14から一部が抜き出される(循環工程)。
【0038】
熱交換器12には、この熱交換器12に熱媒または蒸気を供給するための加熱ライン18a、bが設けられている。加熱ライン18aには、制御弁19および流量計20が接続されている。この熱交換器12は、加熱ライン18aから供給される熱媒または蒸気によって、混合ライン16から流入する反応液(混合液)を加熱する。熱交換器12によって加熱される反応液の温度は、例えば、130〜170℃である。熱交換器12で使用された熱媒または蒸気は、加熱ライン18bから抜き出される。
【0039】
温度制御部13は、制御弁19、流量計20および温度計21に接続されており、温度計21によって、熱交換器12の下流側における反応液の温度をモニタしており、このモニタ温度に基づいて、熱交換器12の制御弁19を制御して、熱媒または蒸気の流量や温度を、サンプル値制御によって制御することにより、反応液を加熱し、その反応液の温度を調整する(熱交換工程)。
【0040】
脱塩化水素槽9は、イソシアネート化反応槽2と同様に、攪拌翼が装備された反応器や多孔板を有する反応塔から構成されている。この脱塩化水素槽9のベーパー側(上側)には、副生する塩化水素ガスや過剰に供給された塩化カルボニルを除去するためのベーパーライン15の一方側端部が接続されている。なお、ベーパーライン15の他方側端部は、循環ライン7に接続されている。
【0041】
この脱塩化水素槽9では、例えば、反応温度130〜170℃、反応圧力0.1〜0.7MPaGにおいて、カルバモイルクロライドの脱塩化水素反応と、わずかに残存するポリアミン塩酸塩と塩化カルボニルとを反応させて、反応を完結させるとともに、副生する塩化水素ガスと過剰に加えられている塩化カルボニルから発生するガスとを、ベーパーライン15から除去する(脱塩化水素工程)。ベーパーライン15へ除去された塩化水素ガスは、循環ライン7からコンデンサ6において上記した液(溶媒など)と分離され、排出管8から排出される。
【0042】
そして、この脱塩化水素プロセス部3では、イソシアネート化反応槽2から反応液供給ライン5を介して循環ライン11へ流入されてきた反応液は、まず、脱塩化水素槽9から流出した反応液と混合ライン16において混合される(混合工程)。その後、混合された混合液は、熱交換器12によって加熱された後、脱塩化水素槽9において、塩化水素ガスが除去されて粗ポリイソシアネートが得られ、その後、制御弁17の開閉制御動作によって、抜出管14から一部が、粗ポリイソシアネートとして抜き出される(抜き出し工程)。
【0043】
また、循環ライン11は、クローズドラインであって、熱交換器12によって加熱されることにより、熱交換器12の下流側の温度がやや高くなること、ならびに、加熱により発生する副生した塩化水素ガスや過剰に供給された塩化カルボニルのベーパーの上昇流により、反応液は、サーモサイフォン状態となり循環ライン11を循環する(サーモサイフォン還流工程)。
【0044】
このように、サーモサイフォンにより、反応液を循環ライン11において循環させれば、ポンプなどの格別の送液手段を設けずとも、循環ライン11において反応液を循環させることができる。従って、装置の腐食や回転機器の使用によるトラブルなどの上記した不具合を解消することができる。
【0045】
そして、サーモサイフォン還流部10では、温度制御部13が、熱交換器12(より具体的には、熱交換される熱量)をサンプル値制御によって制御することにより、加熱される反応液の温度を調整して、それによって、サーモサイフォンにより反応液を所定の流量で循環させている(サンプル値制御工程)。
【0046】
なお、サーモサイフォンを効果的に働かせるためには、熱交換器12内の加熱面の上端12aの近くに、脱塩化水素槽9の液面レベル9aを合わせることが有効である。そのため、脱塩化水素槽9に、レベル計22を設けるとともに、このレベル計22と、抜出管14に設けられる制御弁17とを、レベル制御部23に接続して、レベル制御部23において、レベル計22によって検知される液面レベル9aに基づいて、制御弁17を制御することにより、脱塩化水素槽9の液面レベル9aが、熱交換器12内の加熱面の上端12aの近くに合うように、制御する。
【0047】
また、このように、脱塩化水素槽9の液面レベル9aを、熱交換器12とは独立してレベル制御部23において制御すれば、特にスタートアップ時には、脱塩化水素槽9中の組成が変動していても、熱交換器12においては、熱媒や蒸気がサンプル値制御されているため、熱源の急激な変動が抑制され、そのため、脱塩化水素槽9における急激なガスの蒸発や凝縮が抑制されるため、スムーズにスタートアップさせることができ、より早く安定状態にすることができる。
【0048】
温度制御部13における熱交換器12のサンプル値制御は、温度調整のための制御動作を間欠的に実施する制御であって、図2に示すように、制御プロセスにおいて、制御期間とホールド期間とを有するサンプリング周期が繰り返されるように設定し、制御期間において、反応液の温度を調整するための制御動作(例えば、温度制御部13における熱媒や蒸気の流量や温度の調整)を実施し、ホールド期間では、実施された制御動作(図2では制御出力値であって、例えば、制御された熱媒や蒸気の流量や温度)をホールドする。
【0049】
このように、サンプル値制御では、制御動作を実施してから、その結果が現れるまで次の制御動作をせず(ホールドして)、その結果が完全に現れてから、次の制御動作を実施する。そのため、熱交換器12を常時PID制御することにより、還流ライン11において反応液がサーモサイフォンにより循環する場合に比べて、とりわけ、スタートアップや設定温度を変更する場合などにおいて、循環ライン11を循環する反応液の温度を早期に安定させることができ、循環ライン11を循環する反応液の循環速度を安定させることができる。その結果、脱塩化水素槽9での塩化水素ガスの安定した除去を達成することができる。
【0050】
なお、サンプル値制御において制御される制御出力値や、サンプリング周期、制御期間およびホールド期間は、ポリイソシアネート製造設備1の能力、製造されるポリイソシアネートの種類などによって、具体的に決定される。
【符号の説明】
【0051】
1 ポリイソシアネート製造設備
2 イソシアネート化反応槽
3 脱塩化水素プロセス部
5 反応液供給ライン
9 脱塩化水素槽
10 サーモサイフォン還流手段
11 循環ライン
12 熱交換器
13 サンプル値制御手段
14 抜出管
16 混合ライン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化カルボニルとポリアミンとを反応させるためのイソシアネート化反応槽と、前記イソシアネート化反応槽において副生した塩化水素を除去するための脱塩化水素手段とを備え、
前記脱塩化水素手段は、イソシアネート化反応槽から得られた反応液中の塩化水素を除去するための脱塩化水素槽と、前記脱塩化水素槽中の反応液を、前記脱塩化水素槽へサーモサイフォンにより還流するサーモサイフォン還流手段とを備え、
前記サーモサイフォン還流手段は、
1) 前記脱塩化水素槽の反応液を循環させる循環ラインと、
2) 前記循環ラインの途中に接続され、前記イソシアネート化反応槽から得られた反応液を前記循環ラインに供給する反応液供給ラインと、
3) 前記反応液供給ラインから供給された反応液と前記脱塩化水素槽中の反応液とを混合する混合手段と、
4) 前記混合手段により混合された混合液を加熱する熱交換手段と、
5) 前記熱交換手段により熱交換される熱量を、制御期間とホールド期間とを有するサンプリング周期が繰り返されるように間欠的にサンプル値制御することにより、前記脱塩化水素槽の温度を制御するサンプル値制御手段と、
6) 前記脱塩化水素槽から前記脱塩化水素槽中の反応液を次工程に抜き出す抜き出し手段とを備え、
前記脱塩化水素槽は、前記脱塩化水素槽の液面レベルを検知するためのレベル計を備え、
前記抜き出し手段は、制御弁を備え、
前記レベル計および前記制御弁は、
前記レベル計によって検知される前記脱塩化水素槽の前記液面レベルに基づいて、前記液面レベルが前記熱交換手段内の加熱面の上端の近くに合うように、前記制御弁を制御するためのレベル制御部
に接続されていることを特徴とするポリイソシアネート製造設備。
【請求項2】
前記混合手段が、循環ラインであることを特徴とする、請求項1に記載のポリイソシアネート製造設備。
【請求項3】
前記抜き出し手段が、前記混合手段から前記熱交換手段に対する流れに対して、前記混合手段の上流側の前記循環ラインに接続されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリイソシアネート製造設備。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリイソシアネート製造設備が用いられるポリイソシアネート製造方法であって、
塩化カルボニルとポリアミンとを反応させるためのイソシアネート化反応工程と、前記イソシアネート化反応工程において副生した塩化水素を除去するための脱塩化水素操作とを備え、
前記脱塩化水素操作は、イソシアネート化反応工程から得られた反応液中の塩化水素を除去するための脱塩化水素工程と、前記脱塩化水素工程中の反応液を、前記脱塩化水素工程へサーモサイフォンにより還流するサーモサイフォン還流工程とを備え、
前記サーモサイフォン還流工程は、
1) 前記脱塩化水素工程の反応液を循環させる循環工程と、
2) 前記循環工程の途中に、前記イソシアネート化反応工程から得られた反応液を供給する反応液供給工程と、
3) 前記反応液供給工程において供給された反応液と前記脱塩化水素槽中の反応液とを混合する混合工程と、
4) 前記混合工程により混合された混合液を加熱する熱交換工程と、
5) 前記熱交換工程により熱交換される熱量を、制御期間とホールド期間とを有するサンプリング周期が繰り返されるように間欠的にサンプル値制御することにより、前記脱塩化水素槽の温度を制御するサンプル値制御工程と、
6) 前記脱塩化水素工程から前記脱塩化水素工程中の反応液を次工程に抜き出す抜き出し工程とを備え、
さらに、
前記レベル計によって検知される前記脱塩化水素槽の前記液面レベルに基づいて、前記液面レベルが前記熱交換手段内の加熱面の上端の近くに合うように、前記制御弁を前記レベル制御部によって制御する制御工程
を備えていることを特徴とする、ポリイソシアネート製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−233004(P2012−233004A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−177670(P2012−177670)
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【分割の表示】特願2006−36719(P2006−36719)の分割
【原出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】