説明

ポリイミド、ポリイミド系高分子電解質膜、膜−電極接合体および固体高分子型燃料電池

【課題】スルホン酸基またはその誘導体を有するフルオレン骨格を有するジアミン成分を含む新規なポリイミドと、当該ポリイミドを主成分として含み、当該ポリイミドに基づく特性(例えば、耐メタノール透過特性とプロトン伝導度との高いバランス)を有する新規なポリイミド系高分子電解質膜とを提供する。
【解決手段】以下の式(1)に示される構成単位(P)を含むポリイミドとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ポリイミドおよびこれを用いたポリイミド系高分子電解質膜、ならびにこの電解質膜を備える膜−電極接合体および固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代のエネルギー源として燃料電池が脚光を浴びている。特に、プロトン伝導性を有する高分子膜を電解質膜に使用した固体高分子型燃料電池(PEFC)は、エネルギー密度が高く、家庭用コージェネレーションシステム、携帯機器用電源、自動車用電源などの幅広い分野での使用が期待される。PEFCの電解質膜には、燃料極と空気極との間でプロトンを伝導する電解質としての機能とともに、燃料極に供給される燃料と、空気極に供給される酸素(空気)とを分離する隔壁としての機能が求められる。電解質および隔壁のいずれか一方としての機能が不十分であると燃料電池の発電効率が低下する。このため、プロトン伝導性、電気化学的安定性および機械的強度に優れ、燃料および酸素(空気)の透過性が低い高分子電解質膜が望まれる。
【0003】
現在、パーフルオロカーボンスルホン酸(例えば、デュポン社製「ナフィオン(登録商標)」)に代表されるフッ素系高分子の膜が、PEFCの電解質膜として広く用いられている。パーフルオロカーボンスルホン酸は、プロトン伝導基としてスルホン酸基を有する。フッ素系高分子電解質膜は電気化学的な安定性に優れるが、原料となるフッ素系高分子は汎用品ではなく、その合成過程も複雑であることから非常に高価である。電解質膜が高価であることは、PEFCの実用化に対する大きな障害となる。また、PEFCの1種に、メタノールを含む溶液が燃料極に供給されるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)があり、燃料の供給性、携帯性に優れることから今後の実用化が注目されている。しかし、フッ素系高分子電解質膜はメタノールを透過させやすいため、DMFCへの使用が難しい。
【0004】
このようなフッ素系高分子電解質膜の代替として、炭化水素系高分子電解質膜の開発が進められている。炭化水素系高分子電解質膜の原料となる樹脂はフッ素系高分子に比べて安価であり、これを用いた低コストのPEFCの実現が期待される。
【0005】
特表2000−510511号公報には、炭化水素系高分子電解質膜として、テトラカルボン酸二無水物と、プロトン伝導基を有する芳香族ジアミンと、プロトン伝導基を有さない芳香族ジアミンとの重縮合により形成されたポリイミドを含んでなるポリイミド系高分子電解質膜が開示されている。特表2000−510511号公報には、この電解質膜が機械的および電気化学的安定性に優れるとともに、フッ素系高分子電解質膜よりも低コストに製造できることが記載されている。しかし、特表2000−510511号公報では、電解質膜の耐メタノール透過特性(メタノール遮断特性)が考慮されておらず、当該公報に開示されている電解質膜は必ずしも耐メタノール透過特性に優れていない。
【0006】
これと同様のポリイミド系高分子電解質膜は特開2003−68326号公報にも開示がある。特開2003−68326号公報では、イミド結合が加水分解されやすい点を克服し、耐加水分解特性(長期耐水性)に優れるポリイミド系高分子電解質膜の製造が試みられている。しかし、特開2003−68326号公報の技術においても電解質膜の耐メタノール透過特性は考慮されておらず、当該公報に開示の電解質膜は必ずしも耐メタノール透過特性に優れていない。
【0007】
ところで、ポリイミドの形成に用いるジアミン成分として、例えば、9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸、9,9−ビス(3−メトキシ−4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸、9,9−ビス(3−フルオロ−4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸などのスルホン酸基含有ジアミン(特許文献2を参照)がある。これらのスルホン酸基含有ジアミンは、全て、アミノ基を有する置換基がフルオレン骨格の9位の炭素原子に結合した分子構造を有する。このようなジアミンは、フルオレン骨格における9位の炭素原子がメチレン基の炭素原子であり、当該骨格における他の炭素原子に比べて反応性が高いことから、従来より合成、市販されている。これ以降、フルオレン骨格における1〜9位の位置を、「フルオレン骨格における」を省略して、それぞれ単に「1位」〜「9位」と記すことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2000−510511号公報
【特許文献2】特開2003−68326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、スルホン酸基またはその誘導体を有するフルオレン骨格を有するジアミン成分を含む新規なポリイミドと、当該ポリイミドを主成分として含み、当該ポリイミドに基づく特性(例えば、耐メタノール透過特性とプロトン伝導度との高いバランス)を有する新規なポリイミド系高分子電解質膜の提供を目的の一つとする。
【0010】
本発明は、また、当該ポリイミド系高分子電解質膜を備える膜−電極接合体および固体高分子型燃料電池の提供を目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のポリイミドは、以下の式(1)に示される構成単位(P)を含む。
【化1】

ここで、[−SO3M]で表される基は、スルホン酸基、スルホン酸基の塩またはスルホン酸基のエステルである。
[−O−A1−]で表される部分構造におけるA1は:
置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基R1
1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基Ar1
式[−Ar2−Z1−Ar3−]に示される基(Ar2およびAr3は1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基であり、同一であっても互いに異なっていてもよい。Z1は、直接結合(−)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)またはスルホン基(−SO2−)である);
式[−R2−Ar4−]に示される基(R2は置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基である。Ar4は1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基である);または、
式[−Ar5−R3−Ar6−]に示される基(Ar5およびAr6は1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基であり、同一であっても互いに異なっていてもよい。R3は置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基である);であり、
脂肪族基R1、R2およびR3ならびに芳香族基Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6が有していてもよい前記置換基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基、フェノキシ基、フェニルチオ基およびベンゼンスルホニル基から選ばれる少なくとも1種である。
1は、4価の基である。
【0012】
本発明のポリイミドの一つの実施形態は、前記構成単位(P)と以下の式(2)に示される構成単位(Q)とを含む。
【化2】

ここで、A2はプロトン伝導基を有さない2価の芳香族基であり、C2は4価の基である。構成単位(P)中のC1および構成単位(Q)中のC2は、同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0013】
本発明のポリイミド系高分子電解質膜は、上記本発明のポリイミドを主成分として含む。
【0014】
本発明の膜−電極接合体は、高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜を狭持するように配置された一対の電極とを備え、前記高分子電解質膜が上記本発明のポリイミド系高分子電解質膜を有する。
【0015】
本発明の固体高分子型燃料電池は、上記本発明の膜−電極接合体と、前記膜−電極接合体を狭持するように配置された一対のセパレータとを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スルホン酸基またはその誘導体を有するフルオレン骨格を有するジアミン成分を含む新規なポリイミドと、当該ポリイミドを主成分として含み、当該ポリイミドに基づく特性(例えば、耐メタノール透過特性とプロトン伝導度との高いバランス)を有する新規なポリイミド系高分子電解質膜とが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の膜−電極接合体の一例を示す構造図である。
【図2】本発明の燃料電池の一例を示す模式図である。
【図3】実施例で合成した2,7−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸に対するプロトン核磁気共鳴分光(1H−NMR)測定の結果を示す図である。
【図4】実施例で合成した2,7−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸に対するカーボン核磁気共鳴分光(13C−NMR)測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(ポリイミド)
本発明のポリイミドは、式(1)に示される構成単位(P)を含む。構成単位(P)は、スルホン酸基またはその誘導体を有するフルオレン骨格を有するジアミン成分(ジアミンの重縮合により形成される部分)を含む。
【0019】
従来、アミノ基を有する置換基が9位の炭素原子に結合した、フルオレン骨格を有するスルホン酸基含有ジアミンが知られている。このようなジアミンは、9位の炭素原子の反応性の高さに基づいて比較的容易に合成することができる。しかし、このようなジアミンから縮合ポリマー、例えばポリイミド、を形成した場合、得られた縮合ポリマーにおいてフルオレン骨格が主鎖に垂直に配位するため、当該骨格の高い平面性に由来する特性が得難くなる。一方、本発明のポリイミドが含むジアミン成分では、アミノ基を有する置換基がフルオレン骨格の2位および7位の炭素原子に結合するとともに、9位の炭素原子には置換基が結合していない。このようなスルホン酸基含有ジアミン成分を含むことにより、フルオレン骨格の高い平面性に由来する特性を獲得したポリマーの形成が期待される。当該ジアミン成分を含む本発明のポリイミドは、特性の一つとして、例えば耐メタノール透過特性とプロトン伝導性との高いバランスを示す。
【0020】
ところで、構成単位(P)が含むジアミン成分の元となるスルホン酸基含有ジアミンは、従来の方法では合成が困難である。9位の炭素原子の反応性が高く、従来の方法によれば、9位の炭素原子に置換基が結合した多くの副生成物が生じるためである。多くの副生成物によって、望むジアミンの精製に多大な労力が必要であるとともに、その収率が著しく低くなる。また、方法によっては、当該ジアミンの合成自体が不可能である。これらの理由もあって、当該ジアミンに由来するジアミン成分を含むポリイミドは従来知られていない。一方、本明細書に記載の合成方法によれば、当該ジアミンを効率よく合成できる。
【0021】
本発明のポリイミドは、以下の式(3)に示されるスルホン酸基含有ジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とを含むモノマー群の重縮合により(モノマー群に含まれるジアミンとテトラカルボン酸二無水物との重縮合により)、合成できる。式(3)において[−O−A1−NH2]で表される部分構造におけるA1は、式(1)のA1について上述したとおりである。
【化3】

【0022】
式(1),(3)における[−SO3M]で表される基は、スルホン酸基またはその誘導体を示す。スルホン酸基の誘導体は、例えば、スルホン酸基の塩、およびスルホン酸基のエステル(スルホン酸エステル基)である。[−SO3M]で表される基がスルホン酸基である場合、Mは水素原子(H)である。当該基がスルホン酸基の塩である場合、Mは、金属原子またはプロトン化されたアミン化合物である。Mが金属原子のとき、当該基はスルホン酸基の金属塩となり、Mが上記アミン化合物のとき、当該基はスルホン酸基のアミン塩となる。金属原子は、例えば、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子である。当該基がスルホン酸基のエステルである場合、Mはアルキル基、特に炭素数1〜4のアルキル基である。
【0023】
本発明のポリイミドは、式(1)に示される構成単位(P)とともに、他の構成単位を含むことができる。他の構成単位は、例えば、式(2)に示される構成単位(Q)である。この場合、構成単位(P)と構成単位(Q)との組み合わせにより、例えば、本発明のポリイミドを含む電解質膜(例えば、本発明の電解質膜)が示す耐メタノール透過特性とプロトン伝導性とのバランスがさらに向上する。
【0024】
構成単位(P)と構成単位(Q)とを含む本発明のポリイミドは、式(3)に示されるスルホン酸基含有ジアミンと、以下の式(4)に示される、プロトン伝導基を有さないジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とを含むモノマー群の重縮合により、合成できる。式(4)のA2は、式(2)のA2について上述したとおり、プロトン伝導基を有さない2価の芳香族基である。
【化4】

【0025】
プロトン伝導基とは、解離しやすいプロトン(水素イオン)を有する基を意味する。プロトン伝導基は、例えば、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基であり、これらの塩、例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩およびアミン塩を含む。
【0026】
式(3)に示されるスルホン酸基含有ジアミンは式(1)におけるA1を与え、式(4)に示されるジアミンは式(2)におけるA2を与え、これらのジアミンと反応するテトラカルボン酸二無水物は式(1)および(2)におけるC1およびC2を与える。それ故、目的とするポリイミドの構成単位(P)および(Q)におけるA1、A2、C1およびC2の構造に応じて、式(3)および(4)に示されるジアミンならびにこれらのジアミンと反応させるテトラカルボン酸二無水物を決めればよい。A1、A2、C1およびC2の好ましい構造は、好ましいジアミン成分およびテトラカルボン酸二無水物について説明する以下の記述から理解される。重縮合させるモノマー群は、1種または2種以上のジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物をそれぞれ含むことができる。
【0027】
(ジアミン成分)
上述のとおり、式(3)に示されるスルホン酸基含有ジアミンは、以下の式(5)、(6)、(7)、(8)または(9)に示される化合物である。
【化5】

【0028】
式(5)、(8)および(9)におけるR1、R2およびR3は、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基である。式(6)〜(9)におけるAr1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は、互いに独立して、1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基である。これらの脂肪族基R1、R2およびR3ならびに芳香族基Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6が有していてもよい置換基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基、フェノキシ基、フェニルチオ基およびベンゼンスルホニル基から選ばれる少なくとも1種である。
【0029】
式(7)におけるZ1は、直接結合(−)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)またはスルホン基(−SO2−)である。
【0030】
式(3)、(5)〜(9)において[−SO3M]で表される基は、スルホン酸基またはその誘導体である。スルホン酸基の誘導体は、例えば、スルホン酸基の塩、およびスルホン酸基のエステル(スルホン酸エステル基)である。スルホン酸基の塩は、例えば、スルホン酸基の金属塩、スルホン酸基のアミン塩である。スルホン酸基の金属塩における金属は、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属である。
【0031】
式(3)、(5)、(8)および(9)における2価の脂肪族基R1、R2およびR3は、2価の飽和脂肪族基が好ましい。2価の飽和脂肪族基は、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基であり、好ましくはメチレン基、エチレン基である。上述したように、これら2価の脂肪族基R1、R2およびR3は1つ以上の置換基を有していてもよい。
【0032】
式(3)および(6)〜(9)における2価の芳香族基Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6が複数の(2〜4の)環構造を有する場合、当該複数の環構造は縮合環を構成していることが好ましい。2価の芳香族基Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は、例えば、フェニレン基、ナフチレン基(ナフタレンジイル基)、フェナントレンジイル基、ピレンジイル基、フルオレンジイル基であり、好ましくはフェニレン基、ナフチレン基である。芳香族基には複素芳香族基が含まれる。上述したように、これら2価の芳香族基Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6は1つ以上の置換基を有していてもよい。
【0033】
式(3)および(7)におけるZ1は、エーテル基(−O−)が好ましい。
【0034】
式(3)におけるA1は、脂肪族基R1または芳香族基Ar1であることが好ましく、芳香族基Ar1であることがより好ましい。
【0035】
式(5)に示されるスルホン酸基含有ジアミンは、例えば、2,7−ビス(アミノメトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(アミノエトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノプロポキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノプロポキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(6−アミノヘキシロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノヘキシロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノヘキシロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノヘキシロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノヘキシロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(1−アミノ−1−フェニルメトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノ−2−フェニル−エトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノ−2−フェノキシ−エトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノ−2−フェニルスルファニル−エトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノ−2−ベンゼンスルホニル−エトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−2−フェニル−プロポキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−2−フェノキシ−プロポキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−2−フェニルスルファニル−プロポキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−2−ベンゼンスルホニル−プロポキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−2−フェニル−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−2−フェノキシ−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−2−フェニルスルファニル−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−2−ベンゼンスルホニル−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−3−フェニル−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−3−フェノキシ−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−3−フェニルスルファニル−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−3−ベンゼンスルホニル−ブトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノ−3−フェニル−ペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノ−3−フェノキシ−ペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノ−3−フェニルスルファニル−ペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノ−3−ベンゼンスルホニル−ペントキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸である。
【0036】
式(6)に示されるスルホン酸基含有ジアミンは、例えば、2,7−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(5−アミノ−1−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(8−アミノ−1−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−2−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(8−アミノ−2−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4−アミノ−1−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(2−アミノ−1−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(6−アミノ−2−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(7−アミノ−2−ナフトキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(6−アミノ−1−ピレノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(8−アミノ−1−ピレノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−1−ピレノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(10−アミノ−9−フェナントレノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(7−アミノ−2−フルオレノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(8−アミノ−3−フェナントリジノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−8−フェナントリジノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(8−アミノ−6−フェニル−3−フェナントリジノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(3−アミノ−6−フェニル−8−フェナントリジノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸である。
【0037】
式(7)に示されるスルホン酸基含有ジアミンは、例えば、2,7−ビス(4’−アミノ−4−ビフェニロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス(4’−アミノ−3,3’−ジメチル−4−ビフェニロキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス[4−(4−アミノフェニルスルファニル)フェノキシ]フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス[4−(4−アミノベンゼンスルホニル)フェノキシ]フルオレン−3,6−ジスルホン酸である。
【0038】
式(8)に示されるスルホン酸基含有ジアミンは、例えば、2,7−ビス[1−(4−アミノフェニル)メトキシ]フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス[1−(3−アミノフェニル)メトキシ]フルオレン−3,6−ジスルホン酸、2,7−ビス[1−(2−アミノフェニル)メトキシ]フルオレン−3,6−ジスルホン酸である。
【0039】
式(9)に示されるスルホン酸基含有ジアミンは、例えば、2,7−ビス{4−[1−(4−アミノフェニル)−2,2,2−トリフルオロ−1−トリフルオロメチルエチル]フェノキシ}フルオレン−3,6−ジスルホン酸である。
【0040】
式(3)に示されるスルホン酸基含有ジアミンの合成方法は限定されないが、以下の方法により、比較的容易かつ効率的に合成できる。
【0041】
当該方法は:
式(10)に示される2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノンと、式(11)に示される化合物〔a〕との縮合反応により、式(12)に示される化合物〔b〕を得る(反応1)工程と;
【化6】

化合物〔b〕のフルオレン骨格における9位のケトン基を還元して、9位の炭素原子にヒドロキシ基が結合した状態とした後に、当該ヒドロキシ基をアセチル化して、式(13)に示される化合物〔c〕を得る(反応2)工程と;
【化7】

化合物〔c〕のフルオレン骨格におけるアセトキシ基が結合した9位の炭素原子ならびに当該骨格における2位および7位の炭素原子に結合した前記化合物〔a〕由来の置換基に含まれるニトロ基を還元して、式(14)に示されるジアミン〔d〕を得る(反応3)工程と;
【化8】

ジアミン〔d〕に対してスルホン化反応を行うことにより、フルオレン骨格における芳香環の炭素原子にスルホン酸基またはその誘導体を導入して、式(3)に示されるスルホン酸基含有ジアミンを得る(反応4)工程と;を含む。
【0042】
式(11)に示される化合物〔a〕が有するXは、ハロゲン基である。当該基を構成するハロゲンの種類は、F、Cl、BrまたはIであり、F、ClまたはBrが好ましく、FまたはClがより好ましい。式(11)〜(14)におけるA1は、式(1),(3)のA1について上述したとおりである。式(11)におけるA1は、途中の反応でその分子構造が変化しない限り、式(3)におけるA1と同じである。式(11)に示される化合物〔a〕が有するA1は、得たいジアミンにおける、アミノ基を有する置換基に応じて選択すればよく、例えば、得たいジアミンを式(3)に表したときに、当該式(3)におけるA1と同じであればよい。
【0043】
反応1は塩基性触媒の存在下で効率よく進行する。塩基性触媒は、例えば、アルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、水素化物およびアルコキシドである。具体的な塩基性触媒は、例えば、酸化ナトリウム、酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、水素化ナトリウム、カリウム−t−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドである。2種以上の塩基性触媒を使用してもよい。塩基性触媒の使用量は、例えば、2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノンに対して1.0〜5.0当量、好ましくは2.0〜4.0当量である。
【0044】
反応1では、反応促進剤として、4級アンモニウム塩、4級リン酸塩、クラウンエーテルなどの大環状ポリエーテル、クリプタンドなどの含窒素大環状ポリエーテル、含窒素鎖状ポリエーテル、ポリエチレングリコールおよびそのアルキルエーテルなどの相間移動触媒、銅粉、銅塩などを併用してもよい。
【0045】
反応1では、フルオレン骨格における9位がケトン基であるフルオレノンを出発物質として用いているため、9位の炭素原子への置換基の結合が抑制される。これにより、続く反応2〜4を経て、式(3)に示されるスルホン酸基含有ジアミンを効率よく合成することができる。本発明者らが2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノンの代わりに2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレンを出発物質として用いて反応1と同様の反応を進行させたところ、9位の炭素原子に置換基が結合することが確認された。
【0046】
反応2では、フルオレン骨格における9位の炭素原子にアセトキシ基が結合した化合物〔c〕を得ている。式(3)に示されるジアミンを得るためには、反応1で得た化合物〔b〕の9位のケトン基を還元してメチレン基にする必要がある。しかし、化合物〔b〕のケトン基に対する還元反応は、9位の炭素原子にヒドロキシ基が結合した状態までしか進行しない。そこで、ヒドロキシ基が結合した状態まで還元反応を進行させた後、一度、ヒドロキシ基をアセチル化し、9位の炭素原子にアセトキシ基(−OAc)が結合した状態とする。この状態(化合物〔c〕)とすることによって初めて、フルオレン骨格における9位のケトン基をメチレン基にまで還元することが可能となる。
【0047】
反応2におけるケトン基の還元反応は、例えば、水素化、ヒドリド還元、金属還元などの手法により進行させればよい。各手法に使用される還元剤および/または触媒は特に限定されない。水素化および金属還元には、例えば、ニッケル、銅−酸化クロム、ルテニウム、ロジウム、白金などの金属の微粉末、当該微粉末を活性炭、アルミナ、珪藻土などの不溶性担体に吸着させた触媒、有機物と金属との複合体などを使用できる。ヒドリド還元には、例えば、ジボラン、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素リチウム、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素カリウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化トリブチルスズなどを使用できる。
【0048】
反応2におけるアセチル化は、無水酢酸またはアセチルクロライドなどを用いて進行させることができる。
【0049】
反応3における還元反応は、例えば、水素化、ヒドリド還元、金属還元などの手法により進行させればよい。各手法に用いられる還元剤および/または触媒は、反応2におけるケトン基の還元反応において使用したものと同様であってよい。反応3における9位の炭素原子の還元およびニトロ基の還元は、同時に行ってもよいし、分離して行ってもよい。
【0050】
反応1〜3において用いられる反応溶媒は、各反応が進行する限り特に限定されないが、非プロトン性極性溶媒であることが好ましい。具体的な反応溶媒としては、例えば、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、N−メチル−2−ピロリジノン、N−メチルピロリドン(NMP)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア、ヘキサメチルホスホトリアミド、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトンである。反応溶媒の使用量は特に限定されないが、例えば、反応物質の全量に対して、1〜20重量倍である。反応1で使用した非プロトン性極性溶媒は、反応1の後も引き続き反応2、3の反応溶媒として使用することができる。
【0051】
反応4のスルホン化反応において用いられるスルホン化剤は、化合物〔d〕のフルオレン骨格における芳香環にスルホン酸基またはその誘導体を導入できるものである限り特に制限はなく、スルホン化剤として通常用いられている種々のスルホン化剤を用いることができる。具体的なスルホン化剤は、例えば、発煙硫酸、硫酸、無水硫酸(三酸化硫黄)、クロロスルホン酸、1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン−3−スルホン酸、1,2,3,4,5−ペンタメチルベンゼン−6−スルホン酸である。中でも、発煙硫酸、クロロスルホン酸、1,3,5−トリメチルベンゼン−2−スルホン酸が好ましく、発煙硫酸がより好ましい。
【0052】
反応4では、化合物〔d〕のフルオレン骨格における2位および7位の炭素原子が電子供与性のエーテル結合を有していることにより、得られる生成物はほぼ全て、3位および6位の炭素原子にスルホン酸基またはその誘導体が導入された、式(3)に示されるスルホン酸基含有ジアミンである。
【0053】
反応1〜4における反応温度、反応時間など、反応条件の詳細は適宜調整できる。また、必要に応じて、反応1〜4以外の任意の反応ならびに任意の工程を実施してもよい。例えば、反応4で得られた化合物がスルホン酸基(−SO3H)を有する場合、すなわち式(3)のMが水素原子である場合、その取り扱いを容易にするため、反応4の後にスルホン酸基を保護する工程を追加してもよい。スルホン酸基は、例えば、当該基を塩に変換する(スルホン酸基の塩に変化させる)ことにより保護される。塩への変換は、例えば、スルホン酸基を塩基と反応させることにより実施できる。
【0054】
式(11)に示される化合物〔a〕は、式(12)〜(14)および式(3)におけるA1を与える。このため、目的とする式(3)に示されるスルホン酸基含有ジアミンにおけるA1の構造に応じて、式(11)に示される化合物〔a〕(ならびに式(12)〜(14)に示される化合物〔b〕、〔c〕および〔d〕)を決めればよい。式(12)〜(14)および式(3)におけるA1は、途中の反応で分子構造が変化しない限り、式(11)におけるA1と同じである。
【0055】
式(4)に示されるジアミンは、テトラカルボン酸二無水物との重縮合によりポリイミドが形成される構造を有するとともに、プロトン伝導基を有さない2価の芳香族基A2を有する限り特に限定されない。より具体的に、式(4)に示されるジアミンは、例えば、プロトン伝導基を有さない、少なくとも1つの芳香環を有する芳香族ジアミンである。式(4)に示されるジアミンは、例えば、特表2000−510511号公報および特開2003−68326号公報に記載されている、プロトン伝導基を有さない芳香族ジアミンである。
【0056】
芳香環を有するジアミン(芳香族ジアミン)は、少なくとも1つのアミノ基が芳香族基に結合した分子構造を有する。芳香族ジアミンは、典型的には、2つのアミノ基が芳香族基に結合した構造を有する。この場合、各々のアミノ基が結合する芳香族基は同一であっても互いに異なっていてもよい。芳香族基は、単環式であっても多環式であってもよく、多環式の場合、縮合環を有していてもよい。また、芳香族基は、芳香族炭化水素基であっても複素芳香族基であってもよい。芳香環中の一部の水素原子が、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、フェニル基などの置換基によって置換されていてもよい。置換基は、典型的には、炭素数1〜6のアルキル基(例えばメチル基)、炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基(例えばCF3基)、フェニル基である。
【0057】
(テトラカルボン酸二無水物)
構成単位(P),(Q)におけるC1およびC2を与えるテトラカルボン酸二無水物は、ジアミンとの重縮合によりポリイミドを形成することができる限り、特に限定されない。テトラカルボン酸二無水物は、少なくとも1つの芳香環を有することが好ましい。言い換えれば、C1およびC2から選ばれる少なくとも1つが、1以上の芳香環を含む4価の基であることが好ましい。
【0058】
1およびC2は、互いに独立して、「置換基を有していてもよい、6〜10の炭素原子からなる芳香族炭化水素基」および/または「置換基を有していてもよい、5〜10の炭素原子とS,NおよびOから選ばれる少なくとも一つのヘテロ原子とからなる複素芳香族基」を含む4価の基であることが好ましい。テトラカルボン酸二無水物において、2つのジカルボン酸無水物基は、上記芳香族炭化水素基および/または上記複素芳香族基に直接結合していることが好ましい。
【0059】
テトラカルボン酸二無水物は、例えば、パラ−ターフェニル−3,4,3’’,4’’−テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−ケトジナフタレン−1,1’,8,8’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビナフタレン−1,1’,8,8’−テトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−スルホニルジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、メタ−ターフェニル−3,3’’,4,4’’−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、1−(2,3−ジカルボキシフェニル)−3−(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物である。
【0060】
ポリイミド系高分子電解質膜としての耐水性、耐酸化性、電気化学的安定性を考慮すると、テトラカルボン酸二無水物は、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−ケトジナフタレン−1,1’,8,8’−テトラカルボン酸二無水物および4,4’−ビナフタレン−1,1’,8,8’−テトラカルボン酸二無水物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、2種以上のテトラカルボン酸二無水物を併用することもできる。
【0061】
これらテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを含むモノマー群の重縮合によって、ポリイミドが形成される。
【0062】
(ポリイミド系高分子電解質膜)
本発明のポリイミド系高分子電解質膜は、構成単位(P)を含む本発明のポリイミドを主成分として含む。ここで主成分とは、ポリイミド系高分子電解質膜における含有率が最大の成分をいい、当該含有率は典型的には50重量%であり、60重量%以上が好ましく、70重量%以上がさらに好ましい。本発明のポリイミド系高分子電解質膜は、本発明のポリイミドからなってもよい。
【0063】
本発明のポリイミドにおける構成単位(P)の含有率は特に限定されないが、例えば、5〜100モル%であり、50〜91モル%が好ましい。本発明のポリイミドが構成単位(Q)をさらに含む場合、当該ポリイミドにおける構成単位(Q)の含有率は特に限定されないが、例えば、1〜95モル%であり、9〜50モル%が好ましい。本発明のポリイミドにおける構成単位(P)および構成単位(Q)の含有率は、例えば、カルボン酸二無水物と重縮合させる、式(3)および式(4)に示される各ジアミンの量を調節することによって制御できる。
【0064】
上述したように、本発明の電解質膜では、構成単位(P)に由来する種々の特性の獲得が期待される。例えば、構成単位(P)に由来して、耐メタノール透過特性(電解質膜の厚さ方向へのメタノールの透過を抑制する特性)とプロトン伝導性との高いバランスを有する電解質膜が得られる。このような特性が得られる理由は明確ではない。しかし、本発明者らは、(1)構成単位(P)がプロトン伝導性に優れるスルホン酸基またはその誘導体を有することと、(2)高い平面性を有するフルオレン骨格の2位および7位の炭素原子にポリイミドの主鎖をなす置換基が結合した構造を構成単位(P)が有することによって、ポリイミド分子の平面性が非常に高くなり、当該骨格が電解質膜の面方向に平行な状態で積み重なるように配置され易くなることと、の組み合わせが原因の一つであると推定する。このような配置には、ポリイミドの主鎖におけるフルオレン骨格に隣接した部分にエーテル結合が存在することによってポリイミドの分子鎖が高い回転性を示すことも寄与していると推定される。また、エーテル結合の存在によるポリイミドの分子鎖の高い回転性によって、高い屈曲性および可撓性を示す電解質膜となることが期待される。
【0065】
本発明のポリイミドが構成単位(Q)をさらに含む場合、本発明の電解質膜では、構成単位(Q)に由来する種々の特性の獲得がさらに期待される。例えば、構成単位(Q)をさらに含むことにより、プロトン伝導性が向上した電解質膜が得られ、耐メタノール透過特性とプロトン伝導性とのバランスも向上する。これは、構成単位(P)および(Q)が相互作用して電解質膜におけるポリイミドのパッキング性が向上することにより、電解質膜におけるプロトン伝導基の繋がりが、プロトン伝導性の向上に寄与する配置となるからであると推定される。
【0066】
本発明のポリイミド系高分子電解質膜のイオン交換容量は、0.5〜3.0meq/gが好ましく、1.0〜2.5meq/gがより好ましい。イオン交換容量が過度に大きいと、使用時に電解質膜の膨潤度が高くなることにより、膜の変形、耐メタノール透過特性の低下などが生じることがある。イオン交換容量が過度に小さいと電解質膜のプロトン伝導性が低下し、電解質膜として十分な発電特性が得られないことがある。イオン交換容量は、例えば、電解質膜の組成および電解質膜を構成するポリイミドの組成(例えば、構成単位(P),(Q)の種類および含有率ならびに含まれる構成単位の組み合わせ)によって調整できる。
【0067】
本発明のポリイミド系高分子電解質膜の形成方法は特に限定されず、公知の手法を適用できる。例えば、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを重合させてポリイミドを形成し、当該ポリイミドを含む溶液を基板上にキャストし、乾燥すればよい。形成した膜におけるプロトン伝導基が塩の形(例えば、スルホン酸基のアルカリ金属塩など)である場合、当該基をプロトン型に変化させて(プロトン交換して)最終的な電解質膜とすることが好ましい。プロトン交換の方法には、酸を用いたイオン交換処理など、公知の手法を適用できる。
【0068】
本発明のポリイミド系高分子電解質膜の厚さは、一般的な固体高分子型燃料電池(PEFC)に用いる場合には10〜200μmが好ましく、機械的強度、プロトン伝導性および耐メタノール透過特性のバランスを考慮すると20〜100μmが好ましい。電解質膜の厚さが過小になると、プロトン伝導性は向上するものの、機械的強度および耐メタノール透過特性の低下が大きくなり、電解質膜としての実用性が低下することがある。厚さが過大になると、機械的強度および耐メタノール透過特性は向上するものの、プロトン伝導性が低下してPEFCへの使用が困難となることがある。
【0069】
本発明のポリイミド系高分子電解質膜は、高い耐メタノール透過特性を示す。本発明のポリイミド系高分子電解質膜が示す、温度60℃におけるメタノール透過率は、例えば、0.035mmol/(hr・cm)以下であり、電解質膜の組成および電解質膜を構成するポリイミドの組成によっては、0.030mmol/(hr・cm)以下、0.025mmol/(hr・cm)以下、さらには0.020mmol/(hr・cm)以下となる。
【0070】
本発明のポリイミド系高分子電解質膜は、高いプロトン伝導性を示す。本発明のポリイミド系高分子電解質膜が示すプロトン伝導度は、例えば、0.17S/cm以上であり、電解質膜の組成および電解質膜を構成するポリイミドの組成によっては、0.20S/cm以上、0.25S/cm以上、0.30S/cm以上、さらには0.35S/cm以上となる。
【0071】
プロトン伝導性と耐メタノール透過特性とのバランスもまた、電解質膜として重要な特性である。メタノールの透過性に対するプロトンの透過性が大きい程、電解質膜、特にDMFCの電解質膜として好ましいといえる。本発明のポリイミド系高分子電解質膜は、耐メタノール透過特性とプロトン伝導性とのバランスを従来になく良好にできる。本発明のポリイミド系高分子電解質膜が示す、メタノール透過率(MCO)に対するプロトン伝導度(κ)の比(κ/MCO)は、例えば、5000(S・hr)/mol以上であり、電解質膜の組成および電解質膜を構成するポリイミドの組成によっては、7000(S・hr)/mol以上、8000(S・hr)/mol以上、さらには10000(S・hr)/mol以上となる。
【0072】
本発明のポリイミド系高分子電解質膜は、本発明のポリイミドを主成分として含むとともに、本発明の効果が得られる限り、本発明のポリイミド以外の樹脂および/または添加剤を含んでいてもよい。本発明のポリイミド以外の樹脂は、例えば、ポリアリーレンエーテル、ポリエーテルスルホンである。当該樹脂は、本発明のポリイミド以外のポリイミドであってもよい。添加剤は、例えば、架橋剤、酸化防止剤、ラジカルクエンチャー、シリカゲルなどの無機フィラーである。
【0073】
本発明のポリイミド系高分子電解質膜の用途は特に限定されず、例えば、PEFCの電解質膜(PEM)として使用できる。耐メタノール透過特性とプロトン伝導性とのバランスの観点からは、特に、DMFCの電解質膜としての使用が好適である。
【0074】
(膜−電極接合体)
本発明の膜−電極接合体(MEA)の一例を図1に示す。図1に示すMEA1は、高分子電解質膜2と当該電解質膜2を狭持するように配置された一対の電極(アノード電極3およびカソード電極4)とを備える。電解質膜2と電極3,4とは互いに接合されている。
【0075】
電解質膜2は、本発明のポリイミド系高分子電解質膜を有する。電解質膜2は、本発明のポリイミド系高分子電解質膜の片面もしくは両面に他の電解質膜を積層させることにより形成される積層体であってもよい。電解質膜の積層は、塗布法およびプレス法などの公知の手法により行うことができる。電解質膜2は、一層の本発明のポリイミド系高分子電解質膜から構成されていてもよい。
【0076】
アノード電極(燃料極)3およびカソード電極(空気極)4の構成は、それぞれ、一般的なMEAのアノード電極、カソード電極と同様であればよい。
【0077】
MEA1は、電解質膜2と電極3,4とを熱プレスするなど、公知の手法により形成できる。
【0078】
(固体高分子型燃料電池)
本発明の固体高分子型燃料電池(PEFC)の一例を図2に示す。図2に示す固体高分子型燃料電池11は、電解質膜2と当該電解質膜2を狭持するように配置された一対の電極(アノード電極3およびカソード電極4)とを備える本発明の膜−電極接合体(MEA)1、およびMEA1を狭持するように配置された一対のセパレータ(アノードセパレータ5およびカソードセパレータ6)を備える。燃料電池11を構成する各部材は、当該部材の主面に垂直な方向に圧力が印加された状態で、互いに接合されている。
【0079】
アノードセパレータ5およびカソードセパレータ6の構成は、それぞれ、一般的なPEFCにおける各部材と同様であればよい。本発明の燃料電池は、特に、燃料としてメタノールを含む溶液を用いるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)に適している。本発明の燃料電池は、必要に応じて図2に示す以外の部材を備えていてもよい。また、図2に示す燃料電池11はいわゆる単セルであるが、本発明の燃料電池はこのような単セルを複数積層したスタックであってもよい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0081】
(ジアミンの合成)
[反応1]
2,7−ジヒドロキシ−9−フルオレノン100.0g(471.3mmol)、化合物〔a〕として4−フルオロニトロベンゼン146.3g(1036.8mmol)、触媒として炭酸カリウム260.5g(1885.0mmol)および反応溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)1000mLを内容積2Lの四つ口セパラブルフラスコに収容し、フラスコ内の混合物を攪拌しながら、窒素雰囲気下、90℃にて3時間、以下の式(15)に示される反応を進行させた。反応終了後、フラスコの内容物を室温に冷却し、その後、氷水10L中に注入して析出した結晶を濾取した。濾取した結晶を、水およびエタノールで順次洗浄した後、減圧乾燥して、式(15)の右辺に示される化合物〔b〕197.4g(収率92.2%)を、黄土色結晶として得た。式(15)の右辺に示される化合物〔b〕は、2,7−ビス(4−ニトロフェノキシ)−9−フルオレノンである。
【化9】

【0082】
[反応2]
反応1で得た化合物〔b〕150.0g(330.1mmol)、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム61.2g(1617.6mmol)および塩化アルミニウム(III)123.3g(924.3mmol)ならびに反応溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)2.3Lを内容積3Lの四つ口セパラブルフラスコに収容し、フラスコ内の混合物を窒素雰囲気下にて一晩環流させ、以下の式(16)に示される反応を進行させた。次に、アイスバスで冷却しながらフラスコ内に水1Lを滴下し、クエンチした。次に、酢酸エチルによる反応生成物の抽出を行い、抽出物を硫酸ナトリウムにより乾燥した後、減圧濃縮し、ヘプタンによる晶析を経て、式(16)の右辺に示される化合物(2,7−ビス(4−ニトロフェノキシ)−9−ヒドロキシフルオレン)154.1g(収率102.3%)を黄色結晶として得た。
【化10】

【0083】
次に、得られた化合物150.0g(328.7mmol)と、ジクロロメタン2Lと、トリエチルアミン39.9g(394.4mmol)と、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)4.0g(32.9mmol)とを、内容積3Lの四つ口セパラブルフラスコに収容し、フラスコ内を窒素雰囲気に保ちながら、全体を氷冷した。そこにアセチルクロリド31.0g(394.4mmol)を滴下し、3時間攪拌した後、フラスコ内の混合物を室温に戻してから一晩攪拌し続けることで、以下の式(17)に示される反応を進行させた。次に、フラスコの内容物を氷水3Lに投入した後に、ジクロロメタンによる反応生成物の抽出を行い、抽出物を硫酸ナトリウムにより乾燥した後、減圧濃縮し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル:1000g、展開溶媒:ジクロロメタン)にて精製した。これにより得られた結晶をTHF/ヘプタンにて晶析させて、式(17)の右辺に示される化合物〔c〕159.7g(収率97.5%)を、微オレンジ色結晶として得た。式(17)の右辺に示される化合物〔c〕は、2,7−ビス(4−ニトロフェノキシ)−9−アセトキシフルオレンである。
【化11】

【0084】
[反応3]
反応2で得た化合物〔c〕159.0g(319.0mmol)、還元剤として10重量%パラジウム−活性炭素エチレンジアミン複合体15.9gおよび反応溶媒としてTHF3L(リットル)を内容積5Lの四つ口セパラブルフラスコに収容し、フラスコ内を水素雰囲気に保ちながら、室温で二日間、フラスコ内容物の攪拌を続け、以下の式(18)に示される反応を進行させた。反応終了後、セライト濾過により、フラスコ内容物から触媒を取り除いた後、濾液を減圧濃縮し、ヘプタンで晶析させた。晶析させた結晶をさらに少量のTHFに溶解させ、THF/エタノールで晶析させて、式(18)の右辺に示される化合物〔d〕101.1g(収率83.3%)を、白色結晶として得た。式(18)の右辺に示されるジアミン〔d〕は、2,7−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン(BAPF)である。
【化12】

【0085】
[反応4]
反応3で得た化合物〔d〕47.6g(125.0mmol)と濃硫酸100mLとを内容積2Lの四つ口セパラブルフラスコに収容し、フラスコ内の混合物を撹拌しながら、50℃まで昇温することにより化合物〔d〕を溶解させた。溶解後、氷冷により全体を0℃にまで冷却してフラスコ内容物を撹拌しながら、三酸化硫黄の含有量が60重量%の発煙硫酸17.5mLをフラスコ内に少しずつ滴下した。氷冷による冷却は、滴下が終了した後30分が経過するまで継続し、この後にフラスコ内容物を昇温させ、50℃にて2時間撹拌を続けることにより、以下の式(19)に示される反応を進行させた。反応終了後、反応溶液を室温にまで冷却し、これを500mLの氷水中に注入し、この水溶液中に析出した固形物を吸引濾過により濾別した。濾別した固形物を濃度1Nの水酸化ナトリウム水溶液1L中に溶解させ、セライト濾過により不純物を除去した。得られた濾液を撹拌しながら濃塩酸を少しずつ滴下し、溶液の液性を弱酸性とすることで白色固形物が析出した。この固形物に対して吸引濾過を行い、濾別した固形物を蒸留水で洗浄して再び吸引濾過を行った。濾別した固形物をメタノールで洗浄した後、吸引濾過を行った。濾別した固形物を90℃にて12時間、減圧乾燥させることにより、式(19)の右辺に示される2,7−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸(BAPFDS)55.0g(収率81.4%)を白色結晶として得た。
【化13】

【0086】
得られた2,7−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン−3,6−ジスルホン酸(BAPFDS)は、核磁気共鳴分光装置(ブルカー・バイオスピン社製 AVANCE II 300)により1H−NMRおよび13C−NMR測定(周波数300MHz、測定溶媒:ジメチルスルホキシド−d6(DMSO−d6))を行うことで同定された。BAPFDS自体はDMSO−d6に不溶であるため、少量のトリエチルアミン(NEt3)を添加してBAPFDSのスルホン酸基をスルホン酸基トリエチルアンモニウム塩へと変化させ、DMSO−d6に可溶とした。こうして得たBAPFDSのトリエチルアンモニウム塩に対して各種のNMR測定を行った。得られた1H−NMRスペクトルおよび13C−NMRスペクトルを、それぞれ図3,4に示す。また、これらのスペクトルの帰属を以下に示す。図3,4に示すように、スペクトルのピークは、BAPFDSが有する6種類の水素原子および11種類の炭素原子に帰属された。
【0087】
1H−NMR(300MHz,DMSO−d6,δ in ppm)
3.665(2H,CH2),4.883(4H,NH2),6.555−6.576(4H,CH),6.744−6.766(6H,CH),8.040(2H,CH)
13C−NMR(300MHz,DMSO−d6,δ in ppm)
36.219(CH2),113.986(CH),114.686(CH),118.816(CH),121.315(CH),133.476(C−S),136.462(C=C),144.871−144.969(C−N,C=C),147.102(C−O),155.276(C−O)
【0088】
(実施例1)
このようにして得たBAPFDS2.16gと、m−クレゾール15mLと、トリエチルアミン1.15mLとを内容積100mLの四つ口フラスコに収容し、窒素気流下、内温80℃にて撹拌して、均一な溶液を形成した。溶液の形成後、フラスコ内に1.07gのナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物(NTDA)と、1.15gの安息香酸とを加え、窒素気流下、180℃にて20時間撹拌することで重合を進行させた。重合終了後、得られた重合溶液をアセトン中に滴下し、析出した固形物を濾別、乾燥して重合体を得た。
【0089】
次に、得られた重合体を、濃度が8重量%となるようにm−クレゾールに溶解させて、キャスト溶液を調製した。次に、調製したキャスト溶液を、ガラス板上に厚さ800μmとなるように塗布してキャスト膜を形成し、120℃にて12時間乾燥させることにより、ポリイミドフィルムを得た。次に、得られたポリイミドフィルムを濃度1.0mol/Lの硫酸水溶液に室温にて48時間浸漬させて、ポリイミドフィルムにおけるスルホン酸基のエチレンジアミン塩をスルホン酸基に変化させるプロトン交換を行った。次に、得られたフィルムを純水で洗浄することにより残留する硫酸を除去し、150℃にて3時間真空乾燥して、本発明のポリイミドから構成される本発明のポリイミド系高分子電解質膜を得た。
【0090】
(実施例2)
上記で得たBAPFDS2.70gと、以下の式(20)に示される2,7−ジアミノフルオレン(DAF)0.196gと、m−クレゾール30mLと、トリエチルアミン1.43mLとを内容積100mLの四つ口フラスコに収容し、窒素気流下、内温80℃にて撹拌して、均一な溶液を形成した。溶液の形成後、フラスコ内に1.61gのNTDAと、1.43gの安息香酸とを加え、窒素気流下、180℃にて20時間撹拌することで重合を進行させた。重合終了後、得られた重合溶液をアセトン中に滴下し、析出した固形物を濾別、乾燥して重合体を得た。
【0091】
次に、得られた重合体を、濃度が8重量%となるようにm−クレゾールに溶解させて、キャスト溶液を調製した。次に、調製したキャスト溶液を、ガラス板上に厚さ800μmとなるように塗布してキャスト膜を形成し、120℃にて12時間乾燥させることにより、ポリイミドフィルムを得た。次に、得られたポリイミドフィルムを濃度1.0mol/Lの硫酸水溶液に室温にて48時間浸漬させて、ポリイミドフィルムにおけるスルホン酸基のエチレンジアミン塩をスルホン酸基に変化させるプロトン交換を行った。次に、得られたフィルムを純水で洗浄することにより残留する硫酸を除去し、150℃にて3時間真空乾燥して、本発明のポリイミドから構成される本発明のポリイミド系高分子電解質膜を得た。
【化14】

【0092】
(比較例1)
以下の式(21)に示される4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸(BAPBDS)2.43gと、DAF0.451gと、m−クレゾール15mLと、トリエチルアミン1.32mLとを内容積100mLの四つ口フラスコに収容し、窒素気流下、内温80℃にて撹拌して、均一な溶液を形成した。溶液の形成後、フラスコ内に1.85gのNTDAと、1.32gの安息香酸とを加え、窒素気流下、180℃にて20時間撹拌することで重合を進行させた。重合終了後、得られた重合溶液をアセトン中に滴下し、析出した固形物を濾別、乾燥して重合体を得た。
【0093】
次に、得られた重合体を、濃度が8重量%となるようにm−クレゾールに溶解させて、キャスト溶液を調製した。次に、調製したキャスト溶液を、ガラス板上に厚さ800μmとなるように塗布してキャスト膜を形成し、120℃にて12時間乾燥させることにより、ポリイミドフィルムを得た。次に、得られたポリイミドフィルムを濃度1.0mol/Lの硫酸水溶液に60℃にて24時間浸漬させて、ポリイミドフィルムにおけるスルホン酸基のエチレンジアミン塩をスルホン酸基に変化させるプロトン交換を行った。次に、得られたフィルムを純水で洗浄することにより残留する硫酸を除去し、150℃にて12時間真空乾燥して、ポリイミド系高分子電解質膜を得た。
【化15】

【0094】
(比較例2)
BAPBDS2.43gと、m−クレゾール15mLと、トリエチルアミン1.32mLとを内容積100mLの四つ口フラスコに収容し、窒素気流下、内温80℃にて撹拌して、均一な溶液を形成した。溶液の形成後、フラスコ内に1.85gのNTDAと、1.32gの安息香酸とを加え、窒素気流下、180℃にて20時間撹拌することで重合を進行させた。重合終了後、得られた重合溶液をアセトン中に滴下し、析出した固形物を濾別、乾燥して重合体を得た。
【0095】
次に、得られた重合体を、濃度が8重量%となるようにm−クレゾールに溶解させて、キャスト溶液を調製した。次に、調製したキャスト溶液を、ガラス板上に厚さ800μmとなるように塗布してキャスト膜を形成し、120℃にて12時間乾燥させることにより、ポリイミドフィルムを得た。次に、得られたポリイミドフィルムを濃度1.0mol/Lの硫酸水溶液に60℃にて24時間浸漬させて、ポリイミドフィルムにおけるスルホン酸基のエチレンジアミン塩をスルホン酸基に変化させるプロトン交換を行った。次に、得られたフィルムを純水で洗浄することにより残留する硫酸を除去し、150℃にて12時間真空乾燥して、ポリイミド系高分子電解質膜を得た。
【0096】
(比較例3)
市販のナフィオン115(デュポン社製)からなる膜を、比較例3の電解質膜とした。
【0097】
実施例1,2および比較例1〜3で作製した電解質膜について、そのイオン交換容量、プロトン伝導度およびメタノール透過率を測定することにより、特性を評価した。これらの特性の評価方法を以下に説明する。
【0098】
(イオン交換容量 IEC)
電解質膜(面積:約12cm2)を濃度3mol/Lの塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、ウォーターバスにより水溶液を60℃に昇温して12時間以上保持した。次に、水溶液を室温まで冷却した後、電解質膜を水溶液から取り出してイオン交換水で十分に洗浄した。洗浄に用いたイオン交換水は全て、電解質膜を取り出した後の水溶液に加えた。次に、電解質膜を取り出した後の水溶液に含まれるプロトン(水素イオン)量を、電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、AT−510)を用いて濃度0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液で滴定して求め、求めたプロトン量と、塩化ナトリウム水溶液に浸漬する前にあらかじめ測定しておいた電解質膜の重量とから、電解質膜のイオン交換容量[meq/g]を求めた。
【0099】
(プロトン伝導度 κ)
電解質膜の膜厚方向の膜抵抗Rmを、当該電解質膜を濃度1Mの硫酸水溶液に浸漬した状態で測定した。膜抵抗Rmは、直流4端子法により電解質膜の膜厚方向に0〜0.3Aの範囲で電流を印加して電圧を測定し、印加電流に対する電圧の傾きを求めることにより得た。なお、測定に用いた電解質膜は、硫酸水溶液に浸漬させる前に、予め25℃の水に1時間以上浸漬し膨潤させた。プロトン伝導度(κ)は、以下の式(22)により求めることができる。
【数1】

式(22)における、κはプロトン伝導度[S/cm]、d1は測定前の電解質膜の厚さ[cm]、Rmは膜抵抗[Ω]、S1は電解質膜における測定面積[cm2]である。
【0100】
(メタノール透過率 MCO)
電解質膜を隔壁として、同一形状の一対のガラス容器を、その開口部において互いに連結した。次に、一方のガラス容器に、当該容器における上記とは別の開口部から濃度3mol/Lのメタノール水溶液(温度60℃)を、他方のガラス容器に、当該容器における上記とは別の開口部から蒸留水(温度60℃)を注ぎ入れた。その後、電解質膜を介して蒸留水側に透過したメタノールの量を、容器全体をウォーターバスにより60℃に保持した状態で一定時間ごとに定量した。メタノールの定量はガスクロマトグラフィ(GC)により行い、定量には、所定の濃度のメタノール水溶液に対するGC測定から作成した検量線を使用した。定量したメタノール量を経過時間に対してプロットし、当該プロットの傾きから、以下の式(23)により電解質膜のメタノール透過率(MCO)を求めた。電解質膜のメタノール透過率が低い程、耐メタノール透過特性が高い電解質膜である。
【数2】

式(23)におけるMCOはメタノール透過率[mmol/(hr・cm)]、tはプロットの傾き[mmol/hr]、d2はMCOを評価した直後に測定した、膨潤した電解質膜の厚さ[cm]、S2は電解質膜における隔壁部分の面積[cm2]である。
【0101】
測定結果を表1に示す。表1中の「Φ」は、電解質膜におけるメタノール透過率(MCO)に対するプロトン伝導度(κ)の比(κ/MCO)である。
【0102】
【表1】

【0103】
表1に示すように、実施例1,2で作製した本発明のポリイミド系高分子電解質膜、特に実施例2の電解質膜は、広く使用されているナフィオン115からなる電解質膜(比較例3)を凌ぐ高いプロトン伝導度を示した。また、実施例1,2の電解質膜は、低いメタノール透過率を示すとともに、極めて高いΦ値を示した。すなわち、実施例1,2の電解質膜は、プロトン伝導性と耐メタノール透過特性とのバランスが非常に高い電解質膜であった。一方、比較例1〜3で作製した電解質膜は、低いΦ値を示し、プロトン伝導性と耐メタノール透過特性とのバランスに劣る電解質膜であった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のポリイミドは、従来のポリイミドと同様の用途に使用でき、特に、電解質膜の用途に好適に使用できる。本発明のポリイミド系高分子電解質膜は、メタノールを含む溶液を燃料極に供給するDMFCなど、様々なPEFCの電解質膜として使用できる。本発明のポリイミド系高分子電解質膜の使用により、従来の高分子電解質膜を使用したときに比べて、PEFCの発電特性の向上が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)に示される構成単位(P)を含むポリイミド。
【化1】

ここで、[−SO3M]で表される基は、スルホン酸基、スルホン酸基の塩またはスルホン酸基のエステルである。
[−O−A1−]で表される部分構造におけるA1は:
置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基R1
1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基Ar1
式[−Ar2−Z1−Ar3−]に示される基(Ar2およびAr3は1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基であり、同一であっても互いに異なっていてもよい。Z1は、直接結合(−)、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)またはスルホン基(−SO2−)である);
式[−R2−Ar4−]に示される基(R2は置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基である。Ar4は1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基である);または、
式[−Ar5−R3−Ar6−]に示される基(Ar5およびAr6は1〜4の環構造を有する、置換基を有していてもよい2価の芳香族基であり、同一であっても互いに異なっていてもよい。R3は置換基を有していてもよい炭素数1〜10の2価の脂肪族基である);であり、
脂肪族基R1、R2およびR3ならびに芳香族基Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5およびAr6が有していてもよい前記置換基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基、フェノキシ基、フェニルチオ基およびベンゼンスルホニル基から選ばれる少なくとも1種である。
1は、4価の基である。
【請求項2】
前記構成単位(P)と以下の式(2)に示される構成単位(Q)とを含む請求項1に記載のポリイミド。
【化2】

ここで、A2はプロトン伝導基を有さない2価の芳香族基であり、C2は4価の基である。
【請求項3】
以下の式(3)に示されるスルホン酸基含有ジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とを含むモノマー群の重縮合により得られる、請求項1に記載のポリイミド。
【化3A】

【請求項4】
以下の式(3)に示されるスルホン酸基含有ジアミンと、以下の式(4)に示される、プロトン伝導基を有さないジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とを含むモノマー群の重縮合により得られる、請求項2に記載のポリイミド。
【化3B】

【化4】

【請求項5】
前記テトラカルボン酸二無水物が、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−ケトジナフタレン−1,1’,8,8’−テトラカルボン酸二無水物、および4,4’−ビナフタレン−1,1’,8,8’−テトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項3または4に記載のポリイミド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミドを主成分として含むポリイミド系高分子電解質膜。
【請求項7】
高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜を狭持するように配置された一対の電極と、を備え、
前記高分子電解質膜が、請求項6に記載のポリイミド系高分子電解質膜を有する、膜−電極接合体。
【請求項8】
請求項7に記載の膜−電極接合体と、前記膜−電極接合体を狭持するように配置された一対のセパレータとを備える固体高分子型燃料電池。
【請求項9】
ダイレクトメタノール型である請求項8に記載の固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−214763(P2012−214763A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−75145(P2012−75145)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】