説明

ポリイミドフィルム

【課題】ポリイミド樹脂の優れた特性を生かしながら、吸湿膨張が小さく寸法安定性に優れ、高い耐熱性、十分なフィルム強度を有し、加工時や実装時のハンドリング性が良好なポリイミドフィルムの提供。
【解決手段】下記式(1)で表される構造単位を50〜95モル%、及びビス(4−アミノフェノキシ)フェニルをジアミン成分とするポリイミドの2種の構造単位を合わせて5〜50モル%含有する吸湿膨張係数が9ppm/%RH以下であるポリイミド樹脂層(A)を主たる層として有するポリイミドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸湿膨張率が小さく、寸法安定性に優れ、配線基板の絶縁層に適したポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリイミド樹脂は優れた耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械特性を有していることから、電子、電気機器の材料として、特に耐熱性を要する電気絶縁材料などの用途に広く利用されている。これまでポリイミドを絶縁層とする様々なフレキシブル銅張積層板が検討されてきているが、ポリイミド樹脂フィルムをエポキシ系樹脂などの接着剤を用いて金属層と積層したいわゆる3層タイプの積層体と、絶縁層と金属層を接着剤を用いずに積層した2層タイプの積層体が知られている。そして、耐熱性や屈曲特性などの面から2層タイプのフレキシブル配線基板用積層体が優れた特性を示すものとして使用されている。
【0003】
近年、電子情報機器の高機能化、軽薄短小化に伴い、配線基板の高密度化が要求され、配線パターンの更なる狭ピッチ化が進んでいる。この配線パターンの狭ピッチ化が進む中で、寸法安定性の低い材料は回路基板の加工工程で配線の位置ずれなどの実装不具合が発生し易くなるため、基板の更なる高寸法安定性が求められている。これまでこの課題に対して、絶縁層となるポリイミド層に線熱膨張係数(CTE)の低い材料を用いることで改善を図る検討がなされてきたが、CTEを低下させた結果として、相対的にポリイミド樹脂材料の吸湿による膨張、すなわち吸湿による寸法変化が大きくなり、基板が反ってしまうといった問題が発生していた。また、微細配線が要求されるCOF(チップオンフィルム)用途では、加工や実装の段階で高い引き裂き強度や耐熱性も要求されている。
【0004】
低吸湿特性を示す樹脂として、撥水性などの特異な性質を示すフッ素樹脂が知られている。また、フッ素化ポリイミド共重合体及びフッ素化ポリイミドを絶縁層に用いたポリイミド−金属複合フィルムが報告されている(特許文献1、2参照)。しかし、これらに報告された材料ではポリイミドの吸湿膨張が十分に抑制されておらず、強度も低いため、加工や実装の段階で破断や変形が生じやすいといった問題があった。一方で、吸湿膨張係数の改善を目的とし、耐熱性や強度の高いポリイミドを用いたフレキシブル配線基板用積層体も報告されているが(特許文献3、4参照)、これらはポリイミドの吸湿率、吸湿膨張係数の点で不十分であった。したがって、十分な耐熱性、フィルム強度、その他のポリイミド樹脂の優れた特性を生かしながら、吸湿膨張が小さく、寸法安定性に優れたポリイミドフィルムの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−8734号公報
【特許文献2】特開平4−47933号公報
【特許文献3】WO01/028767号公報
【特許文献4】WO02/085616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリイミド樹脂の優れた特性を生かしながら、吸湿膨張が小さく寸法安定性に優れ、かつ高い耐熱性、十分なフィルム強度を有し、加工時や実装時のハンドリング性が良好なポリイミドフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリイミドフィルムを構成するポリイミドが特定の構造を有し、かつ一定の関係式を満たすことで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される構造単位を50〜95モル%と、下記一般式(2)で表される構造単位を0〜45モル%、一般式(3)で表される構造単位を5〜50モル%、一般式(2)で表される構造単位と一般式(3)で表される構造単位を合わせて5〜50モル%含有し、吸湿膨張係数が9ppm/%RH以下であるポリイミド樹脂層(A)を主たる層とすることを特徴とするポリイミドフィルムである。
【化1】

【化2】

(一般式(2)において、Rは炭素数1〜6の低級アルキル基、フェニル基又は炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基を示すが、一般式(2)で表される構造単位が一般式(1)で表される構造単位と同じとなることはない。一般式(2)及び(3)において、Ar1は芳香族テトラカルボン酸残基であり、一般式(3)中、Ar2は下記式(c)及び(d)から選択される芳香族基のいずれかを示し、式(c)及び(d)において、Ar3は二価の芳香族基である。)
【化3】

【0009】
ここで、一般式(2)及び(3)において、Ar1が下記(a)又は(b)の何れかの芳香族基であることが好ましく、一般式(3)において、Ar3が下記(e)又は(f)の何れかの芳香族基であることが好ましい。
【0010】
【化4】

【0011】
【化5】

【0012】
また、本発明のポリイミドフィルムは、更に下記要件のいずれか1つ以上を充足することが好ましい。
(1)ポリイミド樹脂層(A)の線膨張係数が25ppm/℃以下であること。
(2)ポリイミド樹脂層(A)の片面又は両面に、線膨張係数が30ppm/℃以上の熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)を有し、ポリイミド樹脂層(A)と熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)の厚み比(B)/(A)が0.02〜1の範囲にあること。
(3)絶縁層のガラス転移温度が310℃以上、引き裂き伝播抵抗が3.0kN/m以上、さらに吸湿率が0.7wt%以下であること。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリイミドフィルムの吸湿率が低く、低吸湿膨張であることから寸法安定性に優れており、高い寸法安定性が必要なフレキシブル配線基板の絶縁層などに好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリイミドフィルムを製造する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリイミドフィルムの原料であるポリイミド前駆体(ポリアミック酸)の樹脂溶液を任意の支持基体上に流延塗布してフィルム状に成型し、支持体上で加熱乾燥することにより自己支持性を有するゲルフィルムとした後、支持体より剥離して、更に高温で熱処理してイミド化させてポリイミドフィルムとする方法が一般的である。ポリアミック酸を銅箔などの任意の基材上にアプリケーターを用いて流延塗布し、予備乾燥した後、更に、溶剤除去、イミド化のために熱処理し、イミド化時に使用した基材を剥離又はエッチング等により除去する方法も挙げられる。この際、樹脂溶液の粘度を500〜70000cpsの範囲とすることが好ましい。ポリイミド絶縁層を複数層とする場合、異なる構成成分からなるポリイミド前駆体樹脂の上に他のポリイミド前駆体樹脂を順次塗工して形成することができる。ポリイミド絶縁層が3層以上からなる場合、同一の構成のポリイミド前駆体樹脂を2回以上使用してもよい。なお、樹脂溶液の塗布面となる金属層表面に対して適宜表面処理した後に塗工を行ってもよい。乾燥条件は150℃以下で2〜30分、また、イミド化のための熱処理は130〜360℃程度の温度で2〜30分程度行うことが適当である。
【0015】
本発明のポリイミドフィルムは、ポリイミド樹脂層(A)を主たるポリイミド樹脂層として有する。ここで、主たるとは、ポリイミドフィルムを構成するポリイミド樹脂層の中で最も厚い層を意味するが、好ましくはポリイミド樹脂層の全厚みの60%以上、特に好ましくは70%以上、最も好ましくは75〜95%の厚みを有する層をいう。ポリイミドフィルムは、ポリイミド樹脂層(A)と熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)からなることが好ましく、それぞれの層は少なくとも1層を有すればよく、2層以上からなっていてもよい。ポリイミド樹脂層(A)と熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)からなる場合、ポリイミド樹脂層(A)と熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)の厚みの割合は、(B)/(A)が0.02〜1、好ましくは0.05〜0.4の範囲とすることがよい。
【0016】
フレキシブル配線基板用積層体の製造において加熱加圧によって本発明のポリイミドフィルムと金属層を積層する場合には、有利には、金属層に接するポリイミド樹脂層を熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)とし、熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)に接して、金属層に接しないポリイミド樹脂層をポリイミド樹脂層(A)とすることがよい。熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)の厚みは、ポリイミド樹脂層(A)の片面にのみ熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)を有する場合は、ポリイミド樹脂層(A)と熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)の厚みの割合、(B)/(A)が0.05〜0.2の範囲が好ましく、ポリイミド樹脂層(A)の両面に熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)を有する場合は、0.1〜0.4の範囲が好ましい。
【0017】
ポリイミド樹脂層(A)は、上記一般式(1)で表される構造単位を50〜95モル%、上記一般式(2)及び(3)で表される構造単位を合わせて5〜50モル%含有し、吸湿膨張係数が9ppm/%RH以下である。ここで、一般式(2)で表される構造単位は0であってもよく、一般式(3)で表される構造単位は5モル%以上含有する。
【0018】
ポリイミド樹脂層(A)は、上記一般式(1)で表される構造単位を50〜95モル%の範囲で含有するものであることが必要であるが、他の構成単位は、ポリイミド原料である公知の酸無水物やジアミンを適宜選択して用いることができる。本発明では、一般式(1)で表される構造単位と共に、上記一般式(2)及び(3)で表される構造単位を合わせて5〜50モル%の範囲で含有することが有利である。ここで、一般式(1)〜(3)の構造単位の好ましい割合は、lを一般式(1)の構造単位の存在モル比、mを一般式(2)の構造単位の存在モル比、nを一般式(3)の構造単位の存在モル比としたとき、lは0.5〜0.95、mは0〜0.45、nは0.05〜0.50の範囲であるが、mとnの合計は0.05〜0.50の範囲である。そして、lは0.6〜0.9、mは0.05〜0.3、nは0.05〜0.3で、mとnの合計が0.1〜0.4の範囲がより好ましい。なお、存在モル比が1.0の場合、その構造単位の含有割合は100%と計算される。
【0019】
一般式(2)において、Rは炭素数1〜6の低級アルキル基、フェニル基又は炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基を示す。好ましくは炭素数1〜3の低級アルキル基、フェニル基又は炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基である。なお、一般式(2)で表わされる構造単位が一般式(1)で表わされる構造単位と同じとなることはない。すなわち、一般式(1)で表わされる構造単位は、一般式(2)で表わされる構造単位としては扱わない。
【0020】
また、一般式(2)及び(3)において、Ar1は、上記式(a)及び(b)から選択される芳香族基のいずれかであることが好ましく、一般式(3)において、Ar2は上記式(c)及び(d)から選択される芳香族基のいずれである。式(c)及び(d)において、Ar3は式(e)及び(f)から選択される芳香族基のいずれかであることが好ましい。
【0021】
上記一般式(2)で表される構造単位の好ましい具体例としては、下記式(4)で表される構造単位が例示される。
【化6】

【0022】
上記一般式(1)の構造単位は主に低湿度膨張性と高耐熱性等の性質を向上させ、一般式(2)の構造単位は低熱膨張性と高耐熱性を向上させるのに有効である。一般式(3)の構造単位は主に強靭性や接着性等の性質を向上させると考えられるが、相乗効果や分子量の影響があるため厳密ではない。しかし、強靭性等を増加させるためには、一般式(3)の構造単位を増やすことが通常、有効である。
【0023】
一般式(3)の構造単位を与えるために用いられるジアミンとしては、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)又は4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(4,4'-DAPE)等がある
【0024】
一般式(2)及び一般式(3)の構造単位を与えるために用いられる酸無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)がある。
【0025】
ポリイミド樹脂層(A)の原料となるジアミン及び酸無水物は、上記式及びモル比を満足し、上記樹脂層特性を満足する限り、複数のジアミン及び酸無水物を使用してもよく、他のジアミン及び酸無水物を使用してもよい。
【0026】
熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)は、線膨張係数が30ppm/℃より大きいものであり、そのガラス転移温度は350℃以下であることが好ましく、250〜330℃の範囲にあることがより好ましい。そのような特性を満たすポリイミド樹脂を得るには、公知の酸無水物とジアミンを原料として、それらを適宜組み合わせて反応して得ることができる。
【0027】
熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)を形成するために用いられる酸無水物としては、酸無水物を O(OC)2Ar4(CO)2O で表した際、Ar4が下記式で表わされる芳香族酸二無水物残基が例示される。
【0028】
【化7】

【0029】
これらの中でも、PMDA、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)又は3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)が好適なものとして例示される。
【0030】
また、熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)を形成するために用いられるジアミン成分としては、ジアミンを H2N−Ar5−NH2 で表したとき、Ar5が下記式で表されるジアミンが例示される。
【0031】
【化8】

【0032】
これらの中でも、4,4'-DAPE、TPE-R、APB又は2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)が好適なものとして挙げられる。
【0033】
本発明のポリイミドフィルムは、上述の通り単層、又は複数のポリイミド樹脂層からなり、複数層の場合は、ポリイミド樹脂層(A)を主たる層として、その少なくとも片面に熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)を有することがよい。ポリイミド樹脂層の合計の厚さは、好ましくは10〜40μm、より好ましくは15〜35μmの範囲あることがよい。また、ポリイミド層全体厚みに対するポリイミド樹脂層(A)の厚み比率は、上記したとおりであるが、特に、ポリイミド樹脂層(A)と熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)の厚み比(B)/(A)は、0.02〜1の範囲とすることで、特に引裂き強さと屈曲性のバランスに優れたポリイミドフィルムとすることができる。
【0034】
ポリイミドフィルムは、原料のジアミンと酸無水物とを溶媒の存在下で重合し、ポリイミド前駆体樹脂とした後、熱処理によりイミド化することによって製造することができる。ポリイミド樹脂の分子量は、原料のジアミンと酸無水物のモル比を変化させることで主に制御可能である。モル比は通常1:1である。溶媒は、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、n-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
【0035】
本発明のポリイミドフィルムを用いたフレキシブル配線基板において、ピール強度を制御するためには、熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)が金属層に接することが有効である。また、ポリイミドフィルムのガラス転移温度が310℃以上で、引き裂き伝播抵抗が3.0kN/m以上であり、さらに吸湿膨張係数が9ppm/%RH以下であることが、形状安定性に優れ、微細な回路形成を可能とするため有効である。特に、ポリイミドフィルムのカールを減少させるためにはポリイミド樹脂層(A)と熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)の両方の層を有することが有効であり、その効果はポリイミド樹脂層(A)と熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)の積層順序や厚み比で異なる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0037】
実施例等に用いた略号を下記に示す。
・PMDA :ピロメリット酸二無水物
・BPDA :3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
・TFMB :2,2'-ジトリフルオロメチルベンジジン
・TPE-R :1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
・m-TB :2,2'-ジメチルベンジジン
・BAPP :2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン
・DMAc :N,N-ジメチルアセトアミド
【0038】
また、実施例中の各種物性の測定方法と条件を以下に示す。なお、以下ポリイミドフィルムと表現したものは、銅箔を支持基体とした積層体の銅箔をエッチング除去して得られたポリイミドフィルムを指す。
【0039】
[引裂き伝播抵抗の測定]
ポリイミドフィルム(63.5mm×50mm)の試験片を準備し、試験片に長さ12.7mmの切り込みを入れ、東洋精機製の軽荷重引裂き試験機を用いて室温で測定した。
【0040】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
ポリイミドフィルム(3mm×15mm)を、熱機械分析(TMA)装置にて5gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から260℃の温度範囲で引張り試験を行った。温度に対するポリイミドフィルムの伸び量から熱膨張係数を測定した。
【0041】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
ポリイミドフィルム(10mm×22.6 mm)をDMAにて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度Tg(tanδ極大値)を求めた。
【0042】
[フィルムカールの測定]
ポリイミドフィルム(50mm×50mm)を恒温恒湿下(23℃、50%RH)で24時間調湿し、その後、フィルムの曲率半径を測定した。
【0043】
[吸湿率の測定]
ポリイミドフィルム(4cm×20cm)を、120℃で2時間乾燥した後、23℃/50%RHの恒温恒湿機で24時間静置し、その前後の重量変化から次式により求めた。
吸湿率(%)=[(吸湿後重量-乾燥後重量)/乾燥後重量]×100
【0044】
[吸湿膨張係数(CHE)の測定]
35cm×35cmの銅張品の銅箔上に、エッチングレジスト層を設け、これを一辺が30cmの正方形の四辺に10cm間隔で直径1mmの点が16箇所配置するパターンに形成した。エッチングレジスト開孔部の露出部分をエッチングし、16箇所の銅箔残存点を有するCHE測定用ポリイミドフィルムを得た。このフィルムを120℃で2時間乾燥した後、23℃/30%RH・50%RH・70%RHの恒温恒湿機で各湿度において24時間静置し、二次元測長機により測定した各湿度での銅箔点間の寸法変化から湿度膨張係数(ppm/%RH)を求めた。
【0045】
合成例1
A〜Iのポリイミド前駆体樹脂(ポリアミック酸)を合成するため、窒素気流下で、表1に示したジアミンを500mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc 250〜300g程度に溶解させた。次いで、表1に示したテトラカルボン酸二無水物を加えた。その後、溶液を室温で4時間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリイミド前駆体樹脂A〜Iの黄褐色の粘稠な溶液を得た。表1中の数値は原料使用量(g)を表す。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例1〜4
厚さ12μmの銅箔上に、前駆体樹脂溶液A〜Dを、アプリケータを用いて均一に塗布し、50〜130℃で2〜60分間乾燥した後、更に130℃、160℃、200℃、230℃、280℃、320℃、360℃で各2〜60分段階的な熱処理を行い、ポリイミド樹脂層を形成した積層体とした。続いて第二塩化鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムを得た。
【0048】
実施例5
厚さ12μmの電解銅箔上に、ポリイミド前駆体樹脂溶液Aを、硬化後の厚みが23μmとなるようにアプリケータを用いて均一に塗布し、50〜130℃で2〜60分間乾燥した。次に、前駆体樹脂溶液Iを、硬化後の厚みが2μmとなるようにアプリケータを用いて均一に塗布し、50〜130℃で2〜60分間乾燥した。更に130℃、160℃、200℃、230℃、280℃、320℃、360℃で各2〜60分段階的な熱処理を行い、2層のポリイミド樹脂層を形成した積層体とした。次に第二塩化鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルム得た。
【0049】
実施例6
厚さ12μmの電解銅箔上に、ポリイミド前駆体樹脂溶液Bを、硬化後の厚みが23μmとなるようにアプリケータを用いて均一に塗布し、50〜130℃で2〜60分間乾燥した。次に、前駆体樹脂溶液Iを、硬化後の厚みが2μmとなるようにアプリケータを用いて均一に塗布し、50〜130℃で2〜60分間乾燥した。更に130℃、160℃、200℃、230℃、280℃、320℃、360℃で各2〜60分段階的な熱処理を行い、2層のポリイミド樹脂層を形成した積層体とした。次に第二塩化鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムを得た。
【0050】
実施例7
厚さ12μmの電解銅箔上に、前駆体樹脂溶液Iを、硬化後の厚みが2μmとなるようにアプリケータを用いて均一に塗布し、50〜130℃で2〜60分間乾燥した。次に、前駆体樹脂溶液Aを、硬化後の厚みが21μmとなるようにアプリケータを用いて均一に塗布し、50〜130℃で2〜60分間乾燥した。更に、前駆体樹脂溶液Iを、硬化後の厚みが2μmとなるようにアプリケータを用いて均一に塗布し、50〜130℃で2〜60分間乾燥した。その後130℃、160℃、200℃、230℃、280℃、320℃、360℃で各2〜60分段階的な熱処理を行い、3層のポリイミド樹脂層を形成した積層体とした。続いて第二塩化鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムを得た。
【0051】
実施例8
厚さ12μmの電解銅箔上に、前駆体樹脂溶液Iを、硬化後の厚みが2μmとなるようにアプリケータを用いて均一に塗布し、50〜130℃で2〜60分間乾燥した。次に、前駆体樹脂溶液Dを、硬化後の厚みが21μmとなるようにアプリケータを用いて均一に塗布し、50〜130℃で2〜60分間乾燥した。更に、前駆体樹脂溶液Iを、硬化後の厚みが2μmとなるようにアプリケータを用いて均一に塗布し、50〜130℃で2〜60分間乾燥した。その後130℃、160℃、200℃、230℃、280℃、320℃、360℃で各2〜60分段階的な熱処理を行い、3層のポリイミド樹脂層を形成した積層体とした。続いて第二塩化鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムを得た。
【0052】
比較例1〜4
厚さ12μmの電解銅箔上に、前駆体樹脂溶液E〜Hを、硬化後の厚みが25μmとなるようにアプリケータを用いて均一に塗布し、50〜130℃で2〜60分間乾燥した後、更に130℃、160℃、200℃、230℃、280℃、320℃、360℃で各2〜60分段階的な熱処理を行い、ポリイミド樹脂層を形成した積層体とした。続いて第二塩化鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去してポリイミドフィルムを得た。
【0053】
得られたポリイミドフィルムについて、前述の測定方法にて、各種特性を評価した。結果を表2及び表3に示す。なお、比較例1中のピール強度は、フィルムがもろく測定することでできなかった。表中、引裂きは、引裂き伝播抵抗を意味する。

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位を50〜95モル%と、下記一般式(2)で表される構造単位を0〜45モル%、一般式(3)で表される構造単位を5〜50モル%、一般式(2)で表される構造単位と一般式(3)で表される構造単位を合わせて5〜50モル%含有し、吸湿膨張係数が9ppm/%RH以下であるポリイミド樹脂層(A)を主たる層とすることを特徴とするポリイミドフィルム。
【化1】

【化2】

(一般式(2)において、Rは炭素数1〜6の低級アルキル基、フェニル基又は炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基を示すが、一般式(2)で表される構造単位が一般式(1)で表される構造単位と同じとなることはない。一般式(2)及び(3)において、Ar1は芳香族テトラカルボン酸残基であり、一般式(3)中、Ar2は下記式(c)及び(d)から選択される芳香族基のいずれかを示し、式(c)及び(d)において、Ar3は二価の芳香族基である。)
【化3】

【請求項2】
一般式(2)及び(3)において、Ar1が下記(a)又は(b)の何れかの芳香族基である請求項1記載のポリイミドフィルム。
【化4】

【請求項3】
一般式(3)において、Ar3が下記(e)又は(f)の何れかの二価の芳香族基である請求項1又は2記載のポリイミドフィルム。
【化5】

【請求項4】
ポリイミド樹脂層(A)の線膨張係数が25ppm/℃以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
ポリイミドフィルムが複数層からなり、ポリイミド樹脂層(A)の片面又は両面に、線膨張係数が30ppm/℃以上の熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)を有し、ポリイミド樹脂層(A)と熱可塑性ポリイミド樹脂層(B)の厚み比(B)/(A)が0.02〜1の範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
ポリイミドフィルムのガラス転移温度が310℃以上で、引き裂き伝播抵抗が3.0kN/m以上であり、さらに吸湿率が0.7wt%以下である請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミドフィルム。

【公開番号】特開2010−202681(P2010−202681A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46475(P2009−46475)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】