説明

ポリイミド樹脂

【課題】柔軟性・屈曲性等に優れる新規なポリイミド樹脂を提供する。
【解決手段】一般式(I):


[式中、R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示す。R2は、重量平均分子量100〜10,000の2価の有機基を示す。R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示す。R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示す。nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。xは1〜50の整数を示す。]で表されるポリイミド樹脂である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性・屈曲性等に優れるポリイミド樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、エンジニアリングプラスチックとして知られ、優れた物理強度・耐熱性等を有するので、近時、電気・電子機器用途、自動車部品用途、航空・宇宙産業用途、事務用機器用途等において急速に需要が高まっている。一般に、ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とから合成されたポリアミック酸を熱および触媒等によってイミド化することで得られる。
【0003】
しかしながら、このようにして得られるポリイミド樹脂は、強度・耐熱性等には優れるものの、樹脂構造が剛直なので、柔軟性に欠け、屈曲性等に劣るという問題があった。柔軟性・屈曲性等に劣るポリイミド樹脂を、例えばシート・フィルム等にすると、シート・フィルム等が反るおそれがある。また、例えばベルト等に用いると、駆動中にベルトに亀裂が生じたり、ベルトが破断するおそれがある。特に、機器の小型化や高速化に伴い、小径のプーリーが使用されることが多くなっており、前記問題が顕著になっている(例えば、特許文献1,2参照)。このため、従来のポリイミド樹脂に比べ、より柔軟性・屈曲性等に優れるポリイミド樹脂が要望されている。
【0004】
柔軟性・屈曲性等に優れるポリイミド樹脂として、例えば特許文献3には、ジイソシアネート化合物と、2官能性水酸基末端ポリブタジエンを含む一種類以上のジオール化合物と、所定の化学式で示される2官能性水酸基末端イミドオリゴマーとを反応して得られる変性ポリイミド樹脂が記載されている。特許文献4には、所定の一般式で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂を含有してなるポリイミド樹脂組成物が記載されている。これらの文献によると、これらのポリイミド樹脂は、柔軟性・屈曲性等に優れると記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献3,4に記載されているポリイミド樹脂であっても、必ずしも十分な柔軟性・屈曲性等が得られていないのが現状である。このため、より優れた柔軟性・屈曲性等を有するポリイミド樹脂の開発が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−133510号公報(第2頁右欄16−23行)
【特許文献2】特開2006−243146号公報(第2頁右欄3−8行)
【特許文献3】特開2006−104462号公報
【特許文献4】特開2005−036025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、柔軟性・屈曲性等に優れる新規なポリイミド樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための、本発明のポリイミド樹脂は、一般式(I):
【化2】

[式中、R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示す。R2は、重量平均分子量100〜10,000の2価の有機基を示す。R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示す。R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示す。nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。xは1〜50の整数を示す。]で表される。かかる本発明のポリイミド樹脂は文献未記載の新規化合物である。
【0009】
本発明のポリイミド樹脂は、弾性率を簡単に所望の値に調整することができるうえで、ジイソシアナートとポリオールから得た分子両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーと、ジイソシアナートとをジアミン化合物でウレア結合により鎖延長し、テトラカルボン酸二無水物でウレア結合部にイミドユニットを導入したブロック共重合体であるのが好ましい。
【0010】
また、前記一般式(I)で表されるポリイミド樹脂を効率よく得るうえで、前記ジイソシアナートとポリオールとのモル比(ジイソシアナート/ポリオール)が2以上であるのが好ましい。主鎖に連続したイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合(イミド分率)で導入するうえで、前記ポリウレタンプレポリマーの重量平均分子量が300〜50,000であるのが好ましい。前記ジアミン化合物が1,6−ヘキサメチレンジアミンであると、強度に優れるポリイミド樹脂を得ることができるうえで好ましい。前記一般式(I)で表されるポリイミド樹脂を、強度・耐熱性等を保持しつつ、確実に柔軟性・屈曲性等に優れるものにするうえで、イミド分率は45重量%以上であるのが好ましく、弾性率は1.1×108Pa以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の前記一般式(I)で表されるポリイミド樹脂は、ポリウレタン(ポリウレタンプレポリマー)をエラストマー成分として含有すると共に、主鎖に連続したイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合(イミド分率)で導入することができるので、弾性率を簡単に所望の値にすることができ、これにより強度・耐熱性等を保持しつつ、柔軟性・屈曲性等に優れるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のポリイミド樹脂は、前記一般式(I)で表される。この式中において前記R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば後述する反応行程式(A)に従ってポリウレタンプレポリマー(c)を合成する際に用いるジイソシアナート(a)の残基等が挙げられる。
【0013】
前記R2は、重量平均分子量100〜10,000、好ましくは300〜5,000の2価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば反応行程式(A)に従ってポリウレタンプレポリマー(c)を合成する際に用いるポリオール(b)の残基等が挙げられる。
【0014】
前記R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば後述する反応行程式(B)に従ってポリウレタン−ウレア化合物(e)を合成する際に用いるジアミン化合物(d)の残基等が挙げられる。前記脂肪族鎖は、炭素数1のものも含む。
【0015】
前記R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示すものであり、該有機基としては、例えば後述する反応行程式(C)に従ってポリイミド樹脂(I)を合成する際に用いるテトラカルボン酸二無水物(f)の残基等が挙げられる。
nは1〜100の整数、好ましくは2〜50の整数を示す。mは2〜100の整数、好ましくは2〜50の整数を示す。xは1〜50の整数、好ましくは1〜30の整数を示す。
【0016】
前記一般式(I)で表されるポリイミド樹脂(以下、ポリイミド樹脂(I)とも言う。)の具体例としては、下記式(1)で表されるポリイミド樹脂等が挙げられる。
【化3】

[式中、nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。xは1〜30の整数を示す。yは10〜100の整数を示す。]
【0017】
ポリイミド樹脂(I)は、弾性率を簡単に所望の値にすることができるうえで、ジイソシアナートとポリオールから得た分子両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーと、ジイソシアナートとをジアミン化合物でウレア結合により鎖延長し、テトラカルボン酸二無水物でウレア結合部にイミドユニットを導入したブロック共重合体であるのが好ましい。このようなポリイミド樹脂は、例えば以下に示すような反応工程式(A)〜(C)を経て製造することができる。
【0018】
[反応行程式(A)]
【化4】

[式中、R1,R2,nは、前記と同じである。]
【0019】
(ポリウレタンプレポリマー(c)の合成)
上記反応行程式(A)に示すように、まず、ジイソシアナート(a)とポリオール(b)から分子両末端にイソシアナート基を有するポリウレタンプレポリマー(c)を得る。本発明のポリイミド樹脂(I)は、このポリウレタンプレポリマー(c)をエラストマー成分とするので、ゴム状領域(室温付近)の弾性率が低くなり、よりエラスティックにすることができると共に、このポリウレタンプレポリマー(c)の分子量を制御することにより、主鎖に連続したイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合で導入することが可能となる。
【0020】
具体的には、前記ジイソシアナート(a)としては、例えば2,4−トリレンジイソシアナート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアナート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、ポリメリックMDI(Cr.MDI)、ジアニシジンジイソシアナート(DADL)、ジフェニルエーテルジイソシアナート(PEDI)、ピトリレンジイソシアナート(TODI)、ナフタレンジイソシアナート(NDI)、ヘキサメチレンジイソシアナート(HMDI)、イソホロンジイソシアナート(IPDI)、リジンジイソシアナートメチルエステル(LDI)、メタキシリレンジイソシアナート(MXDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート(TMDI)、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート(TMDI)、ダイマー酸ジイソシアナート(DDI)、イソプロピリデンビス(4−シクロヘキシルイソシアナート)(IPCI)、シクロヘキシルメタンジイソシアナート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアナート(水添TDI)、TDI2量体(TT)が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよく、減圧蒸留したものを用いるのが好ましい。
【0021】
前記ポリオール(b)としては、例えばポリプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリマーポリオール等のポリエーテルポリオール;アジペート系ポリオール(縮合ポリエステルポリオール)、ポリカプロラクトン系ポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリエステルポリオール;ポリブタジエンポリオール;アクリルポリオール等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
ポリオール(b)は、70〜90℃、1〜5mmHg、10時間〜30時間程度の条件で減圧乾燥したものを用いるのが好ましい。また、ポリオール(b)の重量平均分子量は100〜10,000、好ましくは300〜5,000であるのが好ましい。前記重量平均分子量は、ポリオール(b)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0023】
反応は、上記で例示したジイソシアナート(a)とポリオール(b)とを所定の割合で混合した後、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、室温で1時間〜5時間程度反応させればよい。ジイソシアナート(a)とポリオール(b)との混合は、ジイソシアナート(a)をポリオール(b)よりも過剰に添加するのが好ましく、具体的には、ジイソシアナート(a)とポリオール(b)とのモル比(ジイソシアナート/ポリオール)が2以上、好ましくは2〜5となる割合で混合するのがよい。これにより、後述する反応行程式(B)において、遊離のジイソシアナート(a)が反応系内に存在するので、反応を効率よく進めることができる。
【0024】
得られるポリウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量は、300〜50,000、好ましくは500〜45,000であるのがよい。この範囲内でポリウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量を制御して、イミドユニットを所望の割合で導入すると、強度・耐熱性等を保持しつつ、柔軟性・屈曲性等に優れるポリイミド樹脂(I)を得ることができる。
【0025】
より具体的には、ポリウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量を上記所定の範囲にすると、ポリイミド樹脂(I)のイミド分率(イミド成分含有率)を45重量%以上、好ましくは45〜90重量%にすることができる。該イミド分率は、ポリイミド樹脂中のイミド成分の割合を意味しており、該イミド分率を調整すると、ポリイミド樹脂(I)の弾性率を調整することができる。すなわち、前記イミド分率を調整することにより、ポリイミド樹脂(I)の弾性率を簡単に所望の値にすることができる。特に、イミド分率を45重量%以上にすると、主鎖に導入される連続したイミドユニットの分布および割合が最適化され、その結果、ポリイミド樹脂(I)が、強度・耐熱性等を保持しつつ、柔軟性・屈曲性等に優れたものになる。
【0026】
前記イミド分率は、原料、すなわちジイソシアナート(a)、ポリオール(b)、後述するジアミン化合物(d)およびテトラカルボン酸二無水物(f)の仕込み量から算出される値であり、より具体的には、下記式(α)から算出される値である。
【数1】

【0027】
また、ポリウレタンプレポリマー(c)の重量平均分子量が、前記範囲内において小さいほど、ハードなポリイミド樹脂(I)を得ることができる。これに対し、前記分子量が300より小さいと、ポリイミド樹脂(I)がハードになりすぎ、50,000より大きいと、ソフトになりすぎるおそれがあるので好ましくない。前記重量平均分子量は、ポリウレタンプレポリマー(c)をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0028】
[反応行程式(B)]
【化5】

[式中、R1〜R3,n,m,xは、前記と同じである。]
【0029】
(ポリウレタン−ウレア化合物(e)の合成)
次に、上記で得られたポリウレタンプレポリマー(c)と、ジイソシアナート(a)とを用いて、反応行程式(B)に従ってイミド前駆体であるポリウレタン−ウレア化合物(e)を合成する。すなわち、ポリウレタンプレポリマー(c)と、ジイソシアナート(a)とをジアミン化合物(d)でウレア結合により鎖延長してポリウレタン−ウレア化合物(e)を得る。
【0030】
ここで、上記反応工程式(A)で説明した通り、ジイソシアナート(a)とポリオール(b)とを所定のモル比で混合していると、遊離のジイソシアナート(a)が反応系内に存在するので、この遊離のジイソシアナート(a)を利用して効率よくポリウレタン−ウレア化合物(e)を合成することができる。したがって、この場合には、反応工程式(B)においてジイソシアナート(a)を添加しなくても反応を進めることができるが、必要に応じてジイソシアナート(a)を添加してもよい。
【0031】
前記ジアミン化合物(d)としては、例えば1,4−ジアミノベンゼン(別名:p−フェニレンジアミン、略称:PPD)、1,3−ジアミノベンゼン(別名:m−フェニレンジアミン、略称:MPD)、2,4−ジアミノトルエン(別名:2,4−トルエンジアミン、略称:2、4−TDA)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(別名:4,4’−メチレンジアニリン、略称:MDA)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(別名:4,4’−オキシジアニリン、略称:ODA、DPE)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(別名:3,4’−オキシジアニリン、略称:3,4’−DPE)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(別名:o−トリジン、略称:TB)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(別名:m−トリジン、略称:m−TB)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(略称:TFMB)、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド(別名:o−トリジンスルホン、略称:TSN)、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド(別名:4,4’−チオジアニリン、略称:ASD)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(別名:4,4’−スルホニルジアニリン、略称:ASN)、4,4’−ジアミノベンズアニリド(略称:DABA)、1,n−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン(n=3,4,5、略称:DAnMG)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン(略称:DANPG)、1,2−ビス[2−(4−アミノフェノキシ)エトキシ]エタン(略称:DA3EG)、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(略称:FDA)、5(6)−アミノ−1−(4−アミノメチル)−1,3,3−トリメチルインダン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(略称:TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(別名:レゾルシンオキシジアニリン、略称:TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(略称:APB)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(略称:BAPB)、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(略称:BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(略称:BAPS)、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(略称:BAPS−M)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(略称:HFBAPP)、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(略称:MBAA)、4,6−ジヒドロキシ−1,3−フェニレンジアミン(別名:4,6−ジアミノレゾルシン)、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(別名:3,3’−ジヒドロキシベンジジン、略称:HAB)、3,3’,4,4’−テトラアミノビフェニル(別名:3,3’−ジアミノベンジジン、略称:TAB)等の炭素数6〜27の芳香族ジアミン化合物;1,6−ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、1,8−オクタメチレンジアミン(OMDA)、1,9−ノナメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン(DMDA)、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(別名:イソホロンジアミン)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、シクロヘキサンジアミン等の炭素数6〜24の脂肪族または脂環式ジアミン化合物;1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン等のシリコーン系ジアミン化合物等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
特に、1,6−ヘキサメチレンジアミン(HMDA)を用いるのが、強度に優れるポリイミド樹脂(I)を得ることができるうえで好ましい。
【0032】
反応は、ウレタンプレポリマー(c)およびジイソシアナート(a)と、上記で例示したジアミン化合物(d)とを等モル、好ましくはNCO/NH2比が1.0程度の割合で混合した後、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、室温〜100℃、好ましくは50〜100℃において、2時間〜30時間程度で溶液重合反応または塊状重合反応させればよい。
【0033】
前記溶液重合反応に使用できる溶媒としては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−ヘキシル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン等が挙げられ、特に、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−ヘキシル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドンが好ましい。これらの溶媒は、1種または2種以上を混合して用いてもよく、定法に従い脱水処理したものを用いるのが好ましい。
【0034】
[反応行程式(C)]
【化6】

[式中、R1〜R4,n,m,xは、前記と同じである。]
【0035】
(ポリイミド樹脂(I)の合成)
上記で得られたポリウレタン−ウレア化合物(e)を用いて、反応行程式(C)に従って一般式(I)で表されるポリイミド樹脂を合成する。すなわち、テトラカルボン酸二無水物(f)でウレア結合部にイミドユニットを導入してブロック共重合体であるポリイミド樹脂(I)を得る。
【0036】
具体的には、前記テトラカルボン酸二無水物(f)としては、例えば無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、ビフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物(BPDA)、ベンゾフェノン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、m(p)−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタントリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物等が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
反応は、ポリウレタン−ウレア化合物(e)とテトラカルボン酸二無水物(f)とのイミド化反応である。該イミド化反応は、溶媒下、無溶媒下のいずれであってもよい。溶媒下でイミド化反応を行う場合には、まず、ポリウレタン−ウレア化合物(e)と、上記で例示したテトラカルボン酸二無水物(f)とを所定の割合で溶媒に加え、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下、100〜300℃、好ましくは135〜200℃、より好ましくは150〜170℃において、1時間〜10時間程度反応させて、下記式(g)で表されるポリウレタンアミック酸(PUA)を含む溶液を得る。
【化7】

[式中、R1〜R4,n,m,xは、前記と同じである。]
【0038】
ここで、ポリウレタン−ウレア化合物(e)とテトラカルボン酸二無水物(f)との混合は、ポリウレタン−ウレア化合物(e)の合成で使用したジアミン化合物(d)とテトラカルボン酸二無水物(f)との混合比(モル)が、ジアミン化合物(d):テトラカルボン酸二無水物(f)=1:2〜1:2.02の範囲となる割合で混合するのが好ましい。これにより、確実にウレア結合部にイミドユニットを導入することができる。
【0039】
使用できる溶媒としては、上記反応行程式(B)の溶液重合反応に使用できる溶媒で例示したものと同じ溶媒を例示することができる。なお、反応行程式(B)において溶液重合反応でポリウレタン−ウレア化合物(e)を得た場合には、該溶媒中でイミド化反応を行えばよい。
【0040】
ついで、上記で得たPUA溶液を例えば遠心成形機等に流し込み、100〜300℃、好ましくは135〜200℃、より好ましくは150〜170℃において、100〜2,000rpm、30分〜2時間程度で遠心成形してシート状に成形し、PUAシートを得る。
【0041】
ついで、該PUAシートを加熱処理(脱水縮合反応)することにより、シート状の一般式(I)で表されるポリイミド樹脂(ポリウレタンイミド:PUI)を得ることができる。加熱処理は、PUAシートが熱分解しない条件であるのが好ましく、例えば減圧条件下において150〜450℃、好ましくは150〜250℃、1時間〜5時間程度であるのがよい。得られるシート(PUIシート)の厚みとしては、例えば50〜500μm程度である。
【0042】
無溶媒下でイミド化反応を行う場合には、通常の攪拌槽型反応器の他、排気系を有する加熱手段を備えた押出機の中でも行うことができるので、得られるポリイミド樹脂(I)を押し出して、そのままフィルム状や板状に成形することができる。
【0043】
上記のようにして得られるポリイミド樹脂(I)は、上記で説明したイミド分率を調整することにより、ポリイミド樹脂(I)の弾性率を簡単に所望の値にすることができ、これにより強度・耐熱性等を保持しつつ、柔軟性・屈曲性等に優れたものになる。具体的には、前記弾性率は1.1×108Pa以上、好ましくは1.1×108〜6.0×109Paであるのが好ましい。これにより、ポリイミド樹脂(I)は、柔軟性・屈曲性等に優れたものになる。該弾性率は、後述するように、動的粘弾性測定装置を用いて測定して得られる50℃での貯蔵弾性率E’の値である。
【0044】
ポリイミド樹脂(I)が、強度・耐熱性等を保持しつつ、柔軟性・屈曲性等に優れたものになる理由としては、以下の理由が推察される。すなわち、上記で説明した通り、本発明のポリイミド樹脂(I)は、主鎖に連続したイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合(イミド分率)で導入することができるので、このイミドユニットからなるハードセグメントの凝集が均一かつ強固なものになる。このため、ポリイミド樹脂(I)は、より均一かつ強固なミクロ相分離構造を形成し、その結果、ポリウレタン(ポリウレタンプレポリマー)を柔軟成分として含有して柔軟性・屈曲性等を付与しても、高強度および高耐熱性を有するようになる。
【0045】
ポリイミド樹脂(I)の重量平均分子量は10,000〜1000,000、好ましくは50,000〜800,000、より好ましくは50,000〜500,000であるのがよい。これに対し、前記分子量が10,000より小さいと、強度や耐熱性が低下するおそれがあり、1000,000より大きいと、成形性が低下するおそれがあるので好ましくない。前記重量平均分子量は、上記式(g)で表されるポリウレタンアミック酸(PUA)を含む溶液をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値から導き出した値である。なお、ポリイミド樹脂(I)ではなく、前記溶液をGPCで測定するのは、ポリイミド樹脂(I)は、GPCの測定溶媒に不溶なためである。
【0046】
本発明のポリイミド樹脂は、通常用いられる射出成形機、押出成形機、ブロー成形機等で容易に成形でき、例えばシート、フィルム、ベルト、チューブ、ホース、ロールギア、パッキング材、防音材、防振材、ブーツ、ガスケット、ベルトラミネート製品、被覆材、パーベーパレーション用の分離膜、光学非線形材料、弾性繊維、圧電素子、アクチュエーター、その他の各種自動車部品、工業機械部品、スポーツ用品等に使用することができるが、これらの用途に限定されるものではない。
【0047】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明のポリイミド樹脂を詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
以下の実施例で使用したポリイミド樹脂は、以下の2種類である。
<合成例1>
ポリイミド樹脂(1)の合成方法について、下記式に基づいて説明する。
【化8】

[式中、nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。xは1〜30の整数を示す。yは10〜100の整数を示す。]
【0049】
(ポリウレタンプレポリマー(j)の合成)
まず、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)(h)[日本ポリウレタン工業(株)社製]を減圧蒸留した。また、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)(i)[保土谷化学(株)社製の商品名「PTMG1000」、重量平均分子量:1,000]を80℃、2〜3mmHg、24時間の条件で減圧乾燥した。
【0050】
ついで、上記MDI(h)40.7gと、PTMG(i)59.3gとを、攪拌機およびガス導入管を備えた500mlの四つ口セパラブルフラスコにそれぞれ加え[モル比(ジイソシアナート/ポリオール)は2.7]、アルゴン雰囲気下、80℃で2時間攪拌して、分子両末端にイソシアナート基を有するポリウレタンプレポリマー(j)を含む反応物を得た。この反応物をGPCで測定した結果、ポリスチレン換算した値でポリウレタンプレポリマー(j)の重量平均分子量は0.67×104であった。また、反応物中に遊離したMDI(h)が存在することを、GPCの測定結果から確認した。
【0051】
(ポリウレタン−ウレア化合物(l)の合成)
上記で得たポリウレタンプレポリマー(j)と遊離したMDI(h)とを含む反応物10gを脱水処理したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)60mlに溶解させたものと、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)(k)2.056gを脱水処理したNMP20mlに溶解させたものとを、攪拌機およびガス導入管を備えた500mlの四つ口セパラブルフラスコにそれぞれ加え、アルゴン雰囲気下、室温(23℃)で24時間攪拌して、ポリウレタン−ウレア化合物(l)の溶液を得た。
【0052】
(ポリイミド樹脂(1)の合成)
上記で得たポリウレタン−ウレア化合物(l)の溶液中に、無水ピロメリット酸(PMDA)(m)4.524gを加え、アルゴンガス雰囲気下、150℃で2時間攪拌して、ポリウレタンアミック酸(PUA)溶液を得た。ついで、該PUA溶液を遠心成形機に流し込み、150℃で1,000rpm、1時間遠心成形してPUAシートを得た。このPUAシートを減圧デシケータ内で200℃、2時間加熱処理(脱水縮合反応)して、厚さ100μmのシート状のポリイミド樹脂(1)(PUIシート)を得た(イミド分率:52重量%)。このPUIシートを目視観察した結果、反りは生じていなかった。なお、前記イミド分率は、前記式(α)から算出して得た値である。
【0053】
得られたポリイミド樹脂(1)について、KBr法にてIRスペクトルを測定した。その結果を図1に示す。
図1から明らかなように、1780cm-1、1720cm-1および1380cm-1にイミド環に由来する吸収が観察された。
【0054】
<合成例2>
MDI(h)40.7gを36.0gにし、PTMG(i)59.3gを64.0gにした[モル比(ジイソシアナート/ポリオール)は2.2]以外は、上記合成例1と同様にして、重量平均分子量が1.0×104のポリウレタンプレポリマー(j)を含む反応物を得た。得られた反応物中に遊離したMDI(h)が存在することを、合成例1と同様にして確認した。ついで、MDA(k)2.056gを1.586gにした以外は、上記合成例1と同様にして、ポリウレタン−ウレア化合物(l)の溶液を得た。
【0055】
このポリウレタン−ウレア化合物(l)の溶液中に加えるPMDA(m)4.524gを3.49gにした以外は、上記合成例1と同様にしてシート状のポリイミド樹脂(2)(PUIシート)を得た(イミド分率:47重量%)。このPUIシートを目視観察した結果、反りは生じていなかった。得られたポリイミド樹脂(2)について、上記合成例1と同様にしてIRスペクトルを測定した。その結果を図2に示す。
図2から明らかなように、1780cm-1、1720cm-1および1380cm-1にイミド環に由来する吸収が観察された。
【0056】
上記で得たポリイミド樹脂(1),(2)を表1に示す。
【表1】

【実施例1】
【0057】
上記合成例1,2で得たポリイミド樹脂(1),(2)の各PUIシートについて、引張試験および動的粘弾性試験を行った。各試験方法を以下に示すと共に、その結果を表2および図3,図4に示す。
【0058】
(引張試験方法)
PUIシートを3号ダンベルで打ち抜き、標線間20mm、500mm/分の条件で、JIS K6251に準拠し、応力、破断強度(TB)および伸び(EB)をそれぞれ測定した。
【0059】
(動的粘弾性試験方法)
セイコーインスツルメンツ社(Seiko Instruments Inc.)製の動的粘弾性測定装置「DMS 6100」を用い、20Hz、5℃/分、−100〜400℃の昇温過程にて測定した。
【0060】
[比較例1]
PUA溶液として、宇部興産製の商品名「U−ワニス−A」を用いた以外は、上記実施例1と同様にしてPUAシートを得、このPUAシートを上記実施例1と同様にして加熱処理(脱水縮合反応)し、厚さ100μmのPUIシートを得た。このPUIシートを目視観察した結果、反りが生じていた。ついで、得られたPUIシートについて、上記実施例1と同様にして引張試験および動的粘弾性試験を行った。その結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2から明らかなように、ポリウレタン(ポリウレタンプレポリマー)をエラストマー成分として含有するポリイミド樹脂(1),(2)は、ポリウレタンプレポリマーの分子量を制御することにより、主鎖に連続したイミドユニットを、その分布を制御しつつ所望の割合(イミド分率)で導入することができるのがわかる。そして、イミド分率を調整することにより、弾性率(50℃での貯蔵弾性率E’)を調整することができるのがわかる。
【0063】
また、ポリイミド樹脂(1),(2)は、表2および図3から明らかなように、優れた物理強度(応力・破断強度)と、柔軟性(伸び・シートの反りの有無)を有しているのがわかる。この結果から、ポリイミド樹脂(1),(2)は、屈曲性にも優れることが期待される。さらに、図4から明らかなように、耐熱性にも優れているのがわかる。これに対し、比較例1のポリイミド樹脂は、破断強度に優れる結果を示したものの、柔軟性(伸び・シートの反りの有無)は、ポリイミド樹脂(1),(2)よりも著しく低い結果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】合成例1で得たポリイミド樹脂(1)のIRスペクトルである。
【図2】合成例2で得たポリイミド樹脂(2)のIRスペクトルである。
【図3】実施例1の引張試験の結果を示すグラフである。
【図4】実施例1の動的粘弾性試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】

[式中、R1は、芳香族環または脂肪族環を含む2価の有機基を示す。R2は、重量平均分子量100〜10,000の2価の有機基を示す。R3は、芳香族環、脂肪族環または脂肪族鎖を含む2価の有機基を示す。R4は、4個以上の炭素を含む4価の有機基を示す。nは1〜100の整数を示す。mは2〜100の整数を示す。xは1〜50の整数を示す。]で表されるポリイミド樹脂。
【請求項2】
ジイソシアナートとポリオールから得た分子両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーと、ジイソシアナートとをジアミン化合物でウレア結合により鎖延長し、テトラカルボン酸二無水物でウレア結合部にイミドユニットを導入したブロック共重合体である請求項1記載のポリイミド樹脂。
【請求項3】
前記ジイソシアナートとポリオールとのモル比(ジイソシアナート/ポリオール)が2以上である請求項2記載のポリイミド樹脂。
【請求項4】
前記ポリウレタンプレポリマーの重量平均分子量が300〜50,000である請求項2または3記載のポリイミド樹脂。
【請求項5】
前記ジアミン化合物が1,6−ヘキサメチレンジアミンである請求項2〜4のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
【請求項6】
イミド分率が45重量%以上である請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
【請求項7】
弾性率が1.1×108Pa以上である請求項1〜6のいずれかに記載のポリイミド樹脂。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−106095(P2008−106095A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288268(P2006−288268)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【出願人】(303062093)
【Fターム(参考)】