説明

ポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバー及びその製造方法

【課題】新規ポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバー、その中間体の新規ポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバー、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】新規ポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバー及び新規ポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーは、いずれも10nm〜10μmの外径を有する。ポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーの製造方法は、(i)エレクトロスピニング法を用いて、10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーを製造する工程、及び(ii)そのポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーをイミド化する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバー、10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバー及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、優れた特性を発揮する材料として、有機高分子と無機酸化物相が一体化されて複合構造となっている(ハイブリッド化された)、種々の有機高分子−無機酸化物ハイブリッド材料が、開発されている(例えば、特許文献1参照)。
そのような有機高分子−無機酸化物ハイブリッド材料の有機高分子として、気体透過性、ガス分離性、耐熱性、機械的強度、電気特性、耐薬品性及び成形特性(プロセス特性)等に優れるポリイミドを用いる、種々のポリイミド−無機酸化物ハイブリッド材料が、提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
かかるポリイミド−無機酸化物ハイブリッド材料を、種々の用途に利用する場合、その用途に適する、種々の形態、例えば、フィルム状、粒状、塊状及び繊維状等が求められる。そのような形態の一つとして、中空ファイバーの形態がある。ポリイミド−無機酸化物ハイブリッド材料を用いた中空ファイバーは、軽量で、耐熱性に優れる繊維製品、又は複合材料として用いることが期待できる。しかし、ポリイミド−無機酸化物ハイブリッド材料として、細径中空ファイバー(外径及び内径の小さいもの)は、作製が困難であり、そのようなポリイミド−無機ハイブリッド材料の中空ファイバーの性質は、未だ十分に明らかではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−277512号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】山田 保治 他2名、「シリコン含有ポリイミドの特性と応用」、学研高分子加工 別冊、株式会社高分子刊行会、1997年2月、第46巻、第2号、第2〜11頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情を鑑みなされたものであり、ポリイミド/シリカハイブリッド材料の細径の中空ファイバー及びそのような中空ファイバーの製造方法を提供することを目的とする。更に、その中間体として有用な、新規なポリアミド酸/シリカハイブリッド材料の中空ファイバー及びその製造方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本研究者らは、鋭意研究を続けた結果、ポリイミド/シリカハイブリッド材料の中空ファイバーであって、10nm〜10μmという特定の外径を有する新規な中空ファイバーを製造可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、一の要旨において、10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを提供する。
【0009】
本発明は、他の要旨において、10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーを提供する。この中空ファイバーは、10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーの中間体として有用である。
【0010】
本発明は、好ましい要旨において、
(i)エレクトロスピニング法を用いて、10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーを、製造する工程、及び
(ii)10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーをイミド化する工程
を有する上述の10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーの製造方法を提供する。
【0011】
本発明は、更なる要旨において、上述の10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを用いて製造される繊維製品又は複合材料を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、10nm〜10μmという特定の外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを提供することができる。
更に、本発明は、上記特定の外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを提供するための中間体として有用な、10nm〜10μmという特定の外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーを提供することができる。
【0013】
本発明に係る製造方法は、
(i)エレクトロスピニング法を用いて、10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーを、製造する工程、及び
(ii)10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーをイミド化する工程
を有するので、上記特定の外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを製造することができる。
【0014】
本発明に係る繊維製品又は複合材料は、上述の外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを用いて製造されるので、より軽量で、耐熱性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、ポリイミド/シリカハイブリッド」を、模式的に示す。
【図2】図2は、エレクトロスピニング装置の概略を模式的に示す。
【図3】図3は、エレクトロスピニング法の乾式紡糸法を模式的に示す。
【図4】図4は、エレクトロスピニング法の湿式紡糸法を模式的に示す。
【図5】図5は、実施例1のポリイミドPMDA−ODA/シリカハイブリッド中空ファイバーのSEM写真である。
【図6】図6は、実施例2のポリイミドPMDA−ODA/シリカハイブリッド中空ファイバーのSEM写真である。
【図7】図7は、比較例1のポリイミドPMDA−ODA中空ファイバーのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を出発原料として、シリカとハイブリッド化されたポリイミドの中空ファイバーをエレクトロスピニング法により製造すること、及び、得られたポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを特徴とする。
本発明に係る「ポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバー」とは、「ポリイミド/シリカハイブリッド」によってできている「中空ファイバー」を意味する。本発明が目的とする「ポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバー」を得られる限り、他のポリマー及び無機酸化物等を含んでも良い。
【0017】
本発明において、「ポリイミド/シリカハイブリッド」とは、ポリイミドからできているポリイミド部分(ブロック又は相)とシリカからできているシリカ部分(ブロック又は相)が、共有結合によって結合し、一体化して、複合構造を形成していることをいう。
【0018】
そのような「ポリイミドからできているポリイミド部分」とは、一般にポリイミドと呼ばれるものでよく、本発明が目的とする中空ファイバーを得られる限り特に制限されるものではなく、他のポリマーを有しても良い。
【0019】
「シリカ部分」とは、SiOの化学式を示す単位を有し、本発明が目的とする中空ファイバーを得ることができる限り、特に制限されるものではなく、他の無機酸化物を有してもよい。
そのようなシリカ部分は、上述の「ポリイミド部分」と共有結合によって一体化されるが、そのような一体化は、本発明が目的とする中空ファイバーを得ることができる限り、特に制限されるものではない。
【0020】
このような「ポリイミド/シリカハイブリッド」の一例を、図1に模式的に示す。図1では、折れ曲がりを有する線状で示されるポリイミド部分と、SiO単位で示されるシリカ部分が、共有結合によって、結合されて一体化されて、複合構造を示している。ポリイミド部分とシリカを結合する部分はXで示されており、具体的には、後述する「アミノ基又はカルボキシル基とアルコキシシリル基を有するケイ素化合物」から誘導される部分に相当する。
尚、本発明に係る「ポリアミド酸/シリカハイブリッド」とは、上述の「ポリイミド/シリカハイブリッド」と同類の意味を有する。
【0021】
本発明に係る「ポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバー」とは、そのような「ポリイミド/シリカハイブリッド」によってできている中空ファイバーを意味し、その外径は、10nm〜10μmである。
本発明に係る「ポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバー」は、具体的には、下記の方法によって製造することができる。
【0022】
まず、「ポリイミド部分」の前駆体となるポリアミド酸部分を形成する。ポリアミド酸は、例えば、従来既知の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンから誘導することができる。
【0023】
そのような「芳香族テトラカルボン酸二無水物」として、例えば、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2’−ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)等の化合物を、例示することが出来る。
このような「芳香族テトラカルボン酸二無水物」は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0024】
更に「芳香族ジアミン」として、例えば、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニール、ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−アミノフェノキシフェニル]スルホン、2,2−ビス[(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−[フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンや9,9−ビス(アミノフェニル)フルオレン等を例示できる。
このような「芳香族ジアミン」は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0025】
本発明が目的とする中空ファイバーを得ることができる限り、上述の「芳香族テトラカルボン酸二無水物」及び「芳香族ジアミン」の各々の芳香環に、炭化水素基(例えば、アルキル基、フェニル基、シクロヘキシル基等)、ハロゲン基、アルコキシ基、アセチル基、スルホン酸基等の置換基を有してもよい。
【0026】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの反応は、比較的低温、具体的には100℃以下、好ましくは50℃以下の温度下において行うことが好ましい。また、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの反応において、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンのモル比(芳香族テトラカルボン酸二無水物:芳香族ジアミン)は、1.0:0.5〜1.0:1.5であることが好ましく、1.0:0.8〜1.0:1.2であることがより好ましく、1.0:0.9〜1.0:1.1であることが更に好ましい。上記モル比が1.0:0.5〜1.0:1.5の範囲外であると、反応時の芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの比率が当モルから大幅にずれて高分子量体とならず、機械的強度及び耐熱性の低下を生じ得る。
【0027】
さらに、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの反応は、適宜溶媒を用いて行ってよい。溶媒として、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチルスルホン、ヘキサメチルスルホン、ヘキサメチルフォスホアミド等の非プロトン性極性溶媒、m−クレゾール、o−クレゾール、m−クロロフェノール、o−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム等のエーテル系溶媒等を例示することができる。これらの溶媒は、単独で、又は組み合わせて使用することができる。
【0028】
このようにして、末端に酸無水物基又はアミノ基を有するポリアミド酸を得ることができる。
このポリアミド酸と、アミノ基又はカルボキシル基とアルコキシシリル基を有するケイ素化合物(以下、「化合物(1)」ともいう。)又はそれらの誘導体を、反応させる。
その結果、ポリアミド酸の末端に存在する酸無水物基又はアミノ基と、アルコキシ化合物中のアミノ基又はカルボキシル基とが反応することにより、ポリアミド酸の末端にアルコキシシリル基を有するポリアミド酸を得ることができる。
なお、水が存在すると、水によって、アルコキシシリル基の一部が加水分解して、ヒドロキシシリル基となる。
【0029】
本発明において、「アミノ基又はカルボキシル基とアルコキシシリル基を有するケイ素化合物」とは、本発明が目的とする中空ファイバーを得ることができる限り特に制限されるものではない。ここで「カルボキシル基」には、カルボン酸誘導体も含まれ、より具体的には、カルボキシル基(−COOH)、酸無水物基(−CO−O−CO−)及びそれらの誘導体である酸ハライド(−COY。但し、YはF、Cl、Br、Iの何れかの原子。)も、含まれる。また、「アミノ基」には、1級アミノ基及び2級アミノ基が含まれるが、1級アミノ基であることが好ましい。
【0030】
「アミノ基又はカルボキシル基とアルコキシシリル基を有するケイ素化合物」として、例えば、下記式(I):
Z−A−Si(R)−(OR :式(I)
及びR:炭化水素基
m:0、1又は2
n:1、2又は3
m+n:3
Z:カルボキシル基、酸無水物基、それらの誘導体である酸ハライド(ハロゲンはF、Cl、Br、Iの何れかの原子。)、アミノ基(1級アミノ基及び2級アミノ基を含む)
A:二価の炭化水素基(但し、2級アミノ基が挿入されていてもよい)
のケイ素化合物を例示することができる。
【0031】
具体的には、化合物(1)として、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノフェニルジメチルメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、ジメチルメトキシシリル安息香酸及び3−(トリエトキシシリル)プロピル無水コハク酸等を例示することができる。
また、それら化合物(1)の誘導体として、例えば、各種ハロゲン化物等を例示できる。
【0032】
なお、上述ケイ素のアルコキシ化合物とポリアミド酸との反応は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの反応で用いた反応条件と、同様の反応条件を用いて、行うことができる。
【0033】
上述のようにして、アルコキシシリル基を有するポリアミド酸を得ることができる。
得られたアルコキシシリル基を有するポリアミド酸に、必要に応じて、下記式(II):
Si(OR :式(II)
及びR:炭化水素基
m:0、1、2又は3
n:1、2、3又は4
m+n:4
に示すケイ素化合物(以下、「化合物(2)」ともいう)と一緒に、水の存在下で、ゾルゲル反応により、重縮合を行うことによって、シリカ部分を形成することができる。
【0034】
上述の化合物(2)として、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン及びジフェニルジエトキシシラン等を例示することができる。
このような化合物(2)は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0035】
本発明に係る中空ファイバーに含まれるシリカの量は、上述の化合物(1)及び化合物(2)の量によって、変化し得る。一般に、かかる中空ファイバーのシリカの量は、中空ファイバー全体を基準(100重量%)として、0.05〜95重量%であることが好ましく、0.1〜50重量%であることがより好ましい。
本発明に係る中空ファイバーは、含有するシリカの量が多くなると、耐熱性、弾性率及び硬度等は向上するが、材料自体が脆くなり得、クラックの生成や耐衝撃性の低下を生じやすくなる。従って、シリカの量が適切であるように、化合物(2)の量を選択することが好ましい。但し、中空ファイバーの用途に、その適切な量は依存するので、中空ファイバーを使用し、利用可能な限り、シリカの量が特に制限されるものではない。
【0036】
なお、必要に応じて化合物(2)の存在下で行う、上述のアルコキシシリル基を有するポリアミド酸の状態でのゾル−ゲル反応は、100℃以下の温度、有利には50℃以下の温度で、行うことが好ましい。
【0037】
以上のようにして、ポリアミド酸/シリカハイブリッドを得ることができる。
従って、本発明に係るポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーの製造方法は、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミン、アミノ基又はカルボキシル基とアルコキシシリル基を有するケイ素化合物及び場合により下記式(II):
Si(OR :式(II)
及びR:炭化水素基
m:0、1、2又は3
n:1、2、3又は4
m+n:4
に示すケイ素化合物を用いてポリアミド酸/シリカハイブリッドを製造する工程を有することが好ましい。
【0038】
このようにして得られたポリアミド酸/シリカハイブリッドを適切な方法を用いて、中空ファイバーの形態に成形後、イミド化を行うことで、本発明に係るポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを得ることができる。
【0039】
そのようなファイバー成形方法として、例えば、エレクトロスピニング法を用いることが好ましい。「エレクトロスピニング法」とは、ファイバーの素材となるポリマーと揮発性溶媒との溶液を噴射するためのノズルと、平板状のコレクターとの間に、高電圧を印加してファイバーを得る方法である(例えば、特開2005−330624号公報参照)。
従って、本発明に係るポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーの製造方法は、ポリアミド酸/シリカハイブリッドを、エレクトロスピニング法を用いて、10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーに成型する工程を有することが好ましい。中空ファイバーの外径は、ノズル径、印加電圧、送液速度、溶液濃度、溶媒濃度及び添加剤等を調整し、選定することにより、制御することができる。
【0040】
そのようなエレクトロスピニング法に使用するためのエレクトロスピニング装置を、模式的に図2に示す。
エレクトロスピニング装置10は、中空ファイバーを成形するために、芯鞘構造(二重構造)のファイバーを成形可能な同軸異径スピナレット(紡糸金口)を有する。かかるスピナレットは、鞘側ノズル11と芯側ノズル13を有し、鞘側ノズル11に鞘材溶液12が供給され、芯側ノズル13に芯材溶液14が供給される。このようなスピナレットは、例えば、特開2009−174066号公報に開示されている。このスピナレットは、高電圧装置15と接続されている。スピナレットの下に、コレクター16が配置され、接地されている。
【0041】
このエレクトロスピニング装置において、スピナレットとコレクター16との間に高電圧を印加した状態で鞘側ノズル11と芯側ノズル13の先端の紡糸口から鞘材溶液12と芯材溶液14を同時に押し出すと、芯材溶液14が鞘材溶液12で覆われた液滴は、紡糸口先端で+(または−)に帯電し、異極に帯電(アース)しているコレクター16に向かう電気力線に沿って作用する静電力(クーロン力)により吸引される。静電力が表面張力を越えると、溶液の紡糸ジェットがコレクターに向かって連続的に噴射される。このとき、紡糸ジェットが、コレクターに到達する際、芯材を鞘材が被覆した芯鞘構造を有するファイバー17を得ることができる。
【0042】
尚、紡糸口から噴射される紡糸ジェットは、紡糸口からコレクターに到達する間に、紡糸口とコレクターとの間の電気力線の分布の影響により、螺旋軌道を描くことが知られている(例えば、エー.エル.ヤリン(A. L. Yarin)ら,"ベンディング・インスタビリティ・イン・エレクトスピニング・オブ・ナノファイバ(Bending instability in electrospinning of nanofibers)",ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Journal of Applied Physics),89巻, 第5号, 2001年3月1日,p.3018-3026 参照)。
【0043】
エレクトロスピニングは、図3に示すように、コレクター16上に、捕集電極18を配置して行う、乾式紡糸法を用いることが好ましい。
【0044】
更に、エレクトロスピニングは、図4に示すように、コレクター16上に、例えば、水、メタノール、エタノール及びプロパノール等のアルコール系溶媒、ヘキサン、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の炭化水素系溶媒、ジクロロメタン及びクロロホルム等の含ハロゲン系溶媒等の、鞘材に対して非溶媒であり、且つ、鞘材溶液12に含まれる有機溶媒と相溶する溶媒19に浸した捕集電極18を配置して行う、湿式紡糸法を用いることが好ましい。湿式紡糸法は、エレクトロスピニング法で紡糸された中空ファイバー同士が、互いに融着することを防止するために有用である。
【0045】
本発明では、上述のポリアミド酸/シリカハイブリッドを鞘材として使用する。必要に応じて、適宜有機溶媒を加えて、ポリアミド酸/シリカハイブリッド溶液を得て、これを鞘材溶液12として用いる。
そのような有機溶媒は、ポリアミド酸/シリカハイブリッドを溶解することができ、本発明が目的とするポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを得ることができる限り特に限定されるものではない。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチルスルホン、ヘキサメチルスルホン及びヘキサメチルフォスホアミド等の非プロトン性極性溶媒、m−クレゾール、o−クレゾール、m−クロロフェノール及びo−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、ジオキサン、テトラヒドロフラン及びジグライム等のエーテル系溶媒等を例示することができる。有機溶媒は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
この鞘材溶液の濃度は、適宜選択することができるが、例えば、1〜95重量%であることが好ましく、5〜50重量%であることがより好ましい。
【0046】
これに対し、上述のポリアミド酸/シリカハイブリッド以外の材料、一般的には、ポリアミド酸/シリカハイブリッド以外の他のポリマーを芯材として用いる。そのポリマーを溶解する溶媒で溶解した溶液を、芯材溶液14として用いる。
このような他のポリマーは、本発明が目的とするポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを得ることができる限り特に限定されるものではない。例えば、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリフェニレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレングリコール等を例示することができる。
【0047】
また、その他のポリマーを溶解する溶媒は、その他のポリマーを溶解することができ、本発明が目的とするポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを得ることができる限り特に限定されるものではない。例えば、水、メタノール、エタノール及びプロパノール等のアルコール系溶媒、ヘキサン、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の炭化水素系溶媒、ジクロロメタン及びクロロホルム等の含ハロゲン系溶媒等を例示することができる。溶媒は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
この芯材溶液14の濃度は、適宜選択することができるが、例えば、1〜95重量%であることが好ましく、5〜50重量%であることがより好ましい。
【0048】
また、その他のポリマー以外に、エチレングリコール、プロピレングリコール、ミネラルオイル、流動パラフィン等の液体状有機化合物を、単独で又は組み合わせて、無希釈又は液体状有機化合物を溶解可能な溶媒を上記より適宜選択して希釈し、芯材溶液14として用いることもできる。
【0049】
このような鞘材溶液と芯材溶液を用いて、エレクトロスピニング法で紡糸すると、その他のポリマーをポリアミド酸/シリカハイブリッドが被覆した芯鞘構造を有するファイバーを得ることができる。
エレクトロスピニング法で紡糸する条件は、例えば、スピナレットの鞘側ノズル11の直径、芯側ノズル13の直径、鞘材溶液と芯材溶液の種類、濃度、供給量、紡糸温度、印加電圧、スピナレットとコレクターの距離等、種々選択することができる。
【0050】
例えば、スピナレットの鞘側ノズル11の内口径は、0.1〜3mmであることが好ましく、0.5〜2mmであることがより好ましい。
芯側ノズル13の外径は、鞘側ノズル11の内口径よりも小さく、例えば、0.05〜2.5mmであることが好ましく、0.1〜1.5mmであることがより好ましい。
芯側ノズル13の内口径は、芯側ノズル13の外径よりも小さく、例えば、0.05〜1.45mmであることが好ましい。
鞘材溶液と芯材溶液の供給量は、印加電圧、ノズル寸法、鞘材と芯材の種類、溶媒、濃度等に依存するが、鞘材ノズル11の内口径が0.9mm、芯材ノズル13の外径が0.4mm、内口径が0.2mmの場合、鞘材溶液と芯材溶液の供給量は、各々0.5〜1.5ml/hであることがより好ましい。
印加電圧は、例えば3〜100kVであることが好ましく、5〜30kVであることがより好ましい。
スピナレットとコレクターの距離は、印加電圧、ノズル寸法、鞘材と芯材の種類、溶媒、濃度等に依存するが、印加電圧10〜20kVの場合、5〜20cmであることがより好ましい。
また、必要に応じて、乾式紡糸及び湿式紡糸を使用できる。
【0051】
上述のようにして得られた芯鞘構造を有するファイバーを、芯材を溶かす溶剤に浸漬して、芯材を除去して、本発明に係るポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーを得ることができる。
【0052】
このような芯材を溶解する溶媒は、芯材を溶解するが、鞘材のポリアミド酸/シリカハイブリッドを溶解しなければ、本発明が目的とするポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを得ることができる限り、特に限定されるものではない。
そのような溶媒として、例えば、水、メタノール、エタノール及びプロパノール等のアルコール系溶媒、ヘキサン、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の炭化水素系溶媒、ジクロロメタン及びクロロホルム等の含ハロゲン系溶媒等を例示することができる。
そのような溶媒は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0053】
このようにして得られたポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーは、10nm〜10μmの外径を有する。外径は、20nm〜5μmであることが好ましく、50nm〜3μmであることがより好ましい。
このようにして得たポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーをイミド化することによって、本発明が目的とするポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを得ることができる。
【0054】
イミド化は、一般的にイミド化に用いられている方法であって、本発明が目的とするポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを得ることができる方法であれば、特に制限されることなく、行うことができる。
イミド化は、例えば、熱イミド化法及び化学イミド化法等を用いて行うことができる。
熱イミド化法では、例えば、ポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーを加熱処理してイミド化反応を進行させることができる。
化学イミド化法では、例えば、閉環触媒(例えば、トリメチルアミン及びトリエチルアミン等の脂肪族第三級アミン、及びイソキノリン及びピリジン等の複素環式第三級アミン等)及び脱水剤(例えば、無水酢酸及び無水プロピオン酸等の脂肪族カルボン酸無水物、及び無水安息香酸等の芳香族カルボン酸無水物等)を含む溶媒(例えば、水、メタノール、エタノール及びプロパノール等のアルコール系溶媒、ヘキサン、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の炭化水素系溶媒、及びジクロロメタン、クロロホルム等の含ハロゲン系溶媒等)の溶液に、ポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーを浸漬してイミド化反応を進行させることができる。
熱イミド化法を用いることが、好ましい。
【0055】
熱イミド化法での加熱処理の最高温度は、例えば、100〜500℃の温度範囲が好ましく、150〜480℃の温度範囲がより好ましい。加熱処理の最高温度がこの範囲より低いと十分にイミド化が進行せず、またこの範囲より高いと、熱分解を生じてポリイミドが劣化し得る。50〜150℃の温度で5〜120分間処理した後、150〜250℃の温度で5〜120分間処理し、更に、250〜400℃の温度で5〜120分間処理する、多段加熱処理を用いることが、更に好ましい。
【0056】
このようにして得られたポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーは、10nm〜10μmの外径を有する。外径は、20nm〜5μmであることがより好ましく、50nm〜3μmであることが更に好ましい。
本発明において、「外径」とは、ファイバーの長尺方向と垂直方向に切断した断面の外側の最長の寸法を意味し、例えば、断面が円形であれば直径を意味し、断面が楕円形であれば長径を意味する。このような外径は、例えば、SEM観察することで測定することができる。
【0057】
本発明に係る10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーは、ポリイミドとシリカのハイブリッド化により優れた耐熱性を示し、例えば、軽量な耐熱性不織布、リチウムイオン電池及びキャパシタ等に用いられる電極セパレーター等の繊維製品、及び例えば、高耐熱性を有する低誘電率繊維強化複合材料、高断熱性繊維強化複合材料、高遮音性繊維強化複合材料等の複合材料等の種々の用途に使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下に本発明を実施例及び比較例を用いて説明するが、これらの例は本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0059】
<鞘材ポリマーの合成>
(合成例1)(ポリアミド酸PMDA−ODA/シリカハイブリッド)
撹拌機、窒素導入管、および塩化カルシウム管を備えた100mlの三つ口フラスコに無水ピロメリット酸(PMDA)4.36g(20mmol)を仕込み、ジメチルアセトアミド(DMAc)25mlを加えた。この溶液を撹拌しながら、4,4’−(ジアミノジフェニルエーテル)(ODA)3.88g(19.4mmol)を粉体のまま徐々に加えた後、25℃で3時間撹拌した。その後、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTrMOS)0.22g(1.2mmol)を加え、更に2時間撹拌した。この反応溶液(DMAc溶液)のポリマー濃度は25.0重量%であった。
【0060】
得られた反応溶液に、テトラメトキシシラン(TMOS)2.38gおよびイオン交換水1.13gを加えた後、24時間撹拌してゾル−ゲル反応を行い、ポリアミド酸PMDA−ODA/シリカハイブリッドを合成した。
【0061】
(合成例2)(ポリアミド酸PMDA−ODA)
撹拌機、窒素導入管、および塩化カルシウム管を備えた100mlの三つ口フラスコに無水ピロメリット酸(PMDA)4.36g(20mmol)を仕込み、ジメチルアセトアミド(DMAc)50mlを加えた。この溶液を撹拌しながら、4,4’−(ジアミノジフェニルエーテル)(ODA)4.00g(20mmol)を粉体のまま徐々に加えた後、25℃で3時間撹拌し、ポリアミド酸PMDA−ODAを合成した。得られた反応溶液(DMAc溶液)のポリマー濃度は15.1重量%であった。
【0062】
<実施例および比較例>
(実施例1)(乾式エレクトロスピニング法を用いるポリイミドPMDA−ODA/シリカハイブリッド中空ファイバーの製造)
ポリイミドPMDA−ODA/シリカハイブリッド中空ファイバーを、下記の様に同軸二重ノズル構造の芯鞘型スピナレット(株式会社メック製)を備えたエレクトロスピニング装置「NANON」(株式会社メック製)を用いて製造した。
【0063】
合成例1で得られたポリアミド酸PMDA−ODA/シリカハイブリッドのDMAc溶液を、内口径が0.9mmの鞘側ノズルに、シリンジポンプを用いて送液速度1.2ml/hで送った。同時に、ポリマー濃度が20.0重量%のポリメタクリル酸メチル(PMMA)のDMAc(25重量部)/クロロホルム(75重量部)溶液を、内口径が0.2mm、外径が0.4mmの芯側ノズルに、シリンジポンプを用いて送液速度1.0ml/hで芯鞘型スピナレットに送液した。印加電圧16kV、室温、大気圧下、スピナレットに対向して配置されたアルミニウム製の捕集電極までの距離15cmの条件でエレクトロスピニングして、芯鞘型ファイバーの積層体を得た。即ち、芯材がPMMAであり、鞘材がポリアミド酸PMDA−ODA/シリカハイブリッドである積層体を得た。
【0064】
得られた芯鞘型ファイバーの積層体をクロロホルムに浸漬し、芯材のPMMAを除去した後、窒素気流下にて100℃で1時間、200℃で1時間、300℃で1時間加熱処理して、ポリアミド酸の閉環反応及びゾル−ゲル反応を行い、ポリイミドPMDA−ODA/シリカハイブリッド中空ファイバーを製造した。得られた中空ファイバーの断面を株式会社日立ハイテクノロジーズ製走査電子顕微鏡(SEM)S−3400Nを用いて観察した。得られたSEM写真を図5に示す。SEM写真の倍率は10000倍で、印加電圧は10kVである。断面SEM観察より計測した中空ファイバーの寸法は、外径約1μm、壁厚0.1〜0.2μmであった。
【0065】
このポリイミドPMDA−ODA/シリカハイブリッド中空ファイバーについて全反射フーリエ変換赤外分光光度測定(ATR FT−IR測定)(日本分光株式会社 FT/IR−4100)を行った。測定条件は波数範囲550〜4000cm−1、分解能1cm−1、積算回数32回とした。得られたFT−IRスペクトルには1776、1714、1368、および720cm−1にポリイミド特有の吸収ピークが観測され、イミド化の進行が確認された。また、1100〜1200cm−1付近にシリカのSi−O−Si非対称伸縮に基づく吸収ピークが観測され、シリカとのハイブリッド化が確認された。
【0066】
(実施例2)(湿式エレクトロスピニング法を用いるポリイミドPMDA−ODA/シリカハイブリッド中空ファイバーの製造)
芯鞘型スピナレットに対向して配置されたアルミニウム製の捕集電極をメタノール浴中に設置したことを除いて、実施例1に記載した方法と同様の方法を用いてエレクトロスピニングを行い、芯鞘型ファイバーの積層体を得た。
【0067】
得られた芯鞘型ファイバーの積層体を実施例1に記載した方法と同様の方法を用いて芯材を除去し、加熱処理を行って、ポリイミドPMDA−ODA/シリカハイブリッド中空ファイバーを製造した。得られた中空ファイバーの断面のSEM写真を図6に示す。SEM写真の倍率は10000倍で、印加電圧は10kVである。断面のSEM観察によって計測した中空ファイバーの寸法は、外径約1μm、壁厚0.1〜0.2μmであった。
【0068】
この実施例2のポリイミドPMDA−ODA/シリカハイブリッド中空ファイバーについて、実施例1に記載した条件と同様の条件でATR FT−IR測定を行った結果、1776、1714、1368、および720cm−1にポリイミド特有の吸収ピークが観測され、イミド化の進行が確認された。また、1100〜1200cm−1付近にシリカのSi−O−Si非対称伸縮に基づく吸収ピークが観測され、シリカとのハイブリッド化が確認された。
【0069】
PMDA−ODA/シリカハイブリッド中空ファイバーの熱的特性を評価するために、セイコーインスツル株式会社 EXSTAR TG/DTA6300を用い、熱重量−示差熱測定(TG−DTA測定)を行った。測定は空気雰囲気下、温度範囲25〜800℃、昇温速度10℃/minの条件で行った。
【0070】
得られたTG−DTA曲線より、ガラス転移温度(Tg)は323℃、熱分解温度(Td)は586℃であることがわかった。また800℃における焼成残渣よりシリカ含有量を算出した結果、PMDA−ODA/シリカハイブリッド中空ファイバーには8重量%のシリカが含まれていた。
【0071】
(比較例1)(湿式エレクトロスピニング法を用いたポリイミドPMDA−ODA中空ファイバーの製造)
合成例2で得られたポリアミド酸PMDA−ODAのDMAc溶液を用い、実施例2に記載した方法と同様の方法を用いて、エレクトロスピニングして、芯鞘型ファイバーの積層体を得た。
【0072】
得られた芯鞘型ファイバーの積層体を実施例1に示した条件と同様の条件を用いて、芯材を除去し、加熱処理を行って、ポリイミドPMDA−ODA中空ファイバーを製造した。得られた中空ファイバーの断面SEM写真を図7に示す。SEM写真の倍率は10000倍で、印加電圧は10kVである。断面SEM観察より計測した中空ファイバーの寸法は、外径約1μm、壁厚0.1〜0.2μmであった。
【0073】
このポリイミドPMDA−ODA中空ファイバーについて、実施例1に記載した条件でATR FT−IR測定を行った結果、1776、1714、1368、および720cm−1にポリイミド特有の吸収ピークが観測され、イミド化の進行が確認された。
【0074】
また実施例2に示した条件を用いて、TG−DTA測定を行った結果、Tgは318℃、Tdは582℃であることがわかった。
【0075】
以上のように、同軸異径スピナレットを備えるエレクトロスピニング装置を用い、ポリアミド酸/シリカハイブリッドの溶液を鞘材として使用してエレクトロスピニング法で紡糸することによって、鞘がポリアミド酸/シリカハイブリッドである芯鞘構造を有するファイバーを製造した。その芯鞘構造を有するファイバーから芯材を除去して、10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーを製造することができた。更に、かかるポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーをイミド化反応及びゾル−ゲル反応させることで、10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを製造することができた。
【0076】
10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーは、ポリイミドとシリカのハイブリッド化により優れた耐熱性を示し、例えば、軽量な耐熱性不織布、リチウムイオン電池及びキャパシタ等に用いられる電極セパレーター等の繊維製品、及び例えば、高耐熱性を有する低誘電率繊維強化複合材料、高断熱性繊維強化複合材料、高遮音性繊維強化複合材料等の複合材料等の種々の用途に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバー、10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバー及びそれらの製造方法を提供できる。本発明に係る10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーは、種々の繊維製品及び複合材料に使用することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 エレクトロスピニング装置、11 鞘側ノズル、12 鞘材溶液、
13 芯側ノズル、14 芯材溶液、15 高電圧装置、16 コレクター、
17 ファイバー、18 捕集電極、19 溶媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバー。
【請求項2】
10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバー。
【請求項3】
(i)エレクトロスピニング法を用いて、10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーを、製造する工程、及び
(ii)10nm〜10μmの外径を有するポリアミド酸/シリカハイブリッド中空ファイバーをイミド化する工程
を有する請求項1に記載の10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーの製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の10nm〜10μmの外径を有するポリイミド/シリカハイブリッド中空ファイバーを用いて製造される繊維製品又は複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−246833(P2011−246833A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119298(P2010−119298)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】