説明

ポリウレタンポリマー

ジイソシアネートをジオールと反応させることによって作製される硬質熱可塑性ポリウレタンであって、このジイソシアネートはビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの位置および幾何異性体の混合物を含む。好ましい場合には、ジオールは、シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールおよびその混合物の1つまたはそれ以上の位置および幾何異性体からなる群より選択されるジオールを含む。別の実施形態において、本発明はこうした硬質熱可塑性ポリウレタンから作られる物体である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、硬質エンジニアリング熱可塑性ポリウレタンポリマーの技術分野に属する。
【0002】
ポリウレタンポリマーは周知である。ポリウレタンポリマーは、ポリイソシアネートをポリオールと反応させることによって作製される。ポリイソシアネートまたはポリオールの官能性がモノマー当り2より大きいとき、得られるポリマーは架橋されやすくなる。非架橋熱可塑性ポリウレタンポリマーを得るためには、各モノマーの官能性が実質的に2である必要がある。
【0003】
既存の硬質エンジニアリング熱可塑性ポリウレタンポリマーの問題点は、耐候性に乏しいことである。多くの硬質エンジニアリング熱可塑性ポリウレタンポリマーは、たとえばメチレンビス(フェニルイソシアネート)(methylenebis(phenyl isocyanate):MDI)などの芳香族ジイソシアネートによって作製されており、これはスペクトルの紫外領域の日光を吸収するために分解してしまう。この光分解は変色および脆化によって証明される。よって、硬質エンジニアリング熱可塑性ポリウレタンポリマーの耐候特性の改善、特に透明で耐候性がありかつ強靭な硬質エンジニアリング熱可塑性ポリウレタンポリマーがなおも必要とされている。
【0004】
硬質エンジニアリング熱可塑性ポリウレタンは、Edwardsらによる特許文献1において定義されている。これらのポリマーはガラス転移温度が少なくとも50℃であり、ポリイソシアネート、二官能基鎖延長剤、および任意には高分子量ジオールの反応によって形成される単位を含有する。ハードセグメントはポリイソシアネートと二官能基鎖延長剤との間の反応によって形成され、ソフトセグメントはポリイソシアネートと高分子量ジオールとの間の反応によって形成される。好ましくはハードセグメントは硬質熱可塑性ポリウレタンの約75重量%以上、より好ましくは約90重量%以上を構成する。それより大量のソフトセグメントを含有するポリウレタンはエラストマーの熱可塑性ポリウレタンとみなされて、通常はエンジニアリングプラスチック適用に好適でないと考えられない。本発明の対象は、この硬質エンジニアリング熱可塑性ポリウレタンである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,156,417号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の問題に対する解決策を提供する。本発明は、ジイソシアネートをジオールと反応させることによって作製される硬質熱可塑性ポリウレタンであって、このジイソシアネートはビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの位置および幾何異性体の混合物を含む。好ましい場合には、ジオールは、シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールおよびその混合物の1つまたはそれ以上の位置および幾何異性体からなる群より選択されるジオールを含む。その他の好ましいジオールは、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−グルシトール、(Chemical Abstracts登録番号652−67−5、一般的にイソソルビドと呼ばれる)および1,4:3,6−ジアンヒドロ−2,5−ビス−O−(2−ヒドロキシエチル)−D−グルシトール(Chemical Abstracts登録番号581094−81−7、エトキシ化イソソルビドとも呼ばれる)である。これらのジオールは天然の糖に由来する。別の好ましいジオールは、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス−シクロヘキサノール(Chemical Abstracts登録番号80−04−6、一般的に水素化ビスフェノール−Aと呼ばれる)である。別の実施形態において、本発明はこうした硬質熱可塑性ポリウレタンから作られる物体である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、ジイソシアネートをジオールと反応させることによって作製されるポリウレタンであって、このジイソシアネートはビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの位置および幾何異性体の混合物を含むか、または実質的にそれからなり、ジオールはシクロヘキサンジメタノールおよび1,6−ヘキサンジオールの1つまたはそれ以上の位置および幾何異性体からなる群より選択されるジオールを含むか、または実質的にそれからなる。本明細書における「位置」および「幾何」異性体という用語の意味は、Solomonsの「Organic Chemistry」、John Wiley & Sons、1976の231−232ページに定義されている。
【0008】
ジイソシアネートが1,3−シス、1,3−トランス、1,4−シス、および1,4−トランスのビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの混合物から実質的になっており、ジオールが1,3−シス、1,3−トランス、1,4−シス、および1,4−トランスのシクロヘキサンジメタノールの混合物から実質的になっているとき、好ましくはジイソシアネートおよびジオールの1,3−シスの含有量は20重量パーセントから50重量パーセントの範囲内であり、ジイソシアネートおよびジオールの1,3−トランスの含有量は5重量パーセントから35重量パーセントの範囲内であり、ジイソシアネートおよびジオールの1,4−シスの含有量は5重量パーセントから30重量パーセントの範囲内であり、ジイソシアネートおよびジオールの1,4−トランスの含有量は15重量パーセントから50重量パーセントの範囲内である。最も好ましくは、ジイソシアネートおよびジオールの1,3−シスの含有量は約36重量パーセントであり、ジイソシアネートおよびジオールの1,3−トランスの含有量は約18重量パーセントであり、ジイソシアネートおよびジオールの1,4−シスの含有量は約13重量パーセントであり、ジイソシアネートおよびジオールの1,4−トランスの含有量は約33重量パーセントである。シクロヘキサンジメタノールおよびビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのいくつかの位置および幾何異性体は、The Dow Chemical Company(Midland、MI)から商業的に入手可能であり、本明細書において引用により完全に援用される米国特許第6,252,121号および米国特許出願公開第2004/0087754号の教示に従って作製できる。結果的に得られるポリウレタンが硬質熱可塑性ポリウレタンである限り、ジオールは、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールまたはその他のかなり低分子量の重合ジオールを任意に含んでもよい。典型的には、重合ジオールは20重量パーセント未満の量で用いられる。より好ましくは重合混合物において15重量パーセント未満、最も好ましくは10重量パーセント未満である。重合ジオールの好ましい分子量は2000ダルトン未満であり、より好ましい分子量は1000ダルトン未満であり、最も好ましい分子量は650ダルトン未満である。1,6−ヘキサンジオールおよびポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールは、それぞれたとえばSpectrum Chemicals & Laboratory Products、Gardena CAおよびInvista、Wichita KSなどから商業的に入手可能である。US2004/0887754A号はビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの異性体混合物からのポリウレタンを教示しているが、このポリウレタンはエラストマーであって硬質エンジニアリング熱可塑性ポリウレタンではない。本発明に従ってビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの異性体混合物から硬質エンジニアリング熱可塑性ポリウレタンを作製すると、良好な耐候特性とともに驚異的に高い曲げ強度、曲げ係数および引張り強度が得られる。
【0009】
別の実施形態において、本発明は、本発明の硬質熱可塑性ポリウレタンでできた物体である。こうした物体は、たとえば射出成形、吹込成形、圧縮成形、熱成形、シート押出し成形または共有押出し成形、フィルム押出し成形または共有押出し成形、押出しコーティング、および異形押出しなどの技術によって形成されてもよいが、それらに限定されない。こうした物体は、建築用板ガラス、防衛/防弾用板ガラス、輸送用(バス、鉄道、自動車、航空機、軍用)板ガラス、標識および表示用板ガラス、温室(ならびにサンルームおよび天窓)用板ガラス、水を加熱するための太陽電池、光電池用板ガラス、自動車のサンルーフ、自動車の照明(レンズ、反射体、ハウジングおよび/または取付台)、室内の自動車の計器パネルおよび内装部品、光学レンズ、アイウェアのフレームおよびレンズ、照明用電球またはドーム(特に、耐久性および耐候性が必要な苛酷な野外および工業的環境にあるもの)、実用向けの照明(例、手術用ライト、反射体、フラッシュ装置)、血液採集用バイアル、透析用の部品、その他の医療用装置、スポーツ用品(例、雪上または水上スキー、ラケット、船舶の部分として)、娯楽および工業用の個人保護用具(例、ヘルメット、フェイスシールド、シンガード)、フィルム、シート、押出し成形された形または中空の管、ならびに成形品からなる群より選択されてもよいが、それらに限定されない。
【実施例】
【0010】
(実施例1)
本発明の硬質熱可塑性ポリウレタンは、当該技術分野において「ワンショット」反応性押出しプロセスとして公知のプロセスによって合成される。鎖延長剤およびイソシアネートを、Werner & Pfleiderer ZSKツインスクリュー押出機の供給ポートに計量しながら供給する。鎖延長剤、触媒およびイソシアネートの供給速度を制御して、ジイソシアネート反応基のヒドロキシル反応基に対するモル比(NCO/OH)が1.005/1.000となるようにする。押出機の回転速度は一定に保つ。添加剤を押出機の側部供給ポートに注入する。押出機の温度設定点は90℃から230℃の範囲である。その結果得られるポリマーを鋳型から出し、冷却してから切断して円筒形のペレットにする。その結果得られるペレットを除湿乾燥ドライヤーのホッパー中に16時間置く。乾燥したペレットを、吸湿防止材の、箔で裏打ちした袋で包装する。約9kgの材料を調製する。
【0011】
ジイソシアネートは、36%の1,3−シスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、18%の1,3−トランスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、13%の1,4−シスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、33%の1,4−トランスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとの混合物から実質的になっており、この混合物は61.56重量%にて加えられる。この組成物はADI(aliphatic diisocyanate mixture:脂肪族ジイソシアネート混合物)と略される。鎖延長剤ジオールは1,6−ヘキサンジオールであり、37.27重量%にて加えられる。ジイソシアネート反応基のヒドロキシル反応基に対する比率(NCO/OH)は1.005/1.000である。触媒はFormrez UL−22有機スズ触媒ビス(ドデシルチオ)ジメチルスタンナンであり、0.06重量%にて加えられる。潤滑剤はAKROCHEMからのADVAWAX280(N,N’−エチレンビス−ステアルアミド)であり、0.5重量%にて加えられる。安定剤は、0.25重量%にて加えられるIrganox1010(ヒドロ桂皮酸、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−、ネオペンタンテトライルエステル)と、0.3重量%にて加えられるトリス(ノニルフェニル)亜リン酸塩(tris(nonylphenyl)phosphite:TNPP)とである。
【0012】
この実施例の硬質熱可塑性ポリウレタンは、メチレンビス(フェニルイソシアネート)で作られた対応する芳香族対照硬質熱可塑性ポリウレタンよりも強度および係数が高いことに加えて、その脂肪族の構造のために耐候性が改善される。成形品は無色透明であり、優れた光学特性を有する。
【0013】
(実施例2)
本発明の硬質熱可塑性ポリウレタンは、実施例1の「ワンショット」反応性押出しプロセスを用いて合成される。ジイソシアネートは、36%の1,3−シスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、18%の1,3−トランスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、13%の1,4−シスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、33%の1,4−トランスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとの混合物から実質的になっており、この混合物は55.58重量%にて加えられる。この組成物はADI(脂肪族ジイソシアネート混合物)と略される。2つの鎖延長剤ジオールが用いられる。第1のものは、23.75重量%のCHDM−Dである。この製品はEastmanからの1,4−シクロヘキサンジメタノールである。第2のものは、12.98重量%にて加えられる1,6−ヘキサンジオールである。加えて、いくらかの柔軟性を与えるために高分子量ポリオールが加えられるが、その量はエラストマーのポリウレタンを形成するために必要な量よりも少ない。ポリオールはPTMEG650(分子量650のポリテトラメチレンエーテルグリコール(polytetramethylene etherglycol))であり、5.71重量%にて加えられる。ジイソシアネート反応基のヒドロキシル反応基に対する比率(NCO/OH)は1.005/1.000である。触媒はFormrez UL−22有機スズ触媒ビス(ドデシルチオ)ジメチルスタンナンであり、0.06重量%にて加えられる。潤滑剤は、0.5重量%にて加えられるAKROCHEMからのADVAWAX280(N,N’−エチレンビス−ステアルアミド)と、0.82%にて加えられるステアリルアルコールとである。安定剤は、0.25重量%にて加えられるIrganox1010(ヒドロ桂皮酸、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−、ネオペンタンテトライルエステル)と、0.3重量%にて加えられるトリス(ノニルフェニル)亜リン酸塩(TNPP)とである。
【0014】
この実施例の硬質熱可塑性ポリウレタンは、メチレンビス(フェニルイソシアネート)で作られた対応する芳香族対照硬質熱可塑性ポリウレタンよりも強度および係数が高いことに加えて、その脂肪族の構造のために耐候性が改善される。成形品は無色透明であり、優れた光学特性を有する。
【0015】
(実施例3)
本発明の硬質熱可塑性ポリウレタンは、実施例1の「ワンショット」反応性押出しプロセスを用いて合成される。ジイソシアネートは、36%の1,3−シスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、18%の1,3−トランスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、13%の1,4−シスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、33%の1,4−トランスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとの混合物から実質的になっており、この混合物は56.84重量%にて加えられる。この組成物はADI(脂肪族ジイソシアネート混合物)と略される。鎖延長剤ジオールは、41.99重量%のCHDM−Dである。この製品はEastmanからの1,4−シクロヘキサンジメタノールである。ジイソシアネート反応基のヒドロキシル反応基に対する比率(NCO/OH)は1.005/1.000である。触媒はFormrez UL−22有機スズ触媒ビス(ドデシルチオ)ジメチルスタンナンであり、0.12重量%にて加えられる。潤滑剤は、AKROCHEMからのADVAWAX280(N,N’−エチレンビス−ステアルアミド)であり、0.5重量%にて加えられる。安定剤は、0.25重量%にて加えられるIrganox1010(ヒドロ桂皮酸、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−、ネオペンタンテトライルエステル)と、0.3重量%にて加えられるトリス(ノニルフェニル)亜リン酸塩(TNPP)とである。
【0016】
この実施例の硬質熱可塑性ポリウレタンは、メチレンビス(フェニルイソシアネート)で作られた対応する芳香族対照硬質熱可塑性ポリウレタンよりもごくわずかに強度が低いが係数は高く、加えてその脂肪族の構造のために耐候性が改善される。成形品は無色透明であり、優れた光学特性を有する。
【0017】
(実施例4)
本発明の硬質熱可塑性ポリウレタンは以下のとおりに合成される。ジイソシアネートは、36%の1,3−シスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、18%の1,3−トランスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、13%の1,4−シスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、33%の1,4−トランスビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとの混合物から実質的になっており、この混合物は56.84重量%にて加えられる。この組成物はADI(脂肪族ジイソシアネート混合物)と略される。鎖延長剤ジオールは、41.99重量%のUNOXOL(商標)ジオール混合物である。この製品はDowからの、36%の1,3−シスシクロヘキサンジメタノールと、18%の1,3−トランスシクロヘキサンジメタノールと、13%の1,4−シスシクロヘキサンジメタノールと、33%の1,4−トランスシクロヘキサンジメタノールとの混合物から実質的になっている。ジイソシアネート反応基のヒドロキシル反応基に対する比率(NCO/OH)は1.005/1.000である。触媒はFormrez UL−22有機スズ触媒ビス(ドデシルチオ)ジメチルスタンナンであり、0.12重量%にて加えられる。潤滑剤は、AKROCHEMからのADVAWAX280(N,N’−エチレンビス−ステアルアミド)であり、0.5重量%にて加えられる。安定剤は、0.25重量%にて加えられるIrganox1010(ヒドロ桂皮酸、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−、ネオペンタンテトライルエステル)と、0.3重量%にて加えられるトリス(ノニルフェニル)亜リン酸塩(TNPP)とである。
【0018】
この実施例の硬質熱可塑性ポリウレタンは、比較例1の硬質熱可塑性ポリウレタンよりもかなり高い(5倍を超える)強度および高い係数を有する。
【0019】
(実施例5)
本発明の硬質熱可塑性ポリウレタンは、310cmのチャンバおよびローラーロータを備えたHaake Rheomix 3000pミキサ中で合成される。リアクタを窒素でよくパージし、170℃に加熱し、ロータを50rpmに設定する。プラスチックの注射器を用いて、計量されたUNOXOL(商標)ジオール(Dow)を素早くチャンバに加える。このジオールは、約36%の1,3−シスシクロヘキサンジメタノールと、約18%の1,3−トランスシクロヘキサンジメタノールと、約13%の1,4−シスシクロヘキサンジメタノールと、約33%の1,4−トランスシクロヘキサンジメタノールとの混合物である。次に、プラスチックの注射器を用いて、計量された脂肪族ジイソシアネートの異性体混合物(Dow)を加える。このジイソシアネート混合物は、約36%の1,3−シス−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、約18%の1,3−トランス−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、約13%の1,4−シス−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンと、約33%の1,4−トランス−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンとからなる。ジイソシアネートのジオールに対するモル比は1.04:1.00である。ロータ速度を200rpmに上げて、30秒後に4滴のDABCO T−9第一スズオクトアート触媒(Air Products)を加え、次いでプランジャを下げて供給ポートを覆う。トルクは約165ニュートンメートルまで急速に増加してから徐々に減少し、約40ニュートンメートルで安定する。対照(比較例2および比較例3)に比べて、驚くべきことに本発明は重合の際の最大トルクが約3.5倍大きくなり、重合の終わりの最終トルクが約2.0倍大きくなる。このように測定最大トルクが高くなったことは重合が早くなったことを示す可能性があり、これは製造において有利である。さらに、最終トルクが高くなったことは分子量が高くなったことを示す可能性があり、これはしばしば機械的特性の改善をもたらす。10分後にロータをオフにして、溶融した硬質エンジニアリング熱可塑性ポリウレタン(thermoplastic polyurethane:TPU)生成物を真鍮のスパチュラで取出し、テフロン(登録商標)シートの上で平らにした後、乾燥ドライヤー中で一晩乾燥させる。この生成物に対する示差走査熱量測定を、TA Instruments 2910DSC V4.4Eによって、次のプログラムを用いて行なう:(1)室温から300℃まで20℃/分にて第1の走査を行なう、(2)30℃/分にて室温まで冷却する、(3)室温から300℃まで20℃/分にて第2の走査を行なう、(4)30℃/分にて室温まで冷却する。第2の加熱走査によって測定されたガラス転移温度は、約98.9℃である。この実施例のポリマーのガラス転移温度は対照ポリマーよりも約30℃低く、これは本発明のジイソシアネートの異性体混合物によってもたらされた可能性がある。
【0020】
(比較例1)
熱可塑性ポリウレタンは、実施例1の「ワンショット」反応性押出しプロセスを用いて合成される。ジイソシアネートはH12MDI(4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート))であり、63.86重量%にて加えられる。鎖延長剤ジオールは、34.97重量%のUNOXOL(商標)ジオール混合物である。この製品はDowからの、36%の1,3−シスシクロヘキサンジメタノールと、18%の1,3−トランスシクロヘキサンジメタノールと、13%の1,4−シスシクロヘキサンジメタノールと、33%の1,4−トランスシクロヘキサンジメタノールとの混合物から実質的になっている。ジイソシアネート反応基のヒドロキシル反応基に対する比率(NCO/OH)は1.005/1.000である。触媒はFormrez UL−22有機スズ触媒ビス(ドデシルチオ)ジメチルスタンナンであり、0.12重量%にて加えられる。潤滑剤は、AKROCHEMからのADVAWAX280(N,N’−エチレンビス−ステアルアミド)であり、0.5重量%にて加えられる。安定剤は、0.25重量%にて加えられるIrganox1010(ヒドロ桂皮酸、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−、ネオペンタンテトライルエステル)と、0.3重量%にて加えられるトリス(ノニルフェニル)亜リン酸塩(TNPP)とである。
【0021】
(比較例2)
比較用硬質脂肪族エンジニアリング熱可塑性ポリウレタン樹脂は、310cmのチャンバおよびローラーロータを備えたHaake Rheomix 3000pミキサ中で合成される。リアクタを窒素でよくパージし、170℃に加熱し、ロータを50rpmに設定する。プラスチックの注射器を用いて、計量されたUNOXOL(商標)ジオール(Dow)を素早くチャンバに加える。このジオールは、約36%の1,3−シスシクロヘキサンジメタノールと、約18%の1,3−トランスシクロヘキサンジメタノールと、約13%の1,4−シスシクロヘキサンジメタノールと、約33%の1,4−トランスシクロヘキサンジメタノールとの混合物である。次に、プラスチックの注射器を用いて、イソホロンジイソシアネート(isophorone diisocyanate:IPDI、Aldrich)を加える。ジイソシアネートのジオールに対するモル比は1.04:1.00である。ロータ速度を200rpmに上げて、30秒後に4滴のDABCO T−9第一スズオクトアート触媒(Air Products)を加え、次いでプランジャを下げて供給ポートを覆う。トルクは約45ニュートンメートルまで急速に増加してから徐々に減少し、約25ニュートンメートルで安定する。10分後にロータをオフにして、溶融した硬質エンジニアリング熱可塑性ポリウレタン(TPU)生成物を真鍮のスパチュラで取出し、テフロン(登録商標)シートの上で平らにした後、乾燥ドライヤー中で一晩乾燥させる。この生成物に対する示差走査熱量測定を、TA Instruments 2910DSC V4.4Eによって、次のプログラムを用いて行なう:(1)室温から300℃まで20℃/分にて第1の走査を行なう、(2)30℃/分にて室温まで冷却する、(3)室温から300℃まで20℃/分にて第2の走査を行なう、(4)30℃/分にて室温まで冷却する。第2の加熱走査によって測定されたガラス転移温度は、約137.0℃である。
【0022】
(比較例3)
比較用硬質脂肪族エンジニアリング熱可塑性ポリウレタン樹脂は、310cmのチャンバおよびローラーロータを備えたHaake Rheomix 3000pミキサ中で合成される。リアクタを窒素でよくパージし、170℃に加熱し、ロータを50rpmに設定する。プラスチックの注射器を用いて、計量されたUNOXOL(商標)ジオール(Dow)を素早くチャンバに加える。このジオールは、約36%の1,3−シスシクロヘキサンジメタノールと、約18%の1,3−トランスシクロヘキサンジメタノールと、約13%の1,4−シスシクロヘキサンジメタノールと、約33%の1,4−トランスシクロヘキサンジメタノールとの混合物である。次に、プラスチックの注射器を用いて、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(H12MDI、Aldrich)を加える。ジイソシアネートのジオールに対するモル比は1.04:1.00である。ロータ速度を200rpmに上げて、30秒後に4滴のDABCO T−9第一スズオクトアート触媒(Air Products)を加え、次いでプランジャを下げて供給ポートを覆う。トルクは約46ニュートンメートルまで急速に増加してから徐々に減少し、約18ニュートンメートルで安定する。10分後にロータをオフにして、溶融した硬質エンジニアリング熱可塑性ポリウレタン(TPU)生成物を真鍮のスパチュラで取出し、テフロン(登録商標)シートの上で平らにした後、乾燥ドライヤー中で一晩乾燥させる。この生成物に対する示差走査熱量測定を、TA Instruments 2910DSC V4.4Eによって、次のプログラムを用いて行なう:(1)室温から300℃まで20℃/分にて第1の走査を行なう、(2)30℃/分にて室温まで冷却する、(3)室温から300℃まで20℃/分にて第2の走査を行なう、(4)30℃/分にて室温まで冷却する。第2の加熱走査によって測定されたガラス転移温度は、約132.8℃である。
【0023】
以下の表Iおよび表IIのデータは、本発明の硬質熱可塑性ウレタンの特性が先行技術の硬質熱可塑性ウレタンに比べて改善されていることを示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

曲げ強度および係数は、ASTMテスト法D790に従って測定される。引張り強度および係数は、ASTMテスト法D638に従って測定される。ガラス転移温度(Tg)は示差走査熱量測定によって、−40℃から250℃まで10℃/分にて走査を行ない、その後10℃/分にて−40℃まで冷却し、次いで−40℃から177℃まで10℃/分にて第2の走査を行なってTgを定めることによって測定される。
【0026】
結論
本発明の好ましい実施形態によって上に本発明を説明したが、この開示の趣旨および範囲内で本発明が修正されてもよい。したがってこの出願は、本明細書において開示される一般的な原理を用いた本発明のあらゆる変更形、使用または適応を含むことが意図される。さらに、この出願は、本発明が属する技術分野における公知または通例の実施の範囲内にあり、かつ以下の請求項の限定する範囲内にあるような本開示からの逸脱を含むことが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジイソシアネートをジオールと反応させることによって作製される硬質熱可塑性ポリウレタンであって、前記ジイソシアネートはビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの位置および幾何異性体の混合物を含む、硬質熱可塑性ポリウレタン。
【請求項2】
前記ジオールは、シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールおよびその混合物、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−グルシトール;1,4:3,6−ジアンヒドロ−2,5−ビス−O−(2−ヒドロキシエチル)−D−グルシトール;ならびに、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス−シクロヘキサノールの1つまたはそれ以上の位置および幾何異性体からなる群より選択されるジオールを含む、請求項1に記載の硬質熱可塑性ポリウレタン。
【請求項3】
前記ジイソシアネートはビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの位置および幾何異性体の混合物から実質的になり、前記ジオールはシクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールおよびその混合物、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−グルシトール;1,4:3,6−ジアンヒドロ−2,5−ビス−O−(2−ヒドロキシエチル)−D−グルシトール、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス−シクロヘキサノール、ならびにそれらの混合物の1つまたはそれ以上の位置および幾何異性体からなる群より選択されるジオールから実質的になる、請求項1に記載の硬質熱可塑性ポリウレタン。
【請求項4】
前記ジイソシアネートは1,3−シス、1,3−トランス、1,4−シス、および1,4−トランスのビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンの混合物から実質的になり、前記ジオールは1,3−シス、1,3−トランス、1,4−シス、および1,4−トランスのシクロヘキサンジメタノールの混合物から実質的になる、請求項1に記載の硬質熱可塑性ポリウレタン。
【請求項5】
前記ジイソシアネートの前記1,3−シスの含有量は前記ジイソシアネートの20重量パーセントから50重量パーセントの範囲内であり、前記ジイソシアネートの前記1,3−トランスの含有量は前記ジイソシアネートの5重量パーセントから35重量パーセントの範囲内であり、前記ジイソシアネートの前記1,4−シスの含有量は前記ジイソシアネートの5重量パーセントから30重量パーセントの範囲内であり、前記ジイソシアネートの前記1,4−トランスの含有量は前記ジイソシアネートの15重量パーセントから50重量パーセントの範囲内であり、前記ジオールの前記1,3−シスの含有量は前記ジオールの20重量パーセントから50重量パーセントの範囲内であり、前記ジオールの前記1,3−トランスの含有量は前記ジオールの5重量パーセントから35重量パーセントの範囲内であり、前記ジオールの前記1,4−シスの含有量は前記ジオールの5重量パーセントから30重量パーセントの範囲内であり、前記ジオールの前記1,4−トランスの含有量は前記ジオールの15重量パーセントから50重量パーセントの範囲内である、請求項4に記載の硬質熱可塑性ポリウレタン。
【請求項6】
前記ジイソシアネートの前記1,3−シスの含有量は前記ジイソシアネートの約36重量パーセントであり、前記ジイソシアネートの前記1,3−トランスの含有量は前記ジイソシアネートの約18重量パーセントであり、前記ジイソシアネートの前記1,4−シスの含有量は前記ジイソシアネートの約13重量パーセントであり、前記ジイソシアネートの前記1,4−トランスの含有量は前記ジイソシアネートの約33重量パーセントであり、前記ジオールの前記1,3−シスの含有量は前記ジオールの約36重量パーセントであり、前記ジオールの前記1,3−トランスの含有量は前記ジオールの約18重量パーセントであり、前記ジオールの前記1,4−シスの含有量は前記ジオールの約13重量パーセントであり、前記ジオールの前記1,4−トランスの含有量は前記ジオールの約33重量パーセントである、請求項4に記載の硬質熱可塑性ポリウレタン。
【請求項7】
前記ジオールはポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールをさらに含む、請求項2に記載の硬質熱可塑性ポリウレタン。
【請求項8】
請求項1に記載の硬質熱可塑性ポリウレタンでできた物体。
【請求項9】
前記物体は、建築用板ガラス、防衛/防弾用板ガラス、輸送用板ガラス、標識および表示用板ガラス、温室用板ガラス、太陽電池用板ガラス、自動車のサンルーフ、自動車の照明部品、自動車の計器パネルおよび内装部品、光学レンズ、アイウェアのフレームおよびレンズ、照明用電球またはドーム、実用向けの照明、血液採集用バイアル、医療用装置、スポーツ用品、娯楽および工業用の個人保護用具、フィルム、シート、押出し成形された形または中空の構造物、ならびに成形品からなる群より選択される、請求項8に記載の物体。
【請求項10】
請求項3に記載の硬質熱可塑性ポリウレタンでできた物体。
【請求項11】
前記物体は、建築用板ガラス、防衛/防弾用板ガラス、輸送用板ガラス、標識および表示用板ガラス、温室用板ガラス、太陽電池用板ガラス、自動車のサンルーフ、自動車の照明部品、自動車の計器パネルおよび内装部品、光学レンズ、アイウェアのフレームおよびレンズ、照明用電球またはドーム、実用向けの照明、血液採集用バイアル、医療用装置、スポーツ用品、娯楽および工業用の個人保護用具、フィルム、シート、押出し成形された形または中空の構造物、ならびに成形品からなる群より選択される、請求項10に記載の物体。

【公表番号】特表2010−528158(P2010−528158A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509486(P2010−509486)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/064058
【国際公開番号】WO2008/144614
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(506347528)ルブリゾル アドバンスド マテリアルズ, インコーポレイテッド (74)
【Fターム(参考)】